肉まんにあらずんば中華まんにあらず

    「いらっしゃいませー」
     横浜中華街の近くにあるコンビニに、1人の男が入店した。
     中華まんのような形の帽子を被った彼は、レジに向かうと、中華まんケースを指さす。
    「ここにある中華まん……肉まん以外、全部」
    「ぜ、全部!?」
     全部買うの!? と、思わず女性店員が聞き返した次の瞬間。
    「全部……ぶち壊してやるわあああッ!」
    「きゃあああああっ!?」
     男は突然乱打を放ち、中華まんケースを粉砕したではないか。
     レジの前に広がる、無残につぶれた中華まん。
     その中で肉まんだけが、奇跡的に無傷で残っている。いや、男が故意に避けたのだ。
    「中華まんの頂点に立ち、この世界を支配するのは肉まん。よって、他の中華まんは全て叩き潰す! 俺様のこの手でな!」
     中華まんの残骸を踏み潰し、男は外へ出ていく。次なるコンビニを求めて。

    「……って話を小耳に挟んだんだ」
     放課後の教室で、村雨・嘉市(村時雨・d03146)が報告を終えた。
    「嘉市さん、ありがとうございます。というわけで皆さんには今回、横浜中華街近辺に現れた横浜肉まん怪人を灼滅していただきます」
     嘉市に一礼し、西園寺・アベル(高校生エクスブレイン・dn0191)が皆に向き直る。
    「この怪人は肉まん主義とも言える信条の持ち主で、それ以外の中華まんを根絶すべく、コンビニに押し入っては潰して回っているのです」
    「確かに最近は色んな種類があるものよな。って、肉まん以外ってことは、あんまんすらアウトなのかよ?」
    「その通りです」
     容赦ない怪人だぜ、と嘉市は渋い顔。
     肉まん怪人の出現場所は、横浜中華街近辺のコンビニだ。特に、胸の大きな店員さんがいる店に出没するという。
    「? なんでだ?」
    「よくはわかりませんが、胸のふくらみが肉まんに似ているからではないでしょうか。巨乳を見ると、ありがたがって拝むそうですよ」
    「なんだそりゃ……」
     嘉市の表情が、何とも言えない複雑なものになる。
     コンビニ内での戦闘は、一般人の安全や狭さを考えると、避けた方がよいだろう。
    「中華まん関係の話題を出して、別の場所へ誘導するのが得策かと。あるいは、巨乳好きを利用するという手もあるでしょうか」
     肉まん怪人は、肉まん型の盾を装備しており、それを叩きつけてくる。
     また、中華まんを破壊する要領で叩き潰して来たり、殴り倒してくる。どうやら荒々しい戦い方を好むようだ。
    「肉まんを愛すること自体は構いません。ですが、他の食べ物を粗末にすることは、料理人としても許しがたい行為。ぜひとも肉まん怪人を灼滅してください」


    参加者
    白・理一(空想虚言者・d00213)
    久篠・織兎(糸の輪世継ぎ・d02057)
    村雨・嘉市(村時雨・d03146)
    ソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)
    端城・うさぎ(リンゲンブルーメ・d24346)
    神之遊・水海(うにゃぎパイ・d25147)
    上海・いさな(巫月・d29418)
    御月見・牡丹(おつきみコンコン・d31427)

    ■リプレイ

    ●中華まんは肉まんだけでいい
    「胸の膨らみに似ているから、胸の大きな店員さんのいらっしゃる店に現れるとは、単純な男ですね。ダークネスも助平心を持ち合わせているというのは興味深いですが」
     コンビニで、肉まん怪人を待ち伏せる上海・いさな(巫月・d29418)。
     皆の事前調査で、胸の大きな店員さんがいるコンビニを選んでいる。レジに立つ店員さんは確かに、遠目から見てもわかるレベルの巨乳さんである。
    「うん、戦闘場所も確保できたの」
     スマホを操作して頷いたのは、神之遊・水海(うにゃぎパイ・d25147)。事前にチェックしていた場所は、ここに来る途中に確認済みだ。準備は万全、と中華まんを買いにレジへ向かう。
    「さっさと怪人倒して早く帰ろうー……」
    「お前、どんだけ弟妹大好きっ子なんだよ」
     早くも弟妹が恋しくなる白・理一(空想虚言者・d00213)に、すかさずツッコミを入れたのは村雨・嘉市(村時雨・d03146)。彼もまた、中華まんを買って怪人を待つ。
     そしてソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)も、あんまんを頬張っている。
    「こんなに甘くておいしいですのに……。根絶なんてさせませんから」
     すると、コンビニ独特のチャイムが鳴り、客が入って来た。その出で立ちは、話に聞いた肉まん怪人のそれと合致する。
     肉まん怪人は、並ぶ商品には目もくれず、レジに向かう。
    「怪人さん、肉まん買いに来たのか? 肉まんおいしいよな~」
     怪人がケースを壊す前に、久篠・織兎(糸の輪世継ぎ・d02057)が割って入った。実際会った怪人は自分より背が高いと見るや、かっこいいと思ったりしつつ。
    「肉まんのおいしさには同意しよう。しかし、俺様は肉まん以外を排除にしに来たのだ。そこをどけ」
    「おじちゃん、中華まん嫌いなの?」
     ケースの肉まんに視線を釘づけにし、食べたそうな雰囲気を醸し出しながら、御月見・牡丹(おつきみコンコン・d31427)が問いかける。
    「ああ。だからこそ破壊せねばならんのだ」
    「そんなことより、外で肉まん食べよう?」
     おいしいよ? という牡丹の誘いに、険しかった怪人の表情が揺らいだ。
    「ええ、寒い季節ですので、格別です」
     ソフィも、肉まんをおいしそうに食べる姿を見せる。
    「そう言われると断れぬ……しかし俺様には使命が……むむっ!」
     怪人の眉間に寄せられていたシワが、突如消えた。視線の先には端城・うさぎ(リンゲンブルーメ・d24346)。彼女は一応、こんにちは、とご挨拶。
    「肉まんって、あたしあんまり食べたこと、ないんだよ、ね。よければあちらで、お話聞かせて貰えない、かな?」
    「心得た!」
     肉まん怪人の視線は、豊かな胸元に釘づけになっていた。

    ●巨乳は許す。異論は認めない
    「え、え? ちょっ、なんで拝む、の……?」
     ありがたいありがたい、と手を合わせ始める怪人に、わたわたと混乱するうさぎ。
    「頼みがあるのだが、その胸の肉まん、一度感触を確かめさせてはもらえないだろうか」
    「それは、ちょっと、困るかも……」
    「柔らかさも肉まんと同じか確認して……ぷぐおっ」
     肉まん怪人のセクハラ行為は、理一の目潰しによって全力で阻止された。
    「女の子に何をしようとしてるのかなー?」
     床をのたうち回る怪人。コンビニの中で迷惑行為はやめていただきたい。
    「これだから肉まんは」
     やれやれ、と嘉市が首を振った。バカにするような態度で、怪人を挑発する。
    「中華まんは色んな種類があって色んな味を楽しめるが、それに比べて肉まんときたらなあ」
    「そうそう、肉まんより中華まんのほうが素晴らしいの! 違うというのなら、かかってくるといいの!」
     中華まん片手に腕組みすると、豊かな胸を下から持ち上げ挑発する水海。
     ゆらり、と立ち上がる怪人。その口元には、ぴくぴくと引きつった笑みが浮かんでいる。
    「どうやら、俺様の敵がいるようだな……ならば、表に出ろ! 成敗してくれよう!」
     すっかり頭に血の上った怪人を、戦闘場所へと誘導するのはたやすいことだった。
    「ここら辺なら戦闘しやすそうな?」
     広めの公園で織兎が足を止めると、理一が殺気を飛ばし一般人お断りの空気を作る。
     そして、いさなが音声を遮断する結界を展開して、戦闘準備完了だ。
    「肉まんの名において、貴様らを倒す! そして、巨乳を心置きなく拝むのだ!」
     腕に付けた盾を構える肉まん怪人。勇ましいが、言動がちょっとおかしい。
    「何故胸の大きい人を拝むのでしょうか……?」
     自分の足りない胸元を眺めて首を傾げた後、ソフィはカードデッキを掲げる。
    「ともあれ、身勝手な怪人は私たちが成敗します! カラフルジャスティス! 変身!」
     ベルトのバックル部にデッキを装填。変身と同時に出現した殱術道具を握りしめ、戦闘準備完了!
    「彩り鮮やかは無限の正義! ソフィ参ります!」
     その宣言が合図となり、戦いは始まった。
     まずは牡丹が、腰の武器を抜く。ハリセンのような形のサイキックソードだ。
     放出された実体のない光刃が、肉まん怪人の帽子をざくりと切り裂く。
    「理一、遅れんじゃねえぞ!」
     後方の仲間に声掛けしつつ、嘉市が愛用の槍『真朱』を突き出す。
     とっさに盾でガードする怪人だが、がら空きになった反対側から、理一が迫る。
    「早く帰りたいから、手加減はしないよー」
     高速回転した杭打機が、怪人の腹部を捉えた。その震動は怪人をしびれさせる。
    「この程度では、肉まんのあんには届かんぞ!」
     怪人は強引に杭を引き抜くと、肉まん型の盾を叩きつけようとする。
     しかしその前に、ライドキャリバーのまーまれーどと共に、織兎が飛び出した。
    「俺も一番好きなのは肉まんなんだけど、ほかの中華まんだってピザまんだって、その他色々だっておいしいんだからな。そういう偏食っぽいのは駄目だぞ~」
    「説教などいらぬわ!」
     怪人に弾き飛ばされた織兎の元に、いさなの防護符が飛来した。
    「久篠さん、大丈夫ですか? 支援ならばしっかりと行いますので、お任せ下さい」
    「いさなちゃん、ありがと~」
     符は守りの加護を与えつつ、織兎の傷を癒していく。
    「傷を治すとは小しゃくな……うぐおっ!?」
     ライドキャリバー・ブランの背に騎乗するソフィ。機銃を乱射しつつ接敵し、至近距離から怪人にご当地ビームをお見舞いする。
    「ぐうっ、胸もないくせに生意気な!」
     怪人のついた悪態に、ちょっぴりイラっとした。

    ●肉まん万歳万々歳!
    「肉まんも中華まんも、みんな美味しいと思うのに、なあ……きっちりと、お灸を据えてあげないと、ね」
     うさぎが槍の柄で怪人の盾を弾くと、切っ先をその身に届かせる。更に、炎が怪人の視界を赤く染めていく。
    「ちぇりゃー!」
     ローラーダッシュで駆けつけた水海が、火炎を宿したキックを怪人の腹にお見舞いした。
    「巨乳だけあって、その火力、なかなかだな! いい肉まんが蒸せそうだ!」
    「うえぇ……何かこの怪人ヤダ……暑苦しいし!」
     顔をしかめて殺人注射器を掲げた理一が、怪人を突き刺す。針から毒が注入され、怪人の顔色も悪化する。
    「貴重なごはんをめちゃくちゃにするなんて許せないよ! 外から見たらそんなに違いないのにね!!」
     怒りの牡丹が、マジックミサイルを発射。とっさに回避に移る怪人を追尾し、確実に命中させる。
    「おのれ、邪魔者は許さん!」
     怒った怪人は、手近にいた灼滅者を殴り倒す。だがそれが水海だと気づくと、「あっ」と声を上げた。女の子に手を挙げたことに罪悪感が芽生えたのか。いや。
    「巨乳に手出ししてしまうとは……」
    「そっちなの!?」
    「俺様が心を痛めるのは、肉まんか巨乳のどちらかだけだ!」
     ゆえに、中華まんは滅ぼす。
     そう断じる怪人を、うさぎのロッドが殴りつけていた。
    「自分の好きなものを否定されたら悲しい、もの。自分が好ましくないから全部破壊しちゃうだなんて、そんなのダメ、だよ」
     気弱だった瞳には強い意志。うさぎの魔力と怒りがこもった一撃が、怪人を吹き飛ばす。
    「宗近、其方は大丈夫? しっかりね」
     ナノナノに仲間の回復をお願いする間に、いさなが符を構える。
    「これ以上、周囲を荒らされても困りますので」
     いさなが導眠符で、肉まん怪人を眠りの世界へいざなう。
    「ぬう……肉まん天国が見える……」
     守りはまーまーれーどに任せ、織兎が無敵斬艦刀を大きく振りかぶる。
    「超いくぞ~! とりあえずのたたっきりで~!」
     巨大な金属の塊を受け止めた怪人の両足が、地面にめり込んだ。空いたボディに、オーラを宿した嘉市の拳がヒットする。
    「つーか、あんまんもピザまんもおいしいだろうが! ケースごと壊すとか勿体ねえ」
     嘉市の猛烈なラッシュに怪人の盾がへこみ、自らの腕でガードせざるを得なくなっていく。
    「色んな中華まんがあり一番基本な肉まんが引き立てられます。オンリーワンが良いとは限りません!」
     そしてソフィのご当地キックが、怪人を公園の端まで蹴り飛ばした。

    ●肉まんに罪はありません
    「まだだ、中華まんを根絶するまで俺様は倒れん……せめて、胸の立派な肉まんを確かめるまでは……」
     地面に倒れ伏した怪人の指が、ぴくりと動いた。伸ばした腕の先にあるのは、女性陣の大きな胸。
     しかし怪人の視線を、水海の体が遮った。
    「セクハラはその辺にしとくの! ぶッ潰れなさい!」
    「待てっ、俺はまだきょにゅ」
    「どっせーい!」
     水海に投げ飛ばされた怪人は、あえなく空中で爆散するのだった。
    「肉まん以外のおまんじゅうさん、食べてあげられなくてごめんなさい」
     今まで怪人の犠牲になったであろう数々の中華まんを思い、牡丹は南―無―と手を合わせるのだった。
     果たして横浜の、そして中華まんの平和は守られた。
    「なーんか腹へったな。皆でおいしい肉まんでも食べに行くか」
     胸の件で機嫌を損ねたままのソフィをなだめるように、嘉市が言った。その提案に、いさなも同意する。
    「私の故郷にはコンビニすらなかったので、最近初めて肉まんを食べましたが、美味しかったです。ここの名物のようですし、是非とも食べて帰りたいものです」
    「うん、肉まんでいいぞ! なんか他においしいのあったら、それも食べたいぞ~!」
     みんなで行くなら、と織兎も大賛成。中華まんの店を求めて歩き出す。
     その移動中、牡丹は車がまだこわいようで、仲間にくっついて歩く。
    「山にはこんなに車走ってなかったよ……」
     牡丹の様子にお兄ちゃん気質を刺激された理一は、彼女をかばうように車道側を歩く。
     目的の店に着くと、水海は早速、巨大肉まんを食す。それはもう、もっちもっちと。
    「きーちくん、僕頑張ったから何かおごってー。……出来れば肉まん以外で」
     ここぞとばかりたかろうとする理一に、べしっ、と嘉市の拳が飛んだ。
    「いきなり何するのさー」
    「お前、早く帰りたいんじゃなかったのかよ。うさぎならおごっても構わねえが」
    「え、あ、あたし? いい、の?」
     いきなり話を振られたうさぎの後ろから、きーちくんひどいー、と抗議の声。
     ともあれ、肉まん以外も選べる幸せを、中華まんとともに噛みしめる灼滅者達だった。

    作者:七尾マサムネ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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