クリスマス2014~手のひらサイズの雪景色

    作者:春風わかな

     街がクリスマスに彩られる頃、武蔵坂学園の伝説の樹も赤や黄色の電飾を施され巨大なクリスマスツリーへと姿を変える。
    「もう、こんな時期、なのね」
     寒いのか無意識に首元もマフラーをそっと持ち上げた久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)は一枚のポスターの前で足を止めた。

     ――透明なドームの中で水の光を受けて揺らめくミニチュア模型。
     ――くるりと世界が回れば、ひらひらと舞い散る白い雪。
     ――想い出を小さなケースに閉じ込めて。あなただけの雪景色を作りませんか?

    「スノードーム作り……」
     それは、クリスマスバーティーイベントの1つ、手作りスノードームのお誘い。
     粉雪舞うキラキラと輝く世界に一つだけの景色を作ってみるのも悪くはない。
     せっかく参加するのであれば、あの子にも声をかけてみよう。
     きっと喜んで参加することだろう――。
     イベントのチラシを手にとると、來未は足早に教室へと戻っていった。


    「あのね、みんなでいっしょにスノードーム作ろうよ!」
     ウキウキと声を弾ませ星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)は教室へと集まった人々に話しかけた。
    「作るのもね、すっごくかんたんなの! ね、來未ちゃん」
     夢羽に話を振られた來未がこくりと頷き、淡々と作り方を説明する。 
    「ガラス瓶に、飾りを接着剤で止めて、ラメと液体を注ぐだけ」
     とても大雑把な説明だが、作り方の概要としては間違っていない。
     飾りは家やツリー等の小さな玩具やクマやネコ等の動物の人形など、瓶に入るサイズで耐水性のものなら何でも良い。玩具や人形だけでなくツリーの飾りを使ってもいいし、耐水性の粘土等を使って自分で手作りするのも良い。
     ただし、液体を注ぐためプリズム効果も考えて少し小さめにしておく方が綺麗に仕上げられるだろう。
     雪になるのはキラキラしたラメやビーズ、小さなスパンコールだが、アルミホイルを細かく細かく切ったものを入れるのも良い。雪なので銀色のラメや白や透明のビーズが中心だろうが、他の色を混ぜるのも夜景のようで綺麗かもしれない。
     瓶の中に注ぐ液体は洗濯糊と水を混ぜたもの。洗濯糊の量を調節することで雪が舞うスピードが変わるというので色々試して好みのものを作ってみよう。
     これでスノードームは完成だが、最後にガラス瓶の周りにリボンを結んだり、レースで飾ったりして可愛らしくアレンジするとさらに素敵に仕上がるだろう。

     出来上がったら、せっかくなので完成したスノードームを見てみよう。
     暗幕で暗くした教室で小さな灯りで照らしたスノードームはどんな景色を見せてくれるだろうか。
     あなたが作ったドームに閉じ込められた小さな雪景色。
     ――見せたい人は、誰?
     ――共に見たい人は、誰?
     温かい飲み物を手に、そっと寄り添い小さな世界を見つめる時間も素敵な想い出になるだろう。

     ――クリスマスを小さなドームに閉じ込めて。あなただけの雪景色を作りませんか?


    ■リプレイ

    ●小さな雪景色
     スノードームを作るために集まった生徒で賑わう教室は予想を超えて大盛況。
    「真ん中にクリスタルツリーをおいて、ウサギさんとリスさんも、っと」
    「俺、雪の中を子犬が遊んでる感じにしたいんですよね」
    「お、俺もわんこいるぞー。位置はクマさん雪だるまの隣にするかな」
     【ましろのはこ】の仲間たちが楽しげに手を動かす様を見て、香奈芽もゆっくりと想い描いた景色をドームの中に閉じ込める。
    「ふふーん、創作物は得意なんですよ!」
     お任せくださいとばかりに謎のオブジェを取り出しせっせとドーム作りに励む司だけは何を作りたいのかさっぱりわからない。
    「それは……サツマイモ畑……ですか?」
     真顔で問いかける遥斗に司を口を尖らせた。
    「はぁ? どこから見てもうちの庵じゃないですかー」
     夢にも思わぬ答えに如一と香奈芽は思わず顔を見合わせ。
    「天才の作品は凡人には理解出来ないものだと聞いた記憶が……!」
     リオンの言葉にさらに司は有頂天。
    「司さん、こうした方が庵っぽくないですか?」
     見るに見かねた遥斗が思わず手を出せば。
    「あ、それ良いですね。後は角もつけてっと……」
    「あら、庵に角って必要でしたっけ?」
     個性溢れる雪景色が出来上がるのはもう少し時間が必要なようだ。

     新一郎の持ってきた人形を見てあまねは嬉しそうに手を叩く。
    「こちらの、ピンクの方はわたくしですのね!」
    「正解。ま、単純なやつだけどな」
     だが、新一郎は人形の配置に悩んでいるようで。
     あまねも心配そうにじっと見守っているが。
    「ところで、あまねは自分の分、作らないのか?」
    「はっ! ど、どうしましょう……!」
     2人は急ぎ材料を集めに行くのだった。

     サンタが届ける贈り物。それは兄が願う妹の幸せ。でも――。
    「サンタなんかいないって知ってるけどね!」
     強がる薙乃に蒼刃ゆっくりと首を横に振る。
    「いや、それでもきっと来るよ。薙乃の元には、幸せが」
    「わたしは、幸せくらい自分でちゃんとどうにかするしっ」
     強がる薙乃の本心は、まだ蒼刃には告げられず。
     想い出の世界には優しい雪が静かに降り続けていた。

    「せっかくの聖夜だというのになんで――」
     哀愁を漂わせながら溜息をつく无凱に静謐はだって、と口を尖らせた。
    「こういったモノは得意じゃないのだから……」
     一応、自分で頑張ると双子の姉は言うが、トンデモナイ作品に仕上がっても困る。
     静謐の手元を見つめ、无凱は思わず息を飲んだ。
     目の前に広がるのは家族の想い出が詰まった小さなドーム。
     ひらひらと粉雪が想い出に積もる。

    「上手にできたら交換こねー」
    「はぁ? 女子か」
     希の提案は厳に一蹴されたが気にしない。
    「ほら、可愛い猫サンタだよ!」
     どうよ、と得意気な希の手元にチラリと視線を向け。
     妙に愛らしく着飾ったメルヘン猫に思わず目をみはった。
    「女子か」
    「なんだよー、巌のも十分女子って感じ!」
     雪原に佇むグランドピアノを甘い蜜色のスポットライトが仄かに照らす。

     仲良く一緒に作るのは藍蘭と梓(d10932)の二人。
    「よし♪ こんな感じかな……藍蘭さん、どうですか?」
     梓が藍蘭の手元を覗き込めばそこにはキラキラと輝く星空が広がっていた。
    「上手く作れていますかね?」
    「いいですね、キレイだと思いますよ」
     梓の手元ではチラチラと降る雪が雪だるまと雪兎をそっと包む。
     心を込めて作られたスノードームは今、互いの掌の上に。

    「僕、幻想的な世界を創ろうと思うのですよ」
     ほら、と裕也が差し出したお盆の上には様々な鉱石が。
    「裕也さんがドジしてばら撒いたら面白そう……だ、なぁ!?」
     藍の予知通りバラバラと石が辺りに零れ落ちた。
     慌てて拾い集める2人に笑みが漏れる。
    「藍さんのはどんな世界です?」
    「『小さな動物達にも楽しいクリスマスを!』って感じだな」
     素敵な世界の完成まで、あと少し。

    「ねぇ、高峰ちゃん。これ、どうすればいいかな?」
     紫苑が取り出したのはベースを持ったサンタクロース。
     紫姫もまた、キーボードを手にしたサンタクロースの人形を取り出して。
    「接着剤で固定すればいいんですよね」
     紫姫の作業を真似て紫苑も楽しそうに配置を考えた。
     キラキラ光るスノードームに紫姫はこっそり仕掛けを一つ。
     紫苑が気付くかどうかは、神のみぞ知る。

     指先仕事が得意なイコと細かい作業は苦手なゆずる。
     仲良しの二人が創る世界は、2人の大好きがたくさん詰まった雪景色。
    「ほら、去年のクランツより、似てる、でしょ?」
    「ええ、しまださんちゃん、可愛ゆ凛々しいわ……!」
     にこりと笑顔を交わしお気に入りのリボンを結べば出来上がり。
     ――2人で創った想い出とともに。
     雪の箱庭にひらひらと粉雪は舞う。

    「さて、作るか」
    「円さん、早いね……」
     サクサクと手を動かし始めた円の傍らで。
     ミカも傍らの少年をイメージしたドームを作り始める。
    「ほい、これやる」
     とん、と一足先に完成した円に手渡され。
     ミカの掌にゴージャスな雰囲気漂うキラキラした世界が広がった。
    「ボクもあげるよ」
     円の手の上で白い薔薇に銀のラメがふわふわとゆっくり舞い落ちる。
     ――メリークリスマス!

    「あ、來未さん」
     成海に声をかけられ、來未は作業の手を止めた。
    「少しだけ、お手をお借りできませんか」
     シロイルカが泳ぐ冬の海。
     小さな青い硝子玉の光を受けてキラキラと輝く宙に雪が躍る。
    「……液体の比率ってこんな感じでしょうか」
    「洗濯糊、もう少し多めで、いいかも」
     心優しい彼らの海はきっと流れも緩く穏やかだから。
     丸い瓶の中で遊ぶ少女とシスターの上に舞い散る白銀の雪。
     何でも喜んでくれる亞羽の可愛い年下の友人に贈る世界に一つだけの冬景色。
     はしゃぐ少女の姿を思い浮かべ亞羽は白いリボンをきゅっと結ぶ。
    「來未さん、夢羽さん。ドームの中にはどんなものを入れます?」
    「わたしは、リス」
    「ユメね、小梅いれたいの! 萌愛ちゃんのも犬がいる!」
     おそろい、とはしゃぐ夢羽に萌愛はにこやかに頷いた。
    「ツリー、押さえて、あげる」
    「ありがとうございます。助かります」
     來未の手を借り、萌愛の描いた景色も形づく。
    「素敵……」
     光に照らされた雪景色はキラキラといつまでも輝いていた。

    ●手作りの日常
    「夢羽ちゃん、どこまでできたかな?」
    「ユメね、ぜんぜんできてないの……」
     桜子たち【TYY】の皆に声をかけられ夢羽はおずおずと何も進んでいない空き瓶を見せた。
    「大丈夫、私たちが手伝ってあげるよ!」
     美術は得意! と胸を張る奏恵の心強い言葉にぱっと夢羽の顔が輝く。
    「あのね、ユメ、ここにツリーを飾りたいの。小梅はこっちね」
     いつもは世話を焼かれる2人があれこれ夢羽の世話を焼くのは微笑ましくて。
     自然と春翔の顔にも笑みが浮かんだ。
    「手が汚れてはいけませんからね。洗濯糊と水を混ぜる作業は俺がやりましょう」
     優しいお兄さんの言葉に少女は歓喜の声をあげる。
    「カエデさん、お姉さんたちの協力はいりませんか?」
     ミニチュアサイズのお菓子を手にした少女はパッと顔をあげ。
    「うーん、お菓子が雪と一緒に舞ってる感じにしたいんだけど」
    「どれどれ……」
     即座に桜子が覗き込んでアドバイス。
    「ねぇ、南極って雪降るのかな?」
    「もちろん。でも、やり過ぎてブリザードにならないように気を付けて」
     唐突な奏恵の問いにも優しくエアンが答えるが、余計な一言に口を尖らせ。
     和やかな妹たちのやりとりを兄たちが見守る、いつもの光景。

     何だか必死そうな夜深に芥汰は楽しそうな視線を向ける。
    「夜深、大丈夫か?」
    「わわ、あくたん、見チャ駄目!」
     わたわたと手元を隠し、夜深は可愛く口を尖らせた。
    「御披露目時、楽シみ。無クなチャう、でショ!」
    「はいはい」
     一足先に完成させた芥汰は頑張る夜深を見守りつつ。
     せーので見せ合うドームは互いをイメージした箱庭。
     白い雪は内緒の想いを乗せて静かに舞う。

     ビーズの花、硝子の星、白い雪。
     ゆっくりと丁寧に一つずつ。
     そんな昭子とは対照的に純也はてきぱき機械的に作業を進めていた、が。
     ふと手を止め考え込んだ彼に昭子はそっと語りかける。
    「純也くん。『もの』というのは、鍵なのです」
     昭子の言葉に純也は再び考え込んだ。
    「鈴木、小型の硝子星1つ、未だ残っているか」
    「ええ、ここに」
     どうか、それがよきものでありますよう――。

     自分をモチーフにしたドームを作る。
     いざ作ろうとすると美術が苦手な薫の手は思うように進まず。
     配置一つとっても決められない薫とは対照的に、翔也は執事服を纏った人形を手際よく固定していった。
     器用に兎の形にアルミホイルを切り抜く手元を見つめ、薫もゆっくりと作業を再開する。
     このドームを見るたびに彼がもっと自分を想ってくれたら嬉しい。
     ただ、それだけ――。

     二人で作るものは世界に一つだけのスノードーム。
    「し、晶子さん、これ結構難しい……!」
     苦戦する楽多を見て晶子は笑い声をあげた。
    「でも、うん、じょうずですよー」
     心を込めて作った人形たちは仲良くドームの中へ。
    「初めてにしては上手くいったかな……?」
     ほっとした表情の楽多に晶子も笑顔で頷いて。
     これからもずっと、こんな風に2人一緒にいられますように。

    「ん?」
     ちょこんと首を傾げる陽菜にわたわたとしどろもどろに錬は言葉を紡ぐ。
    「手先器用だよね、水無瀬さん」
    「器用かな? 綾峰さんこそ、上手だと思うよっ!」
     太陽みたいに明るい陽菜の笑顔に錬もつられて笑顔を浮かべた。
    「今日は、一緒に来てくれてありがと」
    「こちらこそ――また、どこかいけたらいいな」
     小さな約束を交わす小指の奥、ちらちらと白い雪が降る。

     澄ました顔で作業を続けるマーテルーニェ。
     順調そうだと察した花之介は再び自分の作業に意識を向けた。
    (「……む。中々良い手際ですわね」)
     決して得意ではないマーテルーニェだが、当然そんなことは言わないし悟らせない。
     自力で作ったドームに視線を向け、花之介はふふと笑みを浮かべる。
    「お嬢様、二つ並べて鑑賞しませんか?」
    「あら、よくってよ」
     真っ白な雪が、2人の世界を包み込んだ。

     ドームの景色は理想の世界。
     靱は迷うことなく次々と愛らしいにゃんこたちが戯れる世界を創り出す。
    「なんか天国だ……もう猫飼っちゃいましょうよ」
     思わず頬を緩ませる恢の台詞に靱もまんざらではない。 
     続々とドームを完成させる仲間たちを見回し、勇弥はそうだ、と口を開く。
    「折角だから一つ大きなものを作ろうか」
     勇弥の提案にさくらえは赤い瞳をキラキラと輝かせてずいっと前に乗り出した。
    「大きなもの?」
     何が出てくるんだろう――。わくわくするさくらえの前に勇弥が置いたものはサイフォン用のフラスコ。
    「おおっ、デカいヤツも作るのか!」
    「ああ、お店のインテリアにいいかと思ってさ」
     ほほぅと頷き恢は小さな机と椅子を取り出す。
    「コレでお客様も呼べますよね」
    「おっと、コーヒーカップも忘れちゃダメだぜ!」
     フラスコの中に店の風景を再現しつつ。
     実はコーヒー豆の形をしたマスコットをペタペタ底に張り付けた。
    「私は12月に来たばかりですので、これを」
     双調がポインセチアを置けばぱっと雰囲気もクリスマスらしく華やぐ。
    「……」
     じっと視線をそらさずにドームを見つめる実の膝の上ではクロ助もキラキラ輝くドームを見つめ。
     さくらえがそっと優しく揺らせば金色と桜色にキラキラ光るラメとともに赤い羽根がふわりふわりと優しく舞い下りる。
     クリスマスの想い出を閉じ込め。いつまでも、ひらひらと――。

    ●掌の中の世界
    「皆さん、出来ました?」
     桃色の髪を揺らして問いかける柚姫に染がゆるりとドームを傾ける。
    「これ、無色が選んだパーツで作ったんですよ♪」
     雪だるまの隣でお行儀よく座るわんこをじっと見つめる無色も満足そう。
     一方、ハスキーの子犬に降り積もる雪を見つめた柚姫がポンと手を叩いた。
    「あずにゃんさんお師匠さまはクリスマスを楽しむフォルンくんですねっ!」
    「正解。で、ゆっきー、そのドームのモチーフは……」
     白いクリスマスツリーにそっと寄り添うのは桃色兎と黒狼。
     柚姫のドームを見つめ梓(d02222)は成程な、と目を細め。
     ただ、兎と狼の永久の幸せを願う。

     輝乃が創る景色は御面屋の庭。
     モミの木の周りで遊ぶ猫たちの上にも煌めく雪がひらりひらりと舞い降りた。
    「きれいにできたかな?」
    「わぁー、キラキラの雪がすっごくキレイ!」
     夢羽の言葉に輝乃は嬉しそうに頬を緩める。
    「でーきたっ♪」
     茶子の掌の上で楽しく軽やかに踊る鷺娘。
     ちょこんと傾ければ寿の文字が宙に舞い。
     来年も、素敵な舞台に立てますように――。
     『舞い踊る 雪も寿ぐ 舞台かな』

     二人で一つのドームを作った爽太とひらり。
     ドームの中では人形たちが仲良く寄り添っていて。
    「こういうことが自然にできる関係って憧れちゃいますよねー」
     意味深なひらりの視線に爽太はドキリ。
    「え、あ? そ……そーっすね!」
     笑って誤魔化そうとするも意を決してぎゅっと彼女を抱き寄せた。
     頬を赤く染め寄り添う二人の目の前ではキラキラと揺れるドームに静かに雪が降る。

    「ゆうきょうちゃん、できたよ!」
     どうかな、とドームを差し出すめろの掌の上で小さな金の星々が赤薔薇の上に降り注ぐ。
    「めろからの、クリスマスプレゼントなの」
     美しいプレゼントを受け取った優京は礼と共に小瓶をめろに手渡した。
    「我ながら巧く出来たと思う。受け取ってくれるか」
     優しい冬の夜の景色にめろはうっとりと目を細め。
     新たな宝物をそっと優しく胸に抱く。

     まんまるいガラスのドームの中ではサンタが黒ネコにプレゼントを差し出して。
     隣のドームの中の白ネコは空に舞う星を捕まえようと手を伸ばす。
    「姉ちゃん、どう? 出来た?」
    「できたよ~。あっちゃんも、いい?」
     せーの、と声を合わせて。ドームをお披露目。
     藺生と灯夜の仲良し姉妹に笑顔が零れた。
     クリスマスの想い出を共に作れたことに感謝を込めて。

    「すごい、本当に私でも出来た……!」
     都璃は完成した雪景色を見つめ瞳を輝かせ、傍らの少年を見遣る。
    「慶も、出来たか?」
    「もう少し。都璃に似ているインコを入れてみたんだ」
     後は仕上げに煌めくラメを静かに注いで蓋をするだけだ。
    「あの、良かったら交換しないか」
     都璃の提案に慶は優しく微笑みドームを差し出せば。
     2人の掌の中で、小さな世界はキラキラと輝いた。

    「みをき、どんなの用意したの?」
     視線を向けた壱は一見バラバラなミニチュアを前に首を傾げる。
    「壱先輩ならわかるかもしれませんね」
     むむっと壱は暫し無言で考え込んだ。
     どこかで見た記憶のあるものな気がする、が……。
    「壱先輩……これ、完成ですか?」
     真っ白な雪の世界は何も見えないが壱は満足気。
    「帰ったら一緒に傾けようね」
     お楽しみの続きは、暖かな部屋で、共に。

     震生と硝子の目の前に故郷の冬景色が広がってゆく。
    「懐かし。……私、雪好きで。こういう日、よく遊んだ、わ?」
     目を細めぽつりと呟く硝子に震生は静かに語りかけた。
    「知らなかっただろうけど、私はずっと硝子に憧れていたんだよ」
     二人想い出を語りながら作業に夢中になっていれば。
     いつのまにか互いの顔が近くにあって。
     ドキドキする2人の前で。冬の森に雪が積もる。

    「ね、これ曲がってないかしら?」
     心配そうに尋ねるすずりに大丈夫! と蓮静は太鼓判を押した。
    「雪の中の城ってキレイだよなぁ。何よりすずりらしいぜ!」
    「ふふ、ありがとうね。真啓君のも可愛いわ」
     お礼と共にすずりはくるりとリボンを一巻き。
     お姫様をイメージしたドームに彩を添えて。
     ――楽しい一時に感謝を。
     微笑みを交わす2人の掌の上で、煌めく雪が優しく舞う。

     思ったよりも簡単にできるんだね。
     声を弾ませる沙花の手元に青色の世界が広がっていた。
     優しく頷くラピスティリアが創りあげるのは夜の景色。
    「掌の雪景色を想い出を共有した友と見るのも一度しか味わえない贅沢だよね」
    「そうですねぇ、僕らの想い出はこの掌の中――悪くないですね」
     今日という想い出をこの掌に閉じ込めて。
     小さな雪景色を、大切に、そっと――。

     目の前に広がる小さなドームの中に広がる未来の二人のマイホーム。
     想希と悟が描く夢が詰まった箱庭はあれよあれよという間に賑やかに。
    「なぁ、想希。――俺、頑張るから。二人の夢、形にしよな」
     肩を抱き寄せられるまま素直に頭を預け、想希は大切な人の名前を呼んだ。
    「ありがとう。君となら全部叶えられると信じてます」
     雪と、桜と、紅葉も舞う鮮やかな世界をしっかりと掴めることを。

     ――せっかくだから、空部らしいのを作らない?
     朱那が取り出したのは色とりどりの紙飛行機のチャーム。
    「みんなとお揃いっていいな!」
     オレンジの紙飛行機を選んだ才葉に続いてみんな好きな紙飛行機へと手を伸ばす。
    「どんな色を選ぶかで部員の性格も出そうだよな」
     そんな幸太郎が選んだのは自身の色でもある灰色。
     白だけで覆われた無彩色の世界をそっとドームに閉じ込めて。
     故郷の冬景色に想いを馳せた。 
     一方、黒と黄色のツートンカラーの紙飛行機を手に供助が作る景色は雪降る森の夜。
     レインボーラメの雪が動物たちにはらはらと優しく降り積もる。
    「ん? シューナできたの?」
    「ほら! 夜の、空の世界!」
    「いいね、へへ、オレのはクリスマスっぽいだろ!」
    「皆、早くない!?」
     気づけば残すは凝り性のアッシュのみ。
     朝焼け空に銀の紙飛行機と小鳥が舞う、小さな世界を作り上げた。
    「せっかくだし、並べようよ」
     アッシュの言葉に5つの雪景色がちょこんと並ぶ。
     空は繋がり、今、一つの世界へ――。

    「センパイ、実物初めて?」
    「ええ――まさかスノードームを自分で作れるなんて!」
     高鳴る胸を抑え雫は夢中で手を動かして。
     狭霧はちらりと彼女に視線を向けては再び手元に意識を戻す。
     気づけば2人口数も少なく、作業に没頭していて。
     完成と同時に視線を交わせば自ずと口元に笑みが浮かんだ。
    「向こうで一緒に見よ?」
     キラキラ雪が降る小さな雪景色。この感動はあなたと共に。

    ●幸せの箱庭
    「あ、來未。そのスノードーム、ちょっと私に預けてみませんか?」
     恵理の誘いに首を傾げつつ、素直に來未はドームを差し出した。
     ついでにちゃっかり夢羽も「はい♪」とドームを渡す。
     何をするんだろう――?
     集う【空色小箱】の皆の顔も興味津々。
     恵理の傍らで志歩乃が出来上がったドームをそっと箱へと収め。
    「今から魔法をお見せしますね」
     恵理はパチンとウィンクを一つ。
     ゆっくりと箱を空ければ薄明りに包まれ煌めくドームが空色の箱の中から現れた。
    「わ、わ、わ! 綺麗な空だね! ボクのは天気雨だ」
    「わぁぁ~。ふわり、ふわりできらり、きらり。イメージ通りですっ!」
     声を弾ませる和佳奈の横では紗月は身ぶり手ぶりも交えてはしゃぐ。
    「みんなで作った箱の中……すごく、綺麗……!」
     雰囲気が違うかもという志歩乃の懸念はいつのまにやた吹き飛んで。
    「えへへ、後で虹のフィルム追加しちゃおうかな~」
     和佳奈のアイディアにいいですね、と紗月は微笑んだ。
    「空に包まれたボクたちの景色……一緒に見れて嬉しいですっ」
     青空に包まれた冬景色を、皆と。

     那月、と櫻は傍らの青年の名を唇に乗せる。
    「貴方のこれからの生活に、光が差し続けますように」 
     小さな雪景色をじっと見つめ、櫻はふふ、と笑みを零した。
    「私、神を信じてはいないけれど、たまには祈るのも悪くないわね」
    「『祈り』は希望があるから生まれる物と言われた事がある」
     淡々と告げる那月はその青い瞳を櫻に向ける。
    「お前の中の希望が歩む道の光たらん事を」

    「俺、さとのことをずっと思いながらコレを作ったんだ」
     錠がドームを大きく揺らすと冬木にぱっと薄紅色の花が咲く。
    「おれも錠先輩をイメージしてみたんですよ」
     音楽に情熱を傾ける姿が頼もしく、でもその一方で繊細で。
    「そんな所も好きですよ」
     思いがけぬ理利の言葉に錠は言葉を失ったがすぐに笑みを浮かべ。
    「そっか、お揃いだな俺達」
     淡い光を纏った小さな冬景色。雪は静かに降り続けた。

     薄桃色の桜吹雪が真っ白なカメレオンをそっと包み込む。
    「やーん、可愛い! 綺麗!」
     思わず声をあげる七の様子に鶴一は得意気に頷いた。
    「イヒヒ、どーだ。で、こっちがあたしのイメージか」
     煌めく銀色の道は美しく。一人歩く少年もどこか楽しげ見える。
    「ありがと、気に入った!」
     これが、友が見ている自分の姿。
     感謝の想いと共に今、それぞれの掌の上に。

     皆が作ったスノードームを柔らかな光が照らす。
     目の前に広がる幻想的な景色にリューシャと螢はうっとりと目を細めた。
    「リューシャ」
     愛しい人の名を呼び螢はひょいっと彼女のを抱き上げ膝の上へ。
    「ふぇっ?」
     思いがけない展開に吃驚したリューシャだったが、暖かなぬくもりに静かに身を委ねる。
    「また、二人で出掛けようね」
    「うん、それでいっぱいいっぱい想い出を作ろうね」

    「こんな風にクリスマスを過ごせるなんて……夢みたいだ」
     美しいスノードームを前に里桜は夢見心地で呟いた。
    「俺だってそもそも想定したことなかったからな」
     小さく笑みを浮かべ、勇騎はドームを優しく揺らす。
     動物たちの頭上にキラキラと粉雪が舞った。
    「またそのうち、動物園行ってみるか」
    「行きたい!」
     思いがけぬ誘いに里桜はぱっと目を輝かせ。
     また一緒に、もふもふを見よう――。

     極彩色の雪の中をゆるゆるとウバザメが泳ぎ。
     その隣では真っ暗な闇にしんしんと雪が降り続いていた。
    「それ、何?」
    「深海っぽい感じにしたん。海に降る雪もええもんやろ?」
     そっと肩を寄せ合いこそこそと言葉を交わす星花も綴。
     春になれば大学生。話題は進路の話へと移り。
    「色々あるけど、一番はつづりんの嫁かなあ?」
    「あ、それはもう決まってるから」
     二人同時に笑顔が零れた。

    「わぁ……っ!」
     光が灯ったスノードームに日和は小さな完成をあげた。
     目の前に広がる情景は日和と宗佑の大切な場所。
     『おかえり』なんて声が聞こえてきそうで思わず宗佑は耳を澄ます。
    「わたし、今、すごく幸せです」
     ことんと肩に彼女の重みを感じ、宗佑は眼鏡の奥の瞳をすっと細めた。
    「俺はね、日和さん。いつも幸せだよ」
     ずっと、ずっと、いつまでも。
     あなたが傍にいてくれれば――。

     瑞樹の掌の小さな夜空にキラキラと星が舞い降りる。
    「一緒に見た流星群みたいで、綺麗だな」
     瑞樹の言葉にメルキューレは嬉しそうに微笑んだ。
    「先輩のは、あたたかな春の景色ですね」
     そっと傾ければメルキューレの手の中で桜吹雪が静かに舞う。
    「春が来たら、また桜を見たいですね。一緒に」
    「うん、また花見しような」
     降り積もる優しい二人の時間を積み重ね。永久に、共に。

     湯気の立つお茶を両手で包み、桐人と茜歌は互いの力作をじっと見つめた。
    「とっても幻想的……思わず見入ってしまうね」
    「頑張って作った甲斐があるな」
     会話が途切れた瞬間。
     ふと何気なく傍らに向けた視線が交差する。
    「……」
     ぱっと二人同時に慌てて逸らし。
     再びゆっくりと視線を向ければぱちりと目があった。
    「……」
     ほんのりと紅色に染まる二人の前で粉雪は舞い続ける。

     幸せの頂点ってどこなんだろう――。
     ぽつりと呟きを漏らす彩歌に樹は静かに視線を向けた。
    「私、それって今なんじゃないかなってたまに考えるんです」
     それは彩歌が無意識に感じる未来に対する漠然とした不安。
    「ねえ、彩歌ちゃん」
     樹の言葉に彩歌はぎゅっとマグカップを握り締めた。
    「未来はどうなるかわからないけれど、わたし今よりも想い出を積み重ねてもっと幸せになってるって思うのよ」
     だから、二人一緒なら、幸せの頂点はもっともっと上。
     そして、いつか頂点からの景色を二人で見よう――。

     掌に乗せた冬景色。
     微かに傾けばふわり、ふわりと雪が舞う。
     今日という新たな想い出と共に、心に降る雪は解けることなく。
     あなたと創った世界に降り積もる。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月24日
    難度:簡単
    参加:105人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 3
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