ネオンに抱かれた幻想の行方

    作者:猫乃ヤシキ

     薄闇に溶ける淡い橙色の夕陽は、欲望を孕んだネオンの灯りを、迷うことなく繁華街に連れてくる。
     歌舞伎町から少し外れた裏通り、古ぼけた雑居ビルの一室に、似つかわしくない真新しい看板が掲げられている。
     入口のシルバーのプレートに刻まれた繊細な文字は、『会員制サロン MAYA』。
     会員と、招待を受けたものしか入室を許されない室内は、分厚い黒いビロードの布で覆われている。至る所で蝋燭のともし火が揺れ、甘い香りの煙が充満しているその場所は、狭く、息苦しい。
     その最奥に鎮座する女は、このサロンの主だ。
     占星術師・MAYA(マヤ)。それが彼女の名前である。
     素性の知れない女だった。
     ゆったりとしたしなやかな布地に身を包み、髪も、顔もすべて布で覆い隠している。
     腕や胸元に幾重にも巻かれた細い金細工の装飾は、彼女のゆるやかな動きに合わせ、しゃなり、しゃなりと音を立てる。
     唯一剥き出しになっている目元も、印象強くくっきりと長く引かれたアイラインのせいで、その素顔をうかがい知ることはできない。
    「……こちらで占って頂ければ、どんな願いでも叶う、って聞いたんです」
     本日の客人は、恋愛に狂った女だった。惚れ込んでしまったホストの男を、どうしても恋人にしたいというのが、彼女の望みだった。
    「私、なんとかここのツテを探して、紹介して頂いたんですけど。でも、実は、彼にほとんど貢いでしまって、お金がそんなに無くて」
     言いづらそうに、何かを続けようとする客人に、マヤが指先を挙げて言葉を留めさせる。
    「――お金は、結構です。でも、あなたの願いが叶ったならば、もう一度この場所にいらしてください。それさえ――必ず、お約束くだされば」
     客人の顔が歓喜に包まれ、ぱっと明るく華やいだ。

     それを見たマヤが、うっすらと笑った――ような気が、した。

    「よし、全員集まったな、お前ら」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は、腕組みをしながら、目の前の灼滅者たちに対し、満足そうにうなづいた。
    「今回の事件はこうだ。対象者は光原・麻耶(みつはら・まや)。当たるも八卦、当たらぬも八卦。どこにでもいる、普通の占い師だった。これがどうやら、ソロモンの悪魔に魅入られて、力を手に入れたようだ。大した評判もなかった麻耶の占いは、ここ最近、そのスジの界隈じゃ知らないものはいないほどになっているらしい」
     その評判は今や、政治家連中までお忍びで通うほどだという。
     麻耶の占いは良く当たる。それだけではない。もしもその場で芳しくない結果が出たとしても、「願いが必ず叶う必勝法」を伝授してくれるのだと言う。
     それが百発百中だと噂が噂を呼び、麻耶のサロンの会員は、次々に麻耶の信奉者となっていくのだと言う。
    「幸い、麻耶は闇落ちしているとはいえ、まだ、完全なダークネスになったわけではないらしい。彼女がダークネスになってしまう前に、闇堕ちから救い出して欲しい、というのが今回の任務だ」
     このまま放置すれば、引きずられて闇落ちする人間が、どんどん増えていくだろう。
     その前に、何としても現状を食い止めなければならない。
    「彼女に灼滅者の素質があるのなら、救出してやってほしい。しかし、もしも救出できずに、完全なダークネスになってしまうようなら……」
     ほんの少しだけ、ためらうように言葉を区切ってから、ヤマトが続ける。
    「そうなる前に、灼滅してやってくれ」
     続いて、ヤマトが集まった灼滅者たちに、簡単なプリントの資料を手渡して回る。
    「サロンのある場所は、歌舞伎町の裏路地だ。ビルは古いつくりで非常に狭く、そこで戦闘をするには不向きだ」
     麻耶は常にサロンにいるわけではない。サロンにいるのは、占いの客が訪れる、夕方から早朝の間だけだ。
    「その出入りの隙を狙って、外の路地で彼女を迎えうつのがいいだろう」
     また、資料の中には、注意事項として『信奉者多数』と太字で書かれている。
    「サロンには常に、10人の彼女の信奉者が待機している。力を分け与えられた眷属だと思っていいだろう。武器の携帯は確認されていないが、どうやらサイキックが使えるようだ。それぞれの能力は強くなくとも、人数が多いのが厄介だ。こちらと互角に渡り合えるだけの戦闘力があると思っていいだろう。十分に気を付けてほしい」
     一人一人の能力がそれほど強くないのだとしても、数で一気にこられるようなら、うまく戦術を練っておかないと厄介かもしれない。
    「最優先は麻耶の救出だが、むこうも麻耶を死守するような動きをしてくるだろう」
     つまり、結果的には全員を相手に戦わねばならないということか。
    「麻耶は、自分の占いの結果に、いつも思い悩んでいたらしい」
     望まない未来を予言されて、客人が失望する表情を見るたび、心を痛めていた。
    「幸せになりたくて麻耶の元を訪れたはずなのに、不幸な結果を伝えることが心苦しかったようだ」
     どんな願いでも、叶えてあげられればいいのに。
     誰の未来も、幸せであればいいのに。そう強く思う心が、麻耶を闇へと堕としたのだ。
    「幸い、麻耶にはまだ人間の心が残っている。説得次第では、彼女の戦闘力を殺ぐこともできるかもしれない」
     説得を試す価値は、十分にありそうだ。
    「危険な任務だが、これ以上、ソロモンの悪魔の餌食になる、犠牲者を増やすわけにはいかない。それにお前らなら、きっとやってくれると信じている。期待しているぞ」


    参加者
    鏡宮・来栖(気まぐれチェシャ・d00015)
    皇・夢人(レオンハルト・d00174)
    綾小路・白雪(魔法使いの夜・d00605)
    紫雲寺・りり(小夜風・d00722)
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    リリシス・ディアブレリス(メイガス・d02323)
    字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)
    清浄院・謳歌(中学生魔法使い・d07892)

    ■リプレイ

     紫雲寺・りり(小夜風・d00722)が顔をあげると、新月の夜を思わせる黒髪が風にたなびいた。
     時間は午前四時。辺りはまだ薄暗い。眠らないネオンの街と言えど、裏路地を入ったうらぶれた雑居ビルの通りだ。こんな時間にここを通行人がとおる気配はほとんどない。
     今回が初めての依頼だというりりは、どうやら緊張が隠せないらしい。静かに待ち伏せしながらも、ことあるごとにそわそわした様子が見え隠れしている。
    「ああっ、双眼鏡持ってこようと思ってたのに、忘れたっ!」
    「……必要ないと思うわよ。出入り口、すぐそこにしかないし」
     りりに先ほどから淡々とツッコミを入れ続けているのは、アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)である。りりとは対照的に、アリスの方はずいぶんと冷静で、落ち着きはらった様子である。
     神崎から教えられた雑居ビルは、二軒隣の真向かいだ。人の姿が現れたらいやでもわかる距離だから、そもそも双眼鏡などは必要無いのだった。
     サロンの入ったビルをはさんで、対角線上にある建物の陰では、皇・夢人(レオンハルト・d00174)と鏡宮・来栖(気まぐれチェシャ・d00015)が辺りをうかがっていた。
    「しっかし、今回の依頼は女が多いよな。男同士、よろしくやろーぜ」
     路面の段差の上に腰を下ろし、片膝を立てて右手を差し出してきた皇を見て、鏡宮が困ったような表情で、ずりおちてきたマフラーを巻きなおす。
    「皇サン。悪いけど、その握手は受けられないな」
    「なんでだよ。鏡宮、お前、フェミニストとか言うヤツか?」
    「こう見えて、僕は女だからだ」
    「嘘だろッ!?」
     衝撃の告白に、あからさまにビビって見せる皇の態度にも、鏡宮は一向に気分を害する様子も見せない。鏡宮にとって男に間違われることなど、日常茶飯事である。
     そんなことをやっている路地を挟んだ向かいの物影にも、実はちっちゃな二人組が身を潜めている。綾小路・白雪(魔法使いの夜・d00605)と清浄院・謳歌(中学生魔法使い・d07892)である。トレードマークの箒を背に負った、魔法少女の二人組だ。
    「ソロモンの悪魔が関わってきてるなんて、見過ごせない事件だわ。何が何でも、彼女達を闇の底から救ってあげるのが、正義ってモノよね」
     足元で跳ね回る愛霊犬のコーギー・コマを抱え上げて、ふぅ、と白雪がためいきをついた。コマは一緒にいる謳歌の存在が気になるようで、ハッハッと言いながら、謳歌にじゃれつこうとする。
    「なんかさ、人の弱みに付け込んでるみたいじゃない? こんなこと、わたしも許せないもん。ぜーったいに、皆を助けてあげようねっ」
     身を乗り出してくるコマの頭をナデナデしながら、謳歌がこぶしをにぎりしめて、力強く同調する。そうね、と、白雪が応え、小さな少女たちは互いにうなづきあった。
    「麻耶さんは、自身が出す占いの結果に悩んでいた……。そこをソロモンの悪魔につけこまれてしまった、というところでしょうね」
     一方、サロンのビルから少し離れたところ、やや大きな通りに面した路地の角で。流れるような銀色の髪をかきあげているのは、リリシス・ディアブレリス(メイガス・d02323)だ。
     指先の動きまで洗練された、上品で優雅な立ち居振る舞いは、これから敵対者との闘いをひかえた者のそれとは、到底思われない。
     ふふ、と笑ってみせるリリシスの傍らでは、白いキャスケット帽の字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)が、スレイヤーカードを取り出している。詠唱とともに、望のカードに封じられていたサイキックエナジーが具現化しはじめる。
     現れたガンナイフとバスターライフルの感触を確かめるように手に取りながら、望が生真面目な口調で追従した。
    「悪い結果が出るのも含めての占いではあるのだがな。僕は予言者でも心理学者でもないが、多分、麻耶は優しすぎる人間だったんだろう。誰もかれもを救いたくて……愚かな連鎖を作り出してしまったんだろうな」
     そうね、とリリシスが微笑む。
    「だからこそ、必ず闇から救ってあげなくてはね」
     その時だった。静寂に包まれていた狭い路地に、一気に人の気配が充満した。ビルのエントランスから、スーツに身をまとった男女が現れたのだ。
     黒服にサングラスという異様な集団に囲まれ、守られるかのように、一人だけ、ベールを身にまとった面妖な衣装の人物が中央にある。
     ターゲットの光原麻耶に、間違いなかった。


    「ごきげんよう、ソロモンに惑わされた皆さん。ご多忙のところ悪いのですけれど、少しお付き合い願えないかしら?」
     路地を抜けようとした一行の前に、リリシスが立ちはだかった。薄暗い朝もやの中に突然現れた、美しい女。その姿にいぶかりながらも、彼らは彼女に構おうとはせず、リリシスを避けて脇をすりぬけようとする。
     しかしそこへ、箒に乗った二人の少女勢いよくが飛び込んできて、一行の行く手を塞いでしまった。さすがに異変を感じたか、先頭に立つ大柄の黒服が、苛立たしげにドスの効いた声を出した。
    「なんだァ、お前たち」
    「通りすがりの正義の味方、だよー?」
    「……通りすがりの正義の味方、その2」
     自分も言おうとしていた決めゼリフを謳歌に取られたのか、後から白雪が付け加える声はやや不服そうである。
    「あなたたちに、個人的な恨みは無いの。でも私たち、ソロモンの悪魔には、ちょっとした因縁があるのよね。とりあえず、そこにいる麻耶さんを、こちらに渡してくれる?」
     アリスが、背後から一行を囲む位置に陣取った。言い放つその指先には、スレイヤーカードがきらめいている。
    「馬鹿なことを! お前ら、マヤ様をお守りしろ!」
     手下と思われる黒服たちが、ハッ、と低く答えると、麻耶を中心に取り囲むようにして、路地にぐるりと陣取った。どうやら、素直に聞いてくれる気はないようで、麻耶を倒すには、黒服たちを一掃するしかないらしい。
    「われわれの邪魔をする者は、潰せ!」
    「Slayer Card, Awaken!」
     黒服の手元から、鋭い光の矢が放たれた。素早くそれをかわしながら、アリスがサイキックソードを抜き放ち、予言者の瞳を発動させる。
    「やはり聞いていたとおり、数が多いな……ならばこれでどうだ!」
     前衛に構えた望のバスターライフルから、リップルバスターが発動する。円盤状の光線が炸裂し、前列にいた三人が薙ぎ払われるように、地面に転倒した。
     騒動を聞きつけて急いで駆け付けたのか、ビルの中に残っていた黒服の一人が、転がるように飛び出してきた。すぐに状況を察したのだろう、戦闘態勢に移ろうとする黒服の行く手を、皇の影縛りが阻む。
     触手にからめ捕られた黒服が、忌々しげに皇をにらみつける。
    「貴様……!」
    「ははん、よく聞け! 俺は、選ばれた戦士なんだ! お前みたいなザコ相手にしてらんねぇんだよ! そこで棒立ちになってやがれ!」
     自分自身の意思で戦うのは、皇にとってはこれが初めての体験だ。血沸き肉躍る高揚感が皇の全身を包み、それがまた彼の力の原動力にもなっていた。
     続けて、駆け出したコマが前衛の黒服にかみつき、白雪の発動させたフリージングデスが命中する。辺りを包み込む冷気のダメージが、黒服たちの体力を一気に奪っていく。
    「ソロモンの魔の手に落ちたあなたたちを、救ってあげるのよ。正義の味方に感謝なさい!」
    「くっ…小賢しい真似を!」
     しかし返されるのは、同じ冷気の塊だ。狙いをつけられた中衛の三人が、ダメージを食らって地面に叩き付けられる。転がされた皇が、チッ、と舌打ちする。
    「大丈夫かッ!?」
    「ああ……仕方ないな。少し、シャドウの力を借りるとしようか。深い闇には、飲まれたくないものだが」
     起き上がった鏡宮が己の左鎖骨にそっとふれると、シャドウの象徴である、スペードのタトゥーが浮かび上がった。発動させたブラックフォームが、鏡宮の魂を闇の深みへと傾ける。生命力と攻撃力を高める代わりに、闇堕ちしかねない危険な術でもある。
    「みんな、大丈夫ーっ!?」
     マトモに攻撃を食らった中衛の様子を気にしながら、りりがガトリングガンを振り上げる。銃口から嵐のようにばらまかれるバレットストームが、黒服たちを容赦なく薙ぎ払ってゆく。
    「はいはーい。回復ならー、正義の魔法使いにっ、おまかせだーよーっ!」
     温かな光が朝もやの中にきらめいて、謳歌のヒーリングライトが皇と白雪の身体を、順番に癒してゆく。
     前列の黒服の一人が、おぼつかなくなった足元を立て直しながら、まだこちらに向かって攻撃を仕掛けようと構える。
     しかし彼はもう限界だろう。リリシスが優雅な笑みを浮かべながら、契約の指輪の指輪を天高く掲げた。
    「ふふふ、あなたはもう、お休みの時間なのではないかしら?」
     そうして、深い慈悲による一撃が、黒服の首筋を柔らかに打った。


    「麻耶、まだ続ける気なのか? キミは間違ってる。いい加減、降参した方が身のためだ」
    「……お前たち、私を守りなさい! こんな子供たちに負けてはいけません…!」
     追い詰められた麻耶が、甲高い声でヒステリックに叫ぶ。自分を諭す相手に向けて、手元から高速の光の矢を放った。
    「望さん、危ない、避けてっ!」
     とっさの攻撃に避けきれない望の前に、りりが飛び出した。望を目がけて飛んできた矢が、庇ったりりの身体を貫いてゆく。
    「そう、簡単に、仲間を攻撃させないんだからっ」
     今回の作戦でディフェンダーを買って出たりりは、他の灼滅者たちよりもダメージを受けにくい。しかし、先ほどから何度も他のメンバーを庇うように前に飛び出し、攻撃を代わりに受け続けている。蓄積ダメージは、相当なものだろう。先ほどからずっと、肩で息をしている様子がうかがえる。
     足元には8人の黒服が転がっている。残るは2人の黒服と麻耶だけだ。
     しかしどれだけ倒されても、敵は一向に降伏する様子も無い。こちらもずいぶんと攻撃を受けて、勝負の行方は五分五分と言うところだった。
    「所詮、悪魔にすがるような三流占い師でしょ? サイテーね!」
     アリスが、飛びかかってきた黒服をサイキックソードで薙ぎ払いながら、マジックミサイルで麻耶を狙い撃つ。
    「僕には麻耶の心の闇を、完全に理解することはできない。だけど、占いはきっかけにすぎない。道を開くのは自分自身だろう?」
     望のホーミングバレットが麻耶の身体をアスファルトに叩き付ける。駆け寄ろうとした黒服に、鏡宮の放った鋭いカードの切っ先が襲い掛かる。
    「逃げるな、麻耶。真実を受け入れて生きろ」
    「何がわかると言うの! 誰も真実なんて受け入れない、自分に都合の良い未来しか受け入れようとしない! それなら、……夢を見させてあげればいい」
    「わかるわ、麻耶」
     掲げていたバスターライフルを下ろし、白雪が前に歩み出る。
    「望まない未来を告げるのは心苦しかったわよね。幸せだけを伝えたかったのよね。……でも、それじゃ駄目なのよ。 目を醒ましなさい、麻耶!」
     語りかける白雪に、黒服が飛びかかってくる。庇うように皇が飛び出し、カウンターを食らわせる。毛頭、殺すつもりはない。手心を加えた手加減攻撃だ。がくり、と力を失って、最後の一人も地面に倒れ伏した。
    「……私はこの力を手に入れて、すべての人を幸せにできるようになった。誰も望まない未来ではなく、誰もが望む未来を与えてあげられる。そうよ、あなたたちの望みも叶えてあげる。お金でも、地位でも、名誉でも、恋心でも、何でも思うがままよ。だから……」
     リリシスが掲げた契約の指輪から、ペトロカースの禍々しい光があふれ、麻耶の動きを封じた。身動きの取れなくなった麻耶に、静かに語りかける。
    「……あなたは占い師であって神ではないわ。見ているのは所詮、いつわりの夢の世界。全てを救うことなんて、最初から出来やしないのだから。そのことに、本当は気づいていたはずよ」
    「私、はッ……!」
     呪縛を振り切ろうと麻耶が動くよりも先に、アリスのサイキックソードの切っ先が、麻耶の喉元にぴたりとあてがわれた。
    「ねえ、本当は、悔しかったんでしょう? これからは、自分の力で運命を切り開いてみなさいよ」
     優しき慈悲の剣が、捕らわれた麻耶の心を貫いた。


     コーギーのコマが、ハッハッと舌を出しながら、麻耶の顔を覗き込んでいる。
     彼女の顔を覆っていたベールは、戦闘中にボロボロになり、独特の化粧もすっかり落ちてしまっていた。そこにいたのは、ただのあどけない、幼い少女の姿だった。
    「ごきげんよう。どうやら、無事に戻ってこれたみたいね」
     夢うつつのまま、ぼんやりと視線をさまよわせる麻耶の前で、コマを抱きあげながら白雪が言った。
    「私は、これからどうしたらいいの…?」
     うつむいて顔を覆い、肩を震わせる麻耶に、片手でカードをさばきながら鏡宮が告げる。
    「人は真実を受け入れて生きていくだけの力は持っている。その人が進む道標を明確に示すのではなく、小さなアドバイスをするだけで十分だ。麻耶さん、あなたは他人の幸せの為に、自らを犠牲にしてしまった。一度肩の力を抜いてみると良い。きっと、違う世界が見えるはずだ」
    「違う……世界?」
     戸惑う麻耶に、望が手短に学園のことを説明してやる。
    「だけど、私は、あなた方にも…私の占いを信じてくれた人たちにも、ひどいことをしてきたのに……」
    「それは、その人たちの責任。あなただってダークネスの被害者なわけだし。皆、それぞれ自分の未来は自分で掴み取るべきものでしょ?」
     りりの言葉に、謳歌がそうそう、とうなづく。
     そして麻耶の手を取り、にっこりと笑いかけた。
    「麻耶さん、行こっ! 私たちと一緒に来たら、きっと楽しいよ」

    作者:猫乃ヤシキ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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