獄魔覇獄前哨戦～混沌たる戦況の中で

■リプレイ

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　神奈川県南部、東京湾と相模湾に面する海の町、横須賀市。
「…………」
　その裏路地を歩く、三人の人影があった。その人影へと、一匹の犬が気付いて近づこうとする――人影が犬を振り返った、その時だ。
「ったく、そんなバレバレの偽装しやがって。臭いで分かるぞ。丸分かり」
　その声に、ビクリと犬が動きを止める。その犬の前に立ったのは、言い捨てた化野・周（トラッカー・d03551）だ。
　人影が、身構える。その動作に両者が敵対関係にあると気付いたのだろう、戸惑う犬――眷属の頭を、笠井・匡（白豹・d01472）を撫でて語りかけた。
「クッサイ灼滅者風の奴いたら、あれ偽物だからね」
　鼻を鳴らした犬は、匡の言葉に首を傾げる。しかし、次の瞬間には目を細めた脛に首をこすりつけてきた――わかったのだろう、そう匡はようやく笑みをこぼす。
「不死者狩に来たよ！　かかる火の粉は振り払うけど、どうする？」
　凛と言い放つ出雲・八奈（赤瞳・d09854）に、真ん中にいた人影がドス黒い殺気を開放した。アンデッド――殺人鬼の人造灼滅者、そのなれの果てだ。
「随分と混沌とした『戦場』だな」
「毎度のことながら、エクスブレインの方たちに感謝ですねぇ……」
　不敵に笑う凌神・明（英雄の理を奪う者・d00247）に、この横須賀市に存在する勢力図を思い出しながら橘・晃（ノービス・d14337）もこぼす。ここだけではなく、武蔵坂学園を含めて八つの勢力が集まっているのだ。明の言う通り、どう転ぶか一寸先も見えない混沌とした戦況だった。
「初にお目にかかります。お忙しいようですが、こちらの相手をしていただきます」
　礼儀正しく、鷹嶺・征（炎の盾・d22564）がそう告げた瞬間だ。殺人鬼のアンデッドの姿が、眼前で掻き消える――そう見えるほどの動きで、アスファルトを蹴った。
「上です、来ますよ？」
　桜庭・成美（スカッドキャット・d22288）の声に、仲間達も視線を上げる。殺人鬼のアンデッドは巨大な剣――無敵斬艦刀を手に、ドス黒い殺気を灼滅者達へと叩き込んだ。
「まぁ、戦おうが逃げようが構わねぇわな――やる事は、一つだからよ」
　ゴォ！　と視界を黒く染め上げる鏖殺領域を前に、影道・惡人（シャドウアクト・d00898）はつまらなそうに吐き捨てた。
「ぶち倒す、そんだけだ」

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「いいよ、逃げな？」
　匡の言葉を受けて、犬の眷属は駆け出す。その姿を見送った匡は、柔和な表情も、いつもの戦いを楽しむ態度も成りを潜めただ不機嫌そうな表情で目の前のアンデッド達を見た。
「僕、死者の尊厳を踏みにじるような、こういうの大嫌いなんだよねぇ」
　着地した殺人鬼のアンデッドの横を通り過ぎ、匡は左手に握った槍で螺旋を描く刺突を繰り出した。残る二体のアンデッドは、その伸びている角から神薙使いの人造灼滅者なのだろう――匡は、それ以上を理解しようとは思わなかった。
「ほい、ガンガン行くぜ？」
　ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ！　とそこへ惡人がバレットストームを叩き込んでいく。正確無比な銃弾の雨は、確実にアンデッド達のみを狙って撃ち込まれていった。
「少しばかり、踊ってみますか？」
　トントン、と爪先でアスファルトを蹴った晃が、そこへ踊り込む。花吹雪のように放たれた護符の中を舞い踊る――晃のパッショネイトダンスだ。
「――――」
　ダン！　とアンデッド達が散る。集まっていては的になるだけだ――しかし、成美が回り込み、もっとも傷を負っていたアンデッドへとその槍を振るった。
「灼滅者に偽装するとは卑劣な！　ですがダンボールの前にはそんな偽装無意味だということを体に刻み込んであげましょう！」
　ドン！　と脇腹を成美の螺穿槍に貫かれたアンデッドが、足をもつれさせる。そこへ、征が右腕を振りかぶって駆け込んだ。
「捉えた」
　ゴン！　と異形の怪腕となった征の殴打に、アンデッドが吹き飛ばされる。背中からビルの外壁に叩き付けられたアンデッドへ、八奈の掌がそっとアンデッドの顎に触れた。
「――フゥ！！」
　ズガン！　と強烈な震脚と共に繰り出された零距離からの紫電の一撃に、アンデッドの体が宙を舞う――そして、周が死角から飛び出しアンデッドの胸元を解体ナイフによって切り刻んだ。
「頼むよ」
「ああ」
　そこへ、明が続く。紫炎をまとう【Ⅷ】　Justice　Reverseの斬撃は、恐ろしく平等なまでに悪意を持ってアンデッドを切り裂いた。
「オ、オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ！！」
　だが、アンデッドは踏みとどまる。異形化したその右腕を明へと放つが、明はそれを地面を蹴って体を浮かせて威力を殺した。ズサァ！　とアスファルトの上を靴底を鳴らしながら明は着地。もう一体の神薙使いのアンデッドは、すかさず清めの風を戦場に吹かせた。
「厄介だね」
　周のこの呟きは、全員の総意だ。病院に所属していた人造灼滅者の死体を利用したアンデッド――それは、彼等も組み合わせによっては連携に近い戦況を用いる事を意味していた。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア！！」
　そして、殺人鬼のアンデッドは無敵斬艦刀を豪快に振り回す。あらゆるものを断ち割るかの如き振り下ろし――森羅万象断の斬撃が、灼滅者達を襲った。

●
「まったく、これが前哨戦ですか」
　ダン！　と、地面を蹴って成美が駆ける。神薙使いのアンデッドは、それを鬼神変の裏拳で牽制するが、成美はそれを跳躍して回避。異形化した腕をエアシューズによる加速で駆け抜けた。
「繋ぎます！」
　その首元へ成美の蹴り、スターゲイザーがめり込む。ズズ！　とその加重に耐え切れずに、アンデッドの体が泳ぐ――そこへ、すかさず周が踏み込んだ。ガシャン！　と変形する解体ナイフ、それをアンデッドの脇腹へと突き刺して周は振り抜いた。
「やれ！」
「根の国の住人、根の国の王より解放しよう！　化け物として生きるな、化生（私）に立ち向かい、人として死ね！！」
　周の言葉に応え、八奈が踏み込む。周のジグザグスラッシュに足をもつれさせながらも、アンデッドはその拳で応戦し――八奈の大上段による無敵斬艦刀の斬撃が、文字通り両断した。
「――見事」
　自身の眼前まで諦めずに伸ばされた拳に、八奈は惜しみない賛辞を送る。迷いなく、心を斬った――それが八奈なりの、哀れな同胞への手向けだった。
「――ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ！！」
　明が吼える。【Ⅷ】　Justice　Reverseが唸りを上げ、無数の紫炎の軌道を薄暗闇に残した。それを殺人鬼のアンデッドは重量と長さで勝る無敵斬艦刀で迎え撃ち、受け止め、受け流し、逸らしていく。加速する剣戟、それに匡も混じっていった。
　明と匡、二人の表情は対称的だ。明は強敵との凌ぎ合う命のやり取りに心躍らせ、匡は憮然と命のない物との交差に表情を殺した。
（「『これ』だけは、違うよねぇ」）
　匡は思う、思わずにはいられない。ダークネスならばいい、他の眷族であればまだ良かった――しかし、アンデッドだけは違う。どんなに強くても楽しくならないのは、そこに意志がないからだ。
「――ッ！」
　匡のフォースブレイクの一撃を、アンデッドは無敵斬艦刀を盾のように構え受け切った。直後の明のクルセイドスラッシュによる薙ぎ払いも、アンデッドは引き戻した無敵斬艦刀の腹によって滑らせるように受け流す――そして、フっと音もなくその姿が掻き消えた。
「死角だ！」
　同じ殺人鬼であるからこそ、周と匡は半瞬早くその異変に気付く。眼前で姿が掻き消えた、そう錯覚するほどの巧みさで殺人鬼のアンデッドが死角へと潜り込んだのだ、と。
「――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ！！」
　次の瞬間、アンデッドを中心に吹き出したドス黒い殺気が灼滅者達を容赦なく飲み込んだ。
「な事ぁどーでもいんだよ」
　ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ！！　と、その殺意の中心へ、惡人は構わず銃弾を叩き込む。トン、と殺人鬼のアンデッドが後方へ跳ぶのを、無感動に言い捨てた。
「感情は戦闘の前と後にだけありゃいんだ、今は欠片もいらねぇ」
　それが、惡人だった。ただ、敵として相対し粉砕する。だから迷わない、惑わない、躊躇わない――自身にさえ躊躇しない惡人にとって、眼前にあるのは物だ。動く物に過ぎないのだ。
「多少硬くなりますが、御気をつけて……」
　晃は防護符を投げて、回復させる。殺人鬼のアンデッドは、ダークネスほどではないが強敵だ。単騎で当たれば、こちらが破れるだろう――それほどに。
「抑えます、その間に立て直してください」
　征は先端に刃をつけた影を操り、アンデッドへと迫る。一合、二合、三合と踊る影の鎖と巨大な刃によるめまぐるしい打ち合い。それを油断なく見ながら、仲間達は体勢を立て直していった。
（「ラグナロクの確保は、どうなっているのでしょうか？」）
　晃は、呼吸を整えながら思う。これは、ただ敵と出会い勝てばいいという戦いではない。戦いは手段に過ぎない、果たすべき目的があるのだ。
　だからこそ、眼前の敵にてこずる訳にはいかない。神薙使いのアンデッド二人を倒してしまえば、後はダークネスに及ばない殺人鬼のアンデッド一人のみ――周は、迷わず殺人鬼の斬撃へと飛び込んだ。
「それは俺らの仲間の体だ、ちゃんと返してもらうからな」
　殺人鬼の、鋭い大上段の斬撃が迫る。それを周はガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ！　とsAINTによって火花を散らしながら受け止め、軌道を逸らした。
「ラグナロクも、仲間の体も、お前らなんかには渡さねえぞ」
　そして、周はアンデッドの懐で横回転。死角から放った逆手に握るfAINTの一閃で切り刻んだ。
「病院の灼滅者の死体使うとか、凄いムカツクんだけど！　言っとくけど、あんたらすっごい臭いからね！」
　そして、周と入れ替わりに迫った匡は、オーラを集中させた両の拳を振るった。左のジャブで距離を測り、右ストレート、左フック、右ショートアッパー――コンビネーションブロウで、アンデッドを吹き飛ばす！
「まだまだ、シリウスの輝きに射抜かれよ！」
　そこへ、斬艦刀を地に突き刺した八奈が、肩にかけていた弓を構え矢を射放った。青白い輝き、まさにシリウスのごとき輝きが軌跡を描いてアンデッドの胸を刺し貫いた。
「ガ、ッハ……！」
「斬り裂け……神薙刃」
　そして、そこに重ねるように護符を舞わせた晃が神薙刃を放った。ザザザザザザザザザザン！！　と風の刃と化した旋風が、踏ん張るアンデッドを切り裂いていく――そこへ、惡人はフリージングデスを叩き込んだ。
「やっちまえ」
「はい！」
　その冷気の嵐ごと断ち切るように、緋色のオーラに包まれた成美のクルイセイドソードが横一閃に放たれる。ズサン、と腹部を斬られ、アンデッドが膝を揺らした。
「終わりにしようか」
　そこへ、明の紫炎の斬撃が重ねられる。袈裟懸けに切り裂かれたアンデッドへ、征は跳躍から異形の怪腕と化した右腕を振り下ろした。
「すみません、僕には助けることはできません。だからせめて、利用されないように」
　ゴォ！　と唸りを上げた征の鬼神変が、アンデッドを粉砕する。文字通り、そこには何も残らない――それを見届け、灼滅者達は大きな息をこぼした。

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「おぅ、次の目標が決まったぜ」
　モバイルPCを片手に、惡人が仲間達へとそう告げる。この横須賀の地には、まだまだ多くの敵が居るのだ――ならば、戦いの場はどこにでもある。
「了解。一体でも多く灼滅してあげないと。死んだ後にダークネスに利用されるとか、死んでも死にきれないよ、ホントに」
　冥福を祈るように手を合わせていた匡は、しみじみとそうこぼした。こうなれば、一人でも多くカンナビスの手から開放してあげたい――そう思えた。
「では、次に急ぎましょう」
　晃の言葉に、仲間達も動き出す。心霊治療によって、出来る限りの回復は行なった。
「探索班からの連絡は、まだでしょうか？　急がないと消耗戦では勝ち目がないですよ……」
　成美のその言葉に、応えられる者は誰も居ない。出来る限りの事をしよう――それが、彼等に今出来る最善だったからだ。
「…………」
　征は、その裏路地を去る前に頭を一つ下げた。それは、ここで戦い散っていった『仲間達』へと向けられたものだった。
　――こうして、灼滅者達は新たな戦いの場へと向かい、走り出した……。

作者：波多野志郎	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年12月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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