獄魔覇獄前哨戦~八強争奪戦

    作者:叶エイジャ

     神奈川県南部、横須賀市。
     東京湾と相模湾に面する、海の町。
     その横須賀市の海底から、強大な力が上陸しようとしていた。
     発光する球体――
     怪しく光る球が、海面を破り、宙へと飛び出した。そのまま、横須賀の街へと向かってゆっくりと進行を続ける。
     それはふらふらと空中を漂う、どこか頼りなげな動きであったが、内包した「力」の強さ……サイキックエナジーの量は闇夜の灯のごとく、はっきりとしたものだった。やがて、横須賀市のほぼ中央へと到達すると、地面にふわりと着地する。
     薄まる光の中には、光の束で縛られた小柄な人影があった。
    「――あれ?」
     光が完全に消え、拘束を解かれた少女は、驚いたように周囲を見まわす。
    「ここ、どこ?」
     たった一人――ラグナロクの少女は状況が分からず、ただただ困惑していた。

    ●獄魔覇獄前哨戦
     8名の獄魔大将に告ぐ。
     獄魔覇獄の戦いの火蓋が切って落とされた。
     横須賀市中央部に放たれた、ラグナロクを奪い合え。
     この前哨戦で、ラグナロクを捕らえ確保したものが、獄魔覇獄の戦いをリードする事になるだろう。
     ラグナロクの確保に全力をつくすのも良いだろう。
     獄魔覇獄の戦いの為に戦力を温存するのも良いだろう。
     敵戦力を見極める事に重点を置く戦いも悪くは無い。
     獄魔大将として、軍を率い、そして、自らの目的を果たすがいい。


    「みんなには、ラグナロクの保護をお願いしたいんだよ!」
     天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)がそう切り出した。
     先刻、武蔵坂の獄魔大将となった猫乃目・ブレイブの「紋章」を通じ、情報がもたらされたのだ。
     その内容は、各獄魔大将にラグナロクを奪い合わせること。
    「たぶんこれが、全勢力が一堂に会す最初の戦い――獄魔覇獄の前哨戦になるとおもうよっ」
     ラグナロクは体内に多くのサイキックエナジーを溜め込んではいるが、戦う力はほとんどない。早急に見つけ、そして他勢力に対処する必要がある。
     探す事を優先しても良いし、ラグナロクを奪われないよう、こちらから他勢力を襲撃するのもありだ。
    「獄魔覇獄の戦い自体も重要だろうけど、まずは狙われたラグナロクを救出するために、皆の力を貸してほしいんだよ!」
     カノンはそう言うと、説明を続けた。

     この戦いに参加する勢力は、武蔵坂以外に7つ。
    「まずはブエルの勢力から言うね。ブエル兵達が住宅街をしらみ潰しに探しまわっているみたい」
     しかもこれにより、同時に新たなブエル兵をも生み出している。捜索と戦力の増強を共に行っているようだ。
    「次に、シン・ライリーの勢力。シン・ライリー本人が来るみたい」
     獄魔大将であるシンを始め、少数精鋭が密かに横須賀入りをしているようだ。
    「目的は、他の獄魔大将の力を見極める事みたい。偵察かな? 表立った動きはしないみたいだよ」
     もちろん、シン・ライリーが灼滅されれば、その勢力は敗北となる。
     その次は、クロキバ勢力についてだった。
    「犬や猫の眷属を派遣して、捜索を行ってるよ。ただし……」
     主力であるイフリートは殆どいない。そのためラグナロクを発見しても、確保する戦力はないようだ。
    「六六六人衆の勢力があって、これは人事部長と呼ばれる六六六人衆が指揮を取ってるよ。新入社員って呼ばれる六六六人衆と、派遣社員とされる強化一般人を使って、捜索を行ってるみたい」
     また、彼らは灼滅者を警戒している。仮に遭遇すれば、灼滅者の撃破を優先的に行うだろうとカノンは言った。
    「デスギガス……四大シャドウの一角みたいだね。この勢力は情報収集を優先するみたい」
     横須賀市民のソウルボードを移動しながら、状況を伺っているようだ。とはいえラグナロクが発見され、それが強奪可能ならば、襲撃してくるかもしれない。
    「あとは……そうだね、ナミダ姫の勢力から言うね。ここはちょっと、他より分からないことが多いかも」
     スサノオの姫、ナミダの率いる勢力はラグナロクの探索は行わず、多数の『古の畏れ』を、横須賀市内に出現させ、無差別に敵を襲わせようとしている。
    「たぶん、敵対勢力の戦力を測るのが目的だと思うんだけど……他に目的があるのかも」
     白炎の影響か、詳細の精度は他組織より下がるようだ。
     カノンが一拍置いて口を開く。
    「最後に……カンナビスの勢力。多数のアンデッドを使って、ラグナロクの確保に動くみたい」
     そのアンデッドは、病院の灼滅者の死体から生み出した実験体アンデッドだという。また、そのアンデッド達の外見を、灼滅者であるように偽装しているらしい。
    「自分達の情報を他の勢力から隠そうとしているみたい……だね。みんなも気を付けて」
     これだけ多勢力が入り乱れると、ラグナロク発見から帰還までに交戦する可能性はかなり大きい。
     だが、他勢力の動向がある程度分かっているぶん、動きやすくもある。
    「交戦を避けてラグナロク捜索に力を割くのか、捜索を有利にするため他戦力を削るのか、それはみんなに任せるよ」
     みんな無事に帰ってきてね――カノンはそう締めくくった。


    参加者
    守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)
    ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)
    柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)
    白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)
    黒柳・矢宵(マジカルミントナイト・d17493)
    山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)
    カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)
    白石・作楽(櫻帰葬・d21566)

    ■リプレイ


     武蔵坂学園が『東』と定めた地区。
     そのうちの浦賀駅から西。安房口神社を中心とした地域に、灼滅者たちの姿があった。
    「失礼」
     道端で会話をしていた主婦に、ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)が「警察手帳」と書かれた手帳を見せる。
     同時にESP『プラチナチケット』を発動。
    「唐突で済まないが、俺はこういうものだ。人を探してるんだが」
    「変わった髪飾りを付けた女の子を見ませんでしたか? こんな感じの髪飾りで~」
     彼の傍らにいた黒柳・矢宵(マジカルミントナイト・d17493)が人懐っこい笑顔を浮かべ、描いた絵を見せる。他にも身につけている物や服などの特徴を挙げていった。いずれもラグナロクの手掛かりだ。
     ――知らない、みたいかな?
     テレパスで受け答えする人々の表層意識を読み取りながら、矢宵は首を振った。収穫なし。彼女の仕草にファルケも頷き、手短に『聞き込み』を終えて歩き出す。
     その時、大気を揺るがす轟音が遠く聞こえてきた。
    「さっき見かけたダークネスかな」
    「だな。みんななら無事だろうけど」
     それは戦いの音であり、破壊の音であった。この日横須賀市では、ラグナロク探索を行うダークネス勢力が各所に見られ、時折生じる戦闘で散発的な被害が生じている。
     そして近代兵器顔負けの力がぶつかりあう中、バベルの鎖で危険を気付くこともできない市民が、戦場の真っただ中で普段の生活を続ける――そんな一種狂気めいた光景こそ、今世の実像だった。
    「聞き込みお疲れ様なのです」
     安房口神社の前。カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)が二人を迎える。隣では守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)が携帯端末から得られた情報を見ていた。
    「……東のエリアはやっぱり、六六六人衆が手を広げているみたいだね」
     周辺の捜索を始めてから幾ばくかの時間が過ぎている。その間、何度かラグナロクを探す――しかも妙なやり方の――六六六人衆を見かけたのである。戦闘班に報せる形で捜索を優先してきたが、どうもその規模は東エリア全域に及ぶらしい。
    「まだ遠いけど、この周辺にも来ているようだ」
     山田・透流(自称雷神の生まれ変わり・d17836)が双眼鏡を手に、階段を駆け下りてくる。続く白石・作楽(櫻帰葬・d21566)が口を開く。
    「敵の戦闘力を考えれば、なるべく接触は避けたいところだな」
    「う~ん。でも安房口神社内と、周辺住宅地にいないのですよね。となると……」
     カリルが青い瞳を細め、悩ましい表情になる。彼の手にした地図には、今いる場所とその付近に赤いバツ印が記されていた。

     捜索が始まってすぐさま、灼滅者たちは安房口神社内を探した。パワースポット巡りをしていたらしきラグナロクの性格を推測し、少女の逃走先が寺社仏閣ではないかと踏んだのである。
     特に市東部は、パワースポットとされる場所が数多く見受けられる。
    「砂漠に落ちた一粒の砂を見つけるよりは大変、じゃないと思うんだけど。何か痕跡でもあれば……」
     結衣奈が息を吐く。手分けして森の中や建物の影、床下なども探してみたが見つからず、敷地内に所持品が落ちてる事も、目撃情報もない。そのため捜索範囲を広げて近辺の住宅街などもあらってみたが、そちらもたった今、空振りに終わってしまったのだ。赤い瞳を細め、結衣奈は地図とにらめっこする。
    「待たせたな」
    「こっちの調査も終わったぜ」
     柳瀬・高明(スパロウホーク・d04232)と白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)が姿を現した。
    「見落としがちなパワースポットがないか探ってみたが、どこにもいなかった」
    「地元の人にも聞いたけど、知らないみたいだ。この近辺には来てないのかもな」
     ESP『ぶらり再発見』を使用した高明とジュンのスーパーGPSにより、探索済みの地域が更に増えた。安房口神社やその近辺に来てないのは、間違いないようだった。
     カリルが地図を見て、次のパワースポットを探す。
    「次は西側に範囲を広げますか?」
     神社で言えば、まだ諏訪神社や信誠寺といった場所が西や北にある。カリルの言葉に灼滅者が頷いた。近辺にいないと分かった以上、ぐずぐずはしていられない。早く次の場所へ行く必要がある。
     その時、携帯が着信音を告げた。結衣奈が情報を読み上げる。


    「えっと、緊急連――あ、見つかったみたい!」
    「ラグナロクか……?」
     ファルケの疑問に携帯の画面が皆に見せられる。一報は紛れもなく、ラグナロク発見についてであった。
    「見つかったのは叶神社……東地区の予想は合ってたみたいだな」
    「僕たちもすぐに合流して、ラグナロクのお姉さんをまもってあげるのですよ!」
     ジュンの言葉に、カリルが拳を握って応じる。発見現場の方角へ歩み出しながら、高明が「そうだな」と笑った。
    「直接、白馬の王子さまになってやれなかったのは残念だが、追手もいるだろう。可愛い子ちゃんを颯爽と助けに行く役は、まだまだ席が沢山あるぜ」
     軽いノリの言葉だが、同時にその実あまり余裕がないだろうとも高明は示唆していた。作楽が首肯し、スレイヤーカードを取り出す。
    「ここから先はいつ戦闘になるか分からない。気を引き締めていこう――一期は夢よ、ただ狂え」
    「マジピュア・ウェイクアップ!」
     力を解放した作楽、そしてジュンに続き、各自が力を解き放った。ファルケがニヤリと笑う。
    「そうだな。早く学園まで連れ帰って、俺の歌を聞かせてやりたいぜ」
    「ふむ、それは楽しみだな……ん、どうした矢宵さん?」
     作楽がファルケの背後、静かに首を横に振る矢宵を見た。彼女は聞き込みの時、偶然気付いたのであろう。
     口ずさむファルケの歌声が、「音痴のスペシャリスト」と密かに呼ばれるほど酷い音痴だということに。
     振り返って訝しむファルケに悟られないよう、矢宵は慌てて話題を変えた。
    「それより、急ごう! ぶれにゃんのためにも、ラグナロクちゃんを他の獄魔大将に渡すわけにはいかないよっ」
    「うん。これはまだ前哨戦……猫乃目さんの負担を軽くするためにも、なんとしてでも味方になってもらわなくっちゃ」
     透流も頷く。二人とも、学園の獄魔大将となった人物とはクラブ等での関係がある。張り切るのは当然と言えた。
     加えて学園がラグナロクの力を得ることは、多くの命を救うことにもつながりうる。透流にとってはそれだけで、命を賭けるに値した。
    「移動ルートは僕にお任せなのですよ!」
    「こちらもサポートしますね!」
     スーパーGPSを発動したカリルと、希望の戦士ピュア・ホワイトとなったジュンが先行する。
     その後を、残る灼滅者たちが続く。
     一路、ラグナロクを確保した班との合流を目指して――。


     移動を始めてすぐ、全員がその変化に気付いた。
    「六六六人衆たちも、気付いたみたいだね」
     結衣奈の視線の先、確認できる六六六人衆は一様に灼滅者たちと同じ方角に向かおうとしている。学園がラグナロクを確保したことを、彼らも何らかの経緯で知り得たのだろう。
     元来、個々で動く印象の強い六六六人衆。一斉に動いてるさまは、異常だ。
     そんなダークネスたちの動きを阻むのは、武蔵坂の灼滅者たちだった。透流が呟いた。
    「戦闘班か」
    「今の内に、合流しよう!」
     六六六人衆の大半は戦闘班によって迎撃できているが、中にはそれを突破してラグナロクに追いすがる者もいる。振り切る為には、矢宵の言うように合流し守りを固める必要があった。高明が舌打ちする。
    「やばいな。六六六人衆が一人、追いつきやがった」
     見えてきた本隊へ、男の六六六人衆が距離を詰めてきている。灼滅者たちは顔を見合わせ、頷き合った。六六六人衆が追い付き、攻撃を仕掛けようとしたその瞬間を狙い、男を強襲する。
     ファルケの持つ槍が凍氷の力を宿し――放たれた。背後から襲った氷柱の弾丸が、男の肩を撃ち抜き、続く結衣奈の魔術弾が爆発を引き起こす。作楽たちはスレイヤーカードを取り出し、ラグナロクの少女のいる探索班へと見せた。作楽が六六六人衆へ向き直り、背中越しに声をかける。
    「この身を賭して、傷一つつけさせない――行ってくれ!」
     本隊が遠ざかっていく。反対に近付いてくる殺気は、立ち上がった男からのものだ。
    「てめえら……よくもやりやがったな」
    「悪いけどわたし達は、闇に塗り潰されそうな彼女を救う光になる。これ以上近づけさせはしないよ」
     結衣奈が魔杖を構え、次弾の魔術を紡ぐ。ナイフを手につっ切ろうとする男に、カリルが霊犬のヴァレンとともに立ち塞がる。
    「皆も、ぜったいまもってみせるのですよ!」
     カリルの縛霊手とナイフが、激突して火花を散らす。
    「ラグナロクさんたちが戦場を離脱するまで、もちこたえましょう!」
     弾かれるように後方へ跳んだ六六六人衆へ、ジュンが重力の蹴りを放った。寸前で避けた男がナイフを振ろうとしたのを、ヴァレンが割り入って防ぐ。
    「テツくん、あと少しだよ!」
     矢宵が夜霧を放ち、ライドキャリバーのテツが機銃掃射をしながら前に出る。銃撃をナイフで弾いた男が歯噛みした。ラグナロクと彼女を守る灼滅者たちはすでに遠くあり、目前の男が追いつくことはなさそうだった。
    「てめえらよくも……斬新にぶっ殺してやんぜぇ!」
     言った男が跳躍、近くで停車していた車の屋根に四肢を広げて張り付く。突然の動作に作楽が訝しんだのも束の間、男が張り付いたままの車体が激しい回転を起こした。
    「スクラァァァップトルネェェドォォォオオオ!」
    「……なんだこいつ!?」
    「ひでえ技名と声だなぁ」
     鉄の塊が高速で回転する光景に高明が唖然とし、ファルケがそう評する。
     その眼前に、六六六人衆は抱きついた車ごと、転がりながら家や塀を破壊して迫ってきた。周囲一帯を破壊しながら迫る敵に、透流は後退して自動販売機の上に跳躍、さらに蹴って近くの家の屋根へ跳ぶ。車はサイキックエナジーを纏ったせいか、道路に自販機、そして家の塀を壊してもまだ止まらない。敵の勢いと、足場にした家やその住人の行く末に、透流は横合いに跳ぶ――が、わずかに遅い。車体は急速に方向転換すると、宙空にいる透流に遠心力のこもった体当たりをかます。
    「……!」
     そこに秘められた運動エネルギーはいかほどだったのか、透流は勢いよく弾き飛ばされ壁に激突した。
     建材が破壊される中、地面に彼女の血が落ちる。


    「残りの奴も殺してやんぜぇ!」
    「言ってろ」
     激しく回転する車体の上からそう吠える六六六人衆。三半規管は強そうだ。高明は影業を蠢かせた。彼の影が細長く伸び出し、太く立体的な形状に変わっていく。
     やがて生まれたのは、ケーブルのような太く機械的な影の触手――
    「ようするにその車ごと止めりゃいいんだろ」
     奔ったケーブル触手が車に向かう。しかし高速スピンする車に弾かれ思うような成果は生み出せない。
    「無駄無駄ァ!」
     高明が弾き飛ばされ、車がさらに進む。鉄の竜巻となった男の次の標的はカリルだ。
    「琥界、前で頑張ってね」
     作楽の声に応じた琥界が、カリルに迫る車の前に飛び出す。自らぶつかるように衝突したビハインドは大きく吹き飛ばされるも、車の接近スピードを僅かに緩める。
    「数多の姫の物語、語りし日々は瑠璃の色――響け」
     作楽の縛霊手『花色姫法帖』が展開。瑠璃水晶の祭壇から生み出された結界が車に絡み付き、その動きを鈍くする。
    「こちらもいきます!」
     ジュンも除霊結界を展開。回転の減じ始めた車へと跳び、張り付いていた男のいる場所へと、重力の蹴りを放った。
    「っおおお!?」
    「こいつを喰らいな!」
    「私も合わせるよ!」
     ファルケと結衣奈が同時に近づき、全力のフォースブレイクを放った。二人の魔力が爆散し、車が完全に止まる。
     そこに、復帰した透流が駆け抜けた。
    「鉄の塊……なら鋼鉄の一撃で打ち砕くだけだ」
     縛霊手による巨腕の一撃――車体を貫通した彼女の攻撃が、男の身体を捉える。吹き飛んだところを、カリルの拳が閃光となって吹き荒れた。壁にめり込んだ男に、カリルは子どもの正直な印象を容赦なく伝える。
    「ざんしんなのか分かりませんが、見た目がカッコ悪いのです!」
    「う、うぅ、うるせえ!」
     純粋な感想にいたく傷ついたのか、男が顔を歪ませながら跳ね起きる。すかさずナイフを振るうが――。
     遅い。
     高明は見切り、あえて浅く斬られることで一気に相手の間合いに踏み込んでいく。
    「!」
     慌てて逃げようとした男を、その時矢宵の放った蛇腹剣が取り囲んだ。捕獲した敵に、矢宵が自信を持って告げる。
    「それに、同じ乗り物でもテツくんの方が何倍もカッコイイから!」
    「ウチのガゼルも負けてないぜ?」
     言いつつ、高明が至近距離からオーラを手に集め、放った。
    「おおおお!?」
     オーラに飲み込まれた男の身体が、消滅していく。

    「だいぶ弱っていた感じがあったな」
     透流が傷からの血を拭いながら言った。番外なのか、ここにくるまで疲弊していたのか、それほど苦戦することもなく倒せた気がする。
    「あんな車の使い方をしていれば、嫌でも疲弊しそうだが」
     透流の傷を祭霊光で癒しながら、作楽がポツリと呟く。結衣奈が苦笑する。
    「インパクトはあった気もするけどね……」
    「斬新もいいですが、ちゃんと定番やお約束も入れないと受け入れが難しそうですからね」
     やはり苦笑いする魔法少女、ジュン。
    「でもカリルさんの言ったことが、一番効いたみたいですけれど」
    「?」
     首を傾げるカリル。ある意味どんなサイキック技よりも強力な一撃を放ったのだが、それを一番分かってないのは彼かもしれない。高明が笑う。
    「派手なことして『格好悪い』とは敵ながら不憫だが……頑張ってもまあ、評価は変わらんな」
    「テツくんにはかなわないもんね!」
     矢宵がキャリバーを撫で、微笑む。
    「うっし、じゃあ今度こそ合流すっか」
     ファルケが言って、全員が頷く。ここは戦場離脱まであと一息の場所だ。異常事態を知らせる連絡等もない。
     今頃、ラグナロクを連れた灼滅者たちは無事帰還しているだろう。
     ラグナロクを助け出し、前哨戦をリードする事も出来た――灼滅者たちがそう思いながら、今度こそ帰還を始める。

     そう、この時は思っていたのだ。
     無事に上手くいった、と――。
     今回の顛末を、灼滅者たちは後に知ることとなった。

    作者:叶エイジャ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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