俺の張り手は大臀筋

    作者:二階堂壱子


    「頼もう。どなたか手合わせ願いたい」
     そう言って道場に現れたのは、身の丈2メートルを超える巨躯を誇る男だった。
     ここは武人の町――アンブレイカブル達が集い、特に事件を起こすこともなくひたすらに鍛錬を積んでいる。そのため、道場を流しのアンブレイカブルが訪れて手合わせを行うのも日常茶飯事……のはずなのだが。
    「断る」
    「私も遠慮させてもらおう」
    「申し訳ないが、他を当たってくれ」
    「な、何故!?」
     道場で稽古していたアンブレイカブル達に軒並み断られ、男は全身の筋肉を強張らせて驚愕した。そんな姿に、師範格のアンブレイカブルが呆れ声で言う。
    「そもそも、おぬしが合わせたいのは手ではなかろう」
    「ぬぅッ!? た、たしかに、私が追求しているのは尻相撲の道。技はすべて尻から繰り出すことになるが……しかし、相手が突き出すのが拳だろうが蹴りだろうが私は構わぬ! 無論、純然たる尻相撲での勝負は願ってもないところが……」
    「おぬしの考え如何ではなく、我等の気分の問題なのだ。尻を突き出す大男を前に、戦う気にはなれぬ」
    「ぬうぅッ……!!」
     尻相撲を極めんとするアンブレイカブル、その名はコダマ。こうして彼は、今日も仕合相手に恵まれることなく、寂しくシャドー尻相撲に励むことになるのだった。


    「皆さん、揃ってますね? では、説明を始めます」
     教室に集められた灼滅者達を、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は今日もふんわりとした微笑で迎えた。
    「獄魔大将となったシン・ライリーに集められたアンブレイカブル達のいる『武人の町』のお話はもう聞いているでしょうか。今回、皆さんには出稽古として武人の町に向かっていただきます」
     事の起こりは先日。この町に潜入した灼滅者達が、有力なアンブレイカブルであるケツァールマスクと接触し、町中で行われているアンブレイカブル達の稽古に参加して良いというお墨付きをもらったのだ。つまり、稽古を名目とすれば、アンブレイカブルが集う町に自由に出入りできるということになる。
    「具体的には、稽古としてアンブレイカブルと模擬戦を行い、その後に情報収集をしていただくことになります。アンブレイカブルとの交流を試みてもいいでしょうし、それ以外のことを試すのもいいと思います。町に入ってから24時間以内を目処にして、それまでに得られた情報を持って学園に戻るようにしてください」
     稽古に来た旨を伝えて模擬戦を行った後ならば、比較的自由に行動することができるようだ。ただ、シン・ライリーは町にはいないようなので、彼に接触することは不可能である。
    「模擬戦の相手はコダマという名のアンブレイカブルです。彼独自の戦闘スタイルのせいか、仕合相手がなかなか見つからないようですので、模擬戦を行うのは難しくないでしょう。稽古としての模擬戦である以上、コダマが皆さんに必要以上に危害を加えるようなことはしませんので安心してくださいね。ただ、皆さんとしても、コダマを灼滅したり、何らかの理由で完全に敵対するようなことは避けてください」
     獄魔覇獄がどのような戦いになるのかは不明だが、対戦相手の情報があることは有利に働くだろう。また、アンブレイカブル達と友好的な関係を築くことができれば、ある程度の共闘も可能になるかもしれない。殺傷沙汰をはじめとするトラブルを避けつつ、有益な情報を学園に持ち帰ることができればベストだろう。
    「今のところ、武人の町のアンブレイカブル達が事件を起こすようなことはないようですが、ダークネスであることに変わりはありません。行動は慎重に……でも、緊張しすぎずに行ってきてくださいね」
     無事のお帰りを待っています、と締めくくり、姫子はふたたび微笑むのだった。


    参加者
    稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)
    小圷・くるみ(星型の賽・d01697)
    灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)
    ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)
    三条・美潮(大学生サウンドソルジャー・d03943)
    幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)
    テレシー・フォリナー(第三の傍観者・d10905)
    狼久保・惟元(白の守人・d27459)

    ■リプレイ


    「ふゃ~……ホントに強そうな人いっぱいだね~」
     周囲を見回しながら、幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)が感嘆の声を漏らす。ここは武人の町――アンブレイカブルが一般人と共存しているほか、最近になって灼滅者も出稽古として訪れるようになった町だ。
     小圷・くるみ(星型の賽・d01697)は、地図と周囲を見比べながらおもむろに呟く。
    「この辺でコダマさんに接触できるはずなのよね」
     手にした地図には早くも幾つかの印が刻まれている。穏やかに見える町並みの中、彼女なりに気になるポイントを早くも見つけているらしい。
    「あちらの公園にいらっしゃるのではないでしょうか」
     ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)が、行く手の一点を指す。近隣住民らしき一般人のほか、トレーニング中のアンブレイカブルも数人いるが、公園内も穏やかな時間が流れているようだ。
    「アンブレイカブルと人間が共存してる環境ですか……DMZみたいなものですし、慎重に行動しないといけませんね」
     油断なく周囲を見回し、灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)が言う。が――
    「うおおお! 何だアレ!?」
     唐突にテレシー・フォリナー(第三の傍観者・d10905)が素っ頓狂な声を上げ、公園の奥を指差した。慎重とは何だったのか。
     しかし、その行動も無理からぬことだったのかもしれない。彼女の指す先には、異様な速さで尻を左右に突き出しつつ、猛スピードで後ろ走りをしているアンブレイカブル――すなわち、コダマの姿があった。
    「……あんな感じで来られたら他の武人にとっちゃキツイわな」
     見慣れない特訓風景に、三条・美潮(大学生サウンドソルジャー・d03943)がポツリと呟く。猛然と突進してくる強固な尻――字面だけでも悪夢めいている。
     が、コダマの表情を見る限り、彼は真剣そのものだった。遠目にも汗の光る横顔を見据えながら、稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)は一歩踏み出す。
    「ネタとして見られるファイトスタイル、か……私自身、プロレスに携わる身として八百長だのやらせだのと無理解に歯噛みすることが多いから、他人事じゃないわ。力量では及ばないけど、せめて彼の戦いを真摯に受け止めるわよ」
    「戦いに身を置く者として、様々なスタイルを学ぶのも大切なことです」
     狼久保・惟元(白の守人・d27459)も頷き、灼滅者達はコダマの元へと向かった。


    「……それは願ってもない話だ。その挑戦、ありがたく受けさせて頂く!」
     灼滅者達の挨拶と説明を受けたコダマは姿勢を正し、頭を下げる。
    「よーしっ、トップバッターは桃だよっ! よろしくお願いします!」
     元気いっぱいの声と共に飛び出した桃琴も頭を下げた。
    「お尻相撲って珍しいね! せっかくだから桃もお尻で勝負するよ!」
    「その意気やよし! 尻相撲の素晴らしさ、身を以って知ってもらおう」
     戦いやすい場所に移動して、2人はさっそく尻で向き合う。が、うっかりすると桃琴の後頭部にコダマの尻がヒットしかねない身長差だ。公園内でのやり取りを見聞きした者達も興味を引かれたらしく、数人が遠巻きに見守っている。
    「掛かってこい!」
    「それじゃ、行っくよ~……えいっ!」
    「ぬぉッ!?」
     桃琴の初手、まさかのジャッジメントレイ。さすがに予想外だったのか、逆光の中でコダマが驚愕の表情を浮かべる。輝きを放つ桃琴ヒップにギャラリーもどよめいた。
    「くっ……こちらも行くぞ!」
     そう言うが早いが、コダマの重心がフッと落ちた。次の瞬間――
    「ふぇっ!?」
     下からの衝撃を受け、桃琴が宙を舞う。コダマはといえば体前屈の姿勢を取り、尻を天に向けていた。尻を地面寸前まで落としてから一気に突き上げたのだ。あえなく地面に叩き付けられる桃琴に、コダマが言う。
    「すまん。仕合から離れて久しいゆえ加減を間違えた……強すぎたか?」
    「ん……大丈夫! お手合わせ、ありがとうございましたっ!」
     痛みを堪えて立ち上がり、しっかりと礼を述べる桃琴。幼いながらも健気な姿に、ギャラリー陣はほっこりと和んだのだった。
    「やはり、真っ直ぐにぶつかれば力負けしますね。ならば……」
     桃琴とコダマの対決を冷静に見つめていた惟元が、小さく頷いてから進み出る。尻相撲は初体験だが、既に策は頭にあるようだ。
    「よろしくお願いします。初手はそちらに」
    「ほう。ならば遠慮なく攻めさせてもらうぞ!」
     嬉々とした声と共にコダマが鋼鉄のごとき尻を打ち出したが、惟元は回避属性を活かして颯爽と躱す。そして間を置かずに重心を下げ、カウンターを仕掛けた。
    (「大きな体となれば重心も高くなる……その隙を狙わせて貰います」)
    「――甘い!」
     狙いを読んでいたかのようにコダマも重心を下げ、惟元の攻撃に余裕で耐える。さらに尻がぶつかった瞬間、器用に惟元の服の端を尻で挟み、そのまま投げ技へと持ち込んだ。カウンターを返され、惟元はバランスを崩してしまう。決着がつき、コダマが振り返った。
    「正攻法での勝負、嬉しく思う。筋は良かったぞ」
    「ありがとうございます。しかし、投げられるとは……勉強になりました」
     健闘と妙技を讃え合う惟元とコダマに、ギャラリーからは温かな拍手が送られた。
    「次は私よ。いざ、お尻相撲で勝負!」
     高らかに宣言したくるみがバトルオーラを展開すると、その迫力に圧されてギャラリーも期待にざわめく。当のくるみも、アンブレイカブルと一対一で戦えることに楽しみを隠せない様子だ。何しろ『閃光百裂尻』なる新技まで考案して臨んでいるのである。
    「フッ……こちらも少々本気を出させてもらうとしよう」
     コダマが嬉しそうに大臀筋を一層引き締めると、2人は背中合わせになって構えた。
    「行くわよ!」
    「来るがいい!」
     仕合開始と同時に、尻と尻が激しい応酬を繰り広げる。が、くるみには着実にダメージが蓄積されていくのに対し、コダマは精彩を欠くことがない。幾度目かのぶつかり合いの後、くるみがついに吹っ飛んだ。勝負あり、である。
    「負けたわ。さすがね」
     潔く負けを認めたくるみに向かって鷹揚に頷き、コダマも口を開く。
    「努力は認めよう。だが、大臀筋の鍛錬はまだ足りないようだな」
    「大臀筋を鍛えるっていう発想が無かったわ!」
     普通そうじゃね? と、ギャラリー陣が心の中でツッコんだのは言うまでもない。
    「次は自分ッス。ルール的には足の位置がずれると負け?」
    「うむ。スタンダードスタイルではそうなるな」
     片手を軽く上げて進み出た美潮にコダマが頷く。シンプルッスね、と相槌を打ちながら立会位置に入る美潮。
    (「2、3の尻合わせで片が付きそう……どれだけ耐えられるか? ポイントは相手の尻に合わせる躱し、だろうねぇ……まあ、出たとこ勝負、相手が満足するまで頑張るしかねぇッスよ」)
     肩の力を抜いているようにも見えるが、相手の土俵で戦う気構えはしっかりと持っているようだ。
    「行くぞ!」
    「うおっ、危ねっ!」
     仕合開始と同時に仕掛けられたコダマの攻撃を、美潮は間一髪で躱した。お返しとばかりに美潮も積極的に仕掛けていく。が、コダマが崩れる気配はない。
    「これならどうだ!?」
    「ぬぅッ!? 何事だ!?」
     幾度目かの攻防で尻の表面ではなく内部に衝撃が走り、コダマが目を見開いた。横目でチラリと確認するが外傷はない。
    「面妖な……ここは一気に片を付けさせてもらうぞ!」
     叫ぶと同時、美潮の尻に強烈な打撃が入り、ギャラリーが息を呑む。美潮自身も想像以上の強打を耐え切れずにバランスを崩し、勝負はついたのだった。


    「やはり仕合は良いものだ。さあ、次は誰だ!?」
     闘争心をたぎらせるコダマの声に、フォルケが進み出た。
    「私です。こちらの得意なスタイルで対戦して頂いてもよろしいですか?」
    「フリースタイルということだな。無論、受けて立つ!」
    「ありがとうございます。では」
     スレイヤーカードを解除したフォルケの姿に、ギャラリーからどよめきが起こった。重厚な装備に鈍く光る銃。平穏な町内では異質すぎる武装に、コダマは嬉しそうに口角を上げてから尻を向けた。仕合開始だ。
    「飛び道具との対戦は、それこそ久しい。存分に楽しませてもら――おうッ!?」
     高まる期待が隙に変わった瞬間を見逃さず、フォルケの影はコダマの足を絡め捕っていた。予想だにしなかった攻撃にコダマは堪らず転倒し、呆気なく決着がつく。
    「ぬぅッ! 私としたことが……」
    「すみません。手を抜いては失礼かと思いましたので、全力で行かせていただきました」
    「いや、お陰でいい薬になった。見事だったぞ」
     立ち上がろうとするコダマに手を貸すフォルケ。その様子を見守りつつ、発砲がなかったことにギャラリー陣は胸を撫で下ろした。
    「次は私達だ! 行くぜヴァン君!」
    「はい、テレシーさん。頑張りましょう。コダマさんも、よろしくお願いします」
     霊犬のザッシュを従えたテレシーと、穏やかな笑みを浮かべたヴァンが前に出る。眼鏡を外したヴァンが頭を下げると、その整った顔にギャラリーの女性陣が色めき立った。
    「面白い。今度はアルティメットスタイルというわけだな。しかし、もはや先のような遅れは取らんぞ!」
     別の意味で色めくコダマは体をくの字に曲げて地を蹴り、後ろ向きに跳躍した。まるで尻の魚雷。標的はテレシーだ。
    「さーぁこい! ケツこい!」
    「って、テレシーさん……ケツこいって、そんな」
     身長差も鑑みて顔面に尻が激突してしまうのではないかと心配げなヴァンをよそに、テレシー本人は威勢よく挑発を続ける。が――
    「ケツこい! ケツ……こえぇええ!!」
     尻が間近に迫ったところで途端に身を翻し、テレシーは咄嗟にザッシュを身代わりにした。コダマの尻の前にはあまりに小さなザッシュの体が鉄鋼拳(尻)を受けて宙を舞い、可哀想なほどに吹っ飛んでいく。
    「これで二対一!」
    「くっ、ザッシュの仇! その尻、3つに割ってやる!」
     積極的にザッシュを身代わりにしたはずのテレシーが鋭い影をコダマに伸ばし、ヴァンも間髪入れずに黒死斬を放つ。
    「見たことのない戦い方なので、どう攻めていいのか……少々攻めあぐねますね」
     テレシーとは対照的に冷静にコダマの動きを観察しながら隙を探すヴァン。油断を消したコダマの動きは速く、的確だ。しかし、2人もまた連携の取れた攻撃で渡り合う。戦局はしばし拮抗したが、やがてダークネスならではの体力が物を言いはじめた。
    「そろそろ終わらせるぞ!」
    「ケツこっち来んなああぁぁあ――!」
     今度こそテレシーが吹っ飛んだ。そして、攻撃直後の隙を狙ったヴァンを軽快なヒップワークで躱すと、コダマはカウンターを入れる。よろけたヴァンの膝が地面に着いた。勝負ありだ。
    「流石にお強いですね。手合わせありがとうございました」
    「こちらこそ礼を言おう。歯応えのある仕合だった」
     眼鏡を掛けて立ち上がるヴァンに、コダマが片手を差し出す。幾度も斬られてさすがに痛むのか、もう片方の手で尻をさするその姿に、本当に3つに割れてしまったのか気になるギャラリー陣だった。
    「最後は私――お尻を使った戦い方は尻相撲だけじゃないのよ!」
     そう言って進み出た晴香は、ピンクのスウェットを脱ぎ捨てた。愛用の真っ赤なリングコスチュームによるダイナマイトモードと晴香自身のダイナマイトボディに、ギャラリーの男性陣から歓声が上がった。
    「ほう、プロレスラーか」
    「ええ。この町ならプロレス用のリングもあるわよね? そこを借りて、リングの上で手合わせと行きたいわ」
    「プロレスラーとの仕合は私にとっても未知の領域……勉強させてもらおう。来るがいい」
     コダマの先導でリングへと場所を移し、2人は対峙した。ギャラリーの1人がゴングを鳴らすとコダマが地を蹴り、巨大な尻が晴香に迫る。が、当たる寸前に晴香がヒラリと身を躱すと、その尻を迎えたのはロープだった。
    「ぬッ!?」
     未知の感覚に一瞬の戸惑いを見せるコダマ。その隙を逃さず、ロープに跳ね返されるコダマめがけて晴香は後ろ向きに跳び、見事なヒップアタックを決めた。倒れることはなかったが、初めてのプロレス技にコダマは感慨深げに頷く。
    「なるほど……プロレスも奥が深そうだな」
    「ええ、深いわよ」
     頷き返した晴香は、その後も多彩な技でコダマを翻弄した。使うのも尻ばかりではない。その魅力的な胸を揺らしながらのフライングボディアタックが決まると、それまでの攻撃にも耐えていたコダマも堪らずマットに沈んだ。ゴングが高らかに打ち鳴らされ、決着を告げる。
    「ぬぅ……これがプロレスか。礼を言おう。いい経験になった」
    「こちらこそ、ありがとう」
     頭を下げるコダマに晴香も笑顔を返す。地力の差で及ばないと思っていただけに、勝利の喜びもひとしおだった。


     模擬戦の後はちゃんこ鍋を囲んでの交流会だ。コダマはもちろん、ここまで勝負の行方を見守っていたギャラリー陣も交え、会話にも花が咲く。
     尻相撲を選んだがゆえに普段は孤独なコダマだが、本来はお人好しのようだ。ヴァンには膨大なお土産情報を伝え、テレシーには尻の道を究める素晴らしさを説き、尻相撲振興のためのアドバイスを送る美潮とは真剣な表情で語り合う。しかし――
    「――私はこうやって色々話せるのは楽しいんですが、コダマさんは、灼滅者や一般人と過ごす時間ってどう感じられますか?」
    「無論、楽しい。が、戦いに勝る喜びが私の中にないことも事実だ」
     会話の合間を縫って問い掛けたフォルケに、コダマは実にアンブレイカブルらしい答えを返したのだった。
     やがて交流会もお開きとなり、各自の調査も終えた灼滅者達は揃って帰途に着く。が、情報収集の収穫は乏しかったようだ。
    「この町は特訓するのにいい場所、か……もっと別の理由があると思ったのだけど」
    「プロレス関係も目ぼしい情報はなかったわね。ケツァールマスクも不在みたいだし」
     交流後もコダマのトレーニングに同行していたくるみと、プロレス関係者について調査を試みた晴香は、揃って溜息をつく。フォルケも求めていた情報を得られず、浮かない顔だ。
    「まぁ、いいじゃねぇッスか。こうやって全員無事に帰れるワケだし」
    「そうですね。いい経験にもなったと思います」
    「うん! 桃も探検、楽しかったよ!」
     美潮の言葉に惟元が頷き、桃琴も明るく答えた。
     その傍らで、不意に呻り声が上がる。スマートフォンで撮影した町内の画像を確認していたヴァンが見やると、テレシーが苦悶の表情を浮かべていた。
    「うぅ、苦しい~……なんでこんなことに……」
    「……食べ過ぎではないでしょうか」
     言いながらスマートフォンを見せるヴァン。交流会後、飲食店で聞き込みついでに暴食していたテレシーの姿が、しっかりと液晶画面の端に映り込んでいた。

    作者:二階堂壱子 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月4日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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