闇に啼く冥の影

    作者:幾夜緋琉

    ●闇に啼く冥の影
     静岡県某所、既に廃業して暫しの時が経った廃旅館。
     薄気味悪く、心なしか強い寒気を感じる、その旅館の中から響き渡る……声。
    『……ウウウ……ウァアア……アア……』
     この世の物とは全く違う、その鳴声。
     この世から既に離れた筈の存在であるゾンビ達が、その声を発していた。
     そしてゾンビ達は、窓も割れ、半ば崩落しつつある廃旅館の中を、いつくるとも解らない被害者を求めて……。
    『ウウ……アア……ウウ……』
     と、呻き、啼き続けるのであった。
     
    「さて……皆さん、お集まり頂きましてありがとうございます。早速ではありますが、説明を始めさせて頂きますね」
     五十嵐・姫子は、集まった灼滅者達に軽く一礼し、早速今回の依頼についての説明を始める。
    「今回、皆様への依頼は、廃旅館に現れたゾンビを対峙してきて頂きたいのです」
     と、姫子が見せる1枚の写真。
     もう、いつお化けが出てきてもおかしくなさそうな、そんな場所。
     だからこそ、ゾンビが出てくるのも、おかしくは無いだろう。
    「幸い被害は出ていませんが……近くの駅からも、そんなに離れておらず、いつ肝試し等で一般人の方達が迷い込むかもわかりません。事前に退治しておき、安全を確保しておきたい所です」
    「とは言え廃旅館の中は、もう人の手が入らなくなってかなりの時間が経過しています。足元は荒れ果て、所々の床は抜け落ちてしまっているようです」
    「下手に歩き回るのは危険でしょう……ゾンビ達をどう誘い込むか、の作戦を考えた方が良いかもしれませんね」
    「また、個々のゾンビ達の戦闘能力は、皆さん一人一人と対等な位です。ただ、数は10体いるようなので……総合力となれば、ゾンビ達の方に分があると言えます」
    「一挙に取り囲まれれば、かなり厳しい状況になるでしょう……つまり、一匹一匹を迅速に倒す事、それがポイントとなると思います」
    「今危険は無くとも、未来に潜む危険があります。どうか皆さんの力で、危険を未然に防いで頂けますよう、宜しくお願いいたします」
     と、頭を下げるのであった。


    参加者
    黒洲・智慧(九十六種外道と織り成す般若・d00816)
    四季咲・玄武(玄冥のレーネ・d02943)
    新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)
    レジィ・アールグレイ(沈黙のフイラ・d08605)
    亜麻宮・花火(パンドラボックス・d12462)
    三葉・林檎(三つ葉のクローバー・d15609)
    丸目・蔵人(ソードマスター・d19625)
    柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)

    ■リプレイ

    ●闇の声
     姫子からの依頼を聞いた灼滅者達。
     静岡県某所、廃旅館に現れたゾンビ、その退治依頼を受けて、灼滅者達は半ば崩落しつつある廃旅館の前へたどり着く。
    「……廃旅館に巣くうゾンビの退治か……これはまた、ホラー映画に出てきそうなシチュエーションだよね。いや、今だとゾンビゲームか」
    「そうだね。でもまさかリアルでゾンビ退治ゲームみたいなことをする事になるとは思わなかったよ」
    「ゾンビがたくさん、お化けやしきみたい……誰かが食べられちゃう前に、ぼくたちが倒しちゃわないと!」
    「うん。一般人の被害が出る前に、ちゃんと収めないとね」
     新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)に、柊・玲奈(カミサマを喪した少女・d30607)、レジィ・アールグレイ(沈黙のフイラ・d08605)の会話。
     ……そんな二人の言葉に四季咲・玄武(玄冥のレーネ・d02943)と、三葉・林檎(三つ葉のクローバー・d15609)、亜麻宮・花火(パンドラボックス・d12462)らも。
    「しかし本物のゾンビか……何度戦ってもテンション上がるね。しかも廃墟の旅館。こういう所は落ち着くんだよね」
    「そうですか? ……うーん、正直わたしは、怖いもの見たさ……って、よくわからないんですよね。肝試しとか……何が楽しいんでしょう。ともあれ、命の危険が伴うようなら、何とかしないとですね……」
    「まぁゾンビはなかなかに厄介だよねぇ。見た目もグロいし。でも、そんなの灼滅者だと慣れっこになっちゃったよ。何はともあれ、しっかりと対処しないとねぇ」
    「うん、そうだね」
     と、話す。
     そして、そんな仲間達の言葉に黒洲・智慧(九十六種外道と織り成す般若・d00816)が。
    「過ぎ去りし 旅館の中で 闇に啼く……なんてね。ま、みんな、頑張って行くとしようか」
     ニコッと笑いながら、そんな一句を詠んで……そしてレジィも。
    「うん。床に注意しながら、ぼくも、オズと一緒に、がんばりますね」
    『ワウウ』
     傍らの霊犬、オズを抱え、オズと一緒に頷く二人……そして辰人が。
    「うん、そうだね……しかし灼滅者の支点にしちゃうと、ゾンビゲームもなんだか情緒がなくなるような気がするのはなんでだろうね」
     ふと呟いた一言に、玄武は。
    「ん……そうかな? ぼくはゾンビゲームも好きだし、こういう廃墟も情緒あると思うけど」
    「まぁ、確かにね。ま、何にせよ眷属はしっかり灼滅しておかなきゃね。さぁ、頑張るよ」
     そして、丸目・蔵人(ソードマスター・d19625)が。
    「……では、始めるとするか」
     と呟き、濃厚な殺気を放ち、殺界形成を展開。
     ……元々人気はなかったものの、更に殺気による殺伐とした気配になると共に、灼滅者達は廃旅館の中へ、足を踏み入れるのであった。

    ●廃せし中を蠢く
     そして廃旅館の中に足を踏み入れる灼滅者達。
     一歩歩けばキィ……また一歩歩けば、キイィ……と、床の軋む音が響き渡る。
    「……こんなに古くなっているなんて……探索も楽じゃないですね……」
     と林檎が呟くと、周りの仲間達も頷く。
     ……こんな、もはや崩落寸前の廃旅館に巣くうゾンビ達を倒さなければいけない、というのは……骨が折れる話だ、と思う。
     そんな中、灼滅者達はできる限り音を立てないように為て歩き続ける……そして、到着するのは1階の一番端、上のフロアに上る階段の下。
    「……よし、ここなら挟み撃ちされることは無いだろう」
    「そうですね。それじゃみんな、準備はいいですか?」
     智慧が確認するように訪ね、皆が頷く。
    「それじゃ、始めるね」
     そして、玄武が携帯プレイヤーから、ポータブルスピーカーで音をならす。
     静けさに包まれた廃旅館が、場違いのメロディに包まれる……そして、そのメロディを聴いた、ゾンビ達が。
    『……グ、ウグウウ……』
     と、呻き声を上げて、その声の元へと向かい始める。
     ……張り詰める空気、着々と近づきつつあるゾンビの声。
    「……ん、来てる来てる。もう少しだよ」
     と、玄武は壁歩きをしながら、そう仲間達に報告。
     ……そして、程なくして。
    『グ、アア……!!』
     動きは遅いながらも、ゾンビが灼滅者達の視界に入ってくる。
     一歩一歩、こちらに向かってくるゾンビ……やはり、その足元からも、ギシギシ、と音が鳴り響いてくる。
    「本当……ギリギリだねー」
    「うん、そうだね……こんな所に無理して住まなくてもいいのに」
     花火と林檎の会話……勿論、ゾンビはそんな事を構っていられる訳も無い。
     そしてゾンビ達が、灼滅者達の射程に入った所で。
    「お前を、切り裂いてやる」
     すっ、と辰人が解体ナイフを抜き、構えると、他の仲間達も同様に構える。
     そして先陣切って辰人がオーラキャノンで攻撃を食らわすと、玄武、玲奈のスナイパー二人が続く。
    「コレでも喰らってなよ」
    「沢山のゾンビが集まる前に、さっさと倒してあげる」
     玄武は斬影刃、玲奈はグラインドファイアで攻撃。
     ……流石に高い攻撃力の一撃は、ゾンビの足元、壁にもかなりのダメージを及ぼしている。
     が……それに構っても居られない。
     智慧、花火、蔵人のクラッシャー陣も、ターゲットを集中。
     フォースブレイクにオーラキャノン、レーヴァテイン、と立て続けに仕掛けられた攻撃で、一気に体力を削る。
     ……そして、林檎も。
    「うー……魔法が使えないんじゃ仕方ないか」
     と呟きつつ、彼女もサイキック斬りで攻撃。
     ……そんな灼滅者達の攻撃に、ゾンビはもはやボロボロ。
     しかし、ボロボロになったとしても、反撃の攻撃をしっかりと叩き込んでくるゾンビ。
     そんなゾンビの攻撃は、レジィの霊犬、オズがしっかりと立ち塞がり庇う……そして、庇ったオズを、すぐレジィが。
    「オズ、大丈夫……?」
     と、即座に癒しの矢で回復する。
     そして次のターン。
    「えーい! 燃えちゃえ!!」
     と林檎が今度はレーヴァテインで燃やし……炎で火葬。
    「……うん。一匹目終了、だね」
    「ああ……さぁ、ここから一旦離れるぞ。下手に同じ場所に居続けると、この騒動に気づいた他のゾンビが追っ手としてくるかもしれないからな」
     花火の言葉に、蔵人が頷く。
    「それじゃ、まずは一旦離脱だね……次は、上の方に向かってみようか」
    「そうだね……うん、地図の上ではあまり変わらない感じみたいだから、大丈夫だと思うよ」
     そして智慧に玄武が頷き、灼滅者達は……やはり足元を踏み抜かない程度に急いで、その場を離れるのであった。

     そしてその後も、灼滅者達は移動し、待ち伏せし、戦い、また移動……を繰り返しながら、一匹ずつ確実に倒していく。
     勿論、廃旅館の中はどこも足元が崩れやすいのは間違いない。
     時々、踏み抜いてしまったりもするものの……そこまで酷い被害になることはなく、どうにか対処。
     そして……9匹を倒し、残るは後1匹。
     大きな音を鳴り響かせて、ゾンビを誘い込み……そして、待ち構える。
     数分し……灯りの中に、最後のゾンビが出現。
    『ウ、ウウウ……アアア……!!』
     怨恨の篭もった呻き声と共に、ふらふらと歩いてきたゾンビ。
     灼滅者達を射程に捉えるとすぐに、肩口にしだれがかり、噛みついて攻撃する。
    『っ……! 離れて下さい!!』
     と林檎が咄嗟に閃光百列拳で反撃……ゾンビが地面にはね飛ばされ、足元の床板一枚、踏み抜かれる。
     片足がその踏み抜かれた床板にはまり、うう、ううう……と呻き、もがくゾンビ。
    「あれー? 脚がはまってうごけなくなっちゃったのかなー? 可哀想だけど、でも手加減はしないよ」
    「ああ……全力で潰してやろう」
     花火に蔵人が静かに頷き、そして花火がご当地ビーム、蔵人がフォースブレイク。
     そして辰人のオーラキャノン、玄武の蹂躙のバベルインパクト、智慧がフォースブレイクで、動けないゾンビに、容赦なく攻撃。
     そして玲奈は、仲間達の攻撃を一通り確認してから……気合い一閃、真っ向唐竹割りの雲櫂剣を、その頭上から叩き込む。
    『ガ、ァ!!』
     ……ゾンビの頭が、おおきくひしゃげ……苦悶の悲鳴を上げる。そしてレジィも、百億の星で追撃。
     そして次のターン……どうにかゾンビは、はまった脚を引き抜き、対峙する。
    『ガ、ウウ…………アア……!!』
     と、怨みの声を上げるが。
    「絶対負けない、って感じ、かな? でも、私達だって負けないよ?」
     と玲奈が宣言、ローラーダッシュで懐に飛び込み、銅を薙ぐようにグラインドファイアの一撃。
     一撃を食らい、ゾンビの身体があらぬ方向に大きく折れ曲がる。
     もはや、動くのも満足に出来ない状態に陥ったゾンビ……そして。
    「さぁ……これで、トドメですよ」
     小さく笑みを浮かべた智慧が、全開のフォースブレイクを、更に横っ腹に叩き込み……ゾンビの身体は、真っ二つに吹き飛び……動きを止めた。

    ●声は消え
    「……ふうぅ、終わったみたいだね。うん、みんなおつかれさまー! これどーぞ!」
     と、花火は皆にお疲れ様の言葉と共に、広島銘菓もみじ饅頭を差し出す……そしてその言葉に玲奈も。
    「あ、ありがとー♪ それにしても無事に終わってよかったよねー。においもきつかったし、お風呂入りたーい」
     と、声を上げる。
     まぁ……確かにかなりの臭いだったのは間違いないし……足元もおぼつかない中での戦いは、中々厳しかったのも間違いない。
    「……それでは、失礼する」
     と、颯爽とその場を早々に去って行く蔵人……それを送り出した後、辰人が。
    「さて、と……余りこの場にいるのもなんだし、一応、片付けられるところだけ片付けたらさっさと帰るとしようか」
    「うん。そうだね」
     と、辰人に林檎が頷き、そしてできる限りの部分を一応片付ける。
     ……そして片付けた後、廃旅館を脱出……入口付近に、林檎が立ち入り禁止の看板を立てて、一般人達がこれから先に来ないようにしておく。
     そして……改めて廃旅館を見上げて。
    「……また、現れないといいですね」
    「そう、ですね……」
     智慧にこくこくと頷くレジィ……そして、灼滅者達は、またゾンビが現れない事を祈りながら、その場を後にするのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年11月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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