獄魔覇獄前哨戦～七つの闇、光が一つ

■リプレイ

●影を探す光が一つ
　神奈川県南部、東京湾都相模湾に面する海の町、横須賀。
　ラグナロク出現によってダークネスたちが競い合う地となってしまったこの場所で、灼滅者たちはいくつかのチームに別れ、様々な思いを胸に行動していた。
　鷹合・湯里（鷹甘の青龍・d03864）は仲間と共に、ラグナロクを奪いに出現すると思われるデスギガス勢力のシャドウを警戒するために、東側探索班に同行している。
　今は探索を手伝いながら、シャドウを宿した一般人がいないかなどを探る警戒活動を行っていた。
　聞きこみを行いながら、湯里は一人思い抱く。
　獄魔覇獄。恐らく、役者は出揃ったということ。
　他勢力もかなりの戦力を有し、ラグナロクを狙っている……それぞれの本気が伺える状況だ。
　もっとも、譲るつもりはない。
　私達とラグナロクの平穏のため、全力で守りぬく。その為にこの場へとやって来たのだ。
「……はい、ご協力ありがとうございました」
　話をしてくれた老婆に手を振って、湯里は仲間たちの下へと戻って行く。
　今のところ情報らしきものはないとの情報を共有する中、大塚・雅也（ダイヤを探すシャドウハンター・d03747）が肩をすくめていく。
「其の辺で寝てる人でもいれば分かり易いけど、シャドウはどの程度起きてる人のソウルボードから認識できてるのかな」
「どうなんでしょうね。とりあえず、変な所で寝てる方はいませんでしたが……」
　氷霄・あすか（高校生シャドウハンター・d02917）は瞳を細め、小さなため息を吐きだした。
　更には季節柄、そうそう外で仮眠を取ろうとする者などいない。故に外で寝ている者がいたならば……との意見を交わし、再び警戒、探索へと移行した。
　黒乃・璃羽（ただそこに在る影・d03447）は無邪気な少女を装って、身を隠す力を用いたまま道行く人に手を振っていく。
「……いないみたいですね」
　一般人が反応を返してくる事はなく、中々尻尾はつかめない。
　せめてだけでも特定しようと清浄・利恵（根探すブローディア・d23692）が鼻を利かせるも……。
「……近づいたり離れたり、かと思えば無数に感じられたり……安定しない感じだね。とりあえず、今のところ意図的に近づいてくる様子はないかな」
　近づいてくる……仕掛けてくるとしたら、ラグナロクを見つけた時だろうか。
　利恵の言葉に頷き返した後、木島・御凛（ハイメガキャノン・d03917）は拳を握っていく。
「それにしても、ラグナロクを景品にとか巫山戯た話よね。こんな企画をする奴も参加する奴等も全部まとめてぶっ潰す！」
　静かな憤りと決意を語り、警戒、探索を継続した。
　そして……別所を探索していた者たちからラグナロク発見の報が連絡を役を務める白鳥・悠月（月夜に咲く華・d17246）に届く。
　それほど時間がかからずに辿り着ける距離だ。
　悠月はすかさずチームメンバーを呼び集め、声のした方角に向かって走りだす。
「急いで、向かおう」
　視線を利恵に向けたなら、近づいてくる気配はあるけれどすぐに……というわけではないと語った。
　変わらぬ笑顔のまま、湯里は静かな息を吐き出していく。
「とりあえず一安心、と言ったところですね。ですが、油断はしないでいきましょう」
　全てはラグナロクの平穏のため、ラグナロクとなった少女を救うため。
　八人の灼滅者たちはラグナロクを確保した探索班と合流を目指す――。

●ラグナロクを救うため
　――合流を目指して移動している時、二体のシャドウがラグナロクを確保した探索班の前に出現したのだ。
　それぞれモヒカンとツノ付きと言う特徴を持つ二体のシャドウの下へ！
　シャドウたちは顔を見合わせた後、表情をいびつに歪めて口を開いた。
「悪いがてめぇらの作戦もここまでだ」
「ラグナロクを置いて逃げるなら、痛ぇ目に合わずに済むぜ？　お前たちも、デスギガス様と敵対したくはないだろう？」
　言葉に構わず、あすかが得物片手に踏み込んだ。
「もう、やるしかない……」
　チームメンバーと共に探索版の前に立ち、逃げるよう促していく。
　二体のシャドウは舌打ちした。
「ちっ、大人しく渡してくれりゃぁ痛ぇ目見ずに済んだものを……」
「後悔するなよ！」
　ツノ付きが猛スピードで突進し、あすかの体をかちあげる。
　激しい痛みを感じながらも、あすかは倒れることなく着地した。
「このくらい……！」
　強い思いと共に立ち上がり、退くことなく自らに光を宿していく。
　そんな彼女ごと撃ち抜かん勢いで、モヒカンが影色の雨を降らせてきた。
　抗うため、御凛が光り輝く十字架を降臨させていく。
「まずはラグナロクを逃がすこと！　抜かれないよう、戦うわよ！」
「全力で支える！　……中々威力が高いみたいだが、耐えてくれ」
　十字架がシャドウたちに向かって光を放つ中、悠月は優しき風を招き入れ影の雨に傷つけられた前衛陣を治療した。
　更には弓の形に封印制御された杖に手をかけて、力を注ぎ始めていく。
　ツノ付きのボディプレスを受けた雅也に向かい、その力を解き放つ。
　動きの精細を取り戻していく光景を横目に、ラグナロクたちの方へと視線を向けた。
「この調子なら、十分足止めはできそうだな」
「けど、逃すまで油断は……いえ、最後まで油断はせず」
　頷きながら、璃羽はツノ付きに向かって魔力の弾丸を打ち込んでいく。
　更にはすぐにモヒカンを指し示し、新たな魔力の弾丸を発射した。
　弾丸を打ち込まれたシャドウたちが動きを鈍らせていく中、アリス・バークリー（ホワイトウィッシュ・d00814）がツノ付きにオーラの塊を打ち込んでいく。
「まずは前に出ているツノ付きから倒しましょう」
　後ろに下がっているモヒカンは後回し。
　頷きながら、璃羽は逃げる足音が遠ざかっていくのを耳にする。
　静かに瞳を閉ざした後、ツノ付きに影の弾丸を打ち込んだ。
　よろめいていく様を眺めながら、静かな想いを巡らせていく。
　獄魔覇獄なんて面倒事は止めて欲しいのに前哨戦。あの筋肉おじさまは、催し物が好きなのか。
　面倒この上ないけれど、かといって危機にあるラグナロクの子を放っておくわけにもいかない。
　確保することでこの鬱憤を晴らすと、手を進めるために光輪を呼び寄せた。
　一方、ラグナロクを逃がすこととなったシャドウたちは表情を歪めていく。
「く……てめぇら、許さん！」
「だが、俺たちが戦うことでお前たちを足止めできている。そう考えれば……」
　モヒカンとツノ付きは悔しげな言葉を漏らしながらも、戦いを継続する道を選んだ様子。
　灼滅者たちは気合を入れ、本格的な戦いへと移行する……。

●二つの影を乗り越えて
　モヒカンの放つ、影色の風。
　クロスした腕で頭を庇い受け止めながら、アリスは一人思い抱く。
　賞品はラグナロク……ラグナロクだって人間。その人間を賞品扱いしている以上、他の陣営に渡したらどんなことになるかわからない。
　故に、決して渡してはならない。
　邪魔な者たちは叩き潰す！
「っ！」
　気合と共に振り払い、手元にオーラを集めていく。
　ツノ付きに向かってオーラの塊を放ちながら、そういえばという様子で尋ねて行く。
「ラグナロクですら前哨戦の賞品だというのなら、本戦で勝ち残ったら一体何がもらえるのかしらね？」
　ふと、浮かんできた疑問。
　もっとも、すぐさま振り払いオーラに力を注ぐことに成功した。
　ツノ付きは抗うように前へ、前へと進んでくる。
「知らん、だがデスギガス様にとってプラスになることは確かだ、だから！」
「させない！」
　オーラを砕き駆け出したツノ付きの前に、雅也が素早く割り込んだ。
　身構えた瞬間に突き出された角を受け止めるも、上方へと打ち上げられてしまう。
「っ……！」
　空中にて姿勢をただし、雅也は着地。
　ナイフを握り直し、赤いオーラを走らせていく。
「……流石に強いね。だが……！」
　言葉を終えると共に大地を蹴り、真っ直ぐに刃を付き出した。
　左胸と思しき場所を貫いて、右へと引き裂いていく。
「ぎ……貴様ぁ！」
　怒りの言葉と共に、腰を落としていくツノ付き。
　視線は、雅也の一人のもの。
　故に、気づかない。
　湯里が背後へ回っていたことに。
「おい、うし」
「遅いです」
　湯里は杖を振りかぶり、バットのようにフルスイング！
　後頭部を強打した上で、魔力を激しく爆発させた！
「が……」
　ツノ付きの角が砕け散り、塀へと叩きつけられていく。
　そのままゆっくりと倒れ伏し、かすみの如く消え去った。
　一人残される形となったモヒカンは、肩を怒らせ影色の風を起こしていく！
「お前ら、許さん！」
　破れかぶれの風を浴びながら、利恵は影に力を与えた。
「君たちに、彼女の平穏を奪っていい権利なんてないんだ」
　影色の風に抗うかのように影を放ち、モヒカンの手足を拘束していく。
　満足に動けぬ状態となったモヒカンを見据えながら、静かな言葉を響かせた。
「さあ、終わりにしよう。この戦いを」
　あるいは、そう――。
　――精神世界の小癪な盗人に、灼滅という名の終幕を……。

　影色の雨も影の風も違いは有効距離程度しかない、浴びし者に間断なくダメージを与えるだけの単純なもの。
　一人に対し強い攻撃を仕掛けていくツノ付きと合わさってこその攻撃だったのだろうと、灼滅者たちは癒やしきれない傷を重ねながらも庇い合い、必要分は治療し合いながら優位に戦いを進めていた。
　それでなお諦めぬモヒカンに、御凛はただ静かに告げる。
「さっさと倒してしまうわよ」
　負けることはないだろうが、それでも、雨も風も間断なくダメージを与えてくる攻撃な以上、万が一といったことはある。
　あまり時間をかけて逃がすわけにもいかないからと、御凛は螺旋状の回転を加えた槍を突き出した！
「っ！　この程度！」
「いいえ、まだ終わりじゃないわ！」
　闇に阻まれるもすぐに引き、後方へと下がりながら氷の塊を発射した。
　氷結していく顔めがけ、璃羽が影色の弾丸を撃ち出した。
「観念しなさい」
「なにをぉ！」
　額を撃ち抜かれてなお、モヒカンは怯まない退かない。
　雅也が振るう紅蓮の刃が右胸に食い込んだ時も同様に！
　ただただ影の雨を放ち、前衛陣を貫いていく。
　すかさず、悠月は風を招いた。
「油断はしない。最後まで全力で支えていく。だから……！」
「倒す、僕たちの手で」
　優しき風を浴びながら、利恵はチェーンソー剣を起動。激しき音色を奏でながら、モヒカンの肩に向かって振り下ろす。
　ギリギリと肩に食い込んでいく中、あすかは背後へと回り込んだ。
「……」
　ソウルボードが今の住処って事しかわかっていないような存在である、シャドウ。
　謎を気にする心はあるが今は探求する時間ではないと、影を宿した拳を後頭部に叩きつけていく。
　つんのめるその体の正面には、湯里が入り込んでいた。
　湯里は利恵が刃を引き退くと共に、拳を打ち込み始めていく。
　七つの拳を刻んだ果て、顎にアッパーカットをぶちかました。
「今です！」
「ええ……！」
　呼応したアリスのオーラが、モヒカンの喉元を打ち据えた。
　モヒカンは塀へと叩きつけられて、立ち上がることもなく倒れていく。
「ぐ……こんなはずでは……」
　消滅していくモヒカンを眺め、アリスは静かな息を吐き出し――。
「っ……想像以上にダメージを受けていたのかしら」
　わずかに緊張が解かれたか、よろめいた。
　姿勢を正し振り向けば、前衛陣は概ね同じ……治療を施しても、本格的な連戦は辛いといった状態だ。
　幸か不幸か、周囲には嫌な気配もない。
　順調に逃げていく事を信じて、彼らは先に撤退すると言った流れとなった。
　武装を解きながら、雅也は一人思い抱く。
「今回の結果で事態はどう動くかな？　……まあ、まだ結果が出たわけではないけどね」
　結果はきっと、帰還する頃には出ている。
　事態もまた、その結果がもたらされるころに伝わるのだろう。
　成功を願い、彼らは横須賀の街を後にした……。

作者：飛翔優	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年12月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 2／キャラが大事にされていた 0
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