貴族の嗜み『王様のワイン』

    作者:千咲

    ●王様のワイン
     チリーン♪
    「……旦那さまがお呼びだ。ワインの支度は出来ているか?」
    「勿論ですとも。今夜のワインセレクトは私に任せてくれませんか。自信作なんです!」
    「本当か? お前などに大したワインが選べるとも思えんが……」
    「大丈夫です。私に限らず、多くの人々が欲しがる人気絶賛の逸品ですから」
    「ふっ……まぁ良い。そこまで言うなら何を用意したかは聞くまい。
     だが。分かってるだろうな。もし、旦那さまのお眼鏡に適わぬ時は……」
    「勿論ですとも。その時は命で贖う所存……」
    「分かってる、というのだな……ならば、もう何も言うまい」
     結果は自ずと見えているがな、とでも言いたげな表情を浮かべながら。

     ――軽井沢の別荘地。
     かつてバブル全盛期に建てられた豪華な別荘群のうちの1つ。
     別荘の主人は相当な富豪か何かなのだろうか。近隣の住民たちを使用人として近くのコテージに住ませ、入れ替わり立ち替わり、通いで貴族然とした世話をさせているようだった。
     そんなある日のこと。
     晩餐を終え、小一時間ほど経った頃、いつものように主人の部屋から呼び鈴の音が響いた。
     それは、いわゆる晩酌の合図。ただし嗜む酒はいつでも赤い色のワイン。
     別荘というよりもお屋敷に近い、この邸宅における古参の使用人は、主人の好みを知り尽くしたソムリエ田崎。
     だが、昨今は後進を育成すべく、時々若い使用人たちにワイン選びを任せていた。
     そして今宵の担当は、『ソムリエ』という仕事に憧れ、ワインを学び始めたばかりの青年、水谷。
    (「念のためだ。一応、別の品も用意しておくか……」)
     若者を送り出した後、田崎は無言で地下のワインセラーへと赴くのだった。
     
    「お待たせ致しました……」
    「うむ。今宵は何だ?」
     金髪碧眼の美青年――若き別荘の主、クロード・ミシェルは、ソファに腰掛けて俯き加減で窓の外を眺めたまま、銀のトレイに乗った大きなグラスの中身について尋ねた。
    「はい。本日は今の時期、最も評判の高い逸品をお持ちしました……」
    「ほう……楽しみだな。では、戴こうか」
     クロードはグラスを手に取ると、片手で弄ぶようにして眺め、微かに香りを確かめる。
     すしかしその途端、彼の瞳が曇った。
     それでも、それ以上は何も言わず、静かにグラスを口元に運び、赤い液体をほんの少しだけ舌の上で転がす。
    「評判が高い……確かそう言ったな!? もう一度聞こう。『これ』は……何だ?」
    「これ、ですか?
     この時期大流行の、ボジョレー・ヌヴォーです」
     水谷が答えた瞬間、クロードがグラスを彼の顔に投げつけた。薄いグラスは簡単に割れ、顔面をワインと血の混じった赤に染めた。
    「やはりそうか……つまらぬもので私の舌を汚しおって。愚か者が!
     ボジョレーなどワインとは呼べぬ。ただの商品。嗜好する価値もない……」
     クロードに徹底的に罵詈を浴びせられると、水谷はただただ平伏。
    「ま、誠に申し訳ありません。私が不勉強でした。
     どうかお許しを。次は……この次こそは必ず!」
    「貴様は愚か者の上に痴れ者か?
     次などという台詞、多少なりとも信頼に値するものがあればまだしも、
     何もない有象無象にくれてやる機会などあるものか!!
     それよりは……」
     1歩ずつ彼に近づくクロード。
     ……まだ貴様の血のほうが。
     それきり、水谷の姿を見掛けた者は1人もいなかった……。

    「誠に申し訳ありませんでした。旦那様」
     水谷が消えた日の深夜。改めて田崎がクロードの元に訪れ、深々と頭を垂れた。
    「そのような言葉、もう聞き飽きたわ。それより田崎。お前は何で償う?」
    「本当に申し訳ありませんでした。
     償うに値するかは分かりませんが……
     旦那様、最近はイタリアの品もお気に召したかと存じますが?」
    「ほう……それで?」
    「そこで、これをお持ちしました。バローロ(Barolo)でございます。
     濃厚な味わいが特徴で、別名『王様のワイン』とも呼ばれております」
     そう言うと、主の反応を待つことなくコルクを抜き、大きなグラスに注ぎ入れた。
    「面白い。本当にその名に相応しいものか、この私が品定めしてやろうではないか」
     クロードは、ニヤッと唇の端を持ち上げ、バローロのグラスを受け取った。
     彼らは、ついぞ失われた若者の命など微塵も解することはない。軽井沢の一角で、ひときわ優雅な夜が更けて行った。

    ●灼滅者
    「どうやら、あの別荘のようだな」
     別荘地の一角にある、ひときわ大きな建物。灼滅者たちはそれを見据えつつ、クロード・ミシェルというヴァンパイアの住処であることを確かめ合った。
    「まるで、お屋敷だね」
    「そのお屋敷に暮らす貴族サマは、どうやら相当のワイン好きらしい」
    「じゃ、うまく利用できれば、もしかして容易く近付ける?」
     少しでも良い手があるなら……とギリギリまで模索する面々。
     確かにその手はあるだろう。簡単かどうかはともかく、少なくとも一般の使用人は躱せるかも知れないのだから。しかし、それでも敵はクロード1人ではない。
    「別の意味で敵さんのワイン好きに漬け込んだベテランソムリエの田崎。
     どうやら、こいつはもうブレイズゲートの影響を超えてクロードに心酔してるようだ」
     あくまで推測ではあったが、聞く限り、他の使用人を犠牲にしても何も感じていない……既に改造を施された者のようにも思えた。
     いずれにせよ、こいつは一緒にどうにかしなければならないだろう。
     その意味では、他の使用人への対処さえ間違いなければ正面突破とて不可能ではない。
    「……さぁ、行くか」
     灼滅者たちは、改めて別荘に向けての一歩を踏み出した。


    参加者
    一恋・知恵(命乞いのアッシュ・d25080)
    儀冶府・蘭(ラディカルガーリーマジシャン・d25120)
    水無月・詩乃(大いなる和は子を撫でるが如く・d25132)
    水霧・青羽(差し出す手なら笑顔と希望を・d25156)
    蜷川・霊子(いつも全力投球よ・d27055)
    フィオル・ファミオール(蒼空に響く双曲を奏でる・d27116)
    ディエゴ・コルテス(未だ見果てぬ黄金郷・d28617)
    姫川・クラリッサ(月夜の空を見上げて・d31256)

    ■リプレイ

    ●献上品
    「酒通気取りのヴァンパイアかぁ、ふうん」
     誰に憚ることもなく、この上ない不機嫌な表情を露わにしている一恋・知恵(命乞いのアッシュ・d25080)。
    「人を見下し、喰い物にする存在でありながら、人の生んだ文化であるワインを嗜むなど、
     まったく以て、悪い冗談です」
     同じように水無月・詩乃(大いなる和は子を撫でるが如く・d25132)もまた、本気で憤慨していた。
    「それで、結局、皆はどんなワインを用意したのかしら?」
     奴の別荘に無難に潜入を果たすべく、主にワインを献上する……という名目を設けた彼らは、幾つかその為の用意を済ませており、姫川・クラリッサ(月夜の空を見上げて・d31256)の問いは、その確認だった。
    「俺は、こいつだ。ちょっと金にものを言わせてはみたが……な」
     ディエゴ・コルテス(未だ見果てぬ黄金郷・d28617)がバッグから取り出したのは、ドメーヌ・ルロワのシャンベルタン。年を経るごとに価格が上がっていく、希少中の希少モノ。
     続いてワインのラベルを覗かせたのは、水霧・青羽(差し出す手なら笑顔と希望を・d25156)。
    「ヤツはイタリアワインがお気に入りって話だからな。
     王様のバローロに対抗して、バルバレスコを買って来てみた」
     バローロとは同じ品種の葡萄から作られるコレは、知名度こそ少々劣るが、本場イタリアでは人気を二分する逸品で、しばしば女王様と冠されることもある位だった。
    「私も持ってきましたよ。
     まぁ親のところに置いてあったのを黙って拝借してきちゃったんですけど……」
     と、儀冶府・蘭(ラディカルガーリーマジシャン・d25120)が出してみせたのはロマネ・コンティ。飲まれることよりも語られることの方が多いと言われるこれのヴィンテージは1963年。市場価格で100万円は下らない高級品だった。
     そんな並みいる高級品たちを前に、物怖じすることなくワイン以外のものを出して見せたのは、蜷川・霊子(いつも全力投球よ・d27055)。
    「ワインのことなんてさっぱりわかんないのよね。
     だけど、要するにお酒なんでしょう? だったらやっぱり日本酒よ!
     このフルーティーな風味と日本酒独自の深みある辛口な旨み……」
    「えっ、まさか……!?」
     素直に驚くフィオル・ファミオール(蒼空に響く双曲を奏でる・d27116)の反応に、
    「み、未成年だから飲んだことなんて無いけどね!」
     と慌てて付け加える霊子。そんな彼女が用意したのは、京都の銘酒『古都』の大吟醸。
    「この日本で、ダークネスがワインを飲んで悦に浸るなんて許さないんだから!」
    「そうよね。まぁ、それが日本酒だとしても同じだけどね……」
     とりあえず苦笑しながらツッコミを入れる知恵。そして、表情を改めると、
    「皆、静かに行くよー……?」と合図。
     それを受け、8人がいよいよ潜入。
     しかし、いくら広いとは言っても所詮は別荘。すぐに屋敷の使用人に見咎められてしまう。
     そこで、まずはクラリッサと蘭のラブフェロモン。
    「田崎さんという方にお会いしたいのですが……」
     美女2人に惹かれぬ男がいる訳がない。一瞬で彼の関心を掴んだお陰で怪しまれずに済む。
     そこへすかさず詩乃と青羽のプラチナチケット。
    「実は素晴らしいワインが入りまして……。
     クロード様に献上する為、まず田崎様に見極めて頂きたいと思いまして……」
    「そうなんです。とても良いワインなのですが、それでも自信がありません。
     そこで、まずは田崎様に判断を仰ぎたいのですが」
    「あぁ、業者の方でしたか。聞いてまいりますので少々お待ちください」
     すっかり彼女らの言葉を信じ込んでしまった使用人は、既に屋敷の中に居るという状況の異常さには頭が回っていないようだった。
    「大丈夫……かな?」
     ラブフェロモンの使い方と効果が今一つ信用できないクラリッサが心配げに首を傾げた。
    「恐らくワイン全般について田崎が管轄しているのだろう。
     であれば、一度失敗している以上、こうして呼び出せば絶対に確認しようとするさ」
     青羽はそう断言して、まったく以て落ち着いた様子。
     すると、それから程なくして戻った使用人は、確かにその通りで、8人を田崎の元に案内するという。
    「田崎さまは今、地下のセラーでテイスティング中ですので、そちらへ……」
     絶大な信を得ているが故か、田崎はかなり自由に振る舞っている模様。
    (「他の使用人にまで『さま』付けで呼ばせてるなんてね……」)
     なんて図々しい……。フィオルは思わず心の中で吐き捨てるのだった。

    ●風上にも置けぬ者
    「失礼します」
     !!
    「コホン! き、君たちかね……旦那様にワインを献上したいと言うのは???」
     8人もの来訪者を見て、一瞬怯んだようではあったが、咳払いをして我を取り戻すと、改めて尋ねた。
    「最近はクロード様に取り入ろうと言うのか、くだらぬワインを持ち込む輩が多い。
     ゆえに、生憎だがこの私が責任者として吟味させてもらうことにしたんだ。
     つまらぬものだったらお引き取り願うので、そのつもりでいたまえ。
     では、早速どれほどのものを持ってきたのか、見せて貰おうか……」
     信を置かれていると言っても、所詮は使用人……であるにも関わらず、田崎の様子は相当な横柄さだった。
     それでも黙って持参したワインを並べる灼滅者たち。
     すると、みるみる田崎の眼の色が変わってきた。
    「こ、これらをすべて献上するというのかね? ま、この日本酒は論外だが……」
     すぐさま抗議しようとする霊子を制し、詩乃がしとやかな口調で応えた。
    「勿論でございます。
     わたくしどもは、違いのお分かりになる方に召し上がって頂ければ、それで幸せなのです」
    「ほぅ……まだ子どものように見えるが、しっかりしておる。
     旦那様は最近イタリアの品がお気に入りでな。そのバルバレスコはすぐにもお出ししてみよう。
     だが、あとの2つはもう少し寝かせて、良いときに私が責任を持って抜栓しようではないか」
    「良い時に……ですか? そんなことを言いつつ、ご自分で飲んでしまわれるのでは?」
     ソムリエ然とした青羽が、慇懃な口調を演じつつ田崎にツッコミ。
     実際、これだけのワインになると、二流のソムリエでは手が出ない。一流あるいは超一流でも舌に記憶を留める程度だろう。
     それが裏から入手できたとなれば、自分だけで味わおうとしても不思議はない。
    「な、何を言うか……失礼な!
     邪推を口にするような輩をクロード様の前にはお出しできん。
     さっさとお引き取り願おうか! そのワインは置いたままで……な」
    「なんだ、やっぱり飲む気なんじゃないですか!
     あなたに飲ませるために、ロマネ・コンティを持ってきた訳じゃないんですけど?」
     すごい剣幕の田崎に向かって、蘭がさらに挑発を重ねた。
    「この餓鬼ども! あんまり大人を舐めるような真似はやめておけよ!!」
     田崎の様子が一変。どうやら許容できる限界を超えたらしい。目いっぱいの怒気を孕んで凄んでみせるが、ディエゴは微塵も驚かない。
    「ほぅ……そいつが本性かい。
     ま、テメェがヴァンパイアのドコに惹かれたのは分かんねェけどよ。
     ま、盲信するだけなら猿にでもできるな」
    「なっ!?」
     ヴァンパイア、という単語に驚きを隠せぬ田崎。なぜ主人の素性が……と。
     だが、一連のやり取りに腰を抜かしたのは、灼滅者をここまで案内してきた使用人。這うようにジリジリと退がると、助けを求め……。
    「待ちなさい!」
     すかさず霊子が一喝!
     その背から王者の風が吹き抜け、使用人を黙らせた。
    「……少しだけ目を瞑っておとなしくしてなさい」
     ただの人間に、抵抗できる気力が有るはずもない。無力化し終え、再び田崎に対峙。
    「なるほど……献上するどころかクロード様を狙う輩か。愚かな」
     田崎がベストのポケットからソムリエナイフを構えた。実はこのソムリエナイフ、刃物としても一流で、高級なものなら解体ナイフなど及びもつかない切れ味を誇る。
     しかし、そんな様子にもまったく臆することなく、SCを開放する灼滅者たち。
     そして部長の知恵が皆の一歩前に出る。
    「ね……自分の技能が活かせるのは、楽しい? でもね、貴方は間違えてる。
     仕える相手も、そして道具の使い方も!」
     無造作なアクションから、螺旋の槍が田崎を穿つ。
     続く青羽が祭礼剣・ネプトゥナリアによる蛇咬斬。刃が巻き付き、田崎を制した。
     しかし、それを引き剥がした田崎が手にしたナイフで斬りつける。
    「そうはさせないからね!」
     フィオルが間に割って入るように飛び蹴りをかます。その流星の煌めきは凄まじい重さで田崎の動きを制してのけた。無論、ディフェンスは一緒にいる霊犬シーザーにお任せ。
     倒れたものの、まだ立ち上がろうとする田崎に対し、クラリッサが、
    「いけない子ね。メッ! しちゃうわよ?」
     相棒のスコアに仲間の回復を委ねつつ、自身は契約の指輪を嵌めた指先で銃の形を構える。
    「バキュン!」
     衝撃を伴う魔法弾が田崎の額を貫き、瞬く間に灼滅を完了したのだった……。

    ●チェックメイト
     改めて使用人を抱き起こしクロードの部屋を聞き出すと、別荘から逃げるように促す。
    「余計な騒ぎは、起こさないでね?」と、蘭が念を押しながら。
     懸命に頷く彼が去っていくのを見送り、さっそく屋敷の主、ヴァンパイアのクロードの元へ。
     居室のドアを、いきなりバンッと開け放ち、
    「ミスター、一曲いかがですか?」
     と、おどけた様子で尋ねるフィオル。
     ヴァンパイアは、部屋の奥のソファに腰掛けたまま一瞥もくれず、
    「呼んでおらぬ。下がっておれ」
    「まぁ、そう言わず……実は、田崎さんが今しがた亡くなったので、お知らせに」
    「何っ!」
     嘲弄気味な態度を込めて告げる青羽のそれに、クロードもさすがに反応。
    「なので代わりに……」
     言いかけて止める。
    「代わりに、何だ?」
    「王様のバローロに並ぶワイン――女王と称されるバルバレスコを持ってきた次第」
     イラついたようなクロードの問いに、敢えて大仰に応えてみせた。
    「なるほど……ならば許そう。では、さっそく貰おうか!?」
     クロードは、その流れで大体の事情を察する。ダークネスにとってみれば、田崎如きどうなろうが構わないのだから。
    「りょ~かい、と!!」
     言いながらボトルを壁に叩き付けて割ってのける。
     ボタボタとこぼれる濃厚な赤が、高級そうな絨毯を色濃く染めてゆく。
    「お前さんなんぞに飲ませてやる気はないけどな!」
     その瞬間、クロードの表情に激しい怒りが滲んだ。しかし詩乃は、それでも敢えて挑発を重ねる。
    「たかが貴族の身で『王様のワイン』だなんて、滑稽ですね。
     まして『女王様』まで欲しがるだなんて……。
     爵位級にも遥か及ばぬというのに、王位でも気取るおつもりですか?」
    「おのれっ、大して生きられもせぬ人の身で、この我に盾付くか!
     面白い。貴様らをその存在ごと消し去ってくれよう!」
    「できるものなら、どうぞ!」
     大仰に語ってのけるクロードの顔に、蘭がマジックミサイルを叩きこむ。
     のけぞった所に滑り込み、下から激しい蹴りを放つ霊子。
     そしてクラリッサの閃光百烈拳。オーラの込められた拳がクロードを打ち抜いた。
     しかしこの接近はリスクも大きかった。
     クロードの指先が死の呪いを描く。闇の刻印が霊子とクラリッサをかつてない激痛に苛んだ。
    「怒るのはいいが、テメェ本当にワインの味分かってんのか?
     単に偉そうにしてェだけだったりしてな……」
     言いながら、躯の中心に向かって螺旋の槍を突くディエゴ。
    「どんどんやって! 私が皆の追い風になるよ!」
     フィオルは仲間をサポートするように、清めの風を呼び、回復。吹き抜ける一陣の大気が痛みを和らげてゆく。
     そして青羽のマジックミサイル。再び魔法弾がクロードを撃ち抜いた。
     しかしクロードは、今度は怯むことなく逆に再び手近に来たディエゴを狙う。
    「ワインの味は血の味に似ている……貴様のそれも確かめてやろう!」
     首筋に喰らいつくクロード。嘲弄しようが何だろうが、彼がヴァンパイアであり、それ相応の力を持つ相手であることは否めない。
     一次、数の暴力で一気に片を付けられるのでは……などと虫の良いことが頭をよぎったりもしたが、実際そうは甘くなかった。
     激しい攻防。クロードが無尽蔵の魔力を見せつける。しかし、灼滅者たちは諦めることなく懸命に攻撃。
     やがて、知恵の繰る鋼糸が上手くはまってクロードの喉元を切り裂いた。
    「泥水でも啜ってれば未だ可愛げもあるのに、
     よくもまあ人間気取りでワインなんかに酔っちゃって……分を弁えなよダークネス。
     道楽に酔うのは千年早い!」
     切り裂かれた喉からヒューヒューと空気が漏れ、声にならないクロード。何かを言いたげな様子だが、気に掛けてやる義理はない。
     そして、詩乃のレーヴァティン。炎を纏った騎乗槍がヴァンパイアの心の臓を貫いた。
     そのまま真後ろに倒れるヴァンパイア。柔らかな絨毯が彼の躯をふわっと受け止める……。
    「チェックメイト。キングは頂きましたよ、王様気取りのお貴族様?」
     もう終焉ね……と、バッグから持参したワインを取り出し抜栓する知恵。
    「これが君の末期のワインだよ、どう、美味しい?」
     見下ろし、顔の上からぶっかける。
     結局、消えゆく前に口にできたのは、散々貶していたボジョレー・ヌヴォーという顛末。
    「あーあ、ボジョレーとは言え、ヴァンパイアにくれてやるなんて、もったいねぇ」
     嘲笑気味に付け足す青羽。自身は高いワインを叩き割っておきながら……。

    ●ワインセラー
    「終わったね。さ、さっさと退散しよっ。
     ワインセラーで、戴くものを戴いて……ね」
    「え、部長欲しいの?
     せっかく、いい魔法薬の触媒になるかもしれんから貰って……と思ってたのに」
     などと言う意見もあったが封殺し、セラーに戻ってワインを接収する一同。
     何でもクリスマスパーティの費用になるのだとか。薬なんかより優先度は上ならしい。
    「1855年物のワインかあ……凄い高いんだよね、どんな味がするんだろ?
     ちょっとぐらいなら、いいかな?」
    「あ、こら、知恵さん! 開けたらダメになっちゃうでしょ!
     だいたい、部費の足しにしようって言ったの知恵さんじゃない!!」
     すかさず見咎め、嗜める蘭。
    「やっぱり日本酒はないのね……なってない!」
     霊子ががっかりする中、クラリッサは少しだけ良いものを手に入れていた。
     ワインではないが、リモンチェッロのミニボトル。月の形を模したそれはイタリア・アマルフィ産のレモンリキュール。ほんの少しバニラアイスに掛けて戴く分には未成年でも味わえる。
    「ワインか。まァ興味はあるが……将来の楽しみにとっておくか」
     MM出張所の面々は、さっそくクリスマスパーティの準備をすべく、揚々と帰路についたのだった。

    作者:千咲 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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