獄魔覇獄前哨戦～その少女、ラグナロク

■リプレイ

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「ここが最初の衣笠神社ですね」
　地図を手に式守・太郎（ブラウニー・d04726）は言いながら鳥居からの本殿を目に、周囲を見渡した。
　木々に囲まれ、大きくはないが、しっかりとした造りの神社。
「ここに彼女はいるのでしょうか」
　鳥居をくぐり、置始・瑞樹（殞籠・d00403）は注意深く『彼女』がいないかと目を凝らす。
　――彼女。
　『特殊肉体者』、ラグナロク。
　体内に膨大なサイキックエナジーを蓄積する事ができる存在である彼女は、武神大戦獄魔覇獄の褒美として横須賀の中心に現れたのだ。
　今ここにいる灼滅者達は、他の勢力よりも先に彼女を保護すべく、捜索を行っている。
「ラグナロクだからって、物みたいに扱うなんて許せない」
「人間を景品にとかむかつくっすけど、ダークネス相手に言っても仕方ないっすね」
　早く助け出したいという思いを胸に、ビハインド・神夜と共に注意深く探索する清水・式（生命と死の神アヴァンシエル・d13169）の言葉にギィ・ラフィット（カラブラン・d01039）も言い、その姿を探す。
　複数の勢力に自分が狙われている事に気付いた彼女は、捕まらないよう逃げている筈だ。そうなると、最初に現れたこの中央から離れている可能性は高いだろう。
　既に移動し、この場所にいないと考えた上で、それを確認するためにこの場所を探す。
　マントのフードの奥から周囲を見渡しながら、アンネリーゼ・デアフライシュッツ（七発目は悪魔の弾丸・d26691）も探すが仲間達同様、それらしき姿を見つける事はできないでいる。
　灼滅者達は打ち合わせ通りに衣笠神社から衣笠山公園へと移動し、二班に分かれたままラグナロクの少女を探索するが、その姿はない。
　やはり、既に他の場所へ移動しているのだろうか。衣笠山公園を後にし、住宅街へ。
「すいませ～ん、ちょっとええですか？」
「友人を探しているのですが、見かけませんでしたか？」
　通りかかった学生にラックス・ノウン（どうみてもスレイヤー・d11624）が声をかけ、似顔絵を手に深海・水花（鮮血の使徒・d20595）も訊ねるが、見ていないらしい。
「すいませーん、ちょっと友達と逸れちゃいましてー、こう鳥居の形の髪飾りをした娘って見ませんでした？」
　慣れないですます言葉を使いながら、狩家・利戈（無領無民の王・d15666）も道行く人に少女を見なかったかと聞いて回るが、有力な情報は得られなかった。
　灼滅者達は、互いの位置を把握できる距離を維持し、連絡を取り合いながら探し続ける。
　しばらく探索を続けていたが、ふと足を止める利戈にアンネリーゼは瞳を向けた。
「どうかしたの？」
「いや、何かが気配を感じたような……」
　その言葉に仲間達は足を止め、注意深く周囲を調べると――、
　異形の姿が、そこにいた。
　
●
　灼滅者達が目にしたそれは、ブエル兵。
　ソロモンの悪魔『ブエル』の創造した眷属が、灼滅者達が探す道の先を横切ったのだ。
　数体のブエル兵が通るのを目に、気付かれないよう姿を隠して様子を伺うが、気付いた様子はなく、そのまま通り過ぎていく。
「気付かなかったみたいっすね」
　電信柱に姿を隠すギィの言葉に太郎は頷く。
　十分な時間をあけ、探索を開始すべく動き出そうとするが、
「た、たすけてくれーっ！」
　その声を耳に、灼滅者達は隠れるようにそちらを伺うと、スーツ姿の男が先ほど横切ったブエル兵に追われていた。だが、それも長くはもたない。
「……う、あ、ああぁぁ……！！」
　ぴたりと足を止め、男は突然、苦しみ出すと、その姿を異形の――ブエル兵へと姿を変えた。
　ブエル兵は住宅街を虱潰しに探し回り、それと同時に戦力の増強を行っているという、エクスブレインの言葉を思い出した灼滅者達はごくりと息を飲み、気付かれないよう移動する事しかできなかった。
　住宅街は大きな道から裏道といった様々な道があり、隠れやすい場所はいくつもある。地図やESPを使い、隠れる事ができそうな場所や、向かいそうな場所へと動いた。
「あそこで尋ねられないかしら」
　裏道を抜け、ふとアンネリーゼが示すのは小さなスーパー。もしかすると店員がその姿を見ているかもしれない。
　近付こうとするが、無言のギィに止められる。
「……あいつら」
　低く、吐き出すような利戈の言葉。
　ブエル兵の襲撃を受けているスーパーは地獄絵図と化していた。
　今回の作戦では敵勢力との戦闘ではなく、ラグナロク捜索という役割をこのチームは担っている。その関係上、一般人を助ける事は最優先ではない。
　ぎりっと拳を握り締め、虐殺される光景を目に作戦通りに戦闘班へ連絡を取る事しかできなかった。
　助けられない事は辛いが、ラグナロクの未来も掛かっている。迷いは振り払わなければならない。
「……行きましょう、ラグナロクを助けるために」
　聞こえる悲鳴に瞳を伏せ、マフラーを握り締めた太郎は、仲間達と共に探索すべくその場を後にした。
　もう一方の探索チームは上がる息を抑え、走っていた。距離を開けられ、それでも後を追うのはブエル兵達だ。
「アカン、しつこすぎるわ～」
　かなり走っているというのにしつこく追いかけるブエル兵を目にラックスは言いながらも、仲間達と地を駆ける。
　探索をメインに行う灼滅者達は、戦闘を避ける方針を採った。なので、敵と遭遇しても隠れる、見つかった場合は逃走して戦闘を避けるようにしている。
　全力で走る灼滅者達は角を曲がり、さらにもう一つの角を曲がり、物陰に隠れて待つ事しばし。
「…………」
　上がる息を抑え、灼滅者達はブエル兵がこちらへ来ない事を願う。
「行ったな」
　しばらく経ち、耳を澄まして注意深く周囲を確認した式は口にする。
　住宅街はブエル兵達がラグナロクを探索をしているようで、灼滅者達はかくれんぼをするかのように隠れ、そして競い合うかのように探していた。
　隠れられる場所はいくらでもあり、声をかけたりしながら探しているがブエル兵との接触もあり、その度に振り切るように逃げる。
　声をかけようとした一般人が殺され、また別の一般人がブエル兵となる光景を何度も目にした水花は心の中で祈りを口にし、十字を切ることしかできなかった。
　チームの方針に従い行動する瑞樹だが、本当は戦闘に加わり仲間を守りたかった。一般人が巻き込まれるのを何度も目にし、口惜しい気持ちに辛い気持ちが混ざりあう。
「ままー！　ままー！」
　そんな中、幼い声に引き寄せられた瑞樹は、見た。
　そこは行き止まりの袋小路。血を流し、母親と思しき女性にすがりつく女の子。そして二人の前にはブエル兵。
「まま、おーきてー！　ままー！」
　女の子はぼろぼろと泣きじゃくりながら母親を起こそうとするが、ぐったりしたまま動かない。生きているのか、生きていないのか。
　助けを呼ぶべきか？　いや、辿り着く頃には――、
　考える間もそこそこに、体は動いた。
　
●
「好きなようにはさせません！」
　その声はブエル兵の注意を引くが、振り上げる攻撃は女の子へ。
「……っ！」
　全ての力を振り絞り、女の子とブエル兵の間に入った瑞樹は攻撃を真正面から受けた。切りつけられた腕に紅線が引かれ、痛みと共に血がだらりと流れるが、親子を背に、耐える。
「大丈夫？」
「ありがとうございます」
　急いで駆けつけた式の癒しを受け、その痛みは引くと同時に流れる血もぴたりと止まる。そして、共に行動する仲間達も駆けつけると、ブエル兵を目に武器を構えて戦闘態勢をとる。
「神の名の下に、断罪します……！」
「ほな、ちゃちゃっといきましょか」
　水花のジャッジメントレイとラックスの攻撃によろめくブエル兵だが、月光天を構える瑞樹が放つシールドバッシュを受けると、そこで限界に達したのか、その姿は消えてしまう。
「大丈夫ですか？」
　しゃがみ込み、安心させるよう水花は優しく声をかけると、目の前で起きた光景に、女の子は泣き出すのを必死にこらえていた。ちらりと視線を母親へと向けると、息があるようだった。親子共に無事であった事にほっと息をつくのもつかの間、
「また現れるとは」
　その姿を目に、すっと武器を手に構えなおす瑞樹。
　戦闘の音を聞きつけたのか、新たなブエル兵が現れたのだ。
　親子を背に立つ灼滅者達の前に現れた新手のブエル兵は5体。これを突破するのは難しいだろう。
「連絡はとってある、大丈夫」
　神夜と共に立つ式は言いながら武器を構えた。
　戦闘になる前にもうひとつの班へ連絡は済ませてある。離れた位置にはいない筈だから、すぐに駆けつけ、合流するだろう。数は多いが、それまでの辛抱だ。
「あなたたちは私達が守りますからね」
　水花の言葉に女の子は頷き、灼滅者達は攻撃が親子に向かぬように戦いを続けるが、程なくして駆けつけたもう一チームが合流し、戦闘は一気に有利となる。
「さて、お仕事の時間ね」
　アンネリーゼが構えるバスターライフル・Gewehr Caspar Jagerからのリップルバスターが体力が少ないブエル兵に命中すると、利戈と太郎が立て続けに攻撃をし、ブエル兵は力尽きた。
　オオオォォォ！
　仲間を倒され、不気味な声を上げるブエル兵だが、その声もすぐに止まる。
「遅くなったっすよ。……『殲具解放』」
　解除コード共に手にする無敵斬艦刀・剥守割砕を振り上げ、ギィはブエル兵へと切りかかった。
　5体と数が多いものの、ブエル兵はあまり強くはない。灼滅者達の攻撃に1体、また1体と倒れていく。
「ギィ、危ない！」
　火花を散らし、ぎん！　と音立て、ギィへ向いた攻撃を太郎が防いだ。
「助かったっすよ」
　所属クラブ部長へ向いた攻撃を太郎は防ぎ、お返しとばかりに破魔の薙刀を振るう。
（「あー、それにしてももったいない。せっかく強い奴と戦えるチャンスだったのに」）
　仲間達が戦う様子を目に、利戈は内心で思いを口にする。
　沢山の敵勢力が集まり、強い相手と戦えるまたとないこのチャンスに利戈は戦う事を望んだ。結果として、チームは戦いではなく探索をする方針となってしまったが、それでもやはり、戦いたかった。
　強い奴ではないが、こうして戦えるだけでも。
「利戈さん！」
「これで最後だ！！」
　水花からの言葉を受け、鈍い音と共に叩きつけられる利戈の拳は最後のブエル兵を貫いた。
　
●
　母親は意識を取り戻し、幼い娘と共に近くの家へと足早に入っていく。
「たすけてくれてありがとー」
　手を振りながらの幼い声を耳に、傷付いてでも親子の命を守れた事に瑞樹は内心で安堵した。
　式とラックスが周囲を見渡すとブエル兵の姿はなく、一般人の姿もない。新たな場所へ操作をすべく移動しようとしたその時――、
「東班からだわ」
　フードを被りなおそうとしていたアンネリーゼは言いながら届いた連絡に目を通す。それは東側を探索するチームからで、ラグナロクを発見したと、という内容だった。
「ここにはいなかったね」
　全員に届いた連絡を目に式はぽつりと口にする。既にこの場所から移動していると何なく分かっていた事であったが、それが確信できただけでも十分な収穫はあった。
「東っすか」
　連絡を目にギィも詳細を確認する。連絡があった場所はここからは離れており、合流するには少しかかるだろう。
　ラグナロクを発見したとなれば、彼女を奪おうと他の勢力が動く筈だ。
「間に合いますかね」
「間に合うかどうかは、これから行けば分かるだろ？」
「そうですね」
　太郎の言葉に利戈は言うと水花も頷いた。
　間に合う、間に合わないはともかく、ラグナロクを保護した東へと向かう。今できる事は、それだけだ。
「ほな、行きますか」
　ラックスは仲間達と東へ――ラグナロクがいるその場所へと地を駆ける。
　戦いに間に合うか、保護したラグナロクを無事に武蔵坂へ連れて行く事ができるか。それはいずれ分かる事だろう。

作者：カンナミユ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年12月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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