ひんやりとした空気、どこからともなく聞こえてくるクリスマスソングが、人肌を恋しくさせる。
今年もそんな季節がやってきたのだ。
各所で行われるイルミネーションの告知を耳にすれば、心はおのずとクリスマスムードに染まってゆく。
さぁ、学園から足をのばして、特別な日を六本木ヒルズで過ごそうではないか。
「楽しみだなぁ! 東京のクリスマスって凄いんだろうなぁ」
武蔵坂学園に来るまで、雪に閉ざされた里で生まれ育った冬郷・彩里(小学生ファイアブラッド・dn0205)。
六本木ヒルズに行くのは初めての上、学園の皆とクリスマスを過ごせるとあって大興奮だ。
「初めて行くけど、頑張って調べたから大丈夫なんだよ!」
ああ、調べた事を教えたくて堪らないんだなと、周りが妙に優しい目で見守る中、
彩里は当日のスケジュールについて説明を始めた。
ひとつ目は、けやき並木のイルミネーション。
「東京タワーを背に、400メートル続くイルミネーションなんだよ♪ 赤色と青色のライトが時間ごとに切り替わるの。どっちもムードがあって素敵だよね」
約110万灯のLEDライトが彩る、400メートルの並木道。
キャンドルのような温かみのある暖色系のライト、そして幻想的なムードの寒色系ライトが作り出す並木道を、ゆっくりと歩きながら語らうのは如何だろうか。
ふたつ目は、六本木ヒルズでお食事、お買い物
「高級感のある素敵なお店がいっぱいあって歩き回るだけでも楽しいね! ……わたしのおこずかいじゃ買えないものばっかりだよ~。でも折角のクリスマスだもん、奮発してもいいかもね!」
シックなレストランで過ごすひと時、大切な人への贈り物や自分へのご褒美を買い求めるのもいいだろう。
みっつ目は、シンボルツリーイルミネーション
「六本木ヒルズの玄関口66プラザっていう場所に、高さ8メートルのシンボルツリーがあるんだ。レースみたいな繊細なデザインで、時間ごとに色が変化していくのをずーっと見ていたくなっちゃうな」
乙女心をくすぐるレース模様を模したシンボルツリー。
ツリーの内側から放たれる光の、色合いの変化を楽しむことが出来る。
個性的なツリーが、印象深い思い出づくりを手伝ってくれることだろう。
「六本木ヒルズエリアは、洗練された大人な雰囲気が魅力だよね。素敵なひとときを過ごせそうだよ」
光り輝くイルミネーションの元で過ごす聖夜。
ここは、幾つものかけがえのない思い出が生まれる場所になるだろう。
●ケヤキ並木~煌めきの中で
空はすっかり暗くなり、ケヤキ並木は幻想的な青や白等のライトで彩られている。
そこへ腕を組んで訪れたのは統弥と藍だ。
「付き合い始めてちょうど一年、藍はますます綺麗になっていくね。戦場ではとても心強いし。僕は本当に幸せ者です。だから今度は僕が藍を幸せにしたい。これからも一緒に居て良いかい?」
統弥の言葉に顔を赤く染めて頷く藍。その態度は、つまり――。
「ありがとう、愛してる」
「私も大好きですよ」
ニッコリ笑いかけ、そっと抱き締めようとする統弥に藍もそっと抱きしめ返した。
「わぁ……」
「綺麗だね」
手を繋いで歩いていた式と菜々は、どちらもイルミネーションの綺麗さに思わず目を奪われる。2人で過ごす、2回目のクリスマス。それを感慨深く思いながら、
「また、来年も、再来年も、それからもずっと、式と一緒にこんな景色が見られたらいいっす」
そう見上げてくる菜々に頷き返し、式はそっと彼女に口づけた。
「隠れもちーふ?」
「そ。どちらが先に見付けるか勝負しよう」
真魔は真剣な顔でイルミネーションに目を凝らす。そもそもモチーフとは一体なんだろう、と首を傾げる九里だが、真剣な彼の邪魔をしないよう質問するのは控えて、逆にそんな真魔や周囲のイルミネーションをゆっくり眺める。
「……。寒くないか? 手、繋いでも良い……だろか……」
「……本当に諦める事を知らない御方ですねェ」
やがて、いつの間にかこちらを見て呼びかける真魔に、九里は溜息を1つ。けれどいい景色を見せて貰ったことですし、と。
「少しだけならば」
そう返せば真魔は嬉しそうに、夢みたいだと笑う。
「あっ、ハートだ」
隠れハートを見つけた雄哉は、缶コーヒーで手を温めつつ笑う。
(「ホワイトクリスマスなんて何年ぶりだろう?」)
雄哉の地元でもホワイトクリスマスは珍しい。本当は家族と来たかったけど……その寂しさが表に出ないようにしまいこんで、雄哉は町を歩いていく。
烈也は、ふと足を止める。なんだろうと首を傾げた翠を見つめ、真っ赤になりながら、思いきって口を開いた。
「こういう風に歩くようになって1年たったが……そろそろちゃんと付き合わねぇか? お前が妹の事を1番に好きなのは解っている。だからな、その……俺は、2番目になれねぇか?」
告白だ、とわかるからこそ驚きすぎて口をぱくぱくさせる翠。声が出るようになるよりも早く、言いたい事を言いきった烈也が翠の手を握る。
「返事は急いでいないから……とりあえず、イルミネーション見ようぜ」
そして歩き出す烈也だが、翠は周りを見る余裕も無く、真っ赤になって俯きながら歩くしかなかった。
「行くぞ花色! パトロールだ!」
「クリスマスまでパトロールを欠かさないなんて流石番長です! もちろん今年もオトモさせて頂きます!」
大文字と花色は、そうしてけやき並木へと繰り出す。しかし小雪の舞うクリスマス。どうしても指先が冷た……否!
「腕が寒くてパトロールがままならんな! 暖めろ! おれの肘を! 重点的に!」
「ぶふっ。……番長の仰せのままに」
大文字が思いきって差し出した腕を見て、思わず噴き出した花色は、そう言って人目も憚らず腕をぎゅーっと抱くと「パトロール終わりはー、ケーキが食べたいなー」と彼を見上げた。
一方、ちょっと変わった2人連れ。それはクロノとアリスだ。一度別れ、今は友人の関係にある2人だが、その間には複雑な空気が漂っている。
「……クーくんが望むなら、改めて付き合っても構わないわよ?」
そして、先に切り出したのはアリスの方。
「私は独り身も気楽で悪くないと思ってるから、あなた次第。さあ、お返事は?」
(「望むなら、か。……俺の望みはもう決まっている」)
「君が好きだ、もう一度付き合って欲しい」
その気楽な生活を奪わせてもらう、と切り出すクロノにアリスは小さく頷き返した。
赤音は白い息を吐きつつシンと歩きながら、1年前のことを思い返していた。
光の海、きらめき。気付けばあれから多くのものを得て、多くのものを――。
「埜口?」
シンがふと足を止めたのに気付き赤音も止まる。そんな赤音にシンは両手を伸ばす。もっと近くで見つめたい、と。
「ほっぺた冷たいよ、赤音」
「……貴方がね、温かいんですよ」
その感触に思わず目を細めるシンに、赤音も思わず、口元を緩めた。
「ねえ畜生道、今日くらいは手とかつないでもらえませんか」
「――はい」
ふと傍らを見上げた桃子に、畜生道が手を伸ばすと、桃子は嬉しそうに笑ってその手を取った。この手ひとつで喜んでくれるのなら、何よりだと畜生道は表に出さずに思う。
「……いつもと違う姿も良うございますね」
そういえば言うのを忘れていたと、更に言葉を落とす彼に、とりあえずお洒落をして、彼から貰った香水もつけてみた甲斐はあったかな、と思う桃子だった。
「ふわぁ……っ! 凄い凄い、綺麗……!」
恋人らしく雷歌と手を繋いで、イルミネーションを見ていた華月は、点灯した明かりの色がみるみる変わっていく様子に歓声をあげた。
「……なんか、俺らみたいだな?」
「うん、温かそうな灯りは確かに雷歌さんみたい」
照れくさそうに囁く雷歌に頷き返して。自分もあんな綺麗な色みたいに見えていたら嬉しいな、と思いながら華月は笑う。
「これはわたしからのプレゼントなの」
イルミネーションを堪能した篝莉は白いマフラーを大紫の首に巻いた。笑顔でありがとう、と感謝を述べた大紫は、
「僕からも一つ贈り物がしたいのですが、構いません?」
そっとコートに招き入れて、以前彼女がしてくれたように、その頬へ唇を寄せる。
「ステキな贈り物、ありがとなの」
ほわりと笑顔を咲かせた篝莉は、熱の残る頬を押さえながら大紫を見つめ返した。
「メリークリスマス、篝莉……今宵は君が、僕のサンタですね」
「メリークリスマス、大紫。たくさんの幸せが、きみに降り注ぎますように」
そんな街を賑やかに歩いていくのは『ながればし』のメンバーだ。
「わー! 先輩方見て見て! すっごい綺麗!」
「この並木道とかロマンティック!」
イルミネーションの光に興奮気味の希沙と春陽。
「はい。南谷さんと篠村さんはこっちね」
紳士的に二人を人混みから誘導するのは希だ。
「よしみんな! もしはぐれたらウサ耳帽を被ったノッポを探すんだぞー」
クレイは今回のために厚底靴を履き、可愛らしいウサ耳のついた帽子を被ってきている。彼の思惑通り、けっこう目立っている。
「鷹育、ポッポー」
と、梛が鷹育と希を呼んだかと思うと、
「うわっ」
「って……川内! それ冷たいから!」
「ぬくい」
急に二人の頬に梛の冷たい手がくっつけられる。その冷たさに二人は思わず声を上げた。
満足げな梛に鷹育と希は、こっそりと後方に回ると、
「せーの……!」
「こう!」
「つっめた……!」
二人から同じような反撃を食らって、梛は身をすくませた。
「春陽先輩、男性陣がじゃれてる!」
「あらら、本当」
そんな彼らを生温かく見守る希沙らは、今度はとイルミネーションに飾られているだろうハートの飾りを探し始める。
「人、多いけどやっぱ寒ぃな……」
「お、シグマも探すか?」
呟いていたシグマも梛に誘われて、ハート探しに加わる。
やがて良い撮影スポットを見つけた『ながれぼし』の一行は、全員での記念写真を希と鷹育のカメラに収めた。
「じゃーん!」
オリキアは前々から用意していたプレゼントを取り出し、ジンをにこにこ見上げた。
記念日であり、彼の誕生日。だからこそずっと準備していたのだ。彼にプレゼントするための手編みの手袋を。
「ジンの好きな藍色の毛糸で編んだんだよっ。お出掛けする時に使ってねー♪」
「ありがとう」
楽しそうにはしゃいでいたオリキアが、こうしてプレゼントをくれる。彼女が楽しければジンも楽しいし、こうして贈り物を貰えば当然嬉しい。
「実はね、僕からも……」
2度目のクリスマスを心から喜びながら、ジンは彼女のための贈り物を取り出した。
「すごいねえ、お星様がいっぱい落ちてきたみたい!」
「久成らしい例えです」
感動し、目をキラキラさせて笑いかける杏子に、理利は小さく頷いて微笑み返す。そうしてクリスマスについてあれこれ話しながら歩いていると、
「わあっ雪なのーっ」
ふわりと舞うそれに気付いて駆け出そうとして、杏子は彼が自分に今までずっと歩調を合わせて歩いていてくれたことに気付く。
「……せんぱい、メリークリスマス!」
ありがとうの気持ちを込める杏子に、理利もメリークリスマスと返す。今日は一緒にいてくれてありがとう、と感謝を込めて。
「……へっくし!」
来年もよろしく、と気の早い挨拶をしていた八千華は、クリスマスの夜の寒さに思わずくしゃみを1つ。それを見た弥生はマフラーの端を取った。
「こうすればあったかいだろ、ふふふ」
「えへへ、ありがとうございます……」
八千華に寄り添う弥生に、ちょっとドキドキしながら笑い返すと、
「そうだ。あっちにいろいろ売ってるんですよ。テストで良い点とったごほうびください、……弥生姉さん!」
今日だけ、いつもとはちょっと呼び方をしながら、そう誘う八千華だった。
「うーん……」
イルミネーションに向かって手を伸ばしながら、ぴょんぴょん跳ねているのはレキ。むずかしい顔をする彼女の頭を、イーノックはぽんと撫でた。
「あれは飾られている物で勝手に取っていいものではない。そんなに欲しいのならば、俺が用意してやるから、それで我慢するがいい」
「……取って、お兄ちゃんにあげたかった、の」
暗い道のしるべとなるように。迷わないように、はぐれないように……一緒にいられるように。
そう告げるレキの肩にそっと手を置き、イーノックは抱き寄せるようにして歩き出す。こうしていれば一緒だと、そう告げるかのように。
去年は友人として、今年は恋人として……手をつなぐのにも慣れてきた奏夢と紅子は、ゆったりと街を歩いていた。
「別にイルミネーションとか興味は無かったけど、こうして紅子と見るといいもんだな」
「ホンマにね。私も奏夢と一緒やから綺麗に見えるんやなって思うよ!」
満面の笑みで、紅子は一瞬手を放すと、ぎゅっと奏夢の腕を抱きしめる。
「この方が暖かいでね?」
思わず紅子を見た奏夢も、その言葉に頷いて。今度は腕を組みながら道をいく。
「断、今日は本当にありがとう。えと、その……デートの誘いに応じてくれて」
「お礼はそれがしなの。それより!」
誕生日おめでとう、と断が取り出したのは、エミリオへの誕生日プレゼント。自分とお揃いの白いマフラーを贈る断に、エミリオは一瞬驚いて固まったものの、はにかんだように嬉しそうに笑う。
「ありがとう。これまでで一番素敵なクリスマス、そしてバースデーだよ」
その言葉に断も負けないくらい嬉しそうに笑って。また、来年も一緒に来たい、と呟いた断は思わず、エミリオに抱き着いてしまう。
「だいすき♪」
「うん……ぇ?」
頷き返そうとしたエミリオの頬をかすめていく柔らかい感触。それが何を意味するのか……思わず、まばたきをするエミリオだった。
「わぁ! 見てください、とっても綺麗ですわね」
「ほんとだ、向こうも綺麗だね」
秘めた想いを悟られぬよう、そわそわしつつも、心から楽しそうなリィザ。そんな彼女の様子に、恭輔は微かな違和感を感じつつも、普段通りに接する。
思いがけず偶然に隠しハートを見つけて、写真を撮りながらひとしきり盛り上がった後、リィザは手を握りたいと、恭輔の指先をきゅっと握る。
「……夕飯、どうする?」
さすがに。それが何を意味するかを察して……けれど何事も無かったかのように呟くと、その手を軽く握り返して恭輔は歩き出す。
「今日は一緒に過ごしてくれてありがとう」
ミランダに礼を告げると、來地は思いきって続けた。
「年上のくせに色々頼りない俺だけど、また来年もこうして二人でクリスマスを一緒に過ごしたいなって思ってる。俺と付き合って貰えませんか……いや、俺と付き合って下さい!」
「來地さん……」
それに驚くミランダだが、すぐにふわりと微笑む。
いつだって、自分の事を第一に考えてくれる、優しくて頑張り屋さんの來地。彼と一緒にいるのはミランダにとっても楽しくて……心が、温かくなる。
「私の方こそ……これからもどうぞよろしくお願いします」
來地の首に手作りのマフラーを巻きながら応えるオリキアに、ミラちゃんを絶対に幸せにできるように頑張ると、そう意気込む來地だった。
「えへへ、何だか恋人同士みたいですね♪」
ちょっと恥ずかしそうに斬夜と手をつないで歩くシェリカの言葉に、斬夜はふと、シェリカをじっと見つめる。
「みたい、じゃなくて。シェリカの恋人になりたいよ? 俺」
「ふえ!?」
びっくりして目を丸くする。本当に私でいいんですかと問うシェリカを、斬夜はまっすぐに見つめ続ける。
「私の事大切にしてくれるなら、いいですよ……?」
「……うん。大事にするよー」
本気だとわかるから、そう答えるシェリカをぎゅっと抱きしめて、捕まえて。斬夜は嬉しそうに笑う。
「わああ、すごいよ、ギル!」
「はしゃぎすぎて転ばないようにな?」
歓声を上げるフローズヴィトニルを微笑ましそうに見つめるギーゼルベルト。彼女がどこかへ行ってしまわないよう、しっかり手を繋いで、ゆっくりクリスマスの街を歩く。
(「イルミネーションもだけど、フレンの笑顔の方が見たいかな」)
寒さも一緒なら暖かく、彼女がいるからイルミネーションだって輝いて綺麗に見える。そんなギーゼルベルトに向かって、
「ギルと一緒にこうやって見れるから、とってもとっても幸せなの!」
幸せそうに笑うフローズヴィトニルの姿に、ギーゼルベルトも目を細めた。
「洵哉さん」
ラインは思いきって、彼の手を取った。
綺麗な夜景を見られて、この時間に一緒にいられるだなんて、普段では無いこと。そんな特別な時間を、一緒にいられることを、もっともっと強く感じたいから。
「そうですね、この方がずっと一緒に居られる感じがします」
そんなラインの気持ちを察するかのように、彼女の手を優しく包み込むように握り返す洵哉の言葉に、ラインも笑顔がこぼれる。
(「かわいい! かわいい! すんっっごくかわいいっ!」)
現れた恋人、碧の姿を見て内心叫びまくった蓮弥は、そんな可愛い彼女をエスコートして歩き出す。そう、カッコよく……と、考えていた蓮弥だが、
「わぁ、本当に聞いた通りだ! あ、碧さんこっち!」
「は、はい!」
テンションが上がって思わず走り出す蓮弥。驚く顔をする碧だが、そんな彼との時間が、また嬉しくて。
(「来年もまた、こうやって出かけられますように……」)
そっと碧は願いを込めて、蓮弥に手を引かれながら一緒に駆けていく。
「きらきら、とても綺麗だな……」
はぐれないよう修斗と手を繋ぎながら、イルミネーションに見惚れているのは裕也だ。はい、と頷いて、修斗は裕也を慮る。
「寒くないですか?」
「うーん……」
そこまで寒い訳ではないのだけれど、なんだか少し触れていたい気分で。なんとなく身を寄せていく裕也の頭を、修斗は撫でる。
「温かい飲み物でも買いに行きましょうか」
「うん!」
店を探しながらも、2人は一緒にイルミネーションを楽しみ続ける。
「あー……流石に多いな」
人出の多さに、苦笑するのは雪羽。案の定、隣のアイスバーンはぴょんぴょん飛び跳ね始める。
「ぜ、全然見えません!? ちょっと本気で前が人の壁です!?」
かなり必死なアイスバーンに笑って、雪羽はスマホを取り出す。そうして絶妙な角度でスマホを操作すると……。
「ほら。画面越しでも、どうせなら一緒に見ようぜ」
「あ、動画!」
撮影したばかりのイルミネーションがきらめく画面を、2人で一緒に覗き込む。
「あとは……中でガラス越しに見た方が綺麗かもしれないぜ。行ってみよう!」
そうして雪羽とアイスバーンは、建物の中へと向かった。
●shopping&dinner~ラグジュアリータイム
買い出しにやってきた有栖は、尋斗に荷物持ちを手伝ってもらっていた。両手に抱えても持ちきれない程の量。まるでパズルのように積み重ねて何とか歩く尋斗だったが……。
「あっ」
「ぎゃー!? だ、だだ大丈夫ですか!?
雪崩のように崩れていく荷物に有栖は悲鳴を上げる。幸いにも尋斗自身に怪我は無く、荷物を整理して再び歩き出す2人。
「そうそう、お詫び、という訳ではないんですけど」
受け取ってくださいな、と有栖が上着のポケットに小さな箱を入れて渡すと、尋斗は有難くそれを受け取り、折角だからとツリーを見物しながら帰っていく。
「すずりちゃん、ここ、どうかな?」
「いいわね、どれも素敵!」
何かお揃いの物が欲しいねと話しながらショッピングを楽しんでいた宝とすずりは、メインの石が選べるブレスレットを見比べる。
「うーん……私はこれ!」
すずりが選んだのは紅赤色のインカローズ。一方、宝は青紫のタンザナイトだ。
「いいね絶対似合うなり!」
「たからちゃんにぴったりね!」
互いにピッタリだと笑い合って、早速そのブレスレットを身に着けた2人は、大切な友達とのお買いものデートを続けていく。
あちこちの店で試着をして、でも買わずに店を出る。鈴親がそんなショッピングを繰り返すうち、付き合っていた櫟が不機嫌な顔になる。
「ご、ごめんなさい。こんなに連れまわして。ええと……」
懐事情が原因で、買うに買えないを繰り返していた鈴親は慌てるが、そうじゃないと櫟は首を振る。
「俺に一言頼めば、何だって買ってやるつもりなのに。もっとワガママ言って欲しいんだよ、彼氏なんだから」
「ま、あ……」
櫟の言葉に、クスッと笑って。鈴親は彼の言葉に甘える事にする。
「あれ欲しいな。さっき試着したロングブーツ。買ってくれる?」
笑われたのは何か負けた気分だが、それは櫟の欲しかった言葉だ。お前の為なら勿論、と頷き返して、先程の店を目指す。
「ど、どうやろ……?」
「グッジョブ!」
恥ずかしそうに試着室のカーテンを開けたクリミネルに、紅鳥は満面の笑みを返す。
きっと似合うだろうと思った通り。強引だったが試着を勧めたのは正解だった。
そんな紅鳥の反応にホッとした様子を見せるクリミネル。そのドレスを買った2人は、手を繋いで次は、今夜の為のケーキを探しに向かう。予算であるところの紅鳥の財布は、先程補充したばかりだから大丈夫……なはずだ。多分。
「シオー! この子よくない!?」
テディベアを見ていたユメは、目を輝かせて紫王を振り返った。
どの子もみんな可愛い素敵な子ばかりだけど、灼滅者パワーで力いっぱい抱きしめたら壊れてしまうに違いない……でも!
「これならギューッってしても大丈夫っかなー!?」
「確かに大物だね」
ユメが両手で抱えれないくらい大きなぬいぐるみ。紫王は曖昧に相槌を打つと、さりげなくそっと値札を取る。
(「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……」)
目をこする。もう一度数え直す。結果は同じだ。
万が一の事態が起こっても、持っている財布とカードで何とかなるだろうけど……。
「商品だからそっと、そっとね」
取り扱い方の注意を促す紫王だった。
「ねえ、これなんてどう?」
ガラス雑貨を見ていた巳桜は、ガラス玉のストラップを晶に見せた。夜の闇にも負けない光を持つお星様……それは巳桜の考える晶のイメージそのもの。
「美しいな! じゃあ……」
巳桜には、と晶が選んだのは、夜空の文字盤に銀の針の置時計。暗く深いのに透き通る、そんな不思議な時計だ。なんとなく、デスクにずっと置いておくものをあげたかったんだと話す晶に、巳桜は心からの笑みをのぞかせた。
「ありがとう、ずっと大切にするわ」
「私もだ!」
部屋に飾るのが楽しみだと笑う巳桜に、晶も満面の笑みを返す。
……ガラスは、ちょっと友情に似ているかもしれないと、そう思う巳桜だけれど。デリケートだからこそ大切にしたいと、そう願う。
「これはリードが必要だな……」
「!? リードはいやデス……それに私狼だもん……!」
うっかりはぐれてしまった括に、思わず真顔で告げた遊太郎。その言葉に、ふるふる震える括。もちろん冗談だと笑って、今度こそはぐれないよう注意して2人は歩く。
「クリスマスって恋人と過ごすイメージだったけど、こういうのんびりも素敵だね」
「まあ、お互い一人で過ごすくらいなら、一緒に過ごした方が寂しくないしね」
笑う括に頷くと、遊太郎は「今日はお兄さんがご馳走してさしあげましょう」とクレープやさんを指さした。嬉しそうに頷きながらも、かわりに何かお礼になるものを考えなくちゃと思う括だ。
「アップルシナモンケーキとイベント限定のタルトが人気なようで」
「どちらも素敵ですね。ううん、どうしよう」
カフェに入ったのはジンザと澄。吉祥寺の店主としては敵情視察も超・重・要! と意気込むジンザに誘われた澄は今、とても悩んでいる。
「オーダー迷うなら色々頼んで分けて食べてみましょうか」
「あ、そうですね、半分ずっこしましょうか。……ああ、私ったら半分ずっこなんて!」
田舎っぽいと恥ずかしがる澄だが、ジンザは気にしていないようだ。一緒に入れなかったナノナノのフムのことなどを話しながら、2人はケーキとタルトを待つ。
「ありがとうシェリー、大切にスルよ」
「わたしこそ……今年も一緒に過ごせて倖せよ」
誕生日に贈り合ったコートを着て、腕を組みながらデートをしたシェリーと七狼は、順番にお店を巡って互いのプレゼントを選んでいた。
相手の事を考えながらのプレゼントを喜び合うと、予約しておいたレストランでのディナーを楽しむ。
「こんな贅沢、していいのかなぁ……」
「たまには贅沢するのも悪くないだろうさ」
どこか不安そうな由乃の気持ちを、ジョシュアは和らげようとする。夜景を眺め、食事を楽しみながら思い返すこの1年のこと……とても幸せだと、由乃は思う。
「1年って、あっという間だね。今年もたくさんあったけど……来年も、その次も……ずっとジョシュアさんと一緒にいたいよ」
「ああ。来年はどんな年になるか分からないが、お前となら飽きることなく過ごせるだろうな……これからも、よろしく頼む」
いつか一緒にお酒が飲める年になったら、また来よう……由乃の言葉に頷いて、そう囁きかけるジョシュアだった。
「えへへ! 初めての外食デスね♪」
楽しそうに笑うシュヴァルベの姿に、闇沙耶もまた笑う。彼女が楽しめるようにと話題をリードする闇沙耶の気配りもあって、楽しい時間はあっという間だ。
「……ここに、次来る時は……人数が増えてるかもしれないな」
ふと話題を途切れさせた闇沙耶が呟いた声が何を意味するのか。察したシュヴァルベは照れ笑いを浮かべた。
「ずっと、ずっと一緒デス……♪」
窓の外を、はらはらと舞う雪。
そんな中を歩いていくのは、恋人繋ぎをしたあさきと優希だ。
二人の目的はペアリング。真剣な表情でショーケースの指輪たちに見入る。
「じゃぁ、コレにしよう」
あさきが手に取ったのは、互いの目の色をした宝石がついた、シンプルだがオシャレな指輪だった。
「そうだね……私とあさきくんの目の色が並んでていいね。あさきくんが銀色で私が桃色だね?」
そして、指輪の裏にはお互いのイニシャルと記念日を、思い出と共に刻む2人だった。
●プラザ66~可憐なシンボルツリーの前で
買い物を終えた榛と冴子は、シンボルツリーに立ち寄っていた。
「綺麗やねぇ……シンボルツリー」
「は、はい」
せっかくの機会なのに、何を話していいかわからず冴子は頷いただけで沈黙してしまう。一方、榛は榛で、
(「月が綺麗やと、ここで言えればのぅ」)
そう胸の中で呟くばかり。
しばらく無言でツリーを見つめるだけの2人だったが……やがて勇気を出したのは冴子だった。
「その、榛様。手を……握らせていただいてもいいですか?」
……2人の関係は、一歩前進、かもしれなかった。
「すごい、ここからでもうすごく綺麗♪ はやく近くへ行こう!」
潤子と真琴はツリーが見えてくると思わず駆け出す。綺麗なツリーを並んで見上げて十分に楽しむと、
「潤子ちゃん、メリークリスマスです」
真琴は隣の潤子のために用意した、テトラ型のサシェを贈る。
「メリークリスマス。真琴ちゃん。いつも一緒にいてくれてありがとう!」
嬉しそうに受け取って、反対にプレゼントを渡す潤子に「これからもずっと一緒にいようね♪」と笑いかけられた真琴は、ふわりと髪を揺らして頷いた。
「ナナ、ハッピーバースデー!」
「……オレの?」
ツリーの前で、姉のシアンが差し出したプレゼントに、七星は思わず目を丸くした。
「なーに、ポカンってした顔して……今日誕生日って忘れてた?」
「いや姉さんこそ何の素振りもなかったから忘れてるのかなって……」
「やだ! 大切な弟の誕生日なのよ! 忘れる訳ないじゃない!」
でもサプライズは成功ね! と嬉しそうに笑うシアンに、呆然としていた七星も笑うと、心底嬉しそうにプレゼントを受け取った。
「いつもありがとうな、メリークリスマス柚姫」
目を輝かせてツリーを見つめる柚姫に、紫桜は小さな箱を取り出した。
「ありがとうございます。大切にします。私からも……」
ふわりと微笑んで受け取った柚姫も、反対に用意しておいたプレゼントを取り出す。それから、どちらからともなく見つめ合って……紫桜はそっと柚姫を抱きしめてキスをする。
ずっと永久に共に歩む。そんな誓いを込めたキスに、柚姫は頬を赤く染めながら幸せを噛みしめた。
「……なぜ、しかまるはこずえを誘ったのでしょうか。フシギです」
感情を顔に出すのが不得手ゆえ、自分と一緒に来ても楽しいと思えるかどうか疑問を抱くこずえ。鹿丸はそんな彼女に意気揚々と答える。
「学園に入ったころからお世話になってたっすからそのお礼っす!」
その返事にまた首を傾げるが、それでも「そうですか」とこずえは答えることにする。そんなこずえに、鹿丸は手を差し伸べた。
「一緒に……踊らないっすか?」
ダンスは相手に感謝をささげる物だと故郷で聞いた鹿丸は、だからこそこずえを誘う事にしたのだ。だとしたら断る理由は無いと、こずえもその手を取って。2人、クリスマスで華やぐ街で踊りだす。
「わぁ、ここのツリーも綺麗……!」
ケヤキ並木を通り過ぎて、シンボルツリーの元へやってきた沙耶々が顔を輝かせる。そんな彼女の顔は、いつもよりもずっときれいに見えて、アンリは彼女を見つめながら「イルミネーション、すごく綺麗だね」と笑う。
「……恋人と過ごすクリスマスがこんなに幸せなものだとは思わなかったよ」
寒さのせいにして沙耶々を抱き寄せ、そのまま口ずけるアンリ。
「ありがと……わたし、今、しあわせだよ」
離れても残る熱を感じながら、沙耶々はアンリを見つめ返した。
「凪彩お姉ちゃんは……僕の事どう思ってるの……?」
「そうだね、弟みたいかな」
凪彩と手を繋ぎながら問いかける吹雪に、優しく手を握り返しながら凪彩は答える。
でも吹雪は、姉としてだけじゃなくて、女性として、凪彩のことが好きなのだ。だからそんな返事は不満で、凪彩を抱きしめながらもう1度問う。
「異性としては……?」
「大好きな彼氏さん、かな」
最初から答えは定まっているから、凪彩は迷わずに微笑んでそう答える。そんな凪彩に好きだよと告げながら、吹雪はもっと彼女を抱きしめた。
「はぁ、はぁ、はぁ。おかしいな迷ったかな」
そんな中、ツリーを目指してクリスマスの街を駆けていくのはマハルとくるみだ。ツリーを見に行く途中で寄り道をして、2人はすっかり道に迷ってしまったのだ。
(「ボクのせいだ……ごめんなさい」)
自分を心の中で責めるくるみ。そんなくるみの手を、更に強くマハルが握った。
「くるみのせいじゃないよ。僕が近道しようとして、迷ったんだよ」
鋭く彼女の様子を察知したマハルのなぐさめ。でもそれがくるみの心を支えてくれる。
「この角を曲がれば……きっと」
「あっ!」
そこには、優しく輝くツリー。ホッと顔を見合わせた2人は、嬉しそうに笑い合って、そのまま固く抱きしめ合う。
この聖なる夜に、皆の幸せを祈って――メリークリスマス。
作者:koguma |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年12月24日
難度:簡単
参加:97人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 16/キャラが大事にされていた 1
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