気まぐれ就職

    作者:のらむ


     郊外に、とあるキャンプ場があった。年中無休で営業しているこの場所に、年中テントを貼り続けて生活している男がいた。
     彼の名は風間・荘太郎。六六六人衆序列五九一番。自らが生み出した風で戦闘を行う事を得意としている。
     テントを吹き飛ばす勢いの強い風が吹き荒れた、とある日の夜。午前二時。珍しく荘太郎のテントを訪れる者がいた。
    「ふあ…………え? 誰? 何の用? 僕まだ、寝てたいんだけど」
     眠たい目をこすりながら、荘太郎は目の前の男の顔を眺める。
    「初めまして、風間・荘太郎君。今日は君に話があるんだ」
     仕立ての良いスーツを来た40代のサラリーマン風のその男は、『人事部長』と呼ばれる六六六人衆だ。
     アポも無しに夜中に訪れるコイツは何なんだ。帰れ。
     と風間は思ったし、実際言ったが、寝袋を脱がずにわざとあくびをしながら人事部長の話を聞いてると、目の前の相手は割と面白そうな話をしていると気づいた。
    「あー……つまり、君の言う会社に入れば、悠々自適な生活をしながら、好きなときに、外で遊べる。あとジュース飲み放題。で、合ってる?」
    「ああ、その通りだ……という訳で、どうだろうか。我が社に入社してもらえないか?」
    「いいよ」
     寝ながら即答する風間。
    「そろそろ、テント暮らしにも、飽きてきたころだし。いい加減就職しないと、将来がなんか大変だって、何かのラジオで、どっかの誰かが言ってたし」
     ようやく寝袋を脱ぎ、テントから這い出した風間。
    「ふあ、眠い…………じゃ、行こうか。人事部長さん。契約書とかは、君が適当に書いといて。あとここのキャンプ場の使用料金も払っといて。滞納してるから」
     風間は荷物を抱え、人事部長と共に、何処かへと去っていくのだった。


    「えー、既に皆さんの中でも知っている人がたくさんいるでしょうが、人事部長と呼ばれる強力な六六六人衆が、各地の六六六人衆をヘッドハンティングして廻っているそうです。噂の獄魔覇獄とやらに関係していると話もありますし、何にしても放っておく訳にはいきません。阻止しましょう」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)はそう言って赤いファイルを開き、事件の説明を始める。
    「今回私が予知した情報によると、とあるキャンプ場の端っこで、風間・壮太郎という名の六六六人衆がヘッドハンティングされるそうです」
     風間はつい先日、商店街で虐殺を行ってしまう筈だったが、灼滅者たちの手によって、それは完全に阻止されている。
    「皆さんは風間が人事部長の誘いを受け入れた直後、介入することが出来ます。また幸いにも周辺には一般人が全くおらず、風間との戦闘に集中できます」
     人事部長は風間に『灼滅者達を蹴散らせ』と命令したあとにさっさと撤退するため、人事部長と戦闘を行うことは出来ない。
    「風間は今回撤退することはありませんし、皆さんの撤退を妨害することもありません。灼滅するには最高のタイミングといったところでしょう」
     また、手駒となる筈の六六六人衆を灼滅すれば、敵の戦力を大幅に下げられるだろうとウィラは言う。
    「説明は以上です。風間は一見飄々としただけの普通の男に見えますが、その実力は本物です。決して油断はしないで。皆さんが無事に、全員で帰ってくることを願っています。どうかお気をつけて」


    参加者
    ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)
    桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)
    刀狩・刃兵衛(剣客少女・d04445)
    嶌森・イコ(セイリオスの眸・d05432)
    内山・弥太郎(覇山への道・d15775)
    斎・一刀(人形回し・d27033)
    正陽・清和(小学生・d28201)
    宮瀬・柊(高校生シャドウハンター・d28276)

    ■リプレイ


     午前1時45分。
     8人の灼滅者達は、風間が生活しているというキャンプ場前に集合していた。
     エクスブレインの予知通り、キャンプ場には激しい風が止むこともなく吹き続けていた。
    「すごい風だねぇ~……でも、風はいつか止まるものなんだな、クククッ…………」
     斎・一刀(人形回し・d27033)が空を仰ぎながら誰に言うでもなくそう呟き、キャンプ場の中へ足を踏み入れた。
    「六六六人衆……わたしなんかよりもずっとずっと強い、よね……。怖いけど……でも先輩方のお手伝いを、しっかりしなきゃ……!」
     正陽・清和(小学生・d28201)は六六六人衆という強力な敵と戦うことに少なからず恐怖していた。しかし仲間の役に立たねばならないと、恐怖を抑えこんで風間の元に向かう仲間たちの後ろを静かに付いて行った。
    「敵を灼滅するには、今日は滅多にない好機です……しかし、強敵には変わりないでしょう。気を引き締めて望まなくてはなりませんね」
     内山・弥太郎(覇山への道・d15775)はそう言ってキャンプ場内を見回した。
     この季節、しかもこの風のなかでテントを張っている客などほとんどいなかったが、遠目に小さなテントが張られているのを確認できた。
    「あれですね……行きましょう」
     弥太郎に続いて、灼滅者達は風間がいるであろうテントへと向かった。

    「ああ、その通りだ……という訳で、どうだろうか。我が社に入社してもらえないか?」
    「いいよ」
     エクスブレインの予知通り、人事部長と呼ばれる六六六人衆が風間をスカウトし、風間がこれに承諾した。
     そしてテントから這い出した風間が、荷物を抱えて人事部長に話しかけた。
    「ふあ、眠い……じゃ、行こうか。人事部長さん。契約書とかは、君が適当に書いといて。あとここのキャンプ場の使用料金……あれ?」
     風間が何かに気がついたように声を上げ、目をこらしてある方向を見つめた。
     それに気づいた人事部長もまた、風間の視線を追って振り向いた。
     そこには、風間を灼滅するために訪れた、8人の灼滅者達が風間達の方へ向かってきていた。
    「こんなに人が来たのは初めてだよ…………でも何か嫌な感じがする。見た事がある人もいるし」
     風間が超嫌そうな顔でため息を吐き、荷物をポンと地面へ放り投げた。目の前に現れたのが灼滅者だと気づいたのだろう。
    「お前の察した通りだ、風間。あれから間を置かず早くも再開できるとはな……今度こそここで決着を付けさせてもらう」
     刀狩・刃兵衛(剣客少女・d04445)がそう言って、腰の刀に手をかける。
     刃兵衛は、つい先日風間が引き起こす筈だった虐殺を阻止した灼滅者の1人だ。今回は絶対に逃さないという意志を持って、この作戦に参加したのだ。
    「また君達か、灼滅者………………」
     人事部長も風間と同じく嫌そうな顔でため息を吐いた。
     何度もスカウトを邪魔され、流石に人事部長も嫌気が差してきた様だ。
     その人事部長を見て、宮瀬・柊(高校生シャドウハンター・d28276)が静かに苦笑する。
    「そっちも嫌だろうけど、こっちだって黙ってスカウトなんて厄介な事を見逃すわけにはいかないんだよねー」
     柊に続いて、嶌森・イコ(セイリオスの眸・d05432)も人事部長に投げかける。
    「スカウトの成果報酬は入りませんよ、わたしたちが総て却下させて頂きますもの」
    「迷惑な話だ」
     人事部長はそう応えると、灼滅者達に背を向けて歩き出した。そして風間の肩に手をトントンと叩き、
    「この灼滅者達を蹴散らしてくれ。この程度の相手に手こずるような奴は、我が社の社員として相応しくないのでね」
     と言ってその場を立ち去った。
    「……………………分かったよ。また後でね」
     風間はひらひらと手を振って人事部長を見送ると、灼滅者達に向き合った。
    「帰ってくれない?」
    「そういう訳にもいかないのよ、愚か者」
     風間の心からの願いに桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)はそう返し、更に続けた。
    「組織の与えるメリットだけを享受するつもりだったのでしょうけど、残念だったわね。最悪のタイミングで、義務がお前を捕らえに来たわよ」
    「迷惑千万って奴だね。君たちとは、もう一生、会いたくなかったんだけど……だって、ジュース買おうとしたら僕を殺そうとするんだよ? 酷くない?」
     その風間の言葉に、ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078)が冷めた目で返す。
    「本当にお前は何とも思わずに、息をするように人を殺しているのだな…………ならばお前らも此処で殺されても文句は言えまいよ」
    「お互いにね」
     風間が手を掲げると、キャンプ場に吹き荒れているものとは比べ物にならない程の暴風が、風間を包み込んだ。
     そして灼滅者たちもそれぞれ武器を構え、風間と対峙する。
     六六六人衆と灼滅者達の戦いが始まった。
     

    「とりあえず吹っ飛べ」
     風間が左手を掲げると、後衛を中心に小さな台風が生まれ、吹き飛ばしていく。
    「クッ…………!」
     暴風に吹き飛ばされた理彩が衝撃に一瞬表情を歪めたが、すぐに反撃に移る。
    「…………ダークネス、それも六六六人衆が就職などと、笑わせるわ。お前達が世の中の役に立とうと思うなら、速やかに死になさい。お前達は存在自体が罪なのよ」
     理彩は地を蹴り跳び上がると、渾身の力を右足に込める。
    「酷い言い草」
     圭一は右手を理彩へ突き出すと、風の塊を理彩に向けて放った。
    「疾走する流星は風より速いわ…………跪け!!」
     理彩は自身に迫る風の塊を刀で弾き返すと、そのまま強烈な飛び蹴りを風間の脳天に叩き込んだ。
    「……あー、クラッとした」
     そう言って頭を押さえる風間に、ニコが縛霊手を構えて追撃を仕掛けようと風間へ接近する。
    「お前のような屑が自堕落に生きていながらわざわざ勧誘までされるというのに、正義の魔法使いは世間様から鼻で笑われるのだぞ。実に嘆かわしい」
    「それは、お気の毒に」
     そう言って風間が放った風の刃が、ニコの身体を切り裂いた。
    「クソが…………この借りはお前の死で払ってもらうからな」
     縛霊手の爪を風間の胸に突き立て、一気に引き裂く。
     深く切り裂かれた風間の胸が赤く染まるが、斬られた本人は未だその表情に変化はなく、ただただ面倒臭さそうにしている。
    「………………ん?」
     ふと、風間が背後に何かの気配を感じた。振り返るとそこには、糸で操られた操り人形のみがあった。
    「…………なんだこれ……んん??」
     その人形に一瞬気を取られた瞬間、風間の背後から影が襲いかかった。
    「クククッ…………後ろ、がら空きだよ」
     一刀の足元から伸びた影が風間を包み込み、トラウマを呼び起こす。そしてその影から吐き出されると、一刀のビハインドが顔を晒し更にトラウマを引き出した。
    「……随分と、悪趣味だね」
    「ダークネス相手に、遠慮も何も無いからねぇ、ククク……」
     何を思い出したかは分からないが、風間の表情は随分と剣呑なものに変わっていた。
    「だから、君たちは嫌いなんだ……ほんとさっさと帰ってくれない?」
     風間が毒の突風を前衛に向いて吹かせ、灼滅者達の身体を蝕んだ。
    「クッ……これくらいなら、まだ耐えられる…………!!」
     イコは仲間の前に立ち、毒の風から仲間を庇った。
     そして両足に白銀の焔を纏わせると、風間に向けて駆け出した。
    「あなたは確かに強いでしょうが……ここで確実に仕留めます!!」
     そして放たれた炎の蹴りが、風間の腹を打ち、焼焦がした。
    「…………離れてよ」
     風間が風を纏わせた拳をイコに向けて放つが、イコは即座に後ろに跳んで回避。
     更に弓を構え、イコは炎を纏わせた矢を風間に放った。
    「クッ……!!」
     後ろに下がりながら肩に突き刺さった矢を引き抜く風間に、弥太郎が追撃を仕掛ける。
    「あなたに、これ以上人を殺させるわけにはいきません!」
     クルセイドソード『蒼魔刀』を両手で構え、弥太郎が秋山と対峙する。。
    「うるさいな……細かいことをチクチクと……」
     風間は自分の身体を中心に台風を発生させると、そのまま前衛に向けて突っ込む。
    「…………ハッ!!」
     弥太郎は腕から剣を通してオーラの塊を飛ばし、台風の一部を掻き消した。
     そして剣で地面を引き摺りながら、台風の中の風間に接近する。
    「当たって!!」
     そして畏れを纏わせた剣で斬り上げ、風間の身体を大きく斬りつけた。
    「……前回いけたから、ちょっと油断してたかな……」
     身体を抑えながら、風間が歯をくいしばる。
     前回風間は灼滅者から撤退することが出来たが、それは灼滅者達が相当不利な状態で戦いを進めていた事が大きい。
     以前と状況が違うということを、風間はしっかり理解してはいなかった。
    「はいはい、みんな大丈夫? まだまだいっちゃおー」
     その隙に、柊が前衛の仲間たちへ回復を施す。
     灼滅者達は全体的にじわじわと殺傷率が溜まっていたが、まだそこまで体力が削られた者はいない。
    「それにしても、面倒に巻き込んで悪いねぇ、でも俺らは、君がこれから起こすかもしれない面倒を阻止したいわけ。そのために、全力でいくね」
     柊はそう言って右腕に寄生体を迸らせ、巨大な刃を形成した。
    「……あぁ、確かに、面倒事はいやだよね。現在進行形でその気持ちは分かるよ。すごく」
     風間はそう言って僅かに笑うと、身構える。
    「分かってくれて何よりだよ」
     柊は蒼い刀を使って勢い良く斬り上げると、風間の右腕が斬り飛ばされ、地面へボトリと落ちた。
    「痛いなあ…………」
     風間が自己回復を施すと、立ちどころに右腕が修復されたが、身体に刻まれた傷までは回復しきれていない。
     そして風間が回復に時間を使っている隙に、清和が更に攻撃を仕掛ける。
    「……頑張って、先輩方のお手伝いしなきゃ……!」
     清和は弓を構えて風間の死角に回りこみ、矢を引き絞って狙いを定める。
    「……当たって!!」
     そして放たれた何本もの矢が、風間の背に突き刺さる。
    「く…………」
     風間が振り返ると、更に清和が縛霊手を構えて接近していた。
    「もう1発、行きます……!!」
     そして清和が爪で風間の身体を斬り裂くと、風間は後ろに下がりながら片膝を付いた。
     全身に多くの傷を負った風間の顔には最早余裕など残ってはいなかった。
    「……ここまでやられちゃう、なんてね……正直パッとやってパッと終わらせる位に考えてたよ……舐めすぎたかな」
     そう言って苦笑いを浮かべる風間の前に、刃兵衛が立つ。
    「あの時言った事を覚えているか、次に会った時は必ず逃しはしない、と」
    「……ああ、うん、覚えてるよ。君のしつこさは、中々のものだったからね」
     そういって何とか立ち上がる風間。
    「これで終わりだ……餞別にジュースくらいはお供えしてやろう」
     刀の柄を握り、刃兵衛は風間を睨みつける。
    「お気遣いどうも…………!!」
     両手を広げ、風の刃を無数に生成する風間。
    「無駄だ……言っただろう。もう終わりだと――いざ、推して参る!!」
     刀を構え、風間に突撃する刃兵衛。そしてそれに続き、他の灼滅者たちが一斉に攻撃を仕掛けた。
     弥太郎が獣化させた左腕で肩を切り裂き、
     イコが白銀の炎とともに腹を抉り、
     柊が放った強酸の塊が全身を焼き、
     一刀が糸で全身を縛り付け、
     清和が爪で胸を切り裂き、
     ニコが剣で心臓を刺し貫いた。
     そして理彩と刃兵衛が刀の柄を握る。その刀身は、抜かれていない。
     理彩と刃兵衛が同時に風間まで接近すると、
     カチン、カチン。
     と、2人の刀が鞘に収められた音が響いた。
     風間の身体は一瞬にして2度、切られていた。
    「ああ、くそ…………こんな筈じゃ、無かったんだけどな………………ジュース。甘い奴を、頼むね」
     両手を掲げ、風間が天を仰ぐ。
     次の瞬間、何かが破裂したような轟音とともに風間の身体から膨大な爆風が発せられ、灼滅者達の身体を吹き飛ばした。
     そして風が止むと、先程まで風間が立っていた場所には、巨大なクレーターが残っているのみだった。


    「終わった、ですね…………」
     戦闘の緊張から解き放たれ、清和がその場に座り込んだ。
    「いやー、良かった良かった。誰も大怪我せずに済んだみたいだしね」
     柊はそう言って、うーんと身体を伸ばした。
    「防御と回復を厚めにしといて良かった、てとこですかね……あ、ありがとうサイゾー」
     弥太郎が負った傷を、霊剣の『サイゾー』が癒していた。
    「ここで仕留められてよかった……あの性格からして、またいつ虐殺を行うか分かったものではないからな」
     刃兵衛がほっと息を吐く。
    「何にしても自業自得だな。あいつには文句をいう権利もないだろう」
     ニコは殲術道具をしまいながら、そう呟いた。
    「ダークネスは灼滅する。ただそれだけの事よ」
     そう言って、理彩が周囲を見渡す。
     どうやらいつの間にか、あれだけ吹いていた風が止んでいた様だ。
    「風が凪いだねぇ~……これくらいが丁度いいんだな」
     ビハインドを肩に乗せ、一刀がそう呟いた。
    「何か手掛かりが無いか探してから、帰りましょうか」
     イコの言葉に仲間たちは頷く。
     こうして8人の灼滅者達は誰も欠けることなく六六六人衆を灼滅し、学園に帰還することが出来た。
     一体人事部長が所属しているという企業は何なのか。
     気になることも多いが、とりあえず今は学園に帰還することとしよう。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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