雨の降りしきるある日の事、傘をさした1人の少年がとある橋の上を通りかかると、黒髪の可憐な美少女がずぶ濡れになった状態で前方からトボトボと歩いてきた。
傘を持ってくるのを忘れてしまったんだろうな、気の毒だな、等と思いつつ、少年はそのまま通り過ぎようとする……が、少女はさっと彼の行く手を遮り、
「あの……傘忘れちゃったの……一緒に入れてくれないかな……?」
と、上目遣いがちに少年を見つめつつ、甘えた声で問いかける。
そのあまりの可愛さに、少年は躊躇なく少女を自らの傘の中に招き入れた。
「ありがとう……優しいんだね。私綾っていうの、よろしくね」
少女はそう言って微笑みながら、傘を握りしめている少年の手にそっと自分の手を重ね、
「ねえ……君のこと、もっとよく知りたいな」
と、囁くようにして呟いた。
その瞬間、少年は彼女に完全に心奪われ……2人はぴとっと寄り添いあいながら、いずこともなく去っていった。
「お集まりいただきありがとうございます。実は未来予測によってあるダークネスの行動を察知する事ができました。皆さんにはそのダークネスを灼滅してもらいたいのです」
そう前置きした後、エクスブレインの少女は事件の詳細について語り始めた。
今回のターゲットは、高校生くらいの少女の姿をした綾と名乗る淫魔。現れたのはとある町の橋の上。
彼女は雨の日にわざと傘もたたず橋の上に立ち尽くし、中高生くらいの少年が傘をさした状態で現れると一緒に傘に入れてほしいと声をかけ、あとはあの手この手をつかってターゲットを虜にしてしまうのだという。
「ダークネスは雨の日の昼過ぎ頃、ほぼ確実にその橋の上に現れるみたいです。なのでその時間以降に橋の上を通りかかれば自然と接触できると思います」
橋は歩行者専用でそこそこの長さがあるらしく、淫魔はその真ん中くらいで獲物が通るのを待ち構えているらしい。
彼女が狙うのは、傘をさしている中高生くらいの男子、それも単独でいる者のみであり、それ以外の者が通った場合は、ピンク色の折りたたみ傘をさして素知らぬ顔でやり過ごすのだという。
彼女が持ち歩いてる折りたたみ傘は武器としても使えるらしく、打撃武器としての使用は勿論、先端から魔法の光線を発射する事も可能であるという。
「見た目は女の子でも相手はダークネス、その戦闘能力は油断できません。でも皆さんが力を合わせればきっと勝てるはずです。勝利の報告をお待ちしてますね」
参加者 | |
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リリー・スノウドロップ(小学生エクソシスト・d00661) |
古室・智以子(小学生殺人鬼・d01029) |
桜月・花音(中学生サウンドソルジャー・d02286) |
左藤・四生(中学生神薙使い・d02658) |
高宮・紬(魔性の木の葉・d02743) |
十河・錐風(濡烏・d03005) |
八嶋・源一郎(高校生神薙使い・d03269) |
九牙羅・獅央(誓いの左腕・d03795) |
●
雨の降りしきるある日の事……エクスブレインの少女から報せを受けた8人の灼滅者達は、淫魔の少女が現れるという橋へとやってきた。
彼等は淫魔を挟撃するべく、予め橋の手前側と向こう側に別れて配置につき……そして、
「ぜってー誘惑されないっ!らんぷが一番!相手はダークネスだからな!さくっと倒して帰る!」
そう仲間達に告げた後、九牙羅・獅央(誓いの左腕・d03795)は自らが囮となって淫魔の少女を油断させるため、危険を承知のうえで単身橋の中央へと向かい歩きだした。
「九牙羅さんが淫魔と接触するまで~、一般人が来ないといいですね~」
獅央を見送りつつ、注意深く周囲を警戒する高宮・紬(魔性の木の葉・d02743)。
万が一作戦行動中一般人がやってきた場合は、特撮映画の撮影をしてるという説明をして対処する手はずとなっている。灼滅者達に抜かりはない。
「人の厚意に付け込むような輩は捨て置けんな」
必ずや淫魔を討ちとってみせようと、静かな闘志を燃やしている様子の十河・錐風(濡烏・d03005)。
ファイアブラッドである彼女にとって、淫魔は特に因縁のある相手ではない……が、だからといってこのまま悪事を見過ごすのは、彼女の義に反する行為なのである。
「ダークネスを滅ぼすのに、理由なんていらないの。そこにいるから、滅ぼす。いたってシンプルなの」
そう述べるのは、ダークネスに対し非常に強い憎しみを抱いているという少女、古室・智以子(小学生殺人鬼・d01029)。
彼女にとってダークネスは倒すべき敵である。たとえどのような姿をしていようと、どのような事情があって行動していようと、それが揺らぐ事はないようだ。
一方橋の反対側で待機してる4人はというと……、
「若い男性だけを狙うなんて、何か恨みでもあるのかな……」
何故淫魔がそのような行為を行うのか、まだよく理解していない様子の左藤・四生(中学生神薙使い・d02658)。
「何にしてもこのまま放置するわけにはいかないですね」
悪事を働く淫魔は懲らしめなければならないと、リリー・スノウドロップ(小学生エクソシスト・d00661)は思う。
「ええ、力を合わせて、必ず阻止しましょうね……」
初依頼という事もあり、多少なりとも不安な気持ちを抱いている様子の桜月・花音(中学生サウンドソルジャー・d02286)であったが、兄の様に慕う幼馴染からの励ましの言葉を思い出して勇気を奮い立たせ、仲間達とともに必ずや依頼を成功に導こうと決意を新たにする。
「……接触するようじゃぞ」
仲間達が会話を交わしている間もじっと橋の中央を見つめていた八嶋・源一郎(高校生神薙使い・d03269)が、獅央が目標と接触した事を確認し、それを仲間達に告げる。
果たして彼等の作戦は無事成功するのであろうか……。
●
片手にビニール傘をさし、もう片方の手で携帯電話を弄りながら、獅央はゆっくり、ゆっくりと歩を進めていく。
そんな彼の前方に、傘もささず立ち尽くす可憐な美少女の姿が……彼女が今回のターゲットなのであろうか。
ハッキリとした確信が持てぬまま、徐々に獅央と少女との距離が縮まっていき……そして、少女はサッと獅央の行く手を遮り、
「あの……傘忘れちゃったの……一緒に入れてくれないかな……?」
と、上目遣いがちに見つめつつ、甘えた声で問いかけてきた。
「傘、もってねーの?」
そう問い返しながら、自らの傘の中に少女を招き入れる獅央に対し、
「ありがとう……優しいんだね。私綾っていうの、よろしくね」
にこっと微笑みお礼を言いながら、自らの名前を獅央に告げる少女。
その瞬間獅央は確信した。目の前にいるこの少女は、人間の快楽と淫欲を刺激し堕落の道へと導く淫魔であるのだと。
すぐさま彼は携帯電話をそっとポケットの中にしまい…………その直後、2人の様子を遠目から見守っていた他の灼滅者達は一斉に行動を開始し、橋の中央目指し走りだした。
「ねえ……君のこと、もっとよく知りたいな」
「ああ、いいぜ」
獅央の手にそっと自分の手を重ねつつ、囁くようにして呟く淫魔であったが、獅央はそれに惑わされる事無く、適当に相槌をうちながら時間を稼ぎ…………そうこうしている間に、ばしゃばしゃと足音を響かせながら、前方から3人、後方から4人の灼滅者達が駆けつけてきた。
「え……な、なんなの……」
突如として現れた武装集団を目の当たりにして、戸惑う淫魔。
いかに彼女がダークネスであるとはいえ、さすがにすぐ状況を把握するのは困難な事であった。
そうして淫魔が混乱している隙に獅央はパッとビニール傘を放り投げ、同時にスレイヤーカードの封印を解除して武器を手に取り、淫魔を背後から急襲し、黒死斬による先制攻撃を食らわせた。
「っ……!?」
ハッと獅央の方を振り返り、何故?といった表情を浮かべながら彼を睨みつける淫魔。
まさか彼女も、獅央をはめたつもりが自分がはめられていたとは夢にも思わなかっただろう。
「女の人を袋叩きなんて卑怯だけど……あなたを倒さないと被害者が出るというのなら、そんな事は言ってられない!」
いつの日にか、正々堂々とした戦いを挑めるだけの強さを身につけてみせると胸に誓いつつ、四生は刃の部分をジグザグに変形させたナイフを素早く振り回し、淫魔の体をズタズタに切り裂いていく。
「っ……ま、待って……お願い……」
甘えた声でそう訴えかける淫魔であったが、彼女の正体を知っている灼滅者達がそのような演技に惑わされるはずはなかった。
とりわけ、ダークネスという存在そのものに対し強い憎しみを抱く智以子に関しては言うまでもない。
「問答無用、なの」
智以子は淫魔の死角から躊躇なく黒死斬を放ち、彼女の足取りを鈍らせる。
更に間髪いれず、自らの体から噴出させた真っ赤な炎を日本刀の刀身に纏わせた錐風が、淫魔に正面から真っ向勝負を挑む。
「――火傷で済むと、思うなッ!」
強く一歩踏み込みながら、錐風は淫魔の右肩目がけて日本刀を力いっぱい叩きつけた。
「ぅっ……もう……許さない……!」
歯を食いしばり痛みに耐えつつ、淫魔は憎悪に満ちた瞳でギロリと錐風を睨みつけ……懐からスゥッと取り出した折りたたみ傘をフェンシングのように構え、錐風の腹部目がけて鋭い突きを放った。
その瞬間、凄まじい衝撃が錐風の体を駆け巡る。一般人であれば、そのまま腹部を貫かれてしまっていただろう。
「……!」
思わずその場に崩れ落ちそうになる錐風であったが、簡単に膝をついてなるものかと自らを奮い立たせ、両足にしっかりと力を込めてどうにか踏みとどまった。
淫魔の強烈な攻撃を食らい、著しく体力が低下した仲間を救うため、リリーは治癒の力を宿した温かな光によって錐風を照らし、更に源一郎が正体を虚ろにし妨害能力を高める「夜霧」を前衛の3人の周囲へと展開し……2人の努力の甲斐あって、錐風はかなり体力を回復させる事ができた。
続く花音はスゥッと息を吸い込み……伝説の歌姫を思わせる神秘的な声で歌い始めた。
それは辺りの雨音に遮られる事なく辺り一帯に響き渡り……それを聴いた淫魔を催眠状態へと陥れる事に成功した。
そして、仲間達が淫魔と攻防を繰り広げている間に、紬はアルティメットモードと高速演算モードを発動させ、やや露出が多めな戦隊もののような衣装を身に纏いつつ、周辺環境や弾道計算を行うべく脳の演算能力を高速化、最適化させるのであった。
●
「フフ……逃がさないよ」
薄らと笑みを浮かべつつ、再度錐風に襲いかかろうとする淫魔であったが、そんな彼女の前に獅央が颯爽と立ちはだかった。
「俺とお話するんだろ?浮気ダメ」
「……そうね、君にもお礼をしないとね」
淫魔はそのまま攻撃の矛先を獅央に変え、傘をバットの如く豪快にスイングさせ、彼のわき腹へと食いこませた。
「おうわっ!?傘は殴る道具じゃないの!」
そう軽口をたたきつつ、獅央も潜血の如き赤きオーラを宿したロケットハンマーを振り回し、淫魔の腹部へとそれを叩きつけてダメージを与え、同時に相手の生命力を吸収して己の体力へと変換した。
とはいえその回復量は微々たるもの……ふらふらと数歩後ずさり、グッと傷口を抑える。
致命傷とまではいかなかったものの、その傷は決して浅くはない。
すぐさまリリーは、獅央のわき腹に向かいヒーリングライトを照射し、それを浴びた瞬間獅央の体からスゥッと痛みがひいていき、完全にとは言わないまでもある程度体力を持ち直した。
「あなた、邪魔よ……」
まずは回復役のリリーから倒してしまおうと、淫魔が傘の先端部分を彼女に向けて魔法の光線を発射しようとした……その瞬間、四生が淫魔の懐へと跳び込んできた。
「っ!」
咄嗟にバックステップで距離を取ろうとする淫魔であったが、四生はしっかりそれに食らいつき、ジグザクスラッシュによって淫魔の胸部を切り刻む。
「まったく、自分の傘があるなら最初から使えばいいだろう?」
続く錐風は半ば呆れ気味にそう言い放ちつつ、全身全霊をかけ、上段に構えた日本刀を目にも止まらない速さで振り下ろした。
「……!」
咄嗟に傘でそれを受け止める淫魔であったが、そのまま押し切られてしまい、体をざっくりと切り裂かれてしまう。
それだけではなく、錐風の放った雲耀剣により淫魔の傘は折れ曲がり、使い勝手がかなり低下してしまった。
「罪もない人を誘惑し、危険に陥れる事は決して見過ごす事はできません」
宿敵である淫魔を倒すため、大勢の人達の命を救うため、花音は勇気を振り絞り、グッと拳を握りしめながら目標との距離を詰め、渾身の力を込めた右ストレートを相手の顔面へと炸裂させ、その瞬間相手の体内に魔力を流し込み、内側からダメージを与えていく。
更に源一郎が、自らの体に降ろしたカミの力により生み出した激しく渦巻く風の刃を撃ち放ち、淫魔の体をスパスパと切り裂み……その間に紬はバスターライフルを構えて狙いを定め、自身の心の奥底に潜む暗き想念を集束させ作りだした漆黒の弾丸を発射し……見事淫魔へと命中させ、彼女の体を撃ち貫いた。
その直後、淫魔は苦痛に表情を歪めながらガクッとその場に片膝をついてしまう。灼滅者達の猛攻の前に、さすがの彼女も体力が限界へと近づいているようであった。
「お、おねがい……見逃して……」
肩を震わせ、瞳に涙を浮かべながらそう懇願する淫魔であったが……、
「死になさい、なの」
智以子は聞く耳を持とうとはせず、冷たくそう言い放ち……鞘に納めていた日本刀を一瞬にして抜刀させ、淫魔の体に横一文字の斬撃を刻みこんだ。
「ぐぅぁ…………」
断末魔の唸り声をあげた後、淫魔はそのまま前のめりにバシャッと音をたてながら崩れ落ち……やがて周囲の景色と同化するようにして、ゆっくりと消滅していったのであった。
●
「長居は無用、なの」
目標が消滅した事を確認するやいなや、智以子はすぐさまその場から立ち去っていく。
滅ぼすべきダークネスがまだ無数に存在する以上、いちいち感傷に浸っている暇はない、というところだろうか。
そんな智以子とは対照的に、花音は弔いの意を込め、両手を合わせて静かに黙祷を捧げる。
たとえ敵同士であったとしても、命の価値に変わりはないという事なのだろう。
「淫魔って何で発生するのでしょうねぇ……」
雨の中、橋の上で来るかどうかもわからない相手を待ち続けるなどというのは、なんだか寂しい話であるなとリリーは感じる。
「これは風邪を引く前に帰って風呂だな……」
ため息交じりにそう呟きながら、錐風が智以子の後を追うようにして歩きだし、四生もまた、今更あまり意味がないだろうと承知のうえで、傘をさし直して帰路に就く。
「あれ、ビニール傘どうしたっけ?」
仲間達と同じように帰還するべく、傘を回収しようとする獅央であったが、いくら辺りを見回してみても傘は一向に見つからない。
実は戦闘開始時、傘を手放す時あまりにも勢いよく放りだしてしまったため、傘は橋から落ちてしまい、そのまま川をどんぶらこっこと流れていってしまったのであった。
そうと知らない彼はしばしの間懸命に傘を捜索するが……やがて諦め、全身ずぶぬれになりながら、その場をあとにしていくのであった。
作者:光輝心 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2012年9月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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