獄魔覇獄前哨戦～少女を巡り、その争いは激しく

■リプレイ

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　横須賀市の民家の寝室に、灼滅者は侵入していた。
　乃董・梟（夜天征楽・d10966）は口元に人差し指を当て、静かに、と合図。
　梟の視線の先には、布団の上で横になる男の姿。寝息を立てている。
「寝てる人いたね……東堂さん、お願いできる？　女の子を景品扱いするなんてけしからん戦いは、早く終わらせないとね」
　東堂・八千華（チアフルバニー・d17397）は周辺を見回してから、梟に頷いた。
「周辺にシャドウはいないみたいね。いきましょうか。戦いを早く終わらせるためにも、ここで打てる先手を取らなきゃ、だからね」
　エクスブレインから聞いたデスギガス勢力の情報を基に、八人は『寝ている人を見つけソウルボードに侵入する。そこでシャドウを捜索する』という方針を立てていた。
　安全を確保してから、八千華の力を使い、八人は精神世界に移動する。
　その世界は、辺り一面が草原。
　草の上を、闇色でスライム状の、ぶよぶよした塊が這っていた。塊は縦長で体高は2メートル足らず。高さ一メートル程のところに腕二本が生えている。手の甲に『ダイヤ』のマーク。
「貴様ら……！」
　闇色スライムは驚いた声を出す。
　現世・戒那（紅天狼主三峰・d09099）は赤の瞳で闇色スライムを睨み、薔薇細工の施された銀剣の先を向ける。
「デスギガス勢力のシャドウだね。恨みも何もないけれど、君達の好きにはさせられないね」
　九条・雷（アキレス・d01046）も、
「今回は色々入り乱れすぎて大変だけど……とりあえず殴り倒せばいいっていうことでしょ。例えば、裏でコソコソしてるシャドウとかを。だから、シャドウ――おいでよォ」
　有刺鉄線を巻いた杖を中段に構えた。
　雷らの視線の先で、闇色スライム――デスギガス勢力のシャドウは、生えた腕の筋肉を盛り上げ、
「好きにさせない？　殴り倒す？　戯言を」
　と殺気を放つ。

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　無常・拓馬（信頼と安定の外道・d10401）は殺気に怯えない。
「大物っぽく見に周っていれば安全、そう思ってた？　甘いよ、こっちは友好勢力の使いっ走りにも定評のある、灼滅者だ」
　リングスラッシャーを握り前進。クルセイドスラッシュ！　シャドウ・闇色スライムの不定形の肉体を斬る。
　斬られた闇色スライムは生えた腕で、拓馬の胸を指差した。弾丸が空中に出現。一直線に飛び、拓馬の胸を貫いた。
　比良坂・八津葉（時鶚の霊柩・d02642）は仲間の傷を見、眉をピクリと動かす。が、息を止め精神を集中。光輪を操り、拓馬の傷口を塞ぐ。
「敵の攻撃は鋭いわ。焦らず確実に攻めましょう」
　呼びかける八津葉。
「了解でござるよ。焦らずに、されど――やられる前にやるでござる！！」
　猫乃目・ブレイブ（灼熱ブレイブ・d19380）は高く跳んだ。宙で槍を下方に向ける。氷柱を、敵へ落とし、刺す！
「があっ？！　やるなっ」
　悲鳴を出す闇色スライム。一分後には、腕に影を宿し、拳でブレイブを狙う。その拳を、
「おっと。それは通させない」
　白鐘・睡蓮（フレイムペネトレイター・d01628）が、胸で受けとめた。
　睡蓮は回復を仲間に任せることにしたようだ。燃えるような赤髪をなびかせつつ、腕を振る。斧の刃で敵の表面に深い傷を刻みこむ！
　睡蓮は着地し、地面を踵でトンと叩いた。ライドキャリバー・赫怒への合図。赫怒は合図に応じ、傷の残る闇色スライムへ突進する！

　その後、シャドウ・闇色スライムは地面を素早く這って移動。灼滅者の攻撃の幾つかを、かわす。
「甘いぞ、灼滅者ども」
　勝ち誇る闇色スライムの後方に戒那は忍び寄っていた。戒那は爪を鋭く伸ばす。
「油断大敵だよ」
　戒那は爪で闇色スライムを刺し、抉る。
　梟もこれまで攻撃を避けられていたが、今回も迷わず仕掛けた。
「お触り禁止ってね！」
　梟は跳び、輝く踵を敵へ振り落とす。スターゲイザーの踵落とし！
　敵の動きが一瞬止まった。八千華はその一瞬に敵との距離を詰める。
「一気に行かせてもらうよ！」
　オーラ『Scintillio』をたぎらせながら、握り拳を闇色スライムに叩きつけた！　拳が表面にめり込む音を聞いて、八千華はさらに拳のラッシュを繰り出す！
　闇色スライムは不快そうに唸る。
「おのれえ」
　闇色の塊から弾丸が放たれた。が、雷はしゃがんで回避。
「あはは！　そう怒らないでよォ、せっかくだし楽しまなきゃもったいないじゃん！」
　雷はしゃがみ込んだまま腕を振る。黒死斬。雷は盲槍の穂先で相手の下部を抉った。

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　さらに数分が経過した。
　灼滅者は前もってシャドウとの戦いを予想し、適切な防具を選んでいた。攻守を備えた陣形で、シャドウ・闇色スライムを傷つけていく。
　今も、ブレイブと戒那、八千華が、闇色スライムを三方向から囲んでいた。
　闇色スライムの正面に立つのはブレイブ。
「拙者のこの手が……にござる！　デモノイド・メルティング・ウェポン・セイバー！」
　叫びながら、巨大な刀に変化した腕をシャドウへ叩きつける！
　闇色スライムの左右にいた戒那と八千華も、ほぼ同時に動いた。
　次の瞬間には、戒那の発する黒い気が闇色スライムを包みこむ！　さらに八千華が振るサイキックソードが斬る！
「貴様らああっ」
　闇色スライムは声を荒げる。声色から読み取れるのは痛みと怒り。怒る闇色スライムは弾丸を撃つ。
　拓馬は仲間を狙う弾を、再び己の体で止めた。激痛。が、拓馬は痛みを顔に出さない。ちら、と隣を見る。
　隣には睡蓮。睡蓮は赤の瞳で拓馬を見返し、小さく頷く。
　睡蓮は赫怒に機銃掃射で牽制させつつ、自身は掌をかざす。睡蓮は気を拓馬に送る。拓馬の傷を塞いでいく。
「牽制に回復とは、小細工を」
　不快そうな声。
　拓馬は睡蓮の力で姿勢を立てなおし、腕を大きく振り上げた。神霊剣、霊魂を破壊する一撃を、叩きつける！
　雷は両手を伸ばす。怯んだ闇色スライムのぶよぶよした体を、掴んだ。
「楽しんでるゥ？　もっと楽しくしてあげよっかァ？」
　雷はシャドウを持ち上げ、上方に投げる。追いかけるように雷自身もジャンプ。宙を舞う敵へ、抗雷撃！　拳が闇色スライムにめり込んだ。

　八津葉は状況を観察する。こちらの被害も小さくはない。が、闇色スライムの方が、より消耗している。このままいけば遠からず倒せるだろう。
　が、八津葉は気付く。この場に現れた新たな気配に。
　気配の主は前方にいた。白いドレスを着こんだ女。額にダイヤのマーク。彼女もまたシャドウ。
　女シャドウは足音を立てずに歩く。闇色スライムの隣で止まった。
「灼滅者との戦闘、お疲れ様。これよりは私が前に出ましょう？」
「ならば任せよう」
　闇色スライムは後衛に移動し、女シャドウが前衛に移る。
　女シャドウは梟の顎を掌の硬い部分で殴りつけた。梟は痛みとトラウマに襲われ、歯を食いしばる。
　八津葉は梟を指差した。シールドリングを梟の周囲に展開。梟を回復させる。
「今の一撃から見て……新しく来たのも、闇色スライムと同じくらいの強さみたいね」
「だね。でも――こんなとこで、てこずってらんない！」
　梟は八津葉に応えると、ギターの弦に指を叩きつけた。音波を不定形シャドウへ放つが――その攻撃は女シャドウに受け止められてしまう。
　女シャドウは音に傷つき、頬から血を流しつつ、ニタァと笑った。

●
　新手の女シャドウは前衛で防御を担当。元からいたシャドウ、闇色スライムは、後衛で己を回復し、また支援を行う。
　形勢は逆転した。後衛に回った闇色スライムはなかなか倒れず、一方で、灼滅者の傷が増えていく。
　拓馬も傷まみれ。が、彼の瞳には強い闘志。
「一っ走り付き合えよ。轢き殺すけど」
　地を蹴った。低い姿勢で戦場を駆け抜ける。女シャドウとすれ違いざま、神霊剣！
「これで終わりじゃない。害虫駆除完了までドンドンいくよ！」
　さらに女シャドウの背後に回り――白光を放つ斬撃！
　女の顔から余裕が消えていた。
「……なんて斬撃……要注意ね」「そいつから潰すぞ！」
　拓馬はなお追撃せんとしていたが――彼の胸に二発の弾丸が刺さる
　拓馬は輪を持った手を突き出し――そこで足元をぐらつかせ、倒れる。立ち上がれない。
　しかし、灼滅者は動揺を表に出さない。彼の意を無駄にしまいと、より果敢に攻めていく。
「一人倒れたのに、怯まぬとは……」
　苛立った声を出すシャドウ達の隙を、八千華は見逃さない。
「怯まないよ。キミたち相手には絶対に――！」
　八千華は前進。女シャドウの顔面をScintillioをまとった拳で連打。
　女は一歩後ろにさがるが――すかさず、八千華は剣を地面と水平に振る。
　八千華の剣は直撃した。女シャドウの胴に深い傷を刻む。飛び散る血。
　女は顔を歪める。そして――女シャドウの拳と闇色スラムの弾丸が八千華を襲う。
　八千華は女シャドウをにらみ……そして前のめりに倒れた。
「てこずらせて……っ」
　罵る女シャドウに、ブレイブが真裏毒忌の穂先を向けた。巨大な氷塊をシャドウに投げつける！
　女の上半身が氷で覆われた。上半身をよじり氷を払おうとする女。
　雷は女の足の甲めがけ有刺鉄線を巻いた杖を――振り落とす。黒死斬！
　ブレイブと雷は視線を合わせる。どうする？　と声に出さずに尋ね合う。
　状況は、敵が有利。が、倒れた二人の猛攻と今の攻撃で、敵を怯ませはした。今なら撤退も容易だろう。今撤退するべきか。
　その時、
「お待ちなさい。その灼滅者達を貴方達の手にかけさせは、しませんよ」
　青いスーツの男が現れた。スーツの男は戦場を走り、灼滅者とデスギガス勢力のシャドウ達の間に移動する。
　青スーツの男の目元にハートのマーク。彼もシャドウだ。
　が、デスギガス勢力ではないらしい。青スーツの男は、デスギガス勢力の者たちを睨み、そしてデッドブラスターで女シャドウを狙撃。
　睡蓮と戒那は顔を見合わせる。
「新しく来たシャドウは、私達の味方をしてくれているようだ。なら――」
「――チャンスだね。いこう！」
　言葉を交わし終えると、二人は前進
　睡蓮の斧が空気を切り裂きながら、女に迫る。戒那も手を伸ばした。手から伸びた鋭い爪が、光を反射する。
　睡蓮の斧と戒那の爪は、女の両わき腹を抉った。
　八津葉も前に出る。
　後方の闇色スライムが弾丸を射撃してくるが、八津葉はビームで弾丸を撃ち落とす。八津葉は動きを止めず、女シャドウの腹に螺旋の突きを放った！
　腹にできた傷を押さえる女シャドウ。その体に梟は魔血糸を巻きつかせる。梟が操る赤い糸は女の首や腕を強く締めた。
　女は呻き、怒りの形相で糸を振りほどく。悪態をついた。
「くううっ……灼滅者め！　『コルネリウスの手先』め！」
　闇色スライムが女シャドウに声をかける。
「……退くぞ！」
　シャドウ二体は灼滅者らに背を向け、姿を消した。

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　青スーツの男も、立ち去る気配を見せていた。
「まって……あなたはコルネリウス勢力でしょ？　あなた達の目的は……？」
　八津葉が問うと、男はふわりと笑った。
「獄魔大将自らが、デスギガス勢力との戦いに参加してくれた事を、私達は大きく評価しています。それでは灼滅者の皆さん、ごきげんよう」
　流暢な口調で言うと頭を下げ、どこかへ消えた。
「いってしまったか。できれば、彼らとの繋ぎを作っておきたかったが……とりあえず、デスギガス勢力を撃退し妨害をすることはできたわけだし、今日は引き上げようか」
　睡蓮が皆に向かってそう言った。
　他の何人かが睡蓮に頷く。確かに十分な戦果を得ることはできた。後は他の者たちに任せて立ち去るとしよう、と。
　灼滅者はソウルボードを脱出し、現実の世界へ戻る。傷ついた仲間を担ぎ、忍びこんだ民家を出、外へ。
　外では、風が強く吹いていた。
　ブレイブは遠くを見る目をする。
「皆……大丈夫でござろうか……」
　ブレイブは呟き目を閉じる。ここにいない者の事を案じているのか。あるいは仲間の勝利を祈っているのか。
　やがてブレイブは目を開け、歩きだす。ともにシャドウを撃退した仲間達と共に、学園に帰る路を。

作者：雪神あゆた	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年12月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
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