突如夜の公園に、直径2メートルほどの円の形をした門が浮かび上がる。それはゴゴゴと思い音を立てながら、ゆっくりと開いた。
「ガアアア……」
「フギャア……」
そこから数体のモンスターが現れ、唸り声を響かせた。
「異世界とつながる扉が開き、そこからモンスターが現れるという都市伝説が実体化します。皆さんにはこれの撃破をお願いします」
教室に集まった灼滅者に対し、冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)が説明を始める。いつも通り、傍らには湯気の立つ湯呑があった。
「ファンタジー世界から現れたモンスターが人々を拉致するというものです。放っておくと被害が出ることでしょう」
現れるモンスターは豚のような顔をしたいかつい体躯のものと、小柄な鬼のようなもの。
「ようするに、オークとかゴブリンとか呼ばれるヤツだな」
「はい。数がそれなりにいるので気を付けてください」
天下井・響我(クラックサウンド・dn0142)の発言に、蕗子が淡々と頷く。
オークとゴブリンはそれぞれ4体。オークは力が強く、前衛に立って戦う。ゴブリンは戦場をすばしっこく動き回り、捉えるのが少し困難だ。
「オークは手に持った棍棒を振り回したり、その巨体で格闘をしかけてきます。ゴブリンは石を投げるほか、オークを魔術でサポートすることもあります。意外と連携もできるので注意が必要です」
蕗子は茶を一口含み、説明を締めくくる。
「皆さんなら大丈夫だと思いますが、油断はしないでください。それでは皆さん、よろしくお願いします」
参加者 | |
---|---|
ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839) |
アイティア・ゲファリヒト(見習いシスター・d03354) |
ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802) |
流鏑馬・アカネ(紅蓮の射手・d04328) |
黛・藍花(藍の半身・d04699) |
綺堂・妖(大神狐金色五尾・d15424) |
ルチル・クォーツ(クォーツシリーズ・d28204) |
グラン・スターライト(この男社長でヒーロー・d28548) |
●異界の門開くとき
「夜の公園ってなんか寂しいな……」
エクスブレインの指定した公園に到着し、グラン・スターライト(この男社長でヒーロー・d28548)がぽつりと呟いた。
「これで大丈夫でしょうかね」
まずはヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)が殺界形成を発動。モンスターを迎え撃つ準備を始める。
(「異世界からオークとゴブリンが出現、ですか。では我々は勇者とその仲間といったところでしょうかね?」)
勇者など柄ではないが、ひとまず被害が出ないように都市伝説を倒したい。
(「ゲームなり小説なりがこれだけ普及すれば、こういう都市伝説がでるのは当然でしょうか……」)
続いて黛・藍花(藍の半身・d04699)がサウンドシャッターを使用した。ゲームのよう、とはいえこれはやり直しのきかない実戦。油断はできない。
ジトー……。
ルチル・クォーツ(クォーツシリーズ・d28204)は一緒にやってきた仲間を見つめながら、立ち入り禁止のロープで公園の入り口を封鎖する。かつては病院に所属していたものの、武蔵坂の灼滅者としての戦闘経験は少ない。先輩たちの動きを観察し、参考にしたいところ。
準備が完了した直後、何もない空間に突如光り輝く円が浮かび上がった。円はゴゴゴと重い音を立てながら徐々に左右に開いていく。
「ガアアア……」
「フギャア……」
そして、オークとゴブリンが群れを成して門から現れた。
「やれやれ、せっかくなら妖精でも出てくれればいいのにさ。ま、敵ならこっちの方が思いっきりぶっ飛ばせそうだ!」
流鏑馬・アカネ(紅蓮の射手・d04328)はスレイヤーカードから殲術道具を開放し、ガトリングガンを構えた。ゲーム好きな弟ならノリノリなんだろうなと思いつつ、人々を守る防人として、モンスターを迎え撃つ。
「オークにゴブリン、ファンタジーなどではお馴染みのモンスターですけども、それが都市伝説として現れるとは……」
ゲームの中の存在を実際に目の当たりにし、少し感心した様子のミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)。しかしファンタジー世界から現れたのなら、送り返してやるまでのこと。
「異界からの訪問者のぅ……中々夢のある話じゃが、出てくるものが話の通じぬ下級魔族ではのぅ」
妖怪を自称する綺堂・妖(大神狐金色五尾・d15424)が少し拍子抜けした様子でぼやく。
「さぁ、死にたいモノからかかってくるがよい異界の化生共よ。そっ首全て刎ねて晒してやろうではないか」
剣と槍をその手に携え、不敵に笑んだ。
「ホントにRPGのモンスターそのままだな……って、感心してる場合じゃないな」
間の抜けた顔をしてオークたちを見ていたグランだが、すぐに我に返り、スレイヤーカードを懐から取り出す。
「行くぞ、ジョブチェェェェンジ! ミリオン・ザ・エース!!」
そしてカードを空高く掲げながら名乗りを上げ、ヒーローに変身を遂げた。
●門より出でる者
「ガアアア!」
「フギャアアア!」
獲物を見つけ、叫びを上げるモンスターたち。灼滅者たちは万全の準備で迎撃を開始する。
「門が開いて異世界の魔物がってなんか映画みたいだよね! じゃああれかな、私たちはそれを倒しに行く冒険者! みたいな?」
アイティア・ゲファリヒト(見習いシスター・d03354)はウキウキと楽しそうに笑い、手にしたウロボロスブレイドをぶんぶん振り回して加速をつける。
「ちょろちょろ動いて狙いにくいなら、纏めてぶっ飛ばしちゃえば良いんじゃない?」
そしてゴブリンの群れ目掛けて伸びる刃を振るい、ゴブリンを斬りつけた。全部を巻き込むことはできなかったが、避けきれなかったゴブリンに傷が刻まれる。
「……仲間?」
ルチルは病院でも似たような姿の仲間を見たことがあるらしく、小首を傾げる。それだけ人造灼滅者が、いやダークネスが多様な外見をしているということだろう。このままでは非効率と判断し、敵を狙い撃てる位置まで下がった。
「さて、経験値稼ぎのお時間ですね」
藍花は指輪から魔弾を放ってゴブリンを攻撃。傍らに添うビハインドも霊力で同じ敵に追撃する。氷のような表情には表れていないが、ゲームっぽい敵を相手にするのは灼滅者としての戦いを茶化されているような気がして少し気に障る。
灼滅者たちは、まずは体力の低そうなゴブリンから倒していく作戦。とはいえオークの攻撃力を侮ることはできず、牽制も欠かさない。
「まずはこいつで、ごあいさつだッ!」
銃口をオークに向け、アカネがガトングガンを発射する。無数の発砲音が鳴り響き、弾丸の雨がオークを襲った。
「これがゴブリンとオークですか 思っていたよりもずっと……いえ、なんでもありません」
眼鏡を外したヴァンは口から出ようとした言葉を呑み込み、縛霊手に収納されていた祭壇を解放。結界を展開してオークの動きを鈍らせる。
「女の身とて、このデカブツには引けはとりませんわ!」
オークが振り上げた棍棒を、ミルフィが両腕を交差させて受け止めた。威力は決して小さくないが、まだまだ序の口。この程度では屈しない。
「行くぞ、常儀君」
「はい、先輩!」
支援に来たイサと文具も協力してオークを妨害。イサは氷の魔法で、文具は流星のごとき飛び蹴りでオークを攻撃する。
「魔法に剣と槍とな。節操がないと言ったらそれまでじゃが、まぁやってやれん事はないでの」
妖は剣を霊体に変え、実体のない刀身でゴブリンを貫く。
「竜族や天使・悪魔等であれば心が躍るんじゃが、蛮族では物足りんわい」
ゴブリンの投石を浴びつつ、呆れ顔で言い放った。
「もっかいぶっ飛んじゃえ!」
アイティアはエアシューズを駆動させゴブリンの中に切り込むと、その勢いのまま複数のゴブリンに回し蹴りを見舞う。暴風を生み出す蹴撃がゴブリンを吹き飛ばした。
「……雑魚はもう少し雑魚らしくしていて欲しいですね」
「プシシッ」
足元から影を伸ばし、ゴブリンを呑み込もうとする藍花。けれど素早いゴブリンはそれをギリギリで躱し、笑うように鳴いた。
●巨躯の怪物
「スピードに自身がおありのようですけども、この白兎の俊足も負けてはおりませんわよ……!」
ミルフィはエアシューズから火を噴きながら地を滑り、ゴブリンを追いかける。そしてそのままゴブリンに迫り、炎纏う蹴りを繰り出した。ゴブリンが燃え、灰も残さず消えた。
「彼らには、その役に相応しい扱いをしてあげましょう」
冷淡な藍花の言葉に従い、わずかに苦笑しながらビハインドが接近してゴブリンを攻撃。最後のゴブリンが消滅した。残るはオーク4体だ。
「がるる……」
アカネの霊犬、わっふがるは低く唸りながらオークに向けて射撃し、ゴブリンから受けた加護を剥がす。
「今日もグッドだよ、わっふがる!その調子!」
「わっふ!」
主人から褒められ、わっふがるは嬉しそうに鳴き声を上げた。
「ガアアア!」
「おお!」
オークが力任せに岩のような拳を振るい、グランに叩きつける。しかしグランは光の盾で拳を受け止めた。その力に押され弾き飛ばされそうになるが、歯を食いしばって踏みとどまる。
「俺達も連携して、お前達を倒す! 誰も犠牲は出させない!!」
そして一歩踏み込んで距離を縮め、オークの顔面に光の拳を連打して反撃を見舞った。
「裁きの光、ジャッジメント――レイッ!」
と言いつつ、アイティアはロッドでオークを打った。ロッドの先端から魔力を注ぎ込んで追撃するが、正しくはフォースブレイクである。
「援護します。追撃を」
ヴァンは落ち着き払った様子で仲間達をサポート。鎧ごとオークを槍で貫き、後続の攻撃を通りやすくする。
「やっぱり見たことが……でも演習なら、負けない……」
敵を元病院の仲間と勘違いしたまま、ルチルは炎を帯びた足で容赦なく蹴りを叩き込む。……ルチルはエクスブレインの話をよく聞くところから始めるべきかもしれない。
「妖王たる我に牙を剥こうなど百万年早いわ、たわけ! 少し灸を据えてやろう。覚悟して……死ぬがよい」
先ほどまで退屈そうにしていたのはどこへやら、妖は嬉々とした表情でマジックミサイルをぶっ放す。せっかく楽しんでいるところなのだから、妖王とは何者なのかとかツッコむのは野暮だろう。
「俺もいるぜ!」
響我がギターの弦を弾き、快活なメロディを奏でてダメージを負ったグランを癒した。
攻める灼滅者と、戦線を崩され追い込まれるオークたち。決着は近い。
●閉門
オーク2体を撃破し、灼滅者たちの猛攻は続く。
「アメリカ仕込みのビームだぜ!」
グランが勢いよく腕を振り抜くと、拳からガイアパワーが迸り、光となってオークを焼く。
「さてオーク様にゴブリン、わたくし達の経験値にでもなって頂きましょうかしら!」
ミルフィは時計のついたバベルブレイカーのジェットを起動させ、オークに肉迫。零距離から杭を突き立て、オークの分厚い肉体を貫いた。
「うおおお!」
反動で照準がずれないようしっかりと支え、アカネがガトリングガンを撃ちまくる。銃弾の嵐がオークの体に吸い込まれ、わっふがるも斬魔刀で追い打ちをかけた。
「やったね! 土産話と一緒に、あたしの活躍も自慢できそうだ!」
「わっふ!」
そしてオークが崩れ落ち、アカネが小さくガッツポーズを作った。
「ええい!」
アイティアは自分の腕を鬼のそれに変じさせ、鬼へと叩きつける。オークも力で迎え撃とうと拳をぶつけるが、力負けして吹っ飛ばされた。
「ルチル、強い」
水晶を纏った腕に縛霊手を重ね、ルチルがオークを殴りつけた。同時に網状に編んだ霊力を浴びせ、オークの体が傾く。
「これで終わりです」
「ガアアア!」
そしてヴァンはその隙を見逃さず、槍で一閃。オークはあっけなく倒れ、門とともに消滅した。
「お疲れ様でした。怪我の具合は如何ですか?」
「ふん、あの程度の輩に後れを取る我ではないわ」
終始冷静な態度を崩さなかったヴァンが声をかけると、妖が余裕たっぷりに答えた。実際、多少ダメージを受けた者はいるものの、深手を負った者はいない。
「……死体も残らず消えるのが、余計にゲームっぽいですね」
ゴブリンやオークが消えた跡を眺めつつ、藍花が呟いた。死体が残っても処理が面倒なだけなので、ありがたいと言えばありがたいのだが。
「面妖、忍術。新しい力?」
ルチルも同じ場所を眺めつつ、せっせとロープを回収する。結局ルチルの誤解が解けることはなく、人造灼滅者を相手にしたと思ったままだった。とはいえ、灼滅されたダークネスも死体を残さず消えることが多い。
「異界の門、まさか本当にどこかの異世界と繋がっていたのですかしら?」
「だったらいいのになー。私、行ってみたい!」
門が現れた場所にミルフィが立ち、首をひねった。アイティアはその周りを忙しなく動き回り、屈託なく笑う。
「消えちゃいましたね」
「そうだな」
門に興味津々だった文具は少し落胆した表情を浮かべ、イサが頷いた。
「では、帰りましょうか」
もう夜も遅い。ヴァンの一言にそれぞれ賛同し、夜の公園を後にした。
作者:邦見健吾 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年12月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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