獄魔覇獄前哨戦～『運命』を掴み取れ！

■リプレイ

●ラグナロクを探して
　神奈川県横須賀市。その南西から南東にかけてのエリアを探す事に決めた８人は、国道１３４号線の西側から行動を開始する事にした。
「まずは、この付近の神社仏閣から回るのが良いかしら？」
「そうですね。あとは逃げ込んで身を隠せそうな場所……公園や、学校でしょうか」
　地図を覗き込む忍長・玉緒（しのぶる衝動・d02774）に海堂・詠一郎（ラヴェイジ・d00518）が頷き、一行はそれらを巡るようなルートを決めていく。
「そういえば拙者ら、ラグナロクの子の顔も知らんでゴザルよな。見ればわかるって事デース？」
「ああ、それは……」
　首を傾げる天鈴・ウルスラ（踊る朔月・d00165）に、玉緒達は『予兆』で、と応じる。
　そもそも彼らが選んだ場所はいずれも、バベルの鎖がもたらした『予兆』に基づいたものだ。何人かはラグナロクと思わしき姿を『予兆』で見ている。
　それに、この状況下の横須賀市に、ダークネスから逃げ回っているような人が他にもいる可能性は低いだろうし、もしそんな人がいたなら、それはそれで保護すべきだろう。
「では、ひとまず回る場所とルートは……このような感じですね」
　地図を代表して持つ織凪・柚姫（甘やかな声色を紡ぎ微笑む織姫・d01913）が、手早く印やラインを書き込んでいく。そこにはスーパーＧＰＳで８人の現在位置が示されていた。
「南側に隣接する三浦市にもパワースポットとかはあるみたいだけど、エクスブレインが『横須賀市のどこか』と言っていたから、そっちは気にしなくて良さそうかな」
　目と鼻の距離であっても、横須賀市ではないのなら無視した方が効率よく探せるだろう。フゲ・ジーニ（幸せ迷宮回廊・d04685）は、手にしたスマホで自分達の予定する動きを他班へ伝達する。
　横須賀市は南北に他の街が隣接するだけでなく、東西を海に囲まれている。海から逃走する可能性まで考慮したら実際キリが無い。
「ラグナロクの子……無事だといいけれど」
　こうしている今にも、敵の魔の手が伸びているかもしれない。その身を案じながらバスを降りた白槻・純（純白の彩り・d10072）は、祈るような気持ちでスレイヤーカードの封印を解く。
「ああ……早く見つけてやらなくちゃな」
　頷く風真・和弥（無能団長・d03497）の顔には、微かに不愉快さが滲んでいた。
（「ラグナロクは、女の子は物じゃないんだ。本人の意志を無視して、勝手に争奪戦の景品にするもんじゃないぜ……」）
　ラグナロクが今置かれている状況は、和弥にとって、実に気に入らないものだ。憤慨しているという点では、玉緒も似たようなものである。
（「どいつもこいつも、人間の命をなんだと思っているのかしら……そんな目論みなんて、全部ぶち壊してあげるわ」）
　そうして胸元の鍵をぎゅっと握った玉緒もまた、殺人鬼としての力を解放する。
「まったく、仕組んだ奴の顔が見たいでゴザルな」
　海があるはずの方角を一瞥しながら、軽口を叩くように言い放ったウルスラも同じようにカードを掲げた。
　横須賀市には既に、ラグナロクを狙う多数のダークネスが入り込んでいる。ラグナロクを無事に見つけ出し、保護できるかどうか……時は一刻を争う。８人は灼滅者としての能力をフル活用して捜索に当たった。

●危険な領域
「む、止まるでゴザル」
　それに最初に気付いたのは、周囲の怪しい気配に目を光らせていたウルスラだった。
　８人がいる道と交差する、別の道を移動している数名の男女。だが、彼らが明らかに普通の通行人と違うのは、全員がその手に武器を持っている事だった。
「フム。制服こそ着ていないが武蔵坂の灼滅者……を装ったカンナビス勢力でゴザルかな」
　遠目には灼滅者のように見えない事も無いが、じっと観察すれば正体がアンデッドなのは明白だ。例の、病院灼滅者のアンデッドだろう。
「顔色が悪いとか、そういうレベルじゃなく全然違うものね」
「うん、確認するまでも無さそうだね」
　小声で囁き、８人は頷き合う。万が一の場合は相手の素性を確認するため、武蔵坂学園の生徒にしか解らないであろう問いかけをいくつか用意していたが、どうやらそこまでしなくても良さそうだ。
　そして敵である事が明白なら、接触自体を避けるべきだろう。純がカンナビス勢力を追う他班に情報を発信しつつ、一行は気配を殺し、細心の注意を払いながらアンデッドから離れていく。
「多少遠回りですが、この道からでも行けます。大丈夫です」
　十分に距離を取ると柚姫が皆を先導し、予定していたコースへ戻りながら捜索を続ける。
　しばらくして十字路を通り過ぎる際、村井・昌利（孤拳は砕けず・d11397）は一瞬、視界の端に小さな影が映ったのに気付き、振り返った。
（「犬と猫の群れ？　いや……」）
　それは、犬や猫が何かを探すように駆けていく姿だった。
　昌利の様子に他の灼滅者達もそちらへ目をやるが、動物達はすぐ、曲がり角の向こうへ消える。ふむ、と詠一郎は考え込んだ。
「クロキバの眷属でしょうか？」
「だと思うっす」
　ただの野良犬や野良猫にしては奇妙だろう。何かを探している様子であった事も、エクスブレインからの情報と合致する。
　眷属達の動向は気になるが、今はラグナロクの捜索が最優先だ。昌利はすぐ視線を元の道へ戻す。再び走りながら、フゲが念の為、今の情報をスマホに入力していった。
「アンデッドは他の班にも目撃されてるみたいだよ。位置的に別の固体かな」
　同時に他班からの情報を確認すると、どうやらカンナビス勢力はこの南地区に集まっているようだ。他にも複数の情報が寄せられている。また、それを受けてカンナビス勢力を狙う多数の戦闘班が動き、実際に戦闘へ突入していた。
　他の地域でも戦闘が無い訳ではなかったが、戦闘の数は現状、南が１番多い。
「ここが１番の激戦区、か……安全な場所を選んで逃げているのなら、戦場からは離れようとしているかもな」
　人気の無い場所を逃げるにしろ、どこかに潜伏するにしろ、剣呑な気配からは遠ざかろうとするに違いない。そう和弥は予測する。
　彼女が今まさに逃げようと移動しているのだとしたら、自分達のように敵と出くわす可能性も十分あるだろう。その姿を決して見落とさぬよう細心の注意を払って、しかしくれぐれも迅速に捜索を進めなければならない。
「予兆のように占いながら逃げている可能性を踏まえて、ルートを調整しましょう」
「賛成。ひとまず戦場は迂回して……」
　得られた情報を踏まえながら、一行は更なる目的地を目指す。

●ラグナロクの行方
「またか……」
「本当に多いですね、アンデッド」
　しかしラグナロクの姿はなかなか見つからない。反面、アンデッドの目撃は一度や二度に留まらず、その度に敵に気付かれないよう、相手をやり過ごして捜索を続ける。
「この裏、通れるみたいだよ。こっちから抜けよう」
　純が見つけた、建物の影の僅かな隙間を通り、今回もアンデッドとの戦闘を無事に回避する。他班の動きもマメに確認し、新たな交戦や目撃情報があるたび、ルートを柔軟に調整しながら捜索を続ける一行だったが――。
「！　見つかったって！　東！」
　叶神社を捜索した班がラグナロクを発見したこと、彼女を連れて浦賀駅方面を目指すことを伝えてくる。
「かなり離れているわね……」
　地図を辿り玉緒は眉を寄せる。浦賀駅を直接目指しても、着く頃にはもう彼らは更に別の場所へ移動してしまっているだろう。
「ここからなら、横須賀駅方面に向かった方が合流しやすいでしょうか？」
「そうですね。浦賀から電車を使うなら通るはずですし」
　上手い合流方法は無いだろうかと思案する柚姫の提案には、詠一郎も同意する。
　ラグナロクを保護したなら、彼らは武蔵坂学園を目指すはずだ。その途中での合流を目指した方が早い。車で高速を通るルートを取る可能性もあるが、その場合もひとまず目指す方角は同じだ。
「じゃあ北への最短ルートを取ろう」
　純も地図を覗き込む。敵は極力避けたいが、どこを通ってもリスクに大差がないなら最短ルートを突き進んだ方が効率は良い。
　敵の接近や尾行を警戒しながら、８人は北を目指す。……が、
「わ、またアンデッドだよ」
　霊犬の天照と共に足を止め、フゲが小声で囁く。戦闘班によってかなりのアンデッドが倒されているはずだが、それでもなお、アンデッドは徘徊しているらしい。
「向こうの角から回りましょう」
　今までと同じ要領で迂回を試みるが、不意にアンデッド達がこちらを向いた。それが何を示すか真っ先に察した昌利は、すぐさま皆に警告を発する。
「戦闘班は？」
「ダメです、近くには」
　玉緒が振り返るが、スマホを見ていた柚姫は首を振る。現在地と状況は流したが、到着には少し時間が掛かりそうだ。その間にもアンデッドは武器を構えて迫っており、やむなく、一行も応戦の構えを取る。
「振りきって逃げたいところではゴザルが」
「ついて来られても困るし、下手に情報を渡す訳にもいかないから、仕方ないだろうね」
　瞬殺できそうな相手ならまだしも、相手は病院灼滅者のアンデッド。楽勝とはいかないだろう。むむむ、と黒死斬を放つウルスラに純も残念そうに頷き、いつでも回復できるように備えながらセイクリッドクロスを降ろす。
「とにかく、一刻も早く駆けつけられるように全力を尽くしましょう」
「ええ……！」
　両手に集中させたオーラを放つ詠一郎も気持ちは同じだ。大勢に狙われて心細いだろうラグナロクも、多くの仲間が傍にいれば、それだけ安堵できるだろう。繰り出されたバベルブレイカーを受け止めた柚姫は、可愛いアイテムでデコった龍砕斧に宿る力を解放して守りを固め、ビハインドの翡晃と共に、出来るだけ多くの攻撃を自分に引き付ける。
　それを見て、心得たとばかりに前へ出たのは昌利だ。柚姫達が攻撃を引き付けている間に他のメンバーが攻撃を浴びせ、敵を圧倒してしまえばいい。手首を軽く揉んだ昌利は、雷に変換した闘気をまとい、そのまま一気にアンデッドへ叩き付けた。

●救援
　敵の後背に回り込んだ玉緒のティアーズリッパーが敵の背を大きく切り裂き、そこを更にフゲの放つジャッジメントレイが貫く。相手の動きを食い止めるように距離を詰めた天照は、跳び上がりながらその口にくわえた斬魔刀を鋭く繰り出し、敵を袈裟切りにする。
　戦いながら北側へ寄り、隙があれば離脱をと考える一行だったが、なかなかその機は訪れない。アンデッド達との攻防が続く中、ジャケットの裾を翻し、再び風牙と一閃を繰り出した和弥はふと、その耳に届いた微かな物音に気付く。
「誰かが走ってくる……？」
「犬、違う眷属だよ！」
　振り返った純が相手を見定めて叫ぶ。クロキバの眷属だと思われる犬猫の群れが、どうやら物音に気付いて駆けつけたようだ。
「ワン、……ワン？」
　足を止めた犬猫眷族は灼滅者と、アンデッドを見比べて首を傾げるような仕草をする。
（「攻撃してこない？」）
　攻撃しようと思えば、いくらでも可能だったはずだ。では何故だろうと構えたまま思案を巡らせる昌利。一方アンデッドは眷族も敵と見なしたらしく、衝撃のグランドシェイカーで灼滅者ごとまとめて攻撃してくる。
「ミャッ！」
　途端、眷属達は鋭い目つきでアンデッドを睨み、次々と攻撃を仕掛けた。それどころか、殺人注射器を構えて柚姫へ迫るアンデッドとの間に割り込んで、こちらの事を庇ってくれるではないか。
「助けてくれるの？　……この状況では、有難いわね」
　予想外の状況ではあったが、敵の足止めを強いられている中での加勢だ。これを生かし、一気に優位な状況へ運ぶべく、玉緒は鋼糸を敵へ巻きつける。
　おそらくクロキバは、灼滅者には協力するよう言い含めて配下を放ったのだろう。そして、ここ南は一番の激戦区――眷属達は、ラグナロク捜索と灼滅者への協力という２つの命に従うべく、この南にいたのだろう。
　そう考えれば納得のいく状況だと頷き、昌利は再び構えた拳を打ち込んだ。
　期せずして犬猫眷属と協力する格好となり、情勢は一気に灼滅者側の優位に傾いた。見る間にアンデッドを一体撃破へ追い込むと、更にその傾向に拍車がかかる。
　しかし、喜んでばかりではいられない状況である事を、灼滅者達は知った。
「東捜索班、六六六人衆に攻め込まれてるって！」
　ラグナロクとその護衛を逃しながら、大規模な防衛戦が繰り広げられているという情報が入ったのだ。ますます足止めされているような場合ではない。
「わんっ！」
「……なあ、これって」
「ここは俺に任せて先に行け、ってやつでゴザルか？」
　そんな灼滅者達を見上げ、眷属達が勇ましく鳴く。視線を交わす灼滅者達だが、とにかく今は一刻でも、時間が惜しい。
「ありがとう！」
「後はお願いします」
　一行は戦場を離脱し、すぐさま北へ駆け抜けた。気付いたアンデッドが反応するも、それは犬猫眷属達が体を張って食い止め、通さない。
「無事だといいのですが……」
「浦賀方面へ出るパターンも考えておきましょう」
　詠一郎達はラグナロクを案じながら北を目指す。激しい攻勢に晒されているのか、状況はなかなかリアルタイムでは流れてこない。おそらく余裕の無い状況なのだろう。
　距離は、まだ遠い。
　今から駆けつけても、到着する頃にはすべて終わっているかもしれない。だが、それでも仲間達とラグナロクの無事を信じ、彼らと少しでも早く合流すべく、８人は走り続けた。

作者：七海真砂	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年12月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 3
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。