ピンクハートさんがクリスマスイルミネーションに!

    作者:空白革命

    ●うふふ坊や、期待して……いいのよ?
    「なんでだろう、イルミネーションが綺麗だからかな……なんだか、変な気分」
     二つの手が触れあい、擦れあい、そして指が絡まり合う。
    「僕もだよ、どうしてだろう。君が……欲しい」
     強く握りあい、そして二人は寄り添った。
    「そんな、だめ。こんな場所じゃ」
     豊満な胸が押しつけられ、うるんだ瞳が見上げる。
    「我慢できないよ。さあ見て」
    「や……っ、だめ……っ」
     目を瞑り、おっさん二人は叫んだ。
    「おっさんの服脱がしちゃだめー!」
    「ダメだおじさん我慢できないよぉー!」
     そう、彼らおっさんズはイルミネーションを無駄に飾った夜の公園ではぐれ眷属ピンクハートさんにつかまってしまっていたのだ!
     ……ごめんね。それじゃ、冒頭から読み直そうか?
     
    ●エロを期待したのか? 残念だったな!
    「………………ハハッ」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は光の無い目を虚空に向けていた。
    「はぐれ眷属だよ。ピンクハートちゃんが、でたよ……はは……」

     眷属とはダークネスの作った兵隊でありはぐれ眷属とは主人を失ったやつのことだよという話はもう今更だとして。
     なんでも人の居なさすぎて自棄みたいにイルミネーションを飾りまくった公園にピンクハートさんがわらわら入り込もうとしているのだそうだ。
     もしそんなことになれば仕事に疲れたおっさんや人生に疲れたおっさん、家庭に疲れたおっさんや頭皮の疲れたおっさんなどが絡み合ってしまう。おっさんしかいねえのかよこの公園!
    「ピンクハートさんは十匹だよ。これを全部倒してね……倒して、ぜったいにね……きっと……」
     光の無い目で、まりりんは明日を指さした。
    「だいじょーぶ、なんとかなるよ……ははっ」


    参加者
    赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)
    メルフェス・シンジリム(魔の王を名乗る者・d09004)
    犬蓼・蕨(犬視狼歩の妖異幻怪・d09580)
    木元・明莉(楽天日和・d14267)
    幸宮・新(伽藍堂のアイオーン・d17469)
    月光降・リケ(太陽を殺す為に彷徨う月の物語・d20001)
    栗元・良顕(仕上げはお母さん・d21094)
    牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)

    ■リプレイ

    ●クリスマスイルミネーションの中を死んだ目で歩いたことは、誰にだってあるはず。
     デブのおっさんがアクセルシンクロしてるさまをこの世の誰が求めるのか分からんが、今回はあえて目の粗いモザイクでご想像頂きたい。
    「いや、だからってうっとーしいだろコレ! なんでおっさんだけ選んでんだよピンハーさんは!」
     赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)はおっさんたちを蹴り転がしながらこの世の摂理に嘆いていた。美少年同士じゃなきゃからんじゃいけねーとはいわないが、免疫のない人にガチのやつはきつい。高一なら尚のことである。
     転がってきたおっさんに缶コーヒーを手渡す幸宮・新(伽藍堂のアイオーン・d17469)。
    「おっさん、ここであったのも何かの縁だ。名前は?」
    「ジョンです」
    「スミスです」
    「この期に及んで偽名を名乗るなよ」
    「いいんじゃない? なんか、仮面舞踏会みたいで……」
     ひっくり返したビールケースに腰掛け、『ジェンダーの壁』とかいう本を読む栗元・良顕(仕上げはお母さん・d21094)。ポケットからティッシュを一枚抜くと、面倒そうにはなをかんだ。
    「いや、見逃していい状況なんですかこれは? 夜の公園にこのてのおっさんばかりが群れているのは、異常事態なのでは?」
     暖かいコーヒーをすする月光降・リケ(太陽を殺す為に彷徨う月の物語・d20001)。
    「まあ、それはそれとしてヤな話だけど……よりによってそこへ入っていくピンハーさんもどうかしてるっすよね」
     牧瀬・麻耶(月下無為・d21627)が雑草を引き抜いては捨て引き抜いては捨てしていた。
     よく運動会の待ち時間で行なわれる暇つぶしだが、今回のこれはただの現実逃避である。もっというと目の前の光景からの逃避である。
     一方。
     メルフェス・シンジリム(魔の王を名乗る者・d09004)は犬蓼・蕨(犬視狼歩の妖異幻怪・d09580)を抱きかかえ、頭のとこに顎を乗せてぬくもっていた。
    「おっさん? 知らないわね。それはどんな存在で、どんな鳴き声の動物なのかしら……」
    「まおーさま、そのレベルで逃避するとその内つじつまがあわなくなるよ」
    「いや、気持ちは分かるよ。触手がうねってる状況で影響下にあるのがおっさんだけだったらさ、誰でもそうなるよな。わかるよ」
     せめて目の保養にとメルフェスと蕨の二人をじっと見つめる木元・明莉(楽天日和・d14267)。
    「まあでも、そろそろ現実に目を向けて……アレをやっつけるかね」
     親指でくいっと後ろを指さす。
     全身にクリスマスツリー用のイルミネーションを巻き付けたピンクハートさんがうねうねしていた。
     なんだこいつら。特別仕様のつもりかよ。

    ●できるかぎり平常心を保つため般若心経を聞きながらの作業を行なっております
     さて。状況がどうあれこれは灼滅者とダークネスの間で繰り広げられる闇対闇の世界を賭けた死闘である。
     いかなる場合であっても闘志と誇りを忘れること無く戦い続ける灼滅者たちの物語である。
     その一旦を、刮目して見よ。
    「…………」
     新が黙々とワイシャツにアイロンをかけていた。
     時にのりを塗りぱりっとさせてから一度両手でつるし、満足げに頷く。
    「禿げ上がった頭もスーツにできた皺も、おっさんたちが家庭と社会のために必死で頑張ってきた証。せめて外見だけは綺麗にしてあげよう……」
     とかなんとか、アニメに出てくるクリーニング屋みたいなことを言いながら丁寧にシャツやスーツを畳んでいく新。
     あっ、こちらが灼滅者が闇と戦うさまとなってございます。
    「というか……私、気になってるんだけど……このおっさん、なんで12月の深夜に服を脱いでいられるの? 死なないの?」
     『サンタクロース? タダで物くれるおっさんはいねえよ馬鹿!』とかいう本のページをぺらりとめくる良顕。またもティッシュを抜いて鼻をかむ。
    「うあー、寒い……なんでこんなとこに集まってたんだろう。夏ならまだしもさ……」
    「あーそれやっちゃダメらしいぜ。よくお祭りの影で浴衣をはだけてどうのこうのっていうけどさ、凄まじい勢いでヤブ蚊が寄ってくるから。血液のバーゲンセール状態らしいから」
    「フィクションは所詮フィクションかあ……」
    「クリスマスつながりの余談なんだけど、年の離れた妹が『マウンテンバイクが欲しい』って言い出したから、『お前の親から貰った金じゃ全然足りないからコレで我慢しろ小僧』っていうビジネス書式バリバリの書類を添付しようとしたら流石に怒られたっていう経験があるよおじさん」
    「おっさん普通に会話に混じってくんな!」

     さて。このままおっさんと少年たちによるクールでドライな深夜ラジオめいた会話をお届けしてもいいが、そろそろ戦闘シーンを無視しきれなくなってきたのでちゃんとお届けしたい。
    「うわっ、きもちわりい! 俺ダメなんだよこういううにょうにょした生物!」
     明莉は剣を大きく構えると、わちゃわちゃしながら徐々に近寄ってくるピンハーさんに向かって思い切り横一文字払いを繰り出した。剣そのものは空振りしたが、放たれたエネルギーが巨大な刃となってピンハーさんたちへと襲いかかる。
    「ほら、こっち来んな!」
     ピンハーさんたちがのけぞった隙を狙って、摩耶の目がきらりと光った。
    「畳みかけっす」
     槍を構えて飛びかかったリケと摩耶。
    「今更のことですけど、今回の件……クリスマス一切関係ないですよね」
    「今言う? それ今言うんすか?」
     ハッと振り返りつつもやんと槍は突き刺す摩耶。そしてリケ。
     摩耶は一度ピンハーさんを固定すると、背中のあたりからでっかい剣を引っ張り出した。
    「畳みかけの、畳みかけっす」
     てやーと言いながらピンハーさんに剣を振り下ろし、真っ二つにたたっ切る。
     想像が難しい人は桃から太郎が生まれるやつの太郎なしバージョンをご想像頂きたい。ほんとにそんな風に割れたから。
    「今思ったんですけど、日本の川を流れていても不思議でなく、老婆が一人で運べて、尚且つ子供が入っていられる桃って……食べる部分がほぼないですよね」
    「今いう? それ今いうんすか?」
     再びハッとして振り返る摩耶。
     そろそろ分かるかと思うが、彼女たちはさっきからおっさんの存在をなかったこととして戦闘している。
     居ても居なくても大体一緒に扱われるあたりが、実に日本のおっさんらしかった。
     メルフェスもそういうスタイルらしく、今日は野生のピンクハートさんを退治する依頼だったわよねとばかりに、蕨を小脇に抱えつつデッドブラスターを乱射していた。
     いや、それだけだとあまりに簡素すぎるのでちゃんとアクションシーンを説明するが……。
    「遅いのね。それで闇の眷属を名乗っているの?」
     メルフェスはベンチ、自販機、街灯、木枝へとまるで羽根の生えた妖精のように飛び回ると、イルミネーションロープの上を駆け抜け、ムーンサルトをかけながら跳躍。ピンクハートさんの頭上からデッドブラスターを乱射。
     デスダンスを踊るピンクハートの背後へ着地すると、フィンガースナップと共に氷のトゲを無数に生成。指を指揮棒の如く振ったならば、トゲは全てピンクハートの中心へと突き刺さった。
     その間ずっと小脇に抱えられていた蕨がぱちぱちと拍手した。
    「まおーさまさすが!」
    「余裕よ」
     指で前髪を上げ直すメルフェス。
     くるりと向き直れば、小脇に抱えられていた蕨がぴーんと身体を伸ばして攻撃態勢に移った。
    「まおーさまをまもるために、おまえを倒してやるのさ!」
     揃えた両手から妖冷弾を乱射。
     ざくざく刺さったつららに重ねる形で槍を生成。ほとんどダーツの動きでピンクハートさんへ投擲。突き立てる。
     身体を槍が貫通し、びちびちと暴れて爆発四散するピンクハートさん。
    「やったのさ!」
     ガッツポーズをとる蕨。その頭をなでくりまわすメルフェス。
    「なんだあのコンビ技……」
     一部始終を見ていた布都乃は、世にも寒々しい顔をしていた。
     彼も高校生。ベッドの下に聖域があったりする年頃である。
     粘液が出るハート型の触手モンスターが襲ってくるとあらば、全裸のほうがまだ健全と言われる武蔵坂のセクシー勢の方々が大挙して押し寄せ、次々と目の保養を展開したついでにピンまでできてあーそうだよ俺が欲しかったのはコレだよコレ非実在青少年とか言ってる場合じゃ無いよなってな気持ちにしてくれるモンだが……。
    「なんでだろうなあ、ピンクハートさんが最初のク○ボー並に瞬殺されてるんだよなあ……需要を考えろよ需要をさあ……」
     思春期の少年、布都乃。
     シールドリングをぐるぐるさせてピンハーさんの触手をはらいのけつつ、そんなことを考えていたのだった。
     あと。
    「つい二週間前まで雪のバケモンと命の駆け引きしてたのに、なんだろうなあこの空気の違い。実家みてえな安心感があるなあ……」

    ●特撮番組とかで販促のためだけに出てきてやられる敵キャラってこんなかんじ
     ここまでほぼ無抵抗にやれてきたピンクハートさんだが、彼らとて腐っても眷属。闇の意地を見せてやるぜとばかりに触手をうねらせ、蕨めがけて飛びかかった。
     螺旋状に捻った触手を弾頭代わりに、自らをミサイルにした突撃である。
     粘液でねっとねとになった触手が中二のケモ系女子に襲いかかる!
     蕨はハッと目を見開き、そして……!
    「あぶない! おっさんばーりあ!」
     おっさんにねっとねとの触手が絡みついた。(本日唯一のサービスシーンでございます)
    「ぎゃああああああああああああ!」
    「おっさーん!」
    「ふう、危なかったのさ」
     額をぬぐってため息をつく蕨。
     必死に触手からおっさんを引き抜きつつ、振り返る布都乃。
    「おまえそれでも灼滅者かー! おっさんすげえことになってるぞ! ネットに画像が出回ったら自殺モンのやつだぞ!」
    「おっさん?」
     蕨を撫で繰り回しつつ頭に顔をうめてもふもふと少女の香りを楽しんでいたメルフェスが視線だけを向けてきた。
    「それはどういう物体で、どんな分子構造をしているのかしら」
    「そのレベルで現実から目をそらすな! 現実に向き合え、おっさんを見ろ!」
    「いやよ」
     再び藁をもふもふする作業に戻るメルフェス。
    「実際、蕨くんって髪の毛ふわふわしてそうだもんね……。やっぱり、いいシャンプーのにおいとかするのかな……」
     『綺麗な犬は高級絨毯のにおいがする』とかいう本のページをめくりながら白い息を吐く良顕。
     横から覗き込むリケ。
    「さっきから気になってたんですけど、そんな本どこに売ってるんですか? もしかしてカバーだけ売ってるんですか?」
    「さあ……おっさんの鞄に入ってたから」
    「人の本を勝手に読んではいけませんよ。特にカバーを誤魔化してるタイプの本は」
    「ねえ、この本に出てくる男がなぜか妊娠してるんだけど、どういうことなの?」
    「ファンタジーという言葉の広義さを知りますよね。私はこう……薔薇砂漠的なものを空想するだけにとどめていますが」
     ボーイズラブとリアルゲイの違いみたいなもんで、ここを混同すると大変なことになる。気をつけよう。
     一方、触手に絡まれたおっさんを嫌々助け出した摩耶は、手に付いた名指しがたい粘液をティッシュでぬぐいつつ向き直った。
    「このまま放って置いたら大変なことになるっすよ。ちゃっちゃとヤっちゃいましょ」
    「それに関しちゃ同感かな……うん……」
     犠牲になったおっさんへ静かに敬礼していた明莉が、剣を片手に振り返った。
     鋭く剣を構える明莉。
     しなやかに蹴りの構えをとる摩耶。
    「それじゃ」
    「いきますかっ!」
     二人が同時にピンクハートさんへ飛びかか……る手前で。
    「仕事、大変なの?」
    「まあね。大変じゃ無い仕事はないよね」
     新とリケ、そしておっさんらが缶コーヒー片手に語らっていた。
    「僕もね、バイト先の店長がなかなか給料あげてくれなくてね」
    「おじさんは逆にバイトたちに給料上げろって言われてね。でもそんな資金ないし、本社もおじさんの給料減らすならいいよって言い出す始末でさ。ストライキするって話まで出ちゃって……おじさんどうしたらいいか……」
    「人間、『楽して得とる』を一度覚えると抜けないものですから。一度がつんと言ってみては」
    「そうすると辞めちゃうんだよみんな。なまじ親世代が稼いでるから、必死に仕事しなくてもどうにかなっちゃうんだね。逆バブルだね」
    「へえ……おっさんも大変なんだね。カイロ、いる?」
     『給料制度のありがたみを知れ』とかいう本のページをめくりつつインスタントカイロを手渡す良顕。
     その後ろで。
    「はあ、はあ……ったく、てこずらせやがって!」
    「最後の一匹だけ、妙に粘ったっすね……」
     頬とかにキズを作った明莉と摩耶が汗をぬぐいながら言った。
     足下ではギタギタになったピンクハートさんがしおしおと消滅を始めている。
     白い息を吐きながら、空を見上げる。
     今日もどこかでおっさんは冷たい目にあっているのだろう。
     けれどこの公園に無理矢理飾り付けたイルミネーションのように、ほのかな幸せを手に頑張っているのだ。
    「その勇姿、忘れないぜ……」
     後ろでびったんびったんいってるおっさんを軽く無視しつつ、明莉たちは夜明け前の空を見つめていた。
     

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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