クリスマス2014~クリスマス皆で行こう富士急へ

    作者:西灰三

    「良い句が詠めたよ!」
    「ちょっと待って下さい」
     有明・クロエ(中学生エクスブレイン・dn0027)の発言に水藤・光也(闇払い・dn0098)がとりあえず突っ込んだ。
    「え? 何か問題」
     きょとんとした表情でクロエが言うのを見て光也は諦めたように首を横に振った。
    「いえ、続けて下さい」
    「というわけで皆で富士急ハイランドに行こう!」
    「……戦いに?」
    「ノン、遊びに。なんでクリスマスなのに戦わないといけないの?」
     ですよねー。
    「別にクリスマスだからって、カップルでロマンスしなきゃいけないとか、RBしなきゃいけないとか、闇鍋つつかなきゃいけないとか、そういうのはないしね!」
    「何でそんな後半の説明がいやに具体的なんですか」
    「それはともかく! みんなで遊びに行こう!」
    「富士急って、富士急ハイランドでいいんですよね」
    「うん、もちろんブレイズゲートじゃない方だよ」
     遊びに行くというのだから当たり前である。
    「高飛車、ええじゃないか、FUJIYMA……」
    「それって何の名前ですか?」
    「絶叫マシンだよ! 他にもたくさんあるから続きはwebで!」
    「もっと、こう、普通なのはないんですか」
    「あるよ、メリーゴーランドとかシャイニングフラワーって言う大観覧車とか」
    「それなら、怖いもの苦手な人でも……」
    「大観覧車にはスケルちゃん、スクムくんって言う名前のもあるけど」
    「それって壁が透けてて足がすくむって意味ですよね!?」
     とまあなんだかんだで盛りだくさんなのである。
    「同じクラスの人とか、同じクラブの人とか、気になるあの人とかを誘って楽しんじゃおう! ……って言う訳で、はい」
    「これは?」
    「チラシ。ビラ配り頑張ってね!」
     とまあ、せっかくのクリスマスの機会であるわけで。親交を深めたり、ストレス解消に叫んでみたり、そんなクリスマスでもいいのではないだろうか?


    ■リプレイ


     富士急ハイランド、ここは世界屈指のアトラクションが多数取り揃えられた絶叫マシンファンの集う遊園地である。もちろんその中には灼滅者達も含まれる訳で。
    「ひゃぁぁ!」
    「きゃああああ!!!」
    「うわぁああああ!!!」
     【光画部】の面々が交じり合った悲鳴を上げながら楽しんでいるのは高飛車と名付けられたマシンである。静から動への動きの変化が激しい最新鋭と言ってもよいアトラクションである。ふらつく夏南美をまぐろが支えるが、その表情もあるなと負けないくらいの笑顔が浮かんでいた。そんな彼女らと裏腹に流零は不安げにコースを見上げていた。
    (「うわ、角度凄い…」)
     隣のモカは既にこの時点でテンション高めである。で、二人して乗った。そして落ちた。
    「でひゃひゃひゃひゃー!」
    「!?」
    「ひょもりの声聞こえますかー、楽しんでますかー!」
    「はーい楽しんでまーす……」
     流零は彼女の絶叫から笑いへの変化に驚くが、彼もまたそれどころではない。果たしてこれは序の口、二人は次々と挑んでいく。
    「…………!」
    「速えーっ!」
    「ああああああ!」
     允と円と成海の三人はどこか疲れたが満足気な様子でマシンを降りる。
    「あー、目が乾燥してる」
    「こっちは髪がめっちゃヤバイことになりました、確かに目と肌も痛い」
    「……あの軌道と速度と高度は空飛ぶ箒じゃだせねーよな……」
     言いつつも彼らはドドンパへと向かう、戦慄迷宮に行く行かないと話しながら。
    「わあ!」
     マシンが動き始め、維が驚いたように声を上げるが、きっとやっと始まったという意味だろう。そんな【虹色】の仲間の与四郎の心臓は高く波打った。果たして乗る前に撮った写真で顔は強張っていなかっただろうか。彼とは逆に寿々は今か今かとゆきと話しながらその時が来るのを待っていた。まるで恐怖ですらも楽しもうというように。
    「なんでそんなに楽しそうなの……!?」
     巳桜は自分とは違う表情を見せる寿々を不思議そうに見ている、彼女の隣のゆきも写真の時は満面の笑顔であった。どちらかと言えば彼女は少数派であり、殆どの者達はどこか楽しそうである。
    「怖いのか、楽しみなのか、これも絶叫系の醍醐味ってやつなのね」
     アノンの発した言葉がこの場に置いての真理なのだろう。やがてマシンは登り始めて空に近づいていく。その途中で啓太郎の顔を颯人は見た。いつもより上気した表情を見て、もう片割れとは違う様子に面白さを抱いた。そして勿論楽しみにしているのは、啓太郎だけではない。自分もまたこの時を待っていた、そして、落下。
    「―――!」
     それぞれが大声で口々に叫ぶ、恐怖を、楽しさを、それぞれに込めて。その中で一際大きな声で叫ばれたまなむの言葉は届いただろう。
    「みんなありがとう!」


    「……なあ影二、あれなんて書いてある?」
     豹が優しい顔で影二に問いかけた、きっと普段ならそんな顔は早々しないだろう。
    「ん? ……『ええじゃないか』? ……は!?」
    「お、「ええじゃないか」っつったな!」
    「嫌だっつったらだいたいやらなきゃならなくなるのにやっぱり自分から言うんだなー」
     兎紀が追撃する。ここから怒涛の連携が始まる。勘九郎が後退りする影二の袖を引く。
    「えー、いいじゃん! せっかくのゆーえんちだよ!?」
    「勘九郎くんもこう言ってますし、ええじゃないかってジェットコースターも言ってます」
     侑二郎が更に援護する、ちなみに【文芸部・跡地!】の面子の中に彼を助けようとする者は1人もいないことをここに記しておく。
    「まあ物は試しでレッツゴー?」
    「風を感じられて案外いいかも知れませんよ?」
     引きずられる様に連れて行かれる影二の背を冬人と天狼がついていく。その後影二は白くなっていた。
     ……「ええじゃないか」それは一言で言うならば回転特化式ジェットコースターである。
    「モァアアアゲァアアアアアアアアアア!」
     【夕鳥部】の右九兵衛の口からこんな奇声が溢れても仕方ないのだ。
    「も、もう嫌だ!! 下ろしてぇえ!! いやぁああ!!」
     無理です。紅葉の悲鳴じみた懇願をええじゃないかとスルーし、コース上で回転数を上げていく。
    「きゃーきゃー!」
     椎菜さん余裕っそうすね。と言うか全体的に楽しそうである。士元も超笑顔でマシンに身を預けている。乗る前に落ち着いてた君はどこ行った。まあその時から熱く語ってたけど。そんな感じでマシンがゴールに到着するとよろよろと影薙が降りてくる。
    「くっ………見くびっていたようね」
     コースを睨みつけて彼女は言う。おお、足に来ている。
    「今度、は、FUJIYAMA? 高飛車? ドドンパもいいし、鉄骨番長も……!」
    「それより、もう一回行こう! もう一回!」
     あげはとぱうがキラキラと目を輝かせている、が周りを見て気付く。明らかにダメージを受けている人間が居る。
    「文太も怖がってるし、ちょっと衝撃大きかったのかも?」
     向日葵が相棒の様子を見て呟いた、ええじゃないか、侮りがたし。
    「鷹次ちゃん! あれ、あれに乗るのです!」
    「よーし、なんでも行こうぜ」
     エイティーンで身長を伸ばしたルールゥが身長制限に引っかかることはない。彼女は曲がりくねったコースを指さして鷹次の袖を引く。鷹次はいつもと違う彼女の雰囲気に飲まれながら、二人で乗り場へと向かう。二人に取って盛りだくさんの一日になりそうだ。


    「さあ、次はどこへ行こう?」
    「そうですな……富士飛行社が気になる所ですな」
     【三鷹北キャンパス 中学3年G組】の統弥とホテルスは次の目標を地図を見ながら決めている。いくらでも見どころのある富士急ハイランドである、まだまだ楽しめる余地はあるだろう。
     富士飛行社、不思議なPVが作られたりしているが、アトラクションとしては富士山上空を飛行機で見下ろすと言ったものである。
    「……風に土の香り……?」
    「すげー! ナニコレ、マジすげー!」
     表現された空の上でシャルロッテは静かに感動し、律は溢れる情動が言葉になる。ふと彼がシャルロッテに目を向けると彼女も律を見ていた。シャルロッテは微笑み、律は恥ずかしげに頭をかいた。
    「普段ホウキに乗ってるのとやっぱ違う?」
    「富士山を見下ろす程高くまで飛んだことはありません。……絶景かな」
     エルメンガルトと由乃はそんな灼滅者ならではの話をしながら眼下の風景を楽しんでいる。
    「……オレが富士のご当地ヒーローとかになったら樹海の上も飛べるかな……」
    「あ、樹海、私あそこも行きたいです」
     ヒーローでも空は飛べないはず、多分。


    「仲が悪くなったわけじゃないんだけど、情熱を感じなくなったのよね、それなら友達でいっかて」
    「ええー、ボクはその人の方に同情しちゃうなあ」
     FUJIYAMA前でアリスとクロエが雑談をしながら自分達の順番を待っていた。FUJIYAMAといえば富士急ハイランドのコースターの中でももっとも有名と言っても過言ではないだろう。やってきたマシンに乗れば、最早後戻りすることは出来ない。
    「謡月はん……これ死なへんよね……?」
    「アトラクションだもん! 死なないよ!」
     薫はそこまで聞いてから、謡月の小声での「たぶん」に若干固まる。がもう遅い。3ケタを超える速度を叩き出すマシン。もっともその頃には二人共笑顔になっていたけれど。
    「すっごく楽しかったー! もっともっと行きましょー!」
    「ちょ、ちょっと待って……」
     目をきらめかせた環を継霧が制する。これが差というものだろうか本人曰く心臓が浮いたとか。
    「大丈夫か?」
     ライアスが彼に水を渡す。が、継霧がそれを飲み干す前に環が二人の手を引いて次のアトラクションへと向かう。果たして彼はこの先大丈夫なのだろうか。


    「司君ドドンパ行こう!」
    「……宗教上の理由でちょっと……」
    「え、もう並んじゃってるけど」
     冴にそう宣告された司の悲鳴が上がったのは、それからしばらくしてからの事だった。ドドンパとは最高速度時速172kmを叩き出すマシンである。それを発するための長いタワーの途中に【光合成】の面々達はいた。
    「最初のさ、これから落ちるのわかってて身動き取れない状態でゆっくり上がっていく感じ、それが色んな意味で一番怖いと思うんだよねぇ……」
     ミカがこの状況で聞く人が聞いたら顔が引きつるようなことを言った。
    「こういう乗り物ってさ、落ちて叫んだりしてる時に写真撮ったりするのもあるよな」
     シグマの言うとおりにこのドドンパにも写真を撮る仕組みがある。もっともそこは通りすぎてしまったのだけれど。
    「……景色が箒に乗っている時よりも違うわね……」
     リアの視線の先にはきれいな富士山があった。それはもうとても綺麗に。そんなのを見ていると車両の動きが止まる。
    「お、止まっ………!?」
    「ヒャッホーーー!」
     ほぼ垂直落下の重心移動が彼らに襲いかかる。もっとも引きつっているのはルティカであり、彼女とは逆にモアなどは本当に楽しそうである。灼滅者であれど中々体験できない動きなのだから。だからこそ苦手と言う者もいるだろうが。
    「…………は、ふぅ……た、楽しかった……♪」
     【桜堤キャンパス中学2年E組】の睡蓮は満喫した側の人間のようだ。
    「楽しかったね! 次は……」
     きっちり絶叫マシンを巡るルートを作ってきた玲奈が次を示す前に円の恐怖を通り越して止まらない笑い声を止めなければなるまい。
    「ぎょざざざざっ……」
    「ははは……世界がぐーるぐるー……地面に足がついてます。こんなに落ち着くなんて……」
    「……二人とも大丈夫かい?」
     シロナと円の二人に亜梨子が飲み物を差し出す。乗る前から最中まで様子のおかしかった二人である。少し彼女たちを落ち着かせてからの移動になりそうだ。
    「メリーなんとか……これなら乗れる!」
     絵的にやばいのは気にしないことにして、と【虹色】のレナードは拳を握った。絶叫マシンで有名なこの場所だがきちんとこういうものもあるのである。
    「うん、ふふ、とっても似合ってます」
     そのレナードの姿を見てひかりは笑みをこぼす。アリスは目についた木馬の中で目星をつける。
    「この大きい子!」
     ひょいと乗る姿を見て儚の微笑みが溢れる。林檎のエスコートを受けて儚が馬の背に腰掛ければ林檎が芝居の如くの台詞を放つ。
    「それでは出発!」
     回転木馬が動き出せばそこだけメルヘンの世界に、振り落とされそうになるレナードもや恥ずかしがるひかり、元気な騎手のアリスに、魔女の林檎。夢見のように思えて儚の表情は綻んだ。
     くるくると回る。回転は遊園地を構成する一要素だという。ティーカップもまたその基本に忠実なアトラクションだろう。咲夜と世寿は同じカップの中にいた。
    「二人で回せば早くー……や、姉さん? ちょっと速っ速すぎるんじゃ、アァァアーーッ!?」
     世寿は全力で回すのが王道と言わんばかりに回す。ティーカップはアトラクションの中でも自力で変化させることの出来る物である。気をつけよう、いろいろな意味で。
    「楽しかったです、ね!」


     戦慄迷宮。絶叫マシンを多く抱える富士急ハイランドの中にあって、別の方向からの絶叫体験をもたらすアトラクションである。何度もバージョンアップを重ねており、新鮮な恐怖を与えてくれる。
    「ひっ!? なに!? なんなの!!?」
    「だだだダイジョーブ……ぼぼ僕4月から中学生だしお化けなんてヘッチャ……ああー!!」
    「~~~っっ!!!」
    「こわくないこわくないこわくないこわい……」
     アルベルティーヌと砌の二人は抱き合う事で恐怖を誤魔化す。これぐらい怖がる人のためにリタイアもできるようになっている。無理は良くない。
    「ブレイズゲートとは何が違うんだろう。ああでもこの如何にも驚かしますって構成は、ちょっと嫌らしいかな」
    「あ、そっか、別にブレゲのダークネスは脅かしには来ないよね。襲い掛かってくるだけだから。……いや、ちょっと待っておくれよ」
     足を踏み入れた【エピタフ】の面々は割りとキテいた。冷静な瑪瑙と離していた沙花も周りの風景の変化に口調が硬くなっていく。
    「う、うわぁ造形リアルすぎるだろ! こういう手先の器用な人が作っギャー!! 動き怖っ!」
    「途中までならね、平気なんだよ。……それなりに視界は確保できるし。敵は二足歩行だし! 問題はさ、ラストの方真っ暗なんだよね」
     戦が驚いている隣で京夜が遠い目をしている。どうやらこの上の恐怖が待っているらしい。
    「……危険な香りがしてたんですが、やっぱり……」
    「なんでここでそんな事……普段から高みを目指しすぎだよエピタフ!」
     ラピスティリアとシンは【エピタフ】のチャレンジャーっぷりを理解し受け入れているもののやっぱ怖いものは怖いらしい。恢は雪が素直に驚いたり怖がったりしているのをフォローしながらも、【エピタフ】の面々の表情の変化を楽しんでいた。
    「さあ皆、雪をおいていかないようにゆっくりいこうね」
     ゆっくり、というところでみんな微妙な顔をした。ある意味で満喫しまくっている【エピタフ】とは逆に【七天】のメンバーは強かった。
    「怪我しない様に気をつけて」
     白焔が一番年上の男性らしく周りの気遣いをする。もっともそれだけの余裕が彼らにあるということなのだけれど。鈴乃に至っては最初殴りかかろうとしてたし。
    「きゃー!」
    「キャー、……ゾンビですー」
     一応鈴乃と緋頼が鞠音に抱きつくが、とりあえず怖がるってこういう事だよね的反応である。余裕がある故に緋頼の手が怪しく動いてたりして。で、当の鞠音はくすぐったそうにしながらも首をかしげて白焔を見た。
    「しないのです?」
    「いや俺がやるのはちょっと拙い」
     男性ですからね。同じ高3男子でも【朽葉】の面々はまた違った。
    「キャー!!」
    「男に抱きつかれる趣味等以下略!」
     スキンヘッドの強面系男子火花の悲鳴である。その後に響くのは彼の抱きつきを阻止した透のビンタの音。痛そう。志狼が「大丈夫?」と火花に寄る。透はいつもどおり軽口叩いていたので多分大丈夫なのだろう。それを茶化した火花をもう一度ひっぱたいたりして、志狼も怖がる隙がない。
    「……馬喰、少し静かにしなさい。敵の気配が読めません」
     有真が苛立たしげに言う。敵ってなんだ。そんな彼を見やって皆に声をかける。
    「みんな、怖かったらユキの袖掴んでもいいわよ」
     「別に怖い訳ではありませんよ?」有真は色々と並べ立てているが怪しいものである、賑やかにも【朽葉】の面々は迷宮を踏破していく。なお雪季のカーディガンの袖と裾は伸びきった模様である。


    「王子さん、次は観覧車乗ろっか」
    「観覧車かえ、良いのう。高い所から見る風景も素敵なのじゃ」
     匡と王子は手を繋いで大観覧車「シャイニングフラワー」の前にいた。互いに久しぶりに結ぶ掌は久しく、温もりを生じる。それを手放さないようにお互いに心通わせて入り口へと向かっていく。
    「高いな。落ちたらさすがにあたしらもヤバイ?」
    「落ちた時の事なんか考えたくないわね」
     【千川C高2-4】の嵐とシャーロット、そして作楽の女性三人は乗っていた。男組は別の車両である。
    「こちらもそうだが、あちらから落ちてもヤバそうだな」
     横を見れば富士山まで、下を見れば園内全域を視野に入れられる。作楽が見た時に男組の車両が見える。
    「「「ヤッホロウ?」」」
     銃儀の扇子は果たして謎である。場所は代わり男側、弌はそれを見て呟く。
    「……何気に、こういうとき四季の扇子って便利だよなあ」
     ガラス越しに【千川C高2-4】は互いにメッセージを贈り合う。そんなクリスマスの1ページ。
    「夕日綺麗だな……ほら見ろよカナたん、あの二人めっちゃいちゃついてるぜ……ほら、あっちも……」
    「あの人達に比べて俺達のこの、楽しいけれど枯山水のような青春……」
     スケルくんに乗っている蓮静と颯音の男同士の会話である。スケルくんとは全面透明な車両であり周りがよく見える。夕日も目に染みる。色気のない青春だってあるのである。
    「そいえばさー、妹ちゃんは将来何になりたい……とかある?」
    「誰か素敵な人の奥さんになるのよ」
     観覧車に乗れば密室、普段は話さないような事を話したくなるのも魔力のようなものなのだろうか。結果妹の透の回答を聞いて凹む要のような者もいるのだが。透が隣で別の答を返したらすぐに立ち直ったりするけど。
    「ほらほら、星、見えるのだよっ」
     辺りが暗くなり始め星がまたたく頃、風水火ははしゃぎながら蒼に問う。
    「……ねえねえ、サンタさん見えるかなっ!」
     彼女にくっつかれたまま蒼は言葉を探す。幾つかの思いの中から選びとったのは。
    「遊園地の中にいるかもな。……本物は夜中にあらわれるんじゃねーの」
     少年は語らない術を知っていた。
    「………」
     透明な部屋の中、逢紗は静かにレニーの手を取った。それまで周りの風景を楽しんでいた二人だが、上がりきったところでの行動。
    「今日は……その、ありがとうね」
    「僕の方こそ、ありがとう」
     気恥ずかしげな空気を保ったまま地上に戻ってくる。扉を超える前に逢紗は言葉を一つ。
    「大好きよ、レニーさん……」
     二人きりの観覧車は時に告白の場所となる。総一が吐き出したのは、過去の家族との思い出。
    「観覧車に乗るとそのことを思い出して切なくなってしまうんです……」
     リリーがそっと彼を抱きしめた。
    「大好きな家族との大切な思い出なのね? 大丈夫よ……今はリリーが隣にいるし、それにいつかきっと、認めてもらえる」
     二人はそっと互いに抱き合う、まるで一つの家族のように。


     眠そうな彼女を見て蒼真はクスリと笑う。なにせ一気に全アトラクション攻略に挑んだのだから。疲れるのも当然である。帰りのバスまで持つかどうか。
    「……また、誘わせてもらうよ」
     果たして彼女に聞こえただろうか。

     光を灯すアトラクション、だが夜は同時に寒さももたらす。月子と湊の間に広げられたチキンやポテトなどのホットスナックは湯気を立てて暖かさを演出していた。
    「うん、やっぱりクリスマスはこうじゃないとね」
    「そうだね。……今年も残すところあとわずかになったけれど、まだまだ楽しもうね♪」
     二人はコーヒーの紙カップを交わす。
    「「メリークリスマス!」」
     もう少しだけ聖夜は続く……。

    作者:西灰三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月24日
    難度:簡単
    参加:105人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 12/キャラが大事にされていた 1
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ