トランス・&・カタレプシー

    作者:内山司志雄

    ●尽きぬ願望
     地方都市の繁華街に、ひっそりと看板を出しているヨガスタジオがある。
     しかしながら、その看板に書かれた文言はなかなか大胆であり大々的なものだ。
     
     【プログレッシヴ・ヨガ・三界廊】
     古代の叡智と現代フィットネスが融合する次世代のヨガ!!
    『チャンス・成功・幸運を引き寄せる未知のパワー』
     体験者からの声続出!!
     ヒトが本来持つ潜在能力を高め、あらゆる分野においてアナタの実力を発揮できるようになります。
     無料体験コース実施中~お気軽にどうぞ♪
     
    ●尽きぬ悩み
    「ヨガは、ちょっとやってみたいなあって、私もたまに思ったりするよ」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は、指で挟んだペンをくるくるさせながら愛用の手帳をぱこっと開いた。
    「全員そろったかな。それじゃあ、説明はじめるね」
     事件が起きているのは、『次世代ヨガ』を謳う、とある一件のヨガスタジオ。開講してからまだ日が浅いにもかかわらず、二十代からの女性を中心に密かな人気が高まりつつあるという。
    「ふつう、ヨガっていえば、シェイプアップを目的にやる人が殆どだけど、ここはそれだけじゃないのが人気を呼んでるヒミツなの。なんと、願い事まで叶うようになるんだって!」
     そう語るまりんの口調に熱が入る。
    「本当に本当にそうならいいんだけど……、でもじっさいはソロモンの悪魔が見えないところで糸を引いてる危険なヨガスタジオなの。そうとは知らずに、職場や恋愛のことで悩む若いOLや主婦の人達が騙されて、口コミでどんどん広がりはじめているから、なるべく早く解決してあげてね」
     このヨガスタジオの恐ろしいところは、集めた入会者の中から見込みのある人物を中心に悪魔の力を与え、自分達の傘下に置いてしまうこと。
     そうして『解放』された会員達がそれぞれの生活圏へもどって、じわりじわりと悪行を重ねつつ、自分の願いを達成させるという仕組みが出来上がる。
    「――これこそが、そこに書かれてある『幸運を引き寄せる未知のパワー』の正体なんだよ。悪い事をして叶えた願いなんて、いつかバチが当たっちゃうよ」
     潜在的な人数も含めて、このスタジオで力を得た人々がどれくらいいるのかは分からないが、今はまだそれほど大きな力を得るには至っていない。だからこそ早い内に手を打つ必要がある。
    「はじめから正々堂々と乗り込んでいって成敗! ……ができれば一番手っ取り早いんだけど、それだと先に相手に気付かれる可能性が高いっていう解析結果が出てるの。なのでせっかくだし、ひとまずここは、相手が用意してくれてる無料体験コースを利用させてもらっちゃおうよ♪」
     
     まずは入会希望者として無料体験コースに参加し、適当にあわせながら様子を窺おう。
     トレーニングの最後には必ず、瞑想をおこなう時間がある。
     その時こそ、戦いを仕掛ける最大の好機だ。
    「この瞑想のあいだに、目を付けられた人達は闇堕ちさせられちゃうんだ。……まるで啓示のように語りかけて、その人の潜在意識にある欲望まで引きずり出して、ね――」
     主催者であり、インストラクターでもあるマイネ、カイネ、ヒロネの三人を倒せば、ひとまずこれ以上このスタジオからダークネスの勢力が広がる心配はなくなる。
     他との実力的な争いは極力避けたいとする三人だが、いざとなればソロモンの悪魔から与えられたサイキックを使い、じわじわとこちらを追い詰める戦法を取ってくる。BS付与を得意とするサイキックを多く持っているので、こちらもそのつもりで準備をしておくのが良いだろう。
    「瞑想中の一般人達は入神状態になって動かないから、この状態が保たれているうちは戦闘には介入してこないよ。その間に手早くKOしちゃってもいいし、後回しにしておいても多分大丈夫」
     悩み多き女性達を悪魔の誘いから救うために、どうか三人を必ず潰してほしい。
     
    「……あ、それとみんなが向かう場所にソロモンの悪魔本体は姿を現さないみたい。それでも事件は事件としてきっちり解決しなくちゃいけないことに変わりはないから、みんなよろしくね!」


    参加者
    大沼・弥生(千華万蓉・d00238)
    鳩島・一眞(俺にカレーをくわせろ!!・d02419)
    姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)
    桧原・千夏(対艦巨砲主義・d02863)
    嵯神・松庵(染めずの黒・d03055)
    山南・向日葵(平和を願う殺人鬼・d04383)
    大祓凶神・乙女(剣の花嫁・d05608)
    土岐野・有人(ブルームライダー・d05821)

    ■リプレイ

    ●見極めの儀式
     こぢんまりとした比較的新しいビルの足元に、【三界廊】と書かれた小さな立て看板。
     喫茶店風のおしゃれな装飾が施され、いま流行りのお店といったイメージを前面に出していた。
     看板のすぐ横に上階へのびている細い階段が見える。ビルの2~3Fをヨガスタジオとして使用しているようだ。
    「流石に腕が伸びたり火を吹いたり瞬間移動したりは出来ないよなー。まあ、冗談だけどさ」
     入り口の階段を上がってゆきながら、桧原・千夏(対艦巨砲主義・d02863)がそんなことを呟いた。
     その一言に思わずクスッとする嵯神・松庵(染めずの黒・d03055)。
    「体は硬い方だからな……ヨガはしんどそうだ」
     そう言って苦笑いした。
    「ヨガ……インド…カレー…ナン……、ナンが食べたくなりました」
     山南・向日葵(平和を願う殺人鬼・d04383)にとって興味の対象はもはやヨガにあらず。
     ご丁寧にヨガスタジオのすぐ下でインド料理屋が店を開いているとなれば、そんな風に食欲をそそられるのも、ある意味では仕方の無いこと。
    「カレー食べたいなぁ」
     鳩島・一眞(俺にカレーをくわせろ!!・d02419)も、香ばしいスパイスの香りに心動かされる。
     これはナカナカの商売上手、と云って良いのだろうか。

     ちりんちりりん。
    「こんにちは~ぁ♪」
     ヨガスタジオの名前が書かれたガラス扉を開けると、心地よい鈴の音と共に女性スタッフの明るい声が聞こえてきた。
    「ナマステ! ……えっと、こういう時もナマステでいいんですかね?」
    「ナマステ~♪ はい、インドのほうのあいさつですよね♪」
     ノリの良いおねえさんは合掌でお辞儀しながら、一眞の質問にもひときわ明るい笑顔で返事する。
    「次世代ヨガに興味があって来ました」
    「ありがとございまーす! えっと、お客様は、皆さん初めてのかたで宜しかったです? 無料体験コースのほうをご希望でしょうかぁ?」
     おねえさんが案内モードになったので、松庵は「そうです」と答えた。
    「ここ、最近有名らしいじゃん?」
     千夏が話題を振ると、おねえさんは「そうなんですよぉ♪」と、嬉しそうに言った。
    「今日もこんなにいらして頂いて。皆さん、お友達同士なんですか?」
    「そう。ヨガ部なんですよ」
     一応自分が部長を務めさせてもらっていると答えた松庵に、おねえさんは「へぇ~! 楽しそうですねぇ♪」などと言って、別段怪しむ素振りも見せずに感心してくれた。
     こうして和気藹々とした雰囲気のなかで無料体験申し込みの手続きを済ませ、八人はメインフロアへ案内される。

     体操着に着替えて中へ入ると、すでに何人かの参加者が開始を待っていた。
    「賑わってますね……まるで催眠商法ですね」
     ダイエットに一念発起した女性達を体良く集め、裏で食い物にしてゆく……向日葵には、今にも悪魔のほくそ笑む様が見えるかのようだった。
    「あの辺りにまとまって陣取っておくのが良さそうですことかしら?」
     大祓凶神・乙女(剣の花嫁・d05608)は、戦闘へ移った際になるべく孤立しないようにと、位置取りを仲間に打診してみる。
     ならばと、大沼・弥生(千華万蓉・d00238)と一眞は、インストラクターから一番近くなる位置に場所を取った。
     そうして八人は、不自然にならない程度に位置を調整しつつし、各自戦闘に備えたポジションを確保した。
    「ハイ、みなさんコニチワー! ヨコソ来てくれましっター。ワラシ達がー、インストラクタのマイネ」
    「カイネ~」
    「ヒロネです。宜しくお願いしまぁ~す♪」
     三人のインストラクターが短く自己紹介と挨拶を済ませ、いよいよトレーニングが始まる。
    「今日は無料体験ということで、まずはプログレッシヴ・ヨガの基本的なところから挑戦してみましょう――」
     カイネが正面でポーズを実演し、ヒロネが解説をしながらマイネと共に参加者の様子を見て回る。そうして個別にフォローすることで、さりげなく有用そうな人物の『あたり』を付ける魂胆だろうと灼滅者達は推測した。
    「背筋はまっすぐキープしたまま、倒れこむような感覚でゆ~っくり上体をおろしていきましょう~……」
     ヨガの体操自体は、素人目には特に風変わりな点は無いように思えた。
     一見易しそうに見えるポーズでも、普段ほとんど使われない部分の筋肉を使うせいか、早くもひぃふぅ言い出す参加者も居た。
    「普段伸ばさないとこ伸ばすのって結構気持ちいいのな」
     わりと余裕でこなせている千夏。代謝が促進されてきたせいか、彼女の首筋もしっとりと汗ばんできている。
    「なかなか、楽しいですね」
     怪しまれないよう真面目に取り組んでいるうちに、土岐野・有人(ブルームライダー・d05821)はだんだんノッってきたようだ。
    「ヨガも精神集中の鍛錬項目としては悪くないかもしれない」
     姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)も実際にヨガを体験するのは今日が初めてだったが、その効果のほどには一定の評価を下せた様子。
    「チョーイイネ~♪ ミナサン、おジョズです~」
     そうして何パターンかのポーズを実践するうちに、インストラクターが妙な指導をし始める。
    「心に秘めた願い事が成就するようにイメージしましょう……。はい、今度は吐いて~。……呼吸を繰り返すごとに、皆さんの潜在能力がお~おきく花開いていきま~す。……はい、吸って~……吐いて~」
     ヒロネの指導に沿って、皆熱心に呼吸を繰り返す。インストラクターの発する声そのものに催眠効果があるのか、一般参加者達は次第に恍惚を含んだ静寂を醸し、一種独特の雰囲気をつくりあげてゆく。
    「願いがかなう……ってなんでしょうか……ああ、ナンが食べたいです……」
     向日葵はずっとナンのことが頭から離れない様子。といっても、彼女の場合催眠の効果とはあまり関係なさそうだが。
     そうして約二十分ほどの内容を体験した後、瞑想の時間がおとずれた。

    ●引き摺られる心
    「それでは皆さん、目を閉じてください」
     最後は、アーサナによって活性された内なるパワーを瞑想を行うことで定着させる必要があるのだ、とヒロネは説明した。
     そして、日常のどんなに些細で何気ない行動も、根本をたどれば全て自身の欲望から始まっている――故に、顕現する能力の質は己の内にある願望の度合いによって決まるのだ、その情熱を外へ向けて迷い無く発散することが、所願成就の第一歩なのだ、として、瞑想する参加者達に心の中で強く願いを唱えるよう指導する。
    「しだいに背後から何かの気配を感じられるようになっていきます。それが、大宇宙に続くあなたの闇です。未知のパワーを思うがまま操ることの出来る、あなた自身のメッセンジャーです。さあ……受け入れましょう」

    「お 断 り だ!」

     千夏はそう吐き捨てるように言い、立ち上がった。
     三人のインストラクターが千夏を振り返る。と、同時に残り七人の灼滅者達も立ち上がり、ダークネスの手先と対峙した。
    「リリース!」
     有人の声がひときわ高くフロアに響き、手にしたカードが淡い光を発する。次の瞬間、彼は結った長い髪をなびかせながら、白一色に統一されたロッド&タキシード姿に早変わりした。
    「月影奏でし星想曲……其れは悪魔に魅入られし者への手向け」
     解き放たれる杠葉の殲術道具。
     ローブに身を包んだ少女は、泰然かつ冷徹な眼差しを向ける。
     そうして次々と正体を見せる灼滅者達に、三人は一瞬驚きの表情を見せたものの直ぐに冷静さを取り戻し、和やかな笑みを浮かべた。
    「皆さん、集中していただかないと効果は期待できませんよ? さ、瞑想に戻って」
    「ごめんなさい、嘘のヨガに興味はないんです。……というより自分は普通にカレーが食えればそれでいいんで」
     一眞は辛らつな返しで相手の懐柔を撥ね付けると、一足飛びに敵へ肉薄する。
    「願望や欲は生命の業。適度ならば向上心となり繁栄へと誘う。……しかし過度ならば全てを滅ぼす」
     こちらとしては端から敵の甘言に踊らされる気など無い。
     杠葉は無用な時間稼ぎをさせぬよう、自ら先に仕掛けていった。
    「舞うは星の輪舞曲、放つは闇夜の静謐」
    「フ、無駄なことを……」
     杠葉より放たれた漆黒の弾丸はマイネへ向かう。ある程度の予想をしていた敵方も瞬時に戦闘態勢へ。カイネが攻撃に割り込んで弾丸を受け流し、残りの二人も一斉に左右へ展開した。
    「ミナサン、じゃまスルはヨクナイよ? 言うコト聞いてサッサトすわれ!」
     反撃の一撃がマイネから繰り出される。
     呪詛のような短い言葉を発し、杠葉を凝視する。目を合わせた杠葉の周囲にトラウマが出現し、彼女へ執拗な攻撃を仕掛け始めた。
    「乙女の攻撃からは逃れられないですことよ」
     乙女の覆うバベルの鎖が彼女の瞳に集中してゆく。そして放ったマジックミサイルは同じくマイネを標的に選んでいた。
     一方で、ヒロネの攻撃で弥生がパラライズを被る。
    「邪魔だ。どけ」
     だが、弥生は敵が接近したところで相手を片手で掴み、無造作に投げ飛ばす。強かに体を打ちつけたヒロネが小さくうめき声をあげる。
     一眞もご当地キックでマイネを集中攻撃。
     千夏は至近距離でバスタービームをぶっ放した。
    「人の願いにつけ込むとは流石悪魔ってところか。とっととカタしちまわねーとな!」
    「すわれ! 他の客がめーわくスルよ!」
     両手を広げたカイネの頭上に巨大な輪が出現し、クラッシャーを締め付ける。
    「火は噴かないんだな……まあ当たり前か」
     などと冗談を飛ばしながら、符に力を込めマジックミサイルとして放った。中距離からチクチクと撃ってくる松庵の攻撃で、敵は苛立ちを募らせていった。
    「油断するな、来るぞ!」
    「確実に仕留めるうッ!」
     三位一体の動きをみせ、マイネ・カイネ・ヒロネは立て続けに松庵を狙う。
     初撃をゆるした松庵は顎を蹴り上げられ、後方へ仰け反る。背後からはすでにカイネが飛び掛からんとしていた。
    「動くんじゃねぇ!」
     弥生の縛霊手が風を裂いてマイネとヒロネを薙ぎ払った。
     一方の松庵は、不利な体勢から渾身の踵落としを喰らい、床に叩きつけられる。しかし同時に、カイネを狙った一眞の蹴りが彼女のわき腹を抉るようにヒットしていた。
     どどう、と大きな音を立て、床へ倒れ込む。だがそこはヨガで鍛えられた丈夫な肢体で持ち直し、再び灼滅者達と向き合う。
    「流石にしぶといな」
     生半可なダメージでは相手はすぐに回復してしまう。攻撃をなるべく一人に集中させるという事前の作戦は、結果的に正解だったようだ。
     トラウマからの攻撃を受けて、杠葉の顔は苦しそうに歪んだ。乙女からの清めを受けるも、杠葉のトラウマは解除に失敗。
     ならば目には目をとばかりに、杠葉も敵へトラウナックルを叩き込む。
    「具現せしは断罪の夢想曲……続いて紡ぐは終曲、悪魔に魅入られし者としての終焉」
     そして、雲耀剣からの一連の攻撃を駆使して向日葵はとうとうマイネを追い詰める。鋼鉄拳が相手のエンチャントを破壊し、勢いを崩す。
    「たまにはこういうのもどうだい?」
     仲間からの追撃をはさみ、
     向日葵が刀を抜き放つ。
     横一文字に放たれた切っ先が、敵の身体を音も無く通過した。
     止まる刃。
     チリン。――と、柄頭の鈴が淋しげに一鳴りする。
    「マーラ……」
     マイネの腹から血の代わりに噴き出たのは黒い靄。やがて自らを取り巻き、飲み込まれるようにして消え去った。
    「狙い撃つ!」
    「チッ」
     残るは二人。次の狙いは同ポジションのヒロネ。
     有人は白い長柄のロッドから魔法を撃ち出す。光が弾け、風がタキシードの裾を揺らす。
     松庵は叫び声と共に自力で復帰し、鋼糸を構えなおした。
     肩越しに担ぎ上げたバスターライフルを高々と振り上げた千夏は、銃床でヒロネの横面を殴り付けた。
    「甘い!」
     が、ムーンサルトキックの反撃を喰らった千夏も壁に叩き付けられる。
    「くっそ……!」
     一眞は敵の進路に割り込むようにしてクラッシャーのフォローへ回る。
    「休む暇は差し上げませんですことよ」
     乙女の渦巻く風の刃がヒロネを追いかける。息が乱れ始めたヒロネだが、眉を顰めつつ横へ飛び退いてこれをかわした。
    「ねえ、私達の邪魔をして一体何になるっていうの? 今日だけは見逃してあげるから、大人しく帰って。そして二度とここに来ないでくれるとありがたいんだけど……」
    「ごめんなさい、おことわりします。そちらこそ素直にここで倒れてくださいな」
     ヒロネは今一度交渉を持ち掛けてみるが、灼滅者達は今更問うまでもなく、取り引きに応じるつもりなど無い。
    「そう……。じゃあ、仕方ないわね」
     ヒロネが言い終わるのを待たずにカイネが突進してきた。何言かを捲くし立てながら一眞へ密着し、両脚で絡み付いて一眞の全身に爪を立てる。
    「いかん、しっかりしろ」
     松庵はジャッジメントレイで一眞を援護。
     そして、ヒロネの瞳が妖しく光った。
     杠葉はすかさずデッドブラスターを繰り出す。
     ヒロネが弥生と密着し、奇声をあげながら組み付く。
    「ぬっ」
     凄まじい力で押しやられ、弥生はとうとう床に背を付けられた。
    「死ねェ!」
     振り上げられる両腕。しかし、それを松庵の封縛糸が絡め取った。
    「一応、部長としての面子は保っておかねばな」
     その隙に弥生は敵の脚を掴み、地獄投げの返し技を見舞う。
     息を荒げて灼滅者と距離を取るヒロネだが、有人と乙女の神薙刃が追い討ちをかけ、更に体力を奪っていった。
     立ち塞がるカイネ。反撃へ打って出るが、体勢を立て直した弥生と一眞にブロックされ、思うほどの打撃を与えられずに終わった。
    「く……どうして……」
     憤りのなかに、とうとうヒロネは没した。
    「オタスケ~!」
     この期に及んで命乞いにはしるカイネだが、無論、聞き入れられるはずもなく。
    「……知ってます? ナマステって『さようなら』って意味もあるんですよ。では、ナマステ」
     一眞は容赦なく断罪の一撃を振り下ろす。
     巨大な黒い匙のような影業で。
    「マーラ……!」
     カイネも前の二人同様に、自らの内より噴出した闇に取り込まれ、溶かされ、そして霧散した。

    「ヨガのほうがきつかった気がするな……」
     松庵がまたも冗談を飛ばす。
    「疲れました……ヨガというのはこんなにも大変なものなのですね……」
    「皆さん、お怪我はありませんか?」
     幸い、大事に至るほどの深手を負ったメンバーを出さずに済んだ。一般人達も命に別状は無いようだ。
     主催を失ったいま、このヨガスタジオは間もなく街から姿を消すことになるだろう。
     それにしても親玉であるソロモンの悪魔とはどこでどのような繋がりを持っていたのだろうか。
     乙女は周辺に何かの痕跡がないかと調べてみるが、それらしきものは見つからず。
    「ソロモンの悪魔……必ず追い詰めてみせますことですわよ」
     今はその決意だけを胸に、僅かな抵抗を続けるほかは無い。
     

    作者:内山司志雄 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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