クリスマス商戦で賑わう街の片隅に、ソレはいた。
「クソッ、ドイツなら今頃僕は……」
その姿は人型のクッキー、というかクッキーで出来た人とでも言うべきか。彼の名前はレープクーヘン怪人。ゲルマンシャーク配下のゲルマンご当地怪人の残党だ。
「あのー、ジンジャークッキー怪人さんですか?」
レープクーヘン怪人の背後から、サンタのコスプレをした淫魔が話しかける。
「違う! 僕はレープクーヘンだ!」
「えーと、失礼ながらどう違うのでしょうか?」
「うるさい!」
「きゃあ!」
レープクーヘン怪人はレープクーヘン手裏剣を飛ばし、淫魔を襲った。
「ラブリンスター配下の淫魔がゲルマン怪人に接触するのを予知しました。皆さんにはゲルマン怪人の灼滅をお願いします」
冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)は湯呑を傍らに置き、説明を始める。
朱雀門のサイキックアブゾーバー作戦で消耗したラブリンスター勢力は、他のダークネスを取り込もうとしている。しかしこのままでは淫魔は交渉に失敗し、やられてしまう。
「相手はゲルマン残党の1人レープクーヘン怪人です。ジンジャークッキーと一緒にされたことに腹を立てたようですね」
レープクーヘンとは蜂蜜とスパイスを使って作るクッキーで、クリスマスの時期によく食べられる。これでお菓子の家を作って飾ることもあるとか。
「介入できるのは淫魔が怪人の攻撃を受ける直前からです。なお、淫魔は逃走すしようとするので共闘はできません」
レープクーヘン怪人はシャウトとご当地ヒーローのサイキックに加え、レープクーヘン手裏剣を使う。これは見かけによらず高い攻撃力を持つので注意が必要だ。
また、人通りが少ない場所ではあるが、念のため人が来ないように対策しておく必要はあるかもしれない。
「淫魔が倒されてから戦闘をしかけても構いません。淫魔を助けるかは皆さんにおお任せします。……それでは、よろしくお願いします」
参加者 | |
---|---|
早鞍・清純(全力少年・d01135) |
森本・煉夜(斜光の運び手・d02292) |
神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337) |
水澄・海琴(かっとおふすたいる・d11791) |
霧月・詩音(凍月・d13352) |
天堂・リン(町はずれの神父さんと・d21382) |
居待月・三樹(蝙蝠・d30985) |
伍伯・莱(葉剣士・d31102) |
●喋るレープクーヘン
「……れーぷくーへん、初めて、聞きました、です」
立ち入り禁止の看板を用意しながら、神宮時・蒼(大地に咲く旋律・d03337)が呟いた。ドイツではお馴染みなのだが、日本ではあまり知られていないので、やはりそのお味が気になるところである。
「これでOKかな?」
水澄・海琴(かっとおふすたいる・d11791)も手伝い、看板の設置は完了。バベルの鎖に引っ掛からないよう、事前準備は最小限にしなくては。
「ジンジャークッキーとレープクーヘン、俺どっちもよくわからないけど、調べてみたらどっちもおいしそうっていうのはよくわかった!」
と、元気に語るのは早鞍・清純(全力少年・d01135)。出発する前にお腹が減る画像を見たものだからテンション上がり気味である。
「レープクーヘンか、ドイツではクリスマスが近い今が本番なんだろうな。そういえば、俺も見た事はあるが食べた事は無いな」
森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)は過去に見た実物を思い浮かべながら、味を想像してみる。少し気を付けてみると、街のどこかでレープクーヘンを見つけることができる……かもしれない。
灼滅者たちが隠れて待機していると、人型のクッキーが姿を現した。クレイアニメのように動くあれが、レープクーヘン怪人に違いない。よく見ると拳(?)を握って悔しそうにしている。
「あのー、ジンジャークッキー怪人さんですか?」
そしてそのレープクーヘン怪人の背後から、サンタのコスプレをした淫魔が話しかけた。
「違う! 僕はレープクーヘンだ!」
「えーと、失礼ながらどう違うのでしょうか?」
「うるさい!」
レープクーヘン怪人がその手にレープクーヘンを生み出し、淫魔を睨む。
「ちょっと失礼しまーす!」
「なんだ!?」
そしてその瞬間、両者の間天堂・リン(町はずれの神父さんと・d21382)が流星のようにとび蹴りで乱入。星のような煌めきが散り、怪人が戸惑いの声を上げる。
「戦・嵐・轟・臨! バカめ、世界征服を夢見る者ならば小さいことで荒れるでないわ!」
海琴も怪人をビシッと指差し、殲術道具を纏ってその前に立ちふさがる。さりげなく淫魔にチラッと視線を送るが、クリスマスのバイトみたいな淫魔はキョトン顔。
(「はよお逃げ!」)
「あのー、何かの勧誘でしょうか?」
「そっちじゃねー!」
さらにメッセージを書いた名刺を投げるも、淫魔は納得いかない様子。
「サンタさんに乱暴するなんて、悪いクッキーさんですね。……今のうちに撤退して下さい、援護します」
「え? ああ、はい」
伍伯・莱(葉剣士・d31102)に言われ、淫魔はやっと自身の置かれた状況を理解し始めたようだ。
「……怪人の攻撃を受けて死にたくなければ、さっさと何処かへ行ってください。邪魔です」
「はいいいい!」
「じゃあね!」
「ラブリンスターによろしくお伝えください」
そして霧月・詩音(凍月・d13352)の今すぐ去らねば殺すと言わんばかりの視線に射抜かれ、清純とリンに手を振られながら、淫魔は背中を向けて走り去っていった。莱は名前くらい聞いておきたかったのだが、案の定その余裕はなかった。
「なんだか知らないけど、僕の邪魔をするとはいい度胸だ。ぶっ殺してやる!」
怪人は無数のレープクヘンをその手に手挟み、灼滅者たちに襲いかかった。
●空を舞うレープクヘーン
「クッキー怪人かぁ、あんまり斬り応えなさそうだなぁ。やっぱ肉をザクゥっとやるのがいいんじゃんかぁ~」
銃とナイフをおもちゃのようにくるくる回して弄び、居待月・三樹(蝙蝠・d30985)が白炎を放って味方を包み込む。本音を言えば淫魔も一緒に殺害したかったのだが、今回は淫魔を助けるのが全体の方針。仕方ないので、今は怪人の息の根止めることに集中する。
「……制約の、呪いを、貴方に……」
蒼は指輪を怪人に向け、呪いを込めた弾丸を撃ち出した。魔弾はギリギリで怪人を捉え、その動きをわずかに鈍らせる。
「今日のおやつはレープクーヘンと決めているのです……逃がしませんよ!」
実は今日はレープクーヘンを食べに来たリン。目の前の敵がもうおやつにしか見えていない。素早く動く怪人に追いすがり、割って砕こうと杖で打ちつける。弾け飛ぶ欠片をキャッチしてモグモグ。
「レープクーヘン怪人、超おいしそう!」
写真で見たレープクーヘンの実物を前に、さらに興奮する清純。蜂蜜をたっぷり使ったお菓子と言われると、否応にも期待が膨らむ。
「クリスマス破壊ミサイル!」
魔力を手の中に収束させて矢を作り出し、光放つ矢を怪人に向けて解き放った。魔力の矢が弧を描いて怪人に突き刺さり、ダメージを与える。しかしクリスマスに恨みでもあるのかと聞きたくなるようなネーミングである。
「僕の技の冴え、とくと見るがいい!」
レープクーヘン怪人が両腕を交差させ、構えをとった。そして腕を開き、無数の超硬レープクーヘンを灼滅者たちに浴びせる。レープクーヘンでも硬いものはすごく硬いらしい
「ばっかもーん! 己の象徴たるレープクーヘンを投げつけるとは何事か!」
「違うね、象徴だからこそ投げるのさ! あいつらを見ろ!」
「おー、面白い味だな!」
「本場の味は違いますねー」
「あ、ずるっ」
海琴の指摘に、怪人は悪びれることなくドヤ顔(?)で反論。怪人が指差す先にはダメージを受けながらもレープクーヘンを食べる清純とリンの姿があった。
「……ゲルマンシャークや、ロシアンタイガーの、残党は……他にも、いらっしゃる、のですか?」
「僕が聞きたいよ! ていうか残党っていうな!」
数名がふざけてる間に蒼は真面目な質問をするが、怪人はそれを一蹴。とりあえずレープクーヘン怪人が孤立していることだけはわかった。煉夜は槍を足に突き立てて淡々と怪人を攻撃し、機動力を奪う。
「撃ち殺されるのと斬り殺されるの、どっちがお好みぃ? 私は……斬り殺す方かなぁ」
三樹が危ない微笑を浮かべ、クッキーの体にナイフを食い込ませた。血の代わりにスパイスの香りが漂い、鼻孔をくすぐる。
(「……まだゲルマン怪人の生き残りが居たんですね」)
ならば灼滅あるのみ。淫魔を見逃してしまった分、この怪人は確実に灼滅する。詩音の足元から影が伸び、怪人を呑み込んだ。
●踊るレープクーヘン
8対1と数の上では有利な灼滅者たちだったが、レープクーヘン怪人は見た目と裏腹にすばしっこく戦場を動き回り、なかなか攻めきることができなかった。
「秘技! 特大レープクーヘン!」
「そうそう、イスヒェンっていう家のヤツが――ってうわあっ!」
清純目掛け、家の形をした、一際大きなレープクーヘンが飛んでいく。ちなみにドイツでは色々な形に焼いたレープクーヘンを使ってお菓子の家を作って飾ったりもするらしい。食欲と好奇心を刺激され動きの止まった清純に、特大レープクーヘンが直撃した。
「なにが手裏剣だこのニンジャもどき! 美味しい食べ物を粗末にするな!」
「粗末になどしていない!」
「お、これも美味しいぞ!」
「あたしも食べる!」
「僕にもいただけますか?」
海琴は両拳にオーラを集め、その手で斬艦刀を振るった。気功の砲弾が斬艦刀を通して射出されるが、一緒に放った言葉ごと躱された。しかし海琴は怪人そっちのけで清純やリンとレープクーヘン試食会を始めてしまう。海琴がそんなことしている間にも攻撃を続ける、健気なビハインド・助手子であった。
「これでどうです?」
一部がレープクーヘンを楽しむ中、莱は真面目に攻撃を続ける。バベルの鎖を集中させた瞳で怪人を睨み、緑の光でできた短剣でクッキーの体を切り裂いた。
「……奈落へ、堕ちろ……!」
蒼は自身の腕を鬼のそれに変え、怪人に力任せに叩きつける。しかし怪人はその薄い体を反らし、紙一重で避けてみせた。
「んも~、そんなに暴れないでよぉ、上手く綺麗に斬れないじゃん。それともカットされるより砕かれる方がお好みぃ?」
「どっちもイヤだよ!」
三樹が不気味に笑い、怪人に照準をつけてライフルからビームを撃ち出す。だがビームは怪人の頭を掠め、虚空に消えた。
「もう、わがままなんだからぁ」
「誰がだよ!」
不満を漏らす三樹に、怪人が思わずツッコむ。いくらダークネスとて生き残るには必死なのだ。
「そろそろ大人しくしてもらおうか」
煉夜が槍を真横に薙ぐと、妖気が穂先から迸り、氷柱となって怪人を襲った。怪人のクッキー肌に、氷の棘が刺さる。詩音は無表情を張りつかせ、影を刃にして怪人を一閃。その感情の読み取れない横顔はまるで氷のようだった。
「……逃がしません……」
蒼の小さな影が地を走り、怪人へと迫る。影は怪人の目前で形を変え、植物の蔓のように絡み付き、四肢を束縛する。
「あなたをブッ倒してからお腹一杯食べるとしましょう……!」
戦闘が長引き、空腹が大きくなってきたのだろう。リンはハンマーのロケットを点火して敵に急接近し、勢いのまま鎚を叩きつけた。
●敗れるレープクーヘン
泥沼になりながらも、戦いは灼滅者優位で続いていた。灼滅者たちもけっこう傷ついているが、怪人を倒すまであと一息というところ。
「クリスマス貫通キャノン!」
清純が両手を重ね、リアじゅ――怪人への怒りを気に込めて放った。クリスマスは家族と過ごす方が本場っぽいと清純は思うのだ。
「やっぱりクッキーじゃなぁ」
怪人をナイフでザクザクしつつ、不満をもらす三樹。物理的に薄っぺらくて感触が物足りないようだ。執拗に足回りを狙っていた煉夜も、トドメを刺そうと光を帯びた拳で連撃を叩き込む。
「……闇の、花弁に、呑まれて、散れ……」
蒼の影が花開いて怪人を呑み込み、吐き出された怪人を莱が光の剣で追撃する。そして詩音の指輪から放たれた魔弾が、静かに怪人を撃ち抜いた。
「……大体、ドイツのお菓子といえば日本ではバウムクーヘンです」
「そいつは……ドイツではマイナーだ……」
詩音が言い捨てた言葉に、バウムクーヘンに負けたことを悔やみながらレープクーヘン怪人が朽ちて消えた。
「うん、これにて一件落着、事件解決だな」
海琴は怪人の消滅を確認し、蒼とともに先ほど設置した看板を撤去する。何はともあれ、怪人を倒すことができて一安心。
「それにしても……」
淫魔といえば勧誘のプロだと思ったのだが、簡単に一蹴されるのは煉夜にとって少し意外だった。あまり順調に戦力を集められても恐ろしいが、下手をすると逆にラブリンスターの勢力が減りそうだと思う。
「思ったより食べられませんでしたね……。ん? あれは……」
落胆するリンの目に、ドイツクリスマスフェアと書かれたのぼりが映った。どうやらドイツパンの店がクリスマスフェアをしているようだ。レープクーヘンもあるかもしれない。
「今度こそお腹いっぱい食べましょう……!」
こうして、お腹を空かせた灼滅者数名が目を輝かせて店に急ぐのだった。
作者:邦見健吾 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2014年12月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|