灼熱の露天風呂

    作者:なちゅい

    ●温泉に浸かる異形
     かぽーん。
     温泉。それは、人々にとっては魔法の言葉。
     そして、実際の温泉は、肉体的にはもちろんのこと、精神的にも、忙しい現代人の疲れを癒してくれる。温泉の成分には健康や美容にいい成分も含まれ、それを求めに行く者もいるが、それはそれとして。
     人々は束の間の休息を求め、温泉へと足を運ぶのだ。

     大分県別府市。この地は温泉街として知られる。休暇を利用してやってきた客は、まさに湯治を楽しみにしながらやってきていたのだ。
     とある温泉に入っていたOL風の女性客2人もそうだった。今年から商社に入社した2人は、イヤミなお局様の愚痴を聞き流し、スケベな課長の視線に耐え、押し付けられる残業をこなし、ようやく12月になって休暇を取ることができたのだ。
    「あ~、サイッコー!」
    「日ごろの疲れがどっか飛んでいっちゃうよね~」
     女性の1人が右手を湯船から出す。スマホを探そうとするのは現代人ならではか。防水対応していない彼女の携帯は、さすがに脱衣所に置いたままだ。
    「ん……」
    「なんか熱いよね?」
     気のせいか、入ってきたときよりも湯の温度が上がっているような。
     いや、気のせいではない。湯気の量は増えているし、湯もぐつぐつと煮え立ち出していたのだ。
    「熱い、熱い!」
     溜まらず湯から飛び出すOL達。湯は完全に沸騰を始め、見る見るうちにお湯の量が減っていく。
     唖然とするOL達がふと湯の岩場へと視線を巡らせると、そこには全身に炎を纏った異形の者がいた。真っ赤な猛獣が目を光らせ、OL達に注意を払いながらどっかりと座り込んでいる。不自然すぎる状況だったが、女性達はあんぐりと口を開き、声を出すことすらできずにいる。
     そうこうするうちに、お湯はもうなくなってしまいそうだ。こいつはゆっくりと動き出し、外へと出てしまう。この湯から出たならば、温泉街で暴れ出して大きな被害を及ぼすかもしれない……。
    「そこまでだ、イフリート!」
     そこに駆けつけてきたのは、遠路はるばるやってきた武蔵坂学園の灼滅者達だ。男女混じっているようだったが、現実とはあまりにかけ離れた光景に圧倒され、OL達は言葉すら発せずにぽかーんとしてしまっていた。
     一方で、呼びかけられたイフリートは、ただただ唸り声を上げて湯の中でやってきた灼滅者を睨み付ける。お湯がなくなるのが先か、それとも……。イフリートと灼滅者達との戦いの火ぶたが、温泉の中で切って落とされるのである。


    参加者
    冨合・英瑠(天真爛漫応援少女・d26944)
    樹雨・幽(守銭奴・d27969)
    桜井・オメガ(オメガ様・d28019)
    杠・狐狗狸子(銀の刃の背に乗って・d28066)
    ジュリアン・レダ(鮮血の詩人・d28156)
    真神・峯(秘めた獣の心・d28286)
    小瀬羽・洋子(清貧清楚・d28603)
    アリーシャ・タングラム(プリンセスプリンス・d30912)

    ■リプレイ

    ●湯に鎮座する灼熱の獣
     とある民宿。
     年の瀬も近づくこの時期は、休みを利用して訪れる客も少なくない。
     しかしながら、年がバラバラの学生達が温泉を訪れているのは珍しい。もっとも、武蔵坂学園の学生にとっては、いつもの光景なのだが。
    「クラブの皆と受ける初めての依頼、仕事はきっちりとしないといけないけど、ちょっと楽しみなんだよ」
     ウキウキしながら民宿の廊下を歩く、真神・峯(秘めた獣の心・d28286)と一緒にいるナノナノ、ちぇっくんはうんうんと頷く。「百合水仙の談話室」のメンバー達は、ダークネス灼滅の依頼を受けて、この温泉を訪れていたのだ。
    「冬の温泉、あったかくていいわよね」
    「温泉! 二回目の正直! 今度はスライムいないし、ゆっくり入りたいな」
     杠・狐狗狸子(銀の刃の背に乗って・d28066)も温泉を楽しみにしていた1人だ。アリーシャ・タングラム(プリンセスプリンス・d30912)が一度目に何を体験したかはさておき。
    「温泉どころでダークネスか。入浴中に熱湯が更に加熱とか、一般の方がいる時だと大変なことになるね」
     ジュリアン・レダ(鮮血の詩人・d28156)はすでに入湯しているOL2人を気遣う。現れたダークネス、イフリートが温泉を干上がらせる前になんとしても灼滅せねばならない。
    「のんびりするためにも、がんばりましょ」
    「温泉に気持ちよく入るためにも頑張っていきまショー☆」
     はやる気持ちを抑えられない仲間へ狐狗狸子が諭すように声を掛けると、冨合・英瑠(天真爛漫応援少女・d26944)がそれでも抑えられない気持ちを爆発させるように叫んだ。
     その後、一行は男女が分かれて脱衣所へと飲み込まれるように入っていく。メンバー達は思い思いに温泉へと入る準備を行う。布が肌に擦れる音。するすると肌蹴ていく衣装……、残念ながら、これ以上の着替えシーンは泣く泣く割愛。ご了承願いたい。
    「むぅー……むぅー!!」
     白に青のフリルが付いたビキニを身に纏う桜井・オメガ(オメガ様・d28019)は、髪がうまくお団子にまとまらず、低い声で唸りこんでいた。
    「あれ、この水着……ちょっときついかな?」
     布地が小さく安いからと購入した赤いビキニ。アリーシャはその締め付けに窮屈さを覚え、できる限り緩める。
     小瀬羽・洋子(清貧清楚・d28603)はというと、胸部に苗字の入ったゼッケンの縫い付けられたスクール水着を着用している。やや古いもののようで、発育してきた彼女の体には些か小さすぎたようだ。
    「うう………この水着……少々動きづらいし恥ずかしいですわねぇ」
     ぶつぶつ言いながら、洋子は若干動きづらそうにして浴場へと歩いていく。
     浴場前で合流したメンバー達。彼らは一斉にその扉を開くと、中から漏れ出した異様な程の熱気に身構える。一般のサウナも熱いが、この熱気はそれ以上だ。焼けつけるような空気を一行は肌で感じる。
    「みんな温泉を楽しみにしてるのに蒸発させちゃダメだぞ!」
     開口一番に浴場へと叫びかけたのはオメガだ。つるぺったんな彼女だが、態度はこれでもかとオメガの存在を主張する。
     グルルルル……
     湯船の中には灼滅者の存在に気づく異形、イフリートの姿があった。しかしながら、そいつは敵を直観的に把握はしていたものの、湯船の中からは出ようとはしない。温泉を干上がらせるのを優先させているのだろう。
     そこから目を離すと、女性が2人。OL達は現れた獣と、煮立つ温泉を目に、呆気にとられている。その間へ、ジュリアンが割って入り、彼女達をイフリートから守るように立ちはだかる。
    「さあさあ、早くお逃げになって。危ないですから」
     洋子がそっと近寄りって優しくOL達に囁くが、彼女達はまるで反応を見せない。
    (「こういった事態じゃなけりゃ、じっくりと見ていたいとこなんだがな」)
     大胆なブーメランパンツを履いていた、樹雨・幽(守銭奴・d27969)はタオル一枚羽織っただけのOL達と、水着で彩られた女性陣のありのままの姿を目にできてラッキーだと、にやにやと笑っている。
    「ほら、お二人さんはさっさと行った行った」
     OL2人は幽の声で我に返る。ラブフェロモンの効果もあってか、ワイルドな年下くんもいいねと彼女達は頬を赤らめる。
     そこで、アリーシャが魂鎮めの風を巻き起こす。OL達の意識がぷつりと途絶え、うずくまるようにその場で眠りについたのだった。

    ●湯煙の中の攻防戦
     煙が立ち上る露天風呂。
     しかしながら、それはぐつぐつと煮え立つ風呂によって、お湯が蒸発したものだ。
     競泳水着を来た狐狗狸子は、そんな危険な温泉に新たな人を近づけないようにと殺気を放つ。
     しかし、どこからともなく現れた従業員。異形の獣によって眷属となってしまった哀れな一般人だ。
     グルルルル……
     異形は湯煙の中、依然変わらず唸ったままだ。その声は温泉の外には届かない。英瑠のサウンドシャッターによって、音が遮断されていたからである。
     そんな中、眷属の男はギターをかき鳴らす。主の邪魔はさせないと言わんばかりに。
    「穢れも、罪も共に」
     ジュリアンはスレイヤーカードの力を解放した。黒地に紅い炎をあしらった模様があるハーフパンツを履いた彼は、そのまま解体ナイフを振り回して仲間の壁となるべく湯の中に入っていく。完全に沸騰した湯はバベルの鎖に包まれたメンバーの体をも痛めてしまう。
     そんな仲間達の後ろから、オメガは全力で跳躍し、眷属目がけて蹴りを繰り出す。ぐらりと揺らぐ男だが、構わずギターをかき鳴らし、音波をこちらへと浴びせかけてきた。
     それを沸騰する湯の中で身を張って受け止めて受け止めるのは、戦闘用にと少しばかり大胆な水着を着た峯だ。彼女は味方の援護に期待し、熱湯と湯気の中へと飛び込んだのだが……。飛んでくる異形の炎。湯に足を浸からせているメンバーの体をさらなる熱さが襲う。
    (「多少の熱さは大丈夫だけど……」)
     しかしながら、やせ我慢で攻撃を耐え続けられるものでもない。峯は相棒、ちぇっくんのシャボン玉と共に、異形の前へと躍り出て飛び蹴りを食らわせていく。
     壁となるのは峯だけではない。狐狗狸子もその1人だ。後方にてスナイパーとして立つビハインド、シャーレイに指示を飛ばしつつも、WOKシールドを広げて峯を包み込むように守る。彼女の呼びかけに応じたシャーレイは霊障波を放っていた。
     ジュリアンも殺気を放つ。先ほど狐狗狸子が放ったものとは異なり、それは黒い瘴気のようにして前衛として立ち回る男と異形に浴びせかかる。
     それにしても、灼滅者を苛むのは温泉の高熱だ。
     後列から洋子がギターをかき鳴らし、ディフェンダーとなる仲間に活力を与え、さらに英瑠が戦う仲間へ声援を送る。
    「ガンガン応援していきますヨ☆」
     彼女はチアガールをイメージさせる、星模様のビキニを着ていた。天使のような声を浴場へと響かせ、傷つくディフェンダーをカバーする。
     英瑠のライトキャリバー、トライアングラーが後ろからエンジンを吹かして突撃を繰り出すと、さらに、アリーシャも前へと飛び出す。長い髪が白に変色させ、叫びかけながら小さな体を舞わせる。巨大化させた片腕で薙ぎ払われたハルバードが、男の体を大きく切り裂いた。
    (「熱湯にさらされる女子は少なくしたいな」)
     ジュリアンの思いとは裏腹に、女性陣が攻め入っているわけではあるが……。
     ふと、幽がそのジュリアンの体を見やる。全身に何かの傷跡が残っているのに気づく。かく思う幽もまた、傭兵家業を行っていた時代の傷が全身に残されており、その傷が水着姿で露わになっている。
     その経験の中で、使い方を覚えた武器を次々に使いこなす幽が手にしたのはロケットハンマーだ。ジェット噴射させたハンマーが大きな弧を描いて男へと叩き付けられる。そいつは大きく宙を舞った後に温泉の中へと落ちて水飛沫を上げ、動かなくなったのだった。

    ●湯煙に消えた異形
     異形、イフリートとの戦いは続く。
     壁となるメンバーに注意を払う異形へ、幽がニヤニヤしながら誘いかける。
    「ほれ、ワンちゃんこちらっと」
     彼は利き腕を砲身へと変え、砲弾を撃ち放つ。一発をもらった異形は大きく叫び、爪を薙ぎ払うと、峯が身を呈してそれを受け止める。
     荒ぶる異形は猛々しく襲っているのだが、その見た目がドーベルマンに似ていることもあり、見ようによっては可愛く見えなくもない。
    「もふもふ……熱そうだけどもふもふしたいぞ!」
     オメガはもふもふしたい衝動を抑えつつも、相手が灼滅すべくダークネスであることを再認識して攻撃に移った。エアシューズを地面へと擦り付け、摩擦で燃やした炎を異形へと浴びせかける。
     如何に炎に包まれたダークネスとはいえ、決して無傷とはいかない。身を抉られる激痛に、異形の嘶きが天にまで木霊した。
     一見、灼滅者達が順調に攻めたてているようにも見える状況。しかしながら、灼滅者達の布陣は守りよりだ。前衛に立つ狐狗狸子、ジュリアン、峯は温泉と、異形の放つ熱気と猛攻に耐えており、壁となるそのメンバーを、英瑠と洋子が回復して支えている。
     一方、攻撃の要となっているクラッシャー、幽、アリーシャ。スナイパーのオメガも確実に攻撃を命中させてはいる。サーヴァントの援護はあれど、異形を残り少ない湯へ沈めるには、決定打を与えるにはかけていた。タフな異形を、灼熱者は攻めあぐねてしまう。
     戦いは消耗戦になっていた。異形が押し切るか、それとも、灼熱者が守り勝つか……。
     先に膝をついたのは、ジュリアンだった。彼は非物質化したクルセイドソードを振り払い、異形の霊魂を砕かんとする。しかし、ジュリアンは着地時に深く息をついて座り込んでしまう。熱さで汗が流れ出て、自身の消耗を実感していたのだ。
    「ジュリアンさん、頑張って☆」
     そこで響く声援。英瑠が天使の声を響かせ、チアガールよろしく応援を行う。ジュリアンは自身の体に活力が漲ってくるのを感じていた。
     グルルル……。
     低く唸る異形。突然二足で立ち上がったかと思うと、右前脚から激しい炎の奔流を飛ばしたのだ。
     沸騰する湯に浸かるメンバーに襲い掛かる炎。峯へと飛んできたその炎を、ナノナノのちぇっくんが受け止めた。
     洋子は即座に夜霧を展開させ、炎によるダメージの回復を図る。異形が湯気に紛れるように現れた夜霧に戸惑いを見せる。狐狗狸子もWOKシールドを展開させて、仲間をケアしていた。
     なんとか持ち直した灼滅者達は、ここぞと一気呵成に攻めたてる。峯がクルセイドソードを振るって破邪の発光を放てば、英瑠のライトキャリバー、トライアングラーが突撃を、さらに、狐狗狸子のビハインド、シャーレイが霊撃を繰り出す。
     ぐらつく異形の体。その懐に潜り込んだのはアリーシャだ。
    「ひっさつ! ドリルランスランス! パパよりかっこよくなって出直してね!」
     立ち上がったままの異形の胸目がけ、彼女は武器を振りかざす。そして一気に異形の体を断ち切ってしまうと、イフリートの体は温泉の湯気と同化するようにして消え失せてしまった。

    ●お楽しみ、温泉タイム!
     事後、温泉の湯は従業員の手で適温へと戻され、ようやく一行は憩いの一時を迎えることができた。OL達も気を取り直して、再び湯に浸かっていたようである。
    「お風呂なんだよ!!」
     峯が青空の下で相棒ちぇっくんと湯船に浸かる。ちなみに、戦闘が終わると、彼女は白地に黒のボーダーのタンキニへと着替えていた。
    「戦いの疲れも癒えていく気がするな!」
     そうは言うものの、戦闘でほどけた髪を必死に纏めようとしているオメガの姿はなんとも落ち着かない。狐狗狸子がそれを後ろから手伝い、オメガの髪はうまくお団子にまとまった。そこへアリーシャが「赤毛の親近感ー!」と飛び込み、3人はお湯の掛け合いを始める。
     微笑ましい女子達のやり取りを、ジュリアンはやや視線を逸らしながらも眺める。時折、彼は個性あふれる女子の水着を1人1人、褒めていた。
     お湯を掛けられていた狐狗狸子はありがとうとジュリアンに優しくお礼を言うものの……。気になるのは、湯船に浮かぶ中学生女子2人の大きな胸。
    (「大きすぎない……?」)
     彼女は半眼で、洋子とアリーシャの豊かなバストを凝視する。
    「? 狐狗狸子さん、どうかしましたカ☆」
     狐狗狸子が後輩に向ける視線に気づいた英瑠は、無自覚にたわわなおっぱいをぷるぷると揺らして話しかけてくる。
    「ひあっ!?」
     そして、アリーシャも後ろから狐狗狸子の控え目な胸をもみもみ。
     ぷちっ。
     狐狗狸子の中で何かがきれた。
    「アンタ達みたいなのがいるから、戦争がなくならないのよー!」
     彼女は胸の豊かな仲間達の胸をこれでもかと揉みしだく。それにちょっとだけ英瑠が喘ぎ、ぎゅっと狐狗狸子に抱き着く。それが羨ましかったのか、洋子もくすりとほほ笑んでその輪へと入っていく。
     お湯を掛け合う女子達。それはなんとも華やかだ。
     幽は湯船にのんびりと浸かりながら、そんな女性達のやりとりをニヤニヤと眺める。
    「いや、しかしアレだな。……眼福眼福ってヤツだ」
     ただ、女性陣は幽をのんびりとはさせない。アリーシャがばしゃっとお湯をかけてきたのだ。
    「えっちな目で見てる子はおしおきしちゃうよ!」
     オメガもおしおきするぞとばしゃばしゃと暴れるように湯を飛ばすと、仲間達から笑いが巻き起こった。

     「百合水仙の談話室」が過ごす温泉での一時。一行は心行くまで、体の芯まで温まる程に温泉を堪能するのだった。

    作者:なちゅい 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年12月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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