獄魔覇獄前哨戦~決断の行方

    作者:悠久

     神奈川県南部、東京湾と相模湾に面する海の町、横須賀市。
     その横須賀市の海底から、大きな、大きすぎる力が、上陸しようとしていた。
     怪しく光る光球の中にあるのは、光の束で縛られた小柄な人影。

     その光球は、海から地上に上がると、ふらふらと空中を漂いながら、横須賀市のほぼ中央へと到達すると、地面にふわりと着地した。
     その中から現れたのは……。

    「あれ? ここは、どこ、どうして、こんな所に? たしか私はパワースポット巡りを……」

     たった、一人のラグナロクであった。

    ●獄魔覇獄前哨戦
     8名の獄魔大将に告ぐ。
     獄魔覇獄の戦いの火蓋が切って落とされた。
     横須賀市中央部に放たれた、ラグナロクを奪い合え。
     この前哨戦で、ラグナロクを捕らえ確保したものが、獄魔覇獄の戦いをリードする事になるだろう。

     ラグナロクの確保に全力をつくすのも良いだろう。
     獄魔覇獄の戦いの為に戦力を温存するのも良いだろう。
     敵戦力を見極める事に重点を置く戦いも悪くは無い。

     獄魔大将として、軍を率い、そして、自らの目的を果たすがいい。

    ●武蔵坂学園にて
    「……今回の目的は、このラグナロクを保護することだよ」
     猫乃目・ブレイブ(灼熱ブレイブ・d19380)によってもたらされた獄魔覇獄の情報。
     説明を終えた宮乃・戒(高校生エクスブレイン・dn0178)は、緊張に張り詰めた面持ちで集まった灼滅者達を見回す。
    「おそらく、このラグナロクを争奪する戦いが、獄魔覇獄の前哨戦になる。
     そして、彼女は体内に膨大なサイキックエナジーを溜め込んではいるけれど、自分自身で戦う力を持っていないんだ」
     この戦いに参加する勢力は、武蔵坂以外に7つ。
     ラグナロクを探す事を優先しても良いし、ラグナロクを奪われないように、こちらから襲撃するのもありだろう。
    「獄魔覇獄の戦いがどうなるかも重要だと思うけれど、多くのダークネス組織に狙われているラグナロクを救出するためにも……皆の力を、貸してほしい」
     続けて、戒は獄魔覇獄の戦いを競う7つの勢力について、今のところ判明している情報を説明する。

     1、ブエル勢力。
     ブエル兵達は、住宅街を虱潰しに探しまわっているようだ。また、その際、新たなブエル兵を生み出す事も同時に行い、ラグナロクの捜索と戦力増強を共に行なうという。

     2、シン・ライリー勢力。
     獄魔大将シン・ライリーを含め、少数精鋭の部隊が密かに横須賀入りをしているようだ。
     目的は、自分達以外の獄魔大将の力を見極める事のようで、表立って活動はしていない。
     シン・ライリーが灼滅されれば、獄魔大将シン・ライリーの勢力は敗北となる。

     3、クロキバ勢力。
     犬猫眷属を派遣して、ラグナロクの捜索を行っている。
     主力のイフリートは殆ど派遣していない為、ラグナロクを発見したとしても、確保する戦力はなさそうだ。

     4、六六六人衆勢力。
     人事部長と呼ばれる六六六人衆が指揮を取り、新入社員の六六六人衆と派遣社員の強化一般人を動員して、ラグナロク捜索を行っている。
     また、灼滅者を警戒しており、灼滅者の撃破を優先的に行おうとしているようだ。

     5、デスギガス勢力。
     四大シャドウの一体、デスギガス配下のシャドウ達の勢力は、横須賀市民のソウルボードを移動しながら、状況を伺っているようだ。
     情報収集を優先している様子だが、ラグナロクが発見された場合、強奪できるようなら襲撃をかけてくるかもしれない。

     6、カンナビス勢力。
     ノーライフキング、カンナビスの勢力は、病院の灼滅者の死体から生み出した実験体アンデッドを多数繰り出して、ラグナロクの確保を行おうとしているようだ。
     また、病院の灼滅者のアンデッド達の外見を、灼滅者であるように偽装しており、自分達の勢力の情報を他の獄魔大将に隠そうとする意図もあるようだ。

     7、ナミダ姫
     スサノオの姫、ナミダの勢力はラグナロクの探索を行わず、多数の『古の畏れ』を、横須賀市内に出現させ、無差別に敵を襲わせようとしている。
     敵の戦力を測るのが目的と思われるが、他に目的があるかもしれない。

    「どこへ向かうか、何をするかは、君達の判断に任せることになる」
     説明を追えた戒は、再び灼滅者達を見回して。
    「危険な作戦になると思うけれど、僕は、君達の活躍に期待しているよ。……くれぐれも、気を付けて」


    参加者
    和瀬・山吹(エピックノート・d00017)
    雨月・ケイ(雨と月の記憶・d01149)
    結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)
    アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)
    月舘・架乃(ストレンジファントム・d03961)
    海堂・月子(ディープブラッド・d06929)
    ティート・ヴェルディ(九番目の剣は盾を貫く・d12718)
    霧ヶ峰・海璃(絶切刃・d15615)

    ■リプレイ


     神奈川県横須賀市・東部。道行く一般人の横に1台のワンボックスカーが止まった。
     車体には『斬新コーポレーション』のロゴ。中から現れたのは華美な服装のオネエ系男性とカメラマン。街頭インタビューなのか、手にしたマイクを差し出す。
    『ハァイ。今流行のラグナロクってご存知かしらぁ? ……ほらもっとカメラ寄りなさい! どんくさいわね!!』
     どこかやる気なさげに渋々とレンズを向けるカメラマン。突然の事態に困惑しつつも、一般人はテレビの撮影かと表情を明るくする。
     ――だが。
    『……そう、知らないの。じゃあ、アンタはもう用済みよ!』
     男性が、手にしたマイクを振り下ろそうと振りかぶり――次の瞬間。
    「溺れる夜を始めましょう?」
     艶然と笑う海堂・月子(ディープブラッド・d06929)が一般人と男性の間に割って入り、振り下ろされたマイクを受け止めた。見た目とは裏腹、凄まじい魔力が自らの体を痛めつけるのを感じる。
     間違いない。相手は六六六人衆。配下のカメラマンは強化一般人のようだ。恐らく、街頭インタビューを模してラグナロクの捜索を行っていたのだろう。
    『まさか、灼滅者!? ふふ、ちょうど良かったわぁ』
     一般人を避難させる灼滅者達へ、六六六人衆が凄まじい笑みを見せる。同時に、車内からは撮影スタッフを模した数名の強化一般人が姿を現した。
    『さぁ、アンタ達! 斬新社長様のため、派遣社員らしく馬車馬のように戦いなさい! 灼滅者を倒したとなれば、昇進できるかもしれないわよ!?』
     檄を飛ばす六六六人衆。派遣社員と呼ばれた配下達がナイフ片手に灼滅者へ襲い掛かる。
     ワイドガードを展開し、迎え撃つのは結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)。
    「今回のラグナロクさんも、負けず劣らず大変な事に巻き込まれていますね」
     これは是非ともうちのパワースポット、もといサイキックアブゾーバーにお招きしなくては、と微かに笑む。
     今回の前哨戦において、このチームの目的は六六六人衆との戦闘だ。
     事前に作戦の齟齬がないよう確認し、地図も確認済。ラグナロク発見後は、速やかに護衛へと移行する予定だ。状況が長引いた場合に備え、照明も準備している。
    「ラグナロクさん……他の勢力の方の手に渡る前に、何とか助けて差し上げないとです……」
     祈るように、願うようにそう告げて。アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)の胸元へ、己の力を強化するハートのスートが浮かび上がる。
    「ラグナロクさんというのも、つくづく難儀な方々ですねえ……」
     と、雨月・ケイ(雨と月の記憶・d01149)は、迫り来る相手を導眠符で迎え撃ち。
    「とにかくまあ、武蔵坂学園で青春を謳歌して頂くためにも、この窮地を退けるとしましょうか」
    「同感、だね」
     和瀬・山吹(エピックノート・d00017)が、フリージングデスで相手をまとめて凍らせる。
    「正直、君達には興味が無いんだよね。さっさと倒れてくれるかな」
     迎えた戦場の目的はラグナロクの奪取。山吹達の戦いは、いわばその露払いのようなものだ。
     どこか冷めた瞳の山吹へ、配下がナイフを振り下ろす。
     すかさず彼を庇うのはティート・ヴェルディ(九番目の剣は盾を貫く・d12718)。眼鏡は既に外している。
    「さあ、せいぜいオレを楽しませろよっ!」
     傷の痛みなど気に留める様子もなく、返すは激しい炎の奔流。焼き払われる敵を見つめる瞳はどこか活き活きとしている。
     一方、後方から敵を見据えるのは、月舘・架乃(ストレンジファントム・d03961)。
    「へえ、噂どおりの殺人社員ばっかだね」
     Punishmentの銃口は、狙いを違えることなく――。
    「この手の連中じゃないけど、六六六人衆相手では前にちょっとあったし……ナメられたくはないね!」
     鋭い言葉と共に戦場を貫くバスタービーム。早くも派遣社員と呼ばれた配下の1人を無力化する。
    『だらしないわね! しっかり働きなさい、正社員の、このアタシのように!』
     甲高い声で怒りを露わにする六六六人衆。その体から漆黒の殺気が滲み、灼滅者達の体をじわじわと苦痛に苛む。
     だが、対抗するように霧ヶ峰・海璃(絶切刃・d15615)も膨大な殺意を相手へ向けて。
    「はてさて、しっちゃかめっちゃかになるみたいだけど……露払いはしっかりやらないとね」
     殺意には殺意を。鋭い眼光で、海璃はこれから始まる戦いの行方を見据えた。


     六六六人衆の掲げたマイクから激しい竜巻が巻き起こり、灼滅者達の守護を剥ぎ取っていく。
     正社員と呼ばれるそのダークネスの攻撃は、威力もさることながら行動阻害が厭らしい。纏う殺意により強化されているとなれば、尚更だ。
    「回復は任せて下さい」
     カバーに入るディフェンダー陣の負傷の度合いを確認し、ケイは後方から清めの風を生み出した。仲間の傷と行動阻害をまとめて癒す。
    「何処を見ているの? アナタの相手はこっちよ」
     吹き抜ける風と共に、月子は低い姿勢で疾駆。死角を突いたレガリアスサイクロンで敵の殺意を振り払った。
     一方、ある者はナイフを振り回し、ある者は毒の風を巻き起こす配下の強化一般人。
    『ようやく就職できたんだ! 邪魔するんじゃねぇ!』
     どこか悲哀に満ちた彼らの前に立ち塞がり、静菜は西洋剣による破邪の一撃を繰り出した。
    「こちらにも、退けない理由があるのです……!」
    「どいて、どいて! 嫌だっていうのなら、無理やりにでも押し退けるよ!」
     間髪入れず、海璃も蹴りに炎纏わせ。1人、また1人と配下が無力化されていく。
     やがて、残るは六六六人衆ただ1人。
    『ああもう、だらしないったらありゃしない!!』
     苛立ち露わにマイクを振り回す敵へ、アリスは素早く接近しグラインドファイア。激しい炎が燃え上がる。
    「絶対に、あなたたちの好きにはさせないのです……!」
    『学生ごときが、生意気言ってるんじゃないわよ!』
     アリスへ襲い掛かる殴打は、しかし、ティートがすかさずカバー。
    「その程度かよっ!」
     傷の痛みごと吐き捨てるようにレーヴァテイン。敵を覆う炎がさらに勢いを増し、甲高い悲鳴が上がった。
     ――その隙を逃す架乃ではない!
    「悪夢に沈め!」
     足元の影を一瞬で伸ばし、敵を飲み込む。狙い定めた一撃は、痛烈なまでに敵の体を食い荒らして。
    「さあ、終わりにしよう」
     音も無く振り上げられた山吹の西洋剣が、非物質化した刃で相手を深々と切り裂く。
    『ああっ……斬新社長様、申しわ、け……!!』
     言い終える前に、六六六人衆は動きを止め。その体が急速に消滅を始めた。
     ――まずは1勝。
     だが、相手は六六六人衆。戦闘での消耗はかなり激しい。
     灼滅者達は人気のない場所で心霊手術を行い、深手を負った仲間の傷を癒した。
     そして、回復を終える頃。
     連絡役を務める架乃の元に届いたのは――ラグナロク発見、確保の報。
    「場所、どこだと思う? ……横須賀市、東部だってさ」
     架乃の口元に浮かぶ、緊張に満ちた笑み。
    「なら、おそらく撤退ルートはこちらのはず。……ですが、少し距離がありますね」
     静菜が地図を確認する。同じ地域にいるとはいえ、護衛のため合流するのは難しいだろう。
    「なら、せめてラグナロクさんの退路を確保しましょう……!」
    「ええ、絶対に守り切るわよ」
     アリスと月子の言葉に、仲間達が大きく頷いた。
     

     撤退中の探索班を守るため、灼滅者達はひたすらに路地を駆ける。
     前方では、作業着を着た数人の男性が携帯電話で何かを話していた。
     と――静菜が、不意にあることに気付く。
    「このロゴは……!」
     作業着に印刷されていたのは『斬新コーポレーション』のロゴ。改めて見れば、連絡を行う男性の表情は急速に険しさを増していく。
     ――まさか、と山吹が呟いた。
    「六六六人衆達に、俺達がラグナロクを確保した情報が伝わっている……みたい、だね!」
    『了解いたしました! 我ら総力を挙げ、ラグナロク奪取へ向かいますっ!』
     連絡を終え、慌てて走り出す彼らの背を目掛け、山吹は素早くディーヴァズメロディを響かせた。
     不意を突いた一撃を防ぐ術はない。姿勢を崩す仲間に気付き、先ほどまで連絡を行っていた男性が驚愕も露わに灼滅者達へ振り向いた。その手には拡声器。恐らく、彼がチームを指揮する正社員なのだろう。
    『灼滅者か、邪魔をするな!』
    「邪魔をしているのは、あなた達です……!」
     凛と告げ、アリスはデッドブラスターを撃ち出した。
    「私は……ただ、一人の女の子を、助けて差し上げたいだけです……!」
     何も知らないラグナロクの少女をダークネスの手から守り切り、武蔵坂学園へと連れ帰る。目の前の六六六人衆は、紛れもなくそれを遮る障害だ。
    「なんとしても、ここで止めないと、ね」
     山吹の言葉に頷く仲間達。
     たとえ護衛に駆け付けられないとしても。結果的に、それがまだ見ぬ彼女を守る結果に繋がるならば――!
     拡声器の男の号令に、配下達は次々と槍を構え灼滅者達へ襲い掛かる。
     仲間達を守るように障壁を展開し、静菜は配下の攻撃を受け止めながら足元の影を伸ばした。
     あとはここにいる仲間と、向かっている仲間を信じるのみ。
    「任せてくれている人達の為に、全力で行きますよ!」
     静菜の決意を示すように、影は一瞬で配下の1人を喰らう。
     続けて繰り出されるのは、ケイの鬼神変。
    「これは、一瞬たりとも気が抜けませんね……っ」
     穏やかな眼差しが緊張に鋭く光る。
     心霊手術を済ませたとはいえ、六六六人衆との連戦は困難を極めることが予想される。ケイはこまめに戦況を確認し、仲間の回復に務めた。
     一方、配下達の破壊力が螺旋の刺突と共に強化されるのを見て取り、架乃はReminiscenceの頁を手繰った。
    「早さと正確さはソチラだけの専売特許じゃないんだよ!」
     放たれた光線が敵の強化を正確に剥ぎ取る。すかさずその死角へ潜り込んだ海璃が、妖の槍で相手の急所を貫いて。
    「はい、おしまい」
     倒れゆく敵を冷たく見やると、海璃は気を抜くことなく次撃に備える。その横を、ティートが滑るように駆け抜けていく。
    「お前らに用はねぇんだよ! さっさと倒れちまえ!!」
     繰り出す蹴りに激しい炎纏わせ、また1人、配下が地へ沈んだ。
    『こんなところで足を止めている場合ではないというのに……!!』
     舌打ちひとつ、六六六人衆が拡声器から円盤状の光線を発射し、前衛の灼滅者をまとめて薙ぎ払う。
     仲間を庇うように攻撃を受け止めると、月子は掲げた西洋剣から祝福の風を生み出して。
    「ふふ、アナタの相手は私達よ。共に素敵なひとときを過ごしましょう?」
     焦りを露わにする敵へ、蠱惑的にウインクひとつ。
     負った傷の痛みすら、今は甘美な快楽へと変えて――戦いは、なおも続く。


     六六六人衆との戦闘の最中も、戦況は目まぐるしく移り変わっていく。
     戦闘の激化と共にもたらされたのは、同じ六六六人衆との戦闘を担当する班からの『人事部長』発見の報。だが、とてもではないが、駆け付けられるだけの余裕はない。
     激戦の末、配下は1人残らず地へ伏した。勢いを緩めることなく山吹が振るった大鎌が、直後、高速演算に移行した六六六人衆の回復力を下げる。
     だが、敵の狙いはより正確さを増し、灼滅者達を切り裂き、貫いて。
     舌打ちひとつ、ティートは仲間達を庇い、傷だらけの体を引きずるように走り出した。
    「させるかよっ!」
     バニシングフレアが敵の強化を打ち消すも、直後、ティートの体は敵のティアーズリッパーに深々と切り裂かれる。
     無茶をするのは自分の役目だ、と口の端を僅かに上げて。遠ざかる意識。
     倒れるティートを見つめ、防護符を取り出したケイがきつく唇を噛み締めた。
    「これ以上、誰も傷つけさせません……っ」
     だが、ケイをはじめとした仲間達による必死の回復が続いても、ディフェンダーに負傷が蓄積していく。かといって攻撃の手を緩めれば、相手に押し切られるかもしれない。
     ぎりぎりの判断の末、ケイはより負傷の激しい海璃へ防護符を放った。直後、戦場を貫くバスタービームに、仲間達を守る月子が飲み込まれる。
     だが――。
    「ああ……この甘美な衝動に溺れてしまいそう……」
     その魂は、肉体を凌駕した。熱く火照る自身の体を抱き締めると、月子は恍惚とした表情で影を滑るように駆け抜け、一瞬で敵へと肉薄する。
    「アナタはどんな声で鳴くのかしら?」
     放たれた蹴りが、暮れる空に火の粉を舞い上がらせた。
    「ラグナロクさんは、絶対に、私達が守ってみせます……!!」
     間髪入れず、裂帛の気合いと共に静菜が振り下ろした西洋剣が、破邪の白光を放ちながら敵を深々と切り裂く。
     と、その時。架乃が不意に片手を耳へ当てた。刹那、ぱっと表情を明るくして。
    「ラグナロク、戦場から撤退したよ!」
     もたらされた連絡に仲間達が歓声を上げる。
     一方、敵は憎々しげに表情を歪ませ、灼滅者達を睨みつけた。
    『ええい、こうなればお前達の命だけでも……!』
     だが、すかさず肉薄した海璃が手にした槍で幾重もの斬撃を相手へ繰り出し、その護りを削ぎ取っていく。
    「キミ達のお仕事とやらは、ここでお終いだよ!」
     だが、未だ敵が倒れる気配はない。一瞬の隙を突かれ、山吹の体が深々と抉られる。
    「こんなところで……やられる俺達じゃない、よね」
     苦痛に顔を歪めながらも、山吹の唇から紡がれるメロディ。音の流れは、僅かながらも敵の体を催眠に揺らして。
     直後、敵を飲み込んだのは、架乃の足元から放たれた影。
    「アリスちゃん!」
    「はいっ……!」
     交わされる一瞬のアイコンタクト。ヴォーパルソードを構え、アリスは機を逃すことなく戦場を駆け抜けた。
     剣から放たれる破邪の光が、六六六人衆の体に斬撃の軌跡を描く。
    『そ、そんな……』
     最期に残されたのは、吐息のような呟き。
     悔しげに灼滅者達を睨みつける瞳は、次の瞬間、その輝きを喪った。
    「なんとか、勝てました……」
     直後、アリスも疲労困憊といった様子で地面に座り込む。
     静菜と海璃、月子は倒れたティートを介抱。ケイは急いで山吹の治療を始めた。
    「前哨戦の割には随分派手だったね……本戦が思いやられるよ」
     他の班や知り合いの皆は無事だろうか、と。呟く架乃。

     だが、今だけはせめて。
     目の前の勝利を――自分達が確かに果たした役割を噛み締めよう。

    作者:悠久 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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