夢の国にようこそ!

    ●千葉県某所
     『はぁ……、夏休みも、もう終わりかぁ』
     『ずっと、夏休みだったらいいのに……』
     『勉強も仕事せず、お金にも困らず、食べ物があって……』
     『好きな時に起きて、好きな時に寝る。そんな世界があればなぁ』
     『そういや、聞いた事があるか、この噂……』
     そんな感じで広まった都市伝説がある。
     その都市伝説は『一生、好きな事をやって暮らす事が出来る夢の国が存在する』というもので、そこに行った者達は二度と帰ってくる事が無かったらしい。

    「サイキックアブソーバーが俺を呼んでいる……時が、来たようだな!」
     今回の依頼を説明するのは、神崎・ヤマト。
     相変わらず、ポーズも決まっている。

     今回の依頼は都市伝説を倒す事だ。
     都市伝説はピエロのような姿をしており、相手に幸せな幻覚を見せて、深い眠りにつかせる事が出来る。
     そのため、その場にいる一般人達の説得は困難。
     強引にそこから連れ出そうとすれば、『僕達はここに居るのが幸せなんだ。僕達が幻を見ている? そんな訳ないだろ! 僕達が経験したのは、すべて実際に起こった事だ』と言って避難する事を拒むだろう。
     まぁ、それだけ現実で嫌な事ばかりあったんだろうな。
     だから、それが偽りだとしても、幸せな気持ちのまま命を落とすのであれば、本望だと思っているようだ。
     都市伝説もそれが分かっているのか奇妙な笑い声を響かせ、二対のブーメラン状鎌を飛ばして攻撃を仕掛けて来る。
     しかも、一般人達が説得に応じて逃げようとしても、その鎌でグサッと行くから気を付けてくれ。


    参加者
    ビスカーチャ・スカルチノフ(しべりあんぶりざーど?・d00542)
    外甫木・ほのか(魔法少女代理代行補佐見習い・d00553)
    丹生・蓮二(高校生殺人鬼・d03879)
    炎群・烈斗(炎のさだめ・d04353)
    烏丸・伴(荒野を渡る旋風・d04513)
    十・夜兎(食いしん坊・d06429)
    四条・識(シャドウスキル・d06580)
    フランキスカ・ハルベルト(中学生ファイアブラッド・d07509)

    ■リプレイ

    ●夢の世界へ
    「……夢の中に逃げる、か。誰でも強い人間ってわけじゃないからな、その気持自体はわからなくはないんだが……。行くのだって、簡単じゃないだろうに……。しかも死ぬってのは頂けねぇな」
     どこか遠くを見つめながら、四条・識(シャドウスキル・d06580)が仲間達と共に、都市伝説の確認された場所にむかう。
     都市伝説が確認されたのは、夢の国。
     実際には、都市伝説が見せた幻ではあるが、それでも訪れる者が後を絶たないようである。
    「世界でも有数の富と平和に溢れる国、日本……。それでも、日々の暮らしに迷い惑う者は居るのですね。生を戦いに見立てれば、敵は外にも己の内にも在り。時には戦い疲れ、安らぎを求める事もあるでしょう。そこに付け込む都市伝説、許容してはおけません」
     険しい表情を浮かべながら、フランキスカ・ハルベルト(中学生ファイアブラッド・d07509)が口を開く。
     だが、被害者であるはずの者達が、それを苦に思っていない以上、本来ならば関わるべきではないのかも知れない。
     そんな考えが一瞬だけ過ぎったりもしたが、都市伝説を野放しにしておく訳にはいかない。
     例え、本人が幸せだったとしても、それが単なる偽りで命を落としてしまうものなのだから尚更である。
    「幸せは歩いてこないって言うから、自分達で幸せを探しに行ったんだろうけど……。しかも、歩いてくるのは、幸せな国をぶっ壊す俺達とは……、実に皮肉だな」
     やれやれと首を振りながら、烏丸・伴(荒野を渡る旋風・d04513)が溜息をもらす。
     偽りとは言え、幸せな気持ちでいる者達……。
     それを壊す事が正しいのか、間違っているのか、現時点で分からない。
     そういった意味で厄介なのは、確実であるようだが……。
    「きっと、夢の国なら空を飛べるはずにゃ! ……え、夢の国の種類が違う?」
     のほほんとした表情を浮かべ、十・夜兎(食いしん坊・d06429)がニコッと笑う。
     もしかすると、幻を見ている者達の中には、空を飛んでいるケースがあるのかも知れない。
     夢の終わりは、地上への落下。絶望と恐怖。
     それとも、最後まで幸せな気持ちのまま、逝ってしまうのか……。
     考えれば考えるほど、謎は深まるばかり。
     しかし、それを知るためには、自分で体験しなければならない。
     それだけは控えておきたい所である。
    「まあ、ずっと夏休みだったらいいのにっていうのは、分からなくもないですけど、『夢のような話』というわりには、ちょっと夢の無い話ですね。わたしはもう少し刺激のある日常がいいです」
     苦笑いを浮かべながら、外甫木・ほのか(魔法少女代理代行補佐見習い・d00553)が答えを返す。
     どうやら、ここに来た者達の大半が普段の生活に嫌気が差し、何も考えずに幸せに暮らす事が出来る道を選んだようである。
     ある者は勉強や仕事に嫌気が差して……。
     また、ある者は人間関係に嫌気が差し……。
     そして、またある者は生活に疲れ……。
    「ヤー、夏休み、終わってとてもザンネン」
     改めて夏休みが終わった事を自覚しつつ、ビスカーチャ・スカルチノフ(しべりあんぶりざーど?・d00542)が都市伝説の確認された場所に視線を送る。
     そこにはピエロの恰好をした都市伝説がおり、眠りについた一般人のまわりをピョンピョンと飛び跳ねていた。
    「さて……ここが楽園、ね。なるほど、居心地はよさそうだな。んじゃ、楽園の破壊者になろうかね」
     都市伝説をジロリと睨みつけ、識が含みのある笑みを浮かべる。
     だが、都市伝説はまったく気にしていない様子で、楽しげに踊って識達を夢の世界に誘った。
    「う~ん、寝る子は育つとか言うし寝るのは好きだけど、ずっと寝てたら体が痛くなるぜ? 大体このピエロ、なーんか気に入らねーんだよな。顔か? 声か?どっちでもいいけど、とにかく全力でやっつける!」
     都市伝説と対峙しながら、丹生・蓮二(高校生殺人鬼・d03879)が宣言をする。
     その途端、激しい睡魔に襲われ、身体の自由が利かなくなってきた。
     ……何とも言えない幸せな感覚。
     このまま眠る事が出来たら、どれほど幸せな事か……。
    「へっ、そうやって人に夢を見させておいて、その間に命を奪うってか? そんなこと、俺達がさせないぜ! 正義のヒーロー、バーニングレッドは決して悪を許さないっ! 俺はピエロを止める。ここは任せろ! みんなはここで眠っている人達を、先に逃がすんだ!」
     都市伝説の行く手を阻み、炎群・烈斗(炎のさだめ・d04353)が仲間達に声をかける。
     だが、激しい睡魔が襲い掛かってきたため、意識を保つだけでもやっとであった。

    ●睡魔
    「いえ、彼らは都市伝説に眠らされたまま、もう暫く夢を見ていて貰いましょう」
     被害者達の説得が難しいと判断したため、フランキスカが炎斗と連携を取りつつ、都市伝説に攻撃を仕掛けていく。
     それに被害者達の説得に失敗すれば、都市伝説の味方に付く可能性も捨てきれない。
     そんな事をすれば、確実に犠牲が出てしまうため、それだけは何としてでも避けたいというのが本音である。
    「でも、一カ所にまとめた方がいいかも。何だかウッカリ踏んでしまいそうにゃ」
     何度か被害者達を踏みそうになり、夜兎が乾いた笑いを響かせた。
     そのうち、何回かむにっとした感触があったため、もしかすると踏んでいたのかも知れない。
     いや、踏んでいる。
     ……確実に!
     ビハインドの乙姫が注意して動いているせいか、被害者達に対して申し訳ない気持ちがあったり、なかったり。
     その間に都市伝説が奇妙な笑い声を響かせ、ブーメラン上の鎌を飛ばしてきた。
    「させるかっ! 絶対に被害は出させねえ!! どれだけ幸せな夢かは知らないけどな、生きている以上の幸せなんてないんだよ! 死んじまったら、それで終わりなんだ!! 俺の熱い魂で目を覚まさせてやるぜ!!」
     自らの身を盾代わりにして被害者を守り、烈斗が唇をグッと噛み締める。
     身体に突き刺さった鎌のせいで、全身に激痛が走って震えが止まらない。
     それでも、ここで怯む訳にはいかなかった。
     自分の背後にいる被害者達を守るためにも……!
    「……やるしかないか」
     少し面倒臭そうにしつつ、蓮二が気乗りしない様子で、霊犬にアイコンタクトを送る。
     それに気づいた霊犬が被害者達を守るようにして陣取った。
     だが、都市伝説も諦めない。
     すぐさま別の鎌を取り出し、再び投げつけてきた。
    「予測通りだ、もらった!」
     ほのかと連携を取りながら、識が都市伝説に戦艦斬りを炸裂させる。
    「私達を敵の回したのが、運の尽きですね」
     都市伝説の背後に回り込み、ほのかがバスタービームを撃ち込んだ。
     続けざまに攻撃を喰らった都市伝説が悲鳴をあげ、その場にペタンと崩れ落ちていく。
    「ピエロの作った楽しい楽しい夢の国も、これにて閉園だな」
     ライドキャリバーの空に被害者達を守らせ、伴が都市伝説に冷たい視線を送る。
     それでも、都市伝説は落ちていた鎌を拾い上げ、勢いよく立ち上がると再び伴達に攻撃を仕掛けていった。
    「ターゲットロック」
     素早い身のこなしで横に飛び、ビスカーチャがバスタービームをぶっ放す。
     それに合わせて、霊犬の八丸が都市伝説の死角から、勢いよく食らいつく!
    「今だ、みんな! 一気に攻撃を仕掛けるぞ!」
     拳に炎を纏わりつかせ、烈斗が都市伝説に道産子ダイナミックを放つ。
     その一撃を喰らって怯んだ都市伝説が、持っていた鎌を足元に落とす。
    「汝、癒え安らぐこと能わず。慟哭せよ!」
     一気に間合いを詰めながら、フランキスカが都市伝説にデスサイズ放つ。
     それと同時に都市伝説の首が宙を舞い、断末魔を上げて消えていく。
     しかし、都市伝説が消滅した事によって、眠りの効果が完全に消滅し、被害者達が次々と目を覚ました!

    ●夢の終わり
    「どうして、こんな所で眠っているのかは知りませんが、もう夏も終わりです。このまま外で寝ていると風邪をひいてしまいますよ?」
     都市伝説の事は何も語らず、ほのかが被害者達に声をかける。
     だが、被害者達は全く納得していない様子。
    「俺達は楽園にいたんだ。誰にも気を使わず、好きな事が出来る楽園に……」
     それが偽りである事は理解していたようだが、やはり納得していない。
     自らの手をじーっと眺め、『本当はここが夢の世界で、あっちが現実じゃないのか。こんな悪夢が現実であるはずがない。きっと、夢だ』と自分自身に言い聞かせているようにも見えた。
    「見ての通り楽園は終了だ。どうするよ、逃げ場所はなくなっちまったぜ? それに、楽園を目指すだけの気力があるんなら、現実で頑張れよ。その意気があれば案外どうとでもなるもんだ。後は……お前ら次第だ」
     被害者達に視線を送り、識がスバッと言い放つ。
    「頑張ったさ。いやと言う程な。でも、結局認められるのは、調子のいい奴だ。上の人間が見えるところできちっとやって媚びさえ売っていればいいんだから……。コツコツ努力した処で報われねえよ!」
    「何をやったって上手くいかねえんだから仕方がねえだろうが! 世の中、金と権力さえあれば何だって出来る。俺にはどっちもねえから無理なんだよ!』
     と言って感じで完全に後ろ向き。
     話を聞いている方がイライラして、ドツキ倒したくなるレベルであった。
    「なんてダメダメな人達デスカ。縄でも付けて引きずっても連れて帰りましょう」
     不機嫌な表情を浮かべながら、ビスカーチャが被害者達を縄で縛り上げようとする。
     その途端、被害者達が殺気立った様子で、『お前らのせいだ』、『お前達が悪い』と呪うように言葉を吐き捨てた。
     やはり、都市伝説を倒す前に説得しておくべきだったのかも知れない。
     どちらにしても、非難されるのは目に見えているが……。
    「お前らは好きなように何でも出来ないのが嫌になったから、ここに来たんだろ? なら何でも好きなように出来るココこそ、不自然な甘い甘~い夢だって分かってるはずだ。それこそ現実じゃないってさ」
     半ば呆れた様子で、伴が被害者達に説得を試みた。
     もちろん、彼らだってその事は理解している。
     しかし、あの心地良さを知った上で、現実に戻る事など、地獄に落ちろと言っている事と同じ意味にしか聞こえなかった。
    「夢の国は、あくまで夢。そろそろ、目を覚ませ。それとも、あのまま餓死した方が幸せだったのか? そうじゃないだろ?」
     深い溜息をつきながら、蓮二が頭を抱える。
     何やら妙な感じで思考がループしている様子。
     この状況で説得するのは、実に骨が折れそうだ。
    「俺は……餓死してもよかった。例え生きていたとしても、いい事なんてありゃしない。それこそ、生きたまま死んでいるようなものなのだから……。それに、俺達がいなくなった後、自分達の席が残っていると思うか? とっくに別の奴が座っている。世の中そんなもんさ」
     話せば話すほど、被害者達は後ろ向きになっていった。
     おそらく、これが原因で社会に適用する事が出来なかったのかも知れないが、その事をズバリと言ってしまえば、余計に面倒な事になってしまう。
    「だからと言って、夢や幻にいつまでも甘えちゃダメにゃ。夢は幻、必ず消えちゃうんにゃよ? でも自分がこうありたいと頑張って得たものは消えないはずにゃ」
     被害者達の気持ちを察し、夜兎が優しく語りかけていく。
    「……消えないものか」
    「今まで積み重ねてきたもの……」
     それが夜兎には何だかわからなかったが、ひとりひとり別々の何かがあったようである。
    「まあ、幸せは歩いてこないっていうし、もう少し頑張ってみないか? 山も険しいほど達成感があるっていうだろ? もしかすると、まだ途中なのかも知れないし、諦めたらそこで終わりだぜ」
     傍にいた被害者の肩を叩き、伴がニコッと笑う。
     努力すれば報われるという保証はないが、ここで立ち止まっていて幸せになれる事はない。
     ならば、例え1%でも可能性がある方を選ぶべきである。
    「……貴方達の帰りを待つ人達と、何より貴方達自身の為に、在るべき所へ御帰りなさい。疲れたならば夢に遊ばず正しく休み、また戦いなさい。辛くとも、それが生きる事です」
     そう言ってフランキスカが、被害者達に別れを告げた。
     その後、彼らがどういった道を選択するのか分からない。
     だが、今よりも幸せな道を選んでほしいと、願わずにはいられなかった。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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