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おっさんの趣味はサイクリングだった。いやちょっと嘘ついた。サイクリングはダイエットのためで、正直言うと自転車とか触りたくもなかった。
しかし太りに太った豚ボディを解消するには運動せねばならぬ。というか死ぬ気でやせないと近いうちに死ぬと医者にいわれたので切実に運動せねばならぬ。
というわけで今日もせっせと自転車を漕ぎまくっていたら。
「ぶひ」
豚がすごい勢いで真横につけてきた。
いやおっさんと同じ体型の人って意味では無い。まんま豚である。
あえて豚らしくないところをあげるなら、背中に銃っぽい何かを背負ってるところだ。
「ぶ、ぶひー!」
デブのおっさんはあわをくって操作を乱し、派手に転倒した。
そう、おっさんは知らなかったのだ。
ここは闇の通称バス豚サイクリングロード。
人がめっきり来ないのをいいことにはぐれ眷属たちのたまり場となったエリアなのである。
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眷属とは、ダークネスが生物をベースに作る配下モンスターのことである。
このうち主人を失ったりしたものを『はぐれ眷属』とよび、うっかり遭遇した人を襲う事件が各地でちょいちょい起きていた。
今回はそんななかの一つ。
「バスターピッグタイプのはぐれ眷属が住み着いているサイクリングロードで、討伐作戦を行ないます」
バスターピッグとは見た目まんまでバスターライフル的なものがくっついた豚型眷属である。主に射撃攻撃を得意とし、よく群れを作る。
「とはいえ難しい作戦じゃありません。ちょっとした運動や練習もかねて、気軽に参加してみてくださいね」
参加者 | |
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天上・花之介(ドラグーン・d00664) |
神凪・朔夜(月読・d02935) |
リオン・ウォーカー(りすぺくとるねーど・d03541) |
安土・香艶(メルカバ・d06302) |
中島・優子(飯テロ魔王・d21054) |
迦遼・巴(疾走する人工肢体・d29970) |
トリニティ・ベル(ハリケーン・d30897) |
黒雨・キリエ(宵闇の涙雨・d31428) |
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とあるサイクリングロード。
迷い込んだ人間を食いものとし、悪しき眷属たちが群がる魔境である。
そんな道の入り口に訪れた犠牲者たちがいた……。
「はーい皆さん準備はいいですかー」
安土・香艶(メルカバ・d06302)は頭の位置を整えるようにごきごきと首関節を鳴らしてから、両手を高く上げた。
「第一回、バス豚駆逐大作戦個人の部を開催しまーす!」
「「応!」」
拳を突き上げる少年少女。
羽を生やして飛び去っていくシリアス。
仮面で顔半分を隠す中島・優子(飯テロ魔王・d21054)。
「虚構の平穏に慢心し、惰眠を貪る豚どもめ……この魔王狂華が駆逐してやる。徹底的にな」
「遅かったなー、その空気出すのワンテンポ遅かったよなー」
ギザギザの歯を見せて笑うトリニティ・ベル(ハリケーン・d30897)。
「優勝者には肉まんを奢ります」
「わーい肉まんだー!」
「変わり身早っ」
ばんざいしながらぴょんぴょんジャンプする優子(かわいい)をよそに、神凪・朔夜(月読・d02935)たちは軽くストレッチ運動をしていた。
アキレス腱を伸ばす朔夜。
「内容はどうあれ、人を傷付けるモンスターをやっつけるのは大事だよね。僕たちはともかく、一般の人には危険すぎるし」
「軽い仕事でもモチベーションを保とうとするのはいいことだ。ま、いつもより肩から力を抜けそうだけどな」
肩を伸ばして腰をひねる天上・花之介(ドラグーン・d00664)。
同じく腕を上げて腰を横に曲げるリオン・ウォーカー(りすぺくとるねーど・d03541)。
「ダイエットにもよさそうですよね。最近秋が深まったのか美味しいものが多くって、そろそろ動かないとと思っていたところです」
「……」
そんな中で、黒雨・キリエ(宵闇の涙雨・d31428)は初めてマラソン大会に出る中学生のような顔で道の端に立っていた。
つま先運動を終えた迦遼・巴(疾走する人工肢体・d29970)がちらりと横目で見る。
「どうした。初依頼で緊張しているのか」
「それは別に。俺、解放時はかなり色々変わるから、その辺がまあ……な」
「なに、ロードローラーが喋る時代だ。問題ない」
「そんなもんかね」
帽子を深く被り直すキリエ。
すると香艶が天に空砲を向けた。
「それではいちについて、よーい――」
空砲の音と共に、彼らは走り出した。
バス豚サイクリングロードのはじまりである。
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集団の先頭をきったのはトリニティだった。継ぎ目のついた剣を抜くと、左右に視線を走らせる。
「こういうの、イチバンヤリっていうんだろ。ソッコー決めさせてもらうぜ」
殆ど待たずに左右の茂みから豚が飛び出し、この所の左右を併走しはじめた。
こちらを灼滅者だと認識したのだろう。すぐに左右の感覚を狭め、体当たりを仕掛けてきた。
「願ったりかなったりだぜ。おら、豚のような悲鳴をあげろ!」
トリニティは剣を握って回転。左右から突っ込んできた豚はそれぞれ上下に分割され、舗装されたアスファルトへと散らばっていった。これでは自ら死にに行ったようなものである。
「派手だね、うん」
後ろをマイペースに走る朔夜。彼は特殊な圧縮発音で術を高速詠唱すると、指先に強いスパークボールを発生させた。
「それじゃあ僕も、いくよ」
それを宙に放ったと同時に、彼を左右から狙撃しようとしていた豚へと感電。ばちんと音を立てて転がり出てきた。
「そこか」
転がり出た豚へ即座に飛びかかる巴。空中で前方伸身宙返りをかけると、両足のふくらはぎ部分で豚をホールド。身をひねりながら遠心力でかっさらい、ハンドスプリングで倒立。全身のバネと遠心力をホールドした豚へすべてかかるように地面へと叩き付けた。
「なるほど。慣れない技でも、格下相手には充分使えるか」
「持って行かれちゃったね。ま、いいか」
朔夜は気にせず追加詠唱。右腕を鬼のそれに変えると、巴がたたきつぶしたものとは別の豚を掴み上げ、そのまま握力で握りつぶした。
横目に見合った二人が、互いに薄く笑い合う。
「よそ見する暇はないぞ」
その間を、花之介が猛スピードで抜けていった。
ガッツポーズを腰まで下げた構えをとると、腕に一対のバベルブレイカーが装着された。
コンパクトに設計されたもののようで、それ単体でアームガードとしても機能しそうな造形だった。
「ラジアータ、機動」
途端、肘部分からエネルギーが噴射。
更に加速した花之介は前方へ飛び出した豚を殴りつけ、そのまま空中へと浚った。
接触の瞬間に太いフレシェット弾を発砲。豚の身体を杭が貫通した。
息絶えた豚を振り払い、空薬莢を排出。
「つりはいらないぜ、豚野郎」
「ククク、やるではないか。それでこそ魔王狂華と争う資格があるというもにょ」
横を走りながら不敵に笑う優子。最後ちょっと噛んだが、知らんぷりした。
「今こそ見せよう、古文書るろけんに記された喪われし秘技(ロストアーツ)」
優子はロッドをビリヤードみたく構えると、豚の一匹へ狙いを定めた。
「牙撃壱式!(ストライクファング・ザ・ファースト)」
豚に強烈なチャージアタックを繰り出すと、更に突き下ろしの追撃。
「弐式――零式!」
最後は身体のバネだけで突きを叩き込み、全力のキメ顔で振り返った。
「見たか?」
こっくりと頷く香艶。
「うん、いいGATOTUだった」
「がとちゅゆーな!」
「だが原作はもっと平突きに近かった」
「真面目に分析しないでよ!」
うあーと言いながらぽかぽか殴ってくる無間地獄最凶魔王狂華様を片手でいなしつつ、香艶は白い虎模様の武術棍を握り込むと、すぐ前を走る豚へと狙いを定めた。
流石に豚とてここまでメッタメタにされれば抵抗もしたくなるもの。背中のビームライフルを後部に回し、香艶めがけて乱射してきた。
「甘い!」
香艶は棍を回転させてビームを遮断。
先端に螺旋のエネルギーを展開させると、豚を一息に突き殺した。
「よしっ」
と、そこで豚の反撃が始まった。『始まるの遅っ』と思うところだが、豚も豚なりに必死なのだ。
「「ぶひー!」」
丁度最後尾を走っていたリオンの左右から一斉に飛び出すと、ライフルの狙いをリオンへ集中。
一斉射撃を仕掛けてきた。
「――ッ!」
「リオン!」
仲間の呼びかけやフォローが飛ぶ中、最も先に、最も速く動いたのはビハインドのシオリだった。
花を大量に散らし、ドレスの裾を大きく広げる。
するとビームの軌道が無理矢理まがり、シオリへとすべて集中した。
肩越しに振り返るシオリ。
リオンは頷き、シオリの背にそっと触れた。
暖かい光がシオリを包み、全身を焼き焦がしたビーム跡をみるみるうちに修復していく。
シオリもまた頷き返し、豚の一体へ手のひらを翳した。
花弁が強風にあおられたように飛び、豚を切り裂いていく。
「ぶひっ!?」
襲撃に失敗したことを察した豚たちは撤退を試みるが、もう遅い。
「解放(リリース)」
キリエが、宙を舞っていた。
古い学生服のような格好をしたキリエの背から、硬い骨が槍のように露出した。骨は手を開くように枝を展開。その間を埋めるように巨大魚の鱗が敷き詰められていく。
そう、彼の背中から生えたのは鱗の翼であった。
同時に彼の目は魚類のそれよろしく黒一色となり、さらには空を写し見たように青く染まった。
腕骨格を延長したかのように三叉槍を出現させると、槍の先端から炎を放射。ひと薙ぎで豚たちを焼き払った。
焼き切れなかった豚たちが慌てて茂みへと逃げ去っていく。
キリエは着地し、意識を集中。業の鼻をきかせる。
十数メートル先の右側の茂み。そのあたりから業を感知した。
「この臭い、密集したやつがいるかもな」
すぐさまその場へ飛び込んでいく……と、そこには。
「……あ」
ミニスカートとツインテールの半裸のおっさんが茂みの中で自撮りしていた。
たしかに業の深い光景だが。
これじゃない。
これじゃないよ。
あとリオンに殺界形成されてても来るくらいの必死さで何やってんだこのおっさんは。
「あ、その、コスプレの方ですよね。どうか妻と子と会社には内密に……」
そう言って諭吉チケットを差しだそうとしてきたので、キリエは黙ってその場を離れた。
解放状態を人に見られたあの感じと、DSKノーズの性能なんてこんなもんだよなという感じを抱えつつ。
さて、コースもいよいよ終盤。
スポーツ感覚で豚狩りを楽しむ灼滅者たちと、このまま雑魚扱いされては豚の沽券に関わるとばかりに必死になって襲いかかってくるバスターピッグたちとの(一方的に)熾烈なバトルが繰り広げられていた。
「ブレード展開っ!」
花之介がバベルブレイカーからブレードを展開。突撃してきた豚を切りつけると、もう一方のブレイカーを押しつけた。
「ラスト一発だ、貰っていけ!」
渾身のバベルブレイカーを叩き込み、豚と一緒に空薬莢を排出。
その前方。ピラミッド積みになって進路を塞いだ豚が一斉にビーム射撃をしかけてきた。
「無駄だよ」
朔夜が異形化した腕でそれをビームを防ぎつつ突撃。零距離でもって轟雷を放射した。
ボーリングのピンよろしくはじけ飛ぶ豚たち。
が、隙を生じぬ二段豚。その先にはさらなる豚ウォールが形成されていたではないか。
勢いが足りない。そう察した朔夜は素直にブレーキ。
代わりにその横を巴が駆け抜けた。
突撃でも飛びかかりでもなく、『駆け抜け』である。
人間が最も速く走るために生み出されたという流麗なフォームで駆けると、豚の壁をそのまま突破。一瞬遅れて渦巻く突風が吹き荒れ、豚たちの壁は跡形も無く崩れ去った。
「いただき」
宙を舞う豚に展開状態のウロボロスブレイドが巻き付く。
根元でトリニティがギザギザに笑った。
「その贅肉、そぎ落としてやる」
まるでコマ回しのように勢いよく引き抜く。
「踊れ踊れ、豚のワルツだぁ!」
豚はみごとに切り裂かれ、地面をごろごろ転がっていく。
その横では優子、香艶、シオリが宙を舞う豚たちへと一斉に飛びかかっていく。
「キョウカスプラッシュ!」
逆手に持ったロッドを豚に叩き付ける優子。
「そのネタ、リアル中学生は多分知らないんだよな」
遠い目をしながら別の豚を棍でたたきつぶす香艶。
「気にしてはだめです。だめなんです」
瞑目したリオンが祭霊光を連続展開し、その光をうけたシオリが花でできた剣で豚を切り捨てた。
豚をそれぞれ灼滅し、同時に着地。三人(もとい四人)はダッシュを続けた。
すぐ後ろについていたキリエは地面をはずむ豚たちへと身体ごと振り返り、槍の先端からエネルギーブレードを放射。水平に切り払い、豚たちを一掃した。
「……よし」
帽子のつばをつまんで呟くキリエ。
彼はくるりと前へ向き直ると、再び走り始めたのだった。
こうして彼らは道中にあの手この手で現われる豚を駆逐して駆逐して、刺して回して上手に焼いて、そしてサイクリングロードの終着点へとたどり着いた。
「ゴール!」
両手を挙げ、満面の笑みで跳ねる優子(かわいい)。
着地し、目的が途中から変わっていたことにハッとする優子(かわいい)。
走るペースを徐々に落とし、香艶とリオンも終着点で立ち止まる。
「ふう、サイクリングコースだけあって随分な距離だったな」
「いいダイエットになりましたかね」
呼吸を整え、その場に設置されたベンチへ座る。
視線の先になんちゃら珈琲店という『パイにソフトクリームとメイプルシロップがかかった悪魔の食い物』を出す店があったが、リオンは脂汗を流しつつ目をそらした。
同じくゴールした花之介や朔夜たちが集まってくる。
「さて、バス豚大会の結果はどんなもんかな」
「僕も結構倒したと思うんだけど」
「ちょっと待て」
彼らが指折り数えはじめると、巴が小さく手を上げた。
「今回カウントするのは撃破数か? ダメージ数か?」
「……おっと」
同じように指折りしていたトリニティが顔を上げる。
「そういや同時ヒットとかあったよな。あれどうすんだ」
「…………おお」
今気づいたという顔で(人間状態の)キリエが手を叩いた。
視線が香艶へと集まる。
香艶はどっからか出したサングラスをかけると、シニカルに笑った。
「肉まん……皆に奢ってやるよ」
サングラスの端からながれた滴は、汗だったのか、それとも心の汗だったのか。
こうして、彼らのバス豚駆逐大会は終了した。
第二回大会が行なわれる日はきっと、そう遠くないだろう。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年12月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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