そうだ、温泉に行こう。

    作者:西灰三

    ●秋と冬の境目に
     時は霜月。旧暦では冬に差し掛かり、今の暦でも冬を目前にする時期。空気に含まれるのは冷気、日が沈む速度と寒さの程度が競い合うように変化していく季節。
     所は山間、遠くまで広がるのは秋から冬へと移り変わっていく木々の装い。湧き出る湯に身を浸して望めば遠くまで続く風景が心潤す。湯煙と外気を共に吸い込めば街中では得られない吐息の味も感じられる。
     遠くではなく、目をつむり湯の中で体を伸ばせば日々の疲れも取れるというもの、また湯に含まれる成分が肌をつややかにするとか。
     湯に当てられた体を冷ますのなら展望を伴った広間へ。ここには飲食物の持ち込みも出来、寝転がる事もできる。勿論硝子越しに外を眺める事もできる。
     火照る体を外気で休ませたいのなら、木々の中を歩いてもいい。ささやかに設えられた遊歩道が山の中を縫うように巡っている。

    ●風に吹かれて
     有明・クロエ(中学生エクスブレイン・dn0027)が声をかけたのはそんな場所を見つけたからと言う。「みんなで行ったほうが楽しいよね」との事らしい。
     無論彼女と共に行く必要は無く、自分の友人等と行くのもいいだろう。ただ温泉は男女別である。そこは注意だ。
     徐々に忙しさの気配が迫ってくる昨今、少しばかり骨休みをしてもいいのでは無いだろうか。


    ■リプレイ

    ●女湯
     ふわり、と湯煙が流れて消えた。晴れた先では秋風に揺らされた紅葉がはらりと一葉を散らす。落ちる紅葉を見ながらあげはは鼻先までその身を沈める。この湯を気持ち良いと思うのは半分流れる日本人の血のせいかと考えつつ将来の事を思う。
    (「精神科医になるには…理数系…?」)
     湯船の中は考え事に向いているという。故にか彼女の他にも考え事をしている三樹もその一人だ。
    「ダメだったかぁ」
     彼女はひとりごちる。その後のため息が湯気を揺らす。
    (「やっぱりイキナリ裸の付き合いってのは無理だったかしらねぇ…」)
     やはりいきなり温泉に行くのは応えつらいだろうと考えながら彼女は次の作戦を考え始める。
    「このメンバーと一緒に出かけるのは初めてですね」
     【月訪狐星】の清美は湯船に浸かりながら友人たちと会話を交わしていた。菜々乃はその清美の顔を見て気付いた事を言葉にする。
    「清美ちゃんも眼鏡を外してていつもの印象と違うね」
     そう言った彼女も普段は眼鏡着用なので通ずるところがあるのかもしれない。
    「眼鏡取った菜々乃ちゃんと清美ちゃん、初めて見るかも」
     そんな二人の新鮮な姿を見て夕月はアナスタシアから目を離す。それまで泳ごうとした彼女とのやり取りがあったのだけれど。釣られてアナスタシアも二人の方を見る。
    「髪も解いてこうして見ると二人共雰囲気似てるっすね!」
    「長い付き合いのようで、お互いにまだまだ知らない事はありそうですね」
     清美は微笑んだ。その隣で菜々乃ぼーっとした口調で呟いた。
    「背中も流さないと…」
    「お背中流しましょうか?」
    「ん? 背中流しっこします?」
     夕月とアナスタシアが同時に声をかける。彼女達の長湯はまだ続きそうだ。彼女達と入れ違いに湯船に向かうのは【くろかみーず(仮)】の三人である。湯船に三人並んで浸かる。
    「はふぅ、きもちいいですねぇ」
    「そうですねぇ…温泉はいつでも大好きですけど、これからの季節は特に格別です」
    「こうして、多人数で一緒にのんびり過ごせるのも魅力ですね」
     華月と菊乃、葎の三人は身を寄せつつ伸ばしつつじっくりと湯を楽しんでいた。その中でも頭二つ三つ程小さい華月が残る二人の姿を見る。
    「私も大きくなれるでしょうか?」
     問われた二人は顔を見合わせてから彼女に応えを返す。
    「華月ちゃんなら、きっと私たちよりも素敵なお姉さんになりますよ。ね、葎さん?」
    「間違いなく、素敵な乙女になられますよ。健やかに育ってくださいませね…」
     彼女らの仲はより深くなっていくようであった。
    「…」
     ふっと、思鶴は息を吐いた。それが辺りの熱気に寄るものなのか、それとも少しばかりそれを冷ますためのものかは分からないけれど。何気なく彼女の視線は誘ってくれたクロエの姿を探す。クロエの隣には数人の人間が湯船に浸かっていた。
    「421、422…」
     多くの数を数えているのは緋鳥である、数え終わるまで十分程。湯あたりしなければいいのだけれど。
    「戦闘支援を受けるためだけに学園に来たのだけれど…こういう誘いがあるとは思いもしなかった」
    「戦ってばかりだと人間らしさが…っていうのもね」
     明日香の疑問にクロエはだけじゃないけどと返す。
    「戦闘の後の疲れを癒やしたりするのもかしら? 傷が残らないか心配だものね」
     歴戦のアリスはそう口を開く。
    「体よりも頭を使うエクスブレインなら、温泉より甘いものの方がいいのかしら?」
    「どうなんだろう。みんなに説明してる時はそうかも」
     二人のやり取りを聞いて明日香は改めてクロエに礼をする。
    「クロエ、ありがとう」
     湯上がりに温泉まんじゅうでも渡そうと考えながら。
    「もうそろそろ1年、過ぎちゃうのよね」
    「本当、色々あった一年でしたよね。大変な事も多かったけれど、今になればどれもいい思い出です」
     樹と彩歌は湯船に足を踏み入れながら話し込む。緩やかな空気が気兼ねなく話をする雰囲気を作っているのはここも同じらしい。もっとも樹の視線は彩歌の首元に時折向られていたのだけれど。
    「今年のクリスマス、昼間に時間が取れたらちょっと何かができるといいんだけれど…どう?」
    「大歓迎だよ。…クリスマス以降に関しても私、楽しみにしてますからっ」
     彩歌に返された樹は年末の事に思い至り、頬を紅潮させて湯船に沈んでいく。そんな彼女を彩歌は微笑ましく見つめていた。
    「そういえば、なつみとどっか行くのも久々だねえ」
     智はかたわらの友達に語りかける。視線は二人揃って色づいた山々の方に向けられている。視線はそちらに向けられたままこの後の事などを話していると突如彼女の身が強張る。
    「ってこらなつみ! アンタどこ触ろうとして…ちょ、やめなさいったら、もう!」
     彼女達の声が秋天に響く。どことなく悔しそうな智の表情は誰に見えただろう。
    「ん~気持ち良いです♪」
     りんごの言葉の裏腹に漂う緊張感。【花園】では欲望と羨望と愛情等に彩られた戦いの幕が開けようとしていた。
    「この面子で温泉とくれば…ふふ、やることは一つよねぇ♪」
     タシュラフェルの指先が妖しく畝る。そんな剣呑な状態であるとは露知らず、まず最初に無防備に動いたのはフェリシアとタバサの双子、髪を下ろせば見分けはつかない。タバサはフェリシアの手をとってりんごの前に出る。
    「って何してるの、タビー?」
    「どう、りんごさん? 見分けつくかなー」
     タバサは試すように言う。
    「さすがに双子は見分けつかないですね。でも」
    「きゃわー!?」
    「ひゃああっ!? いきなり揉まないで下さい!!」
     わしづかみ。りんごは何食わぬ顔で答えを言ってのける。
    「此方の1cm大きいほうがフェリシアさんですね?」
     見事当たったらしく双子は驚愕する。調子に乗り始めた彼女は次の獲物を探し始める。
    「さすがは花園の主でしょうか」
     瑞穂は関心する。その彼女の体を影にして小さな影がりんごへと近づいていく。
    「りんごねーちゃんも大きいよねー」
     気配を消していたのか、それとも背が低いゆえか。気付かれずにりんごの背後に回っていたみおがりんごを襲う。そしてみおは次々とターゲットを広げていく。
    「楽しそうですね、私も…」
     瑞穂もりんごを狙いに行ったところで気配を感じ振り返る。見ればタシュラフェルの指が迫るところだった。
    「残念。気持ちいい事してあげようと思ったのに」
    「…不意打ちは勘弁してください」
     【花園】を中心に巻き起こる戦い、それを止めようとするのはセカイ。
    「あ、あの、皆さん、温泉ではもう少しお静かに…」
    「きゃあっ!」
    「ひゃあっ!?」
     けれど彼女にも受難が待ち受ける、もっとも偶発的に佳奈美がつまずいてセカイの体が押し出されてしまっただけの話なのだけれど。……佳奈美が攻撃態勢に入っていたのは問うまい。結果りんごと接触し色々と揺れ動き、混乱は拡大していく。
     なおセカイの努力も空しく【花園】のメンバーは怒られました。公共の場では騒がないようにしましょう。

    ●男湯
    「聞こえる、聞こえるよ」
     途流が耳を澄ます。隣の女湯から聞こえる嬌声、きっとなんかドリームな事が起きているに違いない。妄想じゃなくて天然物だよ、やったね。
     【純潔のフィラルジア】の男三人は山よりも険しいと言われる男湯と女湯を分ける壁の前にいた。
    「…匡先輩、なぜか大学生になれた…じゃない、立派な大学生の匡先輩なら、どうやったらラッキーすけべを手に入れられるか解りますか? 秋葉原とかで売ってます?」
     そんなものは取引されてない、清純よ。
    「ラッキースケベなら、巣鴨にいっぱい売ってたよ! 赤いパンツといっしょに!」
     還暦のお祝いにもついてこない。匡よ。こんなんだから純潔(意味深)なのでは。耳元で行われる会話に途流はキレる。
    「るせー! 今忙しいから匡先輩、こいつちょっと肩車でもしてやってください!」
    「よしわかった、今回はトクベツに、立派な大学生の僕が肩車してあげるね!」
    「いざ逝かん…じゃない征かん、萌えの大海へ!! …って、えっ、アッーー!!」
     その時不思議なことが起こった。なぜか彼らの足元に都合よく濡れた石鹸が。脆くも男の塔は崩れ去る。
    「…いやはや、普段の疲れを温泉で癒す…。これこそ、究極の贅沢というものではないでしょうかねえ…」
     流希の言は尤もである。涼やかに抜ける風が火照った頬を冷ましていく。落ち着いた彼から離れたところでポンパドールが賑やかに喋っている。
    「こないださあ、ホント酷かった!」
    「…ああ」
     ポンパドールの言う言葉はニコにとってはもうさんざん聞いた話である。温泉の暖かさと、涼やかな風、そして程よい雑音と化した言葉によってニコの瞼はどんどんと重くなっていく。要するに嫌な予感のせいで温泉に入れなかったという話である。
    「…って寝てる? まあいっか」
     一通りしゃべり終えるとポンパドールは空を見上げる。
    「…あ、飽きてきたんだけどもうそろそろ出ない?」
     ニコはくわっと目を見開いた。
    「…ちょっとまて、飽きただと? 入ってからまだ5分も経っていないんじゃないのか、喋るだけ喋って上がるのか、本当に温泉に入りたかったのか?」
     ニコのスイッチが何か入ったらしい。今度語るのは彼の番である。彼らとは打って変わって言葉少なにじっくりと温泉を楽しんでいるのはジャックと羅生丸。普段から激戦に身をやつしている二人である、温泉の暴力的にも思える心地よさにその身を任せている。
    「…流石だな」
     羅生丸がジャックの体つきを見て一言。
    「気に入ったのならまた共に温泉に入るとしよう。その時は二人きりが良いな」
     ジャックは静かに言葉を紡ぐ。彼らの間に多くの言葉は必要ないようだ。

    「や、やっぱり、身体見られるの、恥ずかしいです…」
     睦月の身体をギィが艶かしい視線で見遣る。
    「素敵なボディラインっすね…」
    「素敵だなんて、照れます…!」
     温泉の片隅で二人だけの世界を作るギィと睦月であった。

    「…お前に似てるな」
    「!?」
     ミカに言われたユキは唖然とした表情を浮かべる。比べられたのは黄色いアヒルさん。無論ユキは否定の言葉を並べるものの、ミカは面白がって意地悪くなじる。もっとも彼もそれなりの報いを受けているようで頬を抓んでいる。
    「…いへぇ」
     端正なはずの表情は今はそこにはない。辛うじて美形といえる眼差しがすっと遠くを見る。
    「こういうの幸せっていうんだよなァ」
     その言葉でかユキの手の力が緩み、その目も細くなる。
    「ふふ、そうだなー…」
     改めて二人はこの時間が幸せであるものだと感じ取る。今しばらく続いていく。

    ●広間
    「鏡花さんフルーツ牛乳どうぞ♪」
    「ありがとう。…火照った体に効くわね」
     【花園】のメンバーは色々あってその多くが湯あたりなどでぐでーっとしていた。なお鏡花は離れた位置から見ていたのでダメージは無かった模様である。
    「藍さんもどうぞ♪」
    「やっぱり温泉といったらこれですよね…」
     麻美はのぼせているメンバーに次々とフルーツ牛乳を渡していく。冷えた飲み物が藍の体を冷ましていく。無論戦いで起きた熱も。もっとも元気のない者の中には、それだけが原因ではないもの達がいるようだ。
    「…なんでみんなあんなに女の子らしいの…」
    「…あるだけマシですよ…。私なんか…」
    「皆さん、美しい身体をしてらして、私はうらやましい限りですわ……」
     真昼と莉宇雨と薫子はよく分からないところでダメージを受けていた。真昼は戦場に飛び込んでいってスペック差に負けて敗退。莉宇雨も積極的ではなかったものの更に大きな差を感じ凹む。薫子に至っては見ているだけで白旗を上げた。とりあえず、生きろ。
    「あったかい温泉にはいった後はこれがお約束だよね~~♪♪」
     エクルが自販機でイチゴ牛乳を購入しその場で開けて飲みながら歩く。行く先には展望の開けた広間。外のよく見える場所に腰を下ろして、エクルは氷砂糖をイチゴ牛乳で流し込む。彼と同じ様に自販機で買ったものを広げている者達がいた。
    「これで人数分か?」
     【あるちざん】の昴は人数分の牛乳を中心に置く。
    「ところで、昴。こちらを覗かなかっただろうな」
    「最初からそのつもりだったんでしょう!」
    「してない。俺も命は惜しい」
    「もぐもぐ」
     黒斗の言葉にリーファが乗って昴が否定し玉がアイスを食べる。
    「黒斗さん、ドレス着ましょう、ドレス! 最近イケメン化してるし!」
    「玉、「タマちゃん」と呼んでいいか?」
    「ああ、眺めいいね、ここ」
    「部長とか男性陣も来ればよかったのに」
     クラブと変わらず取り留めのない話を適当に。まるでいつもの日常のように彼らは時間を過ごす。
    「くぅ~…! やっぱり温泉はいいですなぁん…体も心もリラックス解れて心地よかったですは」
    「肩の凝りも若干ほぐれたような?」
     そこまで言ってから黒武と迦月は目配する。これ以上は互いに不幸になるだけと。
    「迦月さんも外道先輩も若さが足りていませんねー?」
     遥香がすさまじい勢いでその紳士協定を踏みにじった、ひどい。
    「まーこれが男子大学生と女子高校生の差でしょうか」
     どやぁ。脳裏に色々駆け巡る大学生二人、ぐっと何かを押しとどめて黒武はコーヒー牛乳を差し出す。
    「そんなことより! 温泉から出たらコーヒー牛乳を飲むもんしょ!」
    「大学生と高校生にどれほどの歳の差が、って言うか俺ら一つしか違わない」
     迦月がそう言いながらも温泉まんじゅうを渡す。あともう少し経てば冬が来て、彼女も大学生になる。来年は果たしてどんな四季が巡ってくるのだろうか。

    ●遊歩道
     菖蒲の攻撃力が上がった。隣の旭は周りの微妙に甘い空気を感じ取ってそう思った。先程まで冬が似合うよなーという感想はどこかに逃げた。
    「ところで、クリスマス予定ありますよね…今年も爆破しに行きますから…大丈夫、彼女さんは狙いませんよ~」
    「いやいや、そこはほら、知り合いのよしみで俺を狙うのもやめてくれないかな!?」
    「…リフレッシュしに来たのに、この敗北感はいったい…年長者なんですよ、学園で一番年上なのに…っく!」
    「まあ、ここは俺で我慢して下さい、恋人らしい事は出来ないけれど」

    「いいお湯でしたね…。…あの、どうして私を誘ってくださったのですか…?」
    「ん? なんでって、もちろん友達だからだよ?」
     緋月の問いかけに陽太が当然のように答える。その名の通り赤い緋月の頬がより赤みを帯びる。
    「そ、そうですね…! 友達ですから…!」
    「当たり前のこと過ぎてみんな言わないけれど、皆緋月さんのことを友達だって思ってるさ」
     にっこりと笑い、二人は雑談を交わしながら歩く。そして遊歩道の終わりで緋月が口を開く。
    「また、誘ってくださいますか…?」
    「もちろんさ! 約束だよ!」

    「人間タオルー♪」
    「うおっ、何しやがる!」
     わしゃわしゃと赤音の髪がユーヴェンスの胸元に迫る。彼は知らないだろう、カフェオレでその攻撃が一時先延ばしされていた事を。
    (「同学年には見えねえな…」)
     脳裏に妹という単語が現れるがすぐに立ち消える。
    (「いや人懐っこい犬って感じだ」)
     ユーヴェンスは赤音の頭をくしゃりと撫でる。一瞬驚いた様子を彼女は見せるがすぐに大人しくなる。
    「わ、悪くないぞ」
    「…ったく、髪が滅茶苦茶じゃねえか…大人しくしてろよ」
     赤音の髪を整えながらユーヴェンスは口元を緩ませる。「悪くねェ」と。

     メイニーヒルトと武流は手をつなぎ歩いていた。メイニーヒルトの男湯にまで付いていく作戦はあっさり潰えていたりしていたのだが、武流には伝わっていない。と言うか武流も武流で掌の温もりでそれどころではない。
    「ほ、ほら、メイニー。星が綺麗だな」
    「うん」
     彼が間を持つための言葉を紡げば、彼女はその身を更に彼の元へと詰める。掌だけでは無く身体で彼女の体温を感じ取った武流の顔は紅葉よりも赤い。

    「本当に寒くなったね。その分星が綺麗に見えるから、冬の夜空は結構好きなんだ」
     アインと梗香は共に静かに歩いていた。時折彼女が話しかけるがアインはその言葉を聞く素振りをするだけ。その内に小さな曲がり角に差し掛かる。
    「Ich wurde gern verheiratet werden, wenn du das Studium abschliest.」
    「verheira…今何を? 結婚?!」
     アインは梗香から発せられるもう一度の言葉を答えない。秋風だけがその答えを知っている。

    「こうやってのんびり歩いていると、灼滅者やダークネスなどが全部夢に思えてくる」
     寂蓮の隣で射干は掌に降りた赤い葉を弄びながら言う。二人が歩くと共に赤と黄が舞い落ちていく。
    「普通の人間に戻りたいと思うこともあったが…灼滅者にならなければ、蓮さんには出会えなかったしな」
     彼女の言葉を聞いて寂蓮は開きかけた口を閉じる。そして風に負けじと枝から離れない紅葉を見上げる。
    「悩みもしたが…過去を含めた上で今の私達が成り立っている」
     寂蓮はそこで射干の顔を見る。
    「…俺も、これで良かったのだと。そう思えるようになった」
     緊張感に耐えかねたのか少し笑うようにして息を吐き、射干は改めて想いを言葉にする。
    「偉そうに語ってしまったが、要はあれだ…これからも、一緒にいてくれないか」
    「…言わずもがな。俺はもう決めているよ」
     お前と共に歩む、と。

     実りある秋が過ぎて、超えるべき冬が来る。そうやって時は過ぎていく。

    作者:西灰三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月4日
    難度:簡単
    参加:63人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 3
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