絶壁に墜つる咆哮と涙

    作者:幾夜緋琉

    ●荒れし心で叫ぶ怒り
     徳島県の山間の某所……遥かに高い断崖絶壁の立地の崖。
    『グルル……ウグルルゥゥゥゥアア……!!』
     心底まで冷えそうな程、恐ろしくも畏怖する咆哮が、断崖絶壁に鳴り響く。
     そんな断崖絶壁の上で、何か救いを求めるようにも、誰一人として拒絶しようとしているようにも聞こえる叫び。
     その声の主は、イフリート。
     怒り狂い、その身に纏った痛みに我を忘れながら、イフリートは崖の上で咆哮を上げ、そして森の中に身を潜めるのであった。
     
    「さー、みんな集まってくれたかな? それじゃ早速だけど、説明を始めさせてもらうね!」
     須藤・まりんは、集まった灼滅者達を眺めながら、早速説明を始める。
    「今回みんなにイフリート退治をお願いしたいんだよ。イフリートは徳島県の祖谷渓という断崖絶壁の周りに集まったみたいなんだよ」
    「イフリート自身、かなり身体の痛みを負っているようで、咆哮を上げて暴れ回っているみたい。断崖絶壁だから誰も来ないと思うかもしれないんだけど……実際の所、ここは崖の上にあるとある銅像が有名で、土日祝日になれば、人が来る事もあるみたいなんだよね」
    「だから今回、みんなが行った時に一般人達が迷い込まない……という保障も無い。みんなには、イフリートを倒しつつ、一般人を護って欲しいと思うんだ!」
     そしてまりんは、続けてイフリートの戦闘能力詳細を話し始める。
    「イフリート自身の特徴は、まずみんなが知っているとおりに炎を纏った姿で、攻撃が常に炎を帯びた高攻撃力が一番の特徴だと思う」
    「でも、その攻撃に加えて獣の姿形をしている所もあり、かなり素早い動きが出来ると思う。崖の上だとしても、その素早い動きが鈍ることはなくて、縦横無尽に山、崖を駆け回るみたいなんだ。だから、みんなもその動きに惑わされないよう、特に注意してほしいんだ」
    「勿論、単純な戦闘能力もみんながまとまって戦ってもほぼ同等という位だと思うんだ。だからこそ、しっかりと連携する事が重要なんだよ」
    「何に為ても、イフリートがこのまま暴れているのを放置しておく訳にはいかないよね? という訳でみんな、頑張ってきてね!!」
     と、ジャンプしてみんなを元気づけるまりんなのであった。


    参加者
    神羽・悠(炎鎖天誠・d00756)
    初食・杭(メローオレンジ・d14518)
    安楽・刻(ワースレスファンタジー・d18614)
    平鹿・アソギ(彷徨う青薔薇・d19563)
    月姫・舞(炊事場の主・d20689)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)
    黒乃・夜霧(求愛・d28037)
    幡谷・功徳(人殺し・d31096)

    ■リプレイ

    ●崖上より墜つる
     徳島県は三次市、吉野川支流にある祖谷渓。
     ……風光明媚な立地環境の中、緑の中に、断崖絶壁がそそりたっている……そんな場所へと向かう灼滅者達。
     山道を登りながら……灼滅者達は今回の敵、イフリートについて思う。
    「……最近、多いよな。苦しんでる感じのイフリート。やっぱり、理由があったりすんのかな?」
     と、神羽・悠(炎鎖天誠・d00756)が小首傾げ言うと、それに安楽・刻(ワースレスファンタジー・d18614)、黒乃・夜霧(求愛・d28037)が。
    「そうだね……痛みで暴れるイフリート、か……前にも、苦しんで、暴れ回ってるイフリートと戦ったけれど……いったい、彼等に何かあったのかな……」
    「うーん……その身に纏った痛み、ですか。一体、何があったのでしょう……救いを求めてるのか、怒りに我を忘れているのか……」
    「確かにな。奴さん、傷口でアルコールを一気飲みしたみてぇに苦しんでやがるな。俺が思うに、全員ヤケドが原因かと思うんだが……」
     ……幡谷・功徳(人殺し・d31096)の推理に、月姫・舞(炊事場の主・d20689)と葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)が。
    「……イフリートがヤケドを負うのは、それはそれで変な気がしますが……」
    「そうですね……となれば、イフリートが傷を負った理由として想定出来るのは、他のダークネスの存在……?」
     と、言葉を加える。
     確かにイフリートがヤケドを負うのは、それはそれで変な話……ただ、他のダークネスが存在しているとなれば、それはそれで不味い状況になるだろう。
     そして功徳は舞と統弥の言葉に頬をぽりぽりと掻きながら。
    「そうだな……冗談だ。何にせよ、とっとと二度と苦しまねぇようにしてやった方がいいんじゃねえか?」
     そして初食・杭(メローオレンジ・d14518)、統弥に平鹿・アソギ(彷徨う青薔薇・d19563)、悠が。
    「まぁイフリートと相対すんのはこれがはじめてか。なんも思わねーところがないわけじゃないんだけどな」
    「ええ……私も同じです。イフリートさんにはペインキラーで話し合いに持ち込み、人の居ない所に去って欲しいですが……それが叶わないのなら灼滅するしかないのでしょうね」
    「ええ、痛みを負っているイフリートですか……少し可哀想ですが、被害者が出るのは防がなくてはなりません。崖に注意しながら頑張りましょうっ」
    「そうだな。炎を交えればわかる……ハズ! 手加無用、全力で行くぜ!」
     そんな気合いを込めていると……灼滅者達は祖谷渓へと到着。
     遥か上方に張り出した崖を見上げて。
    「うわー……崖、たっけーな。これ落ちたらひとたまりもねーな……ま、バベルの鎖のあるオレたちにはあんま関係ねーけどさ」
    「まぁ、そうだな……ん?」
    『……ウ、ルルゥウウァアアア……!!』
     その瞬間、聞こえたイフリートの鳴声。
     やはり、その声は何処か苦しそうで……同情しそうにもなるが……気持ちを乱されないようにして。
    「うん……それじゃみんな、始めようか」
     と悠が呟き、人払いに殺界形成を発動。
     そして……灼滅者達は、イフリートの元に向かうのであった。

    ●遥かに高く
     そしてイフリートを探して森の中を駆け上がる灼滅者達。
     時間はまだ昼間を過ぎた辺り。
    『グ、グルルゥゥゥ……!!』
     と……当然イフリートは咆哮を上げて暴れ回っている為、イフリートを捜索する事自体、さほど難しい事は無い。
     ただ……その咆哮を聞いて、統弥や夜霧は……少し思う。
    「……本当、出来れば戦いたくないんだがな……」
    「……そうですね。出来る事なら、苦しまずに済ませたいところなのですが……おそらく、難しいのでしょうね……」
     勿論、イフリートであるという事はダークネス。
     ダークネスは倒さなければならない敵というのは理解しているものの、その苦しむ声を聞いていると……助けられないのか、とも思ってしまう。
     しかし……その鳴声は、その救いをも全て否定するかの様に、咆哮を上げ続けている。
     ただ、その声は、次第に……灼滅者の方へと、近づきつつある。
     そして灼滅者達が、かなり山の上の方まで登ってくると、イフリートは。
    『グガァァ……』
     かなり近い所から聞こえてきた鳴声。
     立ち止まり、周囲を確認すると、木々の間からキラリと光る、瞳。
    「……見つけました」
     と舞が視線で皆に合図。それに頷きながら功徳が、サウンドシャッターを発動。
    「さて……害獣駆除は静かに手早く、な」
     そして、更にアソギが隠された森の小路を使用し……イフリートの視線の方の道を切り開き、向かう。
     ……イフリートは、そんな灼滅者達の動きに軽快するように、一旦姿を隠す。
     しかし、その鳴声を頼りにしながら、イフリートを崖の方へ追い詰めるように進んで行く。
     鳴声と、威嚇……静かな一進一退の攻防が続く。
     ……そして、灼滅者達の追撃に、かなり崖の方まで追い詰められたイフリート……。
    『グ、グガアアア……!!』
     と、高らかに咆哮を上げて、イフリートは木々の間からタックルを仕掛けてくる。
     その一撃を咄嗟に構え、受け止める杭。
    「っ……!!」
     流石に特攻の一撃は、かなり痛いが……どうにか食い止める。
     そして、イフリートは一旦距離を取る……そして杭はイフリートに対し。
    「悪いーな。痛いんだろ? 今すぐ楽にしてやっからよ、ちょっと辛抱しろよー」
     そんな言葉に、イフリートはグルゥウウ……と威嚇の咆哮。
     と、その間に受けたダメージをアソギのナノナノ、ナユタと功徳のナノナノ、ナノナノさんがふわふわハートで回復する。
     そして、すぐに統弥と夜霧が。
    「できれば戦いたくない。貴方が人の居ない所に去ってくれるなら、僕が傷を癒やします」
    「そうです。貴方は……どうして暴れ回っているのですか?」
     と声を掛けるが……イフリートは。
    『ガァァ……!!』
     と、咆哮で威嚇し返し、敢然たる拒否。
    「そうですか……残念です。戦うしか、ありませんか。ならば、貴方を……灼滅します!」
    「そうですね……残念ですが、一般人に被害を出す訳にはいきません。ここで貴方を灼滅します」
     そんな二人の言葉に頷き、舞、悠が。
    「さぁ……貴方は私を殺してくれる? それとも殺されるのかしら?」
    「鎖解く天啓の焔、炎鎖天戟『焔ノ迦具土』!」
     とスレイヤーカード解放の宣言。
     そして……イフリート包囲網を築いてから、アソギが先陣を切って、オーラキャノンの一撃を叩き込む。
     更に夜霧が。
    「貴方を……止めます!」
     と、近接しての黒死斬の一撃を繰り出す。
     流石にスナイパーポジションの効果もあり、イフリートにそれら攻撃は当る。
     だが、イフリートの動きは鈍ることは無い……むしろ、血が炎に燃え上がり、更なる咆哮を上げ、怒る。
     その怒りの声を聞きながら、悠、舞が螺旋槍、統弥が抗雷撃。
     しかしそれらの攻撃は、直撃することは無い……素早い動き、ステップで次々と躱していってしまう。
     しかし連携する様に、刻と彼のビハインドがDCPキャノンと霊撃で、左右から連携攻撃を叩き込み、その動ける範囲を制限しながら攻撃。
     ……そんな仲間達の攻撃を見て、功徳は。
    (「……すげぇな、あいつら……」)
     と、ぽつり呟く。
     ……とは言え功徳も……先ほど攻撃を食らっていた杭に。
    「杭、ダメージはどうだ?」
    「ん、何とかだいじょーぶだぜー」
     ニッ、と笑みを浮かべつつ、抗は。
    「当んなきゃあてるよーにすりゃいーんだ!!」
     と縛霊撃で攻撃……どうにかバッドステータスを叩き込む。
     そして……次のターン。
     やはりイフリートは素早く、先陣を切って動く。
     しかしその攻撃を受け止める破、杭、刻、ビハインドの三人……代わる代わる攻撃を受け取ることにより、ダメージを分散……そしてナユタ、ナノナノさんに功徳が回復を常に回す。
     そして回復を回す一方、スナイパーのアソギ、夜霧が制約の弾丸、黒死斬を使用し、イフリートに更なるバッドステータスを叩き込み、その動きを更に更に制限。
     ……そしてその跡に、クラッシャーの悠、舞、統弥、ディフェンダーの杭、刻、ビハインドが続く、という動きを繰り返す。
     最初はイフリートが攻撃を躱し続けていたが、バッドステータスが重なり行く結果、段々と攻撃が当りやすくなってくる。
     最初は互角の戦いであったのが、次第にイフリートの体力を削り行く結果となり……イフリートは苦しみの咆哮を上げ始める。
    「……ごめんなさい……痛いですよね……ならば……」
     と、夜霧が、攻撃中に一度、ペインキラーを穿つ。
    「……これで、痛みは収まるハズ……!」
     しかし、イフリートは……そのペインキラーを、振り払うように身体を震わせる。
    「……ダメ、ですか……」
     唇を噛みしめる夜霧……そしてアソギが、夜霧に。
    「……おそらく、彼を救う唯一無二の手段が、灼滅する事なのでしょう……となれば、灼滅するしかありません」
    「……」
     アソギに、そうだね、とこくり頷く……そして、キッとイフリートを見据えて。
    「解りました……救う手段がそれしかないのなら、やるしかありません!」
     強く覚悟を決めて……攻撃へと傾注。
     そして……イフリートは、多重のバッドステータスにより、動きが鈍る中、灼滅者の連携攻撃に体力は削られ続け……そして、十数ターン。
    「……貴方は、殺してくれる人じゃなかったようね……」
     舞の宣告……そして統弥が。
    「……もう、これ以上苦しませたりはしない。だから……ここで、終わらせる」
     と宣告し……抗雷撃の一撃で貫く。
     その一撃に、イフリートは……。
    『ガアア……!!』
     と、断末魔の咆哮を上げて……崩れ落ちた。

    ●夕焼けの下に
    「……終わったか……」
     深く息を吐き、スレイヤーカードを仕舞う悠。
     そして目の前のイフリートの姿は……獣の表情の中に何処か、安堵ししたような、そんな表情を浮かべながら消えていく。
     すっかり姿が消えた跡には……焦げた足元の叢が残る。
    「……さらばです。安らかに眠って下さい」
     と統弥が弔いの言葉を掛けると、それに夜霧も静かにイフリートを悼み、祈りを捧げる。
     ……暫し静寂がその場を包み、そして……瞼を開き。
    「……犠牲が出なくてよかった……そう思います。ですが……本当に、共存する事は、できなかったのでしょうか……」
    「まぁ……言葉が通じないならば、しょうが無いよな……しかし結局解らずじまいか……イフリートの声が聞こえるようになったりしねーのかな」
    「そうですね……聞こえるようになれば、もっと違ったのかもしれませんね……」
     夜霧の言葉に頷く悠。
     ……イフリートの悲運に、何ともやるせない気持ちを抱く。
     とは言え……イフリートが一般人を傷つけることはもう無い……死と共に、安全は守られたのだ。
     そして皆、スレイヤーカードを仕舞い……息を吐くと共に。
    「……そういえば、銅像があるんでしたね……どんなのだろう。せっっかうだし、少し見物してから帰りたいな……? けど……寒い。近くに自販機、ないかな……」
    「ああ……そういえば、まりんさんも言ってたわよね……確か……小便小僧だったかしら……?」
    「小便小僧……ですか……」
     舞と刻が会話しつつ、その銅像の所へと向かうと……確かに崖の上に、小便小僧が立っている。
    「……本当……小便小僧、なんですね……」
     感心と、驚きを半々に感じつつ、刻が呟き……夕焼けの落ちる山合いを、静かに灼滅者達は眺めるのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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