獄魔覇獄前哨戦～攻防の間

■リプレイ

●１
「アンデッド――！　ここは、カンナビス勢力が占めているのですね」
　リオン・ウォーカー（りすぺくとるねーど・d03541）は、辺りにたむろうアンデッドを塀の陰から見つめた。
　様子を伺っていれば、彼らが３～５人ほどのグループで行動していることがわかる。
「二人組に分かれて正解でしたね。８人全員で行動していたら、簡単に見つけられていたかもしれません」
「ええ。彼らとの、戦闘は避けたいところです。それでも、油断はできませんが、異変に気づけば、同じ班から連絡が取れるようにしてありますし、ラグナロクを発見した時は、皆さんに繋がるチャットも準備してあります」
　巫女装束の龍宮・白姫（白雪の龍葬姫・d26134）は、ゆっくりと語り、携帯電話の状態をリオンにみせた。
　リオンは、自身のスマートフォンを握りしめながら画面を見下ろす。
「連絡用のスマホは手放せないですね」
　離れ離れになっている皆を繋ぐ唯一の手段。
　そして、ラグナロクの安否を知ることのできる唯一の頼り。
「ラグナロクさんを見つけるためにも、パワーポイントとして神社やお寺を中心に探していきましょう。他にも、そうですね、身を潜めるのに適した所や安全そうな所もチェックでしょうか。一応、周辺の面白いスポットを見つけやすくはしてありますが、あまり期待でないと思います」
「私は、神社を中心にと考えています」
「では、一番初めは、近くの神社を目指しながら行きましょう。他の皆さんとはなるべく離れないようにしたいですから、連絡しておきますね。何かあった時や、ラグナロクさんが敵に奪われそうになっていた時に、すぐ駆けつけられるように、１分以内で駆けつけられる距離を保っておきたいですから」
　リオンの言葉に、白姫はコクリ、と、うなずく。
　リオンが仲間と連絡を取っている間、白姫は、密かに奥を伺いながらアンデッドの動きに目を凝らした。
　段々、慌ただしくなっているのは、戦闘を受け持っている灼滅者たちの活躍によるものだろう。
　連絡が終わったというリオンに、白姫は振り向き、
「アンデッドですから、見れば灼滅者ではないとわかると思います。それでも、もし私たちと変わらない、成り変わりがいれば、スレイヤーカードを見せ合えばよろしいと思います」
「わかりました。灼滅者でなければ、スレイヤーカードは持っていませんね。話はつきました。近くの神社へ向かいながら、ラグナロクさんをみつけましょう。もし、アンデッドたちに見つかったとしても、安心してください。いざとなったら、シオリを囮にして私たちが逃げられるようにします」
　リオンの側でビハインドが、ふわり、と移動した。
　白姫は、金色の瞳をあげ、よろしくお願いしますという意味を込めて、丁寧に頭を下げた。
　そんなことにはならないよう、敵から姿を隠して移動しなければならない。
　白姫は、曲がり角に身を潜めると、そっと、様子を伺った。
　アンデッドたちが、道を横切り、完全に敵が見えない時間ができた。
　その隙に、白姫たちは移動を開始する。
　間違っても、クロキバ勢力とシン・ライリー勢力とは戦いたくなかった白姫は、ここがカンナビス勢力でよかったのかもしれないと密かに思った。
「ラグナロクさん、きっと、７勢力に追われて怯えていますよね。早くラグナロクさんに出会って、私たちが害をなす者ではないと伝えてあげたいです」
　リオンは、一人でいるだろうラグナロクを想った。

●２
「うわっ！　ここも戦闘が激しいな！」
「戦闘班が、頑張ってくれているみたいですね。ここは、お互い離れないほうがいいでしょう。万が一のために、この戦場を離れるまで、通話状態にしておきましょう」
　八咫・宗次郎（絢爛舞踏・d14456）は、ハンドフォンを、元気よくうなずく八神・忍（黒の囀り・d21463）と通話状態にした。
　移動を始めてから、さほど時間は経っていないため、ラグナロクを見つけたという連絡が入る心配はないだろう。
　通話状態も短時間だ。
「……ラグナロクを見つけた時、この電話に命運がかかっているのですね。もし、ラグナロクを見つけた時は、学園までの保護を最優先するために多くの方に連絡を回さなくては」
　宗次郎は、頭の中で想定した、その時をシミュレーションする。
「ラグナロクのコを安心させて、必ず守り抜いたる！」
「そのとおりです。彼女を助けてあげたいです」
「しかし、戦闘班は、結構な人数がおるみたいやな。あちこちで戦いや」
　忍は、影から戦いの様子を覗き込んだ。
　戦闘班である灼滅者とアンデッドの戦いが白熱している。
　忍と宗次郎は、移動中に何回かアンデッドが「何か」と戦っているところと出くわしていた。
　しかし、戦闘に巻き込まれることを避けようと、アンデッドを見れば進行方向を変えてきたため、相手を把握していない。
　アンデッドと戦う相手は灼滅者だけだと、２人は信じ切っている。
「おかげで、敵とは遭遇せずにすみそうです。アンデッドたちの目は向こうに向いているようですし」
「そうやな。ここで見つかったら最後や。うちらが戦ってたら、ラグナロクのコを探している時間がなくなってしまうわ。そん時は、最悪、うちの背後に潜む者を囮にして、とにかく逃げの一手を投じたる」
　忍の後ろにぴったりとくっついているビハインドが、先へ進む忍を追った。
「それにしても、あー、あかん！　ぶらり再発見を使うても、面白そうな所しか目に入らん！　せっかくなんやから、穴場っぽい神社仏閣やら史跡を見つけられへんやろか」
　忍は、ラグナロクがいそうな場所を少しでも感知できるようにＥＳＰを使っていた。
　しかし、全く生かされていない現実に愚痴の一つも吐かなければやってられない。
　根性で見つけてやると、目を凝らしている中、アンデッドを追う犬や猫の存在に気づいた。
「あれ？　あのアンデッドと追っているのは動物はなんや？」
「何かありましたか？」
「いや……犬と猫がな……。もしかして、犬猫眷属かなーって」
　忍が指をさしたが、すでに犬や猫の姿はなかった。
　宗次郎は、その場を動かず、動物の存在を探ったが何も通らない。
「おかしいな。あー、でもこんなことで時間をくってたら、みんなとの距離が離れてしまうわ！　ゴメン、見間違いかもしれん！　先、急ごう！」
「……犬猫眷属」
　宗次郎は、クロキバ勢力の存在を頭によぎらせた。

●３
「ここの神社は、バツですね。近くにいる皆さんに、電話しておきましょう。こまめに連絡です」
　西園寺・めりる（お花の道化師・d24319）は、アナログの地図に、捜索した場所にチェック印をつけてから、仲間に連絡をとった。
　印をつけたのは、重複して探す時間の無駄を省くためだ。
「雰囲気的に、ラグナロクは敵を避けて移動していると思っていたんだけどな。どこかに、立ち寄った痕跡でもないか？　道端にはいなかったしな」
　鞍石・世陀（勇猛果敢クライシス・d21902）は、本当にラグナロクの手がかりがないか、念入りに辺りを調べ始めた。
　めりるは、連絡を取りながらも、痕跡探しに集中している世陀に変わって付近を警戒する。
　いつ、アンデッドが現れてもおかしくない。
「こちらも、占いでさくっと、ラグナロクを見つける事が出来ればいいのだがな」
「この辺りとか、人が隠れていそうです」
　次の探す場所も相談し終えためりるが、大きな一枚の段ボール板に目をつけた。
　少女一人なら、隠れられる大きさだ。
「犬猫の類いではないし、こんな場所にはいないとは思うが、念のため……なっ？！　猫の死骸だと？！」
　段ボールをひっくり返した世陀は驚いた。
　傷だらけの猫が二匹、寄り添うようにして横たわっていた。
「待ってください。かろうじて、息が……あっ！　姿が消えて？」
　めりるが手を伸ばす前に、二匹の猫が消えてしまった。
　普通の動物なら消えるはずがない。
「……眷属か？」
「でも、どうして犬猫眷属が殺されるんです？」
　世陀は、震えるめりるから離れて、猫が消えた場所の向こう側へ足を踏み入れると、何かが戦った形跡が残っていた。
「誰が、戦っていたんだ？　もし、ここにラグナロクがいたとしたら、すでにどこかへ移動したかもしれん。――西園寺、辺りを徹底的に探そう！」
「皆さんへ連絡するです！」
「もし、何かあったら、オレのアリアドネの糸を追うよう伝えてくれ！　そして、万が一のために、アンデッドの存在も気をつけるようにもだ！」
　世陀は、囮を担うめりるのもこもこを預かって神社を飛び出した。
　しかし、道は三方向に分かれていた。どちらを選択すればいいのか、世陀は迷う。
「こんな所まで戦場になるんだ。そうなると、ラグナロクは、もっと安全な所へ行くはずだ。しかし、安全なパワースポットってどこだ？　南一帯の神社仏閣の場所は調べてきてあるが、わからん！　……地道に探すしかないな」
「皆さんに連絡しましたです。次は近くのお寺へ行きながらラグナロクの女の子を探そうとのことです」
　仲間と相談しためりるの言葉に、世陀は従った。
　めりるの地図を頼りに、世陀たちはアンデッドの視界をかいくぐり、そして、その周辺にも注意を向けながら次の場所を目指す。
「他の勢力より先に、何としてもラグナロクの女の子見つけないとです……。逃げ惑って疲れているでしょうし、不安でいっぱいかもです。早く安心させてあげたいです」
　めりるは、ぎゅっと、胸の上で拳をつくった。

●４
「ここからパワースポットとして考えられそうな所は、ちょっと離れているなー」
　住矢・慧樹（クロスファイア・d04132）は、寺の境内で地図を広げ、次のパワースポットの候補地を選んでいた。
　ここにもラグナロクがいなかった。
　カンナ・プティブラン（小学生サウンドソルジャー・d24729）は、服と水筒を抱きしめる。
「ラグナロクの少女は、今、どこにいるのかのう。……この空の下で寒がっておらんだろうか。見つけたら、羽織る服と温かい飲み物を渡したいのぅ」
「ラグナロクも、突然ゲームの景品みたいにされちゃって、ホントにかわいそうだよな。獄魔なんちゃらは、よーわからんが、こんなトコから早く解放してあげないとな！」
「ッ必ずや助け出して、彼女に平穏を取り戻して見せようぞ！　――ん？　ホテルスから電話じゃ。見つかったかえ？　こっちはまだじゃ」
　カンナは、南地区を探している別の班から電話を受けた。
　あちらもまだ見つかっておらず、お互いに十分注意して探索を続けようという話だ。
「うむ、また、連絡頼むのじゃ。……ラグナロクの少女は、どこへ行ったのじゃ」
　電話を切ったカンナは、ポツリと最後につぶやいた。
　ここで、何か所目のパワースポットとなっただろうか。
　そろそろ、見つかってもいいはずだ。
「次の行先も決まったから行こうぜ！　戦場の音が近いから気をつけないとな」
　慧樹は、ラグナロクは、どこかには、いるんだからと、カンナを励まして路地を進んだ。
　アンデッドが「何か」と戦っている所に遭遇し、気づかれないように、そっと足音を消して先を進んだ。
　戦う仲間の様子も気になった二人は、ちらり、と、目をアンデッド側に向けると、戦う相手が犬たちで驚いた。
　アンデッドたちに立ち向かう犬眷属が、一匹、二匹と消されていく。
　思わず、渡りきった路地の隅に身を寄せて、戦闘を覗き見た。
「犬たちが、アンデッドに襲い掛かってるけど、なんでだ？」
「カンナビスめ。妾たちの仲間の尊厳を侮辱したことに許せんばかりか、あのような猫眷属にまで……！　できることなら、助けてやりたいが、今はラグナロクの少女を――」
　慧樹とカンナは、断腸の思いで、その場を離れることにした。
　今は、やるべき使命があるのだ。
　そこに、５匹の猫眷属がカンナと慧樹の足元にすりよってきた。
「大変じゃ、こんなところでたむろわれたら、アンデッドに妾たちの存在がばれてしまうぞ」
「ニャンコちゃんたち、こっちだ！」
　猫眷属を抱え上げた慧樹が、茂みへ思い切り飛び込んだ。
　犬眷属を倒したアンデッドたちが、茂みに隠れた二人と猫眷属の前を通り過ぎる。
　誰もいなくなったところで、慧樹は猫眷属を解放した。
「ふー、お前、いったい何なんだ？　敵ではなさそうだけど……そうだ！　にゃーにゃー、アカハガネちゃんドコにいるか知らないかにゃ？」
　慧樹は、猫眷属の目線になって語り掛けたが、答えは首をかしげる動作だけだった。
「もしかして、俺たちに協力しようとしてくれているのか？」
　ニャーという返事。
「それなら、大丈夫だ！　さっきのワンコたちは駄目だったが、俺たちの仲間があいつらを倒してくれるからな。だから、お前たちは帰るんだ」
「安心して、ここを去っていいのじゃ」
　猫眷属たちは、カンナと慧樹の言葉を理解したのか、一呼吸おいてからどこかへ去った。
　また、どこかで戦いの音がする。
「それにしても、こんな激しい戦いの場所でラグナロクはいるのか？　安全な場所を占って隠れたとしたら、南ではなく他の地域にいるってことも――」
「東地区からラグナロク発見の連絡じゃ！！」
　突然のことに、カンナは叫んだ。
　走って間に合う距離ではない。
　それでも、慧樹は、ぶんぶん丸を囮として走り出した。
　カンナも追う。
　２人ずつに分かれていた８人が合流し、アンデッドを避けながらラグナロクのいる場所へ目指した。
　願うことはラグナロクの無事。
　せめぎ合う戦闘班にアンデッドを任せ、８人はひたすら走った。

作者：望月あさと	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年12月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 6
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