「……気のせいか?」
ある日の武蔵坂学園。廊下。
「どうした、兄弟」
「いや、異様な気配を察し――うっ、ぐあぁぁぁぁぁあッ!!」
「兄弟!」
2人組の男子生徒の内やや長身の方が、突如何かに吹き飛ばされたように壁に叩き付けられた。
「すわダークネスの襲撃か!?」
片割れが周囲を警戒するものの、近くにいたのは男女のペア1組のみ。
「……街には浮かれたソングが流れ、イルミネーションが光り、浮き足立ったような空気を感じていたが……まさか、もう、12月……なのか……?」
「えっ、気付いてなかったのか兄弟。というか、それと今吹っ飛んだ事に何の関係が?」
「気付かないか! 今我々と通りすがった2人……恋人同士だぞ!」
「は」
「しかも、恐らくはここ1、2週間のnoobだろう……」
長身の男は口元を拭うと、ゆっくりと立ち上がった。
「そう、あれが近いから急いで与したのだ……クリスマガハァ!」
「兄弟!」
「なんかさー、この時期になると増えるじゃん? カップルってヤツがさー?」
「兄弟……」
この男、『ソロ』であった。
これからはソロプレイヤーにとって非常に危険な時期となる。
愉快な空気は瘴気となり、手を繋ぐカップルの姿は正気を抉り取る魔鎌となる。
「このままではクリスマスに負けてしまう……」
「勝ち負けじゃないと思うんだけど」
「何か策は――ややっ!!」
廊下の掲示板に張られた告知に男の視線が吸い込まれる。
「これに参加すれば、気も紛れようものだ! いや、勝てる。勝てるぞ!!」
「兄弟ー!」
2人組が慌ただしく去っていく所を首を傾げながら見ていた観澄・りんね(高校生サウンドソルジャー・dn0007)はふと呟く。
「この流れ、私知ってるかも。きっとここにはライブのお知らせが」
りんねはひょいっと掲示板を覗き込み……。
「あった!」
武蔵坂学園は例年通りクリスマスにパーティが開催される。
様々な場所で様々な催しが行われるがその中のひとつ、音楽ライブパーティーの告知ポスターは語る。
――クリスマスは体育館でレッツ音楽!
演奏、歌、熟練者、初心者、鑑賞などなど音楽が好きなら何でも誰でもウエルカム!
友人や仲間、1人は勿論ただならぬ関係同士でも参加OK!
クリスマスだからそれっぽい曲だとフィーバーできそう。
オリジナル曲ならもーっとフィーバー!
そして! 今年の目玉は乱入セッション大歓迎だというコト!
ソロが、グループが、他のグループに競演や競争をガンガン仕掛けて盛り上がろう!
クリスマスは熱いライブで決まりだ!
「決まっちゃったね、私の予定」
りんねは満足そうに頷くと、
「それなら、一緒に来てくれる人を探しに行かなくちゃね!」
クリスマスを一緒に楽しんでくれる仲間を探しに駈け出――そうとしたところを、しかし今は休み時間終了間際。その姿を教師に見つかり、教室へと移送されるのであった。
●GO!
「トップは私たち【les cadeaux】がもらったっ!」
ウルスラのしっとりとした前奏の中、智はドラムに飛び込む。
「早速だけど聴いてね」
ベースで前奏に加わる紫苑は静かに曲名を告げる。
小さな勇気のお話。
すっと耳に、心に浸透する真っ直ぐなギターを奏でながら千波耶は歌う。
『好きです たった一言だけど』
『言えたら楽になれるかな』
『その笑顔、その仕草、その言葉』
どこか切なそうな笑顔でドラムを打ち、歌う智。
穏やかな曲調のそれは目立たぬよう、しかし軸を支えるキーボードの紫姫の雰囲気にとても合っていて、
『いつだって惹きつけて焦がされる』
5人のハーモニーが心地よく響き渡る。
『粉雪 背中を覆って行く』
ウルスラものびのびと惚れぼれするような喉を披露する。
『キミがいなくなるその前に』
『一言だけの勇気、その手を引いて』
ベースの紫苑が智に歩み寄って、互いに、他の仲間たちが笑い合って。
『届きますように――』
このまま穏やかに終わり……いや、ウルスラのギターが突然の転調。これまでとは反対にパワフルな旋律を弾き出した!
「まだまだパーティーは始まったばかりデース!」
ウィンクするウルスラに応え、紫姫もまた打鍵速度を上げていく。
「軽音部の皆、後はお願いします!」
紫姫の掛け声でステージの一角にスポットライトが照射される。
「任せろ。いくぜェ!」
【武蔵坂軽音部Secret Base】の錠が力強いラフさでウルスラたちの音に乗せていく。
重いサウンドに負けじと千波耶はギターの音を歪ませ、トリッキーな重さで迎撃する。
ギターにはギターをと、今度は葵が前に出て錠に加勢。波に乗るような軽やかさで場を盛り上げていく。
ベースの結理と紫苑もまたお互いをリスペクトするように弾き合い、やがてバトンタッチ。
「さ、僕達の番だ」
対バンの激しい曲調からシームレスでポップな曲へ。
「俺達、軽音部の曲目は『ナノナノ様の伝説』」
「なのです!」
ボーカルを務める葉月と朋恵、そしてどこか誇らしげなナノナノのクリスロッテが挨拶をする。
学園に伝わる伝説をお伽話のように歌い語る楽しい曲。
錠は永遠の愛なんて信じない硬派。だが。
(「……こいつらと音楽演ってると、こんな伝説も悪くねェなって想えるぜ」)
錠のドラムに背を押される結理もまた、そんな心境を音から感じたのか口元が綻ぶ。
サビを迎えると、キーボードとコーラス担当の時生が大きく手を振り出した。
その手首には光るリストバンド。最近ライブで流行りのデバイスだ。
軽音部は鈴の付いたそれを事前に観衆に配っており客席は今、光の海になっていた。
「私たちの『ナノナノ様の伝説』を響かせましょう!」
時生の呼び掛けに観客も応え、手を振り鈴を鳴らす。
(「皆で演奏出来て、更に観客も一体になっている……」)
その光景に葵は目を細め、体の内を駆け巡る感動を噛み締めた。
「あっ、ロッテ!」
間奏中、不意に客席に飛び込もうとしたクリスロッテを危うく掴み、転ばないように堪えようとする反動でくるくると回転する朋恵。
それがまるで踊っているようで、朋恵も楽しそうだ。
(「ともちゃんや他のメンバーもかっちりと噛み合って、向かう所怖い物なしって感じだな」)
葉月は朋恵のパートをギターで彩り、そして万感の思いを込めて叫ぶ。
「ハレルヤ! この聖夜に感謝を!」
【あばら屋荘の奴ら】の晃と零はドラムとアコギでジャズ風アレンジのクリスマス曲を演奏していた。
晃は笑顔でサンタコスを。零はクールに顔だけトナカイの被り物というお約束スタイル。
演奏の最中突如どこからかトランペットの音が。
「このトランペット、まさか!」
「そのまさかだ!」
高々とトランペットを吹き鳴らす奏が飛び込んできた!
「ぼっちの悲しみで暗黒面に堕ちたブラックサンタからオレの暗殺指令を受けた手下の殺し屋か!?」
「そうだ! サンタ、キサマはここで終わりだ!」
「オレには待ってる皆にプレゼントを渡す使命があるんだ!」
晃はお菓子が入った袋を幾つも投げて応戦するが、それらはことごとく客席の方へ軟着陸していく。
「クックック、その程度で私を倒せると思うか! 客席の菓子はご自由にお持ち帰りするといい!」
「トナカイさん、君も手伝うんだ!」
「……仕方がない」
「だから無駄だと言って」
「ふんっ……!」
「いるグハァ!?」
袋、顔面にめり込む。
「ちょ、零、今本気で――素知らぬ顔で演奏に戻っている、だと……」
「うーん、サンタさん遅いなぁ」
そこへパジャマを着た拓也がサックスを奏でながら現れた。
当然のように舞台上に散ったお菓子袋を腰の巨大靴下に格納しながら。
「あ、サンタさんが殺し屋と戦ってる。しかもピンチっぽいな」
「今ピンチなのは僕の方かも」
奏が挙手するも、
「『仲間』がピンチだ! 急ぐぜ!」
【路地ラジ】のサンタ一、トナカイな霊犬の鉄が乱入!
一が引きずってきた袋の中から「メリークリスマスや!」とマラカスを振りながら登場の謎のプレゼント箱こと悟もいるぞ!
「サンタさんを助けるのです……♪」
「歌と踊りで悪の殺し屋さんをやっつけます!」
聖歌隊姿のユークレース・ナノナノのなっちんペアと軽やかに踊るリュシールも加わり、舞台は一気に賑やかに。
「われ等陽気な路地裏キッズ♪ 少しの幸せを皆で分けて沢山のハッピーに変えちゃおう♪」
タンバリンを賑やかに打ち鳴らし、奏の周囲を回り出す一。
「ほんのひとふりでも、みんなで歌えば聖なる夜♪」
ユークレースが広げたハンドベルの1つを鳴らすと、透き通る鐘の音が辺りに広がった。
「歌声響けば雪原にも、しあわせの花ひらく」
「今夜の雪も幸せも、これはまだ降り始め♪ まだまだ大雪崩♪」
悟とリュシールはお互い競うように忙しなく、かつ優美なステップでハンドベルを鳴らし回る。
「うぐぐ、このままではブラックサンタ総統の任務が!」
「困っているようだな!」
と、そこへ周とりんねが参上。
「正義のヒーローのアタシが解決するぜ! りんね、頼む!」
「了解だよ、周さん!」
りんねのギターに重ねるように周もフラメンコギターを奏でる。
ほのぼのな曲調で、滔々と英語の歌詞を歌い上げる周。
「ふふ、楽しみぶりならりんねさんにだって負けませんよ!」
「お、リュシールちゃんもどんどん成長してるね!」
一通り歌った後。
「さて、ヒーローらしく悪いヤツを倒すとするか!」
「悪いヤツは、その殺し屋の方なのですがねぇ……」
「え」
ウクレレを弾く流希のほんわかツッコミ。
「まぁ、歌の内容的に悪者サイドで良い気がしますがねぇ……」
「解ったのか?」
「英語のSF小説の翻訳が趣味でして……」
周の歌が名状し難い何かだったのはここだけの秘密だぞ!
舜はギターでオリジナルアレンジのクリスマス曲を弾きながら友人のアスールを見やる。
シンセを操るアスールは、普段の印象と異なる様子。
(「技術やセンスは勿論、意外と情熱的なんだよな……今もすっげーキラキラしてるし」)
そういうのは嫌いじゃないと舜は無意識に笑った。瞬間、偶々顔を上げたアスールとバッチリ目が合う。
(「やっぱり舜はセンスいいし、声高……じゃなくて声域広くて羨ましいな」)
アスールは笑い返すが、舜は半眼でぶすっとした顔になってしまった。
「楽しそうやないか! 乱入させてもらうでー!」
「全力で歌わせて貰うから付いてきてね!」
そこへギターを派手に鳴らしながら囃子と智優利が登場!
「へぇ、来いよ」
「調子も上がってきたし、歓迎するよ!」
それを不敵に笑う舜と、朗らかなアスールが迎え撃つ。
「Are you ready?」
囃子のロックサウンドにマイクを握りしめ、熱く激しく歌う智優利。
『溢れる思い 空に叫ぶよ 今 君に届け!!』
ならばとコートを脱ぎ捨てながらアリスも参戦。
「さあ、みんな! ノっていきましょ! りんねさん、ヴォーカルは任せた!」
「任されたよ!」
出鱈目にも思える、だが上手く練り上げたロックアレンジ賛美歌をキーボードで叩き出す。
音を捉え、強弱を付けながらアリスの音と走るりんね。
「さぁ、盛り上げていこうか」
そして山吹もするりと参入。甘い顔と歌声のロックはまた格別の刺激だ。
全ての『音』が混ざり、撹拌し、ひとつになるような感覚。
それは鮮烈で幸福な衝撃に違いない。
「Everybody say HOOOOO!」
「Heay heay! Come on!」
囃子とアリスのコールアンドレスポンスに会場はさらに熱くなっていく。
客席では。
壁に背を預けている宗悟が音楽の衝撃を体全体に感じていた。
ふと、視線を観衆に移す。
「客でも目立つものなんだな」
視線の先、舞台から程近い位置では。
「これ即席でやってるのか? すごいなー。うんうん、楽しくなってきた!」
雄一が心を踊らせながらライブを楽しんでいた。
「やっぱりライブは楽しいよな!」
「……僕も、大好き、だよ。生音聞かないと、倒れそうになる……」
隣のイチと、イチに抱えられる霊犬のくろ丸が同意する。
「そんなにも!」
「音楽は僕の、心の栄養、だから……」
話していても一時も目を離さずにその目、目だけはプリズムのようにころころと表情を変えている。
「格好いい事いうなー。そっちの子もノリノリだし、客同士で楽しめるのもいいよな!」
ノリノリの子こと佐祐理は、一生懸命にライブを楽しんでいるようだ。
ステージでは【ff】の成美と奏音がモッシュのように沸きながら加わる所だった。
「私達フェアリッシモに釘付け? 息ぴったり? あら、そんなのは当たり前よ?」
「CuteとCool、違った魅力の二重奏、召し上がれ♪」
2人の美少女が織り成す騒乱動乱のボーカル合戦。不思議な魅力で場は彼女たちに支配されてしまったかのようだ。
「ここに飛び込むんか……? いきなしライブでしかも盛り上がってる所に乱入って、キビシすぎやない……?」
「大丈夫だって眞榎ちゃん! リードギターは俺なんだから、どーんとのっかってきてくれていいのよ? 肩楽にして歌おうぜ」
ぶっつけ本番でギターボーカルなんてと舞台袖で躊躇う眞榎の肩を軽く叩く吾桜。
「肩の力を抜く?」
「そ。じゃあ行くぜ!」
「ちょ、吾桜! ……あぁ、もうどうにでもなれや!」
2人の乱入に、成美は口角を大きく上げる。
「乱入? 上等! 誰も彼もを巻き込んで、それで私達はなお輝く!」
奏音もいたずらっぽく笑い、
「ほらほら、みんなも見てるだけじゃ物足りないでしょ? お行儀よくしてないで、一緒に盛り上がろうよ!」
客席へと手を伸ばす。
「そうですよね、せっかくのライブなんですから!」
「おおっ!?」
佐祐理が客席から乱入すると、そのまま勢いでコーラスに加わった!
――大きな渦を巻き起こした『1曲』が終わり、囃子と智優利はハイタッチを決めた。
「おおきにな、智優利!」
「今日は付き合ってくれてアリガト☆ スカッとしちゃった♪」
吾桜は眞榎の肩を抱え、盛大に喜び、
「おっつかれ! やっぱお前、良い声してるわ」
「……俺、歌ってた? そ、か」
気が抜けたように眞榎は笑った。
「初ライブ……がんばるもん!」
「頑張ろう。くるみさん、アリエルさん」
「もちろん。音色ちゃんたちの晴れ舞台だもの、ね♪」
【女子軽音楽部 BerryBerry】のくるみ、音色、アリエルは『新入部員募集中』のたすきをアピールしつつ、ステージへと上がった。
「まだまだ小さな倶楽部ですけど、もし興味があったら気軽に遊びにきてね」
くるみがぺこりとお辞儀し、ベースに手を掛けた。それを合図にアリエルはギターを構え、音色はキーボードを歌わせる。
曲は『ヤドリギのキス』。
『――きっと越えられる 貴方と一緒なら どんな困難も』
『降る、降る、雪は降る 貴方と一緒なら寒くない』
音色のボーカルにくるみとアリエルがコーラスを添えて。清らかな歌声にほっこりとする会場。
彼女たちにどこかシンパシーを感じたのか、
「わ、わたしたちもうたわせてくださいっ!」
【スターダスト営業所】所属のご当地アイドル静香がぴょん、と登場。
まだ新人アイドルのようで、こういった場は初めてなのだとか。
緊張で固まりそうになっている静香の背中に軽く触れる先輩アイドルの花菜。
「聴いてください! 『こと座流星群』!」
花菜が手を挙げると、待機していた邪子がギターの伴奏を開始した。
静香は一度深呼吸し、「がんばらなきゃ」とキーボードのもとへ駈け出す。
ゆっくりと切ないメロディで始まったそれは徐々に加速し、力を増していく。
『身体、前へ走り出せ! 想い、空を流れゆけ! 季節外れの流星群 あれは私!』
切ない恋に負けない強い意志、燃えるような心を表現すべく、邪子のギターが唸りを上げる。
『破らなきゃ大気圏 あなたの心!』
2人のアイドルは眩い星のように輝いていた。
アイドルパワーは、彼女を呼び寄せた。
『粉雪の舞う聖なる夜 待ち合わせをしたこの場所で 貴方の事を考える』
フリフリないかにもアイドルな衣装にギターを持つ少女、いや、顔は……ダンボール!?
この表情豊かなダンボールを被る謎の正体こそ、葉子である。
「L・O・V・E! ハーコーちゃん!」
王求のような最前列で応援する熱心なファンもいるハイレベルアイドルなのだ。
「すごい、あれがアイドルなんですねっ」
「ライブの参考になるかもだね!」
「……あれは特殊すぎると、思う……」
静香とくるみが興味深そうに眺める中、邪子は冷静に呟いた。
「でもその気になる所が魅力というか、ね?」
アリエルはどこか興味あり気のようだ。
『ちょっぴり背伸びをしてきたの メイクも挑戦してみたし ヒールもいつもより高めなの』
「今日も可愛いのじゃー! え、ハコちゃん……?」
ケミカルライトやグッズ等で完全武装した王求はその動きを止めた。葉子が近付いてきたばかりでなく、手を差し伸べているではないか。
恐怖はあった。だが、それに勝る勇気が王求を動かした。
「一緒に歌いましょ?」
いざ舞台に上がると不安は吹き飛び、王求と葉子は歌い出す。
「これは負けてられない――はっ、新しいアイドルの気配がします!」
「アイ、ドル?」
花菜の言葉に音色が首を傾げる。
飛び込んできたのは【ChanteR】レンリと紅楼。
お互いに視線を交わすと、紅楼はキーボードと共に歌い出す。
『――空から舞い降りる 真っ白な冬の精』
『それを纏う君は イルミネーションより煌めいて』
寸分違わぬ息遣いで紡ぎ、結ぶレンリ。
『二人の特別な一日が 輝きに彩られる』
歌詞を象徴するように音を重ねる2人は、歌い切った充足感を噛み締めながら鳴り止まない拍手を聞き――拳と拳をぶつけ合った。
「りんねさん、演奏よろしくお願いします♪」
黒岩・いちごの呼び掛けに頷くりんね。
「本職の人と一緒なんてわくわくするね!」
「インディーズ中心ですけどね」
ふと、「うひゃあ!?」とどこか気の抜けた悲鳴が!
「どうしました? ……って」
「いーちごさんっ! 今日は随分かわいい反応……あれ、胸がある」
いちごが見たのは裳経・いちご――黒岩・いちご(男)と瓜二つの少女――が悠花に背後から胸を揉みしだかれている光景だった。
「天然の感触……これいちごちゃんー!?」
「ちょっと、いつまでっ!?」
特に今日は同じサンタコスをしているため見分けるのは中々困難。
とはいえやった事が事だけに2人のいちごからジト目を送られる悠花。
「満足――ではなくひどいトラップでした。あ、りんねさん、セッションしましょー」
「この切り替えの早さ、さすが悠花さん!」
気を取り直して、
「「私たちの歌を聴けー♪」」
【ストロベリーツインズ】with悠花&りんねのライブが始まった。
その勢いを引き継いで【武蔵坂ウィンドアンサンブル】は金管楽器でお馴染みのクリスマス曲を演奏していく。
メインはさやかのトランペット。幅広い表現力で静かな曲から愉快な曲まで様々な表情を見せてくれる。
ワインレッドのワンピースを纏ったキコルは大人な雰囲気でトロンボーンを操る。キコルのそれは、ジャズらしさを散らばらせ、曲に深みを出していく。
そしてエマ。少しラフに着こなしたダークカラーのパンツスーツでチューバを演奏する。安定した低音でベースを担当し、時折入る迫力のソロパートが観客を沸かせている。
盛り上がった所で、2人組が参上。
「ま、気楽に行きましょう。今日は失敗とか無いんですし」
「……うん。そうだね。クリスマスだし、楽しんでいこう……!」
友梨と朱音はこの場では珍しい三味線とショルダーキーボードのペア。
金管楽器の三重奏が残る中、三味線の景気の良い音が鳴り響く。
大地を揺るがしたり玉散る感じの粋な曲だ。
朱音のキーターで様々なパートを演じ分けるが、それに加えてさやかやキコルの金管楽器がアドリブで色を添える。
「【golden snow】行きマス! ワタシたちの歌を聴きナサイ!」
「この曲をソロ充の皆さんに捧げます!」
更にドロシーと雪雨が勢い良く滑り込む。
『いーじゃん! いーじゃんいいじゃん! 一人だって楽しんじゃってんじゃん!』
ドロシーのギターに合わせ、ソロ者ならば同意や落涙必至の歌詞をガンガン飛ばす雪雨。しかし。
『でもね、1人ってやっぱ寂しいじゃん!?』
正直やはりそうなのだ。
「うん、いっしょに歌おう、雪雨!」
ドロシーと雪雨は手を取り再び怒涛の勢いで歌い出す。
『ぼっちだっていい? そんな強がりやめとこう!』
『この優しさは離せないじゃん? 知ったら手放せないじゃん?』
『ノってるだろう? 燃えるだろう? みんなで歌えば楽しいだろう?』
『だからずっとそばにいて欲しいよ!』
ドロシーに抱き寄せられた雪雨は幸せそうに笑った。
「お疲れさま!」
一区切り付き、エマたちはハイタッチを交わした。
「まあ、わるくない演奏だったわよ」
労いの言葉をかけてきたのはアイシャだ。
「ありがとうございます、アイシャさん」
「ずっと応援しててくれたもんねっ♪」
キコルやさやかの言葉に、腕を組んで視線を逸らすアイシャ。
そういえばしっかりとお洒落なワンピースや軽い化粧までしていて、エマは思わず微笑むのだった。
【SWEET SOUNDZ】の演奏も佳境を迎えていた。
ショルダーキーボードの機動性を活かして空飛ぶ箒で滑空するハンナは、ギターボーカルの見桜の周囲を交差しながらハモるなど、テクニカルに観客を沸かせている。
それに乗じて蛍も見桜たちの周りでホタリンスターの格好でエアギターをプレイしまくっているのはご愛嬌。
明るい曲調に負けない元気を魅せつけるのはドラムの亮太郎も同じ。仲間たちの演奏や演出を視界の端に収めながら楽しそうにドラムを叩きまくる。
ダブルネックベースを自在に操る瑠璃が、リズムを刻みながらマイクに口を近付けた。
「そろそろお別れの時間が近付いてきましたぁー! だからこそ! また来年! この場所でお会いしましょう!」
このライブイベントの時間もそう残されてはいない。
「ここで特別ゲスト! 観澄・りんねさんッ!」
瑠璃の紹介に「どもどもー」と手を振りながら登場するりんね。
「一緒に、最後まで駆け抜けましょう! よろしいか!」
「よろしいよ!」
振り返り、亮太郎にピースサインを送るりんね。
「最後まで頑張って楽しもう!」
頷き返した亮太郎は、渾身のドラムプレイでクライマックスを盛り上げた。
「まだまだ元気残ってるよね!」
「勿論なんだよ~」
「みんなも!」
見桜にそう聞かれれば勿論、これまでの参加者たちが一斉に舞台へと駆け上がってくるではないか!
最後の最後まで鰻上りにテンションは加速し、聖夜の夜は更けていく。
作者:黒柴好人 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年12月24日
難度:簡単
参加:61人
結果:成功!
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