ここはイケメンの国

    作者:若林貴生

     太く頑丈な木材を組んで作られた処刑台。その上で一人の男が、今まさに処刑されようとしていた。
    「俺が何をしたっていうんだ」
     両手両足に枷をはめられた彼は、四つん這いの状態でそう言った。すると脇に立っていた黒服姿の男が手元の紙片を広げ、そこに記された罪状を読み上げる。
    「尾藤隆史。君は一昨日の夕方、地下鉄の車両内で女子中学生の隣に座ったな?」
     隆史と呼ばれた男は小さく頷き、怯えた目で黒服の男を見上げた。
    「そ、それが罪になるっていうのか……?」
    「そうだ」
     黒服の男が発した一言に、隆史は絶句した。
    「この国ではイケメンであれば何をしても許される。だが逆に、そうでない者は何をしても罪になるのだ」
     外を出歩き人目に触れたら罪、コンビニで買い物をしたら罪、ファミレスで食事をしたら罪、道端で人に話しかけたら罪、特に女性や幼子相手の場合は重罪──。
    「君は人の目に触れ、公共の交通手段を使用し、あまつさえ年若い女性の隣に腰を下ろした。ここまで罪を重ねたとなれば、死を以って購うしかあるまい」
    「そんな馬鹿なことがあってたまるかっ!」
     隆史は激昂して叫んだ。黒服の男は溜め息をつくと、子供を諭すかのように静かな声音で告げた。
    「それが法律なのだ」
    「違う! 俺の顔をよく見てくれ! 俺はイケメンだ! イケメンのはずだ!!」
     免罪を求めて叫ぶ。だが黒服の男は再び溜め息をつき、困ったように笑った。『そんなわけないだろう』と言いたげに、ゆっくりと首を左右に振る。
    「待って、待ってくれぇぇぇぇ……え……う、ぐぅっ……」
     隆史の顔が絶望に歪んだ。必死の懇願は嗚咽へと変わり、涙を流して慈悲を乞う。しかし、彼の訴えは容れられなかった。黒服の男が手を振ると、肉厚のサーベルを構えた処刑人が機械人形のように隆史へと歩み寄る。そして彼は隆史の首筋に、そっと無慈悲な刃を当てた。
     
     
    「ダークネスの動きが察知出来た」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は、いつになく真面目な顔つきになってそう言った。
    「相手はシャドウだ。今更説明するまでもない事だが、敵はバベルの鎖による予知能力を持っている。単純な強さだけを見ても、こちらより上だろう。とはいえ、俺の予測した未来に従えば何とかなるはずだ。気を抜かずに戦ってくれ」
     経験を積んだ灼滅者であっても、油断や慢心が一切無くとも、ダークネスが強敵である事実は変わらない。ヤマトが言っているのは、そういう事だ。
    「悪夢を見ているのは尾藤隆史という男だな。マンションに一人暮らし。まずは彼にソウルアクセスを試みる事になるが……ま、この辺は問題無いだろ。悪夢に入り込んだら、とりあえず処刑され掛かっている隆史を助けてやってくれ。黒服の男と処刑人が邪魔して来るだろうが、それほど強いわけじゃない。数で押せばすぐに片付くはずだ」
     しかし問題はそれだけではない。悪夢の元になっているのは隆史の外見に対するコンプレックスであり、彼を立ち直らせるには考え方を変えてやる必要があるだろう。
    「例えば……そうだな、ひたすら見た目を褒めて自信を付けさせるとか、あるいは容姿なんて気にする必要無いんだと説得するとかな。逆に思いっきり自信を打ち砕いて完全に開き直らせてしまうというのも……まぁ、アリか」
     変に悩んだりしなければいいんだし、とヤマトは言った。
    「その辺りは正直どっちでもいい。お前たちに任せる。そうしている内に邪魔をされまいとシャドウが姿を見せるだろう。他にも黒服が三人、処刑人が二人、一気に出て来るから、そっちの相手も頼むぜ」
     シャドウの扱うサイキックはシャドウハンターのそれと同じ。黒服の男は格闘術に長け、主に鋭い蹴り技を得意としている。処刑人は使う度に切れ味が鋭くなる刀を武器に、とにかく斬りかかって来るという。
    「こっちが圧倒的に有利だって状況を作ることが出来れば、シャドウは逃げていくだろう。とりあえずそれでいい。いいか、無茶すんなよ? いくらソウルボード内のシャドウだからって舐めて掛かると食われるぞ」


    参加者
    絲紙・絲絵(遠線慕・d01399)
    桜森・紅子(ワイルドフラワー・d01792)
    御崎・美甘(瑠璃の天雷拳士・d06235)
    千葉魂・ジョー(ジャスティスハート・d08510)
    ジェレミア・ヴィスコンティ(古の血は薔薇の香り・d24600)
    リリアドール・ミシェルクワン(おこげよおいしくなあれ・d24765)
    氷灯・咲姫(月下氷人・d25031)
    蛇神・あさき(祟り蛇・d30088)

    ■リプレイ


     処刑台へと接近したリリアドール・ミシェルクワン(おこげよおいしくなあれ・d24765)は辺りの様子を窺った。予定通り、シャドウの姿はまだ見当たらない。
    「行くぞ」
     蛇神・あさき(祟り蛇・d30088)が先陣を切って処刑台に駆け昇る。
    「何奴!?」
     こちらに気付いた処刑人が隆史の首筋から刀を離した、その瞬間を狙って桜森・紅子(ワイルドフラワー・d01792)が跳び蹴りを食らわせた。処刑人はもんどりうって処刑台の下へと転がり落ちる。驚愕の表情を浮かべて身構えた黒服に、リリアドールがデッドブラスターを撃ち込んだ。


    「ははっ! やっぱ俺がイケメンだから助かったって事なのかな」
     8対2という数の差によって敵を一蹴すると、手枷を外して貰った隆史はおどけた口調でそう言った。あんな目に遭ったばかりだというのに彼の勘違いは治らないらしい。
    「ポジティブなのは好い事だが其奴は唯の現実逃避だぜ。君がこんな悪夢を視て居るのが其の証拠だ」
     諭すような口調で告げる絲紙・絲絵(遠線慕・d01399)に、隆史が困惑の表情を向ける。
    「これが……全部夢だってのか? 何もかも嘘っぱちの夢だって?」
    「そうだよ」
     ジェレミア・ヴィスコンティ(古の血は薔薇の香り・d24600)が頷く。
    「これは悪い夢、文字通りの悪夢ってやつだね」
    「いまいちよく分かんないけど、でもどうりでおかしいと思った。そもそも女の子に話し掛けただけで通報とか、ありえないよな」
    「ああ……いや、それなら俺も経験があるな」
     顎に手を当て、考え込むような仕草で千葉魂・ジョー(ジャスティスハート・d08510)が言った。
    「ジャージ着て外をうろついていただけでも偶に通報されるんだよなあ。小さな女の子に声を掛けた時とか」
     千葉魂ジョーは千葉をこよなく愛するご当地ヒーローである。愛する地をパトロールする事は彼にとっての日常であり、幼女に声を掛けるのもその一環なのだ。
    「あと公園のベンチで昼寝してる時にも何度かあったな。ま、よくある事だから気にするな!」
    「それは不審者って扱いなんじゃ……」
     その状況を思い浮かべ、困ったように笑う御崎・美甘(瑠璃の天雷拳士・d06235)。ひょっとしたらジョーの振る舞いはご近所で噂になっているのかもしれないが、それはまた別の話である。
    「と、とにかくですね!」
     話を戻そうとする氷灯・咲姫(月下氷人・d25031)が口火を切った。
    「ズバリ言います……あなた、自分で思われてるほどカッコよくないです!」
    「いきなり何だ?」
     はっきりきっぱり断言した咲姫の顔を、隆史はきょとんとして見返した。
    「何故かと言いますと、自己陶酔ナルシーオーラが滲み出てるからですね。イケメンはそんなオーラ纏わずともイケメンなんです!」
    「でも俺、割とイケメンだろ? そりゃアイドル級とは言わないけどさ」
     ここまではっきり言われても、隆史はまだへらへらと笑っている。
    「自分でイケメンって言うとか引くわぁ」
     その態度にリリアドールは眉根を寄せた。彼の為にも、この無意味な自信を打ち砕いてやらねばならない。
    「言っておくがかっこ良くないから嫌ってるわけじゃねぇぞ? イケメンだろうがなんだろうが調子乗ってる奴が嫌なんだよ」
    「……嫉妬か?」
     そんなふざけた台詞を吐いた隆史の腹部に紅子の熱い蹴りが突き刺さる。
    「がはっ!」
    「その程度でイケメン? 鼻で笑うわ」
     地面に転がる隆史の身体を、紅子はその自信ごと踏み砕く勢いで踏みつけた。容赦のないピンヒール攻撃に、隆史は苦悶の表情を浮かべたままお腹を押さえている。
    「そもそも、お前がイケメンだって事を裏付ける体験とかはあるのか?」
    「体験? 体験か、えーっと……」
     訝しげにジョーが訊ねると隆史は言葉に詰まる。どうやら本当に根拠の無い自信だったらしい。
    「ところで普段の服装ってそんな感じなの?」
     美甘が訊ねると、隆史は自信無さげに自分の服装に目をやった。グレーのパーカーにブルーのジーンズというその姿は、センスがどうとかいう前にファッションに気を遣っているようには見えない。
    「まぁ、大体こんな感じだけど……」
    「だったらダメだよー、イケメンって言うくらいなら安い服でもいいからそれなりに気を遣わないとー」
    「服装も気遣わずして何がイケメンだい、イケメンレッテルはそう安売りしてないぞ!」
    「そもそも、身嗜みに気を配るのはイケメン云々抜きでも最低限必要な事です」
     絲絵と咲姫も畳み掛けるように言葉を続ける。
    「い、イケメンは何を着ててもかっこいいし……」
    「それは顔や身体が引き締まっている場合だね」
     女性陣の相次ぐダメ出しにたじろぎつつも反論して来た隆史だが、即座にそう返された。
    「体はちゃんと鍛えてる? だるだるの体じゃ格好悪いよー?」
     美甘がそう言うと、うんうんと頷きながら紅子はあさきの腹筋をぺちぺちと叩く。鍛え上げられた腹筋と自分の腹部を見比べる隆史。そしてサッカーボールか何かを持つみたいに、彼の顔を両手で挟み、よく見ろと言わんばかりに隆史の方へぐいっと突き出した。
    「イケメンって言うんは、こういう顔を言うんよ!」
    「俺を基準にするんじゃあない」
     されるがままになりながら、あさきは苦笑を浮かべる。隆史はその顔をまじまじと見詰め、ジョーやジェレミアの顔を順番に眺めて溜息をついた。
    「そうか……そうだよな、俺はイケメンなんかじゃ……」
     がっくりと項垂れる隆史。
    「本当は分かってたんだ。俺みたいな馬鹿でクズで何の取り得も無いブサイクに生きてる意味なんて無いんだって……」
    「別にそこまで言ってないけどな」
     極端から極端へ走る隆史に、再び苦笑するあさき。
    「イケメンって言葉が一人歩きするけどさ、そんな印象なんてどうとでも変わるんだぜ?」
     励ますようにジョーが言う。
    「根拠のない自信は前向きな勇気となる事もある。だが、努力しない事の言い訳にしてはいけないんだ。それは後向きな思い込みだ」
    「まぁ、なんだ。努力すれば俺は絶対に笑わねぇよ。イケメンになりたいなら頑張れ。顔も重要だが、何より大事なのは中身だと俺は思うぜ」
     ジョーだけでなくリリアドールも、努力が必要なのだと力説する。
    「努力……努力かぁ……」
     そう言って隆史は下を向いたまま、大きく息を吐いた。
    「俺に出来ると思うか?」
     不安げに訊ねて来る隆史に、絲絵は笑みを返す。
    「努力して居る男子は最高に格好好いと保証するから、誇れて認められての真のイケメン、目指して御覧?」

     シャドウが姿を見せたのはその時だった。
    「邪魔をしないでほしいな」
     処刑台の陰から黒服を着た長身の男が三人、全身に殺気を漲らせた処刑人が二人現れる。その後ろから、ダイヤのマークを付けたシャドウが顔を覗かせた。


     我先にと突っ込んでくる処刑人たちに、絲絵は薄い笑みを浮かべた。
    「君達的に僕はイケメン? 或いはギルティ?」
     愉し気な声で問い掛ける彼女の全身をバトルオーラが包む。
    「まあ、どっちでも好いけどね!」
     凝縮されたオーラが拳に宿り、強い輝きを放つ連打が処刑人を迎え撃つ。よろめいた処刑人が立ち直るよりも早く、絲絵は敵から距離を取って隆史を庇う位置に立った。そして、それと入れ替わるようにジョーが前に出る。
    「間合いが甘いっ!」
     襲い掛かってきた処刑人の初太刀をかわしながら、ジョーは奥に控えるシャドウを見やる。
    (「まずは奴をこっちに引き付ける!」)
     意識を集中するジョーの脳裏に浮かぶのは、愛する千葉の大地に広がる菜の花畑。辺り一面の鮮やかな黄色の花。その上を吹き抜ける風の匂い。それら全てが彼に力を与え、そのパワーをビームに変えて一気に解き放つ。
    「俺のイケメンオーラを見ろ! 菜ノ花ビーム!!」
     眩い閃光がシャドウの黒い身体を穿った。その効果によってか、シャドウはデッドブラスターに似た黒い弾丸をジョーに撃ち込む。
    「ぐ……!」
     弾丸は彼の太腿を貫き、小さな風穴を空けた。ジェレミアが祭霊光で回復したものの、空いた傷口を塞ぎ切るには至らない。
    「やっぱ抑えとく必要があるな」
     一撃が重いシャドウを放置は出来ない、とリリアドールは考える。一見してどこも同じ、不定形の身体を持つシャドウにも弱点はある。リリアドールはぶよぶよとした闇を見据え、その一点を手刀で正確に貫いた。しかし敵も黙っているわけではない。黒服の一人が、その長い脚を伸ばしてリリアドールを蹴り上げた。
    「……っ! 悪いがそっちの相手はまた後だ」
     自分を蹴り上げた黒服には目もくれず、リリアドールは二人の処刑人にコールドファイアを見舞う。冷たい炎が彼らを飲み込み、その腕や足を凍り付かせた。それでも処刑人は動きを止める事無く、無言で刀を振るい、紅子の腕を斬り付ける。まるで血を吸ったかのように、ほんのりと赤く染まる処刑人の刀。今度は咽喉元目掛けて突き出されたその刃を、紅子は僅かに身を傾け回避する。刃先が首を掠めて赤い線が刻まれるが、彼女は退がるどころか瞬きすらしない。そのまま逆に一歩踏み込み、鋼鉄のような拳を敵の顔面に叩き込む。続いてふらついた処刑人を、咲姫が持ち上げ放り投げた。そして無防備な彼の背中をダブルスレッジハンマーで叩き落とす。更にジェレミアの回し蹴りが暴風となって処刑人の二人を薙ぎ払った。一人はすぐに立ち上がったが、もう一人は倒れたまま、ぴくりとも動かない。
    「そこだっ!」
    「一撃、ひっさぁつ!」
     ジョーの閃光百裂拳を浴び、美甘の拳に胸板を打ち抜かれて処刑人が膝をつく。そしてあさきのリングスラッシャーがその背中に突き刺さると、彼は立ち上がる事無くそのまま崩れ落ちた。


     シャドウの放った漆黒の弾丸が紅子の肩を射抜く。その勢いでバランスを崩したところに黒服の蹴りが放たれた。だが彼女の周囲を小さな光輪が覆って傷を癒し、そのまま盾となる。
    「ありがとうさんやで」
    「なに、大したことじゃない」
     あさきのシールドリングに護られながら、紅子は敵から距離を取る。彼女の言葉に短く答え、交代してあさきが前に出た。射出したリングスラッシャーが不規則に動き回り、黒服の四肢を切り刻む。その隙を狙って美甘がスターゲイザーを繰り出すが、こちらは黒服に足で防がれた。
    「随分と足癖の悪いお嬢さんだ」
    「お互い様でしょ」
     黒服に言葉を返し、同時に足を跳ね上げる。打ち込み、受け止め、跳ね返し、叩き付け、白いエアシューズと黒い足がぶつかり合う。そうやって蹴りの応酬が続いた後、黒服の長い蹴り足が軌道を変えて美甘の側頭部を強打した。僅かな隙に差し込まれた一撃をまともに受けて、彼女の身体が横転する。
    「あたしはまだ……やれるぞぉ!」
     美甘は気合と共に素早く立ち上がり、闇雲に攻撃すると見せ掛けて相手の軸足を払った。
    「降振脚改! 燃えろぉ!」
     よろめく黒服の脳天に、炎を纏い体重を乗せた踵落としが炸裂する。黒服は炎に包まれながら、うつ伏せに倒れて動かなくなった。だが黒服を倒したばかりの美甘を、シャドウの弾丸が貫き毒を流し込む。
    「大丈夫かい、可愛い顔に傷付いてなあい?」
     すかさず絲絵が祭霊光で美甘を癒し、毒を消し去った。
    「脚が長かろうが何だろうが、敵ならば容赦しません!」
     咲姫の持つ槍の穂先から冷気が生まれ、氷の槍となって黒服に突き刺さる。更にリリアドールがコールドファイアで黒服の身体を凍り付かせた。それでも動き続ける黒服の蹴りを、再び前線に立った紅子が防ぐ。上下左右から繰り出される蹴りを避け、あるいは受け止めて凌ぎながら紅子は僅かな隙を待った。そして相手の重心がずれたその瞬間、鞭のようにしなる蹴り足を掴み投げ飛ばし地面に叩き付けた。
    「ん? 投げやんて一言も言うてへんよ?」
     してやったりといった笑みを浮かべ、紅子は力尽きた黒服を見下ろした。これで残るはシャドウ一人。ジェレミアのグラインドファイアを皮切りに、各々がシャドウに攻撃を集中させる。袋叩き同然の状況に、たまらずブラックフォームを使ったシャドウだったが──。
    「落花生ダイナミック!!」
     ジョーが狙い澄ました一撃を加えると、シャドウの身体に浮かび上がったダイヤのマークが輝きを失った。
    「ヒーローに蹴り技は必須なのですっ!!」
     むしろヒロインと呼ぶべきかもしれない、戦場には不似合いな純白のウェディングドレスが宙を舞い、同じく白いハイヒールが流星のような速さでシャドウに突き刺さる。その咲姫の一撃を受けてもシャドウは未だ倒れない。しかし美甘の拳を飛び退いてかわした瞬間、シャドウの足が止まった。結果としてシャドウは、絲絵とあさきの射線に自ら飛び込む形となった。続けて放たれたオーラの塊と真空の刃が、膨れ上がった闇を貫きそして切り刻む。
    「ここまでか……」
     僅かに悔しさを滲ませた声音でシャドウが言った。するとシャドウを形作っている闇が揺らめき、溶けるように消えていく。
    「……とりあえず片が付いたな」
     シャドウの姿が完全に虚空へ消えるのを見届けると、あさきは小さく息を吐いて身体の緊張を解いた。


    「……これも全部夢、なんだよな」
     一部始終を眺めていた隆史だったが、『すべては夢』と割り切ったのか案外落ち着いていた。そんな隆史に絲絵が微笑する。
    「また逢える事を期待して居るよ。ただしイケメンに限るがね?」
    「素材は悪くないんです、頑張れば真のイケメンとして爆誕出来ますよ!」
    「ああ言ったけど、イケメンになりたいなら奢らずに不断の努力が必要だよって事! じゃーね!」
     咲姫と美甘が手を振って別れを告げる。
    「ああ……じゃあな」
     悩みは消えたのか、それとも色々と諦めた結果なのかは分からない。だが隆史は硬い表情を解いて、小さく手を振り返した。

    作者:若林貴生 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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