テリトリー・ルイン=嗤う蜘蛛の望み

    作者:藤野キワミ

    「こんにちは、水島・テイ子さん」
     俄かにこだました男の声に、心底驚いた。
     素早く短刀を抜き、緊張を走らせる。
     いきなり名を呼ばれた、誰の気配も感じなかった、そもそもこんな地下水道へ来る者など滅多にいない。
     眼光鋭く闇を睨み据えて、いまだ感じない不可解な男の位置を探る。
     だが闇の中で気配が動くことはない。
     しかしテイ子は、この状況を至極全うに受け取って飲み込んで理解して覚悟を決めた。
     殺さなければ殺される。殺される前に殺せ。
     ぎゅっと短刀の柄を握り締め、感触を確かめる。多くの人間の血を啜ってきた相棒だ。今日このときもテイ子に最高に甘美な勝利をもたらしてくれるだろう。
    「そう怖い顔をしないで、今日はあなたにとっていい話を持ってきました」
     だがテイ子の自信を根こそぎ奪うように、男の声が背後から聞こえた。先ほどは前方から聞こえてきたというのに、いつの間に背後に回りこんだというのか。
     男は手にランタンを下げ、テイ子を照らし出す。至近距離で薄く笑みを浮かべて男は、
    「別にあなたの命を奪おうなんて思っていませんよ」
    「アタシを殺しに来たわけじゃないの?」
    「とんでもない。さあ、そのナイフをしまって、まずは話を聞いて下さい」
     テイ子は訝りながらも剣先を下げた。落ち着いた声音で彼は順序だてて話をする。
     彼は確かにテイ子にとって『とてもおいしい話』をしてくれた。
    「興味をもっていただいて嬉しいですよ、水島さん」
    「アタシもよ、人事部長さん。こんな面白くって楽しい話、乗らなきゃ損でしょう!」
     獄魔覇獄に参加すれば、存分に殺し血を浴びることができる。
     『人事部長』と呼ばれる六六六人衆はそう確約して、テイ子の肩をポンと叩いて、
    「では行きましょうか」
     彼に促されるまま、テイ子は歩き出した。


     エクスブレインの少年は、集まった灼滅者たちの顔を見て、「さて話そうか」と資料をめくった。
     就職活動中の者が闇堕ちする事件が多発しているが、それに関連して厄介な事件が起き始めた。
     『人事部長』と呼ばれる強力な六六六人衆が現れて、各地で猛威を振るう六六六人衆をヘッドハンティングをして配下に加えようとしている。
    「こいつはどうやら獄魔覇獄に関係しているようで、このヘッドハンティングを見過ごせば、強力なダークネスの組織が出来上がってしまうのは火を見るよりも明らかだ。これを阻止してほしい」
     少年はそのまま灼滅者たちの反応を見ることなく続けた。
    「ところで水島・テイ子という六六六人衆を知っているか。何度かお前らの前に現れたことのある六六六人衆なんだが」
      『殺人領域(テリトリー)』と名付けた空間に入った人間を嬲り殺したり、自分より序列の上の六六六人衆を罠にかけたりする、蜘蛛のようなダークネスだ。
     むさぼり蜘蛛やネズミバルカンといった眷属を従える傍ら、自らもまた殺人行為が猟奇的に好む。
     殺人鬼と解体ナイフのサイキックに似た技を使い、ナイフを手にすばやく立ち回る奇妙な格好をした女だ。
    「お前らに灼滅してほしいのは、水島・テイ子だけだ」
     人事部長という六六六人衆は戦闘に参加することもなく撤退するためだ。
     また、上司となった彼の命令があるため、さっさと尻尾を巻いて逃げまくっていたテイ子も、今回ばかりは撤退することもない。
     戦闘場所となるのは地下水道で、視界は悪い。ライトが必須となりそうだ。足元も濡れているため不安はあるが、懸念材料はそれぐらいしか見つからない。広さも十分に確保されていて、障害物はない。今まで邪魔してきた眷属の出現もない。
     水島・テイ子との直接対決になる。
    「こいつには辛酸をなめさせられたが、それも決着をつけられるだろう」
     万が一にもテイ子に敵わずこちらが撤退しても、奴が追ってくることはない。
     今回、人事部長と戦うことはできないが、奴の手駒となるテイ子を倒すことで敵の戦力を大幅に下げることができるだろう。
    「灼滅するチャンスは十分ある。気合を入れて頑張ってくれ」
     エクスブレインの少年は言って、灼滅者たちを見送った。


    参加者
    叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    詩夜・華月(白花護る紅影・d03148)
    佐津・仁貴(厨二病殺刃鬼・d06044)
    銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)
    ルチノーイ・プラチヴァタミヨト(バーストブルーライトニング・d28514)

    ■リプレイ

    ●僅かな光、ちらり
     地下水道の闇を引き裂く不躾な光源がちらちら揺れている。
     水島・テイ子は頬が緩むのを止められなかった。
     黒と金のツートンカラーの髪が飾る血色の悪い頬は、残忍にぬめ光る真っ赤な唇に押し上げられて歪んでいる。
     そして下劣に垂れ下がった赤い瞳に映るのは、先刻初めて言葉を交わしたばかりの、己よりも高位の六六六人衆――通称「人事部長」だ。
     水島は純白の外套をばさりと翻した。
    「ちょうどいいですね、水島さん、その子たちを蹴散らしてみてください」
    「蹴散らす? 殺さなくてもいいの?」
    「生死は問いません。ただ、早く片付けてください」
    「了解、人事部長さん」
     水島の言葉に満足げに頷いた人事部長は、地下水路の闇の中へと消えていった。
     闇に戛然と響く靴の音が消えていく中、灼滅者たちと睨み合っていた水島が口を開いた。
    「とっても久しぶりね。あんたたち全然来ないから、アレ? あたしってば忘れられた? なんて思っちゃったわ」
    「忘れるわけないわよ、水島」
     怜悧に吐き出した詩夜・華月(白花護る紅影・d03148)の声に、彼女は一層狂気的な笑みを深めた。
    「あはっ、あんた見覚えがある! ステキな姿にしてやったのに出来損ないに戻ってるじゃない! またアレになりたくて会いに来てくれたの?」
    「殺しに来たのよ、あんたを」
     華月の言葉に、水島は嬉々として笑い声を上げた。
    「ふふふ、そんなこと、あんたに出来るかな!」
    「あの頃の俺たちと同じだと思うなよ」
     佐津・仁貴(厨二病殺刃鬼・d06044)の手にはすでに殲術道具が握られている。
    「確かあのときもこんな地下にいたな」
     ヘッドライトを首から下げた叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)は、薄らと蒼く輝くナイフをくるりと回し、
    「初めてお前の狩り場を荒したときに、俺も参加していてな…」
    「――ああ、そんなこともあったわね」
    「お前の最期くらい、立ち会ってやるよ」
    「あんたの最期にならないようにね」
     けたけた笑う水島は、他の灼滅者たちを見て、
    「もういい? あんたたちとおしゃべりしてるのも楽しいんだけど、人を待たせてるからさ、さっさと散ってね」
     にたりと笑んだ。

    ●狂気の笑み、揺れて
     華月はうねる槍を刺突、確かな感触が柄を介して伝わってくる。そのダメージに動揺していない水島は、次々に迫りくる黒死斬を寸でのところで躱しながら、哄笑する。
    「あんたの望みも企みも全部まとめて撃ち抜いてやるわよ」
     すでに後衛に展開している神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)の言下、ライフルが火を噴いた。明日等のライドキャリバーもキュートな姿とは裏腹に、強烈な銃弾を水島へと浴びせる。
    「あっぶない猫ね!」
     銃弾の嵐をナイフで弾けども、明日等の放ったバスタービームまで躱しきることはできなかった水島に、霧が纏いつく。癒しの効果があるのか、ついた傷は見る間に癒えていく。
    「お仕事熱心なのはいいとは思うのですが、やってることは許せないのです」
     ピコピコハンマー形の殲術道具を握り締めるルチノーイ・プラチヴァタミヨト(バーストブルーライトニング・d28514)が放ったスターゲイザーが、動きを邪魔するように水島の周りを飛び交うが、彼女の動きを封じ込めることはできなかった。
    「あんたに許しをもらわないと生きていけないなんて、あんた殺しちゃおうかなあ! それも楽しそうね! 死なない程度に傷だらけにして、いっぱい叫ばせて――ダメだわ、そんなことしてる時間ないし、ああ、なんて惜しいの!」
    「相変わらず……」
     苦々しく銀・紫桜里(桜華剣征・d07253)は吐き出せば、
    「テイ子妄想、無意味、全て無視、最良」
     ぼそりとガイスト・インビジビリティ(亡霊・d02915)が呟き、ビハインドへ、「ピリオド、宜しく」と声をかけた。放った霊撃は果たしてひらりと回避し、水島はさらにぶつぶつと灼滅者たちをいたぶり殺す計画を喚く。
    「ここで貴女を灼滅します」
     バチっと雷光が爆ぜた。
     葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)の覇気が収斂して電撃へとなって発露する。
     仲間たちが因縁を抱く相手だ、これは仲間たちが片をつけたいはず。しかし統弥とて水島を見過ごすことはできない――ならば、彼らをサポートし復讐しやすい環境を整えるだけだ。
     統弥の繰り出した抗雷撃は、垂涎の妄想に耽る水島の顔面にヒットした。
     瞬間、赤瞳に狂気の暴炎がついたように感じた。
    「痛いじゃないのよ!」
     閃いた軌跡は見えなかった。ただ襲ってくる衝撃に歯を食いしばり、次いで襲撃する激痛に統弥は耐える。
    「つうッ!」
    「人が楽しくプラン立ててるっていうのに邪魔するなんて、無粋な男ね」
     一歩飛び退って距離を取った統弥に、ガイストの放った癒しの矢が降り注ぎ、同じタイミングでルチノーイのシールドリングが展開された。
    「こっちに集中しなよ」
     明日等のライフルがまた火を噴く。オーラが銃口から噴出、一直線に水島へと吸い込まれていく。
     一瞬表情を曇らせた水島にライドキャリバーとピリオドが攻撃するも、それは避けられてしまった。だが生まれた隙をついて宗嗣が疾駆、《無銘蒼・禍月》を一閃!
     ギインッ!
     甲高く耳障りな金属の擦れ合う音が鈍い衝撃とともに響いた。宗嗣の眼前で水島がにたりと笑む。
    「あっちの女の子に言っといてよ、こんなに楽しい殺し合いをしてるのに集中してないわけないじゃないって」
    「自分で言え」
    「あら、つれない」
     その細腕から出るとは思えない力で弾き飛ばされる。宗嗣と立ち位置を入れ替わるように、紫桜里が《月華美刃》を振り下ろし、彼女とタイミングを合わせた統弥の《フレイムクラウン》もまた強烈な力を帯びて叩きつけられる!
     それを軽業師よろしく飛び退って躱し、しかし着地点へ華月の漆黒の六角棍がうねりを上げる!
    「うわ、あぶなーい!」
     緊張感のない声を上げ、危なげなくガードして華月のフォースブレイクを凌いでみせた水島は、ヘドロのような呪いと猛毒の奔流を巻き起こし前衛を飲み込んでいく。
     しかし回復に手を回すよりも今はまだ攻撃を優先させた方がいいと踏んだ灼滅者たちは、総攻撃を仕掛ける。
     戦闘は始まったばかりだ。

    ●大きな一歩、前進
     剣を振り下ろし、魔力の奔流を叩き込み、炎を巻き上げ、トリガーを引く。
     いくつかの攻撃を躱され防御される中、ヒットして水島の体力を削っていく。
     それでも彼女はへらへらと笑い、殺気を噴き上げ、猛毒を振り撒き、濃霧を纏い、ナイフを閃かせる。
     最小限の治癒で攻撃を繰り出すこちらのダメージも蓄積されていく中、寸でのところで治癒が間に合わず、ピリオドが姿を消した。
    「お化けさんが消えたわね。次は誰にしようかなあ」
     ガイストの眉がぴくりと動く。しかし黙して水島を睨み据える彼の心を読み取る者はいない。
    「……浄化障壁、展開」
     ガイストの言下、宗嗣ら前衛の仲間たちにシールドを展開させた。
     そんな仲間たちの間を縫うように紫桜里が疾る――《陽炎》の軌跡が焔を上げそのまま水島を燃え上がらせる。
     刹那、仁貴の放った蛇咬斬に捕らえられ、ぐうと喉を唸らせた。
     仁貴は水島に、「おい、いつもの眷属どもはどうした?」と嫌味っぽく目を細め、問う。
    「いつも一緒なわけないじゃない、あんなむさ苦しい連中と――なあに? ネズミどもに齧られるのが趣味なわけ? あたしが言うのもなんだけど、趣味悪いわよ」
    「減らず口を叩いてる余裕がまだあんのか」
     仁貴の嫌味を物ともせず、さらなる嫌味で返した水島はするりと捕縛を抜け、一足飛びに仁貴との距離を詰めた。
    「そっちこそ、結構キてるんじゃない?」
     病的なまでに青白い顔が眼前にある。垂れた赤瞳に一瞬、己の顔が映った気がした。
     だがそれを確かめる前に、視界は闇に染まる。次いで襲ってくる鋭い衝撃に意識を持って行かれそうになった。
     しかし倒れるわけにはいかない。三度目だ。これまで水島と対峙してまるで歯が立たなかった。それが今、仁貴の剣は確実に水島に届いている。今までの雪辱を晴らすまたとない好機だ。倒れている場合ではない。
    「頑張っていくです!」
     ルチノーイのシールドリングが仁貴の前に現れ、守りを固めてくれる。
    「この手で終わらせてやるわ!」
     明日等の発破――ライドキャリバーとの連携で水島へのダメージを重ねていく。
     そこへ統弥の影が伸びてきて、あっという間に水島を飲み込んでしまった。どんなトラウマを発現しているのは皆目見当もつかないが、生まれた小さな隙を見逃さずに、神霊剣を叩き込む!
     そして、鋭い呼気。転瞬、猛烈なラッシュが水島を襲う。華月だ。一寸の容赦なく拳を叩き込んでいった。
     苦悶の表情を浮かべ始めた水島に、勝機を見出す。
     それも道理だ。
     水島にはバッドステータスを解除する術がないのだ。いくら体力を癒しているとはいえ、足枷は追加されていくばかりだ。時間をかければかけるほどに、水島は不利になっていく。
     このままじわりじわりと、こちらの回復の手を間違えないよう、攻撃の手を緩めないようにすれば、勝利を手にすることが出来るだろう。

    ●潰えた希望、絶望
    「ふふふ、あんたたち、ちょっとは戦えるようになってるじゃない! 楽しいよ、あたし、今、すっごく楽しい!」
     今の逆境を至極楽しんでいる風な水島は、癒しの霧を纏って、数多のバッドステータスを狂気の中で振り払い、またそれを享受して暗闇の中を縦横無尽に駆けわまる。
     ここで調子づかせるわけにはいかない。
     明日等の影喰らい、ルチノーイが仕掛けるグラインドファイア、宗嗣の繰り出すティアーズリッパー――怒涛の連続攻撃をその身に受けて、慌てて距離をとった水島へ、
    「蜘蛛、本来益虫。が、テイ子、人類視点、害虫故、駆除」
    「できるかなあ! あははははは」
     淡々とガイストが呟き、彼もまた水島の服ごと肉を斬り裂いた。その瞬間を華月は狙う。迸る魔力を爆発的に容赦なく叩き込む!
    「ちょっと笑うのやめたら? 耳障りなんだけど」
    「ッ! ふ、……ふふふ――まだ笑ってられるほど、余裕なんだよ、残念ながら」
    「なら、これでどうだ」
     統弥の怒涛のレーヴァテインが火を噴く。
    「あっつ――ちょっとお、あたしの服ボロボロになってるじゃなあい!」
    「次はもっとおしゃれなのを選んだらどうですか」
     辛辣に吐き捨てる紫桜里の黒死斬を寸でのところでナイフで受けた水島は、苦々し、否、嬉々として、
    「良い服でしょ、血が映える白――まあ、こんな暗闇じゃあ、あんまり見えないけど」
    「黙れ!」
     仁貴は《殉教者の剣》に白光を煌めかせ斬撃を見舞う!
     果たしてその剣はにやつく水島に躱され、真っ赤な唇が猟奇的に弧を描く。僅かに生まれた仁貴の隙へ、彼女の凶刃が迫りくる、急所へ叩き込まれた渾身の、凄まじい斬撃、耐え難い衝撃、強烈な激痛、俄かに生まれる怖気、そして猛烈な寒気――遠のく意識は闇へと溶けていった。
    「佐津さん!」
     紫桜里の声が悲痛に響く。
    「お次は、だあれ?」
     水島は喜色満面で――それでも息を切らしながら灼滅者たちを見回した。
     クラッシャーたちへの攻撃を肩代わりし、回復するタイミングを逸した瞬間、水島の毒牙にかかってしまった仁貴をこれ以上傷つけさせるわけにはいかないと、明日等はライドキャリバーを向かわせた。
    「かかってこいよ、俺が相手してやる」
     言った宗嗣に、彼女は嬉しげに外套を靡かせ接近――刹那、宗嗣の視界から消える。死角へと一歩で入り込まれた。危険と判断、回避、否、間に合わない――足を狙われた斬撃は跳び退る最中に放たれ、バランスを崩した宗嗣は転がりざま、ティアーズリッパーをぶちかます!
     ボロボロの外套がさらに無残に弾け、白かったそれは、赤黒く変色している。
     宗嗣の周囲にルチノーイの盾が出現する。傷は僅かに癒え、そしてガイストの声が聞こえた。
    「損傷確認、治癒開始」
     放たれた癒しの矢がさらに体力を回復させる。
    「斬り咲け――」
     中段の構えから放たれた雲耀剣は、紫桜里の一撃だ。
    「借りはかえさせてもらいます」
    「ほんと、みんな『借り』って好きねえ。別にいいじゃん、過去のことなんて、楽しかったんだし」
    「楽しかった……?」
     ぞわりと全身が総毛立つ。堕ちたときのことがまざまざと脳裡に蘇る――大切な家族の涙を思い出し、名状し難い激情に声なき絶叫を上げ、彼女はそのすべてを緻密に練り上げられた魔力へと変え、憎き六六六人衆へと叩き込む!
     体内で荒れ狂い続ける力の奔流に水島は、耳を劈く絶叫を上げ、膝をついた。
    「殺すわ、あんたは、あたしの手で、絶対に」
     憤然と華月は《戦華》を燻らせた。
    「ほんっと、憎たらしいわね…!」
    「その言葉、そっくりそのまま返すわ」
     明日等が苛烈に吐き捨て、激烈な火炎を放射する!
     口汚く罵声を上げて、水島は大きく後退する。ぼたぼたと彼女の大好きな血が、己から流れ出ていく。それは命の放流だ。
     ぜいぜいと喉を鳴らし、歯を剥き出しにしてこちらを睨みつけ、悪足掻きに癒しの霧を纏う水島から、あの厭味ったらしい笑みは消えている。
     もうひと押しだ。誰もがその瞬間を感じ取っていた。
     ジグザグスラッシュ、戦艦斬り、機銃掃射、オーラキャノン、スターゲイザー、螺穿槍、ティアーズリッパー、グラインドファイア――
     ちょこまかと逃げ回っていた水島とて、数の暴力には敵わない。
    「くそ! くそ! くそ!! これから、楽しくなるって時に! これからもっと殺せるってときに! 今まで全然姿見せなかったのに! 今になって! くそ!!」
     早口で呪いと血を吐く水島は、濃霧で身を包み、僅かな傷を癒す――それは、もはや無意味に等しい回復量だった。
     そこへルチノーイが疾駆、グラインドファイアと放ち、入れ替わるように統弥が炎を噴き上げ水島を燃え上がらせる。
    「炎上、蹴脚」
     ガイストがさらなる炎を巻き上がらせた。
    「これで……終わりです!」
     轟然と燃え盛る水島へと、上段の構えから紫桜里が愛刀を振り下ろす!

     くそおおおおおおぉぉぉぉぉ!!

     凄絶な断末魔が地下水道に反響して木霊して、残滓も消えて、耳鳴りがするほどの沈黙の帳が落ちた。

    ●残響消えて、帰路
    「塵となって消えていけ――それが貴女にはふさわしい」
     眼鏡の奥の黒瞳は冷たく眇められ、「さらばです」と冷然と別れを告げた統弥は、意識を取り戻した仁貴に肩を貸しながら、
    「さて、みなさん。因縁の相手も倒せたので、喫茶店で祝杯をあげませんか?」
     いつもの表情に戻して、満身創痍の仲間を振り返る。
    「こんな辛気臭いところはもういいわ、さっさと行きましょう」
     頷いた明日等は、他にダークネスがいやしないかと警戒を解くことなく、歩き出す。
     思うところは皆それぞれだろう。それは、各人しかわからない。
     ただ、闇に潜む六六六人衆が一人、消滅した。

    作者:藤野キワミ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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