獄魔覇獄前哨戦～いくさき占うラグナロク

■リプレイ

　日本刀を大きく振りかぶった雑兵を、楯守・盾衛（シールドスパイカ・d03757）は楽しそうに斬り払った。
「ハイハイ、組ンず解れつ大乱闘ッてな！　張り切ッて殺ッてみよーウ」
　自在刀【七曲】から放たれた上段からの斬撃は、現れた戦国時代の足軽のような古の畏れを一撃で白い霧に返す。
　霧の後ろからは、すでに次の足軽が間近だ。足軽の日本刀が盾衛を切り裂こうとした瞬間、足軽が動きを止めた。
「おっおー！　させないんだお！」
　マリナ・ガーラント（兵器少女・d11401）が放った縛霊撃が、足軽を絡め取る。そのまま力比べに移行したマリナと足軽だが、ふいに足軽が消えた。
　唐沢・一也（残響を聞く者・d22673）の拳が霊力を宿し、動きを止めた足軽に叩き込まれた。
「次から次へとうぜぇんだよ……ッ！」
　高速の連撃を食らった足軽はそのまま宙を舞い、アスファルトに叩き付けられ白い霧と化す。
　攻撃直後の一也は、背中に感じた気配に振り返った。
　いつの間にか忍び寄っていた足軽が、脇差で斬りこんできている。
　刃の欠けた脇差は一也の背中を複雑にえぐる。更に連撃を加えようとした足軽に、木元・明莉（楽天日和・d14267）が無敵斬艦刀を振り上げ、振り下ろした。
　激震と銘打たれた巨大な刀は、忍び寄る足軽を真っ二つに切り裂く。
　次々と襲いくる足軽達に、明莉は苦々しく眉をひそめた。　
「こんなに古の畏れを放って、自分はまだ出ない。ナミダ姫の目的って、何なんだろうね」
　苛立ったような明莉の問いかけに、足軽は何も答えない。
「下っ端に聞いても、分かるまいて！」
　雨宮・絵梨香（黒羽飾る光雨を司る終焉者・d30496）は言いながら、シールドリングを解き放った。
　光の輪が一也の周りを舞い、軌跡が深い傷を癒す。
　きらきらとした光の粒に包まれた一也は、改めて拳を握り締めた。
　確かに現状は、混戦や乱闘と呼んで良いものだった。
　横須賀市に入り、ナミダ姫の勢力を探索することしばし。市の北側に広がる山地から南へ向かって進む古の畏れの群れに遭遇したのだ。
　個性のない足軽達は、さほど強くはないが数が多い。ナミダ姫を探索しようにも、まずは足軽達を倒すのが先決だった。
　足軽達は波状攻撃はさほど効果が無いと認識したのか。南下の足を止めると、一体の足軽が歩み出た。
　足軽、と呼ぶには鎧が少し立派だ。小隊長ともいえる番頭といったところか。
　番頭は吠えるように大きく口を開けると、叫びのような空気の塊を道路に放った。
　どす黒い靄が、前衛に襲い掛かる。戦の悲しみや怨念を凝らせたような、息もできなくなるくらいの苦しみが襲う。
　灼滅者なら誰もが理解できる戦いの苦しみにあえいだ時、清浄な風が吹き抜けた。
「そんな靄に負けてはダメだよ、君」
　ポー・アリスランド（熊色の脳細胞・d00524）が解き放った清めの風が、前衛にまとわりつく苦しみを浄化していく。
　目の前を塞ぐ黒い靄が晴れ、まるで夜が明けたかのようだった。
　黒い靄が晴れる寸前、桃地・羅生丸（暴獣・d05045）が突貫を仕掛けた。
「挨拶代わりだ、受け取りやがれ！」
　雷の霊力を宿した鏖し龍が唸りを上げながら、番頭を切り裂く。
　脇腹から肩にかけて切り裂かれた番頭に、森本・煉夜（斜光の運び手・d02292）が追い打ちをかける。
「誰にとっても、迷惑な話だ！」
　番頭の死角から放たれたウロボロスブレイドが、番頭に絡みつき引き裂く。
　番頭は断末魔さえ上げずに黒い靄になると、風に乗って消えた。
　番頭を失った足軽たちを掃討するのに、さほど時間はかからなかった。

●
　その場にいた古の畏れをすべて倒し、安全を確保した灼滅者達は、改めて休息と探索をすることにした。
　忍者のような足軽の不意打ちを食らってダメージの大きかった一也に、絵梨香と明莉が心霊手術を施す。
　幸い一也以外のダメージはさほど大きくなく、周囲の警戒をしつつ、ナミダ姫の居場所を探った。
「じゃ、ナミダ姫を探索してくるお！」
　マリナは近くにあったビルの壁に向き合うと、おもむろに壁に足をかけた。
　マリナはそのまま、まるで平地を歩くように壁を歩く。
　他の敵に見つからないように手早く壁を登ったマリナは、高い視点から周囲を見渡した。
　戦いの気配がそこかしこから立ち上り、横須賀市はまるで戦場のようだ。
　少し離れた場所には、連絡を取り合ったナミダ姫班の姿も見える。何をしているかまでは分からないが、救援要請等はないので大丈夫だろう。
　儀式や物資運搬など、怪しい動きがないか注意深く見ていたマリナは、二通りほど離れた場所に異様な気配を感じた。
　双眼鏡で確認する。角度が悪くてよく分からないが、平和な公園には似つかわしくない影が佇んでいた。
　マリナは携帯を取り出すと、仲間に連絡を取った。
「ここから北西の方にある公園で、不審な人影が見えるんだお！」
『不審な人影？　古の畏れなのか？』
　煉夜の問いに、マリナは首を傾げた。
「んー、ここからじゃ角度悪くて確証ないけど、ほっとくと嫌な予感がするんだおっ」
『分かった、確認する！』
　通話が切れた瞬間、一本の箒が舞い上がった。
　煉夜を乗せた箒が、建物に沿いながら舞い上がり、周囲を警戒しながら北西の方角を探した。
　少し離れた場所にある児童公園では、マリナが言っていた通り、怪しい人影がいた。
　大柄な男のようだった。戦国時代の武将のような甲冑を身にまとい、陣羽織に派手な兜をかぶっている。
　陣中で決戦を待つかのような趣だが、鎧兜の展示のように、ぴくりとも動かない。
　だが、そこから発するのは、まぎれもなくダークネスの気配。
　煉夜は公園に至る道と付近で起きている戦闘の範囲を頭に叩き込むと、即座に地上へと戻った。
　
●
　戦闘範囲を迂回して戦いを避けながら向かった児童公園には、変わらず鎧兜が鎮座していた。
　間近で見ると、間違いなく古の畏れだ。さっき戦った足軽や番頭の大将といったところか。
　しばらく観察していたが古の畏れは動かず、ナミダ姫が姿を現すこともなさそうだった。
　放っておく訳にもいかないので、そろそろ仕掛けようとした時。別の入り口から子供の声が響いた。
「ボール、まってー！」
　無邪気に笑いながらボールを追いかける女の子は、児童公園中央に佇む鎧武者に驚いたように立ち止った。
　鎧武者の目が、赤く光る。おもむろに立ち上がった鎧武者に、灼滅者達は即座に動いた。
「ガツンと逝ッとけオラァ！」
　一気に間合いを詰め、盾衛は上段から鎧武者に斬りかかった。
　放たれる殺気に、鎧武者は目標を少女から盾衛へと変える。
　盾衛の七曲と鎧武者の大太刀が交錯する。
　着地した盾衛は、胸元を大きく引き裂く刀傷に膝をついた。
　肩で息をする盾衛の傍に、熊が駆け寄った。
　熊の着ぐるみを着たポーは、盾衛に手を翳すと癒しの光を放った。
　盾衛の傷が、ゆっくりと癒えていく。完治とまではいかないものの、大きな山は越えたようだ。
「悪ぃな」
　不敵に笑む盾衛に、ポーはやれやれと肩を竦めた。
「あの間合いから、よく間に合ったね、君」
「へっ！　ガキが殺られンのを見過ごすワケにいかねぇからよ！」
「ふむ。まあ、回復は僕に任せ、キミはキミの役割を果たしてくれたまえよ、君」
「ったりめえよ！」
　楽しそうに笑った盾衛は、ポーと共に戦場へと戻った。
　盾衛が鎧武者の大太刀を受け止めた直後、明莉が女の子を抱えた。
　明莉は児童公園を駆け抜け、端にある東屋へと向かう。
　椅子の陰に少女を座らせた明莉は、不安そうな表情の女の子を安心させるように微笑むと、王者の風を放った。
「ここで、動かずじっとしているんだ。いいね？」
「う、うん」
　うなずく女の子の頭を撫でてやると、明莉は戦場へと駆け戻った。
　羅生丸は駆け出す明莉を見送ると、殺界形成を放った。
　目に見えない殺気が児童公園の周囲に張り巡らされ、外へ出ようとしていた老人があわてて家の中に戻る。
「これで、思う存分暴れられるぜ！」
　羅生丸は楽しそうに鎧武者を睨むと、鏖し龍を構えた。
　グラウンドに突き刺さった大太刀を抜いた鎧武者が、ゆっくりと大太刀を上段に構える。
　怒りにも似た殺気を放ちながら振りかぶった胴に、一也の拳が突き刺さった。
　同時に展開する霊力の網が、鎧武者を捉えようと広がり、ビハインドのリサの霊撃がこれに続く。
　連撃を食らった鎧武者は、大きく腕を振ると一也を振り払った。
「つーかさ、テメェらの目的は何だよ！　ラグナロクじゃねえのか？」
「潰し合いをするのは勝手だが、どうせなら人がいない場所でやればいいものを……」
　苦々しげにつぶやいた煉夜は、姿勢を低くすると斬撃を放った。
　鎧と鎧の隙間を狙った攻撃が、鎧武者に突き刺さる。
　動きが鈍った鎧武者に、マリナの日本刀が振り下ろされた。
「いっくおー！」
　鎧武者はとっさに、手に持った大太刀で受け止める。しばらく睨み合いが続いたが、苛立ったような鎧武者が力任せにマリナを吹き飛ばした。
　着地したマリナに、光の輪が舞う。絵梨香が放ったシールドリングが、マリナの周囲をくるくると回って防御の結界を張った。
　鎧武者は怒りの気配を立ち上らせながら、大太刀を大きく構えた。

●
　大太刀を大きく振りかぶった鎧武者は、物凄い力で振り抜いた。
　神羅万象、すべてを断ち切るかのごとき攻撃が、前衛に振り下ろされる。
　攻撃が命中する寸前、盾衛はアンクシールド【ジェフティ・サイン】を展開した。
「手広く守るワイドなガードッてなァ！」
　前衛全員を守るように展開した透明な盾が、容赦ない圧力にヒビが入る。
　盾衛は何とか堪えるが、攻撃を受け止めきれずに破られる。
　羅生丸に向かった斬撃を、マリナは受け止めた。金色の花びらのような光に守られたマリナは、何とか攻撃を受け切ると、思わず膝をついた。
「嬢ちゃん！」
「ももちーの、お兄ちゃんには、頑張ってもらうんだお！」
　額に汗を浮かべながら笑うマリナに、羅生丸はにやりと笑った。
「ああ！　美少女のピンチを救うのは、イケメンの役目だからな！」
　一気に駆け出した羅生丸は、裂ぱくの気合と共に鏖し龍を振りかぶった。
　戦艦をも切り裂く斬撃が、鎧武者を切り裂く。すべてを断ち切るような攻撃をまともに食らった鎧武者は、一歩後退した。
　そのまま逃げる素振りを見せる鎧武者の足元が、ふいに氷結した。
　煉夜の妖冷弾が、無数の氷の粒となって鎧武者の足を止める。鎧武者は何とか足を引き抜こうともがくが、抜け出すことはできなかった。
「配下程度なら、俺達でも潰せる！」
「そして、仲間は潰させないよ、君！」
　ポーは再び手を翳すと、盾衛の傷を癒す。
「さっさとお引き取り願おうか！」
　一也は拳を握り締めると、素早い連撃を繰り出した。
　鎧武者の鎧に、無数のヒビが入る。放たれた締めの一撃に、鎧武者の体が大きく傾いた。
「やっぱり、偵察よか戦闘の方が性に合うね！」
　明莉が放った戦艦斬りが、鎧武者を吹き飛ばし、地面に叩き付けた。
　鎧武者はヨロヨロと上体を上げると、刃こぼれだらけの大太刀を杖に立ち上がった。
　絵梨香の足元が揺れ、影が大きく伸びる。
　腕を十字に組んだ絵梨香は、溢れ出る膨大な影を鎧武者に放った。
「塵は塵に、闇は闇に。所詮、闇に過ぎぬお前らは……闇に還れ！」
　獣のように広がった闇が、鎧武者を覆い尽くす。
　闇に呑まれ、闇が消え去った時、そこには何も残らなかった。

●
　鎧武者を灼滅し、一息ついた灼滅者達は、これからどうするか決めるために東屋に集まった。
　椅子の陰に隠れた少女を家に返し、一般人の被害はゼロに抑えられたのは大きな成果だ。
　周囲を警戒しながら、傷を癒すポーは、誰にともなく問いかけた。
「この入り乱れた状況、必要以上の注目を浴びずに敵対する事の好機ではあるけれど……。何か目的はあるのだろうね」
　ポーの言葉に、明莉は頷いた。
「ナミダ姫の、あの能力はよくわかんないからね。自我なくぺらぺら喋っちゃうなんて一番やっかいだ」
「ロクな情報も得られてねぇし、粘るだけ粘りてぇところだが……」
　語尾を濁した一也に、一同は唸った。
　このまま探索を続けるにしても、撤退するにしても、情報が少なすぎる。
　絵梨香はふと思い出すと、チャットソフトを立ち上げた。
「少し前に、東探索班がラグナロクを発見したって！」
「何ぃ？　じゃ、今から行っても間に合わねぇナ」
　額に手をやって天を仰いだ盾衛に、羅生丸は重々しく頷いた。
「あっちには、神社デートスポットが多いからな」
　やがて、偵察のために再び箒にまたがった煉夜が帰って来た。
「この先に、戦闘の跡があった。古の畏れは、おそらく六六六人衆に撃破されたんだと思う」
「おっおー！　じゃあ、マリナ達の役目は、もう果たしたと思うお！」
　ぴょこんと手を挙げるマリナの意見に、全員が賛同する。
　古の畏れを倒した灼滅者達は、横須賀駅に向かって歩き出すのだった。

作者：三ノ木咲紀	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年12月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。