●ラグナロク、上陸
神奈川県南部、東京湾と相模湾に面する海の町、横須賀市。
その横須賀市の海底から、大きな、大きすぎる力が、上陸しようとしていた。
怪しく光る光球の中にあるのは、光の束で縛られた小柄な人影。
その光球は、海から地上に上がると、ふらふらと空中を漂いながら、横須賀市のほぼ中央へと到達すると、地面にふわりと着地した。
その中から現れたのは……。
「あれ? ここは、どこ、どうして、こんな所に? たしか私はパワースポット巡りを……」
たった、一人のラグナロクであった。
●獄魔覇獄前哨戦
8名の獄魔大将に告ぐ。
獄魔覇獄の戦いの火蓋が切って落とされた。
横須賀市中央部に放たれた、ラグナロクを奪い合え。
この前哨戦で、ラグナロクを捕らえ確保したものが、獄魔覇獄の戦いをリードする事になるだろう。
ラグナロクの確保に全力をつくすのも良いだろう。
獄魔覇獄の戦いの為に戦力を温存するのも良いだろう。
敵戦力を見極める事に重点を置く戦いも悪くは無い。
獄魔大将として、軍を率い、そして、自らの目的を果たすがいい。
●エクスブレインの解説
「緊急の事態ですの」
灼滅者たちを集めたエクスブレイン、鷹取・仁鴉(中学生エクスブレイン・dn0144)が言う。
「特殊肉体者(ラグナロク)の少女を、ダークネスの勢力から保護して下さいませ」
辺りは、いつに無く緊迫した空気に包まれていた。
「――では、詳細を詰めて説明させていただきますわ。
武蔵坂学園の獄魔大将であるブレイブ様が、何者かからの情報を受け取りましたの。それによれば、『横須賀市中央にラグナロクが放たれたため、彼女を巡って獄魔覇獄の勢力の争奪戦が始まろうとしている』とのこと。この争奪戦が、来たる獄魔覇獄の前哨戦になるとも仰っていましたわ。
ラグナロクである彼女は、体内に膨大な量のサイキックエナジーを蓄えています。ですが、ご本人は自分自身で戦う力を一切お持ちではありませんの。そんな彼女を、何らかのダークネス勢力が拉致してしまいますと、文字通りに最悪の事態が起こる可能性がありますわ」
……ラグナロクダークネスのことか。
「この争奪戦に参加する勢力は、武蔵坂のほかには7つ。詳しくはお手元の資料にありますので、現場入りの前に熟読をお願いいたしますわね。
さて、現場・横須賀でどう動くべきかという指針は、2つほどありますの。
すなわち、『捜索』か『戦闘』か。
ラグナロクの発見を目指すか、敵勢力の行動を阻害するか。
どちらにするかは、ここにいる皆様で自由に決めて頂いて構いませんわ。最終目的が、多くのダークネス勢力の標的とされたラグナロクの確保であることだけは、お忘れずにお願いいたしますね」
●資料:極秘:横須賀に現れる獄魔覇獄の勢力について
(1)ブエル勢力
ブエル兵達は、住宅街を虱潰しに探しまわっているようです。
また、その際、新たなブエル兵を生み出す事も同時に行い、ラグナロクの捜索と戦力増強を共に行ないます。
(2)シン・ライリー勢力
獄魔大将シン・ライリーを含め、少数精鋭の部隊が密かに横須賀入りをしているようです。
目的は、自分達以外の獄魔大将の力を見極める事のようで、表立って活動はしていません。
シン・ライリーが灼滅されれば、獄魔大将シン・ライリーの勢力は敗北となります。
(3)クロキバ勢力
犬猫眷属を派遣して、ラグナロクの捜索を行っています。
主力のイフリートは殆ど派遣していない為、ラグナロクを発見したとしても、確保する戦力はなさそうです。
(4)六六六人衆勢力
人事部長と呼ばれる六六六人衆が指揮を取り、新入社員(六六六人衆)と派遣社員(強化一般人)を動員して、ラグナロク捜索を行っています。
また、灼滅者を警戒しており、灼滅者の撃破を優先的に行おうとしています。
(5)デスギガス勢力
四大シャドウの一体、デスギガス配下のシャドウ達の勢力です。
横須賀市民のソウルボードを移動しながら、状況を伺っているようです。
情報収集を優先しているようですが、ラグナロクが発見された場合、強奪できるようならば、襲撃をかけてくるかもしれません。
(6)カンナビス勢力
ノーライフキング、カンナビスの勢力です。
病院の灼滅者の死体から生み出した実験体アンデッドを多数繰り出して、ラグナロクの確保を行おうとしているようです。
また、病院の灼滅者のアンデッド達の外見を、灼滅者であるように偽装しており、自分達の勢力の情報を他の獄魔大将に隠そうとする意図もあるようです。
(7)ナミダ姫勢力
スサノオの姫、ナミダの勢力です。
ラグナロクの探索は行わず、多数の『古の畏れ』を、横須賀市内に出現させ、無差別に敵を襲わせようとします。
敵の戦力を測るのが目的と思われますが、他に目的があるかもしれません。
参加者 | |
---|---|
川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950) |
逢瀬・奏夢(番狗の檻・d05485) |
龍統・光明(千変万化の九頭龍神・d07159) |
リヒト・シュテルンヒンメル(星空のミンストレル・d07590) |
中神・通(柔の道を歩む者・d09148) |
桐屋・綾鷹(紅華月麗・d10144) |
六文字・カイ(死を招く六面の刃・d18504) |
鴻上・廉也(高校生ダンピール・d29780) |
●
「良い景色だな……」
横須賀は立石公園から、初冬の海と、奇岩『秋谷の立石』を臨む。
古くから絶景とうたわれた場所だ。しかし……。
「こんな状況でなければ、もっと眺めているのだが」
鴻上・廉也(高校生ダンピール・d29780)は、位置を変えるべく歩き始める。
柔らかな砂浜に、山歩き用のブーツが浅く足跡を残していった。
今回の作戦では、合計で3つの班が横須賀西部を担当することとなっている。
その際、できるだけ班ごとで探索場所が被らないようにするため、廉也たちの班は急遽、相模湾海岸沿いを捜索することとなった。
それ以外の大楠山周辺並びに神社や住宅街は、今は他班が向かっているはずだ。
廉也のザックには、人数分以上のペットボトル飲料が入っている。
このメンバーなら無補給でもどうにかなるだろうが、何があってもいいようにというのが、彼の考えである。
「うー……む……」
行く先、柵のある辺りに、難しい顔をした六文字・カイ(死を招く六面の刃・d18504)がいる。
何か気になることでもあるのかと、廉也は片手を挙げた。
「どうした、六文字」
「鴻上先輩か。『DSKノーズ』による敵勢察知に専念しておるのだが、難儀でな」
「と言うと?」
「狭い。例えばこの公園を出ると道路があるだろう。その対岸となると、もう判らぬ。
畢竟、俺が気を張っておれば問題無かろうが」
「……その敵勢力ですが、私の方でも、痕跡を見つけられていませんね」
と、川原・咲夜(吊されるべき占い師・d04950)がこちらにやって来る。
その手には小さな単眼鏡を携えていた。
「川原の次第は」
「ここから北西の方、漁港のある辺りを見てみましたが、これといった手がかりは何も。『空飛ぶ箒』で飛べればよかったんですが、こう背の低い建物ばかりでは目立ってしまいますからね」
そうか……と嘆息手前の相槌を打っていると、続いてリヒト・シュテルンヒンメル(星空のミンストレル・d07590)が彼らに合流する。
「おや、皆さんお揃いで。もう集合時間でしたか? ……まあ、集まってらっしゃるのでしたら、とりあえずの結果報告を」
「リヒトさんはどうでした?」
「芳しくは無いです。『ぶらり再発見』でパワースポットを探してみたんですが、結局見つかったのは『新鮮な浜焼きが食べられるお店』ぐらいなもので。ご期待に沿えず、すいません――」
一方その頃。
地域住民への聞き込みを行っていた中神・通(柔の道を歩む者・d09148)は、ある意味での苦難を体験していた。
「金髪で、鳥居の形の髪飾りを着けていて……友達なんだ。見かけていたら教えてほしい」
「えーっ、女の子を捜してるなんて言って、お兄さん新手のナンパ使いですかぁ?」
「真面目そうなヒトがそういうことするって、なんかギャップ萌え? みたいな」
「あ、あのだな……」
女子たちは頭をかく彼に背を向け、ごめんねと言い残して立ち去っていく。という様子を冷静に眺めていた桐屋・綾鷹(紅華月麗・d10144)は、そこで一つの答えを導き出した。
「知ってて知らない振りをしていた、というわけではなさそうですね、中神さん」
「ダークネスの洗脳という線は……ないな。探索の頭数にするか、殺すかだ」
「――ところで、連絡先渡さないんですか」
と、鋭い視線で問う綾鷹。
「――その方が安全だからな。一般人は巻き込めん」
と、腕を組んで返す通。
「――ナノナノ?」
そこに隠された深い意味をわからず、綾鷹のナノナノ『サクラ』は首を傾げた。
……なんとはなしに、先の女の子たちが向かった先を見る。
と、そこに、霊犬『キノ』の側であさっての方を向いている逢瀬・奏夢(番狗の檻・d05485)の姿を見つけた。
キノは草の上に大人しく伏せ、その周りを女の子たちが黄色い声を挙げて取り囲んでいる。
サクラたちの視線に気づいた奏夢は、小さく首を振って『成功せず』と表現した。
奏夢は聞き込みに加え、キノの嗅覚による追跡も試していたはずだが……やはりと言うべきではないが、そのとおりの結果となったのだろう。
その後しばらくして、カイが発起人となり、班の一旦集合を決めた。
それぞれに探索結果を伝え合うと、その場で龍統・光明(千変万化の九頭龍神・d07159)が小さく手を挙げ、話し始める。
「――戦う力の無いラグナロクが、何の痕跡も残さず、灼滅者である皆さんから隠れ続けられるというのは考え難い。ですからここには、本当に何も無かったのでしょう。
故に俺は、探索箇所の移動を提案します。ただ、俺たちの担当範囲は相模湾海岸沿い。ここから北に出るか南に出るか、それが問題と言えば問題ですね」
光明の言に、皆深く頷いた。
北に行けば、国道沿いにすぐ市境へ出ることになる。寺社仏閣以外のパワースポットらしい場所もなく、ラグナロクがいる可能性は薄く思えた。
ならば南か。通が地図を広げ、『スーパーGPS』の光点を指差す。
「現在地はここ、立石公園だ。ここから海岸線を下っていくと、まず南南東に3キロくらい行った所で、佐島公園という場所に出るな」
「俺たちの足なら、大した時間は掛からないだろう。まあ、行こうか」
奏夢が腰を上げると、一同もそれに続く。
選択肢としては『とりあえず』な、確証の無い行動ではあったが……。
出会うべき異変は、その時既に、向こうから近づいていた。
●
「念の為確認しておくが」
8人集団の中心から、カイが全員に話しかける。
海岸沿いを行くルートは国道を外れ、車が1台やっと通れる程の狭い道となっていた。
「ダークネスとの戦闘は可能な限り回避すると、皆それでよろしいか」
「それでいいと思います。可能な限り、ですよね」
リヒトの返答に、カイは浅く頷く。
しばらくは道路の両端に住宅街が続いていたが、右側のものはほどなくして消えた。
入れ替わりに、青い空と海とが彼らの前に現れる。
「地図によれば……秋谷漁港の手前だな。佐島公園まではまだまだ歩く」
マッパー役の通が、こうして逐一ナビゲートを入れていた。迷う心配は無いだろう。
「が、気を抜くなよ。怪しい痕跡があれば、教えてくれ――っ!?」
ビィイイイイイイイッ!
のどかな町に似合わないクラクションの音が、その時唐突に響いた。
それが2度、3度と連続する。十数秒置いて、金属の塊が潰れるようなノイズ……。
「中神、地図を!」
廉也が地図をひったくり、己の感覚をそれに重ね合わせる。
クラクションの発生源は、間違いなく国道だ。
「やっぱりな……この国道、そこまで事故の起き易い難所ではないはずだ。
様子を見に行こう。『あいつら』の内の誰かが、やらかしたのかもしれん!」
はたして、国道134号線の上では。
人を模した3体の異形が、燃え盛る鉄クズの中に佇んでいた。
鉄クズの1つをよく見れば、元はトラックのような大型車だったことがわかるだろう。
それが今や見る影も無く歪み、潰れ、内容物をこぼし続けている。
「……………………」
異形の内の1体が、おそらく右腕と思われる部分を鉄クズに向けた。
肩から先は、船の――戦艦のような形をしている。
「お、おい、やめろよ……! もうやめろ、やめてくれよおおお!」
その意味を知っているのか、運転手らしき男が異形の脚部にすがり付いた。
「ヂ……ハツ……ソー……テン」
異形はしかし、それにさしたる反応を示さない。
「……テ」
ッバグオオオオオォォォン!
直後、見る者の聴覚を消し去るほどの炸音が、世界を貫いた。
後には何も残っていない。
「チャク……ダン……カク……ニン」
トラックを鉄クズにまで破壊せしめた一撃だ。
鉄クズを前方から排除することなど、造作も無い。
異形は戦艦腕を引き、前へと進み始める。
「ああ、あ、あああああ」
運転手は呆然と、その惨禍を道路脇で眺めていた。……異形の横ではなく。
「間に合った……」
奏夢が、運転手をかばうように立っていた。
銀髪に血をにじませながらも、表情は冷徹に。
「仕方ないか。キノ、今回も頼むぜ」
「お、おいおい兄ちゃん、何だよこれ、俺は三浦まで行かにゃならんのに、何が――」
混乱した様子の運転手に、キノが威嚇の唸りを上げる。
「グルルルルルルッ!」
「ひっ、ひいっ!」
そうして運転手はようやく、ほうほうの体で逃げ出し始めた。
無人となった道路に、霊犬『エアレーズング』を連れたリヒトが踏み込んでいく。
「一般人を逃がすESPが無い事、惜しまれますね。……ああ、エア、お前は真似しない。無理だろ?」
「クゥーン……」
エアは小さく鳴き、主の側を離れた。行く先はしかし、同じ戦場のど真ん中。
「はあ……間違いない……貴方たちとここで逢いますか、病院灼滅者アンデッド」
リヒトの静かな怒声を受けた異形――病院灼滅者アンデッドたちが、やおら振り返る。
残る2体のアンデッドは、いずれも頭にねじれた角を生やしていた。
「タイキャク……タイ……タイキャ……」
「…………。………………ジャマ」
死に濁ったそれらの視線を、光明の黒い聖剣『刃喰らい』が冷ややかに割く。
「お互いに運が悪かったね。時と場合が違えば、徒の擦れ違いで終わったかもしれない。実を言えばそうする気もあった。けれど――」
光明は呼吸のリズムを変えた。己を、許容限界まで呼び醒ます。
「――此れが徒の擦れ違いで終わると思うなよ傀儡士。
武蔵坂の者は皆、君を好いていないらしい」
その台詞が終わるや否や、2つの影が続けてアンデッドたちに襲い掛かった。
「『女教皇』……やれやれ、釘を刺されてしまいましたか」
左方から、咲夜がタロットを模した護符揃えで五星を描き。
「川原さんなら大丈夫ですよ。彼らの屠り方は、お互いよく知っていますから!」
右方から、綾鷹の鞭剣が結界内をのたうち回る。
不意に伸びた剣の切っ先は、しかし、戦艦アンデッドに弾き返された。
「テキ……グン……ミ……ユ」
「ゲゲイ……ゲイ……ゲゲ……キ」
「……タイショウ」
その横にぴったりと、2体の角アンデッドがつく。綾鷹は周囲を見回し、カイを呼んだ。
「じ……六文字さん、周囲に他のダークネスは?」
「ない! 少なくとも半径30メートル以内には、あれらの他に業の臭いはせぬ!」
「でしたら速攻狙いで。複数の意味で、戦う時間が惜しいですから」
咲夜の言葉に、武蔵坂の灼滅者たちが頷く。
●
「さて、船を投げるとはいい体験になりそうだ。その船体、まるごと頂く!」
通が瞬発する。戦艦アンデッドの右肩をかち上げ、すぐさまその下に潜りこんだ。
「うりゃあッ!」
体を捨て、肩上の相手を後ろへと送り投げる……基本通りにして電光石化の、通の横車!
重量物の落ちる衝撃がアスファルトを揺らした。
「ソン……モウ……ケー……ビ」
ふら付きながらも立つ戦艦アンデッドに、奏夢が肉薄する。
「誰を探してる? ――今から最後まで、俺が相手してやるぜ」
敵の横っ面をWOKシールドで強かに打ち、軽やかにステップアウト。
またしても地に沈む戦艦アンデッドから、しかし。
「!?」
見切れぬ勢いの蹴りが伸びてきた。
「タ……ダ……デ……ハ」
まばたきを許さぬほどの瞬間を、衝角をモチーフとしたと思しきシルエットが砕く。
鳩尾を穿った一撃に、奏夢は身を折って耐えた。……と、ここまでは作戦通り。
身を挺して遂行した主を、キノはそれでも、心配そうな瞳で見守る。
「エア! 奏夢さんを!」
「ワォン!」
リヒトが短く号令を掛けると共に、エアは浄霊眼を発動した。
「立ち上れ風、淀まず、弛まず、女神の紡ぐ糸の様に――」
さらなる治癒に備え、リヒト自身も武器を構える。
「しかしてその前に、断ち鋏こそが空を踊る! 正しき長さに、正すために!」
告げた詩は、死を奪われた死者への再殺宣言か。
「シ……ズ……マ……ヌ」
ならば殺しの担い手が、彼の者に訪れるのは必定。
光明は、既に黒の剣を抜いている。
「斬り通す、九頭龍……陽炎」
その刀身は揺らめき、消えていくようにも見えた。
――しゃん。
刹那、形無き斬撃だけが、空間を走る。
そうして戦艦アンデッドが灼滅されたことを、一拍以上置いて、角アンデッドたちは知覚した。
「キ。キ――――――!」
その内の片方が、角を音叉代わりに、金切り声を増幅させていく。
目に見えるほどの歪みとなったそれは、音の激流となって咲夜を弾き飛ばした。
「く……ああっ!」
「川原! ……っそ、余計な消耗をさせやがる!」
廉也はダンピールの牙を剥き、縛霊手を高く突き上げる。
「その動き、いい加減停めてもらおうか!」
祭壇を中心に形成された結界が、糸に魔を絡め取った。
「不死のバケモノなんてのは、俺としてもいられちゃ困るんでね。
そして決めてしまえ川原。お前にも、理由はあるんだろ?」
「言われなくとも順当に、ですよ」
と、呼ばれた咲夜は、冷や汗をこぼしながら答える。
確かに先の一撃は強烈なものだった。が、彼の闘志を折るには至らなかったのである。
「素晴らしい技だっただけに、余計にね」
歩み寄り、自然に突き出した杖の一撃が、角アンデッドの心臓を吹き飛ばす。
残る1体の角アンデッドにも、決着の時が近づいていた。
「……ゼツボウ、セヨ」
「しませんよ。生きる人間には、希望はなくてはならないものです」
振り回される角と綾鷹の鞭剣と、丁々発止の切り結びが火花を咲かせる。
「そして、眠るべき者にはしかるべき安らぎを。……さあ、サクラ」
「ナノッ!」
綾鷹が敵の角を一際大きくはじくと、狙っていたかのようにサクラが飛び出した。
太陽の光を背負って、しゃぼん玉がきらきらと降りそそぐ。
「アグ……ッッッ!」
「隙有りッ! 覚悟!」
その、天を仰ぎ見るような姿勢を、カイの杭打ち機がざくりと縫い留めた。
角アンデッドの肌から、偽りの死の色が消えていく。
「ア……ア……」
「あいや、隙などと言って悪かった。見ればお主、中々の美人。
――シャボンの打掛もまた、似合いの装束ぞ」
「…………あ」
病院灼滅者アンデッドたちは、死体を残さず逝った。
光明の携帯にラグナロク発見の一報が届くのは、その直後のことである。
「はい……はい、わかりました。そちらもご無事で」
「見つかったのですか? 光明さん、それはどちらの方角で――」
咲夜が問う。他の灼滅者たちも、興味津々に話を待った。
「東側、だそうです。俺たちが戦った病院灼滅者アンデッドは、おそらく南側から逃げ出してきたものではないかと」
「東だったか。ここからでは、援軍に行こうにも時間が掛かりすぎる。
撤退が妥当だと、俺は思うぞ」
という通の言は、至極もっともなものであった。
灼滅者たちは、国道を上がってよこすかを後にする。
……そして。
獄魔覇獄は、続いた。
作者:君島世界 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年12月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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