冬に凍え、涙も凍え

■リプレイ

●悪寒夢
　まりんから話を聞いた灼滅者達。
　高校生位の青年が、悪夢を見せ、死へと至らしめるダークネス、シャドウに取り憑かれた……それも、彼のあこがれである、山の上で。
　……いや、憧れであったといても……今回の状態では、環境が全く違う。
　山の上と言っても、それは雪が嵐の如く横殴りに吹きすさぶ、過酷な環境の中となれば、それは憧れとはほど遠い……死への恐怖の一歩手前。
「……寒空の下、誰も居ない雪山の頂きに一人……これは随分と詩的だね。でも、彼はそういう心境だったんだろうか？」
　と、月詠・千尋（ソウルダイバー・d04249）が寒空を見上げながら呟く。
　それに上海・いさな（巫月・d29418）と、ユリアーネ・ツァールマン（咎負の鳥・d23999）、多鴨戸・千幻（超人幻想・d19776）と翠川・夜（今宵は朝日が登る迄・d25083）らが。
「……うーん、たとえそうだとしても、何とも悪趣味なシャドウがいるものですね。救いの無い、氷雪地獄といった所でしょうか？　普通の方でも苦しいでしょうに、大好きな趣味の最中でこうなるとは悲しすぎます……」
「そうだね。寒いのは嫌いじゃないけど、度を過ぎるのはちょっとね……」
「ああ。一人でいるっつう事は、空腹と同じくらい人を不幸にするもんだ。さっさとこの悪夢から助けてやんねぇとな」
「そうですね！　男性が凍える前に何とかしないとです！　雪山の対策もしっかりしていかないと！」
　そそんな仲間達の言葉に、周防・天嶺（狂飆・d24702）とアイン・コルチェット（絆の守護者・d15607）、そしてユリアーネが。
「何にせよ、早く暖かい所へ行きたいもんだ。雪だるまを剥がして、シャドウにもこの吹雪を味わって貰うとしようか」
「ああ……寒さに凍える辛さを、奴にも思い知らせてやるとしよう」
「そうだね。何にしても、さっさと撤収して頂きますか」
　と頷く……そして、灼滅者達は青年の眠る部屋へと急ぐのであった。

　そして彼の部屋へと到着。
　壁に掛かった写真は、著名な登山家の写真に、自分が夏山登山に行ったときに、仲間と共に撮った写真が飾られている。
　……それを見る限りその登山家に憧れて、山登りにのめり込んだ、といった具合だろう。
　そして、そんな彼は。
「うう……や、やめてよぉ……」
　と、唇を噛みしめながら、苦悶の声を上げている。
　そんな彼の汗を拭い、そして指で額に触れながら。
「……行こう、彼が待っている」
　唇を噛みしめて呟く千尋の言葉に、皆も気持ちを引き締めて……灼滅者達はソウルアクセス……彼の夢の中へと、墜ちていくのであった。

●常なる寒さ
　そして……一面の雪に包まれた、青年の夢の中。
　まりんから聞いた通り、目の前に広がるのは雪、雪、雪……一面の雪が、視界を真っ白く染めて居るし……横殴りの吹雪も吹きすさんでいる。
「しかしこう一面雪でなにも見えなくなってきたら……確かに追い詰められるよなぁ。早いとこ助けにいってあげなきゃね。にしても……雪山にゆきだるまって、なくないかな？」
　と、九重・木葉（贋作闘志・d10342）が肩を竦めると、アインも。
「そうだな。やれやれ……雪は嫌いではないんだが……こういう雪は勘弁だな」
　と溜息をつく。
　とは言えこのような場所で苦しめられているのだから……必ずや護る、と拳を握りしめながら、寒冷適応のＥＳＰを使用し、寒さへの耐性をつける。
「ふふーふ。防寒対策はばっちりですよー」
　と夜が微笑み、そして周りを見渡した……その瞬間。
『や、やめてくれよぉ……も、もう嫌だぁぁ……』
　悲しげで、苦しみの声が、その場に響き渡る。
　その声の方に視線を向けると……突入前、ベッドで苦しむ彼の姿。
　周囲の吹雪が、彼の体力を、気力を……消費し続けている。
「……このような過酷な状況を強いるとは……本当、シャドウは陰湿だな」
「ああ……ともあれ、彼をこの吹雪から守らなければな」
　千幻に天嶺が頷き、そして灼滅者達は彼の元へと急行。
　吹雪から彼を護るように、周りを取り囲んで、風を受け止める障壁となる。
『うう……さ、寒い……うう……』
　ガタガタブルブルと震えている彼に、サバイバルシートを掛けて、カイロを渡す木葉。
「ん、大丈夫大丈夫。助けが来たんだよ。使って？　そして、少しだけ、待ってて」
　と木葉の言葉に、天嶺、千幻も。
「そうだ。もう少しだけ耐えろ。そうすれば戻れる」
「とりあえず俺達が来たんだから、もう危機は脱したと思っていいだろ。この悪夢から抜き出せば、あったけぇ部屋で、腹一杯食って、何も不安なことはなくなるぞ？」
　そんな灼滅者達の言葉に、青年はほんの僅かだが、落ち着く。
　勿論、既に心底まで冷えきった身体は、暖まるには時間が掛かる……手足をブルブルと震わせながら。
『ね、ねぇ……き、キミ達は、誰……？』
　と、青年が訪ねたその瞬間。
『全く……邪魔、しないで貰いたいものですねぇ……？』
　達観した風の言霊を紡ぐ……シャドウ。
　声の方には、沢山の雪だるまが立ち塞がっている。
　……そんな雪だるま達を睨み付けるようにしながら、いさなは青年に向けて。
「大丈夫……私達は救助隊、の様な者です。このお茶をお飲みになられて身体を温められて下さい。その間に全て片付けますので」
「そうだよ。だいじょぶだいじょぶ。勝ったら帰ってあったかいごはん食べて、こたつで寝よーね。だから、少しだけ、待っててー」
　木葉の緩めの口調で言葉を掛けつつ、その傍らから夜の霊犬、ポチが青年にぴったりと寄り添う。
「うん、ポチはそこで待てです！　その方は任せますよ！」
　啼くこと無く、そっと青年に寄り添う……暖かい毛並みに、ほっとしたように、こくり、頷く青年。
　そして、彼を背に護るように立ち塞がり。
「さぁ、孤独なスノーマンにはなりたくないからねぇ！」
　とスレイヤーカードを解放し、そして戦端を、螺旋槍をつきたて、切り開く千尋、更にアインもクルセイドスラッシュで斬りかかる。
　続けてユリアーネが。
「さぁ、この戦場を、私達の空間にしてあげるよ」
　と除霊結界を展開し、雪だるまと背後のシャドウにパラライズを付与。
　ジャマーの効果もあり、多重に重なる。
　……そしてスナイパーの天嶺、メディックの千幻、夜、いさなも、次々と対峙。
「まずは……邪魔な雪だるま達から行くぞ」
「了ー解」
「手早く片付けましょう。長引けば危険です」
「そうですね……雪だるまですか。自らの弱点属性を見せつけているようなものですね。炎で燃やしてあげますよ」
　螺旋槍にグラインドファイア、ゲシュタルトバスターを続けざまに叩き込んでいき、立ち塞がる雪だるまを一匹ずつ、集中攻撃する事で、一匹ずつを確実に仕留める。
　……そして灼滅者達の攻撃が一巡すると、対する雪だるまとシャドウの攻撃。
　雪だるまは吹雪を操り、何よりも冷たい冷風攻撃。
　対しシャドウは、灼滅者を邪魔だと言わんばかりに、吹雪く中に影を忍ばせ……雪の下から影業のような攻撃を仕掛けてくる。
　しかし、その攻撃は決して……背後に控える青年には通さない。
　木葉の他、千幻の霊犬、さんぽ、いさなのナノナノ、宗近、更に彼に寄り添う夜の霊犬、ポチが、彼をしっかりと護る。
『ちっ……本当、邪魔だな……』
　シャドウの言葉に、舌打ちが混じる。
　灼滅者達の動きに、苛立つと……それに呼応するように、前の雪だるま達が前へ前へ、と進軍。
　勢いのまま、力押しで攻撃しようとしてくる雪だるま。
　……そんな雪だるまの動きに、青年はひぃっ、と目を伏せて悲鳴。
「……まぁ、一人ならば不安だろうな。だが、良く周りを見てみるといい。暖かいものもある、俺達もいる……何を絶望する必要がある？」
「そう、大丈夫、私達が必ず守ってあげるから……ね」
　アインとユリアーネが声を掛けつつ……更にポチが彼に寄り添う。
　もふもふの毛並みの安堵……生じる不安を包み込む様に、暖かく……。
「うんうん。大丈夫そうです。さぁ、雪だるまをさっさと倒しますよ！」
　夜が拳を振り上げると、そして他の仲間達も頷き……雪だるま達を確実に一匹ずつ、倒していく。
　そして、十分程が経過し……七匹の雪だるまは、全て倒れる。
　残る、はシャドウ一匹。
　身を守っていた七体の雪だるまが全て消え失せ……流石に圧倒的不利な状況を認識した彼は。
『く、くそ……こうなれば……後は……』
　とシャドウは呟き、ちらりと後方に視線。
「……逃げるなよ」
　それにすぐに気づいた天嶺が、螺旋槍の一撃を叩きこむ。そしていさなが。
「眠っていて下さい……永久に」
　と導眠符を投げ込む。
　……動きが鈍るシャドウに。
「良し、今だ！」
　千尋が宣言。アインがサイキック斬りをサイドから繰り出すと、その退路を塞ぐように、千尋が。
「溶けてしまえっ！！」
　と、渾身のグラインドファイアをたたき込み……その身体は炎の中に包まれるのであった。

●夢の合間
「……ふぅ、終わりましたね。皆さん、お疲れ様です！」
　汗を拭いながら、ニコリと笑う夜……そして、背中に護っていた青年へ振り返る。
　ポチがしっかりと彼に身体を寄せている……そのおかげで、ある程度は落ち着いてはいる様だが。
『……え、えっと……な、何なんですか……これ……？』
　流石に目の前で繰り広げられた光景に、驚きを隠せない。
　そんな青年に向けて、千尋が。
「ま……何といえばいいのかな。さっきも言った通り、キミを助けに来た、名も無き灼滅者と言った所さ」
　肩にぽん、と手を当てて、微笑む千尋……と、それと共に彼女は視線で合図。
　こくりと頷いたいさなが、魂鎮めの風を使い……彼を、眠りへと落とす。
　すぅ、すぅ……と寝息を立てる彼に、暖かいブランケットを巻き付ける……そして、周りの白い吹雪も、次第に収まり始めていき……視界が白く、染まり行く。
「さて……寒いところは早々にオサラバしよう。あぁ、暖房が欲しいな……」
　ズズズ、と鼻を啜る千尋に、クスリ笑うユリアーネ。
「確かに寒いしね。と……それじゃ、彼の悪夢も無事に封じたことだし、帰ろうか」
「そうだね。さっさと帰ろう」
　木葉が頷き、そして……灼滅者達は、ソウルボードから脱出。
　……目を開くと、彼の部屋。
　ベッドの上で寝息を立てる青年は、突入する前に比べれば、かなり落ち着いた呼吸になっている。
「……大丈夫そうだな。これからは、良い登山になるといいな」
　とアインはそう呟きながら、乱れた彼の布団を直す。
『ん……うう、ん……』
　軽く寝返りをうつ彼……その表情は、笑顔。
　そんな彼に頷きながら、灼滅者達はその場を後にするのであった。

作者：幾夜緋琉	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年12月11日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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