失楽エデン――Braut des Abgrunds

    作者:志稲愛海

     ――純白の花嫁衣裳に、赤薔薇が咲くステッキブーケ。
     その姿は殺戮衝動の果て、少女がたったひとつ望んだ夢。
     それは彼女が願って止まなかった幸福――。

     夜の教会で密かに愛を誓い合う、一組の男女。
     そんな二人だけの挙式を見守っているのは、窓から射しこめる月の光だけ。
     そして神様の前で誓約を立て、男女が誓いのキスを交わそうとした――その時だった。
    「カミサマなんかに愛を誓ったって無駄よぉ」
     餡子たっぷりな鯛焼きの最後のひとくちを、はむりと無邪気に頬張ってから。
     突然現われたのは、純白のドレスを纏う花嫁と聖書を手にした漆黒の神父であった。
    「えっ?」
    「貴女は一体誰……!?」
     驚いた様に、現われた花嫁を振り向く男女。
     だが、満ちた葡萄酒の様な色を湛える瞳が、ふと伏せられた……瞬間。
     美しい薔薇が一気に咲き誇るように、鮮やかに飛び散る赤。
     そして神の御膝元へと二つの命を還した花嫁は、より深く赤の色が滲んでゆくバージンロードを、背信に染まった神父と共に歩き出す。
     桃色の長い髪を闇に躍らせて。狂おしいほど満ち溢れる『愛し合いたい欲求』を強く強く、その心に抱きながら。
     でも、その祈りや願いは……決して神様には、届かない。
     ――そんなことなんて、分かっているけれど。
     神様の前まで歩みを進めると、十字架を塗らしている赤の彩りをひと掬いして。ルージュをひくようにそっと、その指で唇をなぞった後。
    「ねぇ、私を愛してちょうだい。満たされるまで」
     愛し合える相手を探す花嫁は、耳元に咲くローズクォーツのピアスに無意識に触れながらも、月の光が降る天を仰ぐ。
     そして、背中の傷を覆うその悪魔羽の翼ごと花嫁を背後から包み込むのは、鎖に繋がれた漆黒の神父。
     まるで禁断の果実を食べるよう唆す蛇から、『Eve』を守るかの様に。
     

    「……見つけた。ちゃんと約束通り、オレが見つけたから」
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)はそう言葉を紡いだ後。集まってくれてありがとうね、と灼滅者達に礼を言い、そして察知した未来予測を語り始める。
    「夜の教会でひっそり二人だけの式を挙げようとしている男女がね、六六六人衆に殺されちゃう事件を察知したんだけど……このダークネスは、先日闇堕ちしたイブだってことが分かったんだ」
     ラビットジョーと名乗る六六六人衆との戦いで闇堕ちし、行方がわからなくなっていた、イブ・コンスタンティーヌ(愛執エデン・d08460)。
     そんな彼女の行動が、未来予測に引っかかったというのだ。
    「イブ……いや、『Eve』と名乗るダークネスが教会を訪れるのは、教会内で挙式してる男女が誓いのキスを交わす直前だよ。みんなはその10分前くらいには教会に到着できて、5分前から行動すれば彼女のバベルの鎖には引っかからないから。その間に二人を教会から逃がして、やって来る『Eve』を待ち伏せして欲しいんだ」
     教会の奥には非常用出口があるので、うまく男女をそこから逃がせば『Eve』とは鉢合わずに被害を防げるだろう。
    「それで『Eve』はね、六六六人衆のサイキックと、クルセイドソードと魔導書のサイキックを使ってくるよ。その倒錯的な愛ゆえにか、元人格のイブと親しい人や攻撃手を狙う傾向が強いみたいだね。そして『Eve』の傍には、漆黒の神父と化したビハインドのヴァレリウスもいて、彼女と共に戦闘に加わってくるよ」
     夜の教会は人があまり訪れない場所にあり、挙式をしている二人以外に一般人が来ることはない。教会内は広さも十分で大きな障害物もなく、視界的にも一般人の男女が挙式の際に仄かな教会のランプを予め灯しており、月の光も降り注いでいる為、問題はないだろう。
     そこまで説明し終えた遥河は、ふと真剣な表情を宿して。
    「そしてエクスブレインとして、きっちり言っておくね。もしもイブのことを救出できない場合、彼女は完全なダークネスとなってしまうから。迷ってたら、致命的な隙をつくってしまうかもしれない。だから救えないその時は……『Eve』の灼滅を、お願いするね」
     そう続けた後、資料から視線を外し、灼滅者達を見回して続ける。
    「それでこれは……オレからの、個人的なお願い。彼女はね、オレが未来予測した事件で闇堕ちしちゃって。イブは……イブティーヌはオレのクラスメイトで、彼女がクラスにいないとやっぱり寂しいから。それにね、予知で視えたイブも『Eve』も……何だか寂しそうだったからさ。みんなで、迎えにいってあげて欲しいんだ」
     だから改めて、よろしくお願いします――と。
     遥河は、信頼をよせる灼滅者達へと友達を託しながら。深く、頭を下げたのだった。


    参加者
    白・彰二(夜啼キ鴉・d00942)
    宮廻・絢矢(群像英雄譚・d01017)
    枷々・戦(異世界冒険奇譚・d02124)
    一之瀬・梓(月下水晶・d02222)
    鳴神・月人(一刀・d03301)
    久織・想司(錆い蛇・d03466)
    高遠・彼方(無銘葬・d06991)
    撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)

    ■リプレイ

    ●Host Church『EDEN』
     桃色の髪を闇に遊ばせて。
     鯛焼きをはむり口にした花嫁は神父と共に、教会の扉を開く。
     だが……そこに愛を誓う男女はおらず。
    「よーうイブ、探したぞこのやろー!」
    「お久しぶりです、迎えに来ましたよ」
     白・彰二(夜啼キ鴉・d00942)や宮廻・絢矢(群像英雄譚・d01017)達、灼滅者の姿が。
    「いらっしゃいませ、出張ホストクラブEDENです」
     いや、正装したホスト達!?
     高遠・彼方(無銘葬・d06991)は鯛焼きのお供にと、缶珈琲を。
    「一夜の夢にケジメは要らぬ。いつまでも酔わせていてえから――新人のShabaでござんすフゥ!」
     撫桐・娑婆蔵(鷹の目・d10859)も黒スーツでお迎え!
     そんなもてなしに、早かったのねルカちゃん、と。事態を察しEveは笑んで。
    「あん時の借り、返させて貰おうか」
     服に着られている感ある彰二に、絢矢も続く。
    「あの時とは逆ですね。折角だ、ここで借りを返させてくださいよ」
     まずはたっぷり殴りあいましょう、と。
     そして。
    「ようこそ、イブ。お待ちしていました」
     Eveの瞳が捉えるは、久織・想司(錆い蛇・d03466)。
     そんなSOUSIを中心に。
    「今宵は殺し合いフルコースを用意してございます」
     一之瀬・梓(月下水晶・d02222)は皆と、荒ぶるEDENのポーズ!
     ルコたち【EDEN】の皆をはじめ、周囲もホスト姿です!
     そんな状況にEveも嬉し気に。
    「一番高いドンペリジュース持ってきなさいよぉ!」
    「ドンペリ入りましたァァ!! イヨォーッ!」
     早速教会がカオス!?
     鳴神・月人(一刀・d03301)は少し呆れつつも。
    「イブもこういうノリ好きそうだし別に良いんだけどな……?」
     ちゃんと一緒にホスト姿。
     そんな斜め上に賑やかな教会を見回したEveは、思わず声を。
    「灼滅者なんて簡単に……って、多すぎよぉ!」
     待っていたのは――総勢89人の灼滅者。
     一人の為に、こんなにも人が集まる。
     桜太郎は裏口に回りつつ、愛されてんなぁと呟いて。
    「イブ子さん1ヶ月ぶりだな。会えない間、俺凄く寂しかったよ」
     枷々・戦(異世界冒険奇譚・d02124)もそう声をかければ。
    「まぁ、殺し合いとか普段なら柄じゃないんだけどな……今日は無礼講、親友への特例ということで……殺る気で付き合ってやるよ」
     フォルンを従え、ドイツ語の聖書を手にする梓。
     そんな皆にEveは嬉し気に笑って。
    「イブちゃんてば愛されてるのねん。私の事も愛してくれなきゃ嫌よぉ」
    「もてなしましょう、おれたちの愛で」
     全力で愛を交わすべく。想司もイブから贈られた得物を、構える。

    ●Perversion der Liebe
     花嫁を護る漆黒の神父へと、迸るのは。
    「ようヴァリー様、ビハインド頂上決戦と行こうぜ? 烽、合わせて行くぞ!」
     戦の放つ破邪の白光と、烽の霊撃。
     愛とか正直分からないけれど、イブが望むのならば。
     今日は付き合って受け止めてやると――思いを、燃え盛る炎に変えて。
    「腐れ縁のよしみだ、かかってこい馬鹿野郎!」
     全力で見舞う彰二。
    「さて妹よ、満足するまで愛しあおうか……!」
     彼方が抱く愛は、家族愛。家出した妹を連れ戻すのは兄の役目だから。
    「来いよイブ子、兄様の愛の詰まったお説教タイムだ」
     暴君が纏いし黒の外套靡かせて。長男気質な彼方の白き光の斬撃が、愛しき妹へと説教の一撃を。
     第87回ライブハウス。チーム名は『誰かLHクラブ紹介してください』。
     そして【-Epitaph-】にきたのが、イブだった。
    「この縁、蔑ろにゃァしやせんぜ? 迎えに参りやしたぜイブのお嬢!」
     それに運命的に繋がった、救出の機会。
    「禊の時間だ。始めやしょうぜ、イブのお嬢」
     義勇任侠、喧嘩上等! 急所を絶ち斬らんと鋭く閃く、娑婆蔵の『鬼哭』。
     そしてヴァレリウスが敵意をみせるのは。
    「やあ神父、相変わらず過保護ですね。おれの毒が厄介ですか」
     花嫁を唆す『あかい蛇』。想司も己が彼女の蛇だと自覚しているけれど。
    「上等。それもおれの愛だ」
     神父から瞳を逸らさず、宣言を。
     だが相手は自分だと、ヴァレリウスの前に踊り出たのは、跳梁跋扈する烽。刹那互いの霊撃がぶつかり合い、奈落も主に従い影に紛れ支援を。
     そして。
    「想司ちゃん、いっぱい沢山愛して頂戴ね」
    「愛してあげますよ」
     彼女を全部愛すると、決めたから。だから――貴女も、と。
     互いに贈った得物が、狂おしいほど愛しい血の色に染まる。
    「足りませんよ、全然足りないです」
     一緒に遊び足りない。だからまだ、さよならは早すぎる。
    「無理やりだろうと連れて帰りますよ、おかえりって言いたいからね!」
     Eveも、一緒に。大切な友達を、独りぼっちになんてさせないと。
     靡く絢矢のストールが鋭き布槍と化し、螺旋の軌道を描けば。
    「あえてコイツでおまえと戦うのも一興だろ?」
     梓が開くは、最初の物語と元の持ち主の名が記されし聖書。
     刹那、ステンドグラスさえ霞む程の眩き魔法陣が編まれて。
    「大サービスだ、呪文はありったけ叩き込んでやる」
     斬魔刀操るフォルンと同時に、その身を貫かんと魔力が解き放たれる。
     そして代わって夜空に描かれるは、巨大な気の法陣。
    「欲しいっていうならしっかり愛を与えてやらねえとな」
     愛を存分にぶつけられる様に、月が仲間達へと天魔を宿らせれば。霊犬も共に皆を支援すべく動く。
     そんな灼滅者へと向けられるのは。
    「皆一緒に、愛してあげるわよん」
    「!」
     Eveの歪んだ愛とヴァレリウスの衝撃。それは容赦なく教会を赤く染めるも。
    「妹の愛はお前にはやらんわ!」
     その愛を独り占めする様に、咄嗟に仲間を庇う彼方。
     またクラブでバカやったり、皆で騒いだりしたいから。
    「俺はイブ子さんとこれからもずっと思い出作っていきたい。だから絶対一緒に帰る!」
     戦も、烽と得物を振るいつつ紡いで。
     摩擦で生まれた炎をその足に纏いながらも。
    「こんだけ色んなヤツに気に掛けられてんだぞ、バーカ!」
     蹴りを見舞う彰二は、そうイブへと言い放つ。

    ●Viele Freund
     想司と同じ眼鏡で変装したウツロギをはじめ、【猟奇倶楽部】の面々。
     道中でトマトは食べた既濁に、微力ながらと手伝いに赴いた榮太郎。
     焔やいろはが入口や窓を封鎖し、紫桜里も舞やなつきや咲哉と休みなく支援して。
     王子様の元へお姫様が戻れる様に。想司を回復する津比呂や矧や九里に続き、真魔も【約束】を果たすべく愛娘へと親愛を。
     そして、こんなにも愛され、必要とされている事を。華月と刑も、イブへと紡ぐ。
     さらに、吉祥寺駅番白虎隊! 【駅番】の皆の姿も。
    「イブはおれ達の物。彼女を愛している人間の物だ。とっとと返してもらおう」
     大文字番長の声に頷く、夏蓮と善四郎。駅も何だか寂しいし、吉祥寺で見せたいものもあるし。
     殴り愛殺し愛上等! な奏だけど。
    「はやく戻ってきてくださいヤンデレ白虎」
     遊び足りないし、めちゃくちゃ寂しいから。恭太朗と靜華も、駅番の皆と支援を。
     イブの為に、駅番伝統の人間ピラミッドに挑戦中ですから!
     それに同じ【Epitaph】部員のラピスティリアは、親しくなる機会を失いたくなくて。パパと一般人を逃がした雪も、回復支援を。
     桜子と六華も【ひなたぼっこ部】元部員な彼女の為に赴いて。
     彰二を共に迎えたイブに、知る以上の仲間がいる事を見せたいと。そんな部長の声に集まった、弥勒や都璃や唯たち【炎血部】。アルスメリアや陽和も皆と窓を塞ぎ、燐は空凛と教会入口を。非常用出口にも、朔夜と双調の姿が。
     そして兎仮面との再戦の為にも。トマト持参なマコに、エルザやアリアや佐奈の姿も。
    「……私、すっごい心配だったし、すっごい寂しかったんだから!」
     そう親友を迎えに来た夏穂に続き、みんな待っていると奈央も声をかけて。
    「日常は満たされるようなものじゃないだろうけど。でも、楽しくなかった?」
     そうイブに問う夏槻。何の変哲もないけど、それが楽しい【武蔵境3G】の日常で。
    「ルカは約束守ったよ、次は君が応える番だろ。寂しいならさっさと帰ってくればいいじゃんバァーカバーカ」
     炎纏い言葉投げつつも。七緒は約束通り、大切な人である玲仁を悪友に紹介する。
     そして面識なくとも。包帯の少女・謡の姿や、優しく声かける竜鬼。
     アイレインも「助けたい友達」に、戻ってきて欲しい想いを紡いで。
    「朱梨はね、イブちゃんが大好きだよ!」
     その気持ちは朱梨も一緒。
     恋羽もイブともっとお話して、ちゃんとお友達になりたくて。食事会で素敵だと思ったイブと仲良くなりたいと、律希もお迎えに。
     以前同じクラブだった鈴乃にも、イブは素敵なお姉さんで。憧れる先輩が愛される為の舞台を整えんと動く穂布留。久遠と紫王も戦況を見定め、後押しを。
     そして闇への興味だけでなく。ビハインドにと誘われた彼女の愛情衝動を受け止めんとする有無。
     皆がここまで頑張るのは「イブがそこにいるから」だから。身体を戻してあげてと、鈴莉も声を。
     そして、【文芸部・跡地!】が帰るべきお家だと言ってくれた事が、慧一は嬉しくて。
    「おかえりって言っていつでも迎えるから、ただいまって笑ってほしいんだ」
    「お前が跡地で馬鹿みてーなツラで笑ってねえと、落ち着かねえんだよ」
    「豹と一緒にリンゴのフルコース、用意するからさ」
    「イブちゃはね、俺の大事な友達なんだ」
     豹と冬人の林檎フルコースも、イブがいないと勘九郎も寂しいし。
    「なんていうかイブがいないと、なんか変なんだよねー」
     天狼にとっても、イブがいないと違和感があって。
     何より――跡地がトマトだらけになって、彰二も大変な事に!?
    「うおおおトマトトマトトマトトマトトマトトマト」
     イブに戻ってほしい一心の刑一は、教会でもトマトサバト!?
     遥音や彩希も、帰ったらイブとトマト鍋! リバイブメロディー奏でる琉嘉もトマト装備。
     さらに、帰ってこないのならトマトを投げるという侑二郎は。
    「寂しいなら、俺たちがいます。頼ってください。みんな、イブさんのことが大好きですから」
     帰ってきても投げつけてやりますけど、と付け加える。
     そしてトマトは跡地だけに留まらず。
     大切な友達の大切な人の為に、トマト持参で回復支援する彰。逃走防止しつつ、治胡も焼きトマトを戦友へ。
     そんなトマティーナな状況に。
    「トマトは嫌よぉ! 鯛焼き詰めて皆殺しちゃうわよん!」
     魔導書で、ぷんすかトマトごと皆を燃やすEve。
     だが詩音の旋律が傷を癒して。嘉市もイブの女子力(物理)を恋しく思う。
     そして説得は苦手な兎紀だけど。
    「これだけ人数きてんだ、満足するまで殺し合いしよーぜ?」
     とにかく殴って満足させて、目を覚まさせるだけ。
     巴恵もイブの世界の為に、自分にできる事をと。
     そんな皆を愛し気に見回して。
    「私も皆の事……大好きすぎて、殺したいわぁ」
    「!」
     再び聖書が開かれた瞬間、爆ぜる衝撃。
     でも決して逃げず、まっすぐ姉を見るジャンは。
    「やぁっと見つけたぞ、この馬鹿姉貴!」
     背中の悪魔羽を大きく揺らす姉に、続けた。
    「俺だって……俺だって、さ、寂しかったんだからな……あーもう、言わせんな馬鹿!」
    「お姉ちゃん想いなのねぇ」
    「……何言ってんだ。アンタだって、俺にとっちゃ大事な姉さんだよ」
     帰ろう――そうEveにも、手を差し伸べる。
     そして葡萄酒色の瞳が一瞬、見開かれるも。
    「ルコちゃん、遊びましょぉ!」
    「!」
     見つけたルコの霊魂を突き貫く、薔薇のステッキブーケ。
     でもルコや、炉亞や木葉や花子、レインや儘やナターリヤ――彼女の【EDEN】を守っておいた皆は。
    「愛する事は良く分からないけども、イブさんがいないと、寂しい事だけは、分かったから」
    「Eve、あなたは俺の大好きなイブの一部ですから」
     イブもEveも、どちらも愛してあげる。
    「ゼンリョク、で。アイ。うけとめさせて、いただき、ます」
    「主人がさびしい時は、義と愛をもって全力で構い倒しちゃる!」
    「だから……そうだね、たくさん、愛し合おう」
     自分達への愛を受け入れて。彼女が望む、愛し方を。
    「最高に愛されたいなら、どうか去っていかないで。たくさんの愛を、みんな持ってるから」
    「友愛をもって、愛しておりますよ、お二人とも」
     イブとまた一緒に遊びたいし。Eveも、満足させてあげたいから。

    ●Braut des Abgrunds
     愛しています、何度でも追いかけますからね――あの時のイブの声。
     だから、滴る血を炎に変えて。
    「連れ戻すまでは、倒れたりしてやんねーよ!」
     今度は彰二が、彼女へと真っ向からぶつかる番。
     あの時――イブは田中太郎(仮)を肯定し、愛してくれたから。
    「……全力で愛してやりますとも!」
     傷嘆の決意込めた簡素な包帯の指輪から魔法弾を撃ち放つ絢矢。
     その想いにEveも、黒き殺気の衝撃で応える。
    「愛してるわぁ、二人とも」
     だがEveを護り続けた漆黒の神父は、大勢の灼滅者の手で消滅していて。
     愛を囁き交わす様に、愛しき人の血飛沫で互いの正装を染め上げながら。
     想司は魔力の光に貫かれ落ちる血も厭わずに、不覚にも思う。
     ――永遠に、続けたいと。彼女の本当とぶつかり合えている、気がしたから。
     でも。
    「そろそろ終わりにしましょう。帰りますよ、おれたちのエデンに」
     奈落の癒しを受けつつ、想司はこの殺し愛の終わりを感じる。
     彼女が恐れる、『無関心』の感情を持つ者は――誰一人、この場にはいないから。
     手入れは十分にした方がいい、と。彼方はさらり、桃色の髪に触れながら。
    「お前が居ないとやっぱEDENは寂しいし、俺の眼福のポニテが一つ減って物足りないし、目の届かない所でなんかあったらと思うと心配すんだろ!」
     つーわけで戻って来い、と。鮮血の如き緋の衝撃と共に、妹へと手を差し伸べる。それが、イブでもイブ子でも。
    「飛鳥井が必死に探してくれた。沢山の仲間がイブ子さんを心配して早く会いたがってた……こんなに、こんなに愛されてるよイブ子さん」
     烽と共に地を蹴る戦も鋭利な影を刃にして。
    「見えてるか? ここにいる全員、もちろん俺も! イブ子さんが帰ってくるの待ってるんだよ!」
     寂しがり屋な彼女に、帰ろうと声を。
     梓も、魔法の衝撃を全力で見舞いながらも。
    「いいかげん起きろイブティ、まだまだ人生遊び足りないだろ。やっぱりお前と騒ぐのが一番心が躍るんだ……おまえもそうなら、応えろ親友!」
     戦場を駆けるフォルンを送り出しつつ、親友との日常に思いを紡いで。
    「俺がお前にあげれる愛は今んとこ殴り愛くらいなもんだ、遠慮せずに受け取れよ」
     んで、俺らからの愛を受けて満足したら帰ろうぜ、と。
     霊犬と共に、彼女の愛を受け続ける想司の傷を癒し盾を施す月人。
    「いつも通りにしてても……EDENはイブがいないと物足りなくてよ」
     学園にいる皆も、イブの帰りを沢山待っているから。
     ――殺したいほど愛しい人達の声に大きく揺れ始める、イブの心。
     そして記憶の奥底に眠る、優しくて暖かい日々に……帰りたい。
     そう願い始めた彼女の闇を絶ち斬る様に。
    「愛だなんだと若い身空で逸り過ぎだお前さん――」
     娑婆蔵が見舞うは、鬼哭啾啾たる会心の斬撃。
    「その恋愛体質、いっぺん撫で斬りにしてやりまさァ!」
    「!!」
     そして再び掲げられる指輪は、イブから貰った己のダークネスの残骸。
     心許せる数少ない友人の為に、絢矢は弾丸を撃ち出す。
     偶像の黄昏の証である包帯を靡かせて。イブがした様に、一番前で友愛を込めて。
     愛しています――と。
     イブが消えて以来、彰二の心に生じた、もやもや。
     意地でも認めたくないし、はっきりとは言わないけれど。
    「認めんの悔しいけど、学園にお前がいねーと何かが違うんだよ。さっさと戻って来い!」
     意地っ張りな彰二が紡いだ、精一杯の思い。
     刹那、黒き麒麟の息吹の一欠片が七色に染まって。Eveへと叩き込まれる、閃き放つ拳。
    「お色直ししてる時間は……なさそうねん」
     そして大きく傾いた花嫁を受け止めたのは、想司。
     想司はすぐ傍にある葡萄酒色の瞳だけを見つめ、言い放つ。
    「おれを見ろ」
     そして彼女の耳に咲く薔薇と同じ色の髪を、愛し気に撫でてから。
    「他の人なんて、殺さないでくださいよ。奈落になんか、行かせません」
    「……!」
     腕の中の身体を深く貫く――最後の一撃を。
     そして。
    「満足したわぁ、ありがとねん……皆の事、私も大好きよぉ」
     バージンロードに流れる桃色の髪が。漆黒へと、変わったのだった。

    ●Braut des Paradieses
     誰よりも早く、抱き締めて。
    「おかえりなさい」
     そう紡いだ想司の体温を感じながら……イブも、ただいまを。
     そしてイブを迎えるのは、沢山の「お帰り」と、帰還の洗礼!?
     抱きつく友、遠くから見守る友、無事を祝う歓声。
     ウツロギがコテカを鼻に被せれば、いろはがそっとケースを渡して。
    「ほらもっと盛り上げて!」
    「あんまり心配させんなイブゥウ!」
    「おかえりバカ」
     始まるのは、おさげで撮影会やシャンメリーバスター、顔面アップルパイ!
     そして、そんな賑やかな雰囲気に花を添えるのは、パイプオルガンの演奏と。
     泣きたい程イブが大好きな――皆の笑顔。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 11/素敵だった 42/キャラが大事にされていた 13
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ