神奈川県南部、東京湾と相模湾に面する海の町、横須賀市。
その横須賀市の海底から、大きな、大きすぎる力が、上陸しようとしていた。
怪しく光る光球の中にあるのは、光の束で縛られた小柄な人影。
その光球は、海から地上に上がると、ふらふらと空中を漂いながら、横須賀市のほぼ中央へと到達すると、地面にふわりと着地した。
その中から現れたのは……。
「あれ? ここは、どこ、どうして、こんな所に? たしか私はパワースポット巡りを……」
たった、一人のラグナロクであった。
●獄魔覇獄前哨戦
8名の獄魔大将に告ぐ。
獄魔覇獄の戦いの火蓋が切って落とされた。
横須賀市中央部に放たれた、ラグナロクを奪い合え。
この前哨戦で、ラグナロクを捕らえ確保したものが、獄魔覇獄の戦いをリードする事になるだろう。
ラグナロクの確保に全力をつくすのも良いだろう。
獄魔覇獄の戦いの為に戦力を温存するのも良いだろう。
敵戦力を見極める事に重点を置く戦いも悪くは無い。
獄魔大将として、軍を率い、そして、自らの目的を果たすがいい。
●獄魔覇獄前哨戦~力の行方
「お待ちしておりました、灼滅者様方」
温和な笑みで出迎えた里中・清政(高校生エクスブレイン・dn0122)は、深々と一礼すると、すぐに本題に入る。
「サイキックアブソーバーが、新たな『ラグナロク』の存在を感知したことは、既にご存知の方も多いと思われます」
改めて、ラグナロクの保護が目的であることを告げられると、僅かに空気が張り詰める。
「武蔵坂の獄魔大将でございます、猫乃目・ブレイブ(灼熱ブレイブ・d19380)様の話によりますと、このラグナロクの争奪戦が『獄魔覇獄の前哨戦』になるということです」
ラグナロクは現在、横須賀市のほぼ中央に放たれているという。
彼女は体内に膨大なサイキックエナジーを溜め込んではいるけれど、自分自身で戦う力は持っていない。ダークネスに見つかった場合、何の抵抗も出来ないまま捕えられてしまうのは、実に明らかで……。
「そのような事態は、何としても避けなければ、なりませんでしょう」
この前哨戦で、獄魔覇獄の敵戦力を見極めることも、重要かもしれない。
けれど、危機的な状況下に置かれたラグナロクを見過ごす訳には、いかないだろう。
「わたくしからも申し上げます。どうか、皆様方の力をお貸し下さいませ」
頭を下げる執事エクスブレインに、灼滅者達は真摯な眼差しで頷いてみせて。
その返答に笑みを深くした執事エクスブレインもまた、手元のバインダーを広げた。
●7つの勢力
「獄魔大将を有する組織は、武蔵坂学園の他に7つございますが、何れもこの事態を受けて動き出しております」
7つの組織については既に判明している情報の他、『予兆』を見た灼滅者達から得られた情報、更にサイキックアブソーバーによって解析された情報を、エクスブレイン総出で纏めてみせたという。
執事エクスブレインは灼滅者達にも見やすいように、バインダーを机の上に置いた。
「1つめは、ソロモンの悪魔のブエル勢力でございます。一般人のブエル化事件の張本人でもございますね」
その配下であるブエル兵達は、住宅街をしらみ潰しに探しまわっているという。
また、その際、新たなブエル兵を生み出す事も同時に行い、ラグナロクの捜索と戦力増強を同時進行で行っているとのことだ。
「2つめは、アンブレイカブルのシン・ライリー勢力でございます」
獄魔大将シン・ライリーを含め、少数精鋭の部隊が密かに横須賀入りをしているらしい。
「目的は他勢力の獄魔大将の力を見極めることのようで、表立った活動はしておりません」
これを逆手にとって、シン・ライリーを狙い、灼滅してしまう作戦も考えられる。
シン・ライリーが灼滅された場合、この時点でこの勢力の敗北が決定することになる。
「3つめは、イフリートのクロキバの勢力でございます」
彼らは犬猫眷属を派遣して、ラグナロクの捜索を行おうとしているという、が……。
「眷属が大部分で、主力であるイフリートは殆ど派遣していないようでございますね」
仮にラグナロクを発見したとしても、ラグナロクを確保して他の陣営から奪われるのを阻止するには、彼らだけでは戦力が足りないだろう。
「4つめは、人事部長と呼ばれる六六六人衆が指揮する勢力でございます」
人事部長を筆頭に、新入社員と呼ばれる六六六人衆達と、派遣社員と呼ばれる強化一般人達を動員して、ラグナロク捜索に動いているらしい。
「詳細は不明でございますが、彼等は灼滅者を警戒しているとのことです……ご注意を」
鉢合わせてしまった最後、灼滅者の撃破を優先的に狙ってくるだろうと、警告する。
「5つめは、四大シャドウが1体、デスギガス配下のシャドウの勢力でございます」
彼らは横須賀市民のソウルボードを移動しながら、状況を伺っているという。
情報収集を優先しているような感じだが、ラグナロクが発見された場合、強奪できる状況であるならば、襲撃を仕掛けて来るかもしれない。
「6つめは、ノーライフキング、カンナビスの勢力でございます」
長い説明をしていても、温和な微笑を崩さなかった執事エクスブレインの顔色が曇る。
そして「人造灼滅者様方には、言いにくいのですが……」と、静かに前置きをいれた。
「彼らは『病院』の灼滅者様方の亡骸から生み出した実験体アンデッドを多数繰り出して、ラグナロクの確保を行おうとしております」
また、アンデッド達の外見は、灼滅者であるように偽装させられており、自分達の勢力の情報を他獄魔大将から隠そうとする意図も見受けられる。
その言葉に、ある者は短く吐き捨て、ある者は拳を強く固く握りしめていて……。
「7つめは、スサノオの姫、ナミダの勢力でございます」
こちらはラグナロクの捜索は行わず、多数の『古の畏れ』を横須賀市内に出現させ、無差別に敵を襲わせようとしているという。
「敵戦力を測るのが目的と思われますが、他にも何か意図があるかと存じます」
灼滅者達も一緒になって考えてみるけれど、その狙いははっきりとはわからない。
「相変わらず、謎の多い陣営でございますね……」
そこまで言い終えると、執事エクスブレインは改めて灼滅者達を見回した。
「ブレイブ様の情報によりますと『ラグナロクを確保したものが、獄魔覇獄の戦いをリードする事になる』とのことでございます」
——横須賀市の何処かにいるだろう、ラグナロクの捜索を優先するか。
——あるいは、他勢力に捕われてしまわないよう、こちらから襲撃するのもありだろう。
「この状況を踏まえ、如何なる行動をされるかは、現場に赴かれる皆様にお任せ致します」
そう口元を結んだ執事エクスブレインは、変わらぬ信頼と温和な笑みを向けていて。
そして「いってらっしゃいませ」と告げ、深々と頭を下げるのだった。
参加者 | |
---|---|
九条・風(廃音ブルース・d00691) |
エルメンガルト・ガル(草冠の・d01742) |
アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392) |
イリス・ローゼンバーグ(深淵に咲く花・d12070) |
三園・小枝子(アムリタ・d18230) |
レイッツァ・ウルヒリン(紫影の剱・d19883) |
日輪・戦火(汝は人狼なりや・d27525) |
押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336) |
●策敵
互いに逸れないよう注意しながら、六六六人衆を追跡していた8人と4体は、横須賀市の東側に足を踏み入れる。
東側では、六六六人衆による、大規模な捜索活動が行われていた。
「おーおー、悪趣味な殺し方しやがる、被害者の立場で場が見れるってのは新鮮だな」
——反吐が出る。
そう静かに吐き捨てながらも、九条・風(廃音ブルース・d00691)は、無造作に晒された遺骸に、そっと手の平をかざす。
そして、すぐに仲間の方を見やり「まだ近くに居やがる」と、目線だけで方向を示した。
目線と身振りで簡単に意思疎通を取る風に、三園・小枝子(アムリタ・d18230)も物音に気をつけながら、身振り手振りで返事を返し、後に続いていく。
「相手はこちらを警戒しているみたいだし、罠や奇襲の可能性も十分あるわ」
効率のいいルート開拓を仲間に託した、イリス・ローゼンバーグ(深淵に咲く花・d12070)は、不測の事態に備えて、周囲の観察に専念する。
イリスを始め、多くの者が敵味方が判別出来るように、武蔵坂学園の制服を着ていたのもあり、見た目の混乱も最小限で済んでいる。
何か情報はないか。そう思っていた矢先に、電柱に貼られた貼り紙が目に入った。
「今回の六六六人衆は『斬新コーポレーション』という会社の社員なのね」
——ラグナロクを見掛けたら、至急下記へご連絡下さい。
悪ふざけにも程がある張り紙には、斬新コーポレーションのロゴも入っていて。
「社長の名前は斬新京一郎かぁ、もしかして獄魔大将かなぁ」
イリスの背後から覗き見た、レイッツァ・ウルヒリン(紫影の剱・d19883)が、子供っぽい声を洩らした時だった。
「対六六六人衆の班は、揃ってヒガシガワに入ったみたいだね」
他班に定時連絡を入れていた、エルメンガルト・ガル(草冠の・d01742)が首を傾げる。
探索箇所は、極力被らないようにしていたのに、何故だろう……。
「東側に入ってから他勢力は見当たらないっすね」
言い換えれば、六六六人衆は東側に、全戦力を注いでいることになる。
偽灼滅者を警戒していた押出・ハリマ(気は優しくて力持ち・d31336)は、有事の際には速やかに合流できるよう、ブロック分けされた地図を広げる。
六六六人衆の索敵には、多くの戦力が投入されていたのもあり、現時点では探索班の足を止める事態は、起きていない様子だった、けれど……。
「想定通りと言うか、まさに六六六人衆、ね」
イリスの繊細な指が示した方向を見るや否や、一行の緊張が高まっていく。
探索ついでに、殺戮に駆られても可笑しくない、それが六六六人衆であると言うように。
●惨劇との遭遇
『お前達派遣社員は、足を使ってドブ板捜索を行うのよ!』
激を飛ばす六六六人衆の女性正社員に、派遣社員と呼ばれた強化一般人達は、揃って不平不満な表情を浮かべていて。
否、探索に駆り出されているのは、強化一般人達だけではなかった。
「一般人もいるな……」
アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392)が呟いた時だった。
正社員の視線が、ローラー作戦をしようと一般人を整列させていた、派遣社員に留まる。
『その服地味ね。クリスマスカラーなら、ラグナロクもきっと姿を見せるわ』
——紅く!
——紅く!
女の手から靡いた鋼糸が派遣社員の側の一般人の首を、次々と斬り落としていく。
おびただしい返り血に歓喜と悲鳴が飛び交う中、女は恍惚な表情で声を張り上げた。
『斬新コーポレーションは斬新なアイデアを尊ぶの。お前達も思いつく斬新な方法で——』
「「そのような蛮行は私が許さん!」」
惨劇を阻まんと早々に介入したのは、日輪・戦火(汝は人狼なりや・d27525)。
正義の味方の如くビシっと決めポーズを取る戦火だけど、周囲にバレバレなのはお約束♪
そして、その隙を見逃す灼滅者達では、ない!
「何処でもいい、室内に逃げ込め!」
風が一般人達に閉じこもるように指示を出すと、エルメンガルトもラブフェロモンで虜にした一般人達を誘導する。
一目散にテナントビルへ駆け込む一般人を見届けた小枝子は、安堵を洩らした。
(「怖い……けど、頑張らないと……!」)
大きな戦いに緊張していた小枝子も、眼前の惨状に強く唇を噛み締めて。
逃げた道の先にヒーローはいない。心優しい少女も全てを守る決意を闘志に変えて、霊犬のリックと共に駆け出した。
●惨劇からの開戦
「殺す気満々の相手って怖いんだけどなー、殺るしかないか!」
「エル先輩、言葉とは裏腹に楽しそうだね〜」
開始早々敵の懐まで迫らんとするエルメンガルトを、怖いもの知らずのレイッツァが軽く茶化していて。
けれど、その目はしっかり先輩の動きを見ており、高速で振り回した鞭剣で取り巻きの派遣社員達を斬り刻んでいく。
「六六六人衆狙いね、合わせていくわ」
鋼糸の結界を紙一重で避けてみせたイリスも、足元の影を伸ばす。
茨の影に阻まれた六六六人衆が苛立しく舌打ちし、派遣社員達は一斉に反撃に転じた。
「ったく、面倒なことになっちまったなァ」
只でさえ、目付きが悪い風の双眸が更に鋭くなり、体に纏ったオーラが燃え上がる。
派遣社員達に向けて、霊的因子を強制停止させる結界を構築する風に合わせて、ライトキャリバーのサラマンダーも、銃弾を見舞った。
「これが前哨戦っすか。本番はどれほど大規模な戦いになるのか……」
黒いニューファンドランド風の霊犬の円と共に、回復に専念していたハリマは、不謹慎と思いながらも、胸の内を躍らせていて。
同時に。敗北したら、取り返しがつかないことになるかもと、直ぐに気を引き締め、指先に集めた霊力で戦火の傷を癒す。
ハリマの癒しで態勢を立て直した戦火も、まずは敵勢力を削ろうと、鋭い銀爪で敵前衛を力任せに引き裂いた。
「リック、お願いっ!」
味方の壁になったリックも、小枝子をフォローするように回復中心で立ち回っていて。
小枝子は前衛の耐性を高めようと、味方を守護する護符を、アレクサンダーに飛ばす。
「貴様らが闇堕ちした時には、同情すべき理由があったかもしれないが……」
ラグナロクを景品にするという獄魔覇獄は、悪趣味としか言えないものがあるだろう。
けれど、それに釣られて、一般人を襲う者を許す訳にはいかないと、アレクサンダーは弱った派遣社員に、攻撃を集中させる。
「今お前たちが行っている所業を正当化する理由にはならない。そのまま灼滅されろ」
アレクサンダーが繰り出した、破邪の白光を放つ強烈な斬撃を追うように、風が巨大なオーラの法陣を展開する。
傷が癒えると同時に、身に刻まれた縛めから解放された前衛陣は、反撃に転じた。
「エル先輩、合わせて!」
レイッツァが赤紫の髪を靡かせて駆け出すと、早期無力化を視野に入れていたエルメンガルトは、何処か楽しそうに頷いて。
早緑色のスニーカーが地面を弾くと同時に、六六六人衆の懐に潜り込んだエルメンガルトは、至近距離から魔力の奔流を叩き込む!
片腕を異形化させたレイッツァも物怖じせず、凄まじい膂力で六六六人衆を殴り潰した。
「市街地で戦うなんて、本当にいい迷惑だわ」
指揮官を失った派遣社員達は、酷く混乱していて。
放っておけば、人を殺し始めても可笑しくない彼等を、イリスは仲間と蹴散らしていく。
最後の1人を茨の影で切り裂いた時、携帯電話が着信を知らせたのだった。
●報せ
「あっ、東側でラグナロクが発見されたって!」
ハンドフォンは発信専用のため、何かあったときは携帯に連絡がくるようになっている。
通話を受け持ったレイッツァの言葉に、正義の味方を気取った戦火も、力強く頷いた。
「遊び足りないと思っていたところよ」
「ここから近いねっ、急ごう!」
イリスがウェーブが掛かった髪を靡かせ、小枝子もエアシューズで地を蹴って駆け出す。
だが、しかし!
「戦闘は回避できそうにないっすね」
ハリマの目に飛び込んできたのは、総力をあげ、ラグナロク奪取に向かう六六六人衆達!
その刹那。幾つもの剣戟が交差し、東側に集まった、ほぼ全ての班と六六六人衆を巻き込んだ、大規模な争奪戦と化した。
「ほんと笑えるぜ、クソみてェにな」
敵味方入り乱れ、1人の少女を追い掛けている現状に、風が毒づいた時だった。
休む間もなく携帯が鳴り、他班から「人事部長と遭遇」の一報が入るや否や、激しいノイズ音を残して、通話は突如中断される。
レイッツァが掛け直しても繋がらない!
「どちらも危険な状態だな……」
——前門のラグナロクか、後門の人事部長か。
ライドキャリバーのスキップジャックに騎乗しようとしたアレクサンダーは、腕を組む。
人事部長に単身先行して駆けつけたところで、直ぐに叩き伏せられてしまうのは明白で。
その時だった、エルメンガルトが「肩の力抜いていこう」と、声を掛けたのは。
「ダイジな作戦だけど、あんまり気負っててもしんどいしさ」
人事部長の命令を受けた六六六人衆達の狙いは、ラグナロクに間違いない。
そう告げるエルメンガルトに、ハリマは礼儀正しく真面目に頷いた。
「ボク達が出来る最善策は、ラグナロクの人を守ることっすね」
そして、心地良い高揚感を抱いたまま、勝利を掴み取りたい。
ハリマを始め、少年少女達がラグナロク防衛戦を決意した、瞬間だった。
●ラグナロク防衛戦
『斬新京一郎社長式マーケティング予測は完璧でしたが、またしても灼滅者かッ!』
社用車を運転しながら特攻を仕掛けてくるのは、髪型を七三に分けた六六六人衆。
車の色は紅。目立つからという理由で人々の血肉でデコった、実に悪質なモノだった。
「騎兵隊の登場だ!」
「私はホワイトテリアー! 日輪の白き旋風!」
その横をスキップジャックで並走するアレクサンダーに、一瞬速度を弛めた刹那、前方に回り込んだ戦火が進路を塞ぐ。
ラグナロクに向かう六六六人衆を撃破する、それが今の自分達に出来る最善策だった。
『仕事の邪魔をするんじゃねえよガキ共がッ! 派遣社員どもよ、かかれ!』
派遣社員達を差し向けると同時に、六六六人衆の凶刃が間に入った、リックを捉える。
小枝子が入れ替わろうと前に飛び出すけれど、息継ぐ間もない猛攻に、間に合わず……!
「邪険にすんなよ、同じ女のケツ追ってる仲じゃねェか。仲良くしようぜェ?」
だが、灼滅者達は怯まない。
派遣社員達の猛攻を、ディフェンダーに切り替えた風が、愛用の縛霊手で捌いていく。
相棒のサラマンダーも消滅した今、風の加勢は前衛陣の負担を、大いに軽減してくれた。
「フフッ、貴方も私と遊んでくれるの……?」
正社員だろうが派遣だろうが、イリスはダークネスに対しては至って高圧的で。
不用意に向かってきた者には、片っ端から茨の影を伸ばし、瞬時に動きを絡めとる。
「マーケティング予測って、言葉の使い方間違ってるよね?」
「カイシャに与えられたものをイイコで殺して回るなんて飼い犬以下だよね! ハハ!」
子供っぽい喋り方に反して、辛辣な言動を返すレイッツァに、エルメンガルトも男を茶化すように、言葉を重ねていて。
良くも悪くも攻撃が集中する中、ハリマは攻撃を挟む間もなく回復に追われ、憂いを隠した小枝子も、味方に天魔の力を供給する法陣を展開した。
『黙れ、斬新社長のいうことは絶対に正しいのだ!』
鬼気迫る六六六人衆にエルメンガルトは、防戦を強いられながらも、ラグナロクを探さんと、周囲を見回す。
近くにはいない。けれど六六六人衆達が向かっている方向で、大体の見当は付いた。
(「浦賀駅方面を目指してるのかな? いい判断だね〜」)
レイッツァの記憶に焼き付けていた地図と、彼等が追い掛ける方角が重なる。
戦火も少しでも多くの敵を倒さんと、炎を纏った激しい蹴りを、次々と見舞っていった。
「強いっすね……」
だが、相手もここまで来ることができる実力者達、灼滅者達の体力も削られている。
ハリマは味方の傷を癒して縛めを浄化する風を、疲労困憊の前衛陣に重ね続けていて。
相手が強化一般人だろうが六六六人衆だろうが、円も怯まず前線に治癒を届けていた。
「でも、わたし達は弱いからこそ強いんだ!」
正義のヒーローは独りじゃない。血なまぐさい風に小枝子の濃灰の髪がふわりと揺れる。
誰よりも弱いことを知っているからこそ、戦うことが苦手でも前に進むことが出来ると、気合と共に治癒を届かせる。
「鰹出汁スプラッシュ!」
後方からの癒しに後押しされ、アレクサンダーはご当地の力を宿したビームを撃ち放つ。
回復をハリマ達に託したレイッツァもまた、エルメンガルトが魔術で巻き起こした竜巻に合わせて、順調に敵の頭数を減らしていく。
(「相手がこちらを警戒する理由も、単なる恨みのようね」)
終始、敵の様子を観察していたイリスは、杞憂だったと安堵を胸の内に零していて。
けれど、連戦でディフェンダーを務めていた、アレクサンダーと戦火の疲労を重く見やると、オーラを癒しの力に転換した。
『はあはあ、ラグナロクを手に入れれば、本戦でもっと楽しく殺せ——』
「寝言は寝て言うんだな、めんどくせェ」
残るは、満身創痍の六六六人衆が1人。
翅持つ蛇の意匠のエアシューズで地を蹴った風が、虚空を謳歌するように飛び上がる。
流星の力を宿した飛び蹴りが六六六人衆の機動力を奪い取り、態勢を大きく崩した。
——その刹那。取り囲んでいた仲間が、一斉に集中砲火を見舞ったのだった。
●前哨戦の終幕、力の行方
「ふぅ、終わったかァ」
……ラグナロクは。仲間は。無事だろうか。
周囲から剣戟の音が消え、足止めを買って出た他班の気配が、風の五感をくすぐる。
強敵を蹴散らし終え、皆揃って疲れた顔をしている。ただ、それ以上にラグナロクや仲間の状況が、気がかりな様子だった。
「あれから連絡来てないっすね、少し怖いっす」
人事部長と交戦した班についても、他班が救援に向かった可能性が高いけれど、ハリマの不安は拭いきれない。
心はまだまだ戦えると叫んでいたけれど、満身創痍の体は、とても正直だった……。
「六六六人衆の情報も少し手に入ったし、私達も撤退した方がいいわね」
周囲を警戒するようにディフェンダーに切り替えたイリスが、戦火を庇うように肩を貸す。
スキップジャックと円も消滅し、連戦を皆の盾となって奮闘していたアレクサンダーと戦火の傷は、特に深い。
その提案に否を唱える者はなく、小枝子も仲間の後背を守ろうと、アレクサンダーの代わりに、ディフェンダーに着いた。
「これで前哨戦、かぁ……」
厳しい戦いを終えたレイッツァも、傷ついた体を押して歩き出す。
踏み出した一歩は小さく躓くことがあっても、きっと次に繋がることを信じて——。
作者:御剣鋼 |
重傷:アレクサンダー・ガーシュウィン(カツヲライダータタキ・d07392) 日輪・戦火(汝は人狼なりや・d27525) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2014年12月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|