獄魔覇獄前哨戦～狙われたラグナロク

■リプレイ

●少女の行方を追って
　獄魔覇獄の戦いの火蓋が切って落とされた。
　各勢力が血眼になって探し求めるラグナロクの少女は、横須賀市内の一体どこにいるのだろうか。
「――了解っす。こっちは任せるっすよ」
　我が班が担うのは、横浜市西部の捜索。空本・朔羅（うぃず師匠・d17395）は、捜索範囲が被らないよう他班と連絡を取っていた。
「大楠山周辺の森、相模湾海岸沿い辺りは他のチームが捜してくれるっす。私達は山を迂回して住宅地中心に捜索するっすよ」
　数は少ないが神社も点在している。そういった、他班が回っていない場所を地道に当たって行くことになった。
「一刻も早いラグナロクの救助をいたしましょう……。突然、巻き込まれて心細いでしょうからねぇ……」
　紅羽・流希（挑戦者・d10975）は持参した地図を広げてスーパーＧＰＳを発動。
　すると、地図上に現在位置が示しだされる。
「いやはや、こんな形で横須賀を探検する事となるとは……」
「こんな事件になってなければもっとゆっくり探索出来たのだろうけどね」
　橘・蒼朱（アンバランス・d02079）も地図をのぞき込む。
「パワースポットかー。此方にはないだろうけど何かあるかな？」
　西部の地理を把握しつつ、
「さて、近場からあたって行きましょうか」
「よっしゃ！　ラグナロクの子を守るために頑張るっすよ！」
　はぐれぬよう八人一塊となって、のどかな住宅地に足を踏み入れていく。
「まずはスタート地点にアリアドネの糸を張っておこう」
　いざという時分散しないよう、ヴァーリ・マニャーキン（本人は崇田愛莉と自称・d27995）は定期的に一地点と糸を結んで行く事にした。
　手分けして周囲の様子を観察する中、荒覇・竜鬼（妖怪武技芸者・d29121）は双眼鏡で遠方の動きに気を払う。
　しかし、未だ視界の先に少女の姿を捉える事は出来ていない。
（「ラグナロク、か……」）
　それでも竜鬼は黙々と、双眼鏡の先の景色を注視し続けるのだった。
「それにしても、なぜこの様な面倒な事を行っているのでしょうかねぇ……？　まるで、誘き出している様ではないですか……」
「それも、一度確保したであろう、ラグナロクの方を使ってまで……。どうにも、嫌な予感が拭い去れないのですよ……。私の杞憂であれば良いのですがねぇ……」
　ラグナロク争奪戦の先に思いを巡らせながら歩き続け、一歩住宅地を出れば、田園風景が広がっている。
　すれ違う地元民達も、通り過ぎていく風景も、平和そのもの普段通りといった感じだ。
「人の遺体や、殺人現場らしき場所も無いようだね。この辺りは他勢力の手が伸びてないって事かな」
　冬城・雪歩（高校生ストリートファイター・d27623）は敵の移動を調べるために断末魔の瞳を使うつもりであったが、出番はまだ訪れない。
「追手もさることながら、ラグナロクもなかなか見つからぬな。他の地域に居るのかのう？」
　他班からも目ぼしい情報は来ていない。うーん、と首をかしげる朝臣・姫華（姫番長・d30695）に、
「どうかな。パワースポットは少ないけど……逃げてくるなら公園っていう分かりやすい目的地があるこっちの可能性はある」
　と、アルスメリア・シアリング（討滅の熾焔・d30117）が言葉を返した。
「それにしても避難もなにも出来てない市内で此れだけのダークネス勢力が集まるなんて、どれだけ巻き添えが出るんだろう。一刻も早く、ラグナロクの彼女を保護して戦闘の意義を無くさないと」
　雪歩は気合を入れ直し、持参した地図を広げた。捜索を終えた場所につけている印が、ひとつ、また一つ増えていく。
　冷たい海風が吹きすさぶ中、ヴァーリは新しくアリアドネの糸を結び直していた。
（「早く見つけて助けてやらなくては。養母の実家があるこの場所で、嫌な思い出だけをさせたくないからーー」）
　ヴァーリの思い出の地横須賀で、ひとり怯えているラグナロクを想うと、焦る気持ちが募ってくる。
　しかしできる事といえば、こうして地道に捜査を進める事と、他班と連絡を取り合う事ぐらいなのだった。
　ラグナロクの少女は占い好きで、パワースポットを好んでいるという。
　ならば数は少ないものの点在している、西部の神社も一軒ずつ回って行った。
　鳥居をくぐって、はらはらと落ち葉が舞う境内に進み入る。
　彼女ならどこに隠れるだろう？　灯篭の陰、拝殿の中、賽銭箱にだって入れるかもしれない。
　想像を巡らせつつ少女を探す蒼朱の背後で、茂みからガサガサと何者かが現れた。

●遭遇！
「まさかーー」
　振り向くとそこには、獣のパーツを奇妙につなぎ合わせたような者が立っていた。
　ラグナロクの少女では無かった事に落胆の色は隠せない。
「ブエル兵が隠れていたとはね……」
　なぜ群れではなく一匹で現れたのか。それとも大軍を引き連れているのか？
　蒼朱は状況を伺いながらブエル兵と睨み合っていた。
「戦闘班にすぐ連絡じゃ」
　姫華は作戦通りに連絡を取ろうと、携帯に手を伸ばそうとしたその時。
「いやぁああ！」
　絹を裂くような女性の悲鳴が耳に飛び込んできた。
　石畳の参道に腰を抜かした女性に、別のブエル兵が迫っているではないか。
「オマエモ戦力ニナレ」
　にじり寄るブエル兵の前に、朔羅が割って入る。
「手出しはさせないっすよ！」
「邪魔ヲスルナ！」
　切り裂かれた朔羅の服に血が滲む。
「なるべく戦わずに行きたいところじゃったが、やむを得ぬの」
　戦闘班の到着を待っていては、居合わせた人々は殺され、あるいは戦力としてブエル化させられてしまうだろう。
　迷っている時間はない。
　ぽつぽつと境内に居た地元民達が、顔色を変えて逃げ出していく。
　竜鬼が展開したサウンドシャッターで戦闘の音が遮断された。もう遠慮は要らない！
「不本意だけど、戦うしかないね。２匹しか居ないみたいだし」
　覚悟を決めた蒼朱は、スレイヤーカードを解除した。
「行こうか、相棒」
　顕現したノウンと共に、目前のブエル兵へ立ち向かう！

●目の前の人々を守るために！
　ドリルの如く高速回転した杭がねじ込まれ、後退したブエル兵の目の前には顔を晒したノウンが飛び出した。
「ギャッ……！」
　驚きの声を漏らすブエル兵の元へ、雪歩はロングスカートを履いているとは思えない程軽快に接近してゆく。キラリと光る銀爪を立てて切り裂けば、鮮やかな鮮血が石畳に飛び散った。
「朔羅、大丈夫か？」
　一方で、ヴァーリと心配顔の師匠が朔羅へ駆け寄っていく。
　柔らかな癒しの光とふわふわハートに包まれ、彼女の顔色に生気が戻った。
「助かったっす！　反撃させて貰うっすよ！」
　立ち上がって服の汚れを払い、縛霊手で結界を構築すれば、
　ブエル兵の足元に集まっていたエネルギーは、灼滅者達に届く前にはじけ飛んだ。
「来たれ我が炎！　顕現せよ熾焔！」
　アルスメリアの高らかな声と共に、背中を割って生えていく炎の翼。
　灼滅者達の頭上に広がった翼から、降り注ぐ不死鳥の癒しを受けながら、槍を構えた竜鬼が進み出る。
　螺旋を描き捻りだした槍先は、迷いなく敵の肩口を貫いた。
　苦痛に顔を歪めたブエル兵に、突如霊力で紡がれた網が覆い被さる。
「今じゃ！」
　姫華の声と共に、構えを取る流希。
「ブエル兵よ、ここで散れ！」
　強烈な回し蹴りが、２匹まとめて薙ぎ払い、周囲の落ち葉も風の流れに合わせて吹き荒れる。
「オマエ達、倒ス……ウァアア！」
　敵は目を血走らせ、捨て身の勢いで蒼朱へタックルを仕掛けたが……。
　すんでのところで割って入るノウン。
「いただきっ！」
　そのノウンを壁に、蒼朱は敵の腱を死角から断ち切った。
　悶絶するブエル兵、タックルで弾き飛ばされ、宙を舞うノウンの元には、早速師匠がハートを送る。
「倒した、みたいだね」
　力なく横たわったブエル兵、見開いたその目は、瞳孔が完全に開いている。
「オノレ……」
　８人の灼滅者達に詰め寄られ、残ったブエル兵の頬に冷汗が伝った。
「覚悟するんだな」
　流希は日本刀をすらりと抜いて、迷いなく振り下ろす。
　いびつにくっついている腕の内一本が切り落とされ、絶句しているブエル兵だったが、さらに鞭で打たれたような鈍い痛みが広がっていく。
　攻撃の主は竜鬼。自在に伸縮する長剣が、冬風を切ってブエル兵を叩きつけたのだ。
「私も加勢させてもらおう！」
　初依頼の緊張で早鐘を打つ鼓動を抑え、ヴァーリは激しく渦巻く風の刃で敵を切り刻み、
　拳にシールドを宿した朔羅と雪歩が続く。
「ウガァアア！」
　２人から次々殴られ、ぷちんっ。とブエル兵の理性がはじけ飛んだ。
　怒りに燃えるその目には、雪歩しか映らない。
「うっ……！」
　タックルを受けた衝撃で、顔をしかめる雪歩だが、対するブエル兵もすでにフラフラだ。
「ココデ、散ル訳ニハ……」
　途切れ途切れに呟くブエルの懐へ、煌めきを宿したエアシューズで飛び込んでいく。
　飛び蹴りが炸裂してよろめけば、アルスメリアが追い打ちを掛ける。
「熾焔よ炎の陣を敷き敵を討て！　―――来たれ・炎陣“焼野の天蓋”！」
　ブエル兵が最期に目にしたのは、彼女の拳から放たれた炎の奔流だった。
　激しい炎に焼き尽くされてゆき、ついにブエル兵は、跡形もなくなった。
「怪我はないっすか？」
「回復が必要なら任せてくれ。……皆大丈夫のようだな」
　朔羅やヴァーリが仲間の怪我状況を確認し安堵している中、
　周囲を観察し、敵が居ない事を確認した竜鬼はサウンドシャッターを解除した。

●そして鳴り出した電話
「やっと捜索に戻れますね」
　再び地図を広げる流希。次はどこを目指すべきか目星をつけていると、
　朔羅の携帯電話が鳴った。
「見つかったっすか！　……東エリア」
　その知らせに、はっと息をのむ灼滅者達。
「どうやら見つけたようじゃの、早く合流して学園に戻るとするのじゃ」
　到着するまでどのくらい掛かるだろうか。
　しかし今はただ、東側を目指して駆け出す他無かった。
　少女の無事を祈りながらーー。

作者：ｋｏｇｕｍａ	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年12月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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