移籍の報酬

    作者:天木一

    「998、999、1000!」
     河川敷に、ブンブンと風を切る音が響く。そこにはジャージ姿の男がバットを素振りする姿があった。
    「いやはや、素晴らしい! ナイスバッティングですな!」
     その男に向けてスーツ姿の中年の男が拍手をする。
    「ふぅ~、何か用か?」
     男は素振りを止めずに中年の男に問いかける。
    「ええ、実は貴方のその野球の才能を我が社で活かして欲しいと思いまして、スカウトに来たのです」
     素振りを止めて、男は首に巻いていたタオルで汗を拭う。
    「ほう、見る目はあるようだな。それで、報酬は何を貰えるんだ?」
     男は簡単には頷かんぞと、報酬を提示させる。
    「高校野球がお好きだそうですね。貴方の為に、高校球児を集めて野球チームを作りましょう!」
    「野球チーム……だと?」
     その言葉に思わず男の顔色が変わる。
    「そうです。貴方が鍛えるに足る少年達を集めましょう。貴方の特訓についていけるガッツある球児を育てたくはないですか」
    「はっはっはっ、いいよいいよ。ガッツ漲る報酬だ。そういう事なら是非とも協力しよう」
     最近の子供はすぐに弱音を吐くと、不満に思っていた男にとっては魅力的な提案だった。
    「では契約成立ということですな。それでは詳しい説明は移動してからにしましょう。よろしいですかな?」
    「ああ、構わん構わん。野球が楽しめるのならばどこにでも往こうじゃないか!」
     合意の証に握手をし、2人の男は河川敷から姿を消した。
     
    「最近、就職活動中の人々が闇堕ちする事件が多く起きてるけど、どうやら新たな動きがあるみたいなんだ」
     教室に集まった灼滅者を前に、能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が新たに起こる事件について説明を始める。
    「人事部長と呼ばれる強力な六六六人衆が、各地で六六六人衆をヘッドハンティングして配下に加えようと動いているらしいんだ」
     そしてその行動は成功し、放っておけば勢力が拡大していくだろう。
    「どうやら獄魔覇獄に関係しているみたいでね、このままだと強力なダークネス組織となってしまうんだよ。だからその前にみんなの力で阻止して欲しいんだ」
     今ならば立ち去る前に介入する事が出来る。
    「倒すべき敵は以前にも戦った事のある、六六六人衆の五九〇番、長野・晴夫。野球好きでバットやボールを武器に戦う相手だよ。それと人事部長は戦わずに撤退するから2人を同時に相手にする心配はないよ」
     人事部長は闖入者の始末を任せ、1人で去ってしまう。
    「場所は河川敷。平日のお昼過ぎだからね、人も少ないし戦うには適した場所だと思うよ」
     犬の散歩をしている人や、自転車に乗った人が近くを通るが数は多くない。人払いをすれば巻き込む心配もないだろう。
    「敵は指示を受けて戦うからね。負傷しても撤退はしないみたいなんだ。だから灼滅するチャンスでもあるよ」
     強敵だが、逃げないのなら倒し切れる可能性は十分にあるだろう。
    「敵勢力が拡大するのを黙って見ている訳にはいかないし、それに一度倒し損ねた相手だからね。この好機に倒してしまって欲しい。みんなならきっと出来ると信じてるよ」
     誠一郎の言葉に頷き、灼滅者達は急ぎ戦いの場へと向かうのだった。


    参加者
    文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)
    ミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)
    廣羽・杏理(フィリアカルヴァリエ・d16834)
    八重沢・桜(泡沫ブロッサム・d17551)
    アレックス・ダークチェリー(ヒットマン紳士・d19526)
    レナード・ノア(都忘れ・d21577)
    齋木・桃弥(星喰む夜叉・d22109)

    ■リプレイ

    ●スカウト
    「では契約成立ということですな」
     河川敷で握手するスーツとジャージの男。
    「六六六人衆のヘッドハンティングか……増えれば確実に此方の脅威になるだろう、早急に片を付けなければ」
     齋木・桃弥(星喰む夜叉・d22109)は確実に殺そうと観察する。
    「猫も杓子も獄魔覇獄だな」
     文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)は呆れたように息を吐く。
    「人事部長さんとやら、戦力集めに奔走してるとこ悪いが妨害させて貰うぜ」
     咲哉が声をかけると、男達は訝しげに振り返る。
    「やあ、全く迷惑なヘッドハンティングですね」
     スーツ姿の男を見て廣羽・杏理(フィリアカルヴァリエ・d16834)が顔をしかめた。
    「やたらめったら成功率高いし、相当な敏腕スカウトマンですよ、アレ」
    「妨害者ですか……」
     人事部長が灼滅者達を観察するように見渡した。
    「長野さん、まだ去るのは早いです……」
     小さな声で八重沢・桜(泡沫ブロッサム・d17551)が呼びかける。
    「その熱血指導……わたしたちにも是非していただきたいものです……」
    「ん? なんだって? もっと腹から声を出す! 用件ははっきり大きな声で!」
     桜の声を打ち消すほどの声で長野が怒鳴る。
    「ええと、お取込み中すみませんが、高校球児の前にボクらにご指導いただけますか?」
     ミカ・ルポネン(暖冬の雷光・d14951)が礼儀正しくぺこりと頭を下げて話しかける。
    「ほう! 今時の子供にしては礼節を弁えているな、見込みがある! よしっ! きっちり鍛えてやろう!」
     清々しい笑顔で長野がバットを構えた。
    「どうやら貴方へのお客さんのようですね、ではここで彼等を始末してください。入社始めの肩慣らしにはもってこいでしょう? 私は忙しいのでこれで失礼しますね」
     人事部長が指示して立ち去る。
    「ク、怨敵二人を目にしながら、口惜しい……が、力及ばぬならば仕方なし」
     手を出したくなるのを我慢した西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)は、殺気を周囲に放ちながら怨念に満ちた視線を長野に向ける。
    「さて、今回の仕事は……妨害工作か。いいだろう、汚れ仕事をしようじゃないか」
     アレックス・ダークチェリー(ヒットマン紳士・d19526)はそう呟きながら、ガンナイフを構える。
    「残念だが野球はよく分かんねぇんでさ、こっちで頼むわ」
     周囲の音が漏れぬよう結界を張ったレナード・ノア(都忘れ・d21577)は、極彩に輝くオーラを拳に纏わせる。
    「野球の面白さをたっぷりと叩き込んでやる! それではトレーニング開始ィ!」
     河川敷に響く大音量で叫んだ。

    ●熱血
    「人事部長さんはお帰りだ。俺達を倒せるかどうかもまた、実質的に採用試験を兼ねてるのかね」
     人事部長が去るのを見送り、咲哉が残った男に向き合う。
    「だったら長野晴夫、お前は不採用だぜ。俺達がこの場でキッチリ倒させて貰うからな」
     鞘に手を掛け一気に間合いに踏み込むと、鯉口を切り刀を鞘走らせる。迎撃に振り抜かれるバットを屈んで避けながら、撫でるよう左脚を斬り裂いた。
    「クク……もう一人の分も存分に味わって貰うぞ、血と苦痛の味をな! ハハハハハ!」
     引き攣るような笑みを浮かべた織久が赤黒い剣を抜き放つ。刀身が鞭のようにしなって渦を巻き、縦横無尽に長野を傷つけていく。
    「俺の動体視力をもってすれば!」
     長野はダイビングキャッチのように跳び逃れる。
    「やぁ、ベースボールマン。殺しにきたよ」
     野球のボールを手の上で遊ばせるアレックスが、キャッチボールするようにボールを投げた。長野は反射的にキャッチする。その隙に間合いを詰め、ガンナイフで右脚を斬る。
    「ほうほう、なかなかのスピードだ、1番ショートだな。どれキャッチしてみろ!」
     長野は能力を見極めるように目を細め、ボールを打ってノックしてくる。その打球をミカが剣で弾いた。
    「ルミ、行くよ!」
     ボールを弾きながら接近すると、ミカは剣を振り下ろす。だがその刃はバットに阻まれた。そこへ白い霊犬のルミが駆け抜け、口に咥えた刀で長野の脇腹を斬った。
    「いいよいいよ、でもボールは後ろではなく前に弾け! そうすればセカンドを守れる!」
     ミカとルミにノックの打球を連続で撃ち込む。そこへ流星のように跳躍した杏理が、銀の甲冑を装着した両脚で蹴った。長野は衝撃に勢いよく草むらの中へと倒れ込む。
    「4番で甲子園に行ったって、前の報告書で見たけど、じゃあ、元々は結構才能溢れる選手だったってことかな……」
     そこまで考えて杏理は首を傾げる。
    「あれ、プロには行かなかったの?」
    「ふんっダークネスとなった俺に、プロ野球の世界は小さすぎたのだ!」
     起き上がった長野は唾を飛ばしながら言い放ち、杏理に向けてボールを打つ。杏理は右目を光らせ軌道を読んで身を躱した。
    「部員さんが貴方についていかないのも……力量不足だからですよね……話も聞かないですし……」
     桜は腕を鬼の如く変化させて殴りつけた。拳が顔を捉え吹き飛ばす。
    「ごはっナイスパワー! そうだよ、それだ! 声は小さいがパワーは十分だ!」
     鼻血を流しながらも桜を褒める。そして幾つものボールを宙に放り連続ノックを始める。
    「そらそらしっかり! 次は守備練だ!」
    「野球はルールが難しくてどうも苦手だな。その分戦いはいいよな。生きるか死ぬか。単純で」
     レナードは笑みを浮かべながら前に出ると、飛び交うボールの前に盾を拡大して障壁を張る。
    「それにしても……何とも暑苦しい輩だな。その熱を少し下げよう」
     盾を壁にして攻撃を逃れながら桃弥は槍を振るう。飛んだ氷柱が長野の腕を凍らせた。
    「野球が好きなんだろ? だったらキャッチしてみろよ」
     咲哉が魔力を宿して刀を振るうと放たれた弾丸が襲い掛かる。
    「この程度の送球なら、目を瞑ってもキャッチできるぞ! スローイングとはこうするんだ!」
     長野は弾丸に向けてボールをぶつけて弾き飛ばした。続けてボールを投げる。その射線を遮るようにレナードが割り込み、ボールを盾で弾いた。
    「次はこっちの番だ」
     盾を構えたまま反対の手に光の剣を構えると、長野がバットのスイングに切り替える。レナードは盾でバットを逸らし剣で腹を斬りつける。
    「その足腰の強さ、どうだキャッチャーをやってみないか?」
     長野がフルスイングする。レナードは盾で受けるが押し切られ、体が勢いよく宙を飛ぶ。
    「どうしたのガッツを見せろ! ガッツがあれば今の打撃にだって耐えられるよ!」
    「ならこれにも耐えてみろ……!」
     素早く背後から忍び寄った織久が大鎌を振るい、背中に赤い線を奔らせる。すると長野はバットを担ぐように構えを変えた。
    「いいスイングだ。スイングは鋭く! 君のように人を殺す気持ちで振るうのが大事だ!」
     バットを振り抜き、咄嗟に大鎌の柄で防いだ織久の体を吹き飛ばす。
    「スポーツで道具を大切にしない人は一流選手にはなれないって聞くんだけど、それを殺しに使うなんてアウトすぎるんじゃないかな……」
     背後からミカは腕に注射器を突き刺す。エネルギーを吸い上げ、自らの受けた傷を癒していく。
    「バカ者! 薬品は厳禁だ! ドーピングをしたら出場停止になるぞ!」
     怒鳴りつけながら長野がバットを振り回してミカの体を弾き飛ばす。その体を跳躍したルミが咥えて受け止めた。
    「まあ何にせよ、昔の全てを守備・他人の所為にしてる時点で良いコーチになれるとは思えないんだけどね」
     敵の動きを冷静に観察していた杏理は、スイングの隙をみて羽根ペンを突く。脇腹に刺すと傷口を拡げるように捻じり込む。
    「そんな甘い考えでは甲子園にはいけんぞ! チームワークとは全員が力を発揮し補い合うことにある! 下手なら上手くなるよう努力するしかないのだ!」
     一喝した長野は刺されたままバットをスイングする。杏理は強打される前にペンを手放して距離を取った。
    「ご当地怪人さんといい、熱情を向ける方向が自己中なのです……わたしが、ご当地の愛情で、叩きなおします……!」
     桜はスライディングするように地面すれすれを跳んで長野の足を刈り取る。
    「いいスライディングだ! その調子なら甲子園だって夢じゃないぞ!」
     バランスを崩したところへ、アレックスがランナーにタッチするようにガンナイフで脚を斬りつけた。
    「タッチアウトだ。どうした野球経験者とはそんなものなのか?」
    「俺に指導する気か? 十年早い!」
     長野は怯むことなくバットを振る。直撃する前にレナードが腕を差し込んで盾で受け止めた。
    「ナイスキャッチ! いいぞいいぞ! もっと野球の才能を俺に見せろ!」
    「っ……これが野球なのか?」
     盾の上から何度も何度もスイングを繰り返し、衝撃でレナードの腕が折れる。それでも盾を構えたまま攻撃を受け止めた。
    「何も根性論だけで押し切れるとは限らぬのだよ」
     桃弥が縛霊手から光を放つと、レナードの折れた腕が繋がる。

    ●野球
    「野球ってのはチーム戦だろ? お前の好きなガッツや粘り強さだって、仲間の信頼と支えがあってこそ活かされるもんだ」
     死角から接近した咲哉が刀を振り下ろす。袈裟斬りに長野の背中を斬りつけた。
    「だからこそだ、辛いトレーニングに耐えてこそ、信頼が芽生えるんだ! 楽をする奴を誰が信頼するんだ!」
     堂々と胸を張って言い張り、長野はボールを打つ。
    「いいか、無理だと思ったところが本当のスタートなのだ! そこからどれだけガッツを出せるかでその人間の真価が決まる!」
    「なるほど……じゃなかった!」
     思わず納得しそうになったミカは首を振って駆け出すと、飛んでくるボールをルミが防ぐ間に剣を振り抜く。防ごうと構えるバットを刃は素通りして長野の体を通り抜けた。非物質となった刃が肉体ではなく霊魂を傷つけたのだ。
    「そこを動くな」
     牽制するようにクイックモーションでアレックスが魔力の弾丸を撃ち込む。
    「クソッ、この俺が牽制球に当たるだと?」
     弾丸を食らい傷口から痺れが奔って長野の動きが鈍った。
    「クク……所詮は口だけか」
     織久が口元に冷笑を浮かべた。
    「なんだその薄ら笑いは! かかって来い! その性根を真っ直ぐに叩きなおしてやる!」
    「クカッ……ならばこちらはその性根を斬り刻んでくれる」
     バットを構える長野を、正面から向き合う織久が哂う。そして剣を振るうと、それに対して長野もバットを振り抜く。だがバットは空を切った。刃はしなって伸びると、蛇のように長野の背後に回って背中を斬りつけた。
    「変化球だと……真っ向勝負ならストレートを投げるのが男気だろう!」
    「わたしにも……バッティング出来ているでしょうか……!」
     桜が槍を構え横薙ぎにフルスイングした。それを長野はバットで受け止めるが、勢いを殺せずに飛んだ体が錐揉みして地面に墜落した。
    「げふっごほっ……そうだ、そのスイングだ、バットのヘッドを下げないように気をつけろ! どうだ、うちで4番を打ってみないか?」
     起き上がった長野は嬉しそうに桜を勧誘する。
    「夢見んのも大概にしろ、あんたに監督なんて無理だ」
     言葉を投げかけてレナードが気を引く。
    「この野球理論とトレーニングの素晴らしさが分からないとはな! だが安心しろ体に教え込んでやる。まずは千本ノックだ!」
     無数のボールを高く放り投げ、連続ノックで打ち込んでくるのをレナードは盾で捌くが、数が多く仲間達が被弾していく。
    「仲間のコンディションを万全に整えるのは僕の役目だ」
     桃弥の周囲に風が巻き起こり、仲間を包み込む。風が吹き抜けると傷が癒されていた。
    「努力しか言わないんじゃ、今の子供は育てられないと思うね」
     死角から加速した杏理が炎を纏った蹴りで後頭部を打ち抜く。
    「ゆとり教育が原因か!?」
    「問題は選手じゃなくあんただろ」
     レナードは突っ込むと迫るバットを盾で防ぎ、右拳を脇腹に打ちこんだ。肋骨を砕く感触、だがバットを受けた腕も盾ごと砕かれた。
    「そもそも選手の命すら大事にできないお前なんかに、信頼で結ばれた強いチームを育てられる訳がないんだよ。もういい加減諦めな」
     ボールを刀で受け流し、踏み込んだ咲哉は轟音と共に迫るバットを姿勢を低くして逃れ、そのまま刀を突く。切っ先が長野の太股を貫いた。
    「燃えてきた燃えてきたよ! 逆境こそが野球の醍醐味っ、さあここから逆転といこうか!」
    「いいや、貴様はここで終わりだ……そのまま燃え尽きろ」
     織久が黒い大鎌を振りかぶる。刃が血色の炎に覆われ、振り下ろされた凶刃が体を焼く。
    「よーし! 次はボクから行くぞっ……て冷静にならなくっちゃね」
     相手の熱血指導に乗せられてしまいそうになるミカの袖を、ルミが咥えて引っ張り正気に戻す。
    「うん、一緒に左右からしかけよう!」
     ミカとルミは同時に駆け出し、剣と刀で左右から挟撃を仕掛ける。刀をバットで防ぐと、反対からミカが剣を肩に突き立てた。
    「そろそろ終わりかな、ゲームセットといこうか」
     杏理が跳躍し、振り抜かれるバットを足裏で蹴って衝撃を相殺する。
    「ヒャアアアアッ!」
    「折角だから僕も御前の特訓とやらに付き合っても良い……が、此方にやられるつもりは無いのでね」
     アレックスがスライディングで長野の脚を蹴り、同時に桃弥は跳躍して飛び蹴りで胸を打った。バランスを崩し倒れたところへアレックスがガンナイフを突き立てる。
    「鬼神変は……キャッチャーでしょうか……」
     ボールを投げるように、桜は巨大な拳を叩き付けた。防ごうとしたバットをへし折り、胸が拳の形に陥没して仰向けに倒れた。

    ●シーズンオフ
    「バカな……自分のチームが持てるはずだったのに……」
     口から血を吐き、そのまま息絶えた。
    「運が悪かったと思うんだな」
     銃を仕舞いアレックスが呟く。
    「ク、ククク……怨敵を討ち取った。もう一人もいずれ送ってやろう」
     哄笑を隠すように織久は俯いて顔を隠した。
    「ダークネスになっても野球に未練があったんでしょうね」
    「本当に……野球が好きだったのでしょうね……自分しか見えてなくて……可哀想な人です……」
     杏理が消えゆく男は無表情のまま見下ろし、ダークネスにならなければどんな運命を辿ったのかと思い、桜は暫し目を閉じた。
    「そもそも六六六人衆の企業が用意するチームとか、どう考えても碌なもんじゃないだろ」
     咲哉は甘い勧誘に碌なものはないと言い捨てた。
    「あれが普通の野球じゃないよね?」
     普段スポーツなどしないミカの疑問にルミがもちろん違うと顔を振った。
    「その熱意だけは本物だ」
     変貌しても熱中できる物がある事をレナードは羨ましく思った。
    「それにしても人事部長とやらの動向が気になるが……まずは傷を癒してからだ」
     桃弥が砕けたレナードの腕の治療を始める。
     河川敷に冷たい冬の風が吹き込む。そろそろスポーツの秋は終わりを告げ、寒い冬がやってこようとしていた。

    作者:天木一 重傷:レナード・ノア(夜行・d21577) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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