クリスマス2014~武蔵坂学園雪合戦

    作者:天木一

    「はっ!」
     グラウンドで一人の少女が野球のボールを遠投している。
    「ふぅ、かなり飛ぶようになったかな」
     ジャージ姿の少女は流れる汗を拭って、寒空のした白い息を吐いた。
    「ん? ああ、来てくれたのか」
     振り向いた貴堂・イルマ(中学生殺人鬼・dn0093)が灼滅者達を見て頭を下げる。
    「もうすぐクリスマスだな。皆は何か準備をしているのだろうか?」
     その質問に対して灼滅者がそれぞれ返答すると、イルマは頷く。
    「学園ではクリスマスにいろいろなイベントが開催される。どれも楽しみだが、わたしは去年に続いて『雪合戦』に出るつもりだ」
     当日は学園のグラウンドに人口雪を降らせ、一面を雪原として遊ぶのだ。
    「雪合戦だから基本のルールは単純だ。雪に被弾したら退場。それだけだ」
     そう言ってイルマがボールを投げる。ボールは放物線を描いて飛んでいった。雪玉に見立てて練習をしていたのだ。
    「今年は東西の青軍と赤軍に分かれて戦うらしい。どちらかが全滅すれば、残った側の勝利となる」
     1A梅組、2B桃組といったグループを両軍がある程度均等になるように振り分けられる。
    「どちらの軍に所属するかは始まるまで分からないが、クラスでは一丸となって戦える。だから仲間同士の連携は発揮できるだろう」
     集団戦なので勝利するにはチームワークが重要だ。仲間との信頼が力となるだろう。
    「雪玉を手で作るのは大変だ、だから雪球製造器が用意されている。それを使えば短時間に大量の雪玉を作る事ができる」
     雪玉が唯一の武器なので、弾切れには気をつけなくてならない。弾薬の無いものはカモとなる。
    「勝利した軍団には温かいお汁粉が振舞われる。去年は食券だったのだが、今年は2チームゆえ、人数が多くて食券を用意する費用が出なかったらしい」
     だがお汁粉は好きなので何の問題もないと、イルマは勝利して食べる気で頷いた。
    「負けた側にもココアが振舞われるので、それで暖を取れるだろう」
     買った側も負けた側も、雪で冷たくなった体を温める事ができる。
    「勝負なら勝利を全力で目指すのは当たり前だが、雪で遊ぶ機会などなかなか無いからな。年に一度の雪合戦だ。存分に楽しむことにしよう」
     イルマの言葉に灼滅者達も頷き気合を入れると、練習する者、作戦を立てる者と、それぞれ当日に備えて動き出すのだった。


    ■リプレイ

    ●雪合戦
     グラウンドを雪が白く染める。
     その雪原に東西に分かれて学生達が集まっていた。
     東の青いゼッケンをつけたのは1A梅組、3C桜組、6F菊組、7G蘭組、大学組の東軍54名。
     西の赤いゼッケンをつけたのは2B桃組、4D椿組、5E蓮組、8H百合組、9I薔薇組の西軍54名。
     今か今かと、何時でも動き出せるように準備運動をして体を温めていた。
    「それでは、ただ今より東西チームによる雪合戦を始めます!」
     ピストルの音と共に両軍が一斉に動き出した。雪合戦の始まりである。

    ●中央の戦い
     まずは中央の西軍が動く。
    「雪合戦! 派手に暴れてやろうじゃんか」
    「雪合戦頑張るのよ~!」
     にししと笑う一と元気一杯の蓮花は、製造機の雪玉をその場から遠投して敵を牽制する。
    「……あれ、届かない」
     雪は前に出てもう一度投げる。するとようやく敵の居る近くへと届いた。
    「雪ちゃん、庵子 ちゃん、玉足りてますか?」
    (「をお、遥、補充助かるんだぜ」)
     遥が配る雪玉を庵子は感謝を伝えながら受け取り、次々と投げつける。
    「皆に負けてられない、ですね」
     アプリコットはビハインドに抱っこされて移動し、仲間を真似て雪玉を投げた。
    「さて、今年はしくじらないようにしないとね」
     逢紗はじっと戦場の流れを見渡す。
    「慌てず、確実に陣の射程に引き込んで。相手の勢いを止めるポイントに砲火を集中よ!」
     逢紗が指示を出すと、仲間が一斉に動き出す。
    「よーしゃはしないで全力でいくよ!!」
    「いかせませんよ!」
     どんどんと結月は玉を投げ、後衛に近づく敵を七波が狙い撃つ。
    「狙って、攻撃。ダークネスを攻撃する時と同じだよね」
     射界が開けている場所から七葉は手馴れた様子で玉を投げつけた。
    「角度よし、距離よし、長距離砲撃開始!」
     星流は山なりに玉を投げて隠れた敵を狙撃する。
     それに合わせるように東軍中央もまた動いていた。
    「勝負ってやっぱり燃えますよね」
    「前回の雪合戦は不完全燃焼でしたので、こちらで完全燃焼しますですよ」
     藍とその背を守るように沙希が先頭に立って中央に向けシェルターを利用しながら進軍する。
    「敵だよ!」
     中央付近で良太が敵を見つけた。
    「クラスメイトを狙う人は容赦しないよ」
     登が迎撃に玉を投げ、仲間達も一斉に投げつけた。
    「雪玉いっぱい持ってきましたよ!」
     玉数が少なくなってくると、そこへ菜々乃とサーヴァント達が大量の玉を乗せて到着した。
    「補給ありがとうございます」
     清美が笑顔で受け取り仲間と共に弾幕を厚くする。
    「そらそら、上手くよけないと当たっちゃうよ」
     中央近くの壁に陣取った絵梨香は、挑発するようにかき集めた雪を投げつける。
    「使っていいわよ」
     清音はせっせと作っていた雪玉を絵梨香に渡し、自分も牽制に投げつける。反撃に雪玉が勢い良く飛んでくる。
    「大丈夫か?」
     離れた場所からクロノが援護の雪玉を投げて敵の動きを止めた。
    「戦の勝利はいつの世も、万難冒して輸送する、輜重の兵のあらばこそなのです」
     雪玉を抱えた優奈が前線の味方の元へと戦場を駆ける。だがそこへ西軍の兵士が現われた。
    「ばかな! いつの間にこんな後方に!?」
     被弾しながらも、雪玉を仲間の近くへ放り投げた。

     両軍が中央の幾つものシェルターに陣取り、正面からぶつかり合うと戦場は一気に混戦へと雪崩れ込む。
    「えいえいおー!」
     気合を入れて皆が動き出す。
    「他のクラスにはない仲の良さを見せ付けよーねっ」
     笑顔の響斗に仲間達も楽しそうに頷いた。
    「よし雪玉が無いと始まらないからね~」
     警戒しながら悠矢が製造機に雪を詰める。
    「確実に狙っていくよう!」
     紗は狙いとつけて雪玉を投げる。
    「さむ。さっむ」
     小梅はマフラーに顔を埋めながら物陰から雪玉を投げていると、それを察知した敵が雪を投げてくる。
    「あぶなーいっ」
     紗が敵に雪を投げる。敵をそれを避けるが違う方向からの雪が当たった。側面には武がいた。
    「隙有りだね」
    「アリガト!」
     小梅が笑顔で2人に手を振る。
    「ほれ、サボってないでジャンジャン運べ!」
     かじりが製造機で作った玉を、飽きて穴堀りを始めた霊犬に持たせたが、霊犬は興味の赴くままに走り出した。
    「おのれアホ犬ー!」
     それを追ってかじりも駆け出した。
    「雪玉が出来たぜ、持ってけ」
     蒼騎が作った雪を渡し、敵に向かう味方にナノナノを同行させる。
    「お前の役目は当てる事じゃなく1発でも多く当たる事だ」
     甘い物を食べさせてやると言うと、喜んで飛んでいった。
    「オラァ! 雪だるまになりたい奴はいるかーッ!!」
     英治は雪だるまを抱えて投げようとする。だがその分動きが鈍り直撃を食らった。
    「グワァーッ!?」
     抱えた雪だるまに押し潰され周囲の笑いをとると、満足そうに英治は倒れた。
    「蛇神、行嶋、イトマキ、来海……勝利の美酒……もとい、勝利の汁粉を目指して頑張るとしようか」
     寂蓮の声に仲間達も頷く。
    「勿論。やるからには頑張って勝ちましょう。そして皆さんでお汁粉を」
     シャリンは素早く動いて壁を確保する。
    「雪合戦かー小学生の時にやって以来かなー」
     歩良は懐かしそうに雪玉を手に取る。
    「ココアも好きだけど、どうせなら勝ってお汁粉がいいよねっー! みんながんばろー!」
    「戦闘開始ね。皆行くわよ! いざ、お汁粉を賭けて!」
     叶は仲間と共に壁から一斉に玉を投げつけた。
    「お汁粉の為に頑張るぜ」
     あさきも勢いをつけて玉を投げる。そこへ敵陣からの玉が降り注ぐと、寂蓮が身を挺して仲間を庇い倒れる。
    「……なに、例え俺が居なくなろうと……仲間たちが、必ず……お汁粉の、栄冠を……」
    「そ、そんな盾河君ー! この犠牲は無駄にしないよ……お汁粉は私たちがいただくんだからっ」
    「寂蓮さん……。あなたの雄姿は忘れません。お汁粉は私たちだけで美味しくいただくので、安らかに眠ってくださいね」
    「寂蓮ーー!! お前の勇姿は忘れない……お前の分までお汁粉頂いてやるから安心しろ……!」
    「四人で分ければ大盛りにはなりそうね」
     歩良、シャリン、あさき、叶が無慈悲な宣告に、寂蓮が飛び起きると顔に雪玉が直撃した。
     流れを変えようと、東軍が一気に突っ込む。
    「おっしゃ行くぜ! 隠れるなんざするかよ。男は黙って特攻! だろ!」
    「もちろん! オレも負けないぜー!」
     御伽と才葉が堂々と突っ込んで玉を投げつけた。更に後ろから援護の雪が放物線を描いて投げ込まれる。
    「ふふ、これもすべてお汁粉のため……負けるわけにはいかない!」
     気合十分な壱琉が雪を作っては投げていた。
    「負けませんのよっ、えーいっ」
     お返しと音雪が白い塊を投げる。
    「わ、わー! ……ナノナノ?」
     思わずキャッチした才葉が固まる。
    「ナノナノが跳んだんは気のせいやろか……」
    「ん? 何か今、ナノナノ飛ばなかった?」
     史子と嵐が思わず目で追った。
    「ふふふ、残念それはちまさんなのです。本物の雪玉はこっちですのよ!」
     ナノナノをフェイントに御伽、才葉に向けて雪を投げた。
    「冷たっ」
    「危ない!」
    「あっっぶねー! オラ、お返しだ!」
     才葉が撃沈し、御伽は壱琉が守った。御伽はすぐさま投げ返す。
    「ん、雪玉、何か足りなくね?……からの、豪速球」
    「きゃーっ」
     嵐は戻る振りから大きなフォームで音雪を狙う。
    「雪合戦などするのは小学生以来だな。いいだろう、人造灼滅者の強肩を見せてやる……」
     そう言いながらも貢は相手を気遣ってふんわりと玉を投げる。
    「わっわっ、お返しなの、えーいっ」
     リュネットはそれを慌てて避け、ゆるゆるの玉を投げ返した。
    「……デカすぎかね」
    「わ、アラシの雪玉おおきい……!」
     嵐が作ったサッカーボール大の玉を見て、リュネットは手を止めて魅入る。
    「そーれ!」
     思い切り投げるとゆらゆらと敵味方関係なく落ちてくる。危なそうだと貢が受け止めた。
    「さすがに痛い」
     全身を雪まみれにして貢は倒れた。だがその隙に嵐にも玉が直撃した。
    「雪玉を投げた直後は隙だらけや、それだけ大きかったら余計にやね」
     狙って投げた史子が次の玉を手にした。
    「ココアとおしるこどちらが好きでしょうか」
    「そういえば勝てばお汁粉、負ければココアだったな。俺はココアの方が好きだから悩……皓莪?」
    「えぁー? ココアかお汁粉か? そりゃお汁粉だよ。腹に溜まるし」
     凪波の質問に著羅が答えたところへ皓莪が汁粉を押して対立する。
    「あの、俺はどっちもすk」
     凪波が間に入ろうとすると、その顔に飛んで来た雪玉がぶつかった。
    「ぶっ、わ、びっくり、した、つめた!」
    「うっわ!? くっそ今の誰っすかンノヤロー!」
     続けて著羅と皓莪も直撃を食らい、3人とも失格となる。
    「……間をとって、かき氷もありかもしれません」
     口に入った雪を食べながら凪波が呟く。
    「ってかき氷? なんで? お前ほんと唐突だな!」
    「……ははっ、なんだ、あとはチームに任せてかまくらとかつくるか!」
     皓莪は思わず笑ってしまい、移ったようにくつくつと著羅も笑うと、3人で笑い合った。

    ●北の戦い
     先手を取ったのは西軍左翼。いち早く製造機へと駆け出す。
    「お汁粉の為にも頑張るぞ、おー!」
    「おっしゃ、おしるこ目指してやってやるぜ」
     葉月と日方は北側の製造機目指して駆ける。警戒していたが思った程の攻勢はなく、一気に距離を詰める事が出来た。
    「どうした、そっちが来ねェんなら俺から行くぞオラァァ!!」
     敵影に向け雪を投げながら錠はドス声で威嚇して注意を引く。続けて葉月と日方が近づかせないように弾幕を張る。
    「到着ー!」
     その間にホナミが滑り込んで製造機を確保した。
    「さてっと、とりあえず……おしるこ目指してがんばってみっか」
     続いて到着した暦生が早速製造機を使って雪玉作りを開始した。
    「あるな! 雪玉できたぜ!」
    「任せて!」
     武流が手で丸めた雪玉を手渡すと、あるなは狙いをつけて製造機の前の敵を狙って投げた。玉は頭に当たり髪を真っ白にさせた。
    「卑怯だけど勝者はいつだって最後まで残った者だ」
     宗悟は慎重に死角へと回り交戦を避けて移動する。
     静菜が回避を予測した2連射をすると、京介は見事に避けきった。
    「そんなもんかよ」
    「やりますね!」
     そこへ京介を狙って雪が降り注ぐ。
    「くらえ、雪玉乱れ撃ちっ!」
     春陽の投げる玉が途中で違う玉に撃墜される。
    「今のうちです!」
     援護する心太が雪玉を狙って迎撃していた。
    「助かったぜ」
     京介は外しようのない近距離から雪を投げつけた。静菜はそれを手で挟んで受け止め、踏み込むと掌底を打ち込んだ。
    「アウトだろ……それ」
    「雪玉を挟んでいるからギリギリセーフです!」
     倒れる京介に静菜は手に持った雪を見せて言い訳した。その時だった、転がってきた大きな雪玉が静菜を薙ぎ倒して埋める。
    「し……しーらない」
     大きな雪玉を転がして作っていた小次郎はこっそり逃げ出した。
    「敵になると思ってたんだが、まあいいか」
    「敵だ味方だ? 関係ないな。ま、童心に返って楽しもうじゃないか」
     ストレッチする優志にキースが近づくと、優志は雪を投げつけた。
    「って、ぶっ!!  突然雪ぶっ掛けるとはご挨拶だな!」
    「童心に還るんだろ? お前も、さ!」
     互いに全力で雪を投げ合い始めた。
     そんな戦場に東軍の夜警メンバーは穏やかな空間を築いていた。
    「疲れてませんか? よかったらチョコどうぞ」
     想希がカフェの宣伝にトリュフチョコを配って歩く。
    「これ、手袋してても冷たいですよね~。温かいコーヒーでも頂きながら、一息つきたいですよね~」
     そんなさりげないアピールをする澄の先では、ジンザがポットに入れたコーヒーを振舞っていた。雪で冷えた仲間が手を温めようとカップを手にする。
    「大丈夫、おかわりはまだたっぷり用意しています!」
    「みんな鮮やかな身のこなしだよねぇ」
     仲間を眺めていたさくらえが心配そうな想希と目が合う。
    「……って、想希、そんな心配そうにしなくてもだいじょー……」
     言葉を言い切る間も無く後頭部に雪が直撃して倒れた。
    「ってさくら!? フムフムさんもっ……」
    「フム反撃……って、もう当てられちゃったの?」
     想希が助けようと近づくとナノナノのフムフムも攻撃を受けて撃沈した。澄が目を丸くして頭に雪を乗せるフムフムを見た。
    「ハハハハハ! 昨年は殴り合いで負けたが雪合戦ならどうか! どちらが最後まで残るか、どれだけ多くを討てるかを勝手に競争しよう!」
    「面白そうだな、勝ちにいくぜ」
     豪快に笑う有無にキィンも頷き、肩を並べて戦場を駆け出す。

    ●南の戦い
     西軍右翼が南の製造機を狙い動き出す。
    「とりあえず、誰か敵陣特攻して雪球製造機占領しておいでよ」
     玉を作りながら千巻が気軽に無茶を言う。
    「え、雪玉製造機を制圧してこいだって? いいねそれ、超派手じゃん!」
    「最後やしな、派手に暴れよやないかー」
    「悪いわね、優勝、そして三連覇は私達が頂くわ!」
     ノリノリの祐一と右九兵衛が駆け出し、巫女もそれに続いて南の製造機へ向かう。
    「俺達の三年間の絆……絆でいいの? を見せてやろう!」
     白く迷彩したキャリバーに乗せれるだけの玉を乗せて殊亜が後を追う。
    「今年で最後ですからね~ぃ いい勝負ができるよう頑張りませう」
     援護するように馨麗が楽しそうに玉を投げた。
    「そろそろですかね」
     悠花は初弾の投げ合いが終わったのを見計らってダッシュして前の味方を追う。
    「これ、次の弾です! 使ってください!」
     そこへ文具が雪玉を運ぶ。それを妨害しようとする敵が狙撃しようと構える。
    「そこっ…!」
     匍匐前進で近づいた彩逆がその敵を撃ち倒す。文具は気付かぬまま一生懸命に補給に走り回っていた。
     だが狙いは相手も同じ、東軍左翼が眼前に構えていた。南エリアは激戦区と化す。
    「さあ、いくわよっ」
     鈴音は敵陣に向かって真っ直ぐに駆け出す。そこへ敵が迎撃に現われる。
    「なんてねっ」
     敵を見るやUターンして自陣へと戻り敵を霍乱した。
    「雪玉製造器を速攻奪取しようぜ、協力してくれるやつはいないか?」
    「その作戦に乗りましょう」
     アルコの提案に太郎が賛同すると、仲間達も協力しようと動き出す。
    「道は開く、君たちは存分に揮うといい」
    「さあ、行きますよ。お勉強だけじゃない所をお見せしますっ」
     オリヴィアと紫鳥が先陣を切り南の製造機に向かう。だがそこで敵軍と鉢合わせ遭遇戦が始まる。
    「やるからには勝とうぜ! 打倒相手軍! 目指せおしるこ!」
     戦は持てるだけ持った玉をビハインドと共に連続で投げていく。
    「慌てる必要はないデース。一投一殺で仕留めて見せマース」
     壁から一瞬だけ顔を出したウルスラが敵に投げつける。
    「タマがなくっちゃァ戦争は出来ねえ。ならタマを揃えた方の勝ちでさァ」
     娑婆蔵が試行錯誤して少し硬めに作った雪玉を作る。
    「運搬はお任せなのでありまする!」
     リュカが両手一杯に抱えて前を行く仲間に届ける。
    「ここなら見つからずに行けそうですね」
     太郎はこっそりと製造機へと向かう。

    「わんこさんたちの誕生日パーティーも兼ねた雪合戦、思いっきり楽しみマショウ!」
     ドロシーが仲間を見渡す。
    「つきましてはみなさん、正々堂々、むにー民シップに則リ……危に゛ゃっ!! こら誰ですか宣誓の途中で雪球投げてきたノ!!」
    「メリークリスマスなんだよ!」
     背後から優子が容赦なく雪を投げつける。
    「誕生日パーティーを兼ねて、とは聞きましたが……始まる前からチーム中の数名が殺気立っていてませんか!?」
     皆のやる気に脅えて夜羽はこそこそと身を隠す。
    「メッチャ誕生日おめでとー!」
     衛がケーキ風デコ雪玉を抱えて突進すると、わんこが飛び退く。
    「わんこの誕生日だかなんだか知らないが全員潰す!」
     ヤル気満々でわんこが反撃すると衛は自分の持った雪を引っかぶって倒れた。
    「ひゃははは、メリークリスマスや」
     倒れながら楽しそうに衛は笑い、だがそこへわんこが股間に雪をぶち当てた。
    「やーい、あいつおしっこ漏らしてるー!」
     起き上がった衛がゾンビのように追いかける。そんな惨状を見ていたアイスバーンが震えた。
    「えっと、誕生日パーティって聞いてきたんですけど……? なんで雪合戦なんです?! わたし寒いのも痛いのも嫌ですよ?」
     そして良い事を思いついたと雪玉を自分にぶつけた。
    「えっと、わたしは失格になっちゃったので、みなさんファイトっですよ?」
     そう言ってそそくさと温かい避難所へと走り去る。
    「くっふっふ、敵味方関係ないのがむにー民! ならば色々と巻き込んじゃってもいいよね!」
    「え? 敵味方、関係ないですよ? 何言ってるんですか? それがゆいーつむにーでしょう!!!」
     花火と火華がむにーに所属する者を容赦なく攻撃していく。そして互いに目が合い、対戦が始まる。
    「ぐぬぬ! 当たってしまいましたか! ですが!」
     そんな凶暴な二人の流れ弾に当たった響介は、外に出て雪だるま、その名もむにだるまを作って応援する。
    「はー……はー……流石にノンストップでやると息が上がってきますね……あっ!?」
    「誕生日おめでとうの雪球をプレゼントだ!」
     リリアドールの投げた雪が夜羽を直撃した。
     数で勝る東軍は一気に製造機を奪おうと攻勢を強める。
     御影は中央ラインにある製造機へと突撃する。だが敵も考える事は同じ幾つもの雪玉が飛来する。
    「あにぃ!」
     身を挺して陽翔が護る。ゼッケンを真っ白にしながら全てを体で受け止めた。
    「あにぃは絶対、俺が守るって言ったろ」
    「陽翔……アンタ、本当に良い漢になってくれて姉ちゃんは嬉しいよ。アンタの敵、姉ちゃんが取ってやるからね!」
     気合を入れた御影が全力で敵へと駆け出した。
    「すごい! すごいですよ死愚魔くん! がしゃーん! 雪球! いっぱい!」
     目をキラキラさせた明海は興奮して製造機を使って玉を作り続ける。
    「明海……なにその機械……やたら雪玉作り出しているけど」
     寒そうに震えていた死愚魔も仕方ないと文句を言いながらもその手伝いをする。
    「しっかり守ってくださいませね?」
    「必ず守る」
     傍に寄るティシーに九十九は力強く頷き、菜々子を見る。
    「菜々子、お前が切り札だ。頼んだぞ」
    「任せてっ、僕全力で頑張るよ! 右から来てるよ!」
     菜々子は大きく頷き、敵が来た事を皆に報せる。
    「砲雷撃戦! よーい!」
     向かって来る敵にイオンがビシッと指差し、仲間と一斉に玉を投げつける。
    「お前ら、待たせたな……! 正義の雪玉ライダー参上ってか」
     玉を運搬してきた圭一が駆け寄る。
    「助かる、圭一。おかげで存分に投げられる」
     九十九が受け取り玉を補充した。
     狼煙は雪を蹴り飛ばして目晦ましにしながら投げつける。だが敵から一斉に放たれた玉が仲間を襲うと身を挺して受け止めた。
    「スマン、父は先に逝くぞ……」
    「お父さんの仇は必ず……」
     倒れた狼煙に劉麗が攻撃してきた敵に玉を投げると他の家族達も父の仇と動き出し、男子が一気に飛び出しその背中に隠れるように女子が攻撃して敵に襲い掛かる。
    「確保しました!」
     太郎が隙をついて製造機を確保し、両軍に多大な被害を出しながら東軍が占拠に成功した。

    ●決戦
    「中央は制圧されましたか……向こうも被害が大きいようですが」
    「仲間がやられた分の倍……いえ10倍にしてお返ししてあげます」
     中央の戦いで生き残った東軍は沙希と藍のみ。西軍がシェルターの多くを確保し近づくのも難しくなっていた。そこへ南北を占拠した東と西の軍が進軍を開始し、二人も更なる戦いへと身を投じる。
    「私とガチ勝負、お願いします!」
    「受けて立とう」
     戦場で出会った紅緋とイルマが互い持つ玉を手に向かい合い、戦闘を開始した。
     ほぼ無傷で北を占拠した西軍には勢いがあった。
    「まずは俺が斬り込むぜ!」
    「お、葉月攪乱しに行くなら援護射撃任せろ! つか、俺も隠れながらとかは性に合わねーし行くぜ!」
    「俺等の団結力ナメんなよ!」
     葉月が駆け出すと日方と錠も続けて突進する。
    「そーれっ」
     ホナミが投げるフリをして敵を牽制した。
    「補給の心配はするな、俺が必ず届けよう」
     そんな仲間に暦生が玉を補給する。
     だが対峙する東軍も負けてはいない。残った人数は少なくとも激戦を潜り抜けた猛者が反撃に移る。
    「ここが踏ん張りどころですね」
     太郎が左右自在にアンダースローで早撃ちのように迎撃する。
    「鈴音ェ! お前さんの狙撃の腕、見せてやりなせえ!」
    「任せて!」
     娑婆蔵が玉を渡すと、鈴音が投げつける。
    「ぐふっ……せ、拙者はもうダメでゴザル……。故郷の、メアリーに愛していると……ガクッ」
     仲間を守るように被弾したウルスラが負傷兵ごっこをして倒れる。
    「すまん! お前らの犠牲は無駄にしないぜっ!」
     その屍を乗り越えるようにアルコが攻める。
     東軍が盛り返し始めた時、中央に伏していた西軍が動き出す。
    「今よ!」
     逢紗が指示を飛ばし、七波と七葉が一斉に弾幕を張る。そこへ星流が狙い撃つ。
     不意打ちに東軍の足が止まり、更に西軍が現われる。
    「盾河君のお汁粉をいただくためにも! 負けられないよ!」
    「散った仲間の分も戦ってみせましょう」
     歩良とシャリンが側面から雪を投げ入れ、最後に残った太郎を追い詰める。
    「くっ」
    「ラァア!」
     逃れようとするところを錠が討ち取り、最後の一人も倒れた。

    ●戦いの後は
    『勝者は西軍です! おめでとうございます。西軍にはお汁粉を、東軍にはココアを配るので、2列に並んでください』
     勝者を告げるアナウンスが流れ、それぞれ温かいものを手に賑やかに集まる。
    「運動のあとは、すぐに汗を拭かないと風邪引いちゃいますね」
    「そうだな、食べ終わったらすぐに着替えるとしよう」
     相討ちに終わった紅緋とイルマはココアと汁粉を手にして口をつけた。
    「一君が攻撃してくるから濡れちゃったのよ」
    (「反逆者だー。一を逮捕なんだぜ」)
     頭から雪を払う蓮花と庵子が反撃を受けて全身を白くした一を連行している。
    「油断大敵って奴だぜ」
     笑いながら汁粉を取りにいく。
    「アプリコットちゃん、あたたかくておいしいですよ」
    「……あったかい」
     遥が汁粉を手渡すと、アプリコットは湯気に頬を緩ませた。隣で雪が美味しそうに餅に口をつけていた。
    「今年でクラス参加は最後だから、勝ててよかったよ! お疲れ様ーっ」
     千巻が音頭を取り乾杯とお椀をかかげる。
    「三連覇達成ね」
    「三年目間の集大成って奴?」
     巫女と祐一はお汁粉を手に3度の雪合戦を思い返す。
    「まァ今回は2チーム戦やし、3連覇っちゅーのはオカシイかも知れへんけどな。せやけど勝ちは勝ちや!」
     クギャギャと笑い右九兵衛は餅を噛み切る。
    「フッ……やっぱり9I薔薇は無敵だね!」
     殊亜は自信満々で鼻を高くしてお汁粉を食べた。
    「クラス皆で一丸となって遊ぶのは楽しいですよぃ」
     満足そうに馨麗は甘いお汁をすすった。
    「勝利のおしるこは最高だな!」
     錠は満足そうに仲間と顔を合わせてお汁粉を口にする。
    「んぐんぐ」
     同意するように頷きながらホナミは餅を頬張る。
    「温まるな」
     葉月も冷えた手に温もりを感じ汁を飲む。
    「楽しかったな」
    「あーくっそ、楽しすぎるだろ」
     暦生は晴れやかにお汁粉を食べ、日方も最後に雪に当たって頭を白くしながら頬を緩めて汁を飲んだ。
    「引き分けかな、少々熱くなり過ぎたか」
    「甘いしうまい、寒いのとおあいこで悪くないな」
     有無とキィンはココアを手に笑みを浮かべた。
    「誕生日おめでとう!」
     夜羽とわんこに皆が祝いの言葉を贈り、用意したケーキとココアとお汁粉で乾杯した。
    「ちょー楽しかった!」
    「今年は上手くやれたわね」
     結月が逢紗とハイタッチして笑う。
    「勝てて、良かった」
    「お汁粉もらってきましたよ、みんなで食べましょう」
     七葉がほっと白い息を吐くと、七波が人数分のお汁粉を持ってくる。
    「もらおう」
     星流が早速受け取り、皆も笑顔でお汁粉を食べる。
    「互いの健闘を称えて」
     オリヴィアが仲間とココアで乾杯する。
    「残念デース。でもココアも美味しいデース」
    「本気で遊んだ後は、甘いものが美味しいんだなー」
     ウルスラと雁之助がココアの入った紙コップを手にして温まる。
    「次は勝ちたいね」
    「そうですね、次は勝ちましょう」
     鈴音に太郎が頷き、二人もココアを受け取る。
    「こいつァ手が温まりやすね」
     ずっと雪玉作りで冷たくなった手を娑婆蔵はココアで温める。
    「はふー……あまい」
    「寒い中で動いた後の暖かくてあまーいものは格別ですね」
     美味しそうに飲むリュカと紫鳥の視線の先では、戦とアルコがせっかくだからと雪だるまを作っていた。
     敵も味方も、雪の上で楽しそうに甘く温かいもので暖を取る。それぞれがお汁粉の入った椀を、ココアの入ったコップを掲げて声を揃えた。
    『メリークリスマス!』

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月24日
    難度:簡単
    参加:107人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 15/キャラが大事にされていた 3
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