獄魔覇獄前哨戦~サーチ・オア・デストロイ

    作者:西灰三

     神奈川県南部、東京湾と相模湾に面する海の町、横須賀市。
     その横須賀市の海底から、大きな、大きすぎる力が、上陸しようとしていた。
     怪しく光る光球の中にあるのは、光の束で縛られた小柄な人影。
     
     その光球は、海から地上に上がると、ふらふらと空中を漂いながら、横須賀市のほぼ中央へと到達すると、地面にふわりと着地した。
     その中から現れたのは……。
     
    「あれ? ここは、どこ、どうして、こんな所に? たしか私はパワースポット巡りを……」
     
     たった、一人のラグナロクであった。
     
    ●獄魔覇獄前哨戦
     8名の獄魔大将に告ぐ。
     獄魔覇獄の戦いの火蓋が切って落とされた。
     横須賀市中央部に放たれた、ラグナロクを奪い合え。
     この前哨戦で、ラグナロクを捕らえ確保したものが、獄魔覇獄の戦いをリードする事になるだろう。
     
     ラグナロクの確保に全力をつくすのも良いだろう。
     獄魔覇獄の戦いの為に戦力を温存するのも良いだろう。
     敵戦力を見極める事に重点を置く戦いも悪くは無い。
     
     獄魔大将として、軍を率い、そして、自らの目的を果たすがいい。
     
    「獄魔覇獄がいよいよ始まったよ。今回はその前哨戦」
     有明・クロエ(中学生エクスブレイン・dn0027) が大量の資料とともに君達灼滅者達を出迎えた。
    「今回の目的は『ラグナロクの保護』だよ、これが前哨戦の内容なんだろうね」
     クロエはそう言いつつラグナロクの説明を始める。
    「なんかパワースポットを巡っている時に巻き込まれた女の子なんだけど、戦闘力は無いよ。つまりどの勢力も簡単に手に入れられるって事」
     その彼女を巡る勢力は武蔵坂学園以外に7つある。
    「ラグナロクを探すのを優先するか、他の勢力を攻撃してラグナロクを守るかって所だね。獄魔覇獄の戦いも気になるところだけど彼女を助けるためにも頑張って欲しいんだ」
     と言いつつクロエは資料を広げた。
    「それでこれが各勢力の詳細、よく目を通しておいてね」

     ブエル勢力
     ブエル兵達は、住宅街をしらみ潰しに探しまわっているようだ。また、その際、新たなブエル兵を生み出す事も同時に行い、ラグナロクの捜索と戦力増強を共に行っているらしい。
     
     シン・ライリー勢力
     獄魔大将シン・ライリーを含め、少数精鋭の部隊が密かに横須賀入りをしているらしい。目的は、自分達以外の獄魔大将の力を見極める事のようで、表立って活動はしていない。シン・ライリーが灼滅されれば、獄魔大将シン・ライリーの勢力は敗北となる。
     
     クロキバ勢力
     犬猫眷属を派遣して、ラグナロクの捜索を行っている。主力のイフリートは殆ど派遣していない為、ラグナロクを発見したとしても、確保する戦力はなさそうだ。
     
     六六六人衆勢力
     人事部長と呼ばれる六六六人衆が指揮を取り、新入社員(六六六人衆)と派遣社員(強化一般人)を動員して、ラグナロク捜索を行っている。また、灼滅者を警戒しており、灼滅者の撃破を優先的に行おうとしているようだ。
     
     デスギガス勢力
     四大シャドウの一体、デスギガス配下のシャドウ達の勢力です。横須賀市民のソウルボードを移動しながら、状況を伺っているようだ。情報収集を優先しているようだが、ラグナロクが発見された場合、強奪できるようならば、襲撃をかけてくる可能性もある。
     
     カンナビス勢力
     ノーライフキング、カンナビスの勢力です。病院の灼滅者の死体から生み出した実験体アンデッドを多数繰り出して、ラグナロクの確保を行おうとしているようだ。また、病院の灼滅者のアンデッド達の外見を、灼滅者であるように偽装しており、自分達の勢力の情報を他の獄魔大将に隠そうとする意図もあるらしい。
     
     ナミダ姫
     スサノオの姫、ナミダの勢力。ラグナロクの探索は行わず、多数の『古の畏れ』を、横須賀市内に出現させ、無差別に敵を襲わせようとする。敵の戦力を測るのが目的と思われるが、他に目的があるかもしれない。
     
    「たくさんあるから必要に応じて目を通してね。まずは自分達が何をするのかを決めるといいと思うよ。それじゃ、頑張ってね!」


    参加者
    因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)
    花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)
    叢雲・こぶし(怪傑レッドベレー・d03613)
    星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・d04321)
    パメラ・ウィーラー(シルキーフラウ・d06196)
    柳生・宗無(新陰流霹靂剣・d09468)
    白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197)
    備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)

    ■リプレイ

    ●八
     相手を探し灼滅者は走る。その目標は獄魔大将シン・ライリー。このラグナロク争奪戦において唯一獄魔大将自らが来ているという情報である。
    「一連の戦いもいよいよ大詰めって雰囲気ですね。気合を入れていきましょう」
     この大一番に花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)は張り詰めた空気をまとっている。明らかにこの後に更に大きな戦いが待っているのだ。
    (「迷惑をかけないんだったら、仲良くしたいんだけど……」)
     因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)脳裏にそんな思いが浮かぶ。無論そんな簡単な話ではなかろう。
    (「いつかは名前の長い大戦では敵になるかもしれないんだよね」)
     獄魔覇獄大戦。それが何を意味するのか未だ分からないことが多い、ただ言えることは多数の勢力がこの戦いで勝利を収めようとしているということだ。
    (「五稜郭タワー以来か」)
     星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・d04321)以前会った時の事を思い出す。あの時もまた多数の勢力が集い、混乱に満ちた戦場であった。ただ一つだが大きな違いと言えば、今回は狭い施設内ではなく広い街が舞台ということだ。
    「シン・ライリーさんってすごく強い方らしいんですけど、どんな方なんですか~?」
     パメラ・ウィーラー(シルキーフラウ・d06196)が問う。
    「あの強さは鮮明に覚えているよ」
     と。傷ついていたとは言えダークネスであるご当地怪人を一撃で吹き飛ばして乱入し、最後まで激戦の中にいた実力は恐ろしく高い。
    (「本当に僕らだけで足止めできるのかな」)
     備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)は内心疑問符を浮かべた。戦闘に向かう班の中でもシン・ライリーに向かうのは彼ら8人だけだ。果たしてこの人数で止めることはできるだろうか。
    「厳しい戦いなのは把握してるっすけど、だからこそ絶対勝って変えるっす!」
     鎗輔の一抹の不安を読み取ったのか白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197)が笑顔を見せる。
    「いつかは戦わなきゃいけない相手だし」
     パシリと拳と掌を合わせて叢雲・こぶし(怪傑レッドベレー・d03613)が続く。
    「それに強ければ強いほど良い」
     柳生・宗無(新陰流霹靂剣・d09468)もまた類まれなる強者との戦いに静かに闘志を燃やしているようだ。彼らが求むる相手を探していると、海に丸い光が現れる。
    「あれは……」
     焔が見つけると同時に一同はその近くに近づいていく。
     それが、何を自分達にもたらすのか彼らはまだ知る由もなかった。

    ●シン・ライリー
     彼らが水面に近づく間にも、光は高速で大きくなっていく。そして彼らが辿り着くのと同時に海から飛び出た光はすぐに海岸へと降りる。
    「……!」
     光はすぐに消え、代わりに現れたのはシン・ライリーと数名の部下達である。灼滅者達はその姿を見て考えるよりも先に理解する。目の前の彼らはその全てにおいて自分達よりも圧倒的な強者であると。当の彼らはこちらを一瞥しただけで、移動を始めようとしていた。要するに灼滅者達の事には大して注意を払っていない。まるで相手にする必要が無いということだろう。
    「あの~」
     そんな彼らに間延びした声で呼びかけたのはパメラだ。彼女が声をかける事でシン・ライリーはやっと灼滅者たちに顔を向ける。
    「なんだ、お前達は」
     視線はまるで心臓まで貫いてしまうほどに鋭い。睨まれるだけで全身の肌は逆立ち、背筋からは冷たい汗が止まらない。
    「僕らは貴方と話がしたい」
    「話だと」
     亜理栖がそう口を開くと、シン・ライリーから放たれるものが剣呑さを帯びる。
    「お前達は今ここで何が行われているか知っていて言っているのか」
     獄魔大将であるシン・ライリーはこの横須賀の地で獄魔覇獄前哨戦が行われていることを知っている。そんな彼を言葉で押しとどめるのは不可能だろう。
    「退け。灼滅者程度に構っている時間は無い。今回はあの時のように手応えのある者も見当たらん。戦う価値すら無い」
     優輝の顔を軽く見てシン・ライリーは言う。今回は弱体化装置争奪戦の時とは違い灼滅者達にとって付け入る隙は無い。そのまま悠然と歩き出そうとするシン・ライリーの前に意を決してこぶしは立ちはだかる。
    「何のつもりだ」
    「押し通るなら、僕らと拳で語らってもらうよ。そっちにも都合があるように、僕らにも都合があるからね」
     彼女に続き鎗輔も立ちはだかる。その声は無理矢理に絞り出したようで。そのまま放てば震えてしまっていただろう。
    「相手が居ないなら、このピュアライトが前哨戦のお相手になるっすよ!」
     雅が構えを取る、戦う意思を見せた灼滅者達を前にシン・ライリーは足を一歩踏み出す。
    「一つだけ教えてやろう」
     言葉と共に圧倒的な力がこちらに向かって来ることを感じられる。こぶしの掌に、焔の持ち手に汗が溢れ出してくる。
    「俺の目的は他の奴らの強さを知ることだ、この拳でな」
     シン・ライリーが構えを取るよりも早く、灼滅者達は弾かれるように飛び出した。
    「新陰流霹靂剣、柳生零兵衛宗無。参ります……!」

    ●攻
     灼滅者達が狙うは一点、シン・ライリーのみ。彼の配下でさえ打ち崩すのは彼らだけでは不可能である、無論シン・ライリーに対してはそれよりも更に上ではあるが彼を押しとどめるにはそれ以外に可能性が無いと直感的に判断した故に。
    「くっ……!」
     目の前の相手が言葉で止まるような相手では無いことを亜理栖は強く感じる。用意してきた幾つかの質問も答えが帰ってくる事は無いだろう。それでも彼は石化の呪いを紡いでシン・ライリーに放つ。
    「さて、どれだけお持て成しできるかわかりませんが……」
     パメラの口調もいつもの調子より硬い。明らかに小細工の一つですらも力技で砕いて来そうな相手である。心惑わす歌を響かせるが果たしてそれに大人しく乗るような相手だとは思えない。パメラにとってもっとも色々な意味で相性の悪い相手である。
    「斬り潰します」
     焔が両手の赤と黒の剣をシン・ライリーに向かって振り下ろす。彼女の手には確かに敵の身体を捉えた感触が生まれる。焔が全身の力を込めて武器を振りきればすぐさまに雅が飛び込む。
    「全力で……!」
     雅が発する事が出来たのはその一言。輝く靴が炎を伴い上空から強襲する。光が弾け空気が爆ぜる。油断も力みも一つもない今の彼女に出来る最大の一撃。彼女に続き、次々と灼滅者達は一点へと攻撃を集中する。
    (「今度こそ……!」)
     倒れるわけには行かない。優輝は輝く剣を勢い良く振り抜く。二度も同じ相手を前に膝を屈しまいと、彼は全身と魂に力をたぎらせて聖戦士と化す。
    「どんな闇であろうとッ!」
     鶴のいななきのような、鋭く、凛とした響きと共にこぶしは光条を放つ。それは破壊力を持って敵の元に迷うことなく襲い掛かる。そのまま相手が相手ならそのまま貫いてしまいそうだ。
    「武の研鑽の全てを、今ここで……!」
     宗無の拳が炎に包まれる。いや、拳だけではなく彼女の胸の内でも闘志という名の炎が燃え盛っていた。今、動けるダークネスの中でも指折りの強さを持つ相手である。その高みに、彼女は全力でぶつかっていく。
    「このまま行けるか……!?」
     鎗輔は未だ五体満足の相手を見る。そのまま相手の頭を抱え込み勢い良く地面に叩きつける。その衝撃で地面からは破片が飛び散る。
    「これで……!」

    ●武
    「……試しに受けてみたが、こんなものか」
     灼滅者の集中攻撃を受けてすぐ後、シン・ライリーは何事もなかった様に立ち上がる。
    「お前達、もう待たなくていいぞ」
     シン・ライリーは見守っていた精鋭達にそう伝える、そして精鋭たちは一斉に動き出す。それぞれがダークネスとして相当の強さを持った精鋭たちである。全力を一撃に込めた灼滅者達では目で追いかける余力すらない。
    「なっ……!?」
     気付けば焔の身体が宙に舞っていた。精鋭達はいつの間にか彼女の前で打ち放った姿勢で佇んでいる。高くまで打ち上げられた彼女の身体は地上にどさりと落ちるとそれきり動かない。魂すらも完膚なきまでに叩き折る多数の攻撃だった。
    「それなりに頑丈か」
     シン・ライリーの言葉は彼の攻撃の後に聞こえた。ただし倒れた焔と、彼の一撃で意識を失ったこぶしを除いて。彼の鋭い蹴りはこぶしの身体をくの字に曲げる、そしてうずくまるように地面に伏せる。
    「これほどまでに……!」
     宗無が圧倒的な実力差を前に呻く、がその一息ですら大きな隙であった。絶対的な力と研ぎ澄まされた技。双方が揃った踏み込みと突きが彼女に迫る。
    「させるか……!」
    「戦う意思のない奴が戦場に出てくるな」
     身を挺して優輝は彼女とシン・ライリーの間に立つ、だが、元々積極的に戦うつもりではなかった彼を、シン・ライリーは苛立つように殴り倒す。聖戦士の加護もその一撃の前には薄い紙のようなものであり、彼もまた動きを止める。そのまま連携を続けて宗無をも打ち倒す。
    「そこっす!」
     雅がその宗無を打ち倒した拳目掛けて、同じく拳を叩きつける。金属同士がぶつかり合うような音が響き、痛みに顔を歪ませたのは雅の方だった。そしてそれによって生じた痛みが隙となり、彼女もまた精兵達に打ち倒される。
    「逃げよう」
     亜理栖が聞いたのは鎗輔の声、彼は意を決した表情で倒れた仲間を抱えて立っていた。今の彼らだけでは余りにも、余りにも力の及ばない相手である。この目の前にいるシン・ライリーという存在は、獄魔大将であり、もとの主である有力なスキュラよりも強く、デボネアやロシアンタイガーと互角に競った相手である。それに加えて精鋭のダークネスも数名、確実にこの前哨戦においての最大戦力であろう。倒すことはもとより、押しとどめるのにも彼らだけではなく、多数の灼滅者が必要だった。
    「………っ!」
     亜理栖は複雑そうな表情で相手を見た。積極的に戦うつもりでは無かった彼だが、思い返してみればロシアンタイガーの一件の時から敵対関係なのだ。撤退の素振りを見せたこちらを追撃せずに、移動を始める様子を見れば最悪よりは大分良いとは言えるだろうが。
    「というわけで、下がりましょうー。あちらの方も忙しそうですしー」
     パメラも倒れた仲間たちを回収していた。これ以上の戦いは被害が増えるだけだ。灼滅者達はシン・ライリー達が移動する物音を背にこの場を離れていく。鎗輔の心の中で一つの想像が浮かぶ。
    (「コドクだっけ……」)
     もしこの前哨戦を蟲同士を戦わせるそれに見立てるのなら、おそらくもっとも強いものが今放たれた事になる。灼滅者達は大きな不安を胸にこの場を離れていく。
     放たれたシン・ライリーは、戦うべき相手を求めて戦場へ乗り込んでいく、それを止めるものはもう、いない。

    作者:西灰三 重傷:花藤・焔(戦神斬姫・d01510) 叢雲・こぶし(怪傑レッドベレー・d03613) 星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・d04321) 柳生・宗無(新陰流霹靂剣・d09468) 白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:失敗…
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