●ブラックフライデーは任せたけれど
国内の遠い場所へ赴く、あるいは国外へと向かう人々でごった返している国際空港。目元に疲れを滲ませているアメリカ人男性が、ベンチに腰掛けていた。
静かな息を吐きながら眺めるのは、携帯端末に入っている写真。
アメリカで待つ、家族の写真。
もう、日本での出張も終わり。少しだけ長引きブラックフライデーは任せる事になってしまったけれど、その分、クリスマスや年末年始は家族と一緒に過ごしたい。
一緒にいられなかった時間だけ、濃密な時間を過ごしたい。
「ふぁ……」
気が抜けたのだろう、疲れが一気に襲ってきた。
飛行機にさえ乗れば休めるというのに、まぶたも重くなってくる。
少し眠るか、はたまた我慢して起きてるか。男性は、家族写真を眺めながら考えて……。
●夕暮れ時の教室にて
灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、静かな微笑みを湛えたまま口を開いた。
「シャドウの一部が日本から脱出しようとしているみたいなんです」
元々、日本国外はサイキックアブソーバーの影響で、ダークネスは活動する事ができない。しかし、シャドウは日本から帰国する外国人のソウルボードに入り込み、国外に出ようとしているのだ。
「シャドウの目的はわかりませんし、この方法で国外に移動できるかどうかも未知数です。ですが、最悪の場合は日本から離れたことでシャドウがソウルボードからはじき出され、国際線の飛行機の中で実体化してしまう……となるかもしれません」
その場合、飛行機が墜落して乗客全滅、という大惨事になりかねない。故に、国外に渡ろうとするシャドウを撃退する必要がある。
続いて一枚の写真を差し出し、白人男性を示しながら続けていく。
「今回シャドウが潜んでいるソウルボードは、このアメリカ人男性のソウルボード。日本出張が終わりアメリカに帰るところだったみたいですね」
ソウルボード内の風景は、クリスマスカラーに染まった街。
事件は特に起きておらず、ソウルボード内に灼滅者が入ることで、シャドウはクリスマスツリーの前に出現する。
そこを討つ、と言う流れとなる。
「ソウルボードに入るには、まずはこのアメリカ人男性に眠ってもらう必要がありますね」
居場所は、空港の入り口近くにあるベンチ。
このアメリカ人男性は出張の疲れからか眠気が取れず、少し仮眠を取ろうか迷っている状態。上手く誘導すれば、眠ってもらうことができるだろう。
後は中にソウルアクセスを行い、突入するだけ。
迎撃に現れるシャドウの力量は、八人を相手取れる程度。妨害能力に秀でており、広範囲に幾つも降り注ぐ流星群、広範囲を凍てつかせるホワイトスノウ、広範囲を氷に閉ざし動きを封ずるホワイトアウト、の三種の技を用いてくる。
また、この行動にこだわっているわけではないのか、劣勢になれば逃げるという性質も持つ。その辺りも留意して戦う必要があるだろう。
「以上で説明を終了します」
地図などを手渡し、締めくくりへと移行した。
「これからの季節、クリスマスに年末年始と家族で過ごすべき時間が増えるはず。アメリカ人男性もきっと、その予定なのだと思います。ですので、それを邪魔するシャドウは許せません。どうか、全力での行動を。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」
参加者 | |
---|---|
伊丹・弥生(ワイルドカード・d00710) |
夜舞・リノ(星空に煌めく魔法使い・d00835) |
各務・樹(バーゼリア・d02313) |
暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349) |
獅子鳳・天摩(謎のゴーグルさん・d25098) |
ルクルド・カラーサ(生意気オージー・d26139) |
日輪・義和(汝は人狼なりや・d27914) |
志水・小鳥(静炎紀行・d29532) |
●眠気の原因、闇色の影
出張、旅行、帰省……様々な理由で国内の遠い場所、あるいは国外を目指す人々でごった返している国際空港。
各務・樹(バーゼリア・d02313)は伊丹・弥生(ワイルドカード・d00710)と共に入口近くのベンチを探し、話に聞いているアメリカ人男性を発見した。
互いに頷き合い、別行動を行う仲間たちに連絡をとった上で、まずは樹が接触を図っていく。
「もう、あなたも疲れてるんだったらそういえばいいのに」
「?」
知り合いと間違えたふりをして英語で声をかければ、男性が小首を傾げて振り向いてきた。
慌てて人違いだったと言い繕う樹の下に、弥生が駆け寄ってくる。
「すまない、待ち合わせ場所を伝え間違えていたみたいで……もう一人も、別の場所に……どうした、樹?」
樹は手早く弥生に説明し、改めて男性へと向き直った。
男性は構わないよと笑いながら、空港全体へと視線を向けて行く。
「しかし、やはり空港は広いね。来た時も迷ってしまいそうだったよ」
「本当ですか?」
「ああ、本当さ。例えば……ふぁ……」
思わずこぼれ出てきた欠伸を、樹は見逃さない。
失礼、との言葉を受けながら、微笑み口を開いていく。
「わたしも疲れてて、連れにちょっと眠れそうな場所を探してきてもらってたの。……あ、来た来た」
視線を向ければ、別行動を取っていた仲間たち。待ち合わせ場所を間違えた男友達もいると伝えた上で、提案した。
「よければご一緒にどう?」
女の子からの提案……と言う部分が引っかかったのか最初は難色を示していたものの、眠気には勝てなかったらしい。
灼滅者たちに促されるまま、男性は空港内のリフレッシュルームへとやって来た。
ベッドに寝転んでいく男性を見つめながら、暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)は一人思い抱く。
アメリカでは、クリスマスは家族と過ごすものと聞いている。それは、とても大事なこと。
普段が忙しいなら、きっと家族にも余計会いたくなる、だから……。
「……」
考えている内に、男性が仲間の力によって眠りについた。
獅子鳳・天摩(謎のゴーグルさん・d25098)が振り向き、手を差し出していく。
「それでは灼滅者様ご一行ソウルボードにご案内っす」
●クリスマスに影は似合わない
雪が降り積もる街中を、飾る色は赤白緑。きらびやかな電飾を輝かせながら、人々の心を躍らせる。
賑やかな声と歌に満ちた世界。日本との違いを見出すならば道の広さやビルの大きさくらいなクリスマスムードに染まるアメリカの街中を眺め、サズヤは思わず目を瞬かせる。
「おぉ……」
雪やイルミネーションに心を奪われて、壊さないように守らなければとの思いを更に強くした。
志水・小鳥(静炎紀行・d29532)も同様に、アメリカの街を眺めていく。
街はクリスマス一色だけど、依頼もクリスマスのものが多くなってきた。眷属も都市伝説もダークネスも、あるいは浮かれているのだろうか?
「……シャドウは一体外国へ何しに行きたかったんだ? クリスマス旅行か? めでたいなぁ」
冗談めかした言葉を向ける先。
広場の中心に植えられている、巨大なクリスマスツリーの頭頂部。
大きな星飾りの上に、黒い影。
シャドウだと、サズヤが素早く身構える。
「倒す」
「……」
小さく肩をすくめた後、シャドウは灼滅者たちの下へと降り立ってきた。
見つめながら、小鳥は盾を掲げていく。
「クリスマスはみんなが楽しみにしているイベントだからな。邪魔するシャドウには消えて貰おうか」
「どもメリークリスマス。いい子にしてたから灼滅をお届けっす」
天摩もまた冗談めかした言葉をぶつけるも、シャドウからの返答はない。
ただただ静かな視線を灼滅者たちに向け、ゆっくりを身構えていく。
天摩もまた各所に専用ブレードを取り付けた黒く禍々しいガンナイフに手をかけて、ただ真っ直ぐに突きつけた!
銃口に闇の想念が収束し、漆黒に輝く弾丸が生み出される。
「食い散らせ」
言葉とともに打ち出せば、誤ることなく胸と思しき辺りに吸い込まれ……。
「さぁはじめようか」
弾丸の後を追うように、弥生は駆けた。
雪のなき道を選び、走りながら拳にオーラを宿し。
懐へと入り込むと共に、一撃、二撃と胸へ腹へと打ち込んでいく。
「何のために国外逃亡したいんだ?」
尋ねるが、返答はない。
元より待ってはいないと腰を落とし、炎を走らせた脚で追撃する!
「なんていっても答えるわけないか。さっさと片付けさせてもらうぜ」
炎のキックを受けながらも、シャドウは揺るがない。
故に樹は背後へと回り込み、ロッドを両手で握って斬りつける!
「海外に出ても動けなくなるだけかもしれないのにどうして行こうとするのかしら」
返答の代わりに、シャドウは空へ手をかざした。
前衛陣に影が刺す。
熱き流星が、間断なく降り注いできた。
夜舞・リノ(星空に煌めく魔法使い・d00835)は霊犬のユエと呼吸を合わせ、忙しなく前衛陣の間を駆けまわる。
自身に降り注ぐ分も含めて受け止めながら、注射器を引き出していく。
「みんなは私が護るかんね、安心して戦ってよ」
ユエが自身の治療を行う中、リノは真っ直ぐに注射針を突き出した。
左肩へと打ち込まれていく中、日輪・義和(汝は人狼なりや・d27914)は無防備なシャドウの背中に盾突撃をかましていく!
「来い、日輪の金狼が相手になろう」
「……」
返答なき様子を眺めながら、ルクルド・カラーサ(生意気オージー・d26139)は目を細めていく。
海外生まれのルクルド。故郷に帰りたいという男性の思いは、よく分かる。
もし男性に子供がいるようであれば、絶対無事に、アメリカまでたどり着かせなければならない。
「家族の幸せを守るため! 頑張りますよ!」
家族思いの人にとり憑くなんて許せないと、リノを明るく照らしていく。
ならばとでも言うかのように、シャドウは前衛陣に向けて雪の奔流を放ってきた。
にわかに白く染まっていく光景を前にしても、ルクルドは慌てない。
霊犬に治療を命じながら、自身もまた優しき風を招き入れていく。
支えること、それこそが己の役目なのだから……。
遥かな空より降り注ぐ、凍えんばかりの猛吹雪。
盾領域を押し広げ、小鳥は防いでいく。
防ぎきれぬ冷気が指を凍てつかせ、体の芯まで伝わるけれど、動けなくなるほどではないと跳ね除け更に領域を厚くする!
「この程度なら問題ない、畳み掛けてくれ!」
「しっかし……」
呼応し、黒き剣を掲げ天摩は飛ぶ。
大上段から振り下ろしながら、静かな声音で尋ねて行く。
「答えてくれないとは思うっすけど、なんで国外に脱出しようとしているんっすか? 後、もしかして国外に脱出した前例でもあるんっすか?」
刃が交わされていく光景を前に、返答する暇も待たず後ろ手に隠していたガンナイフを突き出した。
右肩を貫き、上へと切り裂いても、返答はない。
代わりに、前衛陣の体に再び影がさす。
更に、シャドウが一歩後退した。
すかさず天摩がライドキャリバーのミドガルドを回りこませていく中、ルクルドは樹を庇いに向かった霊犬に光輪を投げ渡していく。
「っ……ナイスです。この調子で……!」
盾を活かして見事流星群を防ぎきった霊犬は、着地と共にミドガルドの横に並んでいく。
リノもまた、ユエと共に逃げ道となりそうな右側を塞いでいく。
「逃さないよ! あんたはここで倒すやんね!」
威嚇しながら注射器を構え、駆け出すユエを追いかける。
ユエが斬魔刀で刻みし斜め傷の中心に、注射針を突き刺した。
「今がチャンスやんね! 畳み掛けるんよ!」
敵には害となるワクチンを撃ち込みながら、シャドウを力任せに押さえ込んだ。
すかさず樹はロッドをくるりと回し、上端の石を叩きつける。
魔力を爆発させ、シャドウの体を沈ませた。
「さあ、決着をつけるわよ」
「……ふん」
呼応し、義和が正面へと飛び込んだ。
腰元に収めた刀に手をかけながら、静かな調子で言い放つ。
「面白い試みだ。その発想は評価しよう」
正直な話をしてしまえば、本当にその方法で海外に出られるのかは興味がある。
「だが……実践させてあげられるかと言えば話は別だな」
とはいえ実験するわけにもいかない、必要もないことだと、居合一閃。
「ぐ……」
二つに分かたれていくシャドウに対し、手向けにも似た言葉を授けていく。
「動きを見せすぎたのは失敗だったな。君にとっての最善手は――出会った時点で全力で逃げることだった」
返答はない。
なにか新たな言葉を口走る前に、シャドウは雪となって消え去った。
灼滅者たちは安堵の息を吐き、周囲を見回していく。
変わらず、街はクリスマスムードに染まっていた。あるいは、男性の心のままに……。
●メリークリスマス!
ソウルボードを脱出し、空港のリフレッシュルームへと戻ってきた灼滅者たち。
男性を揺り起こす作業へと移行していく中、弥生はひとりごちていく。
「大分寒くなってきたし今年のクリスマスはどーなるかな」
おっさんも自国で楽しんできて欲しい、との思いを向けた時、男性は目覚めた。
「ふぁ……よく寝た。ありがとう、誘ってくれて、随分とスッキリしたよ」
屈託なく笑う男性に、ルクルドは簡単な会話を交わした上で……男性も簡単な日本語なら話せたから……提案する。
「良ければ、子どもさんにお土産なんかどうです? 空港内にも色々とありますし」
「ふむ……確かにそれは良さそうだ。もっとも……」
いたずらっぽく笑った上で灼滅者たちを……特に女性陣へと視線を向けていく。
「君だけならともかく、こんな可愛い、美しい少女たちにも選んでもらったなんて話したら、家内が嫉妬してしまいそうだから、家内の分もお願いできるかな? ハハッ」
灼滅者たちと共にお土産を選んだ男性は、ちょうど時間だと別れを切り出した。
頷き返し、リノは明るい声を響かせる。
「一足早いけどメリークリスマス! なんてね」
「メリークリスマス、良い聖夜を」
小鳥もまた楽しんで来いよとの思いを込めて、祝福の言葉を投げかける。
男性は笑い、頷いた。
「メリークリスマス。みなさんも、良い聖夜を!」
快活な笑顔を最後に背を向け、去っていく男性を眺め、義和はひとりごちていく。
「家族で楽しんでくれるならそれが一番だ」
「……ん」
小さく手を振っていたサズヤもまた、小さく頷いていく。
後少しで、今年も終わり。
その前にやってくるクリスマス。男性は家族と一緒に、暖かな時間を過ごしていくのだろう。
ならば、灼滅者たちは?
今年もまた幸せな思い出を描き出すために、さあ、武蔵坂学園へと帰還しよう!
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年12月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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