燃やして燃やして燃やし尽くせ

    作者:のらむ


     六六六人衆、序列五四一位、『焔』。
     焔は、火を愛する六六六人衆である。
     これだけで、彼女の事をほとんど説明したといってもいいだろう。
     
     焔はとある日、大きなショッピングモールを訪れていた。
     真っ赤なパーカーを着て、何故かところどころに焦げ目がついたジーンズを履いた彼女の姿は、ごく普通の少女の様に見えた。
     真っ赤な髪をかき上げ、その純朴そうな瞳で焔は周囲を見渡した。
    「…………ここには、火が足りない」
     焔は両手を固く握りしめ、開く。
     ただそれだけで、焔の掌の上には綺麗に輝く真っ赤な炎が生まれていた。
     そして焔が右手を横に振ると、巨大な火球が放たれ、一般人へ向かった。
     火球がとある一般人にぶつかると、大きな爆発を引き起こし、周囲の一般人の身体を吹き飛ばし、燃やした。
     謎の爆発に恐れ、パニックになった一般人達が、四方八方に滅茶苦茶に逃げていく。
    「綺麗になったね…………」
     苦しみながら燃えてゆく一般人たちにそう投げかけた焔が、左手を掲げる。
     すると突然ショッピングモール内に巨大な炎柱が立ち上り、多くの一般人達を丸焼きにした。
    「足りない…………もっともっと、もっともっともっともっと燃やさないと」
     焔は左手でとある男性の首を掴み上げ、その身体を持ち上げた。
    「な、や、やめてくれ…………一体、なんで、こんな事を……?」
     顔を歪め、怯えた声で男が焔に問いかける。
    「……………………私、綺麗な物が好きなんだ」
    「え?」
     焔が炎を纏わせた拳で男の顔を殴りつけ、一瞬にして男の命を奪った。
    「だから、今のあなたの顔、すごく好きだよ」
     燃え続ける男の頬に手を添え、焔はそう呟いた。


    「今回私が予知したのは、六六六人衆による大量殺人です。皆さんは現場へ向かい、これを阻止して下さい」
     神埼・ウィラ(インドア派エクスブレイン・dn0206)が赤いファイルを開き、事件の説明を始める。
    「事件を起こすのは、六六六人衆序列五四一位、『焔』。あまりにもそのまんまなので本名かどうかは分かりませんが、本人はそう名乗っています。焔は火を操る六六六人衆で、自身の身体から生み出した火を使い、戦闘を行います」
     焔が大量殺人を行うのは、とあるショッピングモール。その日このショッピングモールには客、店員合わせて三百人程度の一般人がいるが、その内180人が殺されてしまう。
    「皆さんは、焔がショッピングモールの中に踏み入れてから、接触することが出来ます。それ以前に一般人の避難や目立った行動を行ってしまえば、焔のバベルの鎖に察知されてしまうでしょう」
     このショッピングモールは2階建てで、南北に伸びる長方形の形をしている。
     そして出入口は東西南北、それぞれの方角の中心に1つずつ、1階にのみある。焔は東側の出入口からショピングモールに入り、適当に走り回りながら一般人を殺していくらしい。
    「焔の能力値は神秘寄りで、攻撃は総じて火力が高いです」
     そこまでの説明を終え、ウィラは赤いファイルをパタンと閉じた。
    「説明は以上です。中々に厄介で強力な敵ではありますが、皆さんなら六六六人衆の虐殺を喰い止められると信じています……どうか気をつけて。皆さんが無事に、全員で帰ってくることを願っています」


    参加者
    藤柴・裕士(藍色花びら・d00459)
    炎導・淼(ー・d04945)
    乙宮・立花(ゆくさきをしらない・d06338)
    神園・和真(カゲホウシ・d11174)
    四季・彩華(魂鎮める王者の双風・d17634)
    時雨・翔(貫く意志・d20588)
    マナ・ルールー(ステラの謡巫女・d20938)
    白星・夜奈(夢思切るヂェーヴァチカ・d25044)

    ■リプレイ


     今日この日、このショッピングモール内で、1人の少女、六六六人衆『焔』の手によって、多くの人々が虐殺される。
     そしてそれを阻止するために、多くの灼滅者達がこのショッピングモールに集まっていた。
    「………………敵さんが、やって来たみたいだね」
     ショッピングモール内、東口付近で待機していた灼滅者の1人、時雨・翔(貫く意志・d20588)がそう呟く。
     焔はゆっくりと歩き、東口に近づいている。
     ドアを開き、焔が一歩、ショッピングモール内に踏み入った、次の瞬間。
     ジリリリリリリリリリリ!!
     予め火災報知機の近くへ待機し、焔が現れるタイミングを待ち続けていた利恵と矜人が、火災報知機のスイッチを押したのだ。
     これを合図とするように、一般人を避難させるために集まっていた灼滅者達が、一斉に行動を開始した。
    「何…………?」
     ショッピングモール内に響き渡る騒音に、焔は不快そうに顔をしかめた。
    「こっちは危険だ! 向こうに避難しろ!」
     神園・和真(カゲホウシ・d11174)が一般人にそう呼びかけ、殺界形成を発動させる。
     焔を3体のサーヴァントが焔を取り囲み、その外側から更に5人の灼滅者が焔を取り囲む。
     そして焔に向けて、炎導・淼(ー・d04945)が突撃する。
    「火の用心! 六六六人衆、火事のもと……か?」
     拳に雷を収束させた淼が、焔の懐まで潜り込む。
    「というか六六六人衆が炎使ってんじゃ無えよ!! 俺達ファイアブラッドの立場も考えろ!!」
     そして焔の鳩尾に拳を叩き込み、電撃が焔の全身を巡った。
    「…………灼滅者、か。何の用かな? 邪魔なんだけど」
     焔は黒い炎を拳に収束させると、淼に向けて振り上げる。
     しかしその拳が淼に直撃する直前に、和真のビハインド『カゲホウシ』が割り込み、その攻撃を受け止めた。
    「分かりきってるだろう……お前を止めに来たんだよ!!」
     和真は焔に飛びかかり、脳天目掛けて盾を振り下ろす。
    「グッ…………止めに来た? どうして? 私、何か悪いことしてる?」
     一瞬よろめいた焔だが、右腕に炎を収束させ、反撃に転じる。
     そして形成した巨大な火球を、前衛に向けて投げつけた。
    「炎もこんな風に使われて泣いているだろうね……ここでその無慈悲を断つ」
     スレイヤーカードを開放し、黒のロングコート姿となった四季・彩華(魂鎮める王者の双風・d17634)は、火球の一撃をひらりと身を翻して避ける。
     更に片腕を異形化させた彩華が、姿勢を低くして焔に突っ込んだ。
    「自覚はなくとも、君の行おうとしている行為はあまりにも凶悪すぎるんだよ」
     焔の腹めがけて強烈なアッパーカットを繰り出し、焔の身体を浮かせた。
     空中に浮いた焔に、白星・夜奈(夢思切るヂェーヴァチカ・d25044)が追撃を仕掛ける。
    「自分のすきを、通すために、たくさんのひとを、ころす…………ぜったいに、りかいしたくない」
     夜奈が跳び上がり、焔の身体に縛霊手の爪を突き立て、貫通させる。
     そしてそのまま地面まで引きずり下ろし、焔の身体に大きな切れ目を入れた。
    「私はただ…………」
     地面に仰向けに倒れ、焔は淀みない瞳で天井を見つめた。
     そしてパチン、と指を鳴らすと、焔の身体を中心に巨大な炎柱が立ち上り、前衛にいた灼滅者を包み込んだ。
    「全く困ったものだね……そんな気軽に人を丸焼きにしないでほしいな」
     翔は身体に纏わりつく炎を振り払い、盾を構えて焔に攻撃を仕掛ける。
    「………………どうして? だってほら、炎って綺麗じゃない」
     焔は右腕に炎を収束させると、その塊を翔に向けて撃ちはなった。
    「いや~、そういう問題じゃないと思うんだよね」
     翔は盾でその塊を弾き飛ばし、そのまま焔の鳩尾を抉るように殴りつけた。
    「…………分からない。どうしてあなた達が、分からないのかが」
     後退りながら、悲しげにそう呟く焔。
     戦いは、まだまだ終わりそうにない。


     戦闘開始直後から、多くの灼滅者達が一般人の避難誘導をしていた。
    「みなさま逃げてくださいまし! あっ、マナはあのおねーさま方に譲ってもらうの!」
     マナ・ルールー(ステラの謡巫女・d20938)はラブフェロモンを使用し、一般人東口付近の一般人達を戦闘場所から遠ざけるように誘導していた。
    「んー……皆さん、大丈夫かしらね……」
     焔と戦闘を行っている仲間たちの方を振り返り、マナが心配そうに呟いた。
     サーヴァントの数が多いとはいえ、六六六人衆に対し灼滅者5人で相手取るというのは、それなりに危険を伴う作戦だった。
    「そうやな……早いこと避難を終わらせて、戦闘に合流せんとな」
     藤柴・裕士(藍色花びら・d00459)がマナの言葉に頷き、気合を入れて一般人の避難を行っていく。
    「……大丈夫? つかまって」
     乙宮・立花(ゆくさきをしらない・d06338)は避難途中に足をくじいた一般人を抱え上げ、戦闘場所から遠ざけるように移動する。
    「…………あ、この人を店の外まで運んでくれる? ……それじゃあ、よろしくね」
    「おう、任せろ!!」
     立花から一般人を預けられた風が、ライドキャリバーを使って店の外まで走り去っていった。
    「あ、あ、あそこから火の手があがってるぞ!! 皆逃げろ!!」
     恣欠がそう叫びながら出口を指さし、パニックに陥った一般人達に、逃げる方向を指し示す。
    「東口と1階は危ないから近づかないで。南北の入口から避難して。ボクと約束してくれるかな?」
    「おちついて、ね」
     深夜や砂羽は、ラブフェロモンを使用して、一般人達を落ち着かせながら誘導していく。
    「悪いのう、少し手荒じゃが……まあ死ぬよりはましじゃろう?」
    「……おじいさん、大丈夫ですか? つかまって下さい。すぐに外まで運びます」
     篠介と依子が、怪力無双を使用し、一般人を担ぎ上げながら避難を行っていた。
    「落ち着いて順番に出て下さい!」
    「皆さん、出入口はこちらです! あと少しですよ!」
     正流と律希が協力し、南口付近で避難活動を行っていた。
    「おじいさん、大丈夫ですか!? ……あっ、そこの果乃くんっ、手伝って!」
    「…………ちッ、仕方ないか」
     そして北口付近では、蘭と果乃がなんやかんや協力して避難活動をしていた。
    「炎は私達の専売特許、六六六人衆なんかには負けないわ!」
    「避難誘導を任されたしな……必ず、あの不届き者に勝利するのだぞ、炎導」
     淼の要請を受け、『炎血部』の部員たちが集まっていた様だ。
    「盾として姫の危機を救うは必然。ここは我々にお任せを、姫」
    「……必ず勝つのよ。そして生き残って」
     ユーリーやライラなど、彩華に協力するために避難誘導に参加している者もいた。
    「危険だよ! にげて、にげて!」
    「あちらから逃げなさい、早く!!」
     王者の風を利用して避難を行っているのは、多数の灼滅者が集まった、チーム『ようたんと愉快な仲間たち』だ。
    「……今だ、降下しろ!!」
    「了解……っと、ちゃんと掴まってよ!」
     2階にいて、かつ素早い移動が困難な人間を優先的に、『RiskBreaker』の面々が逃していた。
     そして数分が経過したが、一般人の被害が出ることはなく、避難誘導はかなりスムーズに進められていた。
     理由はいくつもあるだろう。
     一般人の避難を行うために訪れていた灼滅者の数が、とても多かったこと。
     焔が姿を表した瞬間に火災報知機を鳴らし、更にそこから強襲することで、焔の意識を一般人から大きく逸らしたこと。
     戦闘の危険度が増すリスクと引き換えに、8人の内3人の灼滅者が東口付近の一般人達を最優先で逃していったこと。
     戦闘中、焔を取り囲む様意識しながら、防御重視の戦闘を行い、かつディフェンダー陣が『怒り』で焔の意識を戦闘中の灼滅者に向けさせるよう尽力したこと。
     これらによって、一般人の死者が出ることが無く、東口、西口付近の一般人の避難はほぼ完了していた。
    「ショッピングモールの中にまだ一般人はいそうやけど……とりあえずこんなもんやろか」
     裕士が、仲間にそう呼びかける。
    「そう、だね……ここから先は、サポートしてくれる皆に任せても、大丈夫そう」
     立花はそう言って、スレイヤーカードから殲術道具を取り出し、構えた。
    「それじゃ、行きますよう!」
     そう叫び、駈け出したマナを先頭に、灼滅者達は東口付近の戦闘場所に向かっていった。


    「あなた達は、全然綺麗じゃない…………」
     焔が両手を灼滅者達に突き出すと、掌から火炎が吹き出され、前衛を襲う。
    「そんなに綺麗なのが好きなら、自分でも燃やしていろよ……」
     火炎から逃れた和真が、足元からするりと影を伸ばす。
    「それやってみたけど、近すぎてよく見えなかった。逆に」
     そう言って少しおどけた焔の両手両足を、和真が放った影の触手が絡めとる。
    「この状況で、よく笑ってられるな…………今だ! 追撃を!」
     和真の呼びかけに応え、彩華が両足に炎を纏わせ、追撃をしかける。
    「炎が綺麗かい? 命の火は燃え尽きる時が一番綺麗なんじゃない。生きている、燃えて輝き続けてる瞬間が綺麗なんだよ」
    「悲しい意見の相違だね…………私は、命を糧としてギラギラと燃え続ける炎が一番綺麗だと思うの。次に線香花火」
     そう言って身体に纏わりついた触手を引きちぎった焔だが、僅かに遅かった。
    「……やっぱり、君に言っても無駄だった様だね」
     そして彩華が放った炎の蹴りが焔の鳩尾に突き刺さり、その身体を吹き飛ばした。
     地面を転がっている途中で地を蹴り、スッと立ち上がった焔の前に、戦闘に合流したマナが立ち塞がった。
    「むふふ。はじめましてのこんにちは! マナと一緒に遊びましょ!」
    「え、よくわからないけど……お断りしま」
    「炎はキレイ。それはよーく分かるのだけど、氷もとってもキレイよう! マナの魔法、とくとご覧あれ!」
     焔の言葉を途中でぶった切り、マナが問答無用で槍を構える。
     そして妖気を集めて創りだした氷の刃を放ち、焔の肩を貫いて凍らせた。
    「うわ、冷たい最悪だ…………」
     焔は心底嫌そうな顔をして自己回復を施し、肩の氷を砕いた。
    「それくらい我慢せえや……自分がどんなに酷い事をしようとしたのか、分かってへんのか?」
     大鎌を構え、裕士が焔に向けて駆け出す。
    「え? ああ、うん、まあ」
     きょとんした顔で問い返す焔。
    「ほんまに性質が悪い六六六人衆やなぁ…………俺の目の前で、人は殺させへんで!!」
     一瞬で焔の背後に回り込んだ裕士が、足を目掛けて大鎌を横に大きくなぎ払う。
     焔の両足が大きく斬りつけられ、焔がおぼつかない足取りで裕士から離れる。
    「まあ、ね…………あなた達から見れば私が異常だということは、何となく理解した」
     手を掲げ、巨大な黒い火球を創りだす。
    「逆もまた然り、ではあるけど」
     そして灼滅者に向けて手を突き出すと、火球が前衛に向けて放たれた。
     その火球の前に、夜奈のビハインド『ジェードゥシカ』が飛び出し、仲間の1人から攻撃を庇った。
     火球が地面に衝突した瞬間、巨大な爆発が前衛を吹き飛ばしたが、その爆煙の中から夜奈が飛び出してきた。
     夜奈の手には、クルセイドソードが握られていた。
    「ヤナは、あなたを、りかいしない。あなたと、同じにはならない……ただあなたをころして、ころさせないだけ」
    「その考えは、すごく分かりやすくていいと思う」
     僅かに笑ってそう応えた焔の心臓に、夜奈は剣を突き刺し、貫通させた。
    「…………」
     そして無言で剣を力強く引き抜くと、焔の身体からは血と炎が同時に噴き出た。
     そしてその夜奈に続き、翔が追撃を仕掛ける。
    「オレは、可愛い子とか……未来のある人達を殺させたくないんだよ。絶対にね」
     全身に纏っていたオーラを拳に集束させ、翔は焔の正面から突撃する。
    「その気持ちは、全く分からない」
     ほぼ同時に拳に炎を纏わせた焔が、翔へ向けて大きくアッパーカットを放つ。
    「よっ……と! 危ない危ない…………」
     ギリギリの所で焔の拳を左手で受け止めた翔が、右拳を固く握りしめた。
     そして翔が焔の顎先へカウンターのアッパーカットを放つと、焔はよろめきながら後ろへ退いた。
    「逃さないよ…………」
     立花は弓を構えると鋭い視線で焔を見据え、狙いを定める。
    「……危ない」
     立花の攻撃を察知した焔が、矢を避けようと横に跳ぼうと地を固く踏みしめた。
     だが焔が動く前に、立花の足元へ回りこんでいた霊犬『佐助』が立花の足を斬りつけ、その動きを一瞬鈍らせた。
    「………………今」
     そして立花が放った数本の矢は、正確に焔の急所を捉え、貫いた。
    「…………そろそろ潮時……結局、ここは火が足りないままだったな……」
     心臓に突き刺さった矢を引き抜きながら、焔が呟く。
     そしてその焔の前に、ロケットハンマーを肩に担いた淼が進み出る。
    「火が足りねぇのはてめぇの方だろ、クソガキ! 俺が、ここで燃やし尽くしてやる!」
     ロケットハンマーを振り上げ、淼が叫ぶ。
     そしてその言葉を切欠に、灼滅者達が一斉に攻撃を仕掛ける。
     マナが鋭い飛び蹴りを放ち、焔の額を打ち、
     翔が同時に焔の後頭部を盾で殴り飛ばす。
     立花が異形化させた腕で腹を打ち、
     和真が影の触手で全身を締め上げる。
     裕士が風で形成した刃を貫通させ、
     彩華が首に針を突き刺し、毒が身体を蝕む。
     夜奈が炎の蹴りを背に放ち、
     淼がロケットハンマーに爆炎を纏わせた。
    「火遊びしたけりゃ、俺の炎を消してからにするんだったな!!」
     そして淼はハンマーをフルスイングし、激しい衝撃と、身を焦がす炎が焔を襲った。
     ゴロゴロと地面を転がり、焔の身体は壁にぶつかって止まった。
    「痛いし、慣れない熱さ…………残念。全然燃やし尽くせ無かった」
     立ち上がった焔は、一瞬思考する。
     これ以上戦いを続ける必要は特に無い。目の前の灼滅者達を倒せる可能性も無くはないだろうが、そうする理由が特に無いし、これ以上攻めて誰かに闇堕ちされても面倒だ。
     それに、燃やそうとしていた人達もいつの間にか全員いなくなっていた。
     自分の命が一番大事だ。目の前の相手が自分を灼滅する可能性がある以上、さっさと逃げようそうしよう。
    「…………じゃ。そういうわけでさようなら」
     焔は片手をあげ、東口に向けて駆け出した。
     灼滅者達はまだ全員立っていたものの、前衛に攻撃が集中していたためそれなりに消耗が激しい。焔の灼滅を狙えば、それなりの被害が出るのは避けられないだろう。余裕があるかと聞かれれば微妙な所だ。
     そして今回灼滅者達は焔の撃退を目的にしていた者が多く、灼滅まで想定した者は少なかった。
     何にしても、このまま戦闘を続けるのは危険だろう。
    「…………もしもまたあなたたちに会う機会があれば、その時は本当に綺麗な炎を見せてあげたいな」
    「ありがた迷惑だ」
     焔の言葉に和真がそう応えると、焔はにこりと笑みを浮かべ、そのままショッピングモールから走り去っていったのだった。


    「いや~、終わった終わった。俺らの作戦、割と完璧だったんじゃないかな?」
     ほっと息を吐いた翔の傷を、霊犬『一心』が癒していた。
     翔の言う通り、一般人を保護するという灼滅者達の目的は、完璧に達成されていた。     
     死亡者ゼロ。180人の犠牲者は、完全に救われたのだ。
    「素晴らしい戦いだった。それに、得られた戦果はとても大きいだろう」
    「今はゆっくりと身体を休めてね」
     雛菊といろはが、大きく負傷した灼滅者たちへ、心霊手術を行っていた。
    「ここで灼滅出来る目も、無くは無かったと思うんやけど……」
    「どうだろう。焔は今回前衛に集中して列攻撃を放っていたから、一斉に前衛が倒れて一気に形勢逆転、みたいな事もあったかもしれない」
     裕士と彩華が、焔を灼滅出来ていたかもしれない可能性について話していた。
    「まあ、そんな小難しい話は置いておくですの! マナ達は、焔様に完全に勝ったのですからね!」
    「ボクも同感……相当な強敵だったのは、間違いないし」
     マナと立花は、割と素直に勝利を喜んでいた。
    「ただ、次にあいつに会った時は、絶対容赦しねえけどな!」
    「ん、そうだね。次は、ぜったいにころす」
     淼と夜奈が、いつか焔を灼滅しようと意気込んでいた。
     戦いは終わり、灼滅者達は揃って学園へ帰還した。
     誰の記憶に残らなくとも、灼滅者達は180人の人間の命を救った。
     それは確かな事実だった。

    作者:のらむ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月8日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 15/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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