厨学生日記

    作者:柿茸

    ●とある夢
     その少年は、気が付いたら椅子に縛られていた。
     辺り一面は真っ白な空間。寒風が吹きすさび、所々に巨大な、透明な水晶の塊のような物が突き刺さっている。
     よく見ればそれは氷であり、こんなにも透き通る氷など見たことないと思わせる。そして辺り一面の様子も今まで見たことはない光景であり……有体に言えば、とても現実とは思えないような風景だった。
     そしてその中で、自分が中学時代の学校の椅子に縛られて座らされている。これは一体どういうことだろうか、と辺りを見回していると、いつの間にか目の前にスーツを着た人物がいた。
     ……人物と言うには、頭部をまずダイヤのエースが描かれたトランプ札からちゃんとした人間のソレに挿げ替えねばならないだろうが。
     さて、その人物だが、おもむろに懐から一冊のノートを取り出す。そのノートを見た瞬間、少年の脳内で警報が鳴る。
    「み、見るな!」
     制止の声虚しく広げられるノート。ふむ、とトランプ札の男は言葉を置く。
    「史上最強の男。シュターク・スター」
     言葉が突き刺さる。こう、閉ざしていた古傷を抉るかのごとく。
    「彼のもつ剣はいかなる物体、概念、魔法、時さえも切り裂き、彼に敵う者はいない。すさまじい美貌を持っており女性はウインクされるだけで惚れること必至」
    「や、やめ」
     顔面蒼白にして、椅子を倒さんばかりに前に傾けて制止させようとするが、所詮無駄な足掻きにしかならない。その間にも目の前の、声からして男であろう人物はノートを読みあげていく。
    「何々? コマンド表? 下、右下、右、剣。破閃剣」
     少年の身体が、とうとう椅子ごと地面に突っ伏した。それでも男の朗読は止まらない。
     耳を塞ぎたくても塞げない。心を抉りつくされるしかない少年は、精神的ダメージから来る痙攣を起こしながらそっと思った。
     いっそ殺せ、と。
     
    ●教室
     いつものようにカップ麺を啜っている田中・翔(普通のエクスブレイン・dn0109)。
    「餅ってすぐにお腹空いちゃうよね」
    「いや、本題に入ろうよ」
     そんな翔の前で髑髏と鉱物が浮いている。そしてその下にはスライム状の何か。武藤・雪緒(道化の舞・d24557)だ。用があるから呼んだんだよね? と髑髏を傾げ、生やした触手に持っているタブレットに大きく疑問符を表示する。いや、決してスレイヤーカードがこれだからその姿にしているという訳ではなく、多分普段からこの姿なのだろう、多分。
    「シャドウが視えた。今は多田野・逸司って高校生のソウルボードにいるみたい」
     その逸司って人の住んでる住所はここね、と住所が書かれた紙を差し出す翔。至って普通の家であり、逸司の寝室への侵入は容易にできるだろう。ソウルボードに入るまでに手間をかける必要はない。
    「見せられている悪夢の内容だけど。ええと……簡単に言えば、黒歴史を掘り起こされてる」
    「……それは、所謂、厨二病を、ってこと?」
    「うん。そういえば体現してる人達もこの学園にはいそうだね」
    「さりげなく酷いこと言ってるよね?」
    「事実だし」
    「そうだけど」
     そんな雪緒さん、現在絶賛中学2年生。スライムに髑髏ですが中学2年生。
    「まぁそんなことだから、隠しておきたい過去の過ちを掘り起こされると言う悪夢を毎晩見せられているから、それを阻止してソウルボードから追い出してほしいんだ」
     シャドウの見せる悪夢を邪魔する方法は色々とある。この場合であれば物理的に阻止しても良いし、逆に黒歴史の内容を格好いいと持ち上げまくってもいいし、逆に俺が厨二病だ! と言わんばかりの言動をしてもありかもしれない。
     何にせよ穴があったら入りたいどころか穴を掘って入りたいという状況を解消すればいいのだ。
    「邪魔されたと感じたら、シャドウは君達灼滅者を狙ってくるようになる」
     配下となるカードを3枚召喚し襲い掛かってくる。
     シャドウ自身の攻撃方法はシャドウハンターのそれに準じる。
     カードは只管に己の身体を回転させながら突進してくる。スパイラルジェイドを思い浮かべていただければ分かりやすいだろう。
    「ちなみにそのシャドウの技なんだけど」
    「うん」
    「察しがついてると思うけど、トラウマは勿論黒歴史を掘り返すような内容が中心になるし、こう、強化技も厨二的な感じが凄くする。風とか吹きすさびそう」
    「やっぱり?」
     まぁ分かってたよ、と言いたげに髑髏の口がぱかりと開いた。
    「それじゃ皆、黒歴史持ってると辛いかもしれないけど、頑張ってきてね」
     などと無責任な事を言う翔。
     その視線が、雪緒のスライム状の身体に移る。
    「……シャーベットゼリー」
    「人の身体を見てそう言うこと言うのやめよう?」
    「ごめん」
     まぁ、皆よろしく。頑張ってきてね、ともう一度頭を下げるのだった


    参加者
    烏丸・織絵(黒曜の棘・d03318)
    一・威司(鉛時雨・d08891)
    上名木・敦真(高校生シャドウハンター・d10188)
    阿久沢・木菟(灰色八門・d12081)
    星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)
    志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)
    武藤・雪緒(道化の舞・d24557)
    物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)

    ■リプレイ

    ●全く、黒い風が身を蝕むようだ
     そんな声が、氷雪のソウルボードで行われている朗読会を遮った。
     逆光の中、烏丸・織絵(黒曜の棘・d03318)が腕組みをしてニヤリと笑っている。
    「邪気に惹かれて来てみれば……、なるほどそういうことか」
     黒曜たる私が、君の治療に来てやったわけだ。
    「え、いやえっとどちら様ですか」
     本物を見ちゃったって顔の逸司。
    「随分と小物な立ち居振る舞いだな。ダイヤのシャドウよ」
     そんな織絵の隣に歩み出てきたのは一・威司(鉛時雨・d08891)と物部・暦生(迷宮ビルの主・d26160)。
    「過去に捉われるな、シュターク・スター……純然たる星の名を冠する者よ」
    「ふぐぅっ」
     悶える逸司。こういうのは本当になってみると、意外と不便なもんなんだがなぁ……と苦笑する暦生。
    「誇りを持て、ノートに記されているお前は、決して恥ずべき姿ではない。寧ろ格好良い」
    「か、格好良い?」
    「恐れるな……その歴史(レジェンド)ッ!!」
     ポーズを決める2人。
    「さて、威司……瞳に封印された力……少々開放してみせようか」
    「ああ……我は影狩り…己の心の陰(かげ)を以って敵の翳(かげ)を討ち果たす者也」
     眼鏡をくいっと押し上げて糸目を少し見開き、金色の目を輝かせる暦生の身体が光に包まれ、左目を押さえた威司の身体が影に包まれる。
    「天文密奏下位術式封印、開放」
     アルティメットモードを発動し。
    「「俺が、俺達が厨二病だ!!」」
     まともな服装が一瞬にして厨二病真っ盛りのそれになった。よし、恥ずい、と心中穏やかじゃない暦生。
    「それにな、少年。俺は大学二年のもう良い歳だが、厨二病拗らせるのも楽しいものだ」
     そしてノリノリな威司。
    「格好いいって思いましたか?」
     気が付けば、隣に上名木・敦真(高校生シャドウハンター・d10188)が立っている。
    「夢の世界はいくらでも広げることができます。そもそも、空想や夢想が世にでているアニメやコミックなどの始まりとも言えるのだから、恥ずべきことじゃないですよ」
     何となく納得したような顔の逸司。
    「シュターク・スターの設定が恥ずかしいなら納得できるまで練りこむのもいいのではないか。空想・夢想は自由なのだから」
    「あ、そこ突くの辛いです」
     と、シャドウが、視界の端に何かを捉えてそちらを向く。
     何故かそこにあった高い所(脚立)の上に立つ学園の制服を纏った星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)と阿久沢・木菟(灰色八門・d12081)。
    「貴殿が過ぎ去った歴史を恥と思うのであれば、それもまた良いでござろう」
     だが、本当に厨二病は恥ずべきものでござろうか?
     綾が背中越しに視線を投げかける。
    「恥ずかしいものでしょうか?」
    「違うでござるね!」
    「その通り! それが真実です!」
    「男の子にはな、何歳になったって、格好いいと思わずにはいられない物語があるんでござるぜ!」
    「もちろん、女の子にもあります!」
     拙者らを見ろ! それを想い出させてやるでござるぜ!
     2人の身体が、己の身に纏っている制服を掴んで脱ぎ捨てると同時に消えた。否、華麗にスタイリッシュモードを発動しながら宙返りを決めて着地する。
    「「我々は闇(ダークネス)を狩る者、人呼んで灼滅者(スレイヤー)!」」
     同時に指をシャドウに突きつける2人。
    「そして、拙者は魂の世界(ソウルボード)に潜みし影(シャドウ)を狩る者、名をミミズク! 影狩りの時間でござる! 臨兵闘者皆陣列前行ッ!!」
    「私は通りすがりの探偵です。さあ、悪夢の時間は終わりました。ここからは、探偵の時間です!」
     噛み合わなさ凄い。
     彼女の名前は星陵院 綾、またの名を完全探偵(パーフェクトディテクティブ)と呼ぶ! というどこからか、いや、脚立の足元にあるコンポから聞こえるナレーションがさらに拍車をかけていく。
    「……そう、我々灼滅者は誇りある厨二病患者よ!」
     貴殿の危機を感じ取った全能計算域(エクスマトリックス)の導きにより魂(ソウル)に侵入(アクセス)させてもらったでござるぜ!
     気を取り直して木菟が決め台詞を言い放ったと同時に後ろから聞こえてくる激しい音。2人が跳んだことで大きく傾いていた脚立が思いっきりコンポに倒れ込んでいた。
    「ああっ! 108ある探偵道具の脚立とコンポが!!」
     逸司がヤバい人に出会ったと言う目で2人と見ている。
     そこに駆けつけてくるさらに2つの人影。いや1つは明らかに人じゃない。
    「ふぅ……や、やっと見つけました」
    「何とか間に合ったみたいだね」
     志穂崎・藍(蒼天の瞳・d22880)と、いつものスライム姿の武藤・雪緒(道化の舞・d24557)だ。
    「あ、キミが逸司クンだね。俺達はこの世界に転生した特異点」
    「と、特異点?」
    「最後の敵を追い転生した仲間と共に異世界の記憶を紡ぐ逸司さんにたどり着きました」
    「転生?」
    「そう。最後の敵を追うため俺は人の姿を棄て、転生した仲間と異世界の記憶を、それを狙うヤツを見付けた」
     ヤツこそが俺達の究極の敵。エターナルエネミー!
     触手をビッと突きつけると、シャドウが、え? と言いたげに自分自身を指さした。藍は、逸司さんの前世と一位、二位を争う程あんなに格好良かった武藤さんがこんな姿になってしまって……、と泣き崩れている。でもちょっと美味しそう、と思ったのは秘密だ。
    「そしてノートに書かれた事はキミの前世の記憶の一部」
    「真実を受け入れ今こそ私と一緒にエターナルエネミーを倒しましょう」
    「いや待ってあなたたち何を言ってるんだと言うかお前人間じゃねえ!?」
    「敵は貴方の常識に囚われた羞恥心をエネルギーにしてるわ!だから恥ずかしがらないで」
    「恥じる事はない、君の書が俺達を導いたんだ!」
    「お、おう?」
     話が超越しすぎて理解できない顔をしている逸司。
    「ククク、私だけで十分だというのにこのお節介どもめ!」
     織絵がマントを翻し、勝手にするがいい、こいつは私の獲物だ! と魔王の二文字がしっくりくる笑みを浮かべたのを傍目に、敦真がポン、と逸司の肩に手を置く。
    「……世の中には、厨二病よりももっと重い病を患った人たちもいるからね。大丈夫だよ」
    「あっはい」
     何にせよ逸司のトラウマは凄く救われました。

    ●私の探偵力は53万です
    「……ですがもちろんフルパワーで貴方と戦う気はありませんからご心配なく」
     ―――綾の扱うバリツはいかなる事件・密室・トリックさえも無視してとりあえず犯人っぽい奴をボコッて自白させる事が出来るのだ!
    「コンポ生きてました!」
     やったね。
    「ということで、そこの怪盗トランプ覚悟してくださいね!」
     そう言いながらウインクする綾。
     ―――更に更に彼女は絶世の美貌を持っており男性はおろかダークネスさえもウインクひとつされるだけでイチコロなのだ!
    「……」
     無言でカードの配下を召喚し突撃させるシャドウ。
     ―――因みにイチコロにならない場合は物理的にコロされるぞ!
    「という訳でコロコロします!」
    「厨二病とかそういうのとはまた違う次元だよね」
     シールドバッシュで殴りかかる綾。敦真が顔を逸らしながらそっとツッコミを入れつつカードの突撃を受けた織絵に防護符を飛ばす。
    「ククク、避けるまでもないとは思ったが褒めてつかわそう!!」
     突撃に端が破れたマントを翻すと、そこから黒い霧が溢れだす。
    「研ぎ澄まされし魂……それを限界まで高めればッ! このように我がオーラとなり溢れだ―――グッ!?」
     口を押えて咳き込む織絵。血糊に味付けに万能探偵道具のケチャップを差し出す綾。
    「くっ、もってくれ私の体……!」
     だが自分のキャラに集中しているので気が付かない。
     傍らでは雪緒が暦生を癒していた。癒し系スライムとなるとマスコット枠ですかね。
     と、藍の目の前にシャドウが躍り出た。
     拳に影を宿し一閃。咄嗟に藍も武器で防ぐが、影がその身を覆い尽くす。
    「志穂崎さん!」
    「だ、大丈夫です!」
     多少苦しげな声を出しつつ、影の中から転がり出てくる藍。と、その目が髑髏の頭がくっついたスライムに向けられるや否や憎悪に染まる。
    「ジェリースライム! 前世ではよくも!」
     ぶっ放されるレガリアスサイクロン。回し蹴りを悲鳴を上げながら転がって避ける雪緒の後ろで、生み出された暴風がカードを薙ぎ払っていく。
    「志穂崎さん! 俺だよ俺!」
    「はっ!? えっと……」
     正気に戻って軽く辺りを見回す藍の身体が、シャドウに向けられる。
    「よくも私の大事な武藤さんに手を出しましたね! 許しません!」
    「手を出そうとしたのは君だよね」
     至極真っ当なツッコミが返ってきました。
     と、強く吹っ飛んだカードに向けてダイダロスベルトが2条突き刺さり空中に固定する。ほう、と威司が感心した声を上げた。
    「俺の技にそっくりだな」
    「これが灼滅忍法、影分身(シャドウコピー)でござるぜ!!」
     親指を立てる木菟。その横を轟音を上げて何かが突き進んでいった。
     弾け散るカード。貫いたのは織絵の【ロンギタスの槍】だった。
    「どうだ、私の槍は痛かろう!」
     歯を剥き出しに邪悪とも取れる笑顔を見せる姿は、まさに魔王。
    「……ふむ、睨んだ通り、やはり耐久力はそこまで高くない、か」
     予言者の瞳にて細目の奥からの鋭い眼光にてその様子を見据えつつ、暦生はクール系厨二を演出していた。

    ●あとのフォローはお任せします!
     それから数分後、残る2枚のカードが弾け飛ぶ中に、そう書かれた雪緒のタブレットも戦闘の余波で宙に舞う。
     それは気にかかる物の取りあえずメディックとしてのフォローをこなしていく雪緒。とりあえず女性怖いと虚ろな目をしてブツブツ呟いている敦真にシールドリングを飛ばした。
     と、シャドウが今度は木菟に向けて影と共に殴りかかった。
    「ニンニン! そんな攻撃華麗にかワバッ!?」
     見事に顔面ストレートが決まったが、顔を押さえながらもすぐさま体勢を立て直す。
    「ふっ、拙者は厨二病設定真っ只中! 今更恥ずべきものなど!」
     何でそんなに偉そうなんだと言いたくなるぐらいに、トラウマなど効かんと言い張ろうとした木菟の脳内に過去の思い出が蘇る。
    「(君が俺の何を知ってるって言うの? ミステリアスで格好いい? 勝手な言い草だね)」
     それは3年前、本当に真っ最中だった時の―――。
    「ゴハァッ!!」
    「ミミズクが血を吐いた!」
    「ミミズクに謝れ!」
     厨二病はカット! カットでお願いします! と口調すらも変わって吐血しながら虚空に向かって懇願する可哀想な木菟さん。心の闇は深い。
    「いい加減、人のトラウマを掘り起こすのは禁止だ」
     トラウマから立ち直った敦真が、一生懸命木菟のメンタルケアを施している間に、暦生が通行止めの標識を大振りに、それでいて先祖が封印した化生の力を宿したという設定の瞳にて正確に狙いを定め叩きつける。
     衝撃によろめいたところに威司が後ろから、これは本音だ、と言いながら大きく踏み込んだ。
    「人の歴史はな、白だろうが黒だろうが、明かされてようが隠されてようが、計り知れぬ重みがあるのだ」
     ……にも拘らず、勝手に引っ張り出した挙句、心を傷つける道具として使うとは……。
    「巫山戯るなッ!」
     全身全霊のバベルインパクトが鳩尾を貫く。
    「ほう、粗削りだが……悪くない」
     しかしまだまだ甘いな! とその一撃を見て言い放つのは未だノリノリの織絵さん。
    「私が手本を見せてやろう!」
     哄笑と共に蛇の如くエネルギーの帯が伸び―――華麗に避けるシャドウの姿があった。
    「あれ?」
    「駄目駄目じゃねえか!」
     すっとぼけた声に素のツッコミが入る。
    「い、いやこれはわざとだ、見ろ!」
     咄嗟に取り繕う織絵。シャドウの後ろに綾が立っていた。
    「自らの攻撃にて攻撃を当てる隙を作る……流石です」
     死角からの腱を断つ一閃。今です! と同時に声を上げ。
    「志穂崎さん!」
    「ええ、生きましょう、雪緒さん!」
     シャドウを影で縛った雪緒に合わせ、藍の全てを打ち砕く拳が吸い込まれ。
    「……だから、シャドウは嫌いなのだ」
     背を向けながら呟く威司の向こう側で、シャドウはその存在を消滅させていった。

    ●ふっ、格好良いものに憧れて何が悪いのですか!
    「私は私が探偵であることをこれまで恥じたことなどありません!」
     ばさりとコートを翻し、逸司に背を向ける綾。
    「膨らみすぎた人の妄想が生んだ恐ろしい事件でした。願わくばこの様な事が2度と起こらないよう願うばかりです……」
     などと虚空に呟きつつ、コンポからそれっぽいBGMが流れる中どこかに歩き去っていく。途中でコンポと脚立を回収するのも忘れない。
    「悪、滅、完、了! でござるぜ! これにて魂の世界編、完ッ!」
     鬱陶しいほどにポーズを決めてさらばでござる! とどこかに走り去っていく木菟。
    「……ようやくエターナルエネミーを倒せたんだね」
    「はい、雪緒さん……私達の役目も、これで終わりです」
     そして何やらしんみりムードの美少女とスライム。その身体が徐々に透けていく。
    「ああ……お迎え、か」
    「……行きましょう。前世の皆さんをもう十分待たせたんですから、これ以上待たせては悪いです」
    「ん、そうだね。……こんな姿でも、分かってくれるかな?」
    「分かってくれますよ」
     それじゃ逸司さん、先に、待ってますね。と2人して寂しそうに微笑んだ次の瞬間、姿が完全に消えた。
    「え、あの、あの2人は」
    「導かれたんだよ……輪廻に」
     まぁソウルボードから出ただけなんですけどね?
     それはそうとして逸司の疑問に答えた威司はずっと左目を押さえていた。
    「……俺も、この左目が何時まで持つか分からん。いずれ俺を滅ぼすこの目が」
    「え、いやそんな設定なんですか?」
     逸司の視線を遮るように割り込んだ暦生が、色んな意味でそっとしておけと言いたげに軽く首を振った。
     行くぞ。ああ。と軽く言葉を交わして去っていく男たち。
     そんな様子を見ていた逸司だが、拘束が解かれていることにふと気が付いた。後ろを向けば、解いたロープを握っている敦真が見下ろしている。
    「さっきも言ったように、空想や夢想は自由なのだから。気負いすぎないで下さいね」
     肩を叩きながら、でもあの人達はちょっとやりすぎではありますけど、と苦笑して踵を返した。
     はぁ……と、呆然としていた逸司の視界にシャボン玉が飛び込んでくる。
     飛んできた方向を見れば、織絵がシャボン用具を仕舞い込む所だった。
    「病にかかることは恥ずべきことではないさ」
     免疫、出来ただろ?
     先程までの魔王のような笑みとは違う、厨二病じゃない優しげな笑み。
    「なんでシャボン玉なんですか?」
    「何となく、かな。というかそこ言う?」
     ちょっと困った笑顔になりつつ、ま、そういうことで、と踵を返して去っていった。

    作者:柿茸 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2015年1月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 4/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 12
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