某県某所の商店街、その中にあるパン屋に、ヤツはいた。
「日本のクリスマスケーキを、全てシュトレンにしてやるのだ!」
頭には雪化粧のように粉砂糖をまぶし、顔はシュトレンの断面になっておりナッツやドライフルーツが覗く。そう、彼こそがゲルマン怪人の1人、シュトレン怪人だ。
「ごめんあそばせー」
そこに、1人の少女が現れる。正確には少女の姿をしたダークネス、ラブリンスター配下のアイドル淫魔だ。
「俺のシュトレンを奪いに来たのか! 食らえ、ナッツガン!」
「きゃー」
「ラブリンスター配下の淫魔が、もとゲルマンシャーク配下のシュトレン怪人にやられるところを予知してしまいました。とりあえずシュトレン怪人だけでも倒してきてください」
冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)は半ば投げやりに説明を始める。ラブリンスター率いるアイドル淫魔勢力は、サイキックアブソーバー強奪作戦で減った戦力を回復させる為にダークネスの残党を仲間にしようとしており、その交渉に失敗して殺されてしまうらしい。
「シュトレンとはナッツ類やドライフルーツを練り込んだドイツのパンのことです。アドヴェントという、クリスマス前の期間に食べられるものだそうですね」
また日持ちするので、置いておくことで味の変化を楽しめるらしい。
「シュトレン怪人は商店街のパン屋を占拠しシュトレンを量産しています。実害が出ている以上、放っては置けないでしょう」
パン屋に入ると、シュトレン怪人はシュトレンを奪いに来たと思って雛を守る親鳥のように攻撃してくる。
「淫魔が襲われる寸前に割り込むことができますが、戦闘が始まると淫魔は逃げます。共闘することはできません」
シュトレン怪人はシャウトやご当地ヒーローのサイキックに加え、ナッツガンという銃を使って戦う。技量の高い、決して油断ならない相手だ。
「またシュトレンを作らせていたドイツパン戦闘員4体も戦闘に参加します。戦闘能力はそう高くなく、倒せば人間に戻ります」
蕗子は湯呑の茶を一口含み、説明を続ける。
「ラブリンスター配下の淫魔ですが、あえて見捨てて、淫魔が倒された後に戦闘を仕掛けても構いません。どうするかは皆さんにお任せします」
参加者 | |
---|---|
喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788) |
赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996) |
小鳥遊・亜樹(見習い魔女・d11768) |
ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114) |
ラピスティリア・ジュエルディライト(夜色少年・d15728) |
アンジェリカ・トライアングル(天使の楽器・d17143) |
空本・朔羅(うぃず師匠・d17395) |
永・雨衣(トコシエノハナ・d29715) |
●淫魔とシュトレン
「俺のシュトレンを奪いに来たのか! 食らえ、ナッツガン!」
「小江戸式いんたーせぷと!」
シュトレン怪人が淫魔に銃口を向けた瞬間、赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)と、喜屋武・波琉那(淫魔の踊り子・d01788)の霊犬、ピースがその前に立ちふさがった。
「あの怪人危ないから逃げて!」
「ここは任せて逃げてちょーだい」
「あれれー? どちら様ですかしらー」
「此処はわたくしたち武蔵坂学園が引き受けます」
淫魔が緊張感のない気の抜けた声で問うと、アンジェリカ・トライアングル(天使の楽器・d17143)が答える。
「でもでもー、この方を連れていくのが私のお仕事でしてー」
「でも銃向けられてるよ。ここは諦めたほうがいいんじゃないかな?」
「それもそうですねー」
粘ろうとした淫魔を小鳥遊・亜樹(見習い魔女・d11768)が諭すと、淫魔はあっさり勧誘を断念した。ラブリンスター勢力には以前の戦いで致命的なピンチを助けられた。ここは自分たちが助ける番だと亜樹は思う。
「ファンクラブ武蔵坂支部長、ローゼマリー参上! 人様に迷惑カケルナ! ドイツの風評被害デース!」
ローゼマリー・ランケ(ヴァイスティガー・d15114)はファンンクラブのハッピを着て登場。ちなみにローゼマリーの所属するラブリンスター☆ファンクラブとやらにはローゼマリー1人しかいない。淫魔にハッピを投げ渡し、戦闘態勢をとる。
「大丈夫っすか? 学園が襲われた時にお世話になったっすからね。ご恩返しにきたっすよ!」
「此処は僕達が引き受けますので、どうぞ安全な所へ」
「お任せしますー」
空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)とラピスティリア・ジュエルディライト(夜色少年・d15728)も淫魔に逃げるよう促し、淫魔がぺこりと頭を下げた。
(「困ったときはお互い様っすよね! がんばるっすよ、師匠!」)
この前の戦いの恩を返そうと、元気に張り切る朔羅。ナノナノの師匠に目線を送ると、師匠はシュトレン怪人をじっと見つめていた。
「近頃物騒ナノデ、ラブリンやお仲間に個人行動は控えるようお伝えクダ――」
「ではよしなにー」
「ラブリンちゃんによろしくねー」
そしてローゼマリーの言葉の途中で淫魔が去り、亜樹が手を振って見送った。
「ふふ……ドイツの怪人さんは可愛い女の子のお願いも聞けない野蛮人なのかな?」
(「……なんだか複雑」)
波琉那は怪人に笑顔を向けつつ、逃げる淫魔の背中を横目で追う。さっきは逃げてと言ったものの、恩があるとはいえ、宿敵である淫魔を助けることに何も思わないではなかった。
「貴様ら武蔵坂か! ここで会ったが百年目、ゲルマンシャーク様の仇を取らせてもらうぞ!」
「はいはーい、シュトレンは全部回収! ここのお店は小江戸に明け渡してもらう感じかな?」
「やれるものならやってみろ! 来い、我が戦闘員たち!」
「ドイツー!」
淫魔が去ったなら、これはもう怪人と灼滅者の戦い。店の奥から戦闘員が姿を現し、戦いの火蓋が切って落とされた。
●襲いかかるドイツパン
「Twins flower of azure in full glory at night.」
ラピスティリアが殲術道具を解放して身に纏う。その顔に浮かぶのは、口元だけが笑う不自然な笑み。
(「ご当地怪人ってどうしてこう、よく分からない事をするのでしょうねぇ」)
奪いに来たも何も、広める目的なるのならまず食べて貰えばいいと思うのだが。不可視の術で熱を奪い、戦闘員たちを攻撃する。
(「シュトレンは美味しそうですけれど、クリスマスは好きなものを楽しめばいいと思うのですよ」)
永・雨衣(トコシエノハナ・d29715)は懐のお守りを軽く握り、怪人たちに向かって静かに一礼。ひとまず淫魔は逃がすことができたが、雨衣は人それぞれのクリスマスを守りたいと思っている。戦闘員たちの中心を指差し、さらに周囲を凍らせる。
「……奏でよ、天使のしらべ」
アンジェリカも殲術道具をカードから解き放ち、己の分身トライアングルを左手に持つ。
「わたくしの故国ではクリスマスならばクリスマスプディングなのですが、別にそれを強要しようとは思いません」
右腕を鬼のそれに変え、力任せに戦闘員に叩き込んだ。直撃した戦闘員が吹き飛び、床に叩きつけられる。
「シュトレンおいしそうっすねぇ……去年初めて食べたけど、おいしかったっすよねぇ……」
「ダメだぞ! 絶対やらないぞ!」
朔羅は目を細め、師匠とともにまじまじとシュトレン怪人を見つめる。洋酒やフルーツの風味、食べごたえのあるボリュームと、普通のクリスマスケーキとはまた違う味わいだった。見ているだけでお腹が鳴るが、除霊結界で戦闘員を攻撃することも忘れない。
「シュトレン、おいしそー。ぼくも食べていい?」
「ダメだって言ってるだろうが!」
亜樹がかわいく聞いても、答えはノー。この怪人、一体何のためにシュトレンを作っているのだろうか。とりあえず、霊体と化したクルセイドソードで戦闘員をぶっすり。
「ゲルマンシャークの手下ってまだいたんだね~。えーい、ぐるぐる!」
ゲルマン怪人の残党がまだ残っていたことに少し感心しつつ、緋色は槍をぐるぐる振り回して突撃。小さな傷をいくつも刻み、戦闘員たちの注意を引き付ける。
「ふふっ、イイことしてあげる♪」
波琉那はエアシューズで加速を付けると、勢いのままジャンプして跳び蹴りを繰り出した。跳んだり攻撃したりする度に大きな胸がたぷんと揺れる。
「この手で故郷のパンを倒すとは……忍びないデース」
祖国で食べたパンの姿をした戦闘員たちと戦うことを嘆きつつ、ローゼマリーは光の盾を展開してパンチ。ビハインドのベルトーシカも霊力を放って追撃し、戦闘員の1人を倒した。
●立ちはだかるシュトレン
「えい、ホールドアップ♪」
波琉那が戦闘員を捕まえ、後ろから締め上げた。胸が背中に当たっているとか、細かいことは気にしない気にしない。
「目を覚ましてください」
そして雨衣が後衛から風の刃を放ち、最後の戦闘員が倒れて人間に戻った。残る敵はシュトレン怪人ただ1人。
「ぐぬぬ、よくもやってくれたな……」
しかし、ご当地怪人が配下がやられた程度で闘志を失うはずがない。むしろ怪人は戦闘員がやられてからの方が本番だ。
「食らえ、ナッツガン!」
「なら食らってやるデ――グホッ!」
シュトレン怪人が手に持つドイツっぽい銃から硬いナッツを発射した。クルミっぽいそれはローゼマリーの顔面に直撃し、大きなダメージを与える。
「いくっすよ、師匠!」
「ナノ~♪」
「って、ちょっ! 師匠! 食べちゃだめっす!」
師匠は朔羅の呼びかけに応え……ることなくシュトレン怪人目掛け突進。小さな口で怪人の頭にかぶりつく。
「ナノッ!?」
「俺の顔は食べ物ではない!」
「ナノ~」
しかし怪人の頭は食品サンプルのようなものだったらしく、食べられなかった模様。師匠がうな垂れて朔羅の元に戻ってくる。師匠のおかげで、シュトレン怪人の秘密を1つ知ることができた。うん、さすが師匠だ。
「フランベして差し上げましょう!」
アンジェリカがトライアングルを鳴らすと、それを合図に魔術が発動し、シュトレン怪人を中心に爆発が起きた。
「ごめんね。迷惑だから消えてもらうよ」
外見に似合わない冷たい言葉とともに、亜樹がロッドで怪人を殴った。ついでに魔力を流し込んで内部からも攻撃する。ラブリンスターの誘いに乗っていたらこうして倒す必要もなかったかもしれないが、歌人が話を聞く耳を持たないのだから仕方ない。
「シュトレンビーム!」
「ひっさつ! 小江戸ビーーームッ!」
シュトレン怪人が技名を叫ぶと、怪人の顔面が伸びて緋色に迫る。いや、顔面が伸びているわけではない。シュトレンの断面の見た目をした光線を放ったのだ。緋色はヒーローとして迎え撃ち、目から迸るビームで相殺した。
その隙にラピスティリアは魔力を束ね、手の中に光の矢を作り出す。怪人に手をかざすと、魔法の矢は深い瑠璃色の輝きを放ち、怪人を貫く。雨衣は霊力の光を指先から撃ち出し、光がローゼマリーに吸い込まれてその傷を癒した。
「おのれおのれ! 俺のシュトレンは貴様らなんぞに渡さんぞ!」
手数の差で攻められ、追い詰められていくシュトレン怪人。けれど怪人はますます意気を増して灼滅者たちに襲いかかる。
●もうすぐクリスマス
「死ね、ナッツガン!」
灼滅者目掛けて宙を走るナッツ。正確な一撃がピースを襲い、直撃してピースが消滅した。しかし数の差は覆しがたく、シュトレン怪人は見る見るうちに追い込まれていく。
「えーい!」
シュトレン怪人の頭をスライスしようと、亜樹は無邪気な顔で剣を振るった。白く煌めく刃が軌跡を残し、怪人の頭に切れ目をつけた。ラピスティリアも杖で怪人を打ち、紫水晶の輝きが怪人へと流れ込む。
「夜闇のしらべ……第二楽章「影縛」」
アンジェリカがトライアングルを打ち、怪人へと影を伸ばした。地を這う影は触手となって怪人の四肢に絡み付く。そこに波琉那がステップを踏みながら近づき、霊体化した剣で貫いた。
「これで終わりデース!」
「ぐおおおおおっ!」
そしてローゼマリーのエアシューズが怪人を捉え、炎を纏う蹴りを浴びせた。
「いいだろう……そこまで我がシュトレンを食べたいなら持って行け。このまま朽ちさせるよりマシだからな……」
怪人は地に伏せるも、シュトレンのことしか頭にないようだった。力を振り絞って、パン屋の奥を指差す。
「だが忘れるな! 本場のシュトレンの味を! ゲルマンシャーク様に……栄光、あれ……」
そしてシュトレン怪人はかつて仕えていた者の名を呼び、白い砂糖のようになって風に消えていった。
「お疲れ様っした! 怪我は大丈夫っすか?」
そう言って朔羅が周りを見回すが、どうやら大きな怪我を負った者はいないようだ。
「ごめんね……八つ当たりっぽいことしちゃって………」
シュトレン怪人がさっきまでいた場所にそっと言葉をかけ、祈る波琉那。やはり淫魔を見逃したことが心に引っ掛かっていたようだった。
「ふぅ。お疲れ様でした! ……許可もいただいたことですし、シュトレン、いただいて帰りましょうか?」
「わーい!」
「やったー!」
「ナノー!」
雨衣の提案に、亜樹や緋色が嬉しそうに笑った。……ついでに師匠も。店の奥に進むと、粉砂糖を纏い、綺麗に仕上げられたシュトレンが所狭しと並べられていた。すべてのクリスマスケーキをシュトレンすると豪語していただけあって、その量はかなりのものだ。
「シュトレンなら、薄く切ってチーズを乗せて食べるのが好きですねぇ、僕は」
「おお、通デスネ!」
「そんな食べ方もあるのですか。そういえば、クリスマスプディングにはクリームを付けて食べたりしますね」
「シュトレンにもクリーム付けるコトありマスヨ!」
ヘッドホンを外してラピスティリアが呟くと、ローゼマリーが反応し、アンジェリカも故国のクリスマスを語り出す。やはり欧米には日本より奥深いクリスマス文化があるようだ。
武蔵坂学園主催のクリスマスパーティも近づいている。本場ドイツの風習にならい、シュトレンを食べながら待つのも趣き深いのではないだろうか。
作者:邦見健吾 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年12月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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