獄魔覇獄前哨戦～メイクオアブレイク

■リプレイ

●
「結局、中央探索班は住宅街スタートね」
　連絡用のデバイスを片手に、災禍・瑠璃（トロイテロル・d23453）が言った。
「計画では、住宅街を離れることを目指す感じでしたけれど」
　三和・透歌（自己世界・d30585）は、ライドキャリバーのウェッジに寄りかかりつつ、共有の地図を見ている。
「とにかくできるだけ敵に見つからないように、住宅街から遠ざかるように進もう」
　ミルドレッド・ウェルズ（吸血殲姫・d01019）が言った。奏森・雨（カデンツァ・d29037）は頷き、
「隠れられそうな場所は探しつつ、だね」
「敵とは会いたくないんやけどな」
　と、神宮寺・柚貴（黒影の調理師・d28225）。
「敵意有りの勢力と接触した場合は戦闘もいたしかたないやろな」
「んー、衣笠城址、市営公園墓地あたりが気になるね」
　地図をみていた墨沢・由希奈（墨染直路・d01252）が指先でいくつかの場所をポイントする。
「でも衣笠城址から山林は、西の探索班とかぶるのかな」
「そうかも。でもこっくりさん的なものでダークネスを避けて行動してるなら、ブエル兵が多そうな住宅地からは離れてそっちに行ってそうよね」
　テレシー・フォリナー（第三の傍観者・d10905）はそう言うと、目線を少し落とし、
「そういや関係ないけど、由希奈ちゃんおっぱい大きいよね」
「えっ！」
　突然の指摘に、由希奈はバッ、と胸を両手でかばった。
「お、大きくないもん……普通だもん」
「そうお？　だって、ねえ……」
　テレシーは由希奈からミルドレッドの胸へ視線を移し、フッと笑う。
「！？　てっ、テレシーも大差ないじゃない……」
　ふくれるミルドレッド。と、
「占い好きの女の子かー。今、すごく不安だろうから、早く安心してもらいたいね」
　真波・悠（強くなりたいと頑張るココロ・d30523）が言った。
「お、いいこと言った。そこでこれよ！」
　テレシーが何やら紙を取り出す。
「なんですかそれ」
　瑠璃がのぞきこむと、その中央には鳥居が描かれていた。
「こっくりさんにはこっくりさんで対抗よ！　さぁこっくりさんラグナロクっ子はどっち！？」
　――……。
「動かないですね」
　透歌の冷静な声に、
「さ、行きましょうか」
　何事もなかったかのように紙をしまうテレシー。灼滅者たちは住宅街を歩き出す。
「ほんとにどこにいるんだろう……無事だと、いいけれど」
　雨が言った。
「早く見つけてあげて、安心させてあげなな……」
　女の子1人護れんでこの先何も護られへんし、と柚貴は思う。
「彼女にしてみれば巻き込まれただけだしね」
　ミルドレッドが言った。由希奈は、
「まだ彼女がこのあたりにいるとすれば、どこかに隠れてる可能性が高いよね」　
　ラグナロクが放たれたのはこの中央部。まだどの勢力にも確保されていないことから、遠くへ逃げていないのであれば隠れているはず、という由希奈の考えはもっともだ。隠れ場所という視点で考えれば、住宅街は事欠かない。
「隠れられそうな場所をつぶして……あと手がかりもあるといいんだけど。……？！　っ、て、テレシーちゃんそれは……」
　由希奈の視線の先には、ゴのつく黒いヤツさながら這い回るテレシー。
「ん？　なるべくヨソの勢力と遭遇しないようにと思って。そういや関係ないけど由希奈ちゃんおっぱい大きいよね」
「えっ！　ってこの流れさっきもあった！　ほんとに大きくないもん、普通だもん」
「その大きさで……？」
　テレシーがジト目で這いまわりのポーズから見上げる。
「そうだよ……花園に行けば分かるよ、うん」
「え、由希奈で普通って花園ってクラブはドンだけ……」
　ミルドレッドは少し興味を持ったらしい。
「嘘じゃない……よ？　百合の花咲いてるけど……」
　意味深な言葉を残した由希奈だった。

●
　戦闘をできる限り避けるという方針に沿い、一行は目立たないように探索を続ける。
「敵を倒して、お終い……じゃないって、難しいね」
　悠が言った。
「クロキバさん達とは仲良くできればボクは嬉しいけど」
「クロキバに敵意は今のところないはずやしな。あとはシン・ライリー……」
　柚貴が言うと、悠は、
「海の中にいるおじいちゃんもすごいね。いつか出てくるのかなー」
「どうやろな」
　明るく無邪気な悠の言葉に、柚貴は優しく笑って返す。
「ラグナロクが興味をひきそうなスポット……」
　透歌は目指すべきポイントはないかどうかを常に気にかけている。
「あ」
　すぐ前の路地を一般人が通り過ぎた。雨は、
「ちょっと聞き込みしてみようか」
　と、走りだす。
「すいません、……！」
「？　どないした？」　
　路地の角を曲がったところで足を止めた雨を、柚貴たちが追いかける。曲がり角の向こうにいたのは、
「な、何だ、バケモノ……っ、」
　恐れおののいて尻もちをついたまま動けなくなっている一般人の男性。そして、
「ブエル兵……」
　透歌が言った。
　ブエル兵が新たなブエル兵を生み出すため、住宅街で一般人を襲っているであろうことは予想できたことだった。一方、自分たちに敵意のない相手とは戦闘を極力避ける、ということで班の方針は統一されている。ブエル兵は今、一般人しか意識していない。つまり戦闘班に連絡をして逃走することは可能。そして戦闘班が間に合えば、到着次第、恐らく『2体』のブエル兵と戦うことになるだろう。
　そう『間に合った』としても。戦闘班が到着するまでに、一般人がブエル兵化するか殺されることは明らかだった。
「今のうちに逃げて！」
　一般人が襲われているなら戦う、とはっきり決めていた悠が、ブエル兵の前にいち早く飛び込んだ。
「我殺めるは人に仇なす悪鬼也……！」
　続いて柚貴がスレイヤーカードを解放する。皆一般人を見捨てて探索を優先する心づもりだったわけではない。柚貴にしても、判断材料として考えていた『殺意』は自分たちに向けられたものだけを想定していたわけではないはずだ。
　ブエル兵は1体。瑠璃は迅速に戦闘班に連絡をいれる。そして自身を人造灼滅者にしてくれた人の形見である白衣を翻し、身を凍らせる零下の炎をブエル兵に向かって放つと、
「立てますか？　逃げましょう！」
　一般人男性の保護に回った。その間ウェッジ、テレシーの霊犬ザッシュが2人の盾になり、ウェッジは機銃を掃射、ザッシュは六文銭を射撃と攻撃でも援護する。
「狙うは短期決戦やな」
　柚貴がブエル兵の死角へ回りこんだ。ブエル兵は悠に向かって回転する脚を振りかぶったが、
「グオ」
　そのうちの1本が瞬時に柚貴に切り落とされ、ゴトッと鈍い音を立てて地面に落ちる。できた隙をつき、雷に変換した闘気を宿した拳で、悠が真っ向からブエル兵を殴りつけた。
　前線には並び立つクラッシャーズ。由希奈がソードを縦一文字に振り下ろし、繰り出された白光の斬撃がブエル兵の獅子面へ容赦なく命中。その直前、ブエル兵がギリギリ放っていた猛攻の矢を、黒いフリルの裾でいなすかのようにワンステップ、避けたミルドレッドは、身体を半回転返すと同時、緋色のオーラを宿した白銀の大鎌を振り抜いた。
「グギヤアア」
　断ち切られ、悶えるブエル兵。その顔へ今度は、鋭く尖った氷柱が次々と突き刺さる。透歌が槍の妖気から作りだした冷気のつららだった。ブエル兵がぼこぼこと穴の開いた顔を起こし、体勢を戻そうと蹄を鳴らした刹那には、外周から駆けこんだ雨のエアシューズが斜め上からブエル兵を蹴り潰した。
「フ♪」
　まだ雨の散らした星の煌きが残る中、ととっ、とスカートを持ってテレシーが近づく。そしてブイン、と脚を回転させたブエル兵と目が合うなり拳を構え、
「おらぁぁっ！！！　こう見えてもストファイじゃーい！！！」
　ブエル兵が脚でテレシーを押さえつけにかかろうとしたところを、強烈に殴打。ちなみに本人的には腹パンだったが、相手がブエル兵だったため顔面パンチになった模様。

●
　男性を安全な場所まで避難させ、瑠璃が戻った。連絡状況によると、他の中央探索班もブエル兵が一般人を襲う現場に遭遇しており、戦闘班を含め、一般人の避難に戦闘にと慌ただしく動いているようだ。
「ここは私たちで！」
　状況から瑠璃が判断を伝え、班単独での灼滅を目標に戦闘は続く。ギュルンと不気味な瞳を見開きブエル兵は回復を繰り返したが、回復に手数をとられれば攻撃は受ける一方になる。灼滅者たちは着々とブエル兵を追い詰めていた。
「！」
　後衛を狙い、ブエル兵が口から吐き出した冷気を、前衛の盾役が肩代わりした。
「てえいっ！」
「行くよ！」
　後ろからテレシーが金属製のエトフィラムで飛び出し、雨もマテリアルロッドを構え、サーヴァントたちを飛びこえる。
「いったー！」
　悠が深手に膝をつきかけた。そこへ、
「回復します」
　例え世界が滅んでも詰まらない明日が来るよりは。日々を気だるげに過ごす透歌の思いを名づけたようなGloomy Dayの指先から、癒しの霊力が撃ち出される。
「ありがとうっ！」
　立ち上がった悠は自分も縛霊手を構え、すぐに祭壇を展開。結界がブエル兵を捉えると同時、柚貴の足元から這い伸びた影が、ぎっちりとブエル兵を縛り上げた。
「ガ……、グ、ガッ」
　もがくブエル兵。前方からは燃えるテレシーのエトフィラムが、後方からは雨のマテリアルロッドが狙う。
「グア！」
　テレシーに蹴り上げられ、火だるまとなったブエル兵に、雨がロッドを叩きつけて駆け抜けた。側に咲くは、血色の翼。ザッシュからの回復を受けた瑠璃が低い体勢から懐へ入り、闘心に赤みを増した葡萄色の瞳がブエル兵の弱点を正確に見出す。
「……そこね」
　ざっくりと急所を摘出し、瑠璃が飛び退いたタイミングで、雨が注ぎこんでいた魔力が爆発した。よろけるブエル兵の前に立ちはだかるミルドレッド。そして、
「行くよ、ミリーちゃん！」
　由希奈がクルセイドソードを高く構える。
「OK、由希奈！」
　ミルドレッドのツインテールが、跳ね上がって艶めき落ちた。高い位置でカチリ合わさる大鎌とソード。
「行くよ！　奥義……」
「えっ、奥義？！」
　ミルドレッドは思わず由希奈の方を振り向く。由希奈はにっこり笑い、
「重ね鎌鼬！　……なんてねっ！」
「えと、重ね鎌鼬っ！」
　ミルドレッドも合わせて叫んだ。2人は武器をそれぞれに構え、トン、と両足で沈みこむと、反動を使い跳び上がる。ミルドレッドの断罪の刃、由希奈の実体を持たないソードの刃。2つの刃が同時にブエル兵を襲った。
「グギャ！」
　ブエル兵を縦に斬り裂いた刃の軌跡を引っ張りつつ、2人は一瞬顔を見合わせ、
　――ザシュ。
　すれ違いながら逆方向へ刃を薙ぎ払った。重なった黒髪と銀髪の先が完全に離れた瞬間、ブエル兵の顔が9個に分断される。1秒。ブエル兵の断片はボトボトと地面に落下し、霧散していった。

●
「後はお願いします」
「頼んだで！」
　透歌と柚貴が言った。戦闘班に後を任せて、先を急ぐ。1体目のブエル兵撃破以降、住宅街を早く抜けることを目指していた一行だったが、『虱潰し』という言葉通り、ブエル兵は街のあちこちにおり、たびたび一般人を襲っている現場に遭遇することとなった。
　一般人は救えたこともあれば、すでにブエル兵に変えられてしまった後だったこともある。今回のように戦闘班が近くにいた時には、到着までの応戦と一般人の避難を請け負うという形にはなった。が、すでに何度かの心霊手術を行っていることもあり、焦りも生まれ始めていた、その時。
「見つかったわ！」
　瑠璃に連絡が入った。ラグナロクの少女を東側探索班が発見したのだ。
「他地域の班はどうするんでしょうか」
　透歌がたずねる。瑠璃は、
「とりあえず中央からは東へ向かう班もあるようですが……」
　今の状態で東側へ向かうべきか否か。地域を移動するにはある程度の時間もかかる。
「撤退しよう」
　ミルドレッドが言った。皆異論はなかった。
「見つかってよかった」
　雨がほっと息を吐く。
「うん。無事守りきれますように」
　悠も言った。
（「学園で会えるのかしら」）
　見ていて飽きなそうな子。ということから、透歌のラグナロクに対する印象はそこそこ良かった。加えてざわざわと肌に感じる慌ただしさの気配。透歌は有意義な暇つぶしが迫っていることを期待する。
　結果として相当数の一般人を救い、ブエル兵を撃破した。戦果が今後にどう影響するのか、まだ彼らの知るところではない。

作者：森下映	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年12月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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