クリスマス2014~輝きの海に祈りを

    作者:菖蒲

    ●illumination?
     漏れ出る暖かな光りは冬の寒さを忘れさせる。橙色の南瓜が笑うハロウィーンを過ぎ去れば、イベント好きなこの国はクリスマスムード一色に染まって行った。
     横浜、みなとみらい地区もその例に漏れない。クロススティッチを模したデザインの建物は普段の活発な商業施設からノルウェーの街並みへと姿を変えた。
    「クリスマスマーケット?」
     金の眸を輝かせた不破・真鶴(中学生エクスブレイン・dn0213)が瞬いた。
     本場ドイツを思わすヒュッテに並んだ雑貨やフード、ドリンクは心を躍らせる。一人でも、二人でも――誰と来たって、きっと楽しくて堪らないものだろう。
     クリスマスソングが鳴る通りには目を引くツリーが建てられている。訪れる人達へと聖夜を祝福する様だ。
     スケートリンクを彩るアートの美しさも今日の為。ライトアップされたビル群の光りは、幻想的。
     温かみを感じるイルミネイションに照らされて、見上げた大観覧車の美しさは一際。普段の美しい街並みが、光りに溢れて行くのがよく解る。
     湊沿いの公園の静けさに、ちらつく白雪が混ざり合う。
     ぽつぽつと浮かび上がった灯りはきっと――一晩限りの聖夜へと、誰かが零したあたたかな、祈りの欠片なのかもしれない。
     
    ●Weihnachten!!!
    「ジョワイユーノエル……ふふ、メリークリスマスだわ。ね、ね、みんなはどんな風に聖夜を過ごすの?」
     誰か、御誘いしたい相手は居るのかしらと瞳を輝かせる真鶴はやはり女の子。
     イベント事には目にないのだとクリスマスイベントのパンフレットを両手に抱いて、身体をそわそわと揺らして居る。
     傍らで、『みなとみらい』と書かれたパンフレットを見下ろしながら海島・汐(高校生殺人鬼・dn0214)が携帯電話の画面に表示したのはクリスマス当日の天気予報。
    「雪かな……?」
    「ホワイトクリスマスだわ!ね、一緒にみなとみらいへと遊びに行かない?」
     机の上に置かれたのは真鶴の手製のクリスマスメモ。順を追う様に汐は視線を送った。

    「赤レンガ倉庫……か。俺、行った事無いんだよなぁ」
     赤レンガ倉庫は異国情緒漂う建物が並んでいる。この時期にだけ特別に並んだ露天はヒュッテと呼ばれる小屋をモチーフにしたものだ。クリスマス雑貨や、ドイツソーセージやシュトーレン、バアムクーヘンに暖かなスープやスイーツが並んでいる。今だけの特別な思い出が残るクリスマスマーケットと言った所だろう。
     傍らに存在するスケートリンクもこの日の為にアートが施されている。スケートへ挑戦してみるのもこの冬の素敵な思い出になる事だ。
     赤レンガ倉庫には沢山の店舗が入っており、普段通りにカフェで過ごしたって構わないだろう。
    「デートコースにもなるし、それにクリスマスらしさってのが感じられるよな?」
    「ええ、それと、大観覧車もあるわ! ライトアップされたみなとみらいのビルを見詰めると、たちまち光りの海が出来るの」
     きらきらと輝く街並みを見下ろすのだって良いだろう。
     15分間の空中散歩は時計を持った横浜のシンボルだ。普段と違う街を見下ろすのも良いだろう。
    「静かな空間で二人っきり……。違った聖夜の楽しみ方が出来るかもしれないものね。
     それに、山下公園なんかも――海のかおりを感じられて素敵よね。水面にキラキラと輝く宝石みたいな空が見えるの」
     デートスポットとして有名な山下公園だってみなとみらいらしさを感じられる。潮の香りに、海へと反射したイルミネーションを見詰めるのだって良いだろう。

    「恋人同士でも、気になる人と……大切な人や仲良しの皆とでも。
     クリスマスは沢山の過ごし方があるもの、思いっきり楽しまなくっちゃ損よね?
     あ、そうだわ。もしもお一人ならマナや汐先輩とご一緒しましょうね? ……楽しい日になればいいと思うの」
     瞳を細めて、真鶴は気になる場所があるならチャレンジしてみるが勝ちだものね、と柔らかく微笑んで。

     2014年、聖夜を彩る煌めきに。
     あなたも酔いしれてみませんかと――海のかおりをのせて、その日はやってくる。


    ■リプレイ


     クリスマスソングが鳴り響く。横浜――みなとみらい。
     あれもこれもと目移りしながら、志郎の鳴らした腹の虫に日常がこんにちは。
     ゆっくりと伸ばした指先が、憂の掌を捕まえて、指を絡めとる。暖かさに溶けあうようで憂が小さく笑えば赤らんだ頬は寒さの所為だと隠す様に俯いて。
    「えへへ、寒い?」
    「そーだよ寒ィんだよ」
     ――こんな日だから、『離さないで』と。小さく祈ってやまない。
     メリークリスマス、と唇に乗せた言葉に夜奈は叶世を手招いた。
     大切な人への贈り物。誰へ送るのかと俯く夜奈に叶世は小さく笑う。
    「夜奈ちゃん、少し……目を瞑ってくれないかしら」
     伏せた瞼へ、出会えた喜びを何度も何度も告げ、叶世は大切な夜奈へと幸福を一つ送る。
    「ありがと、だいすき」
     巡る光りを眺めながら「はぐれたら困るから」と差し伸べた指先にシュガーが小さく笑みを浮かべる。
     贈り物を探そうと店の中を回る足も自然に軽く。贈り物はあるかなと見て回るそれだけで楽しくて。
    「シュガー、パンケーキを食べて帰ろう。近くに評判の店があるようだから」
     焼き立てのパンケーキに添えた苺とホイップクリーム。粉砂糖を散らしたそれは、まるで今日の空の様で。
     こんな特別な日に自分が一緒に居て良いかなとちらりと見遣った誉の顔は満足げ。それを見るだけで心は浮足立つようで、握りしめた指先に込めた力は幸福の証。
     みをき、と手招く声に顔を上げ瞬くみをきが「わあ」と感嘆の声を上げた。
     寒がりの君に「使う?」と差し出す手袋をみをきは首を振って壱の指先を握りしめる。
    「手、繋いだらダメですか……?」
     言葉とともに握られる指先に、答えるかわりに握りしめて。熱が溶け合うようで、愛おしい。
    「……壱先輩、ケーキは買わないで帰りましょう」
     実は――と告げた言葉に夕陽色の眸を細めて帰ろうかと手招いた。
    「お、おー。クリスマスだからかライトアップも凄いっすね!」
     景色に瞬く彼女をちらりと見やりながらも戒士は彼女の指先を見詰める。
     折角のクリスマス。デートなら、手を繋ぐ事だって許される筈だけれど。
     震える指先で、どうしたら彼女の手を取れるのかと悩む戒士へ桃子が小さく笑みを浮かべた。
    「戒士くん」
     きゅ、と握る指先。赤らんだ頬を隠す様に桃子は柔らかく微笑んだ。
     屋台に並んだ料理を見詰め、これ全部食べきれるかなと小さく笑う灯倭に、翼は食べれなかった自分がと胸を張る。
     両手を塞ぐ料理を持った翼に「翼ちゃん、凄い」と眸を輝かせ、分け合いながら堪能する料理は美味。
    「灯倭、これ可愛くない?」
    「まぁ、ほんとだ、可愛い! 折角だからお揃いで買っちゃう?」
     木製のキャンドルホルダーに思い出を灯す様に。次は何をしようかと、翼は灯倭を手招いた。
    「みてみて、雪だるまだよ、すっごく可愛い!」
     将真君、どこ?と首を傾げる京音へと「夢中になって逸れる所だった」と彼は肩を竦める。
     雪だるまを眺めながら、逸れない様にと繋いだ掌の大きさに京音が瞬いた。
     見上げた将真の背が伸びた気がして。
     握った彼女の掌が小さい事に気づいては紅くなった頬を隠す様に俯いた。
     雑貨屋を見て回り百貨店の様だと笑う拓海に火華は「見て」と光りの海を指差した。
    「誰かさんのサングラスをぱくってくるんだったかなー。何か火華ちゃんに後光が差してる様に見える」
     イルミネーションに照らされて漆黒の髪が光りを纏う。「なーにバカな事言ってるんですか」と付け加える彼女の表情に拓海は口元を緩めて小さく笑う。
    「綺麗な夜景にイルミネーション。隣に好きな人がいるなら、なんだってキラキラ見えるものですよ」
    「……一理あるな」
     綺麗な街だとはしゃぐ彼女の表情を覗きこみ蓮次が「どれか気に入ったやつある?」と小さく問うた。
     付き合って一年経って、憧れのペアリング。見つめていた夏蓮は瞬き、「エスパーみたい!」ところころと笑って見せる。
    「……じゃあ、これ、どうかな。折角だからデザインもおそろいがいいかなって思って……」
     駄目かな、と消え入る様に呟けば蓮次は小さく頷いた。指先を飾るシルバーを感じながら今日は何処へ行こう。
     君とだったら、見慣れた街だって美しく見えるから――


    「すっごいね」とはしゃぎながら手招いたポンパドールにニコが頬を掻く。祖国の雰囲気を感じられる祭りは日本らしくカップルが多い。
     居辛さに肩を竦めたニコへとポンパドールは「あのさ」と語りかけた。
    「正直ドイツに居た頃のはあんまおぼえてなくて……」
     余裕が無かった、と。
     初めて出会ってから今日で何年経ったのだろう。徐々にでも笑って聖夜を迎えられる事が嬉しくて。今日を精一杯楽しもう。
    「買いすぎじゃね、ベッツィ?」
     思わず零れた兼弘の声に唇を尖らせて、休憩しようと指差せば、海の見える場所へとエリザベスは彼を誘った。
     故郷を語る饒舌な彼女の知らぬ面を見れた事が嬉しくて。
    「折角のクリスマスの相手が俺で迷惑じゃないか?」と困った様に聞いてしまう。
    「ソンナコトナイワヨー……って言って欲しかった? さあ、どうかしらね」
     くすくすと笑みを零してエリザベスは海へ視線を落とした。迷惑なんて思っていたら、この場にはいないのに。
     一軒一軒巡りたいけれどと瞬くヴァルケの背後をゆっくりと歩きながら宥氣はアクセサリーをじっと眺める。
     学園のイベントを頑張ったご褒美だから。プレゼントに何か一つと考えるのは聖夜だからか。
     どれがいい、と唇に乗せた言葉にヴァルケが選んだキーホルダーは彼女によく似合って見えて。
    「ちょっと疲れたし休憩しよう。すげー綺麗だし、写真撮る! んで額に飾る!」
     無理やりのハイテンション。気まずさに慌てた彼へとヴァルケは「落ちつけ」と笑って見せた。
    「そういえば、」と凛音に掛けられた流人の言葉に彼女は小さく瞬いた。
    「クリスマスに一緒で良かったのか」の言葉へは尊敬している先輩と過ごす日を楽しみにしたと笑顔を乗せた。
     寒くないかと手渡されるコートの暖かさに「今年一年、有難うございます」と小さく笑う。
     冬の海風を浴びながら、凛音が差し出したのは天然石のブレスレット。お世話になったから、これからもよろしく、と意味を込めて。
    「こうしてヨールカ……いえ、クリスマスを楽しめるのは日頃の行いがあればこそですね」
     瞬いて、幸せそうに告げたナタリアへとヴィタリーは「ナータは頑張ってるしね」と柔らかく微笑む。
    「ヴィッター……?」
    「な、なんでもないよ、ナータ」
     すっと隠したクリスマスプレゼント。見ないふりをしてナタリアは瞬いた。
     聖夜の催しへ足を運びたいと告げた事を覚えてくれた事が嬉しくて。
     重ねた指先から伝わる温もりに思わず頬が染まっていく。
    「ははっ、夕姫の手冷た過ぎねー?」
    「兎紀先輩はすごく暖かいです……!」
     光の海を歩きながら、彼と過ごした日々を思い浮かべて、夕姫は小さく唇を震わせた。
    「先輩、幸せの鐘を鳴らしてみませんか……?」
     からん、と鳴る音へ重ねたのは幸福を祈る気持ち。重ねた願いは君が笑顔でいますように。
     想いは未だ、言えないけれど。
     凄いと眸を輝かせる羽月に結樹は小さく笑みを浮かべる。お店が沢山とはしゃぐ彼女が可愛くて。
    「可愛い妹のデートってだけでも楽しめるけど」
     デートと言われては恥ずかしいと視線を逸らす羽月のそんな姿も可愛くて。照れ笑いの妹の背を追いかけて、二人で抜けるイルミネーション。
     ポケットに仕舞われたプレゼントを兄が喜んでくれるかなと胸に抱えた不安は同じもの。
    「考える事は一緒なのかな……?」
     コートに仕舞いこんだプレゼントを指でなぞって小さく笑った。
    「ちや、この中で面白いものって、何かな?」
     はしゃぐ涙兎に小さく笑う千八はゆっくりと瞬いた。『ちや』と呼ばれた事にとくん、と一つ胸が合図する。
    「ると、と一緒やったら全部、面白くて楽しいんよ」
     だから、小さなぬいぐるみを一つあげよう。潤んだ蒼い瞳が君にそっくりな小さな子。
     お返しに、と差し出された赤いリボンの付いた鈴。千八の抱いた兎を飾る様に、と。
     クリスマスにと貰ったばかりのトイカメラ。誕生日のプレゼントに送ったアルバムの最初の一枚は二人でと、殊は伊織を手招いた。
    「赤レンガ、初めてなんだよね……」
     赤いと笑う殊の声が可笑しくなって伊織はからからと笑って見せる。露天や装飾、思い出に残る物へと落としたシャッターは数知れず。
    「ね、伊織、あれやってみたい」
    「ほないこか?」
     おいで、と手を取り歩きだす伊織の背に、もう一枚。思い出を飾る写真はまだ増えて行く。
     両手を広げて輝きを受けとめた蓮花に美樹は「本当だ!」と笑みを零す。二人で過ごすクリスマスはこれで二度目。
     慣れないスケートに足取りが不安定な蓮花が「お兄ちゃん」と手を伸ばす。
    「ゆっくりでいいからな? 俺がエスコートする」
     ぎゅ、と握った掌を。視線を合わせた美樹の頬に落とす口付けに。大人になって行く彼女の姿が嬉しくて。
     クリスマスイブの夜、この場所に訪れるのは二年振りだと錠は空を見上げる。
     ジョーさん、と呼ばれていた頃から随分経つ。
     満開の花が如き笑顔が向くのが何よりも嬉しい。
     あの日、手を繋いだ事を思い出し孕んだ熱に気付かない振りして結理は頭を垂れた。
    「手、離さないでね。ごめんね」
    「……あァ、絶対に離さない。だから、安心してくれ」
     ふ、と息を吐き見上げた彼へと一生懸命落とした口付けへ、甘く囁かれるメリークリスマスは只、優しい。
     折角だからスケートをしようと手を取れば何処か照れたように恐る恐る握りしめた指先が仄かに温かい。
    「滑れたらきっと楽しいと思うんだ!」
    「ええ……ひとりで滑れるようになるまでがんばるわ」
     にこりと笑うシスティナへ、唇だけで笑みを乗せた光莉は小さく頷いた。
     クリスマスにはしゃいだ事が無いから、新鮮で。緊張を覚える光莉は「ご一緒してくれてありがとう」と唇に乗せて。
    「うぎゃっ」
     勢いよく転ぶ有紗にすいすいと滑る俊輔がからからと笑って見せた。初めてでもうまく滑った俊輔を見ては有紗は唇を尖らせる。
    「しょーがないなー、じゃー、一緒に滑ろっかー」
     手を取って、ゆっくりと立ち上がる。
     恐る恐る踏み出す一歩に有紗は「滑れてる?」とぎこちなく彼へ問う。
     二人一緒ならとても楽しいから。幸せだと告げた有紗に俊輔はからからと笑って「ありがとーなー」と微笑んだ。
    「師匠! スケートリンクですよ!」
     綺麗とはしゃぐ弟子へと笑みを浮かべる達人は結の腕を取り滑ってみようとゆっくりとリンクへと躍り出る。
     不安定なバランスを保ちながら――縺れる足に結が瞬く。大丈夫、と差し出された手によろよろと震えながら結は胸を張る。
    「ほら、お手をどうぞ、お姫様?」
     冗句めかして笑われれば、恥ずかしくて。瞬きながら差し伸べた指先は、仄かに赤く染まっていた。


    「冬だ! クリスマスだ! スケートだ! この感覚久しぶりなのっ、楽しいね、瑠璃垣さ……」
     スケートリンクにキス一つ。後頭部を強打して俯く姿勢の恢に莉奈は体調不良を疑った。
     差し伸べた手に必死に捕まった恢のへっぴり腰が何時もの彼と違って可愛らしくて仕方ない。
    「……百瀬、引っ張って」
     情けないと瞬く恢へ「莉奈が居ないとダメなんだからー!」と得意気に笑った彼女が手を引いて滑り出した。
     普段見れない表情だから、何だかとても嬉しくて。
    「ぅわぁっ」
     女の子らしい服装も、初めてのスケートも緊張の連続で。
     可愛いと褒めた重蔵に頬を染めた竜胆はバランスを崩し尻持ち一つ。
    「ゆっくりいこうか」
     大きな掌に、火照った頬を隠さずに竜胆がへらりと笑う。彼が居るから、何処に居たって暖かい。
     こっちだと雨蘭が握りしめた掌に、シフォンは小さく瞬いた。
    「うーん、外周は結構人が居るので……真ん中行ってみましょ――あ、ごめんなさいっ」
     舞い上がっちゃって、とぱっと離された指先に、冗談めかしてシフォンが笑う。
    「追い付けたら手位は好きにしていーよっ!」
     鬼さん此方と掛け出して。追い付かれない距離を保つ様に走り出す。伸ばされた雨蘭の指先に口下へは笑みが浮かんだ。
     幼い頃の思い出は、沢山転び泣いたもの。拙くても滑れるとゆるりと跳び出すりねの足取りに勇気付けられる様に仁奈も共に滑り出す。
     大丈夫と問うたるりかへと【リトルエデン】の仲間達と一緒だから、大丈夫だと初心者の穂純は笑う。
     そっと踏んだ氷の感触に穂純は小さく笑みを浮かべ――するん、とそのまま尻持ち一つ。大丈夫、と慌てて駆け寄る香乃果もするり、と氷の上へと手を付いた。
     二人に肩を竦め、助けようと差し出した手に掛かる体重に思わず転んだ仁奈が小さく笑みを零すお約束。
    「大丈夫? 痛くない?」
    「痛いだろ、大丈夫か」
     律と峻。二人に手を握られて立ち上がった三人にりねが頑張って下さいねと小さく笑みを浮かべて手を差し伸べる。
    「皆で手を繋いだら楽しそうです」
     手を伸ばし、きゅ、と握りしめた指先にりねと仁奈は笑い合う。重ねる指先に穂純は香乃果とるりかを見詰めて小さく笑った。
     笑い合う少女達に律と峻が目を見合わせて小さく笑う。滑り終わったら暖かいものを食べよう。
     太っ腹と微笑まれ、峻は律の「ごちそうさまです」に頷いた。
     昔からよく立ち寄って居たと手招いた那月の声に頷いて【縁四人組】はスケートリンクへ踏み出した。
     振り向けば、殆ど横たわって居る体を両腕で支えたリアンが震えた声で「俺に構わず先へ行け」と小さく呟いた。
    「何を言ってるんだ。キミを置いて行けるものか!」
     花澤と呼んだ那月の声音にリアンが助け起こされほっとした様に胸を撫で下ろす。
     那月の指導を受ける彼を尻目にギルドールと結弦が手を取り滑る。
    「イルミネーション、綺麗だね」
    「楽しいなー」
     手を引いて、ぐるりと回れば練習中のリアンが「雪は優しいが氷は意地悪」と小さく呟く。
     丁寧に教えた那月のお陰が直ぐに滑れるようになったリアンへとギルドールは「センスがいいね」と頷いた。
     教え方が良かったんだと笑いながらリアンは結弦を手招きリンクを滑り出す。
     サンタクロースを模した衣装を纏ったキリエは胸を張り【吉祥寺1年D組】の面々を見回した。
    「フーハハー、我輩にかかれば氷の上を滑るなど容易いのである」
     そうは言ってもスケートは慣れない。「真琴ちゃん足元気を付けてね」と手を差し伸べた潤子に真琴は小さく頷いた。
     輝くイルミネーションに、アートが施されたスケートリンクが美しくて真琴は「綺麗ですね」と感嘆の息を漏らす。
    「コツはこう、ビクビクしすぎねーでガッ! と行くと上手くいくですよぅ!」
     こうです、と手を取ってキリエを氷上に誘うヒオへ潤子は「壁にアートが描かれてる」と微笑んだ。
     潤子とヒオが先生役に。キリエと真琴は教えて貰いながら懸命に氷の上を滑り続ける。
     笑い声に綻べば、もう一度、氷の上へと躍り出よう。


     いざ行かん、初デートと笑った悠にひよりは「お隣座っても良い?」とおずおずと小さく告げる。
     観覧車に二人きり。長くて短い15分の空中散歩に鼓動は高鳴る。
     ぽつりと、悠は「俺が彦星でひよりんが織姫様になっちゃったな」と暗号めかして小さく告げた。
    「わたしと悠くんは、いつでも一緒に居られるよ」
     握りしめた指先に。散歩を始めようと降りた足先が地面に着く前に抱き止めて。
    『二人だけ』をこれからたくさん作ろうねと小さく唇に乗せた。
     ランドマークタワーはクリスマスだけ全フロア点灯だと胸を張る煉火は横浜のご当地ヒーロー。
     緊張は譲も煉火も同じ。みなとみらいの観覧車に乗るのは憧れだったと呟く彼女に譲は答える様に目を伏せる。
     プレゼントがあるのだと「な、なぁ」と二人揃って顔をあげる。交わう視線に重なる唇。
    「今のって、」
    「キ、キ……」
     向き直り、手を強く握ったまま、帰りの時間が近付いた。
    「うん、ゆっくり動くし景色は綺麗だし好きだよ」
     真下を見なければと海と街から離れる空中散歩に胸を高鳴らせる恋時は芒の服をそっと摘まむ。
     覇気のない様子に瞬いて「もう少し、傍に」と掛けた言葉が恥ずかしくて芒は少し目を逸らす。
    「もっと触って欲しいの」
     紳士的に――震えた優しい口付けが、そのまま落ちてくる。
     はらはらと散った柔らかな雪に瞬くアナスタシアが「綺麗」と小さく微笑んだ。
     隣同士、日方が眺める遠くの夜景に目を奪われているだけでは駄目だと日方は「アナ」と小さく呼んだ。
     呼び掛けに、瞬く彼女を抱き寄せて。掠めるだけの口付けに「大好き」の言葉を乗せて。
    「えへへ、アナからもお返し! アナも日方の事が大好きだよ」
     少しだけ、ぐい、と背を伸ばす様に頬に触れた感触に火照る顔を覆った日方が俯いた。
     みなとみらいは初めてだと瞬く射干の眼下に広がる景色は美しい。
     頬を赤らめて、「どれだけの恋人たちがこの輝きの海に居るんだろう」と射干は囁いた。
    「……わ、私を選んでくれて、有難う。一回しか、言わないぞ! あっ、愛してる……!」
    「……俺も同じ時代に生まれて、クラスで俺に応えてくれて、この時も一緒に居てくれて有難う。
     ――俺も十朱……いや、射干を愛してる」
     ぎこちなく腰掛けて巳桜はサズヤの表情を伺った。エレベーターを克服したからと選んでこの場所は二人きり。
    「すごいわ、まるで街のあちこちに宝石の粒を鏤めたみたい」
     姫神の言うとおりと頷くサズヤに巳桜は「隣に座ってもいい?」とおずおずと聞く。景色が見えないからと隣へ移動するぎこちなさに首を傾げる彼に巳桜は唇を震わせた。
    「……ん」
     風邪を引いたのと差し出されたマフラーに顔をうずめて唇で言葉を発する。
     まだ、思いを伝える勇気はないけれど。
     ぐらり、と傾いだゴ」ンドラの中、「手、繋いどくか」と問うた赫絲に空は瞬いた。
    「コイビトは手を繋ぐモノであると文献に書いてありました」
    「恋、」
     思わず途切れた言葉ににこやかに微笑んで。毒吐く様に告げた言葉と絡めた指は裏腹で。
     言葉にすると野暮だと瞬く空は「愛する人といっしょにみれて嬉しいです」と唇を綻ばせる。
     そんな彼女に「この景色は悪くない」と言いかけて、一つ訂正。頬へ落ちる囁きに、光りの美しさを思い知る。
     海を彩る灯りに瞬く彼女へとレーゲンは真剣な表情で「伝えたい事が、あるんや」と囁いた。
     沢山の場所に足を運び、一つ、進むことだって大事だとレーゲンは実感していた。
    「俺は櫻嵐が大好きや。世界で誰よりも愛してる。順番おかしくなってるけど……俺の恋人になってくれ」
     まっすぐに伝えられた言葉にきゅう、と締めつけられる胸が苦しい。
    「今迄、色んな人を見て、会って、そのなかで一番、だいすきだよ」
     重ねた唇の温もりに、ぽろぽろと毀れた雫が重ねった。
     光りの海の中で、花月は眸を伏せり「観覧車には縁がないと思っていた」と囁いた。
    「私なんかが、友達を、ましてや恋人なんか作ってはいけないし、幸せになって良い筈がないって、ずっと思ってて」
     戸惑う言葉を聞きながら舜はそっと花月の手を取った。
    「……誰かに、嫌われるのが嫌だったんだ」
    「俺も、血濡れた手をとる子がいると思ってなかった。
     唯一無二、君だけだったと口付けを落として、「カルナ、愛してるよ」と二人だけの名前を呼ぶ。
    「一日お疲れ様です」
     クラブでもお世話になったとライラに告げる巧へと彼女は柔らかく笑う。
     二人一緒の場所を模すスノードーム。手作りのそれに乗せた思いは胸の内。
    「僕は、いつまでも待たせるつもりはありませんからね」
     外を眺める彼の横顔に、ライラは小さく笑みを浮かべて「巧らしい答えね」と囁いた。
     頬へと落とす口付けは、聖夜のプレゼント。
     二人きり、イルミネーションに眸を輝かせ栞は翼に向き直る。
    「あー、その、栞。好きだ。俺の女になって欲しい」
     意を決したその言葉に、瞬いて、栞はじっと翼を見詰める。
    「唐突かもしんねぇけど。ずっと俺の傍に居て欲しい、俺だけ見て欲しい。俺も傍から離れない」
     だから、付き合ってくれないかと告げる言葉に彼女は嬉しいと小さく笑んだ。
     ぐらぐらと揺れるゴンドラは恵の気持ちを表す様で。楽しさを掻き消す様にぽつりと零す不安に小次郎は瞬いた。
    「小次郎がちょっとくらい居なくなっても平気だと思ってた。……そうじゃなかったよ」
     会えないと、会いたくて。会うと如何するべきか解らなくて。
     遊んで、笑って、怒って、泣いて、何気ない毎日を過ごしたいと恵は小さく、言う。
    「それでね、だからね、」
     何度も繰り返した言葉に小次郎は一つ一つ相槌を返し続けた。
    「――すきだよ」
    「そっか――」
     顔を上げ、克ち合う眸に小次郎はゆっくりと――「俺も」


     頂点に行けば学園まで見えるかな、はしゃぐ新にドロシーは小さく笑う。
    「この電子ナビで色々説明してくれるみたいデスヨ!」
     ドロシーの言葉に新がはっとした様に頬を染める。はしゃぎすぎたと照れる彼に小さく笑ってドロシーは「楽しかったね」と囁いた。
    「これからも、ずっとこうやって過ごせたらいいね」
    「先はわからないけど」
     そうであればいいと、手渡す蒼玉のイヤリングと銀細工の懐中時計は今日の思い出に。
    「霧夜様、冷えておられませんか?」
     問い掛けに、疲れたと息を吐く霧夜は巽を見遣る。従者として付き添わせた彼の聖夜の予定をふと考え、
    「今日は恋人や大切な人と過ごす日だと聞く」
    「……私の大切な方は、霧夜様お一人で御座います」
     言葉はいらないと微笑む彼に目を逸らす。そうか、と答えを一つ。唇を引き結ぶ彼に巽は笑みを浮かべた。
     隣り合わせは落ち着かなくて。高所が苦手な識はマイスが隣に居る事を確かめて息を吐く。
    「凄いいい眺めだね」
     柔らかに、告げた言葉に瞬いて。光があふれる瞬間をその眸に焼き付けた。
    「だ、大好きです」
    「僕もきみのことが大好きだよ」
     手を重ね、凭れか方その熱は。
    「見ておにぇいさん! お外綺麗だよ!」
     眸を輝かせる玲が振りむき声をかける。
     空色の眸を輝かせ、微笑む彼は幸福そうに愛しい相手を見詰めた。
     百万ドルの夜景というならこの事かしらとアイリスエルは柔らかく微笑んだ。
    「アイリ。貴女が入部届けを持って現れた時は本当にビックリした」
     あの日から、自分は大きく変わった。ジュリアンは自分を色付かせたのはきっとアイリスエルだと笑みを浮かべる。
    「アイリ。俺を見つけてくれて、有難う」
    「こうして一緒に居られて私、とっても幸せよ。これからもよろしくね、ジュリ」
     大好きと唇に乗せた言葉が、景色を更に色付かせる。
    「見て、外道さん! 綺麗!」
     はしゃぐ夜久・葵の声に黒武がはっと意識を彼女へ向ける。
    「こう、敢えて観覧車と言う二人っきりになれる密閉空間な所を選んだけど」
     景色を見たかったのかいと告げる言葉に葵は大きく瞬いた。
     気持ちはまだ伝えない。15分の宝物以上は望まないと苛めっ子の様に笑う彼に葵は目を伏せる。
     手を繋ぎたいけれど、今は勇気もないからと冷えた両手へ緊張に濡れた息を吐いた。
     輝く空は万華鏡。「あ、花火」と漏らす千波耶の声に葉がつい、と視線をあげる。
     人工光の花火を見上げ夏のあの日を思い返す葉の隣で「紫のゴンドラが良いな……」と何気なく呟いて。
    「それに乗れたら、幸せになるんですってよ? 良い事があった時に、あれのお陰かなーって」
     笑わないでと唇を尖らせてた彼女に差し伸べられた掌にそっと指先を重ねる。
     乗車確立1.67%の幸せは、葉の願いを聞いたサンタがプレゼント。
     揺れるゴンドラで、照れ隠しの様に逸らした視線の先には宝石の如く輝いて。
     じ、と見つめたその先に、好きと伝えたきりの宙ぶらりんな想いがまだ胸の内に隠れている。
    「アンタは変わってないのね」
     時が経っても、誤魔化し続けたその想いを隠せなくなってきて。
    「ねえ、暁――暁の眸に、あたしはどんな風に映ってる?」
     眩しい様に笑うから、「もう離してあげられないけどイイの」と問うた言葉に優奈は小さく笑う。
    「ずーっと、暁の傍に居ても良い?」
     嗚呼、気付いてしまった――好き、なのだと。
     星を見て、想いを伝え。あの時から変わりない想いを光明は告げる。
    「お前からの気持ちは十分伝わった……今の私も、お前と同じ気持ちだ」
     嵌めた指輪へ視線を落とし、「刃」と呼ぶその声に瞬いて、刃兵衛はぎこちなく眸を細める。
     居場所は、彼の傍だけ。離れてから気付いたのはそれだけ。
    「……愛してる、光明」
    「刃、俺も愛してる」
     再び隣に居る幸福に、落とした口付けは何時かと同じ。
     高い所は苦手だと、緊張した掌を握りしめた隼人は宙を見やる。
    「うわぁ……綺麗……凄く、綺麗」
     儚の言葉に頷いて、それでも儚の方が景色よりも綺麗に見えるから。うっとりした彼女の頬に指を当てる。
    「なあ、儚……キスしても、いいかな」
    「――実はね、儚も……したいって、思ってたの」
     高鳴る胸に、お姫様と王子様は瞼を伏せて唇を重ねる。
     差し出された掌が、思った以上に大きくて瞬くくるりに虎次郎は小さく笑う。
    「くーの手……、温かいっすね」
     もう少しこのままで、と握りしめた指先に「許す」と呟くだけが精一杯。
     二人きりは慣れなくて、綺麗だと在り来たりな言葉の応酬は、『らしく』なくて可笑しくなる。
     僅かな言葉だけでも、思い出になると握りしめた指先は、きっと外では離してしまうから――もう少しだけ。
    「と、隣……行ってもいいか」
     絞り出した青羽の声に、俯いた舞は「ひゃい」と上擦った声を出す。
     二人きり、ライトアップされた景色は恥ずかしくて。「青羽さんは箒からいつもこんな眺めを見てるんだね」と他愛もない会話が唇を滑り出す。
     相槌に、ゆっくりと近づく距離が――唇を重ねるまで後少し。
     時よ進め、未来はきっとこれ以上に美しいだろうから。
     アイススケートは百花の方が上手だと思ったけど、と小さく笑う謡に唇を尖らせて。
    「ほら、下らない事言ってないで外の景色でも眺めるわよ」
     揺れるゴンドラで、緩む意識を締め直す様に葛城・百花は瞬いた。
     むきになっていても、落ち着いた表情も、どちらも魅力的で素敵だから。
    「一緒に来れて良かった。できれば来年も眺めて居たい物だよ」
     零した言葉に「何を当たり前の事を言ってるのよ」と笑った百花の唇が緩んだ。
     綺麗だ、とユウと時継は瞬いた。夜景は見慣れているけれど二人一緒に見るから何時もより輝いて見えて。
    「ユウさん」
     手を取って、今年一年を振り返ろうと唇は暦をなぞる。バレンタインデーも闇に飲まれた事も。
     こうして隣合わせ、二人で居る事は夢見心地だったけれど、「夢じゃないんだな、って」とユウの唇が震える。
    「初めて、こんなにも人を好きになった。
     ――ありがとう、ユウさん。キミに出会えて、キミを好きになって」
     良かった、と告げる言葉と共に肩へと乗った体重が、暖かくて。
     待ち望んだ二人きり。嬉しいのに――慣れなくて、気恥ずかしい。心は隣合ったのに、今とても遠い。
    「希沙さん、あの、これ」
     恋しいペリドットが白い花へと落とされる。メリークリスマスと共に手渡されたそれに希沙は小さく笑う。
    「……ありがと」
     花を求める人は嬉しそうで、小太郎はどんな顔をしたのかと希沙は瞬いた。
     愛しくて、堪らなくて。隣合って伸ばした指は腕へ回ってとくん、と音が一つ。
    「メリークリスマス、きさからの贈り物は降りてから」
     時が、止まればいいのにと。思うのは何時もの事で。
     ずっと慶が傍に居れば良いと夜景を見詰める都璃は小さく息を吐く。
    「隣においで?」
     今日は風が強いからと手招いて、表情を伺う様な慶に都璃はふいと視線を逸らす。
     カフェラテの甘味にレモンティの香りが混ざり合って都璃は唇を尖らせた。
     どんな表情をしたって、可愛い彼女は自分だけの物。
     夜景より素敵だと、もう一度「こっちへ」と手招いた。
     ぐらりと揺れたゴンドラに瞬いたルナが无凱の下へと倒れ込む。
     夜景ではなく自分の事を見て欲しいと不貞腐れた彼女の悪戯は失敗に終わった様で。
    「君はバカですか? こんな狭い所で……急に立ち上がったら危ないでしょうに」
    「申し訳、ございません……」
     呆れ顔の无凱に肩を竦めたルナが顔をあげる。
     0.2mmの悪戯は、もう一度揺れたゴンドラで唇へ優しい感触を落とした。
    「見てみて、ぜーんぶきらきらしてる!」
     この場所はラルフと雅の二人だけだから。「らるるとみやしかいない」と微笑んだ彼女にラルフは瞬いた。
    「そういえば、雅嬢、こちらを差し上げます」
     首を傾げた雅が大きく眸を見開き、「これ、」と瞬く。
     ほろほろと頬を伝うのは幸福だから――彼の手渡す『一番の証』が指先を優しく飾る。
     初めての観覧車に瞬いて、アレクシアはエドアルドに柔らかく微笑んだ。緊張と、楽しみが胸に鬩ぎ合う。
    「あの、ね。アレク……オレ、キミのことが、好き、なんだ」
     弱いけれど、君を護りたいと真摯に告げればアレクシアが柔らかく眼を細める。
     ぽたぽたと涙が伝うのは彼を護りたいが故。
    「全部、ひっくるめて……大好き……なのです……」
     頬に添え、涙を止めるキスを一つ。
     湊が常世と出会ってから一年過ぎて、距離は少しは縮まったろうか。
    「……常世、見えるか?」
    「見える、の。……こんなきれい、なら、家族、いっしょの方が」
     よかった? と首を傾げつ常世に小さく首を振る。
     湊が差し出す彼女への贈り物。
     共に居られたらと、それだけがプレゼントを抱えた胸に温もりを与えて行くから。
    「……あさきくん、今日は誘ってくれて有難う」
     乗りたいのは我儘だった。そう告げる優希にあさきは小さく首を振る。
     初めてできた恋人とクリスマスを一緒に過ごす。それだけでも幸せなのに、相手があさきだということが何よりも幸福で。
    「……考えてる事が同じだと……嬉しいな」
     唇に乗せたのは、握られた左の薬指を飾った指輪への愛おしさ。頬へ落とす口付けに、来年も共にと約束を。
    「もう二年か……」
     懐かしむ様に告げた言葉に彩歌が瞬いた。苦笑を混じらせる悠一へ「ね、悠一」と囁く声は何時もより甘い。
     隣に行きたいと伸ばされた腕に了承し、甘えたがりの彼女の体温を隣に感じて眼を伏せる。
    「……彩歌」
     名を呼んで、重ね合わせる唇に。永遠を願う。
    「足元にも星があるみたいですねぇ」
     隣合って小さく笑う雛へと夕陽は「ゴンドラの宇宙船で二人っきりだな」と小さく笑う。
     観覧車が一番上に付いたなら、お願い事がある。
     彼女『彼の名前と同じ色』の眸を伏せるから、「メリークリスマス」、と一つ口付けを。


     履き慣れないブーツの踵がこつん、とタイルを叩く。
    「少しは年相応に見えますかね?」
     瞬いた千歳は「霞の味も知ってそうだもの」と冗句めかして肩を竦めた。
     寒くないかと聞けば首を振り、気丈な彼女に「俺の顔を立てて下さい」と晃平は頬を掻く。
     寒がりで物臭だけど、冬が好き、散歩も好きで海が好き。そんな自分を彼女が知ってくれたろうか?
     のらりくらりと歩くのは、『あの日』と同じ――それでも立ち位置は変わるだろうかとヴィルドは小さく笑みを浮かべた。
     砂蔵の肩に凭れかかった頭が、二人の変化を解らせる。袖引く指がふと離れヴィルドは紫苑の眸を細めた。
    「ライ麦畑じゃないけれど――私の事を捕まえてみたら?」
     離れても捕まえて見せると伸ばした指に、子供っぽいと笑うだろうか。
     城戸崎・葵と彼女の間に言葉は無く。夜の帳の隙間を縫う様にゆっくりと歩いて行く。
    「雪、綺麗だよね」
     見上げた空から降る白雪に、頷くジョルジュと空を見上げた。
     気恥ずかしさに視線を逸らす篠介へ依子は小さく笑みを浮かべる。
    「寒くないか」
     手渡された飲み物に赤く染まった鼻が可笑しくて、指先がなぞれば鼻先に雪片一つ。
    「夜景が星の海のよう」
     潮騒に、飲まれそうな程の声音に依子の過去を思い返して篠介は瞬いた。
     顔をあげた彼女の頬へ指先がそっと触れる。瞬いて、その声を飲み込む様に。
     指先に落ちた雪に小さく息を吐く美希へと優生が「先輩」と呼ぶ。
    「結構身長差あるよなあ」
     からかう様に笑った優生にむっと唇を尖らす美希が彼の言うままに爪先立ち。
     ほら、と首筋に巻かれるマフラーと共に、一つ、唇に触れた感触に美希の眸が見開かれる。
    「なにを、」
    「――皆には、内緒ね?」
     海沿いを歩きながら八尋は琥珀を振りかえる。
     聖夜の世界は違う輝きに埋め尽くされて、瞬く琥珀は「すごいや」と笑う。
    「……寒いね」
     吐いた白い息に八尋が巻いたマフラーは琥珀と繋ぐ懸け橋となる。繋いだ温かさに琥珀は瞼に焼き付ける。
    「ほい、これ飲みながら歩こうぜ」
     円が允へと投げたココア、夜音には紅茶が手渡される。それだけで幸福で。
     はしゃぎ笑う、夜音に円と允が顔を見合わせた。どうしてと問うたなら。
    「12の誕生日のときに夜の海に出かけたのが、家族との唯一の思い出で」
     大切な人達とこの場所に訪れられた事が嬉しくて。夜音の笑顔に円は小さく笑みを返す。
    「また来るかい?」
    「来年もよっしく。帰りは温まりそーなもん食ってこーぜ」
     頬を掻いて笑った允のスマートフォンのシャッター一つ。笑顔の三人が光りを纏って収まった。
    「付き合い始めて丁度一年か……」
     恋人が出来るのはゴールじゃない。手を繋いだ真咲はカツァリダの顔を眺める。
     青薔薇のプレゼントは不可能から奇跡を。祝福を渡せば、天藍の楔と名付けたロザリオが手渡される。
     ラピスラズリとスフェーン、意味は永久不滅の愛だと唇に乗せた音を塞ぐように唇が重なった。
     日々は流れて行くから、ゆったりとした時間を過ごせるのは貴重で。
    「き、綺麗やね」
     神楽の声に神華は小さく頷いた。そっと腕を組めば、温かさに彼女を感じて頬が火照る。
     当たり前の毎日が幸せで仕方ないから。今日も明日も、これからずっと、一緒に居ようと指きり一つ。
    「大好きだよっ」
     抱きしめた温もりを感じながらエアンが葉新・百花へと「寒くない?」と問うた。
     二人だから寒くない、そう見上げた瞳は万華鏡の様で。綺麗だと揺らめくイルミネーションが百花の眸で揺らめいた。
     唇へ落ちた柔らかさに瞬いて。その視線が離れない様に、と。
     肉まんを頬張る心桜がふ、と顔をあげる。広がる景色は万華鏡の様。
    「心桜はさ、今何が一番欲しい?」
    「明莉先輩の笑顔! だから、今、幸せなのじゃ」
     直ぐ様に、その答えを告げれば明莉は「俺はね」と欲しいものをねだる様に頬へと指先を滑らせた。
     眼を伏せて、降りる口付けと重なったのは、愛おしさ。
     だから、そんな君へ――「メリークリスマス」

    作者:菖蒲 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月24日
    難度:簡単
    参加:160人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 28/キャラが大事にされていた 0
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