猫カフェの平和を守れ!

    作者:本山創助


     午前十時。
     廃ビルの敷地内にあるマンホールのフタが、ガコッと動いた。
     フタを頭に乗せたまま、何者かが這い出してくる。
     鋭い爪。全身を覆う固い体毛。二本の前歯は長く、眼光は鋭い。何よりも特徴的なのは、背中に背負っている二門のバルカン。
     ネズミバルカンである。
     ネズミバルカンは、廃ビルを囲っているスチールパネルをから顔を出すと、正面にあるカフェをじっと見た。
     ガラス張りの店内では、たくさんの猫達が、のんびりゴロゴロしているのだった。

    ●教室
    「また出ましたか。単独行動するネズミバルカン」
    「うん、村瀬の推理、大当たりだ!」
     逢見・賢一(大学生エクスブレイン・dn0099)が村瀬・一樹(ユニオの花守・d04275)を指さした。
    「キミ達には、廃ビルに行ってもらいたい!」
     賢一が説明を始めた。

     取り壊しの準備が進められている廃ビルに、ネズミバルカンが一匹、現われる。放っておけば、近くの猫カフェが襲われてしまうので、キミ達にはこれを灼滅してもらいたい。接触のタイミングは、ネズミバルカンがマンホールから顔を出した直後。この瞬間を狙えば、問題なく灼滅出来るよ。
     まあ、キミ達ならすぐに片付けられる相手だと思う。時間が余ったら、近くの猫カフェで遊んでくるといいんじゃないかな? 結構広い猫カフェで、色々な種類の猫がいるみたいだよ。疲れた体や心を、猫たちが癒やしてくれると思う。
     それじゃ、よろしくね♪


    参加者
    壱寸崎・夜深(甘恋星兎・d03822)
    多々良・鞴(じっと手を見る・d05061)
    渡世・侑緒(ソムニウム・d09184)
    赤秀・空(道化・d09729)
    縹・三義(残夜・d24952)
    儀冶府・蘭(ラディカルガーリーマジシャン・d25120)
    二荒・六口(百日紅・d30015)

    ■リプレイ

    ●ネズミ退治
     廃ビルの敷地内に、灼滅者達が集まっていた。
    「猫さン、平和。我が守ル、のヨ……!!」
     壱寸崎・夜深(甘恋星兎・d03822)が殺界を形成し、渡世・侑緒(ソムニウム・d09184)がサウンドシャッターで廃ビルを包む。
    「これで猫さんにも戦闘の音が届かないから更に安心です」
     準備万端。灼滅者達は、マンホールを取り囲んでじっとフタを見つめた。
     ガコッ。重そうなフタを頭に乗せ、ひょこっとネズミバルカンが顔を出す。
     スコッ。間髪入れず、その額に魔法の矢がと突き刺さった。
     儀冶府・蘭(ラディカルガーリーマジシャン・d25120)のマジックミサイルだ!
    「戦いのアドバンテージは我にあり……なーんて、ね」
     蘭が会心の笑みを浮かべた。
    「チュウウ~ッ!」
     額を押さえてゴロゴロ転がるネズミバルカン。その体に、糸と影がまとわりついた。多々良・鞴(じっと手を見る・d05061)の封縛糸と赤秀・空(道化・d09729)の影縛りだ。
     空が影業を引っ張り、ネズミバルカンを仰向けに転がした瞬間、空のビハインドが霊撃を叩き込んだ。
    「ヂュ……ッ!」
     ネズミバルカンはくの字になりながらも、ビハインドにバルカン向ける。空はネズミバルカンに飛びかかりながらこれをガード。ネズミバルカンの銃弾を一身に浴びながら、ビハインドを護る。
    「チァアアアアアアアアッ!」
     夢中になってバルカンを連射するネズミバルカン。
    「いきます、いやし真拳!」
     そのわき腹に、スヴェトラーナ・モギーリナヤ(てんねん・d25210)の跳び蹴りが食い込んだ。ネズミバルカンは勢いよく吹っ飛び、ビルの壁に激突。
    「ナノッ」
     さらに、スヴェトラーナのナノナノ『スヴィエ』がしゃぼん玉をネズミにぶつけた。ぱちん、と弾けたそれは、ネズミバルカンの胸に散弾銃めいた衝撃を与える。
     縹・三義(残夜・d24952)の鬼神変と、その霊犬『ひとつ』の六文銭が同時に炸裂。衝撃でネズミバルカンが壁にめり込んだ。
     間髪入れずに、二荒・六口(百日紅・d30015)の螺穿槍と、その霊犬『マオ』の斬魔刀が叩き込まれる。
    「チャアアー……!」
     ネズミバルカンは、地面に倒れるも、最後の力を振り絞って逃げだした。
    「逃げチャ駄目、かモ!」
     夜深の神薙刃がネズミバルカンを切り刻んだ。
    「チュ……!」
    「影業さん、パンチです!」
     侑緒の声に反応し、舞い上がったネズミバルカンに、ぬいぐるみのクマのような影業が襲いかかる。
     ばっこーん!
     ネズミバルカンは地面に叩きつけられ、塵と消えたのだった。

    ●猫カフェの玄関にて
    「マオがいるが、どうなんだろう……入れる、のか?」
    「どうかな。入れればいいんだけど」
     六口と三義が、不安そうに霊犬を眺める。
     マオはあまり吠えず、人の目をじっと見るおしとやかな犬だ。外見は黄色い綿菓子のようなモコモコで、とてもかわいい。ひとつは乙女な三歳の柴犬で、超可愛い。
    「にゃん」
     ひとつの背中に、茶トラの猫が飛び乗った。
    「にゃー♪」
     マオの背中にも、白い子猫が飛び乗る。
     鞴と薄井・ほのか(小学生シャドウハンター・dn0095)の猫変身だ。二匹の霊犬は楽しそうに背中の猫と戯れ始めた。
    「……これならお店に迷惑かけないってアピールできるかも」
     村瀬・一樹(ユニオの花守・d04275)が微笑んだ。
     と同時に、玄関の扉が開いた。女性店員が困ったような笑顔を向けている。
    「あの、申し訳ございませんが、わんちゃんの入店は……」
    「そこをなんとか……! ひとつは超いい子にしています。ぜひ……ぜひお願いします……! 無駄吠えしたり、猫とケンカしたりしませんから……!」
     真摯な姿勢でお願いする三義。
    「にゃーっ」
     その横で、茶トラがひとつにじゃれかかっていた。
     ひとつは、茶トラにかじられたり猫パンチされたりしても、慌てず騒がず、されるがままに遊ばせてあげている。大人の対応である。マオも同様だ。
    「そうですね……このわんちゃん達なら……」
     店員は少し考えた後、様々な条件をつけて特別に入店を許可してくれた。
    「ありがとうございます……!」
     頭を下げる三義。その横で、ひとつがうれしそうに尻尾を振っていた。

    ●猫達とのひととき
     開店したばかりの店内に、灼滅者達が一番乗りした。
     ロッカーに靴と荷物を入れて、スリッパに履き替える。店内は想像以上に広々としており、キャットウォークやソファーの上では様々な種類の猫達が寝そべっていた。絨毯の上では、子猫達がじゃれ合っている。
    「わ、わ! 店内、広々! 猫さン、沢山……!!」
     瞳をきらきらさせる夜深。そこへ、アメリカンショートヘアの子猫が駆け寄って来た。夜深の足に額をぶつけるようにして体をすり寄せてくる。
    「……ん。懐こイ猫さン、にぃはお?」
     しゃがんで、子猫の頭をなでなですると、子猫は気持ちよさそうにのどを鳴らした。
    「見て見テ、あくたん! 可愛♪」
    「ん。にゃんこと夜深、どっちも可愛いよ」
     塵屑・芥汰(お口にチャック・d13981)が優しく微笑む。
    「ふぇ!? わ、我、は。別に……」
     頬を染めて俯く夜深。
     その一方で、芥汰はすり寄ってきた三毛猫の背中をなでながら、自然と甘いため息を漏らしてしまう。
    「むむ……あくたん、デれでレさン……猫さン、特別、だシ。仕方無、けド! 我。寛大、御嫁さン、ナのヨ!!」
     夜深は頬をぷくっと膨らませながら、芥汰にすり寄る三毛猫を羨ましげに眺めた。芥汰が猫好きなのは知っている。だから、ちょっとは我慢しないと……と思う。
    「そ、んなにデレっとしてますか。ね。お嫁さんもこっちおいで? うんと甘やかしたげよう」
    「甘ヤかシてクれル、だタら……」
     今度は遠慮なく、ぽっすり腕の中へ。
    「えへへ。ヌくぬク、幸福♪」
     芥汰にぎゅうっと抱きしめられて、温かい気持ちでいっぱいになる夜深であった。

     空は隅のソファーに腰を沈めながら、膝の上に乗ってきた黒猫をなでていた。
     黒猫の瞳をぼんやりと眺めていたら、以前も猫を救う以来に参加していたことを思い出した。ずいぶん前のような気もするが、まだそんなに経っていなかったかもしれない。
    (「……果たして、彼女は猫を好きだっただろうか」)
     あまり好きそうな感じはしないけど、そういった話は結局する機会がなかった。当然といえば当然だ。
    (「何時までもきっと、僕は彼女のことを忘れない――忘れたりしない」)
     そう思う空であった。

     侑緒は、すり寄ってきたスコティッシュフォールドに、手を伸ばしては引っ込めていた。
    「猫さん、どう抱いたら良いです?」
    「抱っこしたことないの? なら、レクチャーしてあげよう」
     月風・雪花(ブルーライトフルムーン・d00014)が、巧みに猫を自分の所へ招き寄せ、ふわりと抱き上げた。
    「はー、すごいです」
    「分かった?」
     雪花の問いに、ふるふると首を振る侑緒。
     雪花はもう一度、ゆっくりとやってみせた。
    「まず、手を脇の下に入れて、持ち上げる」
     うなずく侑緒。
    「次に、前足を固定してあげ、もう一方の手でお尻をしっかり支えてあげる」
     うんうん、とうなずく侑緒。
    「このとき、お腹を隠して背中が丸くなるようにね。はい、やってみて」
    「えーと……」
     説明を聞いていた時は分かったつもりでいたのだが、いざやってみようとすると頭が真っ白になってしまう。
    「じゃあ、侑緒。実際に、されてみる?」
    「『抱っこ』されてみる、です? 意外と分かりやすいかもしれないです?」
     恥ずかしがりながらも乗り気な侑緒を、雪花は抱っこしてあげた。
    「あ、何となく猫さんの抱き方は分かったような気もします」
    「そう? よかった」
    「でも、ちょっと恥ずかしい気がします」
     侑緒の膝に、猫が飛び乗った。
     侑緒は、雪花に抱っこされたまま、猫を抱っこしてみる。
    「猫さん抱けました! 可愛いです」
     気持ちよさそうに抱かれている猫と自分を重ね合わせながら、幸せそうに微笑む侑緒であった。

    「わぁ、ネコさんがいっぱいです。すごいすごい!」
    「猫が一杯。ねこ……♪」
     かわいらしい猫達の姿を見て、スヴェトラーナと霧島・夕霧(雲合霧集のデストロイヤー・d19270)が目を輝かせた。
    「二人はどんな猫が好きなの?」
     蘭が、はしゃぐ二人に微笑みかける。
    「私はロシアンブルー……」
     そこまで呟いて、スヴェトラーナは猫タワーのてっぺんで優雅に寝そべるロシアンブルーを発見。
    「あ、蘭ねえさま蘭ねえさま、あの子です。もふもふしたいです!」
    「今はおねむみたい。こっちに来てくれるといいね」
     蘭は猫カフェのマナーを身につけていた。この店では、寄ってきた猫以外は抱いてはいけないという決まりがあったのだ。抱っこ禁止の店もある。
    「かわいいです……」
     すやすやと寝息をたてるロシアンブルーを、優しく見守るスヴェトラーナ。
     一方、夕霧はというと、子猫達に群がられていた。普段野良猫にはあまり懐かれない夕霧である。人なつっこく甘えてくる猫達には思わず感動してしまう。
    「ふぁぁ……ふわふわしてる……可愛い……」
     寄ってきた白猫を、そっと抱いてみる。おっかなびっくりな夕霧に、白猫は完全に身をゆだねて気持ちよさそうに喉を鳴らした。
    「ね、ねえねえスーちゃん、蘭さん、この子飼いたい、持って帰りたい……ふわぁぁ……♪」
    「ゆうちゃん、しあわせそう……」
     スヴェトラーナが呟いた。夕霧を見てると、自分まで幸せになってしまう。スヴェトラーナは、夕霧と一緒に子猫達と戯れた。
    「いくらかわいくても、猫は持ち帰ったらだめだからね」
    「わ、わかってる。お店だもの。うん」
     蘭にたしなめられてしょんぼり。いつもは割と理性的なはずなのに、猫効果でとても子供っぽくなってしまう夕霧であった。
     蘭はスヴェトラーナと夕霧を優しく見守りつつ、寄ってきたキジトラの喉をなでた。ゴロゴロと喉を慣らして、とても気持ちよさそうである。
     そこへ、あのロシアンブルーがやってきた。
    「スヴィータちゃん」
    「あ、ロシアンブルーです!」
     諦めかけていた高嶺の花が、スヴェトラーナと膝に手を乗せた。
    「抱っこして、だって」
     蘭が言うと、スヴェトラーナがロシアンブルーを抱いた。
    「もふもふです♪」
     にっこり笑うスヴェトラーナを見て、つられて笑う蘭であった。

     水霧・青羽(差し出す手なら笑顔と希望を・d25156)は、店の玄関でカチカチと震えていた。顔色も悪い。青ざめている。震えているのに硬直している。だって猫は苦手なんだもん!
     ならどうして猫カフェに来たのだという話だが、それは世界一可愛い(ここ重要)恋人が猫好きだからである。
     恋人と共に喜びを分かち合うには、猫苦手を克服しなければならない……!
     と、決意を新たに拳を固める青羽なのだが、さっきよりも激しく震えていた。
     いつの間にか、子猫の集団に囲まれてしまっていたのだ!
    「「「にゃーっ!」」」
     容赦なくじゃれついてくる子猫達に囲まれた青羽は、猫パンチされる度にビクッと震え、情けない悲鳴を漏らすのだった。

    「んふふ、かーわいい!」
     朝山・千巻(スイソウ・d00396)が、膝に乗ってきた二匹の子猫を見て微笑んだ。三毛とシャムの二匹が、千巻の振る猫じゃらしに食いついたり、時々互いにじゃれ合ったりしながら、跳ねたり転げ回ったりしているのだ。
    「わー、楽しそう♪」
     ほのかが二匹の子猫を嬉しそうに眺めた。
    「動物ってかわいいねぇ。すっごい癒されるのー」
    「うん!」
     千巻の言葉にうなずくほのか。
    「餌をもらってきたよ。もうお昼だって」
     一樹が二人の所へやってきて、餌の袋をおいた。一樹が手のひらに餌を乗せて差し出すと、三毛とシャムが我先にとがっついてくる。二匹は、おでこをくっつけながら、一樹の手のひらに顔をつっこんだ。
    「あはは……くすぐったいな」
     手のひらをペロペロされて笑う一樹。
    「いいねぇ! アタシもやっていいかな?」
    「もちろん」
     一樹は、二匹の子猫に群がれつつ、袋を傾けて千巻の手のひらに餌を注いだ。その音を聞きつけた他の猫達も、千巻に群がる。
    「ちょっと、沢山来すぎだよー。ほのかちゃん、助けて!」
     笑いながら、手のひらの餌を半分ほのかに渡す。
    「あははっ。みんな食いしん坊だね♪」
     猫達に囲まれ、笑顔がこぼれる三人であった。

     猫変身のまま過ごしていた鞴は、危うく猫の餌を食べるところだった自分に気づき、思わず後ずさりした。潜入任務などで猫になりきる必要が出てきたときのための勉強と思って猫変身の技を磨いていたのだが、自分でもかなりイイ線いってると思う。
    「あれ? この猫、鞴君だ」
     しかし、一樹にはバレてしまった。
    「そうかな?」
     千巻が首を傾げつつ、鞴の鼻先に人差し指を持ってきた。
     思わず、その先端のにおいをかぐ鞴。
    「すごく猫っぽいけど」
     言いながら、優しく鞴の頭をなでる千巻。
    「にゃんにゃんにゃおんにゃおん」
    「あ、なにかしゃべろうとしてる!」
     ほのかが鞴を抱き上げた。そのまま胸に抱き、鞴の喉をさする。
     鞴は、気持ちよくなってゴロゴロと喉を鳴らすのだった。

    「お前に犬のプライドはないのか」
     猫と一緒に猫じゃらしに釣られる愛犬の姿を見て、三義はあきれたようにため息をついた。でも、そんなひとつもやはり可愛い。
     三義はもふもふ族ならなんでも好きなので、猫も上手にかわいがれる。だが、猫達と同化して仲良く遊んでいるひとつがつい目に入ってしまう。ひとつは、やはり可愛いのだった。
    「俺は寝る。ひとつはてきとーに遊んでおいで。人様に迷惑かけるんじゃないよ。猫とも仲良く、いい子でね」
     三義の言葉に、ひとつは口だけ動かして返事した。
     吠えないのは、この店に気を遣ったからである。
     そんなひとつを見て、安心してソファーに身を埋める三義であった。

     六口は、マオを眺めながら、連れてきて良かったと思った。
     遊び疲れてしまったのだろうか。
     マオは、猫達と身を寄せ合いながら、気持ちよさそうに眠っていた。
     温かな日差しが、ガラス張りの店内にぽかぽかと降り注ぐ。
     猫達に囲まれ、日頃の疲れを十分に癒す灼滅者達であった。

    作者:本山創助 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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