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かつて戦国時代の合戦をイメージしたらしい公園があった。
そのニッチさからすごい速さで廃墟化したが、今は……。
「ウーアー!」
武者鎧めいたものを着たゾンビが刀を抜いて点に掲げる。
「ウアーウウーアー!」
藁の傘を被り、簡素な和槍を掲げるゾンビ。それも一人や二人ではない。
何十という数の槍が一斉に天へ掲げられた。
そう、ここは今やゾンビの合戦場となっていたのだ!
いつまでも現われない戦の相手を待ち、今日もゾンビたちは咆哮する。
「「ウアー!」」
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「どぉも、眷属退治です!」
エクスブレインの女子が、戦国時代を意識したんだけど軽く男性ウケを狙ったせいで変な露出度が加わってしまい専門家から自殺専用鎧などと言われかねない格好……をして、そんなことを言った。
眷属とは、ダークネスが兵隊代わりに作るモンスターめいたややつである。特にゾンビなんかはいかにもそれっぽくてダークネス界隈(特にノーライフキングさん辺り)には大好評……かは分からないが、あまりによくいすぎてはぐれ眷属になっているパターンも多いそうな。
今回はそんなはぐれ眷属のすみかとなった廃墟公園、通称『ゾンビ合戦場』で眷属退治をすることになったのだった。
「そう難しい依頼ではありません。運動気分でどかどか無双してください! よろしくです!」
参加者 | |
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神威・天狼(十六夜の道化師・d02510) |
渡橋・縁(神芝居・d04576) |
赤秀・空(道化・d09729) |
レナード・ノア(都忘れ・d21577) |
常儀・文具(バトル鉛筆・d25406) |
大夏・彩(白焔の守護者・d25988) |
白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498) |
ソフィア・アレテイア(エレクトリックラジカル・d30384) |
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通称戦国公園。その広場をやや見下ろせる木の上で、レナード・ノア(都忘れ・d21577)は双眼鏡を覗いていた。引きつったような笑いを浮かべて双眼鏡を下に投げる。
「うわー、ゾンビだらけだわ……はは、は……」
「苦手なんですか? ゾンビとか」
「嫌な思い出が少々」
同じく様子を見ていた常儀・文具(バトル鉛筆・d25406)が落ちてきた双眼鏡をキャッチした。
そのまま大夏・彩(白焔の守護者・d25988)に手渡す。
「わたしたちはそんな気にならないけど、嫌いな人からしたら地獄絵図なのかな」
「レナード先輩の場合はメーター振り切って逆に冷静になってるみたいだけど」
すぐそばに下りてくる渡橋・縁(神芝居・d04576)。被っていた帽子を更に目深に被った。
「スクランブル交差点、みたいでしたよ。いっぺんに倒したら……こう……」
「ゲーム感覚か……そこまで空っぽで戦えるのは、久しぶりかな」
何気なく手のひらを見つめ、手をぐーぱーする赤秀・空(道化・d09729)。
木陰で読書をしていた白藤・幽香(リトルサイエンティスト・d29498)が、ぱたんと本を閉じた。
「頭数で見れば絶望的な差なんだけどね。ま、確かに、実験には困らなそうってとこかしら」
仲間の準備が整ったのだ。
手袋の裾を引き、ソフィア・アレテイア(エレクトリックラジカル・d30384)はくつくつと笑った。
「寂れた公園がゾンビのたまり場として機能するとは、皮肉や皮肉! せっかくだ、楽しませてもらおうじゃないか! なあ!」
「俺としても、ゾンビは積極的に蹴散らしていきたいかな。じゃー、ひと遊びしますかーっ」
神威・天狼(十六夜の道化師・d02510)は腕をぐるぐると回し、合戦場へと歩き始めた。
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ゾンビたちにとって、公園への来訪者はすべて敵であり、いずれ仲間になる存在だった。
興味本位で侵入した人間を取り込み、死体として保管する。主人がいなくなった以上増えることはないにしても、彼らにとってそのサイクルは自動的なものだった。
そのサイクルが破壊されたのが、まさに今日である。
「ほんとだ、沢山いる」
ジャケットのポケットに手を入れ、てらてらと歩く天狼。
彼を取り囲んだゾンビたちが、一斉に槍と刀を掲げたところ……天狼はフードの下でにっこりと笑った。
顔を上げる。
「最初っから悪いけどさぁ……乱暴にいくよ?」
途端、彼を中心に無数のピエロがわき出した。
影業でできたピエロの影絵である。彼らは天狼の殺意をそのまま凝固させたような鎌を握ると、周囲のゾンビを一斉に刈り取った。
生えた稲を刈るように、首部分だけをばっさりとである。
飛んできた血をかわしながら、天狼はなおもハンドポケットで笑う。
「だって俺、ゾンビ嫌いなんだよねぇ」
ゾンビたちは襲いかかった相手が尋常ではない連中だと気づいたが、既に手遅れだった。
焦った様子で弓を引くゾンビたちに向けて、空が機関銃を向けた。
両足を地面に押しつけるように踏みしめ、発射レバーを握りしめる。
強い反動と共に大量の弾がはき出され、空はそれを左から右へと掃射した。
弾は弓をつがえたゾンビたちに浴びせられ次々に体勢を崩していく。
そこへ、まるで地の底から這い出たように一体のビハインドが出現した。
小声で囁く空。
「美幸、暴れるよ」
「――」
ビハインドはかろうじて無事な空へと放たれたであろう矢を空中で握りしめ、握力でへし折り、凄まじい瞬発力によって跳躍。無数のゾンビたちの上を宙返りで飛び越えると、弓ゾンビの一体の顔面を掴む形で着地。と同時に霊障波を叩き込み、頭部に大きな穴を貫通させた。
周囲を取り囲むゾンビたち……だったが、明後日の方向から飛んできた大量の十字架が突き刺さり、次々にゾンビが倒れていった。レナードのオーラによって形成された十字架である。
「そうポンポンあたんねーな。ヘッドショットいきてーんだけど」
「それなら、これでどうです」
緑は一本の矢をマテリアライズすると、レナードへ向けて投射した。
二本指でうけとるレナード。途端に矢が消失し、彼の中へしみこんでいった。
「死体は動くもんじゃねーよ、やっぱ!」
両腕を広げるレナード。まるで翼が広がるかのようにオーラが展開し、そのすべてが十字に凝固。両手のひらを返したならば、全ての十字架が緑の生成したものと同じ矢となり、ゾンビへと一斉発射。着実に頭部を貫いていく。
「うわー、みんな張り切ってますね。僕らもいきましょうか、彩さん」
「じゃあ早速わたしから……とうっ!」
彩は助走をつけてジャンプすると、刀と兜を装備したゾンビめがけてマイティキックを叩き込んだ。
兜が砕け、倒れるゾンビ。ギリギリで指示を出していたのか、弓ゾンビたちが次々に矢を放ち始めた。
くるりと飛び退いてきた彩が手の甲から白い炎を展開。すぐ横に並んだ文具がグローブの甲についたカバーを開放、朱肉を露出させた。
「通さないよ!」
すると巨大な炎の円が描かれ、中央に文具と彩の名前が連名で印字された障壁が発生した。
すべての矢が途中で押しとどめられる。
「糊!」
「シロ!」
地面を蹴って飛び出す霊犬糊、そしてシロ。
二匹は牽制射撃をしながらゾンビの群れへ飛び込むと、次々にくわえた刀で切り払っていった。
が、そこへ飛び込んでいったのはなにも霊犬たちばかりではない。
「よりどりみどり。実験台がうようよいるわ」
小さく上唇を舐めた幽香は、白衣の内側に左手を突っ込んで、引き抜く。そうした時には全ての指の間に七色の試験管が握られていた。
群れへ突っ込むと同時に数本を一気に投射。命中と共に割れ、内容物が周囲へ飛び散る。
サイキック性の毒がまわり、ゾンビたちが次々に溶解していった。
溶けかかったゾンビを踏み台にして敵陣中央へ。
跳躍しつつ右手を白衣に突っ込み、無数の注射器を引き抜く。
「大人しく実験台になりなさい。毒計なんて、なかなかないわよ?」
注射器の内側では白色の炎が奇妙にたゆたい、それをゾンビに突き立てたならば、一瞬にしてゾンビが凍り付いた。
「ははははは! 楽しそうじゃ無いか! まぜてくれるかい、私も!」
ソフィアは虚空から手回し式の古い機関銃を引っ張り出すと、ゾンビの群れめがけて乱射した。
弾のいくつかが幽香のそばをかすっていく。
「ちょっと」
「安心したまえ、当てないよ! えっとああ……当たりそうなら避けてくれ! そう、それがいい!」
ソフィアはそう言いながら古い短機関銃を虚空から引っ張り抜き、乱射。
ゾンビをめちゃくちゃに蹴散らし始めた。
「ははは! あははははは! さあどんどん来たまえ、そうでなくてはゾンビらしくないと思わないか、なあ!」
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ゾンビの中を、緑は走っていた。
明後日の方向から矢が飛んでくる。それを小さな回転でかわしつつ、矢をかすめとる。
更に別の方向から飛んできた矢を歯で食いつくようにキャッチし、二つまとめて矢につがえる。
振り向きざまに二連射。更に架空の矢筒から大量の矢を引っ張り出しつつ適当なゾンビを踏み台にしてジャンプ。
コートを大きく靡かせて、大量の矢をいっぺんに弓へひっかけ、いっぺんに発射した。
大量のゾンビが一斉に倒れていくなか、やや危ういフォームで着地。
細く息を吐くが、目は笑っていた。
そんな彼女を狙って突撃してくる大量の槍ゾンビ。
間に割り込むように空が飛び出してきた。
腕に縛霊手を装着。するとまるで鏡で合わせたように隣にビハインドが出現した。
突き出された槍をシンメトリーな動きでかわし、全く同時に殴りつける。
そうして出来た隙に自らの身体をねじ込み、槍の間合いの内側へ。
こじりを返そうとする槍ゾンビだが、空とビハインドは全く同じ動きで槍の先端を踏みつけ固定。相手の首根っこを掴むと逆ジャイアントスイングで振り回した。
振り切った二体のゾンビをお互いに叩き付けあい、ばらばらに破壊する。
「仲良しなんですね、あの二人」
「かな……」
それを見ていた文具と彩がさりげなく手を繋――ごうとした所で、二人の方を誰かががっしりと掴んだ。
びくりと背筋を伸ばす二人。
「どうした二人とも! 仲がいいな、いいことだ、いいことだとも! だがどうだろう、私も混ぜてくれるかい?」
ソフィアはそう言うと、どこからともなく固定連射式マスケット銃を引っ張り出してきた。綱を引くと無数の銃が連続で発射される兵器である。
歯を見せて笑う彩。
「いいよ、それじゃあ一緒に!」
白い炎の弾を大量に生成する彩。
文具も肩をすくめ、大型ホチキスを魔改造したようなものを取り出した。
足下で射撃体勢に入る糊シロ。
「一斉射撃!」
「炎の弾丸!」
一斉に発射された炎と弾丸と針がゾンビへ浴びせかけられる。
が、それだけではない。すぐさまジャンプした文具と綾が、同時に蹴りを繰り出したのだ。
炎を足に纏わせた彩とソロバンを足にくっつけた文具が手を繋いだままゾンビの群れへ突っ込む。
「いきますよ!」
「ダブルキィック!」
激しい爆発が起こり、ゾンビたちが吹き飛んでいく。
「おーおー派手だなぁおい。劇場版かなにかかよ」
頭の後ろをがりがりとかくレナード。
横に立つ幽香。
「よそ見してる暇はないわよ。ゾンビの群れ、また来てるみたい」
そういって肩を叩いた。叩いたっつーか肩に注射器を突き立てた。
糖尿病患者などがよく利用する痛みがほぼ無く針跡も残らないという便利な注射器……ではあるが、不意打ちで打ち込まれるとさすがにびびる。
「じゃ、先行くから。援護よろしくね」
幽香は別の注射器を取り出し、歯で針キャップを外すとそのまま自分の首に突き立てた。
「んっ……んん……はあ」
熱い吐息を漏らすと共に目を開き、白衣の前を大きく開いた。
内側のホルダーに大量の注射器がストックされており、横目で『どれにしようかな』をしたあと、一番不安な色をしたものを引き抜いた。
「昇天するほどのを注射(い)れて――ア・ゲ・ル」
太めの注射器を中指と薬指の間に挟み、ゾンビへ突き刺す。手のひらで押し込むように注入してやれば、ゾンビの頭が一瞬ではじけて飛んだ。
更に別の注射器を引っ張り出す。持ち手にハサミのような円が二つついているタイプで、それを指でくるりと回して逆手に握ると後方から迫ったゾンビに突き立て、親指で押し込む。骨という骨がぐしゃぐしゃに崩壊し、タコのように崩れ落ちるゾンビ。
別のゾンビの刀が彼女の首を狙って放たれるが、刃が接触するより早くゾンビの頭にオーラのナイフが突き刺さった。
十字のオーラで形成されたナイフである。
「ったく、今のほうが賑わってんじゃねーのかこの公園」
首をさすりながら手のひらをスライドさせるレナード。すると大量のスローイングナイフが現われた。オーラによって形成された十字架ナイフだ。
それをまとめて握り、次々に投擲していく。その全てがゾンビの頭に突き刺さっていくのだ。
レナードは頭の片隅で、あと何分でこのゲームが終わるのかを考えた。
「早く終わったらいいなーって、思ってるでしょ。ゾンビ嫌いそうだもんね」
後ろから天狼が顔をだした。別に隠すことでも無いが、肩をすくめるだけにとどめるレナード。
「俺もだよ。そろそろ終わりにしちゃおっか」
天狼は小さな縛霊手を装着。
指揮棒でも振るように人差し指を翳したならば、彼にかしずくように大量の影絵ピエロがわき出した。
「これで――」
一降りすればピエロたちが太鼓を叩きながらパレードを始め、ゾンビの群れを次から次へと飲み込んでいく。
更に一降りすれば、ロバや馬車を引いたパレードの列がゾンビを蹂躙し始める。
太鼓と笛の音が響く中、天狼は最後のゾンビに指をつきつけた。
にっこりと、笑う。
ゾンビが内側から爆発し、跡形も無くちらばった。
「おーわり、っと」
眷属のすみかとなっていた廃墟公園、ゾンビ合戦場。
ここはたった八人の灼滅者によって掃討され、元の荒れ地へと戻っていった。
だがいずれまた、眷属の巣になる時が来るだろう。
そのときはまた。
彼らがここを訪れるのだろう。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年12月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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