獄魔覇獄前哨戦～運命の分岐点

■リプレイ

●横浜市北部
「獄魔覇獄の前哨戦がラグナロク争奪戦か。一部争奪戦に参加しない連中も居るようだが……」
　戦いの音が響くのを聞きながら藤堂・焔弥（赤い狂星・d04979）は戦場と化した街を進む。
「まぁいい。俺の研究の邪魔をするなら容赦なく殺す、それだけだ」
　灼滅者達は横浜市内を北へと駆ける。探索チームから古の畏れが出現したと連絡を受け、現場へと向かっていた。
「不謹慎かもしれんが、おもしろいな」
　ひりひりするような戦場の空気を感じながら、伊庭・蓮太郎（修羅が如く・d05267）は口元に笑みを浮かべる。
「情報に通りならここら辺のはずだが……」
　移動しながら風見・孤影（夜霧に溶けし虚影・d04902）が周囲を見渡す。
「……待て」
　足を止めた千凪・志命（灰に帰す紅焔・d09306）が睨むように道路の先に視線をやる。そこには宙に浮かぶ男の顔をした三つの生首がいた。三つの生首は一つの生き物のように髪が絡み合い、動くたびにシャランシャランと鎖が音を鳴らし。首元から伸びる鎖が地中へと繋がっていた。
　生首は何かを探すように辺りを窺いながら道を南へと進む。
「どうやら敵ダークネスを探しているみたいですね」
　じっと観察していた御影・ユキト（幻想語り・d15528）が、生首の動きからそう推測した。
「あんなのがこれ以上増えてはたまりませんね」
　不気味に浮かぶ生首を見ながら永星・にあ（紫氷・d24441）は剣を引き抜く。
「人が巻き込まれる前に、倒してしまわんと」
　八千草・保（雪待夜灯・d26173）は生首に向かって道路を走る車を手で押さえて止め、そのまま持ち上げ反対方向に反転して置いた。
「ここは通行止めです、向こうから行きなさい」
　にあが威圧すると、おどおどしながら運転手は車を走らせて去った。
「目的は知らんが、ノってやろうじゃないか」
　祭りに参加でもするように、山田・霞（オッサン系マッチョファイター・d25173）は生首の前に出る。
「ダークネスではないが私達も混ぜてもらおう」
　霞が鋼のような大きな拳を正面の生首の鼻っ面に打ち込んだ。
「さぁて、有象無象を食い放題といくか！」
　怯んだところへ蓮太郎も続けて雷を纏わせた拳を叩き込む。衝撃に生首は道路を転がりフェンスにぶつかった。

●古の畏れ
『よくもやったな！』
　浮き上がった生首が、敵意を持って口を開けて迫ってくる。
「ようこそ私の領域へ！　殺人鬼の恐怖、たっぷり味わわせてやる」
　孤影が黒い殺気を霧のように周囲に放つ。殺意に呑まれ、生首の勢いが僅かに弱まった。
「起きろニオブ、狩りの時間だ」
　焔弥が自らの寄生体を目覚めさせると、長柄の斧槍を手にする。横に薙いだ刃が生首の右の顔を深く裂いた。
『ぎゃあああ！』
　痛みに悲鳴を上げ生首は恨めしい目で睨み、汚らしい歯で噛み殺そうと焔弥に迫る。
「ラグナロクにも無関心で、何が目的かは知りませんが、ここで止めます」
　割り込んだにあが剣でその歯を受け止める。そして受け流しつつ口の端を斬りつけた。
「紅焔よ、俺に従え」
　その間に背後をとった志命が左手に持つ槍を後ろにある顔へ突き刺した。捻る力が傷口を拡げて深く穂先を食い込ませる。
『いでぇ～！』
　生首は火を吐き、槍を盾にした志命を吹き飛ばす。
「腕が鳴りますね……蹴散らします」
　ユキトが神秘的な美しい槍を振るい、炎を切り裂いてその口の中に突き入れた。穂先が後頭部から突き出る。
『おのれぇ～』
　他の二つの顔がユキトに向けて炎を吐き出す。
「火遊びはやめておけ」
　その前に立ち塞がる霞が身長よりも大きな武骨で重々しい盾を構えた。炎の熱波が炙るように霞を焼く。だが微塵も動かずに受け止めている間に、蓮太郎が横から踏み込んだ。
「存分に楽しませてもらう！」
　顔に向けて拳の連打を浴びせる。殴られ鼻血を流した顔が横を向くと、代わりに隣の顔を殴りつける。
『この野郎！』
　炎が向きを変えて蓮太郎に襲い掛かる。蓮太郎はオーラを纏った腕で防ぎながら後ろに下がった。
「寒い日には暖房代わりにちょうどええなぁ」
　炎の熱気を感じながら保が法陣を展開し、仲間の傷を癒し力を与える。
「死人の類か、ならばもう一度殺してやろう」
　孤影の足元から影が霧のように立ち上がると、生首を呑み込み無数の刃に変化して全身に食い込む。
『がぁ、なんとかせい！』
　首の一つが炎を吐いて影を突き破り、周囲に炎を撒き散らす。
「首だけで飛び回るとは、どういう原理なのだろうな。なかなか興味深い」
　焔弥は古の畏れをモルモットでも見るような冷徹な視線で観察し、荒々しい闘気を纏って炎を突っ切ると拳で打ち据えた。
『なんなんじゃこいつらは！』
　体勢を整えようと生首が高度を上げる。
「撃ち落とします」
　そこへユキトが雷を放った。閃光が生首を貫き、衝撃に浮力を失って落ちてくる。
「……」
　ふっと息を吐き拳にオーラを纏うと、志命は落下してきた頭に右のアッパーで下から打ち上げ、左のフックで朦朧とさせると、その勢いのまま回転し右後ろ回し蹴りを放って地面に叩き付けた。
『ええいどけぇ！』
『貴様こそどけぇ！』
　３つの頭がもがきながら浮遊を始める。
「まだ敵は他にもいます、早く終わらせましょう」
　狙いを定め、にあが３つの生首の合わさる中心に剣を突き刺した。
『ぬぅぉお！？』
　３つの首がそれぞれに動き、綱引きのように引っ張り合って動きが止まる。
「行くぞ！」
　蓮太郎が巨大な杭を腕に装着し跳躍すると、ジェット噴射の勢いで接近して頭上から杭を撃ち出す。杭は１つの頭を貫いき砕いた。
『おのれ！』
　生首が蓮太郎の足と腕に噛みつく。
「すまんが、次が待っているんでな」
　足に噛み付いている生首に、霞が太い筋肉質な足で踏み潰す。すると顔が砕けて血を噴出し動かなくなった。
『なんと！』
　残った生首が浮遊して距離を取ろうとする。そこへ志命が槍を投げた。槍は狙い違わず生首を貫き撃墜した。シャランと外れた鎖が地面に落ちて消え去る。
「まずは一つ勝ちやねぇ。怪我してる人はこっちきてな、すぐ治療するさかい」
　古の畏れが消え去ったのを確認し、保が仲間の傷を癒してゆく。

●生首
　治療をしていると、シャランシャランと音が聴こえてくる。
「次の獲物が自らやって来たようだな」
　孤影が音の方へ振り向くと、そこには先と同じ生首が道路を這いずって向かってきていた。髪の毛が生き物のように蠢いて足の代わりとなっている。
「なんや、また生首かい……な？」
　近づいてくる生首を見てた保の言葉が勢いを無くす。今度の生首は一つ。女の顔をした生首の古の畏れだ。だが近づくにつれその大きさがはっきりと分かる。
「これはまた……でかいな」
　霞が堂々と前に立つ。メンバーの中で一番身長が高い霞よりも更にその生首は大きかった。
『キィィィ！』
　金切り声を上げて、生首は噛み砕かんと口を開けて迫る。
「自分から向かって来るとは好都合だ」
　回り込んだ志命が横から槍を突き刺す。穂先は頬を貫き穴を開ける。だが生首は怯むことなく霞に噛み付く。
「ぬぅ」
　盾を構えた霞は、大きな歯を受け止めるが、その隙に舌で叩かれて吹き飛ばされる。それを追い生首が迫る。
「今度はさっきよりも大きいのですか……。ですがやる事は変わりません」
　割り込んだにあが剣で生首を押し返そうとする。すると目標を変えてにあに噛み付こうと大きな口を向けてきた。歯を剣で受け流し、舌をオーラを纏った腕で受け止める。衝撃で折れた腕を体内薬物で癒しつつ、剣で舌を斬りつけた。
『ギィア！』
　目を血走らせながら生首がにあをもう一度襲う。
「貴様も迷い出た口か、大人しく死んでおけ」
　孤影が殺気を放ち生首を包み込む。黒い霧に包まれ視界を失ったところへ蓮太郎が拳を叩き込む。
「でかいだけあって殴り甲斐があるな！」
　大きな岩を殴ったような感触に、蓮太郎は続けて拳を打つ。だがその腕には黒い髪がびっしりと巻きついていた。髪は蓮太郎を引っ張り上げ地面に叩き下ろした。
「また生首か、今度の奴は空は飛ばんのか？」
　焔弥はデモノイドを侵食させた禍々しい縛霊手の鉤爪で髪を斬り裂く。髪が解け蓮太郎の体が振り回されていた勢いのまま地面を転がった。
「生首ばっかりやね、他におらんのかいな」
　保が高らかに美しい声で讃美歌を歌うと、蓮太郎の体が治癒されていく。
『死ィィイネェ！』
　生首は焔弥を狙って鞭のように髪をしならせて振るう。焔弥は素早く避けるが、触手のように動く髪はその後を追い足に絡みついた。
「大きくても、強さはさほど違いがなさそうですね」
　ユキトが槍を薙いでその髪を斬り払い、生首へと踏み込むと眉間へと槍を突き刺す。めり込む穂先は分厚い骨に阻まれて止まった。
『アアアア！　死ネ死ネ！』
　髪を振り乱しユキトを捕らえようとするが、ユキトは身を捻り間合いを取った。
「先程の奴よりは力は強そうだが、能力は髪だけか？　なら調べる必要もなさそうだな」
　焔弥はフェンスを蹴って跳躍し、振りかぶった斧槍を脳天に叩き込んだ。ざっくりと刃が刺さる。
『イダアァァイイッ！　イダイイダイィ！』
　髪の毛が焔弥を捕らえようと迫ってくると、焔弥は頭を蹴ってその反動で斧槍を抜いて跳び退いた。
「なら痛みを止めてやる……貴様の死でな」
　意識が逸れている内に孤影が短刀を投げる。飛翔した刃は生首の右目に突き刺さった。
『ギャアアアア！』
　視界を奪ったところで孤影は立ち止まり、生首の周囲に結界を張り巡らせた。
『ヨグモ……ヨグモォ！　殺シテヤル！』
　生首は暴れて結界を破ろうと顔をぶち当てる。
「どうした、もう終わりか？」
　そこへ正面から蓮太郎が巨大な杭を撃ち込んだ。眉間に深く突き刺さった杭を生首は振り回す。蓮太郎は武器を手放して着地した。
『殺スコロコロコロシテヤルゥ！』
　暴れまわる生首は結界を打ち破って周囲を薙ぎ払うように長い髪を旋回させた。
「任せろ」
　仲間の前に出た霞が盾で受け止める。髪の毛は暴風のようになんども打ち据えじりじりと霞を後退させる。
「手伝います」
　にあもその横に並んで剣を構えて髪の毛を受け止めた。だが髪の毛は止まらずに２人の体を叩き傷つけていく。
「おいで、清らかな風」
　微笑む保がそう呼びかけると、風が戯れるように周囲に吹き抜ける。すると霞とにあの裂傷が塞がれていった。
「側面が駄目なら、上からです」
　ユキトが電柱を駆け登り跳躍して生首の頭上をとる。手にしたロッドに魔力を込め、頭部に振り下ろした。
『ギィィエエエ！』
　頭部を陥没させ生首は悲鳴を上げる。そして髪の毛の嵐が止まった。その隙を待ち構えていた志命が、死角から一気に間合いを詰める。その勢いのまま蹴りを放ち、こめかみを蹴ると、地上に着地するまでに拳の連打を浴びせた。
「車が来ます！」
　敵の後ろから向かってくる車がユキトの視界に入る。
「このままだと巻き込まれるな、止めてくる！」
　蓮太郎が駆けて車に近づき、威圧して止まれと怒鳴る。すると車は大人しく止まった。
『ギィィ！！』
「大人しくしていろ」
　車の音が気になったのか振り向こうとする生首を、霞が盾で視界を防ぐように接近して注意を引くと、志命も槍を回して斬り込み視界を遮った。
「こっちは危ないさかい、向こうに逃げや」
　保が車を持ち上げて強引に反対を向かせた。
　孤影が影の霧で閉じ込め、にあが動き回って手裏剣を投げ、噛み付こうとする攻撃を焔弥は斧槍で受け流す。そうして時間を稼いでいる間に、車は走り去った。
「次はこっちから行かせてもらおうか」
　一般人を巻き込む心配から解放されると、霞が鈍色のオーラを纏って拳を顔面に叩き込む。生首も反撃に舌を叩き付けるが、霞は一歩も引かずに拳を打ちつける。
「こっちからもいくぞ！」
　続けて蓮太郎が反対側から拳を打ち込む。一撃一撃が重い拳がどんどんと生首の頭を変形させていく。
『キィエエエエエ！』
　滅多打ちにされ、生首は悲鳴をあげながら髪を回そうとする。
「お前に用はない、さっさと死ね」
　そこへ飛び込んだ焔弥が振り下ろす斧槍で髪を根元から切断する。そして炎を纏った蹴りで頭を蹴り残った髪を焼き尽くす。
『死ネェェェ！』
　大きく口を開けて迫る生首に、手裏剣が投げつけられる。それは口の中に刺さり生首を怯ませた。
「大きな口ですが、隙だらけです」
　手裏剣を投げながら接近したにあは、剣を振るって舌に斬り落とした。
「暗闇の中、消えて逝け」
　死角から近づいた孤影が跳んで右目に刺さった短刀を抜く。襲い来る舌を顔を蹴って躱しながら短刀を振るい、風の刃で左目を切り裂いた。
「エアアァッ」
　見境なく頭を打ちつけて暴れる生首に灼滅者達は距離を取る。
「あんまり長いこと道路を使うわけにもいきまへんからなぁ、そろそろ終わりにしましょ」
　保が雷を撃ち込むと、それを感知した生首は保の方向へと向かって来る。
「……終わりだ」
　志命が正面から跳躍する。放たれる飛び蹴りが眉間に突き刺さったままの杭を打ち抜く。杭が押し出され後頭部から突き出る。
『アガァ』
「これで二体目です」
　苦悶の声と共に暴れ回る生首の傷ついた目に、飛びついたユキトが槍を突き刺して捻る。すると足掻いていた生首が動きを止め、消滅した。

●撤退
「では次の獲物を探すか」
　孤影の言葉に頷き、灼滅者達は動き出す。
「他はどんな古の畏れがいるのか、研究の足しになるならいいが」
　焔弥はあまり期待できないなと周囲を見回した。
「待って、何か気配がします」
　にあの警戒を滲ませた言葉に、灼滅者達の動きが止まり。慎重に様子を窺う。
「あっちだ」
　戦いの音を聴き取った志命が指差す方向へ向かうと、そこには先程戦ったのと同じような生首と、それを血祭りに上げるスーツ姿の男の姿があった。
「あれは六六六人衆でしょうか、既にこの辺りにも捜索の範囲を拡げているようですね」
　注意深く観察したユキトが敵の正体を看破する。
「どうやら他にも同じようなダークネスがいるようだな」
　焔弥が業の臭いから何となく他にもダークネスらしき存在を感じる。
「もうこの辺りの古の畏れは倒されたと見るべきか……これ以上の戦闘の続行は無理だな。ここは一度引くか」
　霞が腕を組み考え、六六六人衆との戦いになった時を想定し撤退を決断する。
「まだ戦い足りない気もするが、仕方ないか。これはあくまでも前哨戦だものな。本戦での馬鹿騒ぎを楽しみにしておこう！」
　蓮太郎が快活に頷くと、仲間達も同意して撤退を始める。
「ナミダ姫にいろいろと質問してみたかったんやけど、出会えへんかったんなら仕方あらへんなぁ」
　質問を考えていたのに残念だと保は首を振り、仲間の後に続いた。
　まだまだ戦いは終わってはいない。道行けば遠くから戦闘音があちこちで聴こえる。そんな街中の戦場を灼滅者達は駆けながら、戦況を把握しようと情報を集めるのだった。

作者：天木一	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年12月12日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 4／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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