かまくら怪人、インザホーム!

    作者:空白革命


    「うーん、この辺のはずなんだよ……」
     星祭・祭莉(彷徨える眠り姫・d00322)はメモを片手に人んちの庭を歩いていた。
     まあ庭と言ってもそこにもう一軒家が建っちゃうんじゃ無いかなってくらい広い庭なので、お家の人に見つかることはない。
     どころか、この家は随分前に持ち主が行方不明になったという。むしろ逆に見つけてほしいくらいである。
     そんなお庭に祭莉がやってきたのには理由がある。
     ここ新潟に季節限定で活動するご当地怪人がいるという噂をすっげーぼんやりした感じで聞いたのだ。
    「たしか名前はかま、かまく……かまくら怪人……なんだよ」
     うーんと唸りながら庭を歩いていると、ふとお家の縁側にたどり着いた。
     はたと見やる。
     縁側の先。畳の上。
     めっちゃ屋内だというのに、かまくらが建っていた。
    「……えー」
     それはないよという顔で硬直していると、鎌倉が左右にゆっくりと開く。
     かまくらの中心が数センチ開いた所で、内側から誰かの目が覗いた。
    「貴様か。俺様を探しているというのは」
    「えっと……星祭・祭莉、なんだよ。あなたはまかくら怪人さん?」
    「いかにも俺様はかまくら怪人。日本にある全ての家屋をかまくらに変え、かまくらによる世界征服をたくらむ者なり。つい最近活動を再開したが……どうやら本格稼働の前に見つかってしまったようだな」
     値踏みするような視線をうける祭莉。バベルの鎖をバベらせて格を計っているのだ。
    「俺様は雪の季節であれば誰の挑戦でも受けるつもりだ……が、貴様の格は俺様に挑むにはまだ危険。仲間を連れて戻ってくるがいい」
     そこまで言うと、かまくら怪人はぱこっとかまくらを閉じた。
     

     ところ変わって武蔵坂学園。
     学ラン姿のエクスブレインは顎を撫でながら頷いた。
    「なるほど。本格稼働前のご当地怪人を発見したわけじゃな。調べてみたが、星祭ちゃん一人では確かに勝てん。しかし仲間と力を合わせればあるいは……むむむ!」
     
     エクスブレインが唸りながら説明するとこによれば、奴の名前は『かまくら怪人』。
     雪の季節になると動き出し、世界征服をたくらむ悪の怪人……らしい。
     しかし基本は受け身の姿勢をもち、誰かの挑戦はまず受けるという性分も持っていた。
    「挑戦を受ける場合は第一形態『シェルフォーム』で戦うようじゃ。高い防御力と突進による打撃力……これが強みじゃ。しかし相手がある程度強いと分かった所で第二形態『フルオープンフォーム』へと変形する。ご当地怪人としてのスペックをフルに活用してくるから、じゅうぶん注意して戦うんじゃ」
     エクスブレインは現地の詳しい地図と図解資料を手渡し、応援の姿勢をとった。
    「それでは――スレイヤー、ファイト!」


    参加者
    星祭・祭莉(彷徨える眠り姫・d00322)
    ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)
    瑠璃垣・恢(死に沈む・d03192)
    嶌森・イコ(セイリオスの眸・d05432)
    護宮・サクラコ(猟虎丫天使・d08128)
    富山・良太(ほんのーじのへん・d18057)
    桜庭・都子(雪神楽・d21379)
    堺・丁(ヒロイックエゴトリップ・d25126)

    ■リプレイ

    ●かまくら怪人
    「ここなんだよ……」
     手書きのぐにゃぐにゃしたメモを片手に、星祭・祭莉(彷徨える眠り姫・d00322)は立ち止まった。
     顔を上げる。
     そこには古い日本風の門があった。両開き木造瓦屋根。かなりの豪邸のようだが、家主は行方不明だという。一家丸ごと行方不明ということはなさそうなので、この豪邸に一人で暮らしていた琴になるのだが……。
    「ボク一人だとダメだっていわれたけど……今は仲間がいるんだよ」
     ぽん、と両肩を叩かれた。
     右から見下ろすヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)。
     足下には犬用のちゃんちゃんこを着た霊犬ガンマが座っている。
    「これでばっちり。行きましょうか」
     左から見下ろす瑠璃垣・恢(死に沈む・d03192)。
    「ああ、ヒーローショーの始まりだ」
     勿論彼らだけでは無い。門の前には八人の灼滅者が居並んでいた。
     帽子をきゅっとかぶり直す護宮・サクラコ(猟虎丫天使・d08128)。
    「かまくらって氷ですよねい。中が暖かいってどういうことなんでいす?」
     腰の帯を結び直す富山・良太(ほんのーじのへん・d18057)。
    「氷の層が断熱効果を持ってるって聞いたかなあ……実際には中で七輪炊いて暖まるらしいですね」
    「でいすか」
    「でも家の中でまでかまくらにするのは……おうちのなかにおうちつくることになってませんか、かまくらさん」
     頬を指でかく嶌森・イコ(セイリオスの眸・d05432)。
     腕組みした堺・丁(ヒロイックエゴトリップ・d25126)が顎を上げて笑った。
    「まっ、細かいことはいいでしょ。怪人が待ってる。そこに立ち向かうのがヒーローのつとめだよ」
    「ん、ですねー……」
     白い息を吐いて、手を温める桜庭・都子(雪神楽・d21379)。
     少し考えてからインターホンのボタンに指を伸ばした……が、ボタンに触れる前にがこんと扉が鳴った。
    『先日の灼滅者だな。仲間を連れてきたか……よかろう。入るがいい』
     扉がゆっくりと、中へ誘うように開く。
     庭は雪化粧を帯び、長い間留守にされていたというのに美しく整えられていた。
     彼らを誘うかのように、道の部分だけ綺麗に除雪がなされている。
     都子は頷いて、くねった道の向こうを見やった。
    「雪の季節、ですねー」

    ●閉ざされし心、シェルフォーム。
     曲がりくねった道の先、畳敷きの床にどっしりとかまくらが建っていた。
     不思議と内側が闇に閉ざされた穴の部分から、目のような光が覗く。
    「なるほど、俺様に挑戦するに充分な格。あとは試すほかあるまい。この鎌倉の内側まで届くことが、できるかどうか!」
     かまくら怪人は自身を高速回転させると、そのまま突撃をしかけてきた。
    「『やってみなくちゃわからない』か、いい言葉だね!」
     仲間たち前へ飛び出し、踵を大きく後ろに振り上げる丁。
    「堺市ヒーローファイヤーシュート!」
     強烈な勢いでかまくら怪人へシュートキックを繰り出す。勢いのあまり炎が上がる……が、威力は拮抗するばかり。丁はぎりりと歯を食いしばった。
    「ガンマちゃん、いくよ!」
     祭莉は霊犬ガンマやライドキャリバー・ザインの援護射撃を受けながら魔方陣を展開。丁の背後から押し出すように繰り出された魔方陣によって、かまくら怪人はばちんと弾かれた。
     拳を握り込む恢。眼鏡を外すヴァン。
    「追撃、いくぞ」
    「了解、援護します」
     僅かに宙に浮いたかまくら怪人に、恢の拳が叩き込まれた。
     吹き飛んだかまくら怪人が屋敷の縁側に激突。木材をめりめりと破壊しながらも、恢めがけて突撃をしかけてくる。
     突撃ラインの脇へ回り込むヴァン。
     ヴァンは杖をビリヤードキューのように構えると、螺旋のエネルギーを込めて突き込んだ。
     これをうけたかまくら怪人は恢の横をかすめ、地面の雪を引っかき回しながらカーブ。
    「鬼さんこちら、と」
     良太と中君(ビハインド)が二つの掌底を片側の腰で溜めるような姿勢をとった。
     気合いと共にビーム状のエネルギー波を放つ。
     二つのビームはかまくら怪人に命中するが、かまくら怪人は自身を高速回転させることで威力を逃がし、ビームのなかをぐいぐいと迫ってくる。
    「いきますよー?」
     すぐそばまでいつの間にか移動してきた都子が、かまくら怪人へおもむろに槍を叩き付けた。
     ビシリとかまくらにヒビが入る。
     反射的に飛び退くかまくら怪人。
    「おー」
     槍で手をぽんぽんと叩く都子。
     その両脇をサクラコとイコが同時に駆け抜けた。
    「もう一息。いける、サクラコちゃん?」
     イコは両手と両足に炎を燃え上がらせると、雪の地面を駆けた。足跡が焦げ付き、跳躍と同時に炎が白銀に輝く。
    「雪のくせに火に強いとかこれだからサイキックはわかんないでいす……でもこれで!」
     杖をバットのように構えるサクラコ。
     イコの宙返りキックとサクラコのフルスイングが同時に叩き込まれ、ついにかまくら怪人のかまくらが砕かれた。
    「ぐあっ!」
     一部分だけとはいえかまくらを砕かれ、地面をすべるかまくら怪人。
     砕けた部分から顔の一部が覗いた。
    「俺様のかまくらを砕くか。ならば……見せねばならんな、我が素顔!」

    ●かつて求めた夢の形、フルオープンフォーム
    「かつてこの地には男がいた。小さなバラック小屋に住む男だった。妻と三人の息子をもち、そんな家族をやしなうべく働きに働いた。才能があったのだろう。金は儲かった。家はどんどん大きくなり、豪邸になった。だが妻は仕事中に病に倒れ、死に目にも会うこと無くこの世を去った。その事実に絶望した息子たちは家を去り、一人として戻ってこなかった」
     かまくらがゆっくりと開き、膝立ちになった男がその中から現われる。
    「僅かな思い出の中にあったのは、息子の大好きなかまくらだった。それ以外、見当たらなかった。家族を守るため、家をどこまでも大きくしたが……結局必要だったのは、畳一畳にも見たぬかまくらだけだった」
    「それは……あなたの?」
    「いや、知らぬ男の話よ」
     かまくらから現われたのは、しわがれた老人だった。
     その辺の路上にいるような、みずぼらしい老人である。
     老人はゆっくりと両掌を構える。
    「北国かまくら怪人、参上」
    「いいでしょう。では我々も……」
    「むっ!?」
     かまくら怪人は両目を見開いた。
     八人の灼滅者たちが、一斉に輝き出したからである。
    「「アルティメットモード!!」」
     八人の姿が一斉に変化した。
     輝きは豪華絢爛。
     その名は、灼滅者。
     元帥格の軍服に身を包んだヴァンと、人間大の巨大スピーカーセットを両脇に出現させた恢。
    「墓石に刻む言葉は考えたか?」
    「コンビネーションアタックです」
     二人は素早くかまくら怪人の両脇に回り込むと、同時に手刀を繰り出した。
    「「ダンス・マカブル!」」
    「ぐぬう!」
     全身のあらゆる部分にかまくらシールドを発生させて斬撃を耐えきるかまくら怪人。
     両腕をつっぱるように二人を突き飛ばす。庭の木をなぎ倒しながら吹き飛んでいく恢とヴァン。
    「こんっ……なものか!」
    「まだまだ! 必殺――!」
     豪華な西洋甲冑に身を包んだ丁が両手を翳し、豪華な武者鎧を纏った良太が両手を腰の辺りで溜める。
    「「ドッペルシュトラール!!」」
     同時に放たれたビームがかまくら怪人に直撃。しかしかまくら怪人もまた両手の平からビームを発射。交差したビームは良太と丁にも直撃した。
     爆発がおこり、吹き飛ばされる二人。肩を抱いたかまくら怪人だけがその場に残った。
    「いまでいす!」
    「二撃必殺でございますよー?」
     桜模様の振り袖を着込んだサクラコと、桜模様のドレスを着込んだ都子が爆発の煙を抜けて突撃。
    「双桜破!」
    「そぉい!」
     都子の氷塊腕とサクラコのどんぶりが叩き込まれる。ぼろぼろの腕をクロスしてガードするかまくら怪人。
     吹き飛ばされはしなかったものの、地面に深く二本線が刻まれた。
    「まだだ、まだ俺様を倒せんぞ!」
     突きだしていた都子たちの腕をひっつかむと、豪快に振り回して放り投げる。空中で爆発がおこり、二人はそのまま吹き飛ばされた。
    「まだまだお見せするわ。祭莉ちゃん!」
    「正義の一撃なんだよ!」
     イコと祭莉が突撃。二人の足跡には花が咲き、通りすがった庭が生い茂った。
     幾重にも連なった花と葉が翼のように広がり、二人は拳を振りかぶる。
    「「トライクロス!」」
     交差した拳がかまくら怪人に直撃。
     ついに吹き飛ばされたかまくら怪人は宙を舞い、屋敷の中へと突っ込んだ。
     畳みをごろごろと転がってから、ゆっくりと膝立ちになる。
     顔を上げ、目を剥いた。
    「これで最後だ」
     恢、ヴァン、イコ、サクラコ、良太、都子、丁、そして祭莉が円陣を組み、かまくら怪人を囲んでいたのだ。
    「いくよ!」
     全員がオーラを集中させる。
     八色の輝きが混ざり合い、黄金となって渦を巻いた。
    「「ミリアルデ・ブリッツ!」」
     全員のオーラが上昇気流の如くかまくら怪人を吹き上げ、天井を破壊して空へと舞い上がらせた。
     空に舞い上がり、かまくら怪人は小さく笑った。
    「その力……見失うなよ、若者よ。さらば!」
     空高く爆発するかまくら怪人。
     花火のように散った彼を見上げ、八人はアルティメットモードを解除した。

    ●かまくらをつくれ
     屋敷の外に出ると、サクラコの鼻につめたいものが当たった。
    「んお? これは……」
    「雪ですねー」
     空に手を翳す都子。
     つられて空を見てみれば、確かにはらはらと粉雪が降っていた。
    「わたし、本当はかまくら好きよ。またいつかお会いしましょ」
     手のひらに雪を握り、目を瞑るイコ。
     その横で、良太が武者鎧を片付けていた。腕組みして見守る恢。
    「それ、普通に着込んでただけだったんだな」
    「すみません。なんだか空気を読まなきゃいけない気がして……」
    「しかし、かまくら怪人……さすがに強かったですね」
     眼鏡をかけ直し、屋敷へ振り向くヴァン。
     壊れた屋敷は本当に廃墟になるだろう。
     庭も朽ちていくだろう。
     じんわりと冷えた心を温めるように、丁はぐっと背伸びをした。
    「さって、帰りに暖かいものでも食べよっか! ラーメンいいよね、ラーメン」
     庭を進み、門をくぐる。
     とはいえ両開きの門をわざわざ開くのもおっくうなので、脇についた小さな扉をくぐってだ。
     すると、門の外で一人の男と出くわした。
     ジャンパーを羽織ったこわもての男だ。
     祭莉と目が合う。
     男は黙ったままだ。
    「あのー、ここの人は行方不明になってるんだよ?」
     その家から少年少女が連れ立って出てくるというのはなかなかバツが悪かったが、男は黙って祭莉たちの顔を見つめた後、くるりときびすを返して立ち去った。
     もうこの家に、誰も訪れることはないだろう。

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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