獄魔覇獄前哨戦～八龍死闘

■リプレイ

　今回大規模な戦力を投入した中で、彼ら八名は別班と連携して北側でラグナロクの捜索を行う事となった。
　大規模な人員を投入した為、捜索に関してはかなり綿密に打ち合わせを行えたと言えよう。
「なんや、誰見ても敵ちゃうかって思うな」
　周囲を見まわしながら、花衆・七音（デモンズソード・d23621）がそう軽い調子で言って笑った。
　軽口を叩いてはいるが、七音も仲間も普段通りに語らいながら捜索に注意を向けている。片手に持った携帯で、他の班との連携を取っていた。
　それも、情報が漏れないように暗号化まで行っていた。
「それで、うちらはどこから回ればええの？」
　七音が小瀬羽・洋子（清貧清楚・d28603）の手にした地図を覗くと、洋子はスーパーＧＰＳの力で、地図に自分現在位置を示した。
　横須賀市の北地区は工場や軍基地の多い場所であるが、自分達が担当する北地区の中央付近は軍基地が間近である。
「京急田浦から田浦駅周辺でしょうか。この当たりは公園も多いですし、一通り回れると良いのですが」
　洋子が皆にルートを伺う。
　検討の結果、ハイキング用のマップを頼りに船越南郷公園を捜索し、梅の里へ向かう道を回る事となった。
「出来るだけ住宅地は避けて通ろう。彼女も敵を避けて歩くだろうし、人目に付く道路はあまり歩かないだろうから」
　紫乃崎・謡（紫鬼・d02208）はそう話したが、北地区中央は住宅地が広がっている為、これを避けて通るのが困難である。梅の里周辺は林が広がっている為、そこを通る可能性はあるかもしれない。
　ルートを確認しながら、一行は歩き出した。

　まず彼らが立ち寄ったのは、船越神社。
　車道側から階段を上がると、立派な社殿が見える。周囲を見まわすが、特にラグナロクらしい人物は見当たらない。
　社務所にも人が居ないらしく、相良・太一（再戦の誓い・d01936）は周囲を見回りながら掃除をしていた老人に声を掛けた。
「おみくじありますか？」
　元気のいい声でそう聞くと、皆の視線が太一に降り注ぐ。
　おみくじを引いている暇はない、と言いたいのかもしれないがこれも情報収集の一つである。太一は社務所に人がいないのを残念がりながら、ここはよく人が来るのか等をさりげなく聞いている。
「今日はあんた達が初めてだよ」
　老人がそう答えた。
　この当たりを通りがかったかもしれないが、立ち寄る事はなかったという事か。
　ローゼマリー・ランケ（ヴァイスティガー・d15114）の頭の上にいた猫の姿の一之瀬・暦（電攻刹華・d02063）は、ひょいと飛び降りて社の裏手に回る。太一がそうして話をしている間にぐるりと回ってみたが、やはり誰も居ない。
　境内の端に行くと、そこから車道や海側の町並みがよく見えた。
「にゃあ…」
　小さく鳴いてみせて、目を細める暦。
「ラグナロクもそう簡単に見つかるようなヘマはしないでショウ。大丈夫、横須賀中で学園の仲間が大捜索中デスよ」
　ふと見上げる暦も、焦っている訳では無い。
　ただ、慎重に周囲に警戒を続けていた。
「そろそろ出発するよ」
　エアン・エルフォード（ウィンダミア・d14788）が声をかけると、暦はひょいとローゼマリーの頭に乗っかった。この辺りは住宅地が密集している為、ここを抜けながら梅の里の方へ真っ直ぐ森を抜ける事にする。
　この間は、太一と真風・佳奈美（愛に踊る風・d26601）の二人が隠された森の小径の力を使いながら、山道を歩いた。
「方向は合っていますか？」
　たびたび佳奈美は、地図を洋子に確認しながら歩く。山中の行程ではあるが、洋子は疲れを見せる事もなく、笑顔で佳奈美もあとに続く。
　山道を抜けていくと、やがて梅の里へと辿り着く。その田浦梅林の端っこに、ちょこんと神社はあった。
　神社と言うより、社である。
「第六天神というそうですわ」
「第六天やて？　なんや戦国大名思い出すなァ」
　地図を見ながら洋子が話すと、七音が声をあげた。おそらく全員の脳裏にその名が浮かんだかもしれないが、謡は目を細めて思案するように社を見つめる。
「第六天……か。よくある名ではないだろう」
　実際は関東を中心に同名の社は点在しているが、それについて明確に説明出来そうな宗教知識を持ちあわせた灼滅者は居ないらしく、ひとしきり戦国大名の話をして終わるのだった。
「こういった社にも、彼女はここに来ただろうか」
　エアンが謡に聞く。
　二人で社の後ろに回ってみたが、人が立ち入った跡があるような気がする。しかし周囲を見まわしても誰もいないし、ここに立ち寄ったとしてもすでに立ち去った後だろう。
　ここにも居ない……とエアンは呟く。
　平静を装っているが、時間が経つにつれ焦りが出てくるのが人というものだ。
「梅林の中であれば、人の目から隠れるのも容易じゃないかな？」
　エアンに促されて歩きながら、七音が道中ゴミ箱を開けて覗き込む。
　こんな所に居ないだろうかと真剣に探している七音に、突っ込みもない謡と涼しげに耳を揺らす暦。
　迷子のラグナロクちゃん、出ておいで。
　七音の歌うような誘いの言葉が響くと、つい佳奈美もくすりと笑った。梅林の花はまだ寂しい様子であるが、何もない冬の1日に訪れていたらきっと美しい光景だっただろう。
「ラグナロクさんと会えたら、今度は梅が咲いている時に来たいで…」
　と言いかけた佳奈美を、ふと太一の声が制する。
　少し離れて梅林をうろうろしていた太一が、こちらを振り返って呼んでいた。いつもの笑顔は消え、緊張した面持ちである。
　駆け出した佳奈美の目に映ったのは、無残な姿の人。
「獣の仕業……もしかすると古の畏れか」
　謡が振り返ると、急いで七音が携帯を使って仲間に確認しはじめる。太一がしゃがみこんで触れるが、ピクリともしない
　そっと頭の上から暦を降ろすと、ローゼマリーはその側にしゃがみ込んだ。
「少しの間、周囲を警戒していてくれマスカ？」
　彼女がそう頼むと、暦は元の姿に戻って視線を梅林の中へと向けた。即座に太一、そして佳奈美達も襲撃に備える。
　それだけではなく、ラグナロクが居るなら確保せねばならない。
「解いた方がいいな」
　暦はそう言い、小さくヴァイス・シュバルツと呟いた。彼女が力を解放すると、襲撃に備えてそれぞれ力を解放する。
　じっと骸の様子を見ていたローゼマリーは、仲間が警戒している間……視ようとしていた。
　だが。
「……アンデッドだと思いマス。でもこの遺体の様子からすると、どこかの組織との抗争デスネ」
「どうやら戦闘班が古の畏れと遭遇して、対処してくれているようやで。この付近にまだ居るかもしれへんな、放っておいてええんかいな？」
　連絡を取った七音が、皆に意見を求めた。
　他班の情報によれば、北の方角から現れて南下しているらしい。異変を感じた暦が、指を指す。
　さらに梅林の向こうから、人が逃げてくるのが見えたのだ。
　逃げてくる人を引き留めて話を聞こうとするが、話にならない。情報を聞き出すのがままならない為、そちらに向かうか無視するかの二択になる。
「おそらく古の畏れデスね。このまま南下すると、いずれ市街地に出マスよ。それに梅の里にいる人が危険にさらされマス」
　淡々と、そうローゼマリーは伝えた。
　判断を伺うように、皆の顔をじっと見つめるローゼマリー。どうしたいとローゼマリーは言う事はなかったが、どちらの判断にも従うつもりだった。
　皆それぞれ迷っているようだが、佳奈美はどこか落ち着かない様子に見える。
「複数いたうち、少なくとも一体はここに残っているという事ですよね」
「そうデスね、人を襲うかどうかは分からないデスが、一般人を避けて通ると期待しない方がいいデショウ」
「……酷い」
　佳奈美は、周囲を見まわした。
　微かに、アスレチック施設の方で悲鳴が聞こえた気がする。戦闘は避けるべきだろうが、これでは……。
　走りだそうとした佳奈美を、暦が腕を掴んで引き留めた。
「待って。……戦闘班は来られる？」
　暦が冷静に、戦闘班の状況を七音に聞いた。
　現在周囲のダークネス組織や灼滅者の戦闘班と交戦中らしいが、梅の里での古の畏れに最も近いのは自分達だけである。
「戦闘班が来るより、古の畏れがここの客を手に掛ける方が早い。一般人に犠牲が出る可能性があるなら、無視して通れはしない」
「……だったら、もう決まりではありませんの？」
　ふ、と洋子は落ち着いた表情で謡を見返す。
　仲間が間に合わないのなら、民間人を見捨てて逃げるのが灼滅者ではあるまい。洋子の表情は、そう語っていた。
　ローゼマリーも力を解放し、古の畏れが向かった方向を指し示す。
「決まりデスね！　多分古の畏れは、向こうデス。全力で追いかけるのデスよ！」
　走り出すローゼマリーと仲間を追うように、エアンも駆け出した。
　ラグナロクを発見するのが、自分達の班の役目。
　……だが。
　のんびりとアスレチック私設で遊ぶ親子連れの多い場所に駆けつけると、古の畏れがたった今六六六と思われる人物を所だった。
　その側には、逃げ遅れた子供も呆然と座り込んでいる。
「……！」
　言葉なく拳を握り締める、エアン。
　古の畏れの刃が泣く子どもに向けられるのを見て、ローゼマリーと暦は同時に飛び出していた。
　エアンは飛び出したい衝動を堪え、即座に殺界を展開する。
「ラグナロクを見つけないうちに使えば、彼女を探すのが困難になるかもしれないけど…」
　だが今はこうしなければ、人的被害を押さえられない。それを無視して戦闘班が来るのも一般人の避難も行わずに撤退するのは、義に悖る。
　古の畏れが振り下ろした腕を、暦が真っ向から受け止めた。衝撃は大分受け流したが、その一撃は暦に爪痕を残し血を滴らせる。
　無言で、暦は古の畏れを見据えていた。
「大丈夫デスか？　ちょっと向こうに行っているのデス」
　ローゼマリーが声を掛けると、座り込んだ少年は転がるように逃げ出した。
　少年が立ち去り、他の一般人も逃げるのを確認すると七音はサウンドシャッターで音をかき消した。
「じゃ、はじめよか。うちら、あんたらに構ってる暇ないねん」
　仲間の電話をいつでも受けられるようにして、歪な魔剣の姿と化した七音は笑う。

　吠え立てる古の恐れの牙を、暦はじっと受け続けた。
　シャドウのマークを具現化させると、体中に血からがわき上がるのを感じる。力は暦の傷を癒していき、暦はそれを受け入れるように意識を研ぎ澄ました。
「出来るだけ早く片付けて、あとは戦闘班に任せた方がいい」
　仲間に伝え、暦は全力でバベルブレイカーを古の畏れに打ち込む。
　巨体を抉るバベルブレイカーを睨み付ける古の畏れから、するりと後ろに下がって距離を取る暦に、横合いから前に踏み込んだローゼマリーのビハインド。
　ローゼマリーが呼び出したベルトーシカは、彼女とぴたりと呼吸を合わせて古の畏れの突撃を受け止める。
　ビリビリと腕が痺れるが、ローゼマリーはお返しとばかりに強烈な回し蹴りを喰らわせた。
「そうしたいのは山々なんデスが」
　ふ、と呼吸をしてローゼマリーが身構える。
　後ろから響いた洋子の歌声に耳を傾けると、暦の傷が癒えるのが分かった。柔らかな歌声が、意識を落ち着かせてくれる。
　一呼吸置いてエアンが結界を展開して古の畏れを捕らえた。
　ここで片付ける為、これ以上進ませない為に結界に閉じ込めるエアン。
「今だ、捕まえてくれ」
　エアンが声を掛けると、謡がロケットハンマーを地面に叩きつけた。衝撃で古の畏れの足が止まると、飛び出した佳奈美がサイキックソードで薙ぎ払った。
　一歩間違えれば、この公園が死屍累々と化していたかもしれないのだ。
　佳奈美の心に、影がよぎる。
「こんな、たった一人の為に……」
　思いを打ち込むように、剣を振るう佳奈美。
　切り裂かれた足を引きずるように引き下がった古の畏れを、太一が更に槍で穿った。地面に串刺しにするように、槍が畏れの体を貫いた。
　ずるりと引き抜くと同時に、古の畏れが消滅していく。
　やれやれ、と太一は息をつくと周囲を見まわした。
「片付いたか？」
　周囲はすでに誰も居らず、梅の里はしんと静まりかえっていた。苦笑まじりに、太一が頭を掻いた。
「……っと、どうやらラグナロクさんも逃げてそうだな」
　逃げるなら南か……と太一が見まわしていると、彼らの携帯に連絡が入った。

　北地区の戦いは戦闘班や他のダークネス組織が的になり、戦闘が激化。ひとまず、太一たちもその場を戦闘班に引き継いだあと、南の方へと捜索に向かおうとしていた所だ。
「東地区班が、ラグナロクを確保したそうや」
　七音が、他の班の報告を伝えた。
　しかも、六六六人衆が攻撃を仕掛けてきたらしい。現在周囲の仲間が応戦しているらしいが、ラグナロクの安否については連絡が入っていない。
「今からじゃ、どう頑張っても間に合わないぞ」
　ひとまず歩きながら、太一が伝えた。
　太一や佳奈美の隠された森の小径と、洋子のスーパーＧＰＳを使ったとしても、戦闘終了にはとても間に合わないだろうと太一は言う。
「だけど、他のダークネスが襲撃する可能性もある」
　そうエアンは話ながら、仲間が確保したという報告にはほっとしていた。六六六が出現した事には油断がならないが、戦闘が激化した末闇堕ちという事はなかろう。
　……そうあってほしい。
　思案していると、洋子が眉を寄せた。
「古の畏れが暴れているのは、確かに見過ごせませんわ。でもラグナロクさんの安否も気になります」
　何せ、ラグナロク確保の報告を受けた他の組織の戦力が集中する可能性があるのだ。それを洋子も恐れていた。
　悩んだ末、最初に口を開いたのはエアンだった。
「戦闘班と捜索、役割を分けた以上俺達は東地区に向かおう。俺達は彼女を探して保護する為に来たんだから」
　エアンが言うと、洋子はこくりと頷いた。
　今は、最初の目的に従ってラグナロクを守りにいこうと。
　急ぎ向かいつつ、佳奈美はふと思い返していた。
「……ラグナロクさんって、なんだかかわいそうですね」
「可哀想、か」
　もしかすると、ラグナロクの力を持つが故に占いに惹かれたのだろうかと謡は想像していた。そのラグナロクの力に振り回されるとは、彼女も思いもしなかっただろう。
　それにしても、六六六に古の畏れ、そしてカンナビス。
「そういえば、シン・ライリーはどうしたんだろうか」
　一番手薄になっていたシン・ライリーの事を、謡は懸念していた。ここまで、彼らの話は一切聞いていない。
　それが、逆に心を騒がせる。
「獄魔大将の力を見極める事、とエクスブレインは言っていた」
　暦が言うと、謡は小さく頷いた。
　それがどう動くのか、気になる。
　謡によぎった一抹の、不安。

作者：立川司郎	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年12月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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